[戻る] [←前頁] [次頁→] []

457 名前:外史喰らい編:拠点パート1[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 22:26:45 ID:AfGF9HmR0
を、11時頃から7レス分投下します。

ちょっとだけキャラ崩壊気味かもです。
読まなくても本編に影響はないように作ってますので、
「左慈も干吉も格好良くなきゃダメ」って人は避けた方がいいかもしれません。
459 名前:外史喰らい編:拠点パート1(1/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:00:58 ID:AfGF9HmR0
「んん……ふぅ…」
竹簡の山が一段落したところで、大きく伸びをする。
首を回すと、コキコキ肩がなった。

城主になれば当然、責任も仕事も増える。しかも、前の城主が滅茶苦茶だったせいで、やらなきゃならない事が一杯だ。
下手をすれば、太守をしてた時期よりも忙しいかもしれない。
「まあ、まだ字が読めるだけマシか」
前はまず読み書きを覚えるところからだったからなぁ。教えてもらいながらの政務だったから、愛紗には随分迷惑をかけた。
それに何だかんだで政務のノウハウが身についていた。
それを考えれば、随分と楽な政務だ。大変な事には変わりないけど。
「さて、サボりたくなる前に仕事片付けるかな」
いつもなら途中で抜け出して市にでも遊びに行くのに、このところ真面目に政務ができている。サボるにしても、ほんの少しだ。
外史喰らいの事で気が引き締まってるのか、主として責任が身についてきたのか。
「別に、女の子がいないからじゃないぞ、うん」
誰かに言い訳するみたいに言って、筆を持つ。
次の竹簡を手に取った時、政務室のドアがノックされた。
「どうぞー」
竹簡に目を落としたまま、城主を作らず返事をする。この時代の人はノックなんてしないから、十中八九、光か雲だからだ。
ついでに言えば、光はノックじゃなくて「入るぞ北郷」で返事待たずに戸を開けるので、まず雲だろう。
予想通り、入ってきたのは雲だった。
「ご苦労様です。調子はどうですか?」
「順調。今来てる分だけなら、昼前には終わるかな」
で、何の用?竹簡の追加?
「いえ、資料を取りに行った帰りに、様子を見によっただけです」
見れば、雲の手にはいくつかの書簡があった。
460 名前:外史喰らい編:拠点パート1(2/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:03:46 ID:AfGF9HmR0
……しかし、様子見って、そんなに信用無いのかな?
雲には文官トップの地位を与えてて、俺じゃ判断に困る事案を結構な数任せている。内、いくつかは俺がやらなきゃならない仕事だ。
例えば、城内最高権力者の俺の承認が必要な物。本来なら上がってきた案を城主が修正して認可するのを、雲が修正まで終わらせてから上げてくる。ので、ホントに形式的に承認印押すだけだ。
時たま修正が必要なまま上がってくることがあるけど、俺に直させて鍛えよう、って腹が読めるぐらいあからさまなミスだし。
……なんか、雲に頼りっきりだな。朱里に頼りっきりだった前の時も思ったけど、俺ってホント頼りないよなぁ………そりゃ様子見にも来るか。
「う〜〜〜」
思わず唸った。
「どうしました?」
「なんか、情けないなー、と思って」
仮にも大陸トップにいた人間がこんな体たらくじゃ申し訳ない。せめてもう少し、少なくとも雲の手が入らずに上がってきた案件を、まともに対応できるぐらいにはならないと。
でも、そのために時間かけてたら意味無いしなー。
………あ、そうだ。
「雲、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なんでしょう」
「俺とお前と、午後から政務空けられないかな?半日、付き合ってほしい」
「……ふむ、午後一杯ですか」
手の甲をアゴに、雲は少し考え込む。
「明日一日、ここに缶詰でよろしければ」
「オッケ。じゃあ、昼前辺りにもう一度来てくれ」
「御意」
軽く返事をしてドアを出る雲を後目に、筆を執る。
終わるって言ったからには、時間通りに終わらせなくては。
しかし。
「…………ちょーっと、見栄張りすぎたかなぁ?」
机の上には、竹簡の山2つと書類が3枚。
お茶飲んで一服、なんて余裕は無さそうだ。
462 名前:外史喰らい編:拠点パート1(3/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:08:24 ID:AfGF9HmR0
お昼。
何とか宣言通りに政務を終わらせて、雲と一緒に宮殿を出た。教訓、次からは身の丈に合った発言をしよう。
まあ、それは置いておく。
「それで、どこへ連れて行くつもりです?」
「んー、とりあえず南門かな」
雲を先導する形で前を歩きつつ、生返事する。空けてもらったはいいけど、具体案0とかバレたらどんな厭味が出てくるか分かんないからな。
「じょうしゅさま、こんにちはー」
「これは干吉様、ご視察ですかな」
俺も雲もかなり目立つ格好してる訳で、大通りを歩くと老若男女問わず、結構声をかけられる。この街に来てから一月チョイ。意外と好印象を持たれている様で、なによりだ。城主と呼ばれるのは、なかなか新鮮でいい。
昼飯にそこらの屋台で肉まんを買って食べつつ、南の市まで来た。
「城主様、干吉様、どうなされました?」
立ち並ぶ家の一軒から、兵士が一人出てきて訊く。工兵隊の、小隊長を務めてる人だ。
「何か、問題でもありましたでしょうか」
「いや、ちょっと視察に来ただけだよ。作業は順調?」
「はい。あと2・3日で全工程を終えられるかと」
「そっか、ご苦労様」
兵士を下がらせて、修復作業の続く家々を見る。働いてるのは全員、白帝城の工兵隊だ。
前回の市街戦で出た被害をこちらで全面保障する代わりに、家屋の修復は工兵隊がする、という事案が上がってきたのは、城主になって3日目の事だった。
保障は元々するつもりだったし、圧倒的に経験値の低い工兵隊の調練代わりもなる、いい献策だ。
そして、なにより嬉しいのは、この事案が前城主の時からの文官によって出されたものだってことだ。上が腐っていても下全てが同様に腐っているわけではなかったらしい。
同様に、軍部の方にも何人か優秀な人材がいた。嬉しい誤算、というヤツか。
純粋に能力順で地位を入れ替えたら、上下がほぼ逆転したのは想定内だったけど。
465 名前:外史喰らい編:拠点パート1(4/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:13:12 ID:AfGF9HmR0
市を過ぎ、既に本来の役割を取り戻した城門を越えて、場外へ出る。少し離れた所に、武器を持った集団が見えた。先頭に一人、武器を持たず集団を睨んでいる男がいる。光だ。
「調練の視察ですか?」
「でもある、ってとこかな?」
はぐらかした答えに雲が怪訝そうな顔をするが、納得してくれ、としか言えない。言うのはもう少し、しっかりと気持ちを固めてからだ。
集団の方を見れば、光の号令によって陣を変えているところだった。攻撃用の陣から防御に適した陣へ。即座に射撃陣を取り、矢を番えずに弓だけ引いて一斉射の訓練。
形にはなってきてる。けど、実戦で使えるか否か、となると微妙なラインだ。雑兵――それこそ黄巾党相手なら問題ないだろうけど、軍師だの将軍だのがキチンといる軍相手だと厳しいのは目に見えている。
この短期間でほぼ全員新兵な状態からここまでできるようになったのは十分凄いとは思うが。
「……遅れてますね」
「あ、ホントだ」
言われて見る。射撃用から再び防御用に陣を変える時、左翼に少し遅れが出ている。どうも、一人だけ反応が遅れた兵がいるみたいだ。
で、俺達が見て分かるぐらいの遅れを光が見落とすはずもなくて。
その遅れた兵士が1m程宙を飛ぶ。光に蹴られた結果だ。
うっわぁ……。当然手加減してるんだろうけど、それでもやりすぎじゃないか?
「今の遅れで貴様は死んだ」
痛みに悶絶する兵士を見下ろして、淡々と光は言う。
「貴様が抜けたことによって、貴様の両隣の兵も死んだ。そのせいで隊列に隙が出来て、さらに両隣が死んだ。その連鎖で、低く見積もって30人。貴様がほんの5歩遅れただけでそれだけの仲間が死ぬ。忘れるな」
恐れ顔でガクガク頷く兵士を一度睨みつけ、そのまま視線を隊列の方へ移す。
「貴様等も肝に命じておけ!己の不足で死ぬのは自分だけではない!貴様の両脇を固める仲間も殺すこととなる!隣の顔を見ろ!その顔が、貴様が命を預け合う顔だ!忘れるな!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
光の言葉に一斉に答える新兵達。すぐに調練は再開された。
469 名前:外史喰らい編:拠点パート1(5/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:17:17 ID:AfGF9HmR0
そのまま見てて、ふと気付いたことがある。右左翼・中央それぞれに、頭一つ飛びぬけて動きの良い兵が何人かいる。たぶん、光が求めてる水準の、チョイ上ぐらいの動きだ。
「なあ、雲。あの、動きの良い兵士達。あの人達だけ集めて、特別部隊みたいなの作れないかな?」
「親衛隊ですか?確かに必要ではありますが、もう少し軍が充実してからの方が望ましいですね」
「あー、いや、そっちじゃなくて。えーと、特殊部隊って言った方が正しいか?」
こう、グリーンベレーとかSASとかスペツナズとか、そんな感じの部隊。親衛隊じゃ滅多なことでは動かせないけど、それなら結構自由が利くと思うし。
「なるほど、検討する価値はありそうですね。近日中に書類にして上げましょう」
「頼んだ」
さて、と調練風景に背を向ける。光が調練に集中してる間に消えとこう。政務サボってこんなとこにいるのバレたら、どんな罵倒が飛んでくるか分かんないからな。


そのまま雲を連れて、城壁の外で田畑を耕してる人達を見たり、市や町を回ったりした。
結構ゆっくり、それもたくさん見て回ったせいで、北側の城壁の上に出た時は、既に日が傾いていた。
「それで、そろそろ私を連れまわした理由を教えていただけるとありがたいのですが。北郷一刀殿」
さすがに声が刺々しい。理由話さず半日も連れまわしたんだから、当然か。
でも、そのおかげでこっちも気持ちを決めれた。
「見てくれよ、雲」
城壁から、街を見下ろす。
仕事帰りのおじさん。後片付けをしている屋台。入れ違いに店を開ける酒家。親に手を引かれて帰って行く子供達。
「外史喰らいを倒す、ってこの外史に来たよな。で、街の皆を指揮して戦って、城主になって。でも、なんか違和感があったんだ」
「ふむ?」
「外史喰らいを倒すために想いが必要、そのための手段として大陸を治める……それは間違いじゃないと思う。聞いた限りじゃ、それが一番現実的な手段だからな」
最も現実的なのが大陸制覇ってのも、馬鹿げた話だけど。
「でも、大陸を統べるってことは、乱世を伸し上がっていくってことで、そのためには戦争をしなくちゃならない」
綺麗事を並べて、俺を信じてくれる人達を戦場で使って、敵味方問わず人間を殺して。
自分のために、この世界を利用する。
470 名前:外史喰らい編:拠点パート1(6/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:21:07 ID:AfGF9HmR0
「それなのに、俺達はこの大陸のためには戦わない。そりゃ、大きな目で見れば外史喰らいを止める事はこの大陸を救う事に繋がるけど、それとこれとは違う」
多くの英雄に愛してもらうための手段としての大陸制覇だ。そこには、この大陸に住む人の事を考える場所が無い。
その違いに悩んでいた。
「でも、今日街を回って、住民の暮らしを見て、ここから街を眺めて―――――決心がついた」
雲を振り返る。
「雲。俺は、この大陸に住む人達のためにも、大陸を制覇したい。俺を信じて、頼ってくれる人に、平和をあげたい」
外史喰らいを倒すための手段としてじゃなく、俺を主だと思ってくれる人達のために。
「――なるほど、お気持ちは分かりました。ですが、なぜそれを私に?わざわざ宣言することでもないと思いますが?」
「あー、うん。カッコつけといて恥ずかしい話なんだけどな」
ここに住む人達のために大陸を統べる。情けないけど、そのためには俺は無力すぎる。
「だから雲。俺をさ、鍛えてくれないかな?」
俺の発言に珍しく驚いたのか、雲は目を丸くする。
「鍛える……とは?」
「そのままの意味だよ。主としての心構え。技能、判断、立ち振る舞い。その他諸々、『人の上に立つ』のに必要な事を教えてほしい」
頼む、と頭を下げる。
「……………」
雲から何の反応も無い。何だろう、呆れられたかな?
と、大げさな溜息が聞こえた。
「まったく、本当に貴方は人の予想の外で動く。まさかそちらから頼まれるとは思いませんでしたよ」
「……え?」
「言ったでしょう、『我々の主たる素質』と。光は上の良し悪しなど気にしませんが、私は違います。こちらから認めたとは言え、私を使う人間はそれ相応の者でなくては」
言って、雲はシニカルに笑う。満面の笑みだ。
474 名前:外史喰らい編:拠点パート1(7/7)[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:25:21 ID:AfGF9HmR0
「素質があるだけでは困ります。今ご自分で宣言された通り、全力で教育して差し上げましょう」
………おい、ちょっと。なんでそんな楽しそうなんだ、お前。
「なぁに、骨は拾ってあげますからご心配なく」
いや、骨て。
「いやぁ、まさか本人の了承の上で主作りが出来るとは思いませんでした。これだけでもう、今回の外史喰らい騒動の元は取れたようなものです」
……………
こう、頭の中で真っ赤なランプが回ってるんだが。何だろう、鈴々に訓練受けて『手加減の仕方なんて知らない』って言われた時もこんな感じがした気がする。
「あー、雲、何だ?その……ちょっと身の程知らずだった気がする、んだ、が。この話無しってことで―――」
逃げ出そうと背を向ける。
襟首を捕まえられた。
「ふふふ、遠慮しなくても構いませんよ。まずは明日の缶詰を3日程度に延長しましょうか。なに、人間少々眠らずとも死にはしません」
3日貫徹で政務!?しかも、雲の見張り付き!?
「そんなん無理だっつの!」
「なら、無理じゃなくなるまで鍛えましょう。ご自分から言った事をまさか翻しませんよね。『言に責を持つ』。これも主たる資格ですよ」
ヤバい、聞く耳持たねぇ。
「だ、誰かー!助けてくれーー!」
「ほら、明日は早朝から政務に付いてもらいますから、遊んでないで早く帰りますよ」
俺より背ェ高いとはいえどこにそんな力があるのか、襟首を持ったまま、ズルズルと俺を引きずる。
『後悔先に立たず』とか『藪を突いて蛇を出す』とかいう単語が頭に浮かんだ気がした。
475 名前:外史喰らい編:拠点パート1[sage] 投稿日:2009/04/10(金) 23:32:18 ID:AfGF9HmR0
以上です。
ちょっと一刀がカッコつけすぎかもしれませんが、
乱世1回分というチート経験値持ちなので、むしろこれくらいじゃなきゃダメでしょう。

次は黄巾の乱を予定しています。
4回目にして、ようやく女の子が出せると思います。

支援ありがとうございました。

 [戻る] [←前頁] [次頁→] [上へ]