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684 名前:外史喰らい編[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 18:08:51 ID:/+FguFpI0
>>294の者です。
第1話が出来上がったので、本日22時頃から14レス程投下させていただきます。
暫定ですが、タイトル付けました。
よろしければ支援お願いします。

ちなみに今回も女の子出てきません。
687 名前:外史喰らい編第1話(1/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:00:19 ID:/+FguFpI0
黄色い大地に立つと、懐かしい風の匂いがした。
あの世界で何度も嗅いだ匂い。
「――ははっ」
思わず地面に仰向けになった。俺はまたこの時代にいられるんだ。そう実感できた。
「まさしく歓天喜地ですか。喜ぶのは結構ですが、程々にしてくださいね」
「あ、ごめん」
いつの間にか道士の服に着替えていた雲にはしゃぐ子供に釘をさす様に言われ、気恥ずかしくなって体を起こす。
で、ここどこだ?前みたいに幽州か?
「そんな僻地に降りてどうする、阿呆」
わざとらしくため息つきやがった。
「じゃあ光、お前はここがどこだか分かるって言うのか?」
四方見渡して町の影も見えない、平地のド真ん中なんだ。そんなの分かる訳―――
「あれは―――白帝城か。太陽の位置からみてこちらは北東。距離1里といったところか」
「……分かるの?」
「―フッ」
呆然と訊き返したら、鼻で笑われた。くそ、悔しいけど反撃できない……
「ていうか、4km先の城が目視できるってどんな目だよ……」
サバンナの原住民レベルじゃんか。
「光の見立て通りの位置ですよ。とりあえずそちらへ向かいましょうか」
アレの能力は人外ですので気にしない方がいいですよ、と諭された。
まあ、五虎将軍の内3人まとめて相手したような奴だしなぁ。
688 名前:外史喰らい編第1話(2/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:05:02 ID:/+FguFpI0
街に入り、とりあえず適当に目に付いた酒家で腹ごしらえ、という形になった。
「なにはともあれ、まずは名をあげなければ意味が無いんですよ」
どことなく上品に春巻を口に運びつつ、雲が言う。
「我々の最終的な目標は『外史喰らい』を止めることです。そのために必要な想いは北郷殿への想いを変換して創ります。つまりより大勢の人間にあなたを慕ってもらえばいいわけですが、そこにも少し特殊な事情がありましてね」
事情?
「変換後の想いの強さは、想いの持ち主がその外史でどれだけ重要な位置にいるかによって変わってきます。重要な位置――物語で言う主役の位置――にいる者の想いの方が、強くなるんですよ」
言わんとしていることが分かりますか?、と雲。
ラーメンを啜る箸を止めて考える。
「愛紗とか鈴々みたいな娘に愛してもらえるようになれ、で合ってる?」
「そこらの町娘に無暗に手を出されても困ると、そう言ってるんだ」
無表情で麻婆豆腐を食べていた光が口を挿む。
「手癖が悪いのは知っているが、無差別に粉かけるぐらいなら武将一人を堕とせ。その方が貯まる想いは強い」
悪し様に言うだけ言って、今度は給仕の娘が持ってきた棒々鶏に手を付ける。丸っきり無言だ。
………口出したくせに、会話する気無いなコイツ。
同じこと考えてたのか、俺と視線が合った雲が軽く溜息を吐く。
「まあ、間違いではありませんね。手頃な例を挙げると、曹孟徳一人分の想いは、大陸全土の平民の想いの総量とほぼ拮抗します」
「そこまで違うのか……」
確かに華琳なら納得できる話ではあるな。
「量より質というわけです」
689 名前:外史喰らい編第1話(3/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:08:17 ID:/+FguFpI0
話を戻しますよ、と続ける雲。
「とにかく、著名・有名になる者の想いが必要でして、そういった方々と対等になるためには北郷殿にも高名になってもらう必要がある訳です。加えて、多くの『主役』に会っていただくために、大陸制覇も同時進行で行います」
サラッとデカイこと言うなぁ。
「天の御使いの名と、本郷一刀の主としての適性。光の武に私の知略、道士としての能力。さらに『三国志を知っている』『未来の知識を持っている』という優位。これだけあって出来ないとでも?」
言って、雲は不敵に笑う。
「……出来る、としか言えないんだろ?」
ならやるさ、と返す。
よく考えれば一度出来たことだし、なんとかなるだろう、という思いもある。3人だけじゃ無理でも、領土を広げ、名将が集まれば出来るはずだ。そもそも前回だって、最初は3人だったし、小さな村からの始まりだったんだ。
「――っと、そういえば、なんでココなんだ?」
思い浮かんだついでに、気になっていたことを訊く。
「おや、もう少し高級な酒家がお好みでしたか?」
「いや、そっちじゃなくて。この城に来た理由だよ。光は白帝城とか言ってたけど」
「ええ、益州の白帝城。位置としては、成都の真東、洛陽の南西にあたる城市です」
確か三国志じゃ、劉備が関羽の仇打ちに呉の呂蒙に挑んで敗走した時逃げ込んだ城で、劉備はそのままこの街で没したんだ。ゲン担ぎにしちゃ、縁起が悪いな。
「純粋に地理的な理由でして。3国並立時に、丁度この辺りが3国の国境線の集合点になるのですよ」
「?」
そこって有利なのか?確かに大陸の真ん中だからどの国にも手を伸ばしやすいけど、逆をいえば周り全てが敵だと思っても過言じゃない。
692 名前:外史喰らい編第1話(4/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:12:48 ID:/+FguFpI0
「周り全てが敵、確かにその通りです。ですが、だからこそ手を出され難い」
雲は自信満々に語り出す。
曰く、
こちらが弱小勢力の内に攻められたときは、必ず他2国が同時に攻めてくる。大陸の中心に位置する土地を奪われるという事は、自国への侵入ルートを増やすことに繋がるからだ。
この状態で、最初に攻めてきた国以外と同盟ないし属国となることを臭わせれば、充分な牽制になる。こちらと戦って損害を受けているところに、大義名分を持って攻め込まれる可能性が見えるからだ。
そして3国と対等に戦えるぐらいの強国になったとすれば、手を出せば尚更に軍を消耗することになる。そうなれば、例えこちらに勝とうとも、そこを残り2ヶ国の同盟に攻められれば敗北は必至だ。
「要するに、併呑したところで後が続かない国な訳だ」
よくそんなこと思いつくな、と感心する。
「はい。相手との戦力差が大きすぎると意味が無い策ですが、この立ち位置を狙って国を築いていけば、十分に可能でしょう。さらに言えば、この城は長江のすぐ近くにあり、水運による国家の繁栄も期待できます。当然、水軍の育成も可能。加えて――」
「うん、じゃあ、そのことについては任せるよ」
ところで、どうやって名を上げる?と。
饒舌に話す雲を遮って、強引に話を変えた。国の基礎どころか、流れ者3人、な状況でそんな大きなこと言われても正直困る。
「どうやって、って……」
露骨に呆れ顔をされた。
「では訊き返しますが、前の外史であなたと関羽・張飛はどうやって名を挙げましたか?」
え?えーと、あの時は…………あ。
「あー……」
そりゃ呆れられるか。やることは、前と一緒なんだから。
「納得がいきましたら、そろそろ宿を探しましょうか。機会を待つにしろ、食住は必要ですからね」

ちなみに、食事代・宿代含めて今後しばらくの生活費は、俺が持つことになった。
これでも一度は大陸のトップにいた身な訳で、贅沢しなければ10日前後はもつくらいの金は持っている。
普段から制服のポケットに財布を入れっぱなしにしていたおかげで、この外史にも持ってこられたらしい。
もっとも、進んで酒家に人を案内した雲が一文無しだったのは別問題だが。
693 名前:外史喰らい編第1話(5/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:17:46 ID:/+FguFpI0
朝起きて、地形・道の確認がてら街を回り、そこらの屋台で昼食。午後からまた街を回って、日が沈む頃に最初に入った酒家で集合、互いに気付いた点を報告しながら一緒に夕食。そんな生活を続けて、1週間程経った日だった。
その日の昼食は、いつもの酒家で一緒に取ろう、という話になっていたので(どうも光が気に入ったらしい。昼食を屋台や他の店に浮気してる俺達と違って、その店に通い詰めだそうだ)、昼過ぎに酒家前で集まっていた。
先に軒先をくぐった光・雲に続いて俺も店内へ入ろうとした時。
「盗賊だーーーー!!」
張り上げられた声は、南の方から聞こえてきた。
俺達も含めて、市にいる人間全ての動きが一瞬止まる。
「盗賊が攻めてきたぞーー!!」
南に目を向ければ、武器を手に侵入してくる男たちの姿があった。門番などいないので、素通りだ。
どこからか金切り声の悲鳴が上がる。それを契機に、周りは蜂の巣をつついた様な騒ぎになった。我先にと逃げ出す人、店の戸を閉めて閉じこもる人、諦めてへたり込み、手を合わせている人もいる。
振り返ると、2人と目が合った。
「やっぱり予想通り、か」
どうにも遣る瀬無くなって、ぼやく。
まさか、野盗が来るのを待つような生活をするとは思わなかった。
ここ数日の聞き込みで、この街の軍に機能していないことと、そのせいで野盗に襲われても宮殿の護衛が精一杯で、街の被害に対処しきれていないことは分かっている。
「城」が野盗の餌食になってるなんて聞いたときは何の冗談かとおもったが。
「まあ、仕方ないか。光、頼む」
「ああ」
打ち合わせは済んでるので、今更どうすればいい、などと話し合う必要はない。
一瞬だけ低く構えた光は、地を滑るように飛び出す。逃げる人達の間を縫って走り、野盗の前に躍り出て、一人目の顎を蹴り飛ばす。
「手前ぇ!」
仲間が光に気づき武器を構えるも、既に遅い。放たれた蹴りは周囲の野盗の人数と同じ数。1人1発ずつ綺麗に顎を捉え、例外無く意識を刈り取った。
「雑魚が」
696 名前:外史喰らい編第1話(6/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:25:47 ID:/+FguFpI0
吐き捨てる光の迫力に、門から入ってくる野盗の勢いが鈍る。
「な、なな何だお前!?」
思わず訊ねる野盗に対して構え、名乗る。
「我が名は左元放!乱世を憂いて立ち上がりし我が主、北郷一刀の家臣!首が要らん奴からかかってこい!!」

「……よし」
ここまで作戦通りだ。
「では行きましょうか」
「ああ」
雲に促され、通りの真ん中に、光に背を向けて立つ。
「みんな、手を貸してくれ!盗賊を追い払うんだ!」
短い言葉だが、今は長々と演説するよりもこちらの方が正しい。光の強さに相手が怯んでいる間に、反撃の手筈を整えて押し返さなくてはいけないからだ。
「戦える者は武器を取りなさい!剣や槍を持ってくる必要はありません!長柄の農具や屋台の骨でもいい。それも無い者は石を拾って投げなさい!」
雲が出した指示に、一人、また一人と長柄を持った人たちが集まってくる。
「2人一組で敵に当たりなさい!自分から前に出なくていい、左慈が討ち漏らした者のみ止めるんです!」
これも打ち合わせ通り。あまり住民には被害を出したくないし、そもそも何の訓練もしていない人間が、野盗相手とはいえ十分な戦力になるわけがない。
故に、敵を倒すのは光だ。脇道を塞いで大通りを長柄武器で埋め、敵の進軍を阻んでその中で光に暴れてもらう。
光曰く「邪魔が入らない」、雲曰く「とにかく名を上げることに特化した」作戦だ。
ある程度人が集まって、充分な隊列ができる。これなら勝てると確信できる数だ。これだけいれば、盗賊が潰走するか諦めるまで充分に持つ。
状況の確認に振り替えると、光と目が合った。光はそのまま視線をずらして雲と頷き合う。
……一瞬だけ、嫌な笑い方をしたように見えたのは気のせいだろうか。
698 名前:外史喰らい編第1話(7/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:30:09 ID:/+FguFpI0
「北郷!」
いきなり名を呼ばれた。

「このままでは埒が明かん。斬り込んで首領首を落とす!四半刻でいい、持ちこたえろ!」

………………は?
それだけ言って、光は野盗の中に消える。
待てオイ、そんなの打ち合わせに無いぞ!?
「試験ですよ」
サラリと雲が言う。
「光が帰ってくるまで持ちこたえてください。あなたに我々の主たる素質があるかどうか、最終確認です。この場を乗り切れないようであれば、今後は神輿でいていただきます」
「……本気でいってんのか?」
「ええ」
「こんな時にやる事かよ!?」
思わず怒鳴った。
2人に信用されてるとは思ってなかった。「狭間」で出会うまでは敵同士だったし、2人から見れば武官・文官、どちらとしても劣ってるのは分かってる。
そんな奴を君主として置こうとするんだ。試験ってのも理解はできる。
だけど、それはこんな状況でやることじゃない。極小規模とはいえ、これは戦だ。もし俺の力量が至らなければ、大勢の人が死ぬ。
「分かってるのかよ、それが!?」
だがこちらの激昂は、柳に風と流される。
「私相手に怒鳴ってる暇があるのなら、少しでも策を考え出したらどうです?それと暫定的とはいえ我々は将の立ち位置にいます。将同士の喧嘩など、兵を不安がらせる――」
「分かってるよ!」
最後まで聞かずに思考する。
クソッ……
考えろ考えろ。勝利条件は「光が首領を倒すまで盗賊を足止めする」ことだ。そのためには何が必要か。
699 名前:外史喰らい編第1話(8/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:34:53 ID:/+FguFpI0
「雲!彼我の戦力は!?」
「光が少し倒しましたが、敵が千弱。こちらが三百といったところでしょうか」
約3倍。道を塞いでるから、ぶつかり合う人数は同数。まともに1対1じゃ戦い慣れしてないこちらが不利。だから多人数で当たる当初の作戦は続行。
だけどそれだけじゃ足りない。光が図らずも敵軍を掻き乱してる状態だから進行速度は鈍ってる。けど、それだけだ。
光の相手をするより無力な人に暴力を与える方を選ぶ奴なんか、五万といるだろう。敵の目は基本こちらに向いている。同時に、目立つ位置で敵を倒し続けてた光が見えなくなったことで、皆の士気は下がる。なら―――
考えをまとめる。
やるべきことを整理する。
口に出す前に、もう一度頭の中で反復し、策として確認する。
「雲」
「なんでしょうか」
「武器が欲しい。剣を――出来たら装飾も付いた目立つ奴が」
「―――ふむ。では、こちらなどどうでしょうか」
差し出されたのは、剣ではなく刀――日本刀だった。
「陸奥守吉行。坂本竜馬の愛刀です。……別の外史から持ってきた、模造品みたいなものですがね」
受け取って、鞘から少しだけ抜く。吸い込まれそうな、日本刀独特の輝きが見えた。
「充分すぎる。これなら―」
日本刀の輝きは、中国剣しか知らない人には宝剣に見えるだろう。
材料は揃った。あとは行動だけだ。
「聞け、皆の者!」
意識して、堅苦しく威圧的な言葉を使う。この場に必要なのは、光の代わりに人心を引きつける奴だ。
それが主じゃなかったら何だ。
「現在、左慈が敵首領首を狙って斬り込んでいる!所詮、相手は欲で繋がった下郎だ。上がいなければ戦い続けるような気概は無い!故に、左慈が戻ってくるまで持ちこたえれば我らの勝ちだ!」
光が見えなくなって戸惑っていた皆に、少しだけ士気が戻ってくるのを感じる。
「2人では足りん、3人一組で敵に当たれ!それなら負けることはない!勢いに押されるな!皆が退けば、皆の後ろにいる大切な者が傷つくことを忘れるな!」
隊列の中央まで進み出る。陸奥守吉行を抜いて、盗賊へ向けた。
「自らの手で、自らの街を守れ!行くぞ!」
「「「「「応!!!!!」」」」」
裂帛の気合いが返ってくる。
702 名前:外史喰らい編第1話(9/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:40:06 ID:/+FguFpI0
それに気持ちを押されて、1歩前に出た。
「かかって来い、賊共!相手になってやる!」
荒い口調、高圧的な言葉。
「舐めんな、餓鬼が!」
目論見通り、短気な奴が突出してきた。
顔は怖いが、攻撃は単純に剣を振り下ろすだけ。
そっちこそ舐めるな。鈴々や愛紗の豪撃を間近で見て、訓練してもらったこともあるんだ。その程度の攻撃なら遅くさえ感じる。
地面を蹴って後ろへ下がり、剣をやり過ごす。
瞬間、前進に切り替え、刃を反して刀を構え、右の鎖骨へ振り下ろす。
骨を叩き折る嫌な感触と共に、相手が倒れた。
「次ぃ!」
苦痛でのたうつ盗賊を無視して、叫ぶ。
必要なのは、光の代わりに敵味方を引きつける者。アイツほど強くない俺が代わるには、口先で気を引くことが必要だ。
左からの横薙ぎをしゃがんでかわし、脇腹を撃つ。即座に身を翻し、右の盗賊の手首を叩いて武器を落とす。
悶絶する盗賊を見て、少し自己嫌悪した。
すぐ横じゃ殺し合いが行われてるってのに、自分は峰打ち。手加減の余裕があるほど強いわけじゃない。単純に、人殺しをしたくない、という我が儘だ。
殺すよりも、周りに転がしておく方が敵の気は引ける。そう自己弁護するも、気など晴れるわけはなく。
そしてそんな状態で戦っても、万全なわけもなく。
「死ねぇ!」
後ろからの声に振り向こうとして、転げ回る盗賊の体に足を取られた。
「しまっ…!」
体制が崩れ、相手に無防備になる。
俺に向かって剣が振り下ろされ、
「ぎゃっ!」
寸前で、男の手から落とされた。
見れば、男の手首に黒い金属が刺さっている。ひし形の刃部に、細い棒を付けたような形。
「………クナイ?」
706 名前:外史喰らい編第1話(10/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:45:01 ID:/+FguFpI0
「情報収集不足が一つ。愚策が一つ」
呆然と男をに刺さった金属を見ていると、後ろから雲に言われた。
……もしかして今のクナイ、雲か?
「光の代わりに人心を引きつけて戦う者が必要。光が抑えていた進行速度が元通りになるから、より強力な組み方が必要。ここまでの判断とその対策は合格です。加えて、先ほどの啖呵と立ち振る舞い。人の上に立つ十分な資格です。
―――ですがその後が悪い。武官として修練を積んだ身ならまだしも、あなたの身で光の代わりなどできるわけがないでしょう」
「う……」
もっともだ。愚行だってのは分かってた。でも、そうしないと皆の士気が落ちる。
雲は呆れ顔で俺の横を通り過ぎ、前に出る。
「なぜ私に一言訊かなかったのですか?『戦えるか?』と」
思わず目を瞬かせた。
「…………戦えるの?」
「光ほどではありませんし、名将たちにも敵いませんが、あの程度の雑魚ならば何千人でもやれます」
言ってる事は本当だろう。さっきまでどう見ても軍師な雰囲気しかなかったのに、今背負う空気は最前線の将のそれだ。
「光が離脱しましたが、あの時点でも私はあなたの配下にいた。部下の能力を完全に把握できていないのは、主として最悪の部類の欠点ですよ」
言われて、納得するしかない。
よく考えれば、俺はこの二人の事を何も知らない。それなのにイメージだけで決めつけていた。
これじゃあ、神輿とか言われても仕方がない。
「ですがまあ、その点を責めるのは酷でしょう」
え?
「文官にしか見えないように動きましたからね。正直にいえば、この点は採点外です」
…え、じゃあ
「合格です。今より正式に、あなたを我らの主と認めましょう、『一刀殿』」
今、名前で―――
「ご命令を。光が帰るまで戦線を維持するのでしょう?」
「あ、ああ。頼む、雲。前線で戦ってくれ。敵の気を引くために、なるべく派手に」
「御意」
708 名前:外史喰らい編第1話(11/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 22:54:59 ID:/+FguFpI0
雲は敵陣には飛び込まず、俺のいた位置から少し前に出た辺りで止まる。
「我が名は干吉!あなたたち如きに我が主の刃は勿体ない!私が相手しましょう!」
その挑発に簡単に乗った数人が向かってくる。
フン、と嘲るような笑みを浮かべ、雲は両手を袖の中に隠す。そのまま腕を振るった瞬間、盗賊を狙ってクナイが放たれた。
「がっ!」
「ぐわっ!」
一人の例外もなくクナイは命中し、向かってきた盗賊が倒れる。
雲の腕は止まらない。前方180°、全ての方向に寸断無くクナイが放たれる。
雲の道士としての能力は、「空間同士を繋ぐこと」だそうだ。繋ぐ先は他の外史や外史の狭間。おそらく、袖の中では指が光り、次々にクナイを補充しているのだろう。たぶん、陸奥守吉行を出した時も同じだ。
そのクナイは、光の蹴りより遠距離まで攻撃が届く分、多数を相手するのに向く攻撃だ。その証拠か、ジリジリとだが、戦線が前に進んでいる。
勝てる。今度こそ確信した。
710 名前:外史喰らい編第1話(12/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 23:00:14 ID:/+FguFpI0
「敵首領、討ち取った!」
丁度四半刻後、敵陣の奥から光の声が響いた。
「聞いたか、あなたたちの首領は我らが討った!死にたくなければ去りなさい!」
呼応して、雲も叫ぶ。
途端に盗賊たちの攻撃が止まり、背を向けて逃げ出した。
一斉に、街中から歓声と鬨の声が上がる。
「はぁー…」
その声で緊張の糸が切れて、思わず座り込んだ。
「だらしが無い。勝軍の主が道端でへたるな」
悠々と帰ってきた光が、真っ先に罵ってきた。
「ごめん、そのー何だ。腰が抜けた」
最前線まで出て皆が戦うのを見てたことなら何度もあるけど、そこで敵と斬り合うなんてことは初めてだ。これほどキツイなんて、想像以上だった。
「……まあ、いい。試験は不合格か?雲」
合格か?って訊かない所に、性格っぽいのが見え隠れするな。
「合格ですよ。あなたの代わりに最前線で目立つなどという愚行もありましたがね」
「馬鹿が」
バッサリ切られた。
「お前が前線など、出来る訳無かろう。そんなものは俺に任せて、主面して後ろで後方で震えていろ。お前に死なれては面倒なんでな」
あれ?罵倒みたいに聞こえるけど、ひょっとして心配されてるのか?
まあ、冗談でもそんなこと言ったら、頭がサッカーボールになるのは目に見えてるから言わないけど。
そんな風に勝利を味わってると、兵士らしき武装した一団が俺達の方へ向かってきた。たぶん、この城の軍隊だろう。盗賊がいなくなってから出てくるとか、質は下の下って本当なんだな。
隊長らしき人が口を開く。
「あなた方の代表者はどなたでしょうか?」
「あー、俺です」
何とか立ち上がって返事する。
「城主殿がお呼びです。至急、宮殿まで同行願いたい」
「分かりました」
言って、光・雲と目を合わせて小さく笑う。
途中にイレギュラーはあったけど、計画通りだ。
713 名前:外史喰らい編第1話(13/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 23:04:20 ID:/+FguFpI0
案の定、城主の話と言うのは、俺達を将として召し抱えたい、ということだった。素直には受け入れず雲が交渉して、全軍を預かれる地位まで高めてからOKを出す。当然、前任者は文句を言ったが、光と試合ったら即座に納得した。
「で、雲」
宮殿の中に貰った自室で訊ねた。
「まさかここからのし上がっていけ、とか言わないよな?」
計画じゃ、盗賊を追い払う→領主に呼ばれる→全軍を預かれる地位で召し抱えられる、までしか打ち合わせていない。
雲は「まずはそこまでで充分です」って言ったけど、それじゃ前の外史より時間かかるぞ?
「阿呆」
相変わらずの口の悪さで光が言う。
「軍師の案を信頼するのも主の仕事だろう。部下の意を酌むということを覚えろ」
「あー…ごめん」
なんて言うか、言葉が意図的に悪いのは変わらないんだけど、内容がアドバイス寄りなのは、多少なりとも認めてくれたってことなのかな?
「とはいえ、ただ待つのは俺も苦痛だ。雲、何日だ」
「そうですね、多少は信頼してもらわねばなりませんし、半月ほどでしょうか」
「だ、そうだ。適当に半月待っていろ。全て分かる」

で、半月後。
洛陽から、白帝城へ使いが来た。
内容は、現城主以下数名を収賄・横領の罪で投獄するという事と、次の城主に、半月前の盗賊騒動の恩賞として北郷一刀を任命するという事。
「…………いや、ちょっと待った」
「不満ですか?」
「不満は無いけど、おかしいだろ!」
出世が急すぎるし、なにより盗賊退治一つで城主になんかなれるわけが無い。
716 名前:外史喰らい編第1話(14/14)[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 23:08:18 ID:/+FguFpI0
「そうでしょうか。城門の修繕費も出せないほど税を横領している領主に、その下の有能な将。そしてその将は住民に慕われています。なら首を挿げ替えるくらいするのでは?」
「まあ、そこだけ聞けば自然なことみたいに思えなくもないけど」
そもそも盗賊退治の恩賞って、そんなことあの領主が洛陽に報告するわけが無い。するとしても、自分の手柄にして報告するはずだ。
「ふふふ……その通りです。種明かしといきましょうか」
雲の指が空中に方陣を描く。狭間で見た時よりも、複雑な物だ。
その方陣から、あの洛陽からの使いが出てきた。
―――いや、違う。
「これ……ひょっとして」
「ええ、傀儡ですよ」
「………あー」
納得いった。要するに、洛陽からの使いってのは嘘か。
「洛陽にも、白帝城からの使いとして、一体向かわせました。あちらには自分の意志で交代したという報告を持たせてありますが」
「なんか、すっごい悪いことしてる気分……」
「気にするな、相手は暴政を敷いていた豚だ。お前が上にいた方が、何かと民のためだろう」
「それに、そんな事を気にしている余裕はありませんよ」
「え、何でだ?」
「今まで言いませんでしたが、黄巾党の乱まで丁度半年ほどです。内政を整え、兵を鍛える。すぐに取りかからなければ間に合いませんよ」
「…その時期、狙っただろ雲」
ええ、と悪びれず答える。
「手っ取り早い方法でのし上がらなければいけませんでしたから、一刀殿の性格では躊躇されるのは目に見えていました。故に方法を隠し、またそんな事を言っていられない時期に城主になってもらいました」
「分かったよ」
割り切る。悪徳城主を罰して、黄巾党に対抗できるだけの勢力を身に付ける。手段が悪いだけで、やってる事は正しいんだし。
「では、まず城としての機能回復と兵の鍛練、正しい税制の成立と市の整備、民から行政への信頼回復―――やる事は山積みですよ、一刀殿」
720 名前:外史喰らい編第1話[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 23:19:26 ID:/+FguFpI0
以上です。
拠点も手に入れたので、次回は拠点パートにしようと思います。
ですので、たぶんまた女の子出てきません。ごめんなさいm(_ _)m


ところで、10個目あたりで一度サルったんですけど、また書けました。
これ、どういうことなんでしょうか?
725 名前:外史喰らい編第1話[sage] 投稿日:2009/03/26(木) 23:35:16 ID:/+FguFpI0
>>721>>722
なるほど、レスありがとうございます。

>>723
分かりやすいので、1里=4kmで作ってます。

支援してくださった皆様、ありがとうございました。

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