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322 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 02:40:35 ID:XsuIMXVM0
こんな時間ではございますが。

北郷新勢力ルート:黄巾の乱-後編

まだ書いてる途中なんですが、少々レス数が多くなっています。
ので、先に11レス程投下して、残りは後日にしようかと思っておりますが
やっちゃっていいでしょうか。
326 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 02:44:35 ID:XsuIMXVM0
それでは、しばしお付き合い下さいませ。

…さるったらゴメンナサイ
327 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 1/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 02:45:43 ID:XsuIMXVM0
 動乱の時代──。

 その苛烈な嵐のような流れは、それまで安寧を保っていた地をも飲み込もうとしていた。

 ──益州、漢中領。
 この地もまた例外ではなく……これまで、黄巾の姿があまり見えなかった涼州、益州においても、
にわかにその影が散見されるようになっていた。
 大陸に蔓延する戦いの気配に触発されるように。
 蝋燭の炎が、その最後の輝きを放つかの様に……

 だが果たして、其れは誰の命の灯火なのか──。
328 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 2/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 02:49:26 ID:XsuIMXVM0
 一刀達が荊州を発ってから約十日。
 道中、先行する黄巾軍に刺激されたか、いくつかの盗賊団や暴徒と交戦を繰り返しながら、
ようやく益州へ入った。
 そして少し前、漢中から北東へ少し離れた山中に陣を張っており、
本陣には、行軍中に放った細作からの報告が次々と入ってきている。

「状況は?」
「報告に寄りますとー、現在黄巾軍は漢中の城を半包囲。もうじき攻撃に移りそうですねー」
「我々との戦闘、その後の袁術軍の追撃により、大きく数を減らしていたと思われますが……
恐らく、ここまで来る間に、野盗や表に出ていなかった黄巾の信徒などを取り込んだのでしょう。
現在一万五千程に膨れ上がっている模様です」

 その報告に、一刀は「うーん」と唸った。
 思っていたよりもかなり敵兵数が増えているようだ。
「こっちの兵数は?」
「道中の戦闘で多少減らしまして、約六千。騎兵、歩兵共に三千ずつと言った所でしょうか」
「敵は約二倍か……まいったねこりゃ」
「そですねー。まぁあとは城の守備兵がどれほど居るかにもよりますが。
……取れる策としては、城攻めが始まったら、時機を見て背後からの強襲……ぐらいですかねー。
あとはお城の方々がうまく合わせてくれるかになりますか〜」

 結局の所は、やってみるしかない。と言うことだ。
「まぁとりあえず……いつでも動ける様に、準備だけはしておこう」
 そう告げると、一刀はふと、空を見上げる。

 気持ちとは裏腹に、青い青い空が広がっていた。
330 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 3/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 02:54:32 ID:XsuIMXVM0
――約四時間程前。漢中城内――

「まだ見つからないの!?」
 叫びと共に、バンッと机を強く叩く音が響き渡る。
 叫んだのは、雍州は天水を治める董家に仕える軍師、賈文和。
 現在の漢中は、後漢王朝の直轄地となっているのだが、前述にも有るその地の「重要性」から……
と言う理由で、漢から赴任してきた太守が、周辺の領主に防衛部隊を出すよう依頼していた。
 無論、おおっぴらにそのようなことをすれば、一太守が漢王室に泥を塗ったと、
間違いなく非難されることになる。よって、他領主による官軍の視察と称して、派遣させていた。
 要するに、「自分達だけでは守れないので、皆手伝え。漢の臣だろう?けどばれないように」と言うわけである。
 最も、周辺領の領主達も、自領の自治をしなければならないこと、「視察」と言う名目で有るということから、
それほど多くの兵を派遣することはなかったのだが。
 漢中の重要性はわかっていたとしても。この地方には黄巾や暴徒はほとんで出ていないのだから、と。
 ……果たして、この地方に住む者のうち何人が、実際に『何か』が起こると思っていたのか。

『仲穎様の乗った馬車が、黄巾の一団に襲撃された――』

 そして、その「視察」の本隊到着の先触れとして、漢中入りしていた賈駆へ、
瀕死の近衛兵がそんな報告を持って来たのが昨夜だ。

『近衛が食い止めている間に、仲穎様は逃がす事は出来た――』

 そう言って、その近衛は事切れた。
331 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 4/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:01:16 ID:XsuIMXVM0
 彼女達はすぐに捜索隊を組織し、夜を徹して探しているのだが、今だ発見の報は無い。

 その時だった。

「も、申し上げます!!」
「!!……見つかったの!?」
「い…いえ、それが……」
 息せき切って駆け込んできた兵に賈駆が猛然と詰め寄ると、
その勢いに思わずたじろいだ兵士は言葉を詰まらせた。
「早く言いなさい!」
「は、は!荊州より侵入した黄巾の一団が、漢中の目前まで迫っております!
 到着まであと二刻程かと!」
 その報告に、賈駆の顔がみるみる驚愕の表情に変わっていった。
「なっ……何よそれ!?ボクはそんな報告聞いてないわよ!?」
 激昂した賈駆は、周辺の兵にすぐに防備を整えるように命じると、部屋を飛び出して太守の元へと向かう。
「……大方見栄張って、黄巾ごとき自分達だけで対処できるとでも思ったんでしょうけど……
一体なんのためにボク等を呼びつけてるのよ!
 ……まったく、悪いことばっかり……今日は『あの日』じゃないでしょうね……!」
 そう一人ごちながら、太守の部屋の前まで来た賈駆は息を整え、
「入るわよ!バカ太守!!」
 そう言って扉を押し開いた。

 彼女には、人には余り言いたくない『嫌な日』が、月に一度訪れるのだが……
今日がその日ではないことを切に願うばかりであった。
332 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 5/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:07:20 ID:XsuIMXVM0
──漢中近郊、山中。北郷軍陣地──

 整然と並んだ兵士達を、小高い足場の上から北郷一刀が見渡している。
 何千人もの人間が居るとは思えない、水を打ったような静けさだ。
 兵たちは、これから彼が発するであろう、出陣の激を一言も聞き漏らすまいと、
真剣な表情で見つめ、待っていた。

 そして、一度大きく深呼吸すると、北郷一刀は口を開いた。

「皆ももう充分に実感しているとは思うけど……ここに来るまでの道中、
黄巾軍が通ったってだけで、多くの盗賊や山賊、暴徒と化した人たちなんかが表面化してきた。
 あれは、別に何も無いところから沸いて出てきたわけじゃない。
眠っていたもの、隠れていたものが、刺激を受けて吹き出したものだ。
 そして、この益州や涼州、雍州には、まだそんなのが多く眠っていると、俺は思っている。

 確かに、大陸西部には黄巾は少なかったって話は聞いてる。
けどそれは、大陸中部以東の様に、鎮圧されて炎が消えかかっているからじゃない。
まだ大きくなっていない種火の状態なんだ」

 コクリと、同意するように風が頷いたのを視界の端に捕らた。
 的外れなことは言ってない様でよかったと、少しホッとしつつ、一刀はさらに言葉を続ける。

 強く強く、拳を握りしめながら。

 己の言葉が、仲間を死地へと誘う物である事を噛み締めながら。
それでも、言葉は止めない。…止めるわけには行かない。
335 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 6/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:11:46 ID:XsuIMXVM0
「……今、大陸西部全体の要衝ともいえる、漢中が黄巾の手に晒されようとしている。
漢中が落ちれば……間違いなく、益州、涼州地方で大規模な暴乱が起きるだろう。
……それは、ようやく収まりかけている中部の乱の再燃にも繋がると思う。

 敵の数は俺達の約二倍。……確かにすごく厳しい戦いになると思う。
人によっては、無謀な戦いだと……馬鹿だと笑われるかもしれない。
 けど俺は、皆なら……俺達なら、必ず守れると信じている!
 これまでずっと共に戦ってきた皆だからこそ、
例え厳しい戦いだとしても、俺は皆の力なら守ることができると信じるんだ。

 ……これから俺達が行おうとしている戦いは、この地方『だけ』を守る戦いじゃない。

 この大陸全てを守る為の戦いだ!

 だから皆、力を貸して欲しい。謂れの無い暴力に晒されようとしている人たちの為に!

 『俺達の』大陸を守る為に!!」


 次の瞬間──


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

 地鳴りにも似た、雄叫びが沸き起こった。
336 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 7/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:15:30 ID:XsuIMXVM0
──漢中近郊、山中──

 少女は森の中をひた走る。
 目指す漢中の城はもうじきのはずだ。
 幸いにも、追っ手に見つかることなく、夜を明かすことはできた。
このまま逃げおおせれば良いのだが。
「近衛の皆も無事で居てくれるといいのだけど……」
 その願いがどれほど虚しいものかは、彼女自身がよく分かっているのだが。
それでも、彼女はそう思わずに居られなかった。


 しばらくして……急に、視線が開けた。
ぽっかりと、広間の様になっている場所に出たらしい。
 その時だった──

『…………おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

「きゃっ……な…何?」
 どこかから、大きな雄叫びのような声が聞こえ、
思わず、その場にへたり込んでしまった。
 いけないと思い、すぐに立とうするが、うまく立つことが出来ない。

 ……膝が笑っている。
 積み重なってきた極度の疲労と緊張が、座り込んでしまったことで吹き出してきたのだろう。
 そして……

「やぁぁぁっと追いついたぜ〜」

 背後から、複数の足音と共に、そんな声が聞こえてきた。
 恐る恐る振り返る少女の目に入ったのは、二十名程の、黄色い頭巾の男達。
「ひっ……」
「おぉっと、逃がさねぇよ!」
337 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 8/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:16:35 ID:XsuIMXVM0
 何とか立ち上がり、逃げようとした少女だが、いつのまに回り込まれていたのか、
自分と同じぐらいの背丈の男に突き飛ばされた。
「きゃぁ!」
「……おいチビ!あまり手荒な真似するんじゃねーぞ。
その董家のお嬢さんには役に立ってもわらわねーといけないんだからな」
 自分を突き飛ばした男を「チビ」と呼んだ、背の高いヒゲの男。
彼が今回、自分を襲撃した一味の首謀者だろう。
「アニキィ、役にたつって、何やらせるんスか?」
 と、別の男が聞くと、アニキと呼ばれた男はさも面倒くさそうに溜息をつくと、
「っんだよ、そんなことも分からねーのか?……まぁ端的に言えば人質よ。
まずは身代金を搾り取る。で、その後は雍州、涼州、益州での、俺達に対する行動への足かせだ。
……人質として使う以上、今はそのお嬢さんには五体満足で居てもらわないといけねーんだよ」
 アニキの言葉に、他の連中は「なるほどー」と感心した声を漏らす。
 と、チビはふと思いついた顔をすると、
「……ってことはアニキ、見た目に問題なければいいんだよな?」
「…………どう言う事だ?」
「つまり……見た目が大丈夫だったら、後は『ナニ』してもいいんだよな?」
 そう言って、下卑た笑いを浮かべるチビ。
 そして、チビの言いたいことを理解したのか、アニキの顔もまたいやらしく歪む。
「おいおい、そう言う事なら……オレが最初だ」
 そう言うと、チビの「アニキずりぃ!」という声を無視して少女へゆっくりと近づいていく。
「やっ………」
 少女はしりもちをついたまま、その表情に恐怖を浮かべ、ずるずると後退する。
 このまま男達に蹂躙され、いいように利用されるのか……そんな絶望に心を支配されそうになる。

 だが、少女は森の中を逃げている時、誓った。決して諦めないと。
 決して諦めず、自分に出来ることをやる、と。
 だからこそ──

「いやあああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 普段の自分なら決して出さないような大声で、悲鳴を上げることが出来たのかもしれない。
341 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 9/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:24:19 ID:XsuIMXVM0
──漢中近郊、山中。北郷軍──

「それにしても……本当に風は『そこ』が好きなのですね」
 漢中へ向けて行軍を始めてから少しして、稟がそんなことを漏らした。
「…おぉ?……えぇ、居心地がよいものでー。安心して寝れますし」
 そういいつつ寝ていたのだろう、風が居るのは、馬に乗った一刀の前。二人乗りというやつだ。
「いや……いくらなんでも馬上で寝ないで欲しいんだが」
「……と言いますか、何故風がその様な、臣下としては相応しくない場所に乗る様になったのか、
経緯をよく知らないのですが」
 そう少々あきれ気味に言う一刀と稟。……最も、稟の言葉は二人に掛けられたものであろうが。
「稟ちゃんは前線出ずっぱりですからねー。まあ簡単に言えば、馬に不慣れだったご主人様が、
こうすれば私の指示を聞き易いんじゃないかと提案されまして」
「一刀様から言い出したのですか……そして、乗ってみたら意外と居心地がよかったと」
「まぁそう言うことですねー。……もしかして稟ちゃん、うらやましいのですかー?」
「なっ!な、何を言うのです風!」
 顔を赤くして同様する稟を見る風は、何とも楽しそうだ。
 そんな三人の様子に、周囲の兵士からも思わず笑いが漏れる。

 その時…

『いやあああああああああああぁぁぁぁぁ!!』

 どこかから悲鳴らしき声が聞こえてきた。恐らくは、近い。

 一瞬にして皆に緊張が走り、一刀は思わず悲鳴の聞こえた方へ馬を走らせようとし……
これから大事な戦だと言うのに、総大将が抜けてどうするのか。そんな思いが頭をよぎり、思い留まる。
 そんな様子を見て、稟が口を開いた。
「一刀様……その様な顔をなさるぐらいなら、一思いに行ってください。
軍の指揮ならば、私と風でも行えます」
 そして風は、一刀の顔をちらっと見ると、馬から飛び降りて自分の馬へと乗り移った。
344 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 10/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:30:56 ID:XsuIMXVM0
「……ご主人様、星ちゃんと別れるとき、そして先ほどの激にて、ご自分がおっしゃった事をお忘れですか?
 ……先ほどの様な悲鳴を聞いて、それを放っておく……
そのようなことをして、今後誰がご主人様の事を『天の御遣い』などとよびましょう?」
 二人の言葉を聴いた周りの兵士達も、次々と声をあげる。
「そうですぜ、御遣い様!」
「今の悲鳴はただ事じゃねえ!早く行かないと手遅れになっちまいます!」
 そして、そんな声を受けて──
 一刀は、強く頷いた。
「……わかった、二人は軍の指揮を頼む!皆は郭嘉、程cの両名の指示に良く従うように!」
 一刀の言葉に、周囲の兵が『応!』と、威勢のいい返事を返す。
「罠と言う可能性も捨て切れませんので、近衛から精鋭百騎、ご主人様に随伴してくださいねー」
「はっ!必ずやお守り致します!」
「よし、じゃあ行くぞ!」
 そして、先ほどの悲鳴の主を助ける為、馬を走らせて行った。


 走り行く一刀を見送った後、行軍を進める風は、
「……まぁ本来であれば、戦の直前に総大将が離脱するなど持っての他なのですがねー」
 と、ぽつりと言うと、そんな風に、稟も同意するように苦笑を返す。
「ですがまぁ……そこがご主人様らしい所なのでしょう。
……それにしても……まさか稟ちゃんに先を越されるとは思いませんでしたよ〜」
「?……先とは、何ですか?」
「ご主人様をけしかけたことですよー。助けに行けと。……稟ちゃんもすっかり甘々になったものです」
 そう言われた稟は、自分の言動を思い返しているのだろうか「ん〜……」と唸った後、
「まぁ、一刀様の甘さが移ったのでしょう。……そう言う風も同じ様な物ではありませんか?」
 と、小首をかしげる。一方の風は、
「そうですねー。……ですが、風はそんな自分は嫌いでは無いのですよ」
 くすりと笑ってそう言った。
345 名前:真√:黄巾の乱-後編之一 11/11[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:33:54 ID:XsuIMXVM0
──漢中城──

「敵はこちらの約二倍……か」

 賈駆は城壁の上から、城を半包囲する敵軍を見下ろしそう呟くと、はぁっと小さく息を吐いた。
「城攻めの定石である三倍までは行ってないとは言え……こっちの不利は変わんないか……」
 本国に援軍要請の早馬は出したとは言え、来るまで十日はかかるだろう。
何しろ敵軍の報告を受けるのが遅すぎた。
 それもあってか、兵の士気が上がらない。官軍に至っては、既に神に祈っている者もいる始末だ。
 信心深いのは結構な事だが、まずはやれることをやりきってから祈って欲しいものだ、と思う。

 そして、何よりの心配事は、彼女の仕える主であり、親友である一人の少女の事だった。

「……お願い、無事で居てよ……月」

 親友の捜索を行いたいのに、それをすることが出来ないもどかしさに、
 賈駆は歯噛みし、眼下の敵軍を睨み付ける。
「絶対に……許さないんだから……!」

 そしてその時、敵陣より戦鼓が鳴り響いた。

 ここに、漢中を巡る戦いが幕を開ける──。
347 名前:真√:黄巾の乱-後編之一[sage] 投稿日:2009/01/29(木) 03:38:47 ID:XsuIMXVM0
果たして、董仲穎はどうなるのか?
漢中を巡る戦いの行方は?

…それはまた後々に、語られることになりましょう──。


以上、お目汚し失礼しました。

多数の支援に感謝。

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