- 397 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:25:58 ID:DmICCGCt0
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ご期待に添えなくて申し訳ありません。
忘れた頃にやってくる……
北郷新勢力ルート;黄巾の乱-後編 の続き
18分割
投下しちゃってもいいでしょうか。
- 400 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:31:09 ID:DmICCGCt0
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なんとなく注意書き
・本製品にはご都合主義成分が含まれて降ります。
用法・用量を守れていない気がしますのでご注意下さい。
・相変わらず戦闘描写は薄いです。
・こんな戦術通じるわけねーじゃんと思っても気にしてはいけません。
・鼻血を吹かすタイミングがつかめません。
以上の点にご注意下さい。
では、しばしの間お付き合いくださいませ。
- 401 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 1/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:32:09 ID:DmICCGCt0
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──漢中近郊、山中──
「御遣い様、居ました!あそこです!」
兵の声に言われた方を見ると、暴れて抵抗する少女を押さえつけようとする一人の黄巾の男。
そしてそれを見物する様に囲む、二十人程の男達が目に入った。
「あいつら…!
皆、あの娘を助けるぞ!」
『おお!!』
その声でようやく一刀達に気づいた男達は、慌てて体制を整えようとするが、
やはりあまりにも行動が遅すぎた。
数分後には皆討ち取られ、一刀は馬から飛び降りると少女へ駆け寄り、助け起こす。
「大丈夫?」
少女は一瞬ビクッとしたが、一刀が先ほどまでの男達と違うことに気づき、ふっと力が抜けた。
「あの……助けてくれてありがとうございます……」
「いや、それより大丈夫?その……」
何と言えばいいのか、思わず言葉に詰まってしまった一刀の、言いたいことを察したのか、
少女はコクリと頷く。
「はい。……その、大丈夫です」
「……そっか、よかった。…っと、そうだ、俺は北郷一刀。義勇軍の将をしているんだ。
キミの家はどこ?今この辺りは危ないから、送らせるよ」
と、自己紹介をしたところ、少女はすごく驚いたような顔をした。
「あの……義勇軍の北郷様と言いますと……もしかして『天の御遣い』様ですか?」
「え?ああ、うん。……一応、そう言う風には言われてる。…けど、どうして?」
一刀がそう聞くと、少女は顔を赤くし、
「あ……いきなり失礼しました…。御遣い様のお噂は私達の所にも届いていますので……」
と言った所で、何かに気づいた顔をし、一刀に向き直るとぺこりと頭を下げた。
「あの、申し送れました…。私は董卓、字は仲穎、真名は月と言います」
「董卓って……あの!?」
名前を聞いた瞬間、思わずそう叫んだ一刀を、董卓──月と名乗った少女は驚いた顔で見ていた。
「へぅ……あの、と言うのがどういうのか分からないのですが……」
「あぁ、ごめん。…その、まぁ、天の国の事情と言うか何と言うか」
- 402 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 1/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:35:26 ID:DmICCGCt0
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そう慌てて謝る一刀に、月は「……はぁ」と、よく分からないといった雰囲気の返事を返す。
まぁ、一刀が驚くのも無理は無い。
彼の知っている歴史の“董卓”とは、似ても似つかない雰囲気の少女なのだから。
「……ってそれより、真名まで教えてくれたけど……いいの?こんな会ったばっかりの人間に教えちゃって」
教えてくれたと言う事は、呼んでも良いと言うことなのかな。…と思いつつも、
風の時に手痛い失敗をしている以上、慎重になるのは仕方の無いことか。
そんな一刀に月は微笑むと、
「はい。御遣い様は命の恩人ですし……なんと言っても『天の御遣い』ですから」
「はは…天の御遣いなんて呼ばれてても、俺自信は大した事無いんだけどね。
……じゃあ、俺のことも『御遣い様』じゃなくて一刀って呼んでよ。
『御遣い様』って呼ばれると、何かくすぐったくてさ」
そう苦笑しながら言った後、「最も兵の皆はそう言っても『御遣い様』って呼ぶんだけどね…」と続けると、
「そりゃあ御遣い様は御遣い様ですから」と、理由になってない理由を兵達が言う。
そんな兵との何気ない気の置かないやり取りに、月もクスクスと笑いを漏らした。
「……分かりました、一刀様。……あの、お聞きしてもよろしいでしょうか…?」
「何?俺に答えられることだったら」
そう気さくに言ってくれた事にほっとし、月は言葉を続ける。
「あの……お噂では一刀様達が活動してらしたのは、荊州北部だったと思うのですが…。
それと、先ほどおっしゃってました、『今この辺りは危ない』と言うのは……どう言うことでしょうか?」
「ああ……実は、荊州地方から黄巾の一軍がこちらに侵入してね。俺達はそれを追って来たんだよ。
そしてその黄巾の一軍が、今漢中の城を攻撃している。
今俺達の軍は、漢中の官軍に加勢するために動いてるんだよ」
「漢中がですか!?」
一刀の言葉に、そう今までで一番驚いた声を上げると、
「……お願いがあります」
と、一刀に改めて向き直り、ひどく真剣な目で見据える。
「私を、漢中城まで連れて行っていただけないでしょうか?」
「なっ……!」
- 406 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 3/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:39:54 ID:DmICCGCt0
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さすがに一刀も、驚いた声を漏らす。戦場になっている所に連れて行ってくれと言うのだから、
驚くのも無理はないが。……どう贔屓目に見ても、月は戦いに向いている子ではない。
「……理由を聞かせてもらえる?」
「……はい。私達は、漢中の太守様の頼みで、『視察』と言う名目で少数ではありますが、
守備兵を派遣しているのです。
この度は、そこに向かっている最中に先ほどの黄巾の一団に襲撃されてしまいまして……。
……漢中には、先触れとして私の親友の子が入っていまして、きっと私が襲われた報告もいっているでしょうから…」
「何とか合流したいと?」
コクリと頷く月。
「危険だよ?それでも……どうしても行きたいの?」
一刀がそう聞くと、月はもう一度、コクリと頷く。
彼女の意思は固い。
「はい……私は行かなければいけないんです。待ってくれている皆の仕える、董家の娘ですから」
そこまで言われて、一刀には断れるはずもなかった。
華奢で大人しい雰囲気ではあるが、さすがはこの時代に生きる、一角の人物といった所か。
「……分かった。じゃあ取りあえず俺達の本陣へ行こう」
そう言って騎乗すると、他の皆も一刀に習い馬上の人となる。
一刀は月を自分の前に乗せると、漢中へ向けて馬を進めた。
……ちなみに、一刀としては普段の風と同じ感覚で月を乗せたのだが、
一方の月は、後ろから一刀に抱きかかえられる様な状態に、始終顔を赤くしていたのは言うまでもない。
- 407 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 4/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:43:18 ID:DmICCGCt0
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――漢中城──
「うおおおぉぉ!!」
「落ちろ!落ちろーー!!」
「死ねぇぇぇ!!」
様々な怒号と悲鳴が響き渡る。
梯子をかけて登って来る敵兵に、煮えたぎった油を浴びせ、石を落とし、槍で突く。
城壁の上と下、越えようとする者と阻止する者の、激しい戦いが続いている。
そんな中、ドオォンと言う音と共に、振動が走った。
城門に丸太をぶつけ、破ろうとしているのだろう。
「……まずいわね…!」
指揮を執る賈駆の顔には、険しい表情が浮かんでいる。
彼女が予想していたよりも、敵の攻撃は苛烈であった。
敵も自分達に最早後が無い事は分かって居るのだろう。
「みんな、頑張るのよ!援軍が来るまで乗り切れば、ボクたちの勝ちは間違い無いんだから!」
彼女の言葉に、各所から『応!』と声があがるが、その士気が落ちているのは目に見えていた。
……敵の攻撃は激しく、援軍がいつ来るのか明言出来ないのだから無理もないのだが。
(ごめん、月……ボクの方がダメかもしれな……い)
つい……そんなことを考えてしまった時だ。
敵の様子を見ていた物見から伝令が入った。
「申し上げます!敵陣後方にて動揺あり!」
その報告に、賈駆は訝しげな顔をした。
今の状況で敵に動揺が走る事態など、考えられなかったからだ。
「取りあえず、斥候を放って詳細を探らせて!……仲間割れでも起こしたって言うの…?」
- 410 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 5/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:46:39 ID:DmICCGCt0
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しばらくして――
「先ほどの動揺の詳細が判明!」
「報告して!」
「はっ!敵の後方へ、強襲をかけた部隊が居る模様!数は我等の半数程、旗は十文字の牙門旗に、郭、程!」
「十文字……?」
どこかで聞いたことがある……と、思い出そうとしている賈駆に先んじて、
近くで報告を聞いていた官軍の兵士が声を上げた。
「『天の御遣い』様だ!!」
それを聞いて、賈駆も以前聞いた噂を思い出した。
十文字の牙門旗の下に義勇軍を率い、弱き者を助ける徳高き将、『天の御遣い』北郷一刀。
月がその噂を聞いて憧れてたな……などと思いながら、確か荊州北部を拠点にしているはずなのに、
なぜこんな所に?と疑問を浮かべる。
が、今戦っている黄巾軍が、元は荊州から侵入した部隊だと言うのを思い出し、
彼等はあの黄巾軍を追って来たのか、と思い至る。
そして、『天の御遣い』の軍来るの報は、敗戦に傾きかけていた軍の士気を盛り返した。
「天の御遣い様が来て下さった!」
「我等には天が着いている!勝てるぞ!」
そんな──主に官軍の──声が各所から聞こえて来る。それに面食らったのはむしろ賈駆だった。
「……劣勢の中の援軍って言うのはわかるんだけど……何この士気の上がり様は?
これじゃあまるで『天の御遣い信仰』ね……」
思わずそんなことを漏らしいた。
荊州に程近いここでは、賈駆達の居た雍州よりも、
より多くの『天の御遣い』に関する噂が流れていたのであろう。
「……けど、さすがにボク達の半数…三千程度じゃ……」
賈駆がそう言った時、黄巾軍の右翼が、後方に当たるために動いた。
- 413 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 6/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:50:34 ID:DmICCGCt0
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「稟ちゃん、敵さんの右翼が動きましたよー」
「見えてます!全軍、敵の攻撃を受け止めつつ、徐々に後退して下さい!」
『応!!』
稟の号令に応じて、突撃してきた敵右翼をいなす様に、全軍が少しずつ後退する。
それに誘い出されるように、突出してきた敵軍が伸びる形になっていく。
「……もう少し……っ」
じりじりと軍を後退させつつ、機を伺う稟。
そして……
「……今です!合図を!」
その命令で旗が振られると、右手の森の中に潜んでいた騎兵三千騎が、伸びきった敵の真ん中に突撃した。
城壁の上から戦況を確認していた賈駆にも、その様子が見て取れた。
「敵を誘い出して、前後に分断した所に横撃……基本的なだけに効果はあるわね…」
横撃を受けた黄巾の中軍に動揺が走り、混乱が生まれる──そう思った時だった。
「……なっ!左翼が動いた!?」
恐らく、今まで何度か戦って来た中で黄巾軍も学習したのであろう、
今まで左側から城を攻めていた左翼が城攻めを中断して反転、
突撃された箇所へ向かうと、突撃してきた騎兵隊へ正面からぶつかった。
「そんな、読まれた!?」
敵左翼が動いて、横撃を受け止める形でぶつかられた様子を見て、稟が歯噛みする。
「ん〜……敵さんも学習しているってことですかねー」
そう言う風の声音も、あまり芳しくは無い。
「ですがこれで膠着するのはまずいですねー。……せめてあと一手欲しいところですが」
風がそう唸った瞬間──まるで、風の言葉に答えるかのように、左手の森から戦鼓と銅鑼の音が鳴り響く。
「ふぇ…!?」
「何事ですか!?」
驚く二人の眼に飛び込んできたのは──
いくつもの十文字の旗を掲げ、戦鼓を鳴らしながら敵左翼の背後を突くように吶喊していく少数の騎兵──
一刀達だった。
- 415 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 7/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:53:57 ID:DmICCGCt0
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──それより少し前、漢中戦場付近、森──
「御遣い様に申し上げます!」
戦場の様子を見てきた兵が戻ってくると、現況を報告し始める。
「───の様でして、横撃した騎兵を敵左翼が受け止めた模様です」
その報告に、その場にいる全員の顔が曇る。
恐らく風と稟は、横撃によって敵を混乱させて、その隙に全軍で突撃をかける予定だったのだろう。
いくら多少の兵力差があろうとも、混乱し、統制の取れていない相手なら、充分に有利に戦えるものだ。
「……いかがいたしますか?」
そう聞かれた一刀は、少し唸って考え込むと、
「……皆の命、預けてくれるかい?」
覚悟を決めた顔で皆を見回し、そう訊ねた。
「無論です」
それに対し、随伴してきた近衛兵長が皆を代表してそう答える。
「……ありがとう。じゃあ説明するよ?
今必要なのは、とにかく敵を混乱させて統制を取れなくさせることだ。
だから、これから俺達は敵左翼の後方から吶喊をかける」
こちらは百騎、それに対して敵は数千だ。
その言葉に、誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「ただ、無理に敵の相手をする必要はない。さっきも言った様に、目的は相手を混乱させること。
だから、俺達は旗を多く掲げ、銅鑼や戦鼓を鳴らしながら、全速力で敵陣を横断するだけだよ。
……無理に敵を倒そうとしたって、こっちは百騎しかいないのは変えようがないんだしね」
そう説明され、皆の表情が少しだけ緩んだ。
確かに厳しい作戦であることは確かだが、敵は歩兵ばかり、しかもほとんど全員が背を向けている状況だ。
不意をついて騎馬で駆け抜けるだけならば、充分に行える可能性はある。
敵は前述の通りの状況。そこを騎兵による背後からの強襲。
たとえ少数とは言え、大混乱……とまでは行かなくても、多少の混乱はひきおこせるだろう。
- 417 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 8/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 20:57:19 ID:DmICCGCt0
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「じゃあ皆、準備してくれ」
そう言ってから、一刀は月に向き直ると、
「……月はここに隠れていて。さすがに危ないからね」
しかし月はフルフルと首を横に振る。
「……今の戦場の状況でしたら…どこに居ても余り危険は変わらないと思います。
それなら、御遣い様とご一緒したいです……」
結局──その後もしばらく説得したが、結局は一刀が折れる形になってしまった。
最後の方には、周りの近衛の者達すら、
「いいじゃないですか、御遣い様。俺達がお二人とも守ってみせますよ!」
とまで言い出したりもしていたが。
「……見かけによらず、結構ガンコだね」
そう苦笑しつつ言う一刀に、月は「へぅ……わがまま言ってごめんなさい…」と顔を赤くした。
その直後、先ほどまでの月の状況を思い出し、一度深く溜息を吐くと、自分の頭をゴンッと殴った。
「いや……考えてみれば、月にしてみれば、こんなところに一人で置き去りにされるほうが嫌だよな」
考えが足りなくてゴメンと謝り、前にある月の頭を軽く撫でた一刀は、
パンッと両手で自分の頬を軽く貼り気合を入れる。
「……よし、じゃあ皆、行くぞ!!」
そして、号令一下、吶喊した。
- 419 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 9/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:00:55 ID:DmICCGCt0
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――北郷軍、本隊――
「まったく……!無茶をなさる!」
一刀の隊が敵軍をに突っ込むのを見て、稟がそうぼやき、風も頷いて同意する。
「まったくですよー。寿命が縮まるのです……」
そう言って深く息を吐いた風は、気持ちを切り替える様に頭を軽く振ると、
「……稟ちゃん、折角ご主人様が作って下さった好機ですよ」
「……ええ。
……全軍、敵軍へ突撃をかけます!一刀様の作って下さった好機、逃してはなりません!」
稟の号令が全軍へと伝わっていき、
『おおおおおおおおおおおおおおおぉーー!!』
雄叫びと共に、北郷軍が総攻撃を開始した。
- 420 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 10/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:02:09 ID:DmICCGCt0
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――漢中城、城壁――
右手の森から現れた百騎程であろう北郷軍の騎兵隊が、敵軍の背後を突き、
勢いを殺さないように横断していく。
北郷軍の伏兵による横撃を受け止め、油断していたであろう所を背後から蹂躙され、
黄巾中軍が統制を乱したのを、城壁の上で防衛の指揮を取りながら見た賈駆は、直ぐに行動に移る。
「伝令!」
「はっ!ここに!」
「全軍へ通達して!直ぐに打って出て逆撃をかける!
いい?北郷軍のおかげで敵軍に大きな隙が出来たわ。今が反撃の好機!
……いえ、今反撃出来なければ、後はずるずると全滅するだけよ!」
『応!!』
賈駆の言葉に「待ちかねた」と言わんばかりの返事が返る。
北郷軍の奮闘を見て、皆奮い立っていた様だ。
そしてその返事を聞いて、賈駆はそんな状況では無いと思いつつも、笑みを浮かべていた。
「いい返事ね。じゃあ行くわよ!……門を開きなさい!全軍……突撃ーー!!!」
『おおおおおおおおおおおおおーーーーーーー!!!!!』
……こうして戦いは、漢中軍と黄巾軍、両軍入り乱れる乱戦へと移り変わった。
最早策などは無い。只敵を打ち倒すのみ。
- 421 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 11/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:06:14 ID:DmICCGCt0
-
結果的に、一刀達の吶喊は大成功だったと言えよう。
たかが百騎とは言え、より多くの旗を掲げ、戦鼓を鳴らしながら全速力で一丸となって疾駆する事により、
敵軍には、実数以上に見せる事が出来、一刀の狙い通り混乱を起こすことが出来た。
その結果、北郷、漢中両軍が総攻撃をかけるチャンスを作ることが出来たのだから。
「ご主人様!」
「一刀様!」
両軍入り乱れる乱戦の中、なんとか風と稟の居る本陣へと帰還した一刀に、二人が駆け寄って来た。
「風!稟!」
一刀は下馬すると、月を降ろし、駆け寄ってきた二人を迎え入れる。
「二人とも無事で良かった……」
「『無事で良かった』ではありません!それはこちらの台詞です……
一刀様自らが敵軍を突っ切るなど……何かあったらどうなさるおつもりですか!?」
「稟ちゃんの言う通りなのですよ。
確かに、ご主人様の策のおかげで、反撃する絶好の機会を得る事は出来ました。
ですが……ご主人様のお身体は、最早お一人の物ではないのです。……どうかご自愛を」
風はそう言うと、そっと一刀の手を握る。無事であることを確かめるように。
「うん……ごめん、二人とも。それと……ありがとう」
言いながら、一刀はそっと二人を抱き締めた。
「……!」
「か、かか、一刀様!?」
当然ながら、突然のことに驚く二人。
……正直言えば、一刀は怖かった。
戦いも、殺し合いも、命を狙われる事も、敵陣の只中を駆け抜けた事も。
……字何より、この乱戦の中、風と稟が本当に無事でいるかどうかが分からなかった事が。
今まで、今回ほど二人と離れて行動した事は無い。
大抵は、どちらかが側におり、別行動をとるにしても、何がしかの連絡が取れる体制は整えていた。
だから、無事を確かめる様に二人を抱き締める。
鼓動と温もり……それが確かに、二人を感じさせてくれていた。
- 424 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 12/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:09:25 ID:DmICCGCt0
-
風と稟は嬉しかった。
こうして無事を喜んでくれることが。……身を案じた相手が、こうして無事で居てくれた事が。
正直、大して長時間では無いのに、一刀と離れている間は二人とも気が気では無かったのだ。
そわそわと落ち着かなく、だからと行って、どちらかが共に行くことも出来なかったから。
……普段ならば仕方が無いと思っていた、“圧倒的な人員不足”をこれほどまでに悔やんだことも無かった。
勝たなければいけない戦に勝つ為とは言え、一刀の部隊が敵に吶喊したときは……
稟はものすごく青い顔をしていたし、風もその身体を震わせていた程だ。
そして二人は気づいてしまった。
自分達の中の“北郷一刀”が、それほどまでに、自分の心の大きな割合を占めつつあると言うことを。
……だが、それは決して不快なものではない。
それは偏に、自分が主と認めた者を、しっかりと受け止めていると言うことなのだから。
だから、二人もまた一刀の背に手を回し、抱き締めた。
万感の思いをこめて。
そして……互いの無事を喜び、安堵したことが、自分達のみならず、
周囲の兵達も、大きな隙を作ることになっていた。
それは正に急襲。……いや、特攻といってもいいかもしれない。
「ぎゃああああ!!」
断末魔の叫びと共に、一刀達の周囲を固めていた兵の一角が崩れた。
そこから現れるは、黄巾の将。
「我が名は裴元紹!そこに居るは天の御遣いと見た!!覚悟おおおおおおお!!!」
そう叫びながら、手にした戟を振り下ろす。
- 427 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 13/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:13:18 ID:DmICCGCt0
-
一刀はとっさに二人を突き飛ばし、自らも転がるように後ろへ避けた。
ズンッ!!っと言う音と共に地面に刺さった戟が、今の一撃の重さを物語っていた。
裴元紹は武器を引き抜き、一刀の方へと向き直ると戟を構える。
一刀が突き飛ばした軍師二人などには構いはしない。
将を倒せばそれで終わり、後ろの二人には自分を倒す力などありはしない。
……それをよく分かっていた。
一刀もすぐに体制を立て直すと、腰に佩いていた剣を抜く。
「一刀様!」
自分の後ろに居た月が不安げな声を発するが、彼女から離れるように、剣を構えたままじりじりと位置を変える。
ただやられるのを待つわけにはいかない。こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「抵抗できるものならしてみるがいい!!」
「くっ!!」
一合、二合と連続で繰り出される攻撃をなんとかいなし、かわしていくが、
たかだか一介の黄巾の将……とはいえ、それでも自分とは実力が違いすぎる相手の攻撃に、
じわじわと追い詰められていく一刀。
「ご主人様!!」
「一刀様!!」
風と稟の悲痛の叫びが聞こえる中、
「ふんっ!!」
「──!!」
気合をこめた裴元紹の一撃を受け止めた剣は弾かれ、一刀もまた吹き飛ばされた。
いくどか地面を転がり、何とか立ち上がろうとしたところで、その動きが止まった。
一刀の前には、武器を構えた裴元紹。
- 429 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 14/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:17:00 ID:DmICCGCt0
-
「……さあ、そろそろ覚悟を決めるがいい」
ゆっくりと武器を振り上げ、
「天とは我等が黄天のみ!!」
その凶器を振り下ろさんと力を込めるのを見て、風と凛が声にならない声を上げる。
──その横を、猛烈な勢いで通り抜ける白い影──
「死ぬがよい!蒼天の遣いよ!!!」
その叫びと共に、構えた凶器が振り下ろされ──
襲ってくるはずの苦痛と衝撃に思わず眼を瞑り、身構えた一刀だったが……
聞こえてきたのは、ガキィン!!っという金属音と──
「残念だが──我が主のお命、貴様ごときにくれてやるワケにはいかんのだよ」
聞き覚えある、声──
「なんだ貴様はああ!!」
裴元紹の叫びに、眼を開けた一刀の瞳に写ったのは──
「貴様ごとき下郎に、名乗る名など無い!!」
「がはっ!!」
正に、紫電一閃。崩れ落ちる裴元紹と──
「我が主よ……貴公の敵を打ち破る槍となるために、この趙子龍、馳せ参じましたぞ」
不適に笑う、常山の登り龍、その人だった。
- 433 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 15/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:21:02 ID:DmICCGCt0
-
「……久しぶり、星。助かったよ。……それにしても、どうしてここに?」
一刀が起き上がりながら少し呆然とそう問うと、
「うむ。伯珪殿の元を辞した後、再び各地を回ろうかと思ったのですが……
行く先々で聞こえて来るのは、『天の御遣い』の噂ばかりではないですか。
悪を挫き、弱きを助ける……そんな噂を聞いていますと、あの時の主の言葉が思い出されましてな。
……私に語って下さった想いと違わぬ道を歩き続ける。
……そんな貴公になら仕えるのも悪くないと思いまして。
ですが、いざ荊州へ着いて見れば、数日前に漢中方面へ向かったとのこと。
それならば、と急いで向かって来てみれば、今度は戦の真っ最中ではありませんか」
「……そして俺を見つけてみれば、それはもう危ない所だった、と」
つらつらと楽しそうに経緯を語る星に、一刀は軽く苦笑する。
「いかにも。……いやはや、初めて出会った時を思い出しましたぞ。
……ふふ。風ではありませんが、主の危機を救うのが、私に定められた天命なのやもしれません。
と、言うわけですので。……主よ、この趙子龍を主の幕下に加えていただくことをお認め下さいますかな?」
無論、一刀に反対する理由などはない。
念のため風と稟の方を見ると、二人もすぐに首を立てに振った。
「もちろん大歓迎だよ、星。これから……できればずっと、よろしく頼むよ」
そう言って右手を差し出す。
「……は。これからは、主の身を護り、主の敵を打ち砕く槍となりましょうぞ」
臣下の礼を取ろうとした星は、差し出された右手をみて笑みを浮かべると、
そう言ってしっかりと一刀の手を握ったのだった。
- 437 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 16/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:24:16 ID:DmICCGCt0
-
伏兵、奇襲により混乱を起こしていた黄巾軍は、裴元紹が星に討たれたのをきっかけに、
その混乱に加えて恐慌が全軍へと伝播する。
武の象徴たる将の討たれた黄巾軍と、武の象徴たる将が新たに加わった北郷・漢中軍。
勝負は既に決したと言ってもいいだろう。
──数刻後──
「……どうやら勝ったみたいね」
戦いの収束を察した賈駆は、そう一人ごちると小さく溜息をつく。
「さて……北郷軍に礼を行ったらすぐに月を捜さないと……!」
月が無事であることを信じ、軽く自分の頬を叩いて気合を入れると、
北郷軍の本陣へ向けて馬を進めた。
今はまだ強張っている彼女の顔が、歓喜に変わるのはもうすぐだろう。
- 439 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 17/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:27:28 ID:DmICCGCt0
-
「ふぅ……一時はどうなることかと思いましたがー……
何とかなったみたいですねぇ」
「ええ、特に一刀様が追い詰められた時は肝を冷やしましたが……
星が来てくれて本当に助かりましたね」
風の言葉に頷きながら言う稟は、どことなく嬉しそうだ。
と、丁度その時、早速兵の指揮をとっていた星が一刀たちの元へ戻ってきた。
兵達も、神速の槍さばきで一刀を助け、また一刀達と旧知で信頼の篤い星を受け入れたようだ。
「……私としても間に合ってなによりと言うもの」
「おや星ちゃん、お帰りなさい。大方片付いたようですねー」
「では一刀様、我等の勝利をお告げ下さいませ」
稟に促され、一度頷くと、一刀は腰に佩いた剣を抜き、空へ掲げる。
敵味方両軍合わせても3万に満たない数とは言え、多くの味方が散っていったのも事実。
けれど一刀は、決して悲しむことはしない。
悲しむのではなく、感謝する。
生き残った事への感謝を、散っていった者達への感謝を。
それが、こちらへ来てからほぼずっと戦い続けたことで学んだ事だった。
「皆……勝ち鬨を上げろおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!」
この時漢中の地は、歓喜の声に包まれたのだった。
- 440 名前:真√:黄巾の乱-後編之二 18/18[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:28:41 ID:DmICCGCt0
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この後──
北郷軍は、漢中の太守に請われ、この地に逗留することになる。
なぜか荊州からの敵の流入量が増えたが、その後も無事守りきれたのは僥倖であろう。
月と賈駆──詠は無事再会を果たし、しばしの後天水へと戻っていった。
「また会える時を楽しみにしています……」
そう言って別れ際に見せた寂しそうな笑顔は、一刀の心にずっと残ることになるだろう。
再会のその時まで。
“董卓”の名の下に訪れる過酷な運命を、皆はまだ知らない。
……月を助けてくれたから、と、詠が一刀へ真名を許したのは余談である。
これより二月としないうちに、曹操軍が黄巾の本軍を落としたとの報が、
大陸各地へ広まることになる。
こうして、大陸全土を混乱の渦へ巻き込んだ大乱は、その幕を下ろしたのだった。
- 443 名前:真√:黄巾の乱-後編之二[sage] 投稿日:2009/02/08(日) 21:31:34 ID:DmICCGCt0
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以上です。
最後は少々飛ばし気味ですが、これで北郷一刀の黄巾の乱は終わりました。
彼等がこの先どのような道を歩むか……それはまたいずれ。
では、また会える日を楽しみに。
多数の支援に感謝を。