- 487 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:13:12 ID:45fLsprm0
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私の名はメーテル……SSを書く女。
10分後に「桂花繚乱」の中編を投下するわ、鉄朗……
- 491 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 1/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:23:42 ID:45fLsprm0
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結果は、惨敗だった。
知略を尽くし、人員を揃え、備えも万全。そんな状態で挑んだ戦いは、桂花の決定的な敗北という形で幕を下ろした。
即ち――
「どうして駄目なのよっ!!」
――服を着ることは、叶わなかったのだ。
二日間の痩身努力を終えての翌朝、桂花はまだ未練がましくも、昨日着られなかった長穿と対決していた。
「もうちょっ、と。ふっ、ふっ、よっ! とおっ! はぁっ!」
足を通して長穿を持ち上げる、そこまでは良い。
だが、ひもで縛ろうとするとする段になると、途端に苦しくなるのである。
そう、心持ち、お腹が……
「いやっ! いやいやいやっ! 太ってなんかないっ! 太ってなんかいないんだからっ!」
桂花は大急ぎで長穿を脱ぐと、すぐさまそれを拾い上げて、自室の壁に向けて叩き付けた。
「そうよっ! わたしが太ったんじゃないっ! きっと縮んだのよ、服の方が縮んだんだわっ! 流石わたし、貴い華琳様にお仕えする最高の軍師だわ! そうと分かれば次の服よっ!」
それでも結果はやはり、完敗だった。
昼、桂花は肩を落としてとぼとぼと廊下を歩いていた。
朝からの書類仕事を片付けて、昼食をとるために外に出たところなのである。
昨日までは無理を通して止めていた仕事を、今日から再開したのだ。
何せ強大な曹魏の軍師ともなれば、仕事は次から次へと果てなく舞い込んでくる。二日間無理を通しただけでも、各所に滞りが発生してしまっている、それを早急に解決しなければならなかった。
しかし、
「はぁぁぁ〜……」
零れる溜息ばかりは抑えようがない。
「どうして……どうしてかしら、なぜ、わたしともあろう者がこんなことに……馬鹿食い春蘭なら兎も角、このわたしが……」
普段から間食は控え、節制に勤めてきたはずだった。
それもこれも、華琳に可愛がって貰う為。
だというのに……
- 492 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 2/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:26:26 ID:45fLsprm0
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『わたし、ブクブクに太った桂花は見たくないわ。男とデブと全身白濁人間は死ぬべきね』
心中に華琳の声が蘇ると、桂花は体をぶるりと震わせた。
(なんとか、早くなんとかしなくちゃ……っ!)
心ばかりは急いていく、だが妙案は浮かばない。そんな繰り返しで午前中は過ぎ去ってしまったのだ。
そんなことを考えながらも、手だけではしっかりとこなしていたあたりは、流石の王佐の才≠ニ言ったところだろうか。
「……沙和と真桜にもう一度……は、無意味ね。一度やって効果が無かったことをもう一度繰り返すは愚策ね。となると……」
あの場にいて、自分と同様に過剰な反応を示した者と言えば……
そこまで考えたところで、桂花は正面からぼすんと何かにぶつかった。
「ちょっと何よっ! 危ないじゃない! ちゃんと前見て歩きなさいよねっ!」
いくらイライラしていたからと言って、相手も見ずにそう言ってしまったあたり、桂花も追い詰められていたということなのかもしれない。
「なんだと!? 勝手にぶつかってきたのはそちらではないかっ!?」
「おい、姉者。今のは姉者も前を見ていなかったのではないか……?」
そうかけられる言葉は、夏侯惇、夏侯淵両姉妹のものであった。
どうやら先ほどぶつかってしまった相手は、春蘭のようだ。
「そんなことはどうでもいいっ! こやつは今、わたしのことを前しか見えない猪だと言ったのだぞっ!」
「いや、そんなことは言っていないだろう……」
いきり立つ春蘭に、それを静かに窘める秋蘭。その二人を前に、桂花はずざざとその場から跳ねるようにして後ずさった。
「しゅ、しゅしゅしゅ、しゅ、春蘭っ!?」
思い浮かべた通りの相手が突然現れ、桂花は動揺を隠せない。
「その通り! 見てわからんかっ! 我こそが華琳様の第一のしもべ、夏侯元譲だ!」
そう言って、春蘭がいかにも自然な流れですらりと剣を抜くと、白刃の煌めきに、桂花自身の顔が映し出された。
流石にこの段になると、涼しい顔をしていた秋蘭も、春蘭の肩を掴んで止めに入る。
「姉者、流石に剣を抜くのはやり過ぎだろう」
妹の静止に、じたばたと藻掻く春蘭。
「ええいっ! 放せ秋蘭っ! 放せば分かるっ! 問答無用!」
暴走する姉に、止める妹。本当に仲の良い二人である。
- 494 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 3/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:30:08 ID:45fLsprm0
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「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
だが、そんな微笑ましい光景を目にして、桂花の心を覆ったのは、なんとも屈辱的な気持ちであった。
「おっ、覚えてなさいっ! 次会ったときは、絶対ぎゃふんって言わせてあげるんだからっ!」
別に何かに負けたわけでもないのに、そう捨て台詞を残して脱兎の如く逃げ出す桂花。
「おお、やったぞ! なんだかよく分からんが勝ったぞ秋蘭!」
別に何かに勝ったわけでもないのに、そう喜ぶ春蘭の声が、背後から聞こえた。
「ん?そう言えば、桂花に会ったら言おうと思っていたことがあるはずだったんだが……」
「……姉者」
二人の前から逃げ出して、桂花は再び一人でとぼとぼと廊下を歩いていた。無論、先ほどとは違う道である。
「……駄目、ぜぇぇぇぇぇぇぇったいに駄目。本郷隊の二人なら兎も角、春蘭の手を借りるなんて、言語道断!」
既に独り言とは言えないくらい声高になってしまっていることにも気付かず、桂花は次の策を考えていた。
(こうなったら一人で体を動か……してるところを、他の人間に見られたりしたら大変じゃない!
そんなことになったら、わたしが痩せるための努力しているのを、皆に悟られてしまうわ! もっと効率よく、最小限の労力で、周囲に悟られずことを進める方法を模索しなきゃ……っ!)
そう決意を新たにしていたところで、桂花は前方に見知った人影を見つけた。
「あれは……」
十字になっている廊下を、交錯するように横から歩いてくるその眠そうな娘は、間違い無く風だった。
そのことに気がついた瞬間、桂花の脳髄に天啓とも言うべきひらめきが充ち満ちた。
(そうよっ! 軍師のことは軍師が一番分かるに決まっているじゃないっ! 脳筋達に頼る前に、最初からそうすれば良かったのよっ!
稟は兎も角、風は余り華琳様に愛して頂くことにどん欲ではないでしょうし、こと今回に至っては最適の人物じゃないっ!)
思い至るが吉日。桂花は己の名案を実現すべく、小走りに風へと駆けよって声をかけた
「ちょっと風、話があるのだけど、付き合って貰えないかしら」
- 496 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 4/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:33:32 ID:45fLsprm0
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「……ぐー」
歩きながら寝ている風に、桂花のこめかみが軽くひくついた。
「ちょっと風、起きなさいよ」
そう言って人指し指で、風のおでこをつつんと突いてみる。
「おおっ。これはこれは……最近おでぶさんになったと評判の、桂花ちゃんじゃありませんか」
目を覚ました風の一言で、こめかみが更に青筋立ったが、それでも抑えて、穏やかに桂花は言った。
「わ・た・し・は、別に太ってなんて……」
「まあ、そうゆうことにしておきましょう。さて、その桂花ちゃんが、風に一体なんのご用なのですか?」
「………」
どうにも主導権を握られてしまう。やりにくい相手だった。
「えー、あのね。あなたに頼みたいことがあるの。士官の健康や文官の運動不足を……」
「要するに、桂花ちゃんが痩せるための良い方法が無いか、風に聞きにきたのですね。勿論最初からそんなことはお見通しなのですよ」
「………」
本当に、やりにくい相手だった。
「そこまで分かっているなら話が早いわ。協力して貰えないかしら、そうね、その代わりに……」
「ああ、そのくらいのことでお代は結構。風たちは仲間じゃないですかー」
「……風」
言った風はあどけない日向の笑顔。その言葉に、桂花は不覚にも胸が熱くなるのを感じた。
「それに、こんな面白そうなこと、逃す手はないのですよー」
やはり、やりにくい相手だった。
- 497 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 5/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:36:16 ID:45fLsprm0
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そして、二人は場所を変え、今は風の私室で机を挟んで座っていた。
『どうせなら、人目に付かない場所の方が、桂花ちゃんも気持ちが楽なんじゃないですかねー』
という、風の言によるものである。
「それじゃ、最初にいくつか質問させてもらいたいのですよー」
自分の前に紙と筆を用意した風が言った。
「質問? 時間が惜しいわ、そんなことよりも早く方法を話し合いましょう」
「いえいえー。桂花ちゃん、焦っているのは分かりますが、『己を知って敵を知れば百戦危うからず』、ですよー。何事も情報収集が肝要なのです」
「……うっ」
その言葉は確かに桂花も同意するところであった。
自分が拙速過ぎたと自覚した桂花は、咳払い一つあげると、今度は大人しく風の言葉に従うことにした。
「分かったわ。質問でもなんでも答えてあげるわよ」
「はーい」
「それじゃ最初に、桂花ちゃんはお兄さんのことどう思ってますか?」
「ぶぅっ!?」
思わぬ奇襲に、下品にも関わらず、吹き出しまう桂花。
「ちょっ、それのどこが今回のことに関係あるっていうのよっ!?」
「……ぐー」
「寝るなっ!」
正面から風の両肩を掴んでがくがくと揺さぶり覚醒させる。
「おおっ。失敬失敬なのです、これはついつい関係ない質問をしてしまいました」
「真面目にやりなさいよね」
「はーい」
目を覚ました風は、改めて佇まいを直し、再び質問を始めた。
- 498 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 6/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:39:08 ID:45fLsprm0
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「では次、桂花ちゃん、最近体が重いなーって思ったりはしていませんでしたか?」
「……確かに、ちょっと重いような感じがしていたわ」
風はさらさらと綺麗な字で解答を紙に書き取りながら、続けざまに質問をする。
「はいはーい。では、最近食べる量が増えたなーと思うようなことは?」
「………」
「ことは?」
「……あるわよ。なんだか最近、無性にお腹が減るのよ、それでつい油断して、多めに食べたり、間食したり……」
「なるほどなるほど。それは何かの病かもしれませんねー」
「や、病!?」
風の口から出た単語に、思わず桂花は反芻を返してしまう。
魏にとって今が一番大事な時期である、そんなときに軍師筆頭である自分が病気などにかかっている暇はない。
「では次に、触診と体温をはかりますよー。 ちょっと服を脱いで上半身裸になって下さいー」
衝撃を受けている桂花などお構いなしに、風は万歳のポーズをして、早く脱げと急かした。
「え、ちょ、……脱ぐの?」
「そう、脱ぐのですー。その慎ましいおっぱいを風に見せるのですよー」
言って、風は手をわきわきさせる。
一方で、桂花は風が女同士で肌を重ねるのが特別好きではないと知っていたので、溜息一つ吐いて言葉に従った。
「……分かったわよ。すぐに脱ぐから待ってなさい」
「わーい」
いそいそと桂花が服を脱ぐと、風はすぐに診察に取りかかった。
間の抜けた解答をしたり、人のテンポを掻き乱す娘だが、基本的には真面目なのである。
「うーん、ちなみに桂花ちゃん、この頃血が足りないなーって思ったことは?」
「……あるわよ」
「なるほどなるほどー」
- 501 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(中編 7/7)[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:42:04 ID:45fLsprm0
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おでこや脇の下で体温を測り、お腹と胸を触ったところで所見を紙に書き留め、風はそれまでと変わらぬ口調で次の質問をした。
「最近、お兄さんとえっちぃことはしましたか?」
「……え?」
散々ペースを乱されてきた桂花だったが、流石にこれには面食らった。
しかも、先ほどまでのどこか茶化した言い方ではなく、それが真面目なものであるからして、尚更に。
「あー、その顔は図星ですかー」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「近頃、妙におっぱいが大きくなったり、張ったりしてる感じはありませんか?」
「そんな……」
――心当たりは、あった。
ここ一月の間、妙に乳房が張っているような気は、していたのだ。
「先月、よく桂花ちゃんが体調崩してたのもそのせいですかねー。あのとき、よくげーげーしてましたもんねー。華琳さまも心配して、桂花ちゃんの為に空の器用意していましたですよ」
「ちょ、ちょっと待って、まさか、それって……」
それらの言葉に、桂花の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていく。
「桂花ちゃん桂花ちゃん。最近きちんと生理来てましたー?」
「え、ちょっと、いや、生理不順で……」
「はいー。来てなかったとー」
「まさか、その……これって……」
「いやー。風は桂花ちゃんのこと、ヤればデキる子だと思ってましたよー」
「まさか……まさか……っ!」
「はいー。賢い桂花ちゃんにはこれを進呈なのですよー」
そう言って渡されたのは、一冊の本。そこに躍る表題は……
『はじめての妊娠 〜二人で出来るもん!〜』
『い、いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
この日も、場内に特大の悲鳴が轟いたのだった。
- 504 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/15(木) 22:44:37 ID:45fLsprm0
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わたしの名はメーテル……桂花は一刀の子を妊娠すべきと思っている女。
次回後編は、日曜日に投下予定よ、鉄朗……