- 863 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:50:09 ID:nG9skLJZ0
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わたしの名はメーテル……一〇分後に『桂花繚乱』の後編を投下する女。
何か気づいたら25分割にもなっていたわ。
明らかに文量配分間違っているのだけど、頑張って投下するわ、鉄郎……
- 870 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 1/25)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:00:42 ID:nG9skLJZ0
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北郷一刀の眼前では、ひどく美しい肢体が、惜しげもなく晒し出されていた。
その女性の両手は縄で後ろ手に縛られ、犬のように四つん這いの体勢をさせられている。
彼女の体は肉感的ではない、むしろ小柄だった。だが、肌は上質の絹のようななめらかさと、触れば吸い付いてくるような柔らかさをそなえ、何よりもその雪のような白さと、未成熟な体つきの背徳的な組み合わせは、いっそ芸術的とさえ言えた。
そして、そんな彼女の一刀に向かって突き出された尻は、えもいわれず扇情的で、見ているだけでむしゃぶりつきたくなってくる。
「や、やめなさいよっ。そんなに見られたら私……」
「見られたら……どうなっちゃうんだ? 桂花」
そう、一刀の前で痴態を見せているのは、荀文若その人であった。
首を曲げて、背後からのし掛かってくる一刀を潤んだ瞳で見つめながら、彼女は言った。
「そんなこと……言わせないでよ。馬鹿、馬鹿、死んじゃえ」
頬を染めての、少し拗ねたような、それでいて甘えているような声色。
そんなものを聞かされたら、一刀も我慢ができなくなってくる。
「桂花……俺、もう我慢できない……激しくして、いいか?」
「そんなこと言って……どうせするんでしょ。だったら好きにすればいいじゃない……」
そこまで言われては、一刀の理性でもいよいよ歯止めがきかなくなってしまう
一刀は火照る体に逆らわず、一息に桂花の肉に飛び込んだ。
「ああ、桂花、すごい……もうこんなに」
「いやっ、言わないでよっ! あんたがそんなふうにさせたんじゃない!」
一刀は楽しむ。咲き誇る花とも、青い果実とも違う、瑞々しくも熟れた果実の感触を。
「桂花……っ、桂花……っ!」
「や、駄目っ、一刀、そんなにされたら、私、……おかしくなっちゃう!」
重ねた体が、どんどんと熱を帯びていく。
脳内は沸騰寸前。本能が、二人を支配していく。
そうして桂花と一刀は獣となり、お互いを貪り合った。
「桂花、桂花、桂花!」
ただ一度の絶頂では止まらず。
「一刀、一刀……っ!」
何度も何度も愛し合う。
二人は解け合うようにして愛欲に溺れ――
- 876 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 2/25)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:04:32 ID:nG9skLJZ0
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『一刀殿! 起きて下さい!』
という、夢だったのサ。
「んあっ!?」
鈴の音のような涼やかな声で目を覚ました一刀の前には、一人の女性が立っていた。
なだらかだが美しい起伏を持った体に、すらりと伸びた手足、そしてきりりとした引き締まった顔つき。
無論、彼女は一刀を起こしてから抹殺しようとしている、まぬけな暗殺者などではない。
れっきとした一刀の知り合いである。
「やっと起きて下さいましたか、一刀殿。居眠りとは感心しませんね」
「ああ、ごめんごめん」
胸の前で腕を組んで、そう言った彼女の名前は郭奉孝、真名は稟という。
一刀がいる場所は別に床の上などではない、執務机の椅子である。。
「随分とお疲れの様子ですが、何ごとかあったのですか?」
「いや、別段変わったことはないよ。ただ、昨日一昨日と凪も真桜も沙和もいなくてさ。四人分の仕事を一人でこなさなくちゃいけなかったんだよ」
そう言って一刀はたははと笑った。
確かに、稟の目から見ても、そう笑った一刀の顔は普段よりも疲れているように見えた。
「なるほど、そういうことですか。しかし、気をつけてどうなるものではありませんが、あのような寝言、外に漏らさないで頂きたい。聞いていてこちらが恥ずかしくなってしまいました」
頬を朱色を差して言った稟の言葉に、一刀がぎくりと緊張し、続いて嫌な汗が噴き出てくる。
寝言。それは先ほど見ていたあの夢に関連する寝言だろうか。
一刀は羞恥に、自分の体温が二度ほど上がったような気がした。
「う……夢の中って、もしかして、寝言言ってた?」
「ええ、桂花、桂花と、うわごとのように」
「うわちゃー……」
人に恥ずかしい寝言を聞かれたという羞恥に、一刀は頭を抱えた。
- 878 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 3/25)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:06:19 ID:nG9skLJZ0
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「それにしても、毎日あれだけ罵倒されているというのに、夢の中のお相手に桂花ですか」
そう言って呆れたとばかりに溜息をつく稟に、一刀はばつが悪そうに笑った。
「うーん、だからこそ、かな。普段あるものがないと、不安になるっていうか、心配っていうか……」
「ああ、今日の朝議のことですか。確かに、桂花が姿を見せないというのは珍しい」
「うん、そうなんだよな。春蘭と桂花は、よほどのことがない限りああいう集まりに出てこないなんてこと、無いはずなのにさ。で、侍女の人に聞いてみたら、どうやら昨日の夕方からずっと部屋から出てないらしいんだよ」
「昨日から? それは確かに普通ではありませんね」
「そうだろ? 食欲が無いとか言って、ご飯も食べてないらしいんだよ。それで俺、心配になってさ。この仕事が一段落したら桂花のところに様子を見に行こうと思ってたんだ」
「ははぁ……そんなことを考えて仕事をしていたら、桂花の夢を見たということですね」
「う……」
全く持ってその通りなのだが、正面向かってそう言われると恥ずかしい。
おまけに、先ほどの夢の桂花の姿が先ほどから頭にちらついてしまって、意識せざるを得ない。
一刀が桂花と、そういうことをしたのは、かれこれ二回だけだ。だと言うのに、一刀は桂花の体の隅々までを覚えていた。
それは強烈に焼き付けられていると言ってしまって良いかもしれない。それだけ、桂花の体は美しかったのだ。
だが、これまで一刀は桂花のことをそんなふうに意識したことはなかった。
それは、桂花に罵倒されるという日常が、あまりに当たり前だったからかもしれない。
そのことが、一刀の気持ちに無自覚なままブレーキをかけ、『桂花とはそういう関係』と思い込ませていたのかもしれない。
(俺の、気持ち? 桂花に対する気持ち……、やっぱりよく分からないな。桂花とは会ったときから今みたいな感じだし。それが当たり前だし……でも、あの時の桂花は、凄かった……)
また思い出してしまい、一刀は顔を赤くした。
「全く、一体どのような夢を見ていたのやら……どのような、……どのような? 夢とは己の願望を映し出す鏡、男性が夢見る世界、それは……一刀殿が嫌がる桂花殿を強引に組み伏せ、野獣の力で……はっ、まさか一刀殿の夢の中では私も……」
- 880 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 4/25)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:09:20 ID:nG9skLJZ0
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はっと気づいた一刀が顔を上げると、稟の鼻から伸びる赤一筋が目に入った。
「ちょっ! やめっ! やめっ! 妄想ストップ! 俺の部屋を惨劇の現場にするの禁止っ!」
一刀は慌てて引き出しを開けて中から目的のものを取り出すと、立ち上がってそれを稟の鼻に突っ込んだ。
こんなこともあろうかと、前もって用意してあった鼻栓である。
「むぐ、むぐぐ……。あ、ありがとうございます一刀殿。またやってしまうところでした」
「いや……おさまってくれたならそれでいいけど……」
おかげでこっちの妄想もふっ飛んだし、とは続けない。
強烈な妄想癖。加えてこれまた強烈な鼻血体質。
目にする度に『この二つが無ければ魏で一番まともな人なのになぁ』と思う、一刀であった。
「それで、稟が俺のところにくるなんて珍しいけど、そっちこそ何かあったの?」
「ああ、いえ、それほど大したことでもないのですが、先頃提出された書類に関して、よく分からない部分がありまして、直接話を聞こうと伺ったのです」
「へぇ、どこ?」
「はい、これなのですが……」
二人は書類をのぞき込むために顔を近づけた。吐息が触れ合うほどに顔が近づく。
途端に早鐘を打つ心臓。
(うーん……稟も美人だよなぁ。桂花も黙っていれば美人だし、やっぱりこうなるのは正常な反応だよな……)
「どうかしたのですか一刀殿」
「いや、なんでもない。で、ここはね、こっちの書類と合わせてみて……」
「なるほど。こちらだけではなくこちらも参照せよということですね。ということはこちらも同じでしょうか」
「うん、そういうこと」
「ははぁ、なるほどなるほど……」
稟が納得したとばかりに頷いていたそのとき、一刀はキィという小さなもの音を耳にした。
気になった一刀がそちらを見てみると、いつ入って来たのか、部屋の中に一人の人間が、立っていた。
力なく脱力した体躯は小柄。
頭に猫耳頭巾、顔は……俯いているために影でよく見えない。
体からは陰の気というか、息苦しくなるような何かを発している。
そして何より、手には輝く抜き身の剣。
- 882 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 5/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:12:21 ID:nG9skLJZ0
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「では一刀殿、こちらの書類に関してなのですが……」
稟はまだその存在に気づいていないのか、先ほどと変わらぬ様子で一刀に話しかけてくる。
だが、一刀は何か恐ろしいものに飲み込まれて、引きつったような返事しか返せない。
近づいてくるその姿は明らかに桂花なのだが、あまりに普段と違い過ぎる。
一刀が固まっていると、それがゆっくりと、ゆらりゆらりと物音一つ立てずにこちらに近づいてきた。
一歩、また一歩。
その光景を見て、一刀は昔見た井戸の中から出てくる女のホラー映画の一場面を思い出した。
蛇に睨まれた蛙のように動けない一刀の前に、静かに桂花が立った。
そして、見せつけるようにゆっくりとその手の中の剣を振り上げる。
「……北郷一刀……」
初めて口に出された声に気がついて、稟もその場を振り返る。
だが遅い。気づいてからずっと見ていた一刀が動けないものを、今突然という形で認識した稟が動けるはずがない。
「し……」
「……し?」
それはどちらが発した声だったろうか。
後で一刀が思い出してみても、稟が発したものだったように思えた。
「死ねええええええ!」
静から動。恐るべき切り替え。
問答無用の白刃一閃。振り下ろしの斬撃が一刀を襲った。
「うわあっ!?」
自分の悲鳴と同時、ビュッという恐ろしい音が目の前を走り、剣が机に刺さる瞬間を一刀は見た。
明らかに殺す気の一撃を、一刀は何とか避けた。
それは北郷一刀個人の以前の、男の本能が事前に一刀に急を告げていたからに他ならない。
- 884 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 6/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:15:47 ID:nG9skLJZ0
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「避けるなっ! 死ねぇぇぇ!」
「い、いきなりなんなんだあああああ!?」
「まずあんたの首を跳ねる! その後切り落としたあんたの汚いものを口に咥えさせる! そしてそれを城門の上にさらし首にするっ!」
「だから一体なんなんだああああ!?」
やたらめったら剣を振り回す桂花。
必死に逃げ回る一刀。
勿論部屋の中は滅茶苦茶になっていくのだが、そんなことより今は自分の命が惜しい一刀であった。
「追い詰めたわよ……このちんの御使いめ……」
逃げ回ること数分。その言葉の通り、一刀は部屋の隅に追い込まれてしまっていた。
「あんたの首をじぃぃっくり切り落としてから、地獄でも悪さが出来ないように、あんたの汚らしいものもちゃんと切り落としてあげるわ」
じりじりとすり足で距離を詰めてくる桂花に対して、一刀に逃げ道はない。
正に危機一髪、今にも桂花が斬りかかってくるというタイミングで、一刀にとっての救世主が現れた
「落ち着いて下さい桂花! 一体何があったというのですか!?」
そう言って二人の間に割り込んできたのは、稟だった。
「……あなたには関係のないことよ。 良いからそこをどいて頂戴……」
「そうはいきません。我が曹魏の筆頭軍師殿が乱心し、天の御使いとされている一刀殿を手打ちにしたとあっては、華琳さまは部下の統率のままならないと庶人に笑われることとなりましょう。
それでも、どうしても一刀殿の首を落としたいというなら、私にもことの次第を説明してください」
その言葉に、説明して納得できる内容ならば止めはしないんだ、などと思ったことを口にすることはせず、一刀はただかくかくと頷いていた。
一刀の様子を確認した稟も返して頷き、再び桂花に向き直った。
「ご覧なさい桂花。一刀殿も事態を呑み込めていない様子。例え何か思うところがあり、それを晴らそうというのだとしても、このように何も分かっていない者を手にかけても、あなたの心は収まらないのではないですか?」
理路整然と説明する稟の言葉を聞いて、桂花から放たれていた殺気が緩む。
一刀にとって幸いなのか不幸なのか、桂花は理性を失っているというわけではなさそうだった。
そして桂花は稟の言葉をしばし吟味し、吐き捨てるように言った。
- 886 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 7/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:18:26 ID:nG9skLJZ0
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「……そうね、あなたの言うことももっともだわ。何も知らないままで、のほほんとそいつが死ぬなんて、許せない」
「ええ、そうでしょう。それで、一体何がどうして一刀殿を殺そうと思い至ったのですか?」
「それは、ね……」
桂花は間を持たせるようにして言葉を句切り、じっとりとした暗い視線で一刀の動きを縫い止めた。
一刀はこれまで華琳と一緒に何度も戦場に出ている。その中には前線に出た経験も含まれる。
そこではいつも、本気の殺意というものも肌で感じとっていた。
だが、今感じているそれは、未体験の領域だ。
一刀はこれまで、北郷一刀個人に向けての本気の殺意など、ただの一度も感じたことが無い。
「私はこいつのせいで、……もう華琳さまのお側にいられなくなってしまったのよっ!」
次の瞬間耳に聞こえたのは、ガッという音。
桂花の手にした剣が、一刀の顔のすぐ左を通り過ぎて壁に突き刺さった音だった。
それを認識した途端、冷たい汗がどっと出てくる。
「ま、まてまてまて! 話が全然分からないぞっ!? どうして桂花が華琳と一緒にいられなくなることに、俺が関わってくるんだよ!?」
「はっ、この期に及んで白々しいっ! 恥を知りなさいよねっ! これだから男なんてみんな最低の屑なのよ!」
「だから分からないっつーの!」
「いいわっ! じゃあ、脳味噌に精液しか詰まってないあんたにでも分かるように、かみ砕いて教えてあげるっ!」
桂花の叫び、そして一瞬の沈黙。
ごくりと唾を飲む音が鮮明に聞こえた気がした。
「私はね……あんたのね、あんたのせいで……孕んじゃったのよっ!」
「は、孕……」
「孕んだって……妊娠、したって、ことか……?」
「それ以外何があるって言うのよっ! 全自動孕ませ男!」
そういうことも、あるかな?、とは思っていた。
自慢ではないが、この世界にきてから一刀は結構な回数、女の子と肌を重ねていた。
それでも「かな?」程度としか思っていなかったのは、ここまで誰も妊娠したという子がいなかったからだ。
むしろ最近では、こちらの世界の子相手では子供は出来ないのではないかとすら思いつつあった。
そこにきてこの桂花の発言である。
一刀が激しく動揺したのも、無理ないことであった。
- 889 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 8/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:21:17 ID:nG9skLJZ0
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「孕ませ男って……でも、桂花とシたのって、あの一回、だけだよな……?」
「そうよっ! あんたが私を無理矢理犯した、あの一回よっ!」
「ぶっ」
最後の『ぶっ』は仲裁を買って出ていた稟のものである。
一刀が見てみれば、稟の鼻に詰まっていた鼻栓が、赤く染まっている。どうやらスイッチが入ってしまったようだ。
「で、でも桂花。全然妊娠しているようになんて見えないけど……」
「うるさいわねっ! 私だって、私だってそうだったら良いと思うわよっ、でも……でも! 心当たりがありすぎるのよっ!」
風に指摘されるまで、桂花は自身の妊娠に気がつかなかった。
いや、無意識のところで、あえて気付かぬふりをしていたのかもしれない。
だが、一度意識してしまえば後は一直線。
バラバラになっていたものが組み上がるようにして、桂花の明晰な頭脳は真実を導き出してしまった。
それはつまり、
『私、荀文若は、お腹に北郷一刀の子を身ごもっている』
ということである。
「あんたの、あんたのせいで孕んだんだからねっ! 責任とって死になさいよっ!」
一方、一刀はそう言われても茫然自失といったていである。
「桂花が……桂花が、俺の子を……」
自分が父親になったという、実感が全くわかない。
認めなくてはと思うのだが、突然すぎて心が追いついてこない。
北郷一刀は、父親になるにはまだ若かった。
そして、若いが故に、いろいろと旺盛であった。
(……うっ)
思わず前屈みになってしまう一刀。
先ほどの夢の中の桂花と、想像の中のお腹を大きくした桂花の映像が組み合わさって、思わずリアリティ溢れる妊婦姿の桂花とのまぐあいを妄想してしまったのだ。
そうとなれば起き上がるは元気の子。股間の天幕を悟られぬように前屈姿勢になるのは、男としての習性に違いない。
そして、そういった変化に人一番敏感なのが、現実の桂花だった。
- 893 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 9/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:24:22 ID:nG9skLJZ0
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「!? いやぁぁぁぁっ! こいつ今、私の腹ボテ姿を妄想して勃起したぁぁっ! 止めて近寄らないで変態っ、私を孕ませる程度では飽き足らないっていうのねっ、いやぁ! 肉奴隷にされるぅぅっ!」
剣を掴んで一歩二歩と桂花は後ずさった。
一刀としては多少なりとも状況が改善されたので良しとすべきなのだが、心中複雑であった。
一方、そんなやりとりを聞いて感極まってきたのか、稟は鼻血を垂らしながら妄想を開始していた。
「泣き叫ぶ桂花の体を、無理矢理押さえつけ、その股間の凶器で桂花殿のまだぴっちりと閉じられた肉の扉を無理矢理押し開き、有無を言わさず一息で奥まで犯した一刀殿は、
桂花の悲鳴すらも高ぶりに変えて陵辱の限りを尽くし、そして最後には桂花のまだ何も知らない無垢なる子宮に雄液を流し込んで、淫靡なる肉宮に改造して――」
「妊娠させたのよっ!」
「ぷぅっ!」
勢いよく合いの手を入れた桂花の言葉に、稟の鼻から一際勢いよく血があふれ出した。
稟の体が傾ぐ、だが何とかすんでの所で堪えたようだ。以前の稟なら撃沈していただろう、だが今ここに立っているのは一刀と出会った頃とはひと味違う、ニュー稟なのだ。
しかし限界、もう限界。それ以上すればどうなるか、一刀にはありありと分かるというのに、稟の妄想は続く。
「しかし一刀殿は、そうやって桂花の若いつぼみを淫らな肉壺に変えただけでは飽きたらず、さらなる快楽を求めて何度も何度も彼女を犯し、身も心も淫らなに堕としめて……
そうやって心と体、全ての清と純と犯し尽くされて何一つ汚されていない場所が無くなったとき、少女だった桂花は淫と媚を刻み込まれた後戻りできない背徳の――」
「肉奴隷にっ!?」
ついに、稟は己の限界を突破した。
「ぷはぁっ!」
桂花の言葉で完全に鼻栓という防波堤が決壊し、一刀がこれまで見た中でも新記録になるであろう勢いで鼻血がアーチを描いた。気のせいか、虹まで見える気がする。
「ちょっ! 何っ! いやぁっ!? 衛生兵ーっ!」
鼻血を浴びせられた桂花が悲鳴を上げる。
- 897 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 10/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:27:49 ID:nG9skLJZ0
-
その時、一刀の目には待ちに待った、活路が見えた。
「そこだあああああ!!」
稟の鼻血噴射何するものぞと二人の間に飛び込むと、自分の服が血で汚れるのも気にとめず、北郷一刀は走った。
「あっ! ちょっと!」
桂花から制止の声が飛ぶが、一刀は止まらない。
否、止まれない。止まったら、心臓を背後から、ずぶりとやられてしまうかもしれないから。
一刀は走った。
部屋から飛び出して、廊下を走る
生き延びるために、全ては生き残るために!
「あ、兄ちゃん! って、何で血まみれなの!?」
「あ、兄様! って、うわぁ、血みどろです……」
前方に季衣と流琉の姿が見えた。
だが立ち止まるわけにはいかない。
「悪いっ! 二人とも! 何かあったまた後で! あと、俺の部屋で稟が倒れてるから、誰か呼んで助けてあげて!」
そう言って二人の横をすり抜ける。
立ち止まる訳にはいかない、なぜなら立ち止まれば……
「うわぁっ、今度は桂花が血まみれで!?」
「なんだか知りませんが、兄さま早く逃げてくださーい!」
(ありがとう流琉、今はその優しさが心にしみるよ。次の機会があったらどんなわがままでも聞いてあげるからな)
そんなふうに心で泣いて、一刀は走り続けた。
- 900 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 11/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:30:44 ID:nG9skLJZ0
-
走る、走る、北郷は走る。
「どうしたのだ北郷、そんなに急いで」
「む、北郷。……血まみれではないか」
「ごめん! それどころじゃない!」
春蘭と秋蘭の横と走り抜け、脱兎の如く駆け抜ける。
背後で、
「今度は桂花ではないか……おおっ! 思い出したぞ! 桂花、懐妊おめでとう。やはり北郷の子か?」
「……姉者、それはどういうことだ?」
「ん? なんだ秋蘭、気づいていなかったのか。桂花の奴、ここ最近お腹を庇って動いていただろう。あれは子供を身ごもった者の動きだぞ」
そんな声が聞こえても、振り返らない。若さ、若さってなんだ。
(ちくしょう、春蘭、火に油を注ぐようなことを……)
そんなふうに心で泣いて、一刀は走り続けた。
廊下を抜け、厩舎を抜け、また廊下を走る。
「隊長!? そのような血まみれの格好で、一体何が……はっ!? まさか賊の侵入ですか!?」
「賊ぅ? ええ根性しとるやないか。よーし、まだまだうちも暴れたりんとこやったし、ここはそいつをがつーんと」
「やらなくていいからっ! 急いでるからとりあえず、そんだけ!」
予定より早いが、外征からもう返ってきたらしい凪と霞にも構わず、言葉を一言交わしただけで一刀は走る。
「け、桂花さまも!? 一体、この城内で何が起こっているというのですか!?」
「あー、これはアレやな。恋の鞘当て、っちゅーやつやな」
ぴったりと後ろに突いてきているらしい桂花との距離を探りながら、一刀は思う。
(よく見てくれ、桂花が手に持ってるのは鞘じゃない!)
そんなふうに心で泣いて、一刀は走り続けた。
- 901 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 12/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:33:42 ID:nG9skLJZ0
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それからも一刀は逃げ続けた。
しかし、その行く先々、
「見つけたわよ! 神妙に首かっきられなさい!」
「大人しくくびり殺されなさいっ! この全身白濁孕ませ男!」
「逃げるな強姦魔! 絶対生かしておかないんだからぁっ!」
桂花にことごとく先回りされたが、それでも足の速さでは一刀の方が上。何とか逃げることができていた。
だが、それもここまで。
「しまった! 罠か!?」
逃げ込んだ先は古い蔵の奥。
裏口から脱出しようとした一刀を襲った現実は、普段は施錠されていない筈の扉が、こんな時に限って鍵がかけられているというものだった。
「ま、まさか桂花の奴……俺がここに逃げ込むのがはじめから分かっていて事前に鍵を……」
そうとしか考えられなかった。
改めて一刀は、桂花の神算鬼謀に戦慄する。
そして聞こえる、冥府へと誘う死神の声。
うふふふふっ……遂に追い詰めたわ、北郷一刀。私の躰を穢した罪、購って貰うわよ……
残響して聞こえる桂花の声に、一刀の背筋が凍り付く。
きっとまだ桂花は蔵の前に来ただけなのだろう、猶予はまだもう暫くある。
だが、この状況は桂花によって用意周到に仕組まれた罠だ。少々足掻いてみたところで、逃げ出すことは容易くないだろう。
そう、逃げ出すのならば、桂花の予想を超えて行動しなければならない。
そんなことを考えたときだった。突然暗がりの倉庫に、闇を裂いて光が舞い込んだ。
「はーい。お困りのようですねお兄さん」
そう言って先ほどまで施錠されていた扉から、後光を背負って現れたのは風だった。
- 905 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 13/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:36:11 ID:nG9skLJZ0
-
「良い感じに追い詰められてるねぇ兄さん。おなご一人孕ませた程度でそんなに慌てるたぁ、兄さんらしくもない」
「いや、例えどんな理由でも、問答無用で殺そうとしてくる奴からは逃げようとすると思うぞ、多分」
今のは宝ャだろうか、そんなことを考えている一刀に、風は手をさしのべた。
「ささ、お兄さん、お手をどうぞ。風が逃がしてさしあげましょう」
「え? ホント?」
「ほんともほんと。本当なのですよー。お代はお兄さんのちんちん一本ってところでどうでしょうかー」
何その単位、と思いつつも、一刀は風の申し出を一も二もなく受け入れた。
「わかった。一本でも二本でも。ここから逃がしてくれるって言うなら、好きなだけあげちゃうよ」
一刀は風の差し出した手を握って、そう言った。
「おおう。お兄さんったら目の色を変えて……そんなに風の青い肉体を貪りたいのですかー」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ささっ、こちらなのですよ。ついてきてくださいなのですー」
一刀の手を取って、外へと駆け出す風。
そんな光の中で輝く彼女を見ながら、一刀はやっぱり猫だよなぁと思うのであった。
さて、そうして窮地を脱した一刀が連れてこられたのは、風の部屋だった。
女の子の部屋らしく小綺麗に片付いており、男の部屋とは大違いである。
「ささ、ごゆっくりおくつろぎください」
そう言って案内された部屋の机の上、既にお茶とお菓子が用意されているのに一刀は気づいた。
「あれ? もしかして俺が来ることが分かってたの?」
「はいー。桂花ちゃんのことですから、何となくこうなるんじゃないかなーっと思っていたのです」
何が何となくなのか分からなかったが、先に風が席に座ったので、続いて一刀も席に座った。
「それにしても、今の口ぶりだと風は、最初から知ってたように聞こえたんだけど」
「ぐー」
「寝るなっ!」
席に付くと同時に眠りに入った風の額に軽くチョップ。
「おおっ。ついつい陽気に当てられてしまいました。それで、なんのお話でしょうかー」
「風が桂花の妊娠のことを知ってたんじゃないか、って話」
- 908 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 14/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:39:13 ID:nG9skLJZ0
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「おー、今日のお兄さんは鋭いのです」
「今日のって……」
「お兄さんは素直な良い子なのですよー」
肩を落とす一刀の頭を、手を伸ばした風がぽんぽんと叩いた。
そして、さて、と言って仕切り直す風。それを見て一刀も背筋を伸ばした。
「お兄さんの言ったとおり、桂花ちゃんの妊娠を、風は知っていたのですよー。なぜなら、桂花ちゃんのおめでたを告知したのは風なのですからー」
「ぶっ!」
思わず口元に持っていっていたお茶を吹き出してしまう。
「ちなみに、自分の妊娠に気づいた桂花ちゃんが、ふらふらした足取りで風の部屋を出て行ったのはつい先日。即断即決、凄い行動力ですよねー」
それこそ茶飲み話のように軽い口調で風が喋るが、当の本人からしてみれば堪ったものではない。
だが、桂花が自分を本気で殺そうとしているという事実は、重く一刀にのしかかる
「でもさ、それってそれだけ俺の子供を妊娠したってことが嫌だったってことだよな……」
そのことが、一刀には少なからずショックだった。
「んー。……まあ、そうとも受け取れますし、そうでないとも受け取れますし」
「そうでない? 桂花の本当の気持ちは別にあるってことか?」
「さー、それは桂花ちゃんにしかわかりません。なんにしろ、桂花ちゃんは今、感情に支配されて動いているのですよー。落ち着けば、また違った反応を示すかもしれません」
「そうなのか?」
「そうなのですよー。乙女心は複雑なのです」
女心を持ち出されては一刀としても頷くことしかできない。
それは男には永久に理解不能な、深淵なるものなのだから。
「なんにしろ。ここまで来ればもう安全なのですよー。お兄さんは宝船に乗った気持ちで、時間が解決してくれるのを待てばいいのです」
俺は七福神かよ。
と、思ったそのときであった。
- 911 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 15/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:42:17 ID:nG9skLJZ0
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「何が……時間が解決する、よーっ!」
バンと大きな音。
二人が音のした方を見れば、そこには扉を蹴り開けた姿勢のままの、桂花が立っていた。
「時間が経っても、私のお腹が大きくなるだけじゃないっ! 殺すぅ、絶対殺すぅっ!」
そう叫びながらの桂花の顔は、半泣きとまでいかなくても三分泣きといった様子である。
「あんたを殺して、その後で私も……」
「まっ、待て待てっ!」
抜き身の剣を正眼に構えた桂花の言葉に、思わず一刀は立ち上がる。
それだけ、今の言葉は許容できないものだった。
確かに、華琳の命令で桂花を犯したとき、本気で桂花は嫌がっていた。それを無理矢理犯し、中出しまでして妊娠させたのは自分だ。
桂花の怒りはもっともだし、自分が復讐されるというのも分かる。
だが、だからといって自分のしたことで、桂花までもが命を絶つというのは、間違っていると思ったのだ。
しかし、そんな一刀の考えもお構いなしに、一刀と桂花との間に割り込んだものがいた。
「はいー。良い感じに修羅場ってるところ悪いのですがー。桂花ちゃん、お兄さんは風が殺させないのですよー」
風である。
一刀の前に立って、庇うように手を広げた風を見て、桂花の目が鋭く細まった。
「へぇ、風……あんたが相手になるって言うの?」
「そうなのですよー。お兄さんは風が守るのですよー」
「ふぅん……風、あなたもそこの厚顔破廉恥孕ませ男に惚れてるとか、そういうクチ?」
「いえいえー。風はお兄さんの肉奴隷二号なのですよー。ちなみに一号は桂花ちゃんです」
「なっ、なんで私がそいつの肉奴隷一号なのよ!?」
風の言葉に、桂花が顔を茹で蛸のようにして怒り始めた。
「ちなみに、肉奴隷三号は華琳さま、四号五号は季衣ちゃん流琉ちゃんなのですよ」
「ひぃぃぃぃ!? 何その偏った人選は!? あんた本当に変態過ぎよっ!」
「なお、お兄さん的には蜀の孔明ちゃん鳳雛ちゃん、馬岱ちゃん。呉の孫尚香ちゃんあたりも、触手が動くところと思われます」
「いやぁぁぁっ! 変態ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「まま、そう言わず。おおっ、肉奴隷一号よ、裏切ってしまうとは情けない」
「だから違うって言ってるでしょ!」
- 916 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 16/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:45:59 ID:nG9skLJZ0
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風の巧みな言葉で、何となく桂花の雰囲気が普段のそれに……というか、空気がいつものしまりのないものに戻ろうとしている。
そのことに気づいた一刀だったが、当然一刀が気づいたことに、桂花が気づかぬ訳がない。
「っと、危ない危ない……また調子を崩されるところだったわ」
「うーん、流石は桂花ちゃん。簡単には引っかかってくれないのですね」
「ええそうよ。これが華琳さま第一の軍師というものよ。さあ、北郷一刀、覚悟なさい。風も、そこを大人しく退かなければ、痛い目を見ることになるわよ」
暗に風も斬ると言っているその言葉に、一刀は風を押しのけて前に出た。
「お兄さん?」
最後くらいは男らしく、そう思ったからだ。
「もう良いんだ風。俺には桂花の気持ちを受け止める責任がある。いくら逃げたってそれは変わらないんだ。だから……」
その言葉に、桂花がさも面白そうにくつくつ笑う。
「大人しく私に殺されてくれるってこと? へぇ、最後の最後で潔くなったじゃない。最低最悪精液男のくせに」
「……でも一つだけ言わせてくれ。俺が桂花に殺されるのは良い。でも、その後は桂花とお腹の子供、二人は必ず幸せになってくれ」
「………。それが末期の言葉ってことでいいのね」
桂花の手の中の剣がチャキリと音を立てて、構え直される。
正眼から刃を寝かせ、横に。刃の冷たい感触が、首筋から伝わるのを感じた。
これで本当に最後。そう思うと、自然と口についで出てくるものがあった。
「じゃあもう一つだけ。桂花、大事にしてやれなくて、ごめんな」
「……? あんた、突然何を……」
「俺、桂花に凄い嫌われてたけど、俺は結構桂花のこと、好きだったよ。だから、あの時華琳の命令とはいえ、そういう関係になれたこと、嬉しいと思ってた。でも、それは自分だけの独りよがりだったんだな。そのことに、気づいてやれなくてごめん」
「………」
どこから聞いても愛の告白にしか聞こえない台詞を聞いて、桂花の顔が徐々に怒りではない感情で紅潮していく。しかし、一刀はそれに気付きもせずに言葉を重ねる。
- 917 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 17/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:48:45 ID:nG9skLJZ0
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「もしも、もしもだけど、桂花の中に俺に対しての好意、みたいのが欠片でもあったら、それはお腹の子供に向けてあげてほしい。それが父親として、今の俺に言ってやれる精一杯だから。
だから……俺の首を落としたその後で、自分の命を粗末にするような馬鹿な真似は……」
顔を真っ赤にして口をわなわなと震わせている桂花、そんな彼女に必死に桂花に語りかける一刀。
明らかに事態が収束の兆しを見せているところで、一刀の後ろにいる風が、小さな声で言った。
「あー、お兄さん。一世一代の大告白で話を丸く収めようとしているところ、大変申し訳無いのですが、もう風の策は完成してしまったようですー」
一刀が、え?という疑問を挟むまもなく、
「一体これは何の騒ぎなの! 説明なさいっ!」
そんな王者の声が響いたのは、その直後だった。
「か、かか、華琳さまっ!?」
顔を真っ赤にさせたまま、自分の背後に立っていた華琳の姿に気がついて、慌てて振り向く桂花。
「華琳……」
突如現れたこのジョーカーの存在に、半ば驚き、半ば納得する一刀。
「うーん、間に合ったというかなんというか……」
ただ一人、のんびりとそんなことを口にする風。
風の意図に気がついた桂花が、憎々しげに目の前の策士を睨む。
「風、あなた……さっきのアレは、時間稼ぎだったのねっ!?」
「ふっふっふっー華琳さまのことですから、桂花ちゃんとお兄さんが血まみれで追いかけっこをしていると聞いたら、必ず飛び出してくると思ったのですよー。あとは探しやすいように、一カ所に止まっていれば、すぐに見つけてくれる。風はそう思ったのですよー」
そう、風が言っていた『時間が解決する』というのは、こういうことだったのだ。
「まあ、何もしなくてもお兄さんが自分で解決する。っていうのは、ちょっと風の予想も超えていたのですけどねー」
「くうっ、この私が、こんな見え透いた手に引っかかるなんて……」
「お黙りなさい、桂花。一体何がどうなっているのか、今すぐ説明なさい」
烈火の如く激しい視線で、華琳がそれぞれ三人を見た。
それを目にして、最初に行動を起こしたのは桂花だった。
- 921 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 18/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:51:41 ID:nG9skLJZ0
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「申し訳ありませんっ! 華琳さまっ!」
剣を放り出して、華琳に向かって五体投地にその場で土下座する桂花。
それを見た華琳が眉をひそめた。
「桂花、一体どうしたというの?」
「申し訳ありませんっ……わたくしは、荀文若めは、もう華琳さまのお側に仕えることがかなわぬ身となってしまいました……」
その言葉を聞いても、華琳は顔色一つ変えない。ただ、眼光の鋭さだけが一段と増した。
「……どういうことかしら、桂花。その理由を述べなさい」
「はい……私は……私は、不覚にもそこにいる、北郷一刀の子を、妊娠してしまったのです」
「………」
ビシリッ、という音がどこかから聞こえたような錯覚を覚えた一刀が華琳を見ると、そこには先ほどと同じ姿のまま硬直する覇王がいた。
「華琳さまー。どうかお気を確かにー、桂花ちゃんの言っていることは現実ですよー」
その風の言葉で脳が再起動したのか、華琳の硬直が解ける。
「ど、動揺などっ、この曹孟徳の辞書には、そんな字は無いわっ!」
『無いのはどうなのだろう、辞書的に考えて』とはその時の一刀の思いである。
「桂花。それはこの私が一刀に言ってさせた、あの一回で、かしら?」
「はい……あの時に……」
「――桂花相手には、随分と名手ぶりを見せつけてくれるじゃない」
一刀にも、何となく華琳が苛立って来ているのが分かった。そして微妙にその苛立ちが自分に向けられたことも。
「そのことについては分かったわ。では、次にどうしてあなたが私に仕えることが出来なくなったに繋がるのかしら」
「それは……お腹を大きくした軍師が、華琳さまの戦列にいていいはずがありません。それに何より、あんな男の胤で孕んだ卑しい女が、華琳さまの側でお仕えするなど、許されるはずがありませんっ!」
しかしそこで。涙声が混じった桂花の言葉に、一刀がおもわず口を挟んだ。
「待てよっ! だからって自分から命を絶つなんて絶対駄目だ! 俺が桂花に殺されるのは俺が悪いから良い! でも何も悪くない桂花とお腹の中の子供まで死ぬのは、絶対におかしい! 桂花は生きるんだ、そして二人とも幸せになるべきだ!」
心の中で渦巻くものの正体が分からなくて、いきり立って、勢い立って、一刀は思わずそんなことを怒鳴っていた。
- 924 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 19/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:54:21 ID:nG9skLJZ0
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一方、顔を上げ、口をぽかんと開けてそれを聞いていたのは桂花だ。
「……ハァ? あんた何言ってんの? 死ぬ? 私が? あんたのせいで? 馬っ鹿じゃないの?」
「え……? だって、ほら、さっきも『あんたを殺して、その後で私も……』とか言ってただろ」
「何勘違いしてるのよ。あれはあんたを殺したら、その後にこの城を去るつもりってこと。なんで私があんたのせいでそこまでしなくちゃいけないのよ。精々華琳さまの目の届かぬ田舎に移り住んで、そこで子供と二人でひっそりと暮らすわよ」
「なんだ……そういうことか、良かったぁ」
憤然とした顔の桂花に、安心した弾みに体がふらついて、机に手を突く一刀。
それまで張り詰めていた場の空気が和む。
そんな中、沈黙していた華琳が口を開いた。
「桂花……そんな理由で、私の元を離れるだなんて、私は認めないわよ」
そう言って、華琳はその場に膝を突いて、床に伏していた桂花に、穏やかな声で語りかけた。
「華琳、さま……」
華琳は、そう言って自分を見つめていた桂花を、その胸に抱き寄せた。
「馬鹿な子ね……、この私がそんなことで、あなたを手放したりすると思ったの?」
「でも、華琳さま……私は、私はあんな奴の子を孕んで……」
「間違えないで、桂花。あの時一刀をけしかけたのは私よ。だから、あの時のことが原因であなたに子供が出来たのだとしたら、その責任は私にもあるの」
「そんなっ! 華琳さまは何も悪くありませんっ!」
「私がそうだと言っているのだから、そういうことにしておきなさい。それとも、あなたは私を、責任も取れないような、そんな無能者にしたいのかしら」
その言葉に、桂花は華琳に抱かれたままで、ぶるんぶるんと首を振って答えを返した。
「よろしい。それに、あなたが必要かどうかを決めるのは私よ。そして、私はあなたを必要だと思っている。それだけじゃあなたが私の元に止まる根拠にならないのかしら?」
「華琳さま……勿体ないお言葉、有り難うございます……」
「いいのよ、桂花。あなたの子供、一緒に育てましょう……」
- 926 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 20/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 21:57:47 ID:nG9skLJZ0
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桂花と華琳の間に、穏やかな……いや、むしろ百合な空気が流れる。
ただ一人、当事者でありながら、空気に入れないでいる一刀を置き去りにして。
「やー、お兄さん良かったですねー。雨降って地固まるとはこのことです」
「いや、俺に関してはなんにも固まってないけどな……」
「むー? お兄さん、仲間に入れて貰えなくて寂しいのですか? だったらこの肉奴隷二号の風で、刹那的な快楽に身を委ねてみるのは如何でしょうかー」
「それはもういいから……」
一刀は意を決してその場から一歩踏み出し、華琳達に声をかけた。
「か、華琳、桂花、ちょっといいか」
その言葉に二人が振り向く。
「あら一刀。あなたも私に抱きしめて欲しいということかしら?」
余裕の覇王は、穏やかな笑みを浮かべて。
「何よ、まだいたの変態ちんこ男。暫くしたら首を刎ねてあげるから、大人しく待ってなさいよ」
猫耳な軍師は、まだ赤い目を擦って。
二人とも、しっかりと一刀を見てくれていた。
一刀も二人をまっすぐに見据えて、心に芽生えたもの丁寧に解きほぐすようにして、言葉に乗せた。
「俺、まだ自分が父親になったってこと、よく分かってないけど……でも、それでも俺、しっかりと責任を果たしたいと思う。
あの時、桂花としてる最中に言った『ちゃんと育てる』っていうのは、嘘じゃないから……だから、俺も一緒に、桂花の子供を育てさせてほしい」
言葉は未熟だったかもしれない。
だが、二人を見ていて湧き上がってきた熱い思いの丈を、全て今の言葉に込めることが出来たと思った。
その言葉に、嘘偽りは、一つもないのだから。
- 927 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 21/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 22:01:14 ID:nG9skLJZ0
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「な、何言ってるのよっ!? この子は私とあんたの子なんかじゃないわっ、私と華琳さまの子よっ!? 分かったら大人しくそこで待ってなさいよっ!?」
顔を火のように真っ赤に染めた桂花が叫ぶ。が、一方の華琳の反応はそれとは対照的なもの。
「あら桂花。一刀を拾ってきたのは私よ、だから一刀は私のもの。あなたは私の所有物を勝手に処分してしまうような子なのかしら」
「か、華琳さまぁ……」
「それに、ね。今の一刀、凄く良い目をしているわ」
そうして、眩しいものでも見るように目をすがめていた華琳だったが、突然何かに気づいたように虚空を見つめた。
「……ああ、いいわね。うん、そうしましょう。そうと決まれば早いほうがいいわ。まずは日取りの決定からね。さあ、忙しくなるわよ、二人とも」
そう言って、華琳はすっと立ち上がる。
突然一人で納得してしまった華琳に、ついて行けない二人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「あの……華琳さま、一体、なんのことを……」
桂花がおずおずと華琳に聞くと、さも面白いことを思いついたという顔つきで華琳は答えた。
「決まっているじゃない。あなたと一刀、二人の祝言のことよ。一刀もこう言っているんだし、問題は何も無いでしょう? 良かったわね、夫のいない母親にならずに済んだわよ」
華琳の言葉に、桂花がよろりとふらつく。
「おっと、大丈夫か?」
そこを、誰かが肩を掴んで支えた。
その肩を掴んだ人間を、おそるおそる桂花は見上げる。
「ってことらしいから、今後もよろしくな」
『い、いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
三度城内に響いた桂花の悲鳴。
曹魏は今日も、平和だった。
- 931 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 22/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 22:04:28 ID:nG9skLJZ0
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終幕
「華琳さま! 華琳さまーっ!」
河原で華琳が物思いに耽っていると、遠くから桂花の呼ぶ声が聞こえた。
そちらを見れば、確かに手を振りながら走ってくる桂花の姿。
「あら、桂花。……どうかしたの?」
そう声をかける華琳に、桂花は息を切らせながら言葉を返した。
「どうしたのではありません。探しましたよ」
桂花の言ったとおり、今、城では今日の賓客である華琳の姿が見えずに騒ぎになっているのだ
やっとのことで検討を付けた桂花がここまで迎えに来たのだが、華琳の優れない顔色を見て声をかけた。
「どうかなさいましたか?」
「……少し、昔のことを思い出していたのよ」
そう言われて、思い浮かぶことは……いや、思い浮かぶ者は一つしかない。
今日の迎賓の形式である立食ぱーてぃーとやらも、その男が言っていたものなのだから。
「あの大馬鹿者のことですか……。まったく、私を孕ませるだけ孕ませて消えてしまうなんて、最悪な奴でした!」
呉に勝ち、蜀に勝ち。
蜀呉が手を結んだ最後の大決戦を勝利で飾った華琳は、華琳を長とする王の連合で、それぞれが三国を治めるという形でその覇道を完成させた。
戦って、戦って、戦い抜いて掴み取った栄光。
しかし、全てを手に入れたはずの王の隣には、ある男の姿が欠けていた。
そんな結末から、既に一年以上が経過していた。
「ふふっ、そうね……それより、私を呼びに来てくれたのでしょう? すぐに行くわ」
「はっ!」
寂しげに笑う華琳。そんな姿に桂花が胸を締め付けられるような思いを味わった、そのとき……
- 936 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 23/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 22:07:07 ID:nG9skLJZ0
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「おーいっ!」
と、そう叫んで、駆け寄ってくる者の姿があった。
「厨房で秋蘭達が大変なんだよ! それで桃香さんがもう手に負えないって大騒ぎになっちゃって……」
駆け寄ってきた青年はぐっすりと眠っている小さな子供を背負っていた。ちなみにその子の名は荀ツという。
「って、なんだ。桂花もいたのか。いいのか? お腹に二人目がいるっていうのに……」
「ちょっとっ、近寄らないでよっ! この全身亀頭男! 華琳さまがお前のせいで穢れたらどうするつもり!?」
そう言って駆け寄る一刀から距離を離して桂花。あれから桂花とは幾度となく体を重ねているのだが、こういった反応はいつまでたっても変わらない。
「ほんと、なんで戻ってきたのかしら……あんたさえ居なければ、華琳さまと二人で荀ツを育てられたのに。大体何よ、三ヶ月って。姿を消すなら百年くらい消えてなさいっていうのよ。堪え性のない男ね」
「んー、自分では堪え性ある方だと思うんだけどなぁ」
そんなふうに言いながらぽりぽりと頬を掻く一刀に、華琳が微笑みながら言った。
「あら、一刀。第二夫人にだけ挨拶して、第一夫人にはなんの挨拶も無しなのかしら。それと、遅いだけの男は嫌われるって言うわよ。男なんだから数で勝負とか言ってみたらどうかしら」
「数で勝負って……二人同時に相手にしてるのに、これ以上やったら赤玉がでるよ」
そう、北郷一刀は戻ってきた。
あの勝利の日に消滅した北郷一刀は、再びこの世界に戻ってきていた。
なぜ戻れたのかは、一刀自身にもよく分かっていない。
大局から外れた物語に、なぜ未だ止まって居られているのかはわからない。
ただ、そのことについて時折思うのは、この世界における自分の役割が、まだ終わっていないからではないかと。
即ち、あの日の言葉。
『一緒に、桂花の子供を育てさせてほしい』というあの言葉。
- 937 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」(後編 24/24)[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 22:09:42 ID:nG9skLJZ0
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華琳の夢をかなえる為に遣わされた天の御遣いである北郷一刀の物語は、あの時に確かに終局を迎えたのだ。
そうして気づけば三ヶ月後に眠る桂花の横で目を覚ました自分は、全く違う役割を与えられた、別の物語の自分なのではないかと、そう思うのだ。
今の自分は、ただ一人の女の子を幸せにするために、遣わされた御遣いなのではないかと、思うのだ。
「ほんと。なんで同じことをしているのに桂花は二人目で、私はまだ子供ができないのかしら……」
――あるいは、二人の女の子を幸せにするためかもしれないが、とにかく北郷一刀はそう思うのだ。
「さ、華琳さま。こんな奴のことは放っておいて先に参りましょう」
「そうね。あまり劉備たちを待たせても悪いわね。いきましょうか」
「おーい! 待ってくれよー、俺も一緒に……」
「うるさいわねっ! あんたはいつでも私と華琳さまの十歩後ろを歩いてくればいいのよっ! この三国一の無責任孕ませ男!」
そう……思うのだ。
終
- 945 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/01/18(日) 22:16:10 ID:nG9skLJZ0
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わたしの名はメーテル……tinamiの投稿規約を読んだら、えろす禁止と書いてあったので、そのままIEを閉じた女。
とりあえず、これでこのお話は完結。支援して下さった人達、ありがとう……
ちなみにツンデレの豆知識なのだけれど、ウィキペディアのマティーニの項目の備考欄に、チャーチルのツンデレのたしなみ方が書いてあって為になるわ。
そろそろ999が出るわ……さようなら鉄郎……