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311 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:35:54 ID:Eg+ZT37s0
わたしの名はメーテル……
人に紹介されて前スレ>>783と桂花の乱を読んで、インスピレーションを得た女。
10分ほどしたら、投下したいのだけれども、良いかしら鉄朗……
316 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:45:19 ID:Eg+ZT37s0
 それはごく普通の日々の一場面、なんの変哲もない朝議の終わり。
 そこで華琳が発した一言から始まった。

「ところで桂花、あなた……最近太ったのではなくて?」

 ――体重。
 それは常に女性の背後にあって機を伺い、隙あらば襲いかかってくる、恐るべき敵である。
 その戦闘力はと言えば、武官の筆頭魏武の大剣♂ト侯元譲と、軍師の筆頭王佐の才∽、文若の両名が硬直し、勇猛を馳せる李典、于禁らもガタガタと震えだしたことからも明白であろう。

「そ、そそそそそそ、そんなことは、決して……決してございませんっ!」
 敬愛する華琳の言葉であるということも忘れ、桂花はぷるぷると震えながら後ずさって抗弁した。
 顔色は血の気の失せた白、額からは滝のように汗が流れている。
「あら、そう……貴女がそう言うのなら信じましょう。でもね、桂花……」
「は、はい……っ」
 笑顔の華琳。桂花は引きつって応えることしかできない。

「わたし、ブクブクに太った桂花は見たくないわ」

 容赦ないその言葉から、一連の騒動は始まった。


真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」
317 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:48:03 ID:Eg+ZT37s0
「あああああああああああああああ!!!」
 自室にて、蒼天に届けとばかりに雄叫びを上げた猫耳頭巾な彼女は、姓を荀、名をケ、字を文若、真名を桂花という。
 大陸で現在最も天下に近いと噂される、魏の覇王、曹操の側近である。
「このままでは……か、かか、華琳様の……華琳様のお側にいられなくなってしまうわ!」
 桂花は青ざめた顔で、これでもかと慌てふためいている。
 原因は先の朝議の終わりに、主君曹操からかけられた言葉が原因である。

『わたし、ブクブクに太った桂花は見たくないわ。男とデブは死ねばいいのに』

 いつも通りの、気高く美しい笑顔で桂花に向けられた言葉は、余りに残酷だった。
「確かに、最近、着ていた服が合わなくなったりしたけれど……でも、でも……っ!」
(そんなにっ!? そんなにわたし、太ったの!?)
 そう思い、自分の小柄な体を見下ろした。
 ……最近苦しくなった気がする、お腹が見えた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 あの時食べた点心か、それともあの時食べた拉麺か、はたまた、あの時食べた回鍋肉か。
 悲しいことに、原因は無数に思いつく。
「馬鹿馬鹿! わたしの馬鹿! だから節制を持って、間食は辞めておきなさいとあれほど……っ!」
 後悔先に立たず。だが、今はそんなことに裂いている暇はなかった。
 そう、一刻も早く――
「華琳様のためにも……自分のためにも、痩せるしかっ!!」
 目尻に光るものを称えた桂花は、拳を天高く掲げてそう吠えたのだった。

「ということで! あなたたち、力を貸しなさいっ!」
 そう言って、どんと机を叩く桂花。
「「えー」」
 という声が上がる。
 丸机の前には、二人の女性が座っていた。午前の仕事を終えて、昼食後の一時を楽しんでいた、真桜と沙和である。
「せやかて、そない言われてもなぁ……」
「困るのー。別に沙和が言われたことじゃ……」
「太ってないっ!」
319 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:50:21 ID:Eg+ZT37s0
 再びどんと叩いて荀文若。心なしか、頭の猫耳が、横にずれていた。
「わ、わたしは別に太ったりなんてしてないんだからっ! でも華琳さまがああ仰った以上、わたしは最善を尽くす義務があるのよ!」
「せやけどなぁ、桂花。さっき沙和も言うとったけど、それ言われたのウチらちゃうし。それやのになしてウチらが付き合わなアカンのや。ああそれと、ウチも最近あんた太ったと思うで」
「確かに、桂花ちゃん、最近太ったかなーって沙和も思ってたの」
「キーーーーーーー!!」
 ダイエットとは、一人でやると、長く苦しく果てしない。
 だからこそ彼女は、道連れ……もとい、協力者を求めてこの場に赴いたのである。
 いつも一緒にいるはずの凪は、今日の午後から外征で暫く出払っている、そのことも既に調査済みであった。
「あ、あんた達だって、あの時反応してたじゃない! ガタガタブルブル震えてたの、知っているんだからねっ!」
 桂花がそう言うと、
「いや、アレは条件反射ちゅうか……」
「思わず反応しちゃっただけなの……」
 二人は頬を掻いてそっぽを向いた。
 言われた直後は己がことのようで思わず凍り付いてしまったが、冷静になって考えてみると、関わり合いになる義理はないと気づいた、ということらしい。
「それにな、残念やけど、ウチらこれから警邏の仕事があるねん」
「そうなのー。沙和たちがいないと何もできないぼけなす隊長が待ってるのなのー」
 気のない返事しか返さない二人。だが、桂花は自信に溢れた声で言った。
「ふん、そんなこと。当然分かっているわよっ! だからもう取りはからって昼から非番になるように根回しもしたし、書類も作ってあるわ!」
 そう言って机に二枚の書類を叩き付ける。それは『荀ケ・李典・于禁の三名で、軍事調練の研究を云々』『荀ケ・李典・于禁の三名で新兵器 研究を云々』ということが書かれた書類だった。
 既に後は提出するだけという形になっている書類を見て、二人は呆れたような、げんなりした声を上げた。
「仕事が速いのー」
「でも、そないなこと、ウチら抜きで決められてもなぁ」
 言って机に突っ伏す二人。午後から非番になるのは喜ばしいが、その時間で桂花に付き合わされるというのは堪ったものではない。
 二人は口を尖らせて抗議した。
322 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:53:23 ID:Eg+ZT37s0
 そのときであった、桂花の目がきらりと光ったのは。
「あんた達がそう言うであろうことも調査済みよ。そして……あんた達を納得させるのに必要なものも、調査済みなのよっ!」
 桂花はそう言うと、足下に置いてあった大きな包みを机の上に重そうに置き、その包みをほどいた。

『『こ、これは!?』』
 たちまち上がる、驚愕の声。

「こ、これは夏侯惇将軍! 凪に壊された、うちの夏侯惇将軍やないか! い、いやちゃう、これはちゃうでぇ! こいつは……夏侯惇将軍の前に三体だけ作られたけど、ふりふりが夏侯惇っぽく無いいうて闇に葬られた伝説のからくり人形、からくり夏侯惇・李里衣やないか!?」
「これ! 阿蘇阿蘇で特集されてた最新の子一揃えなのっ! まだお店で売ってないはずなのに……っ! この間からずーっと沙和、欲しいと思ってたけど、高くて手が出せそうにないから、諦めてた子達なの!」

 からくり人形と服、それらを掲げてふおおおっと気勢を上げる二人組。
 彼女たちを前に、桂花は勝ち誇った声を上げた。
「ふふん、この荀文若の知謀、脳髄に刻み込んだかしら 」
「思い知った知った! ええでぇ! 桂花、あんたの余分な贅肉、こそぎ落としたるでぇ!」
「沙和も沙和も! 桂花ちゃんのお腹の脂肪、しっかりと溶かして尽くしてあげるからなの!」
「元から太ってなんて無いけど、よろしく頼むわよっ!」

「「おー!」」
(ふふふ。単純馬鹿は乗せやすくて助かるわ)
 盛り上がる二人とは対照的に、桂花だけは策士の顔で笑っていた。

 その後、三人はすぐに修練場に出かけて、その場を貸し切った。
 修練場は屋内で、中庭と違って人目が無い。
 ここでなら思う存分―――『だから太ってなんて無いって言ってるでしょ!』―――が出来るというものである。

「それじゃまず、最初は沙和からなの!」
 そう言って沙和が取り出したのは、一冊の本だった。
325 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:56:19 ID:Eg+ZT37s0
「……本?」
「そうなの! これが、沙和の痩せるための秘密兵器、『眉裏の舞踏調練』なの!」
「眉裏……、誰?」
「はいはーい。ウチが説明したるでぇ」
 と言って、真桜が説明を買って出た。
 沙和と真桜、何かを説明させるなら断然に真桜であろうと桂花は判断し、そのまま黙って話を聞くことにする。
「これはなぁ、眉裏っちゅう光武帝に仕とった将が、作った言われてる舞踏を組み合わせた仙術の鍛錬法らしいねんけど、それが載ってる本なんやわ……」
「へぇ……」
「その中に痩せる方法、っちゅうのが載ってんのや」
「……へぇ」
 最初のへぇは上あがり、次のへぇは下さがり。
 明らかに信じていないふうの桂花であった。
「あ、信じてへん顔しとる。おっしゃ沙和、軍師さんにしっかり調練つけたるでぇ!」
「……はいはい、なんでもいいからさっさと始めて頂戴」
「了解なのー! それじゃ桂花ちゃんは沙和の動きの真似をしてなのー」
 目的を達せられるならなんでもいいかと投げやりに思い、桂花はそれに倣うことにした。
「ほな、沙和が眉裏な。うちは雪里やるわ」
「はーい、わかったなのー。それじゃ、眉裏の舞踏教練、はじめなの!」




 そんな間の抜けた沙和のかけ声から始まった調練は、桂花の予想を超えて、激しいものとなった。

 あるときは激しく太ももを上げ。
「一二、一二! その調子なのー。ハイ、膝を上げて、上げてなのー!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「もう一度!」

 あるときは寝そべりながら体を捻り。
「捻って、捻って、腹筋を使うのー」
「待って、これ、本当にきつ……」
「もう一度!」
328 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 23:59:40 ID:Eg+ZT37s0
 あるときは腕を振り回し。
「腰を落として腕を水平に振るのー、一、二、三、四、五……」
「やす、やすませ……」
「もう一度!」

 あるときは左右に拳打を繰り出す動きを繰り返した。
「素早く腕を前に突き出すのー! 一二! 一二!」
「………」
「もう一度!」



 日が西の空へと沈んだ頃。
 まるで新兵訓練の如き激しい調練を終えた三人は、街へと出ていた。
 場所は本郷隊も良くたむろしている酒家である。
「つ……疲れた……体中が、ばらばらになりそうよ……」
「沙和も体中が痛いのー。でもこれは痩せられたって感じがするの」
「せやなー。これは効いたって実感するわ」
 三人はそれぞれ調練の感想を述べた。
 沙和と真桜は体のあちこちを触りながらも、まだ余裕があるのかお互いにこやかに笑っている。
 一方で当の桂花はというと、沙和のシゴキを受けた新兵のように、力尽きて机に倒れ伏したままぴくりとも動かない。
 最初の頃はまだ泣き言を言う気力もあった桂花だったが、半ばを過ぎた当たりから口数も減り、最後の方はまるで喋らなくなり、終わると同時に力尽きて倒れてしまったのだ。
 ちなみに、汚い話、途中で何度か冗談抜きに吐いている。
 その後、残った二人が桂花を介抱し、何とか口かきける程度に回復した頃、この店に連れてきたのだ。

「なんや、そんなにへばってもうて。うちの隊長かてもうちょっと元気にしとったで」
「そうなのー。桂花ちゃんってば、ちょっと軟弱すぎなのー」
「せやな。 そんなんやったら、もし何かあったとき、自分の身も守られへんで」
 そう言ってきゃいきゃいと騒ぐ沙和と真桜。桂花はそれを聞いてがばりと体を起こすと、力の限り大声で叫んだ。
「い、いいのよ、わたしは軍師なんだからっ! 軍師たるもの、武ではなく、知略で戦うものなのよ!」
 桂花の声に、店の中から喧噪が退いた。
 一瞬の静寂。
329 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/14(水) 00:02:12 ID:yllEgY410
 しかし、それを破ったのも、やはり沙和と真桜だった。
「でもー」
「せやけど、運動もせんと、体ぶよぶよにしてもうたら世話ないやろ」
 その言葉に、桂花は肩をがくりと落とした。
「が、我慢よ桂花……。華琳様のお側に仕え続ける為じゃない。大丈夫、やれる、わたしはやれるわよ……っ!」
 俯いて暗くぶつぶつと呟く桂花。その口から漏れた言葉を聞いて、真桜が三回、桂花の肩を叩いた。
「おおっ、言うたねー。よっしゃ、今日は鋭気養って、明日に備えるでぇっ!」
「なのなのー! あっ、桂花ちゃん、ここのお勘定って……」
「……好きにしなさいよ……」
「わーい、やったーなのー!」
「おっしゃー、呑むでぇ。今日は呑むでぇ。おっちゃーん!菜譜持ってきてー!」
「………」
 夜は更けていった。


 翌日、筋肉痛に苦しむ桂花が修練場を訪れると、沙和と真桜は既に準備万全整った様子で準備運動をしていた。
「それで……このがらくたの山は、何?」
 二人一組で体を反ったり伸ばしたりしていた沙和と真桜、その二人の側には、無数のがらくたにしか見えないものが転がっていた。
「気になるかぁ〜? 気になるやろ〜」
 そう言ってしゅたっと立ち上がったのは案の定、真桜である。
「ここにあるんはな、全部、痩せるためのからくりや」
「痩せるためのからくりぃ?」
 ここでまたまた口調は下げ調子。
 まるっきり、疑ってかかる声色だった。
「ちっちっちぃ。きちんと効果あるもんばっかりやでぇ」
「そうなのー。真桜ちゃんのからくり、楽して痩せられるものが一杯なのー」
 真桜の言葉に沙和の追従。それを聞いた桂花の眉が刎ねた。
「……楽して?」
331 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花繚乱」[sage] 投稿日:2009/01/14(水) 00:05:36 ID:yllEgY410
「そうやでぇ。これなんて、腹に巻いて寝そべっとる間にみるみる痩せてくっちゅう代物や! その名も『亜武炉呂丹居久』や!」
「寝ているだけで? へえ、凄いじゃない」
「そや。まだまだあるでぇ。『亜武素雷洞』、『母泥武礼奴』……」
 そう言って嬉しそうに真桜はそれぞれの解説を始めた。
 その様子を見て、桂花はほっと薄い胸をなで下ろした。正直なところ、昨日のようなことをまた今日もやるとなったらどうしようと思っていたところだったのだ。
 筋肉痛で痛い体には『楽して痩せられる』という真桜のからくりは、相当に有り難いものであった。
(いけるわ。これなら余裕で痩せられるわっ! 体を動かさずに痩せるっ、実に軍師のわたしらしい方法じゃないっ!)
「分かったわ。それじゃ、そろそろ始めましょうかしら」
 内面では気合い十分に、表面上は素っ気なく宣言する桂花であった。



 さて、そうこうして二日目の夜。
 筋肉痛はまだ痛むが、昨日の沙和の調練に比べて格段に楽な沙和のからくりを終えた桂花は、自室の箪笥の前に立っていた。
「………これで」
 ゴクリと唾を呑む。
 今、桂花は下を隠す、薄布の下着一枚の格好である。
 そんな姿の彼女が手にしているのは、最近着られなくなったお気に入りの一着であった。
(大丈夫。痩せてる、わたしはこの二日で絶対に痩せてる。元から太ったりなんてしてなかったけど、絶対に痩せてるんだからっ!)
 らんらんと目を輝かせて、強敵を相手にした春蘭もかくやという表情で、目の前の服を睨む。
 そして桂花は、白魚のような足を上げて、
「いざ……っ、尋常に、勝負っ!」
 その服に足を通した。



『い、いやああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 一刀の部屋にまで聞こえる桂花の断末魔の悲鳴が届いたのは、その直後であった。
333 名前:メーテル[sage] 投稿日:2009/01/14(水) 00:08:56 ID:yllEgY410
わたしの名はメーテル……文字制限に苦汁を飲まされた女……
前中後編で投下を考えているので、次は失敗しないようにしようと決意を新たにすることにするわ。
それでは、次は明後日に投下予定よ鉄朗……

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