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58 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:39:26 ID:wnc2UBmM0
美羽の言うように流れ星はまさしく光速の矢のように一直線に二人に向かってくる。

「みみみ美羽さま! まずいですよぅ 逃げないとあれに思いっきりぶつかっちゃいます!」

「ななななんじゃと! 馬鹿者! なんで早よういわんのじゃ!」

「うわーん そんな事言ってないで早く逃げましょうよぅ!」

「しっ・・・しかし蜂蜜水がまだちょっと残って・・・」

「そんな場合じゃないですってばぁ!」


豪傑とは言わないまでも、七乃も袁術軍大将軍。
美羽を抱えるぐらいは造作もない。

美羽を小脇に抱えて七乃は走り出す。
当人は意識していないが、美羽の危機回避に直面し、七乃の逃げ足は神速の用兵を謳われる張遼将軍のそれに匹敵している。

「ああっ・・・妾の蜂蜜水・・・!」

「お嬢さま!舌かまないでくださいね!」

「むぐぐ!?」

轟音とともに屋根を突き破り、大浴場に流星が落ちるその刹那、
七乃はアクションスター顔負けの横っ飛びで脱衣所の扉を突き破り、美羽を抱き抱えて外に転がり出る
59 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:40:05 ID:wnc2UBmM0
浴場からは水煙が立ちこめ、轟音を聞きつけた衛兵が駆けつけてくる。

「七乃? 七乃!」

「いたたた・・・お嬢さま おケガはしてないですか?」

「うむ・・・妾は大丈夫じゃが七乃と蜂蜜水が・・・」

「私はちょっとすりむいたぐらいですよ♪ それよりビックリしましたね〜 」

「そうじゃのう。麗羽の没落を願ったに、この妾に突っ込んでお風呂を破壊し、あまつさえ蜂蜜水の残りもダメにするとは!」

「まあ〜 でもとりあえず無事でよかったじゃないですか〜 ホントに死んじゃうかと思いましたよぅ」

「うむ・・・流星にもビックリしたけど妾は七乃にもビックリであった」

「そりゃあそうですよぅ 美羽さまが死んじゃったらつまんないじゃないですか」

「ぬははは そうであろそうであろ 七乃は天晴れ忠義の臣じゃの!」

「は〜い♪ ってお嬢さま、お風呂に何か浮いてますよ! もしかしたらなんか珍しい宝物かも!」

「おお! あんな輝いておったし、そうに違いないぞよ!」
言うや否や美羽は大浴場へ駆け出してゆく。

「あっ お嬢さまずるいですよ! 待ってくださ〜い!」
七乃も美羽の後を追い大浴場へ駆け込んでいった。
60 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:42:00 ID:wnc2UBmM0
「む〜ぅ 流星が落ちてきてなんで人が浮いてるのじゃ? 七乃説明いたせ!」
浴槽に浮かぶ物体を見た美羽はあからさまに不機嫌な顔で七乃に詰めよる。

「そんなの私だって聞いたことありませんよぅ でもこの人どうします? なんか変な格好してますけど・・・」

「気を失っているようだし牢に放り込んで、明日にでも妾が直々に尋問するかのう」

「そうですね〜 それじゃあ衛兵の皆さ〜ん そこの水死体(仮)さんをふん縛って牢屋に放り込んで置いてくださ〜い」
騒ぎを聞いて駆けつけてきた衛兵は七乃の指示に従い、手早く水死体(仮)さんを縛り上げて去っていった。
61 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:45:09 ID:wnc2UBmM0
夜が明けて。


−−−−−玉座の間

「お嬢さま、そろそろ昨日の人を尋問します?」

「昨日の人って誰じゃ?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべた顔で美羽が聞き返す。
完全に忘れているようだ。

「も〜 忘れちゃったんですか? 昨日空から落ちてきた人を牢屋に放り込んであるじゃないですか〜」

数秒後、美羽は思い出してプンスカむくれて言い放つ。
「おおっ 思い出した! 妾のお風呂を壊した下手人であったな! 連れてまいるのじゃ!」



それほど待たず左右を衛兵に固められた少年が連行されてきた。
年の頃は16から18といったところか。
怯える様子はないが、威風堂々と言うわけでもない。
どちらかというと困惑が勝っているのだろう。

(私が言うのもなんだけど、あんまり強そうには見えないなぁ)

「美羽さま、彼が昨日空から降ってきた水死体(仮)さんですよ」

「死刑じゃな」

「いきなりかよ!」
左右を衛兵に固められてるので暴れる事はできないが、少年は首だけのばして全力で突っ込んでいる。
(う〜ん 流石お嬢さまなんだけど、あの噂もあるしすぐに死刑はもったいないかも?)
62 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:48:42 ID:wnc2UBmM0
「まあまあ 美羽さまぁ とりあえず彼の言い分もきいてあげましょうよ。空から落ちてくる人なんて中々いないことですし〜」

「む〜ぅ メンドいのう 七乃に任すぞよ」

「任されました♪ それじゃあ 伺いますよ〜? 正直に答えないとコレですからね♪」
首に手刀を乗せるゼスチャー・・・コレってやっぱあれだよな。
死刑って事だよな?
ていうかそんな事笑顔で言われても・・・なあ?

「私は姓は張、名は勲。張勲と呼んでくださいね。こちらは袁術さま。ここ南陽の太守さまですよ〜 粗相のないようにしてくださいね」

「太守・・・それに袁術って・・・」

「むう 七乃〜 こやつ妾を呼び捨てにしおったのじゃ!」
なんか派手な中華風?の衣装をまとったちびっこがプリプリ怒ってる。

「も〜 粗相しちゃだめですってばぁ」

「ああ・・・ごめん・・・袁術・・・さま? 俺は北郷一刀。ええと姓が北郷、名が一刀ね。」

「わかればよいのじゃ!」
エッヘンと擬音が聞こえそうなほど踏ん反りちびっ子が満足そうにうなずく。

「じゃあ北郷さん、どちらからいらしたんですか?」

「どちらからって・・・日本だよ」

「七乃、ニホンてどこじゃ?」
任せるといいながらも、俺の答えに興味を引かれたのか、さっきのちびっ子が口を挟む。

「さあ ちょっと聞いた事がないですね〜 それじゃ職業はなにを?」
64 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:52:49 ID:wnc2UBmM0
「聖フランチェスカ2年で剣道部だけど」

「せいふらんちぇ・・・なんです?」

「聖フランチェスカの学生だよ」

「学生というのは?」

「まあ みんなで集まって学校で色々な事を勉強するのが仕事といえば仕事かなあ」

「学校・・・私塾みたいなものですかね?」

「ん・・・そんなとこじゃないかと」

「ふむ〜 あまりそうは見えぬがそなた学があるのじゃな」
あらビックリと言わんばかりの顔でまじまじと覗き込んでくるちびっ子、いや袁術。
あれ・・・袁術ってどっかで聞いたことあるような。
65 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 03:55:57 ID:wnc2UBmM0
「卒業したわけじゃないし、成績だって一番ってわけじゃないからそれほどでもないよ」

「ほんとに大した事ないのう。妾なぞ考廉では最年少にして常に一番であったわ、のう七乃?」
フフンと言わんばかりに胸を張る袁術(ちびっ子)

「はい 考廉に裏口から入るところから始まり、五経博士を買収して点数水増しに、代筆代返とがんばりました♪」

「うむうむ 七乃はほんによい仕事をしおる。 我が袁家の財力と七乃の力があれば敵なしじゃな!」
ガッツポーズしながら気勢をあげる袁術(ちびっ子)

「いや・・・なんかおかしいよねそれ?」

「なんかいったかえ?」

「いや 何も」

「まあ、北郷さんが平々凡々な成績の人だというのはわかりましたけど、昨日の事は覚えてます?」

「昨日・・・寮に帰って寝た後に、気がついたら牢屋だったよ。記憶と言ってもなあ」

「む〜 空から降ってきて妾のお風呂を壊して知らぬ存ぜぬとな?」

「大体理解できたけど・・・ほんとに覚えてないんだよ。でももし俺が原因なら謝る。ごめん。」

「う・・・むぅ わかればよいのじゃ!」
語調は強いが困ったように目をそらしてる様を見ると、割と素直な子なのかなと思う。
いきなり死刑とか言うけど。
66 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:01:14 ID:wnc2UBmM0
「嘘をついてるようには見えないですが、わからない事だらけですね〜 お嬢さま」

「うむうむ 害はなさそうであるのう。これはあれじゃな。安全牌という奴じゃな」

「・・・なんか男として不本意な言われ方したみたいだが、とりあえず俺のほうからも質問いいかな?」

「はい?」
「ふむ?」

「そっちが日本をわからないように、俺も南陽といわれても今一わからないんだ。ただ『袁術』という名前には聞き覚えがある」

「ふふん そうであろそうであろ。ニホンというのがどこの片田舎かは知らぬが、
 そのようなところにも妾の名声は届いておるということじゃな!」
上機嫌で今日二度目のガッツポーズ。
いや、なんか元気いっぱいでかわいいな。

「ただその『袁術』って人は1800年も前の中国の漢帝国の南陽のあたりを治めてた人だけど、男なんだ。」

「なんじゃとー! 妾を謀ったのか!」

「いや、そうじゃないよ! ・・・ただ俺の聞いたことある話とは違うなと。」
67 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:02:53 ID:wnc2UBmM0
「どこの片田舎か知らぬがほんに無礼な話じゃ! この漢帝国には妾しか袁術はおらぬというに。」
またプリプリ怒ってる。
なんかこの子のパターンがわかって気た気がする。

「でも北郷さんのいたところの1800年前の話しなんですよね? なのに漢と南陽と袁術というのは一致してるんですよね」

「そうなんだ。だから突拍子もない事を言うと、俺は未来から過去のこの世界にきちゃったんじゃないか、とか。
 いや自分でも突拍子もない事言ってると思うけど。」

「それだけじゃちょっと信じられない話ですよね〜 他に何か北郷さんの知ってるその1800年前のお話ってありませんか? 地名でも人の名前でも」

「地名とか人の名前か・・・有名なところで言うと曹操、孫権、劉備とか」

「曹操さん、彼女は今陳留を治めてますね。孫権・・・孫堅さんの次女にいたようないないような? 劉備さんて方は聞いた事がないですね〜」

「あ、やっぱみんな女なんだ。俺の聞いた話だとみんな男のはずなんだけど。」

「む〜 他にはなにかないのかえ?」

「俺の時代のものなんだけど、衛兵さんにつかまれてると出せないんだ。」

「ふむ、離してやるがよい。」
袁術の命令で両脇を固めていた衛兵が離れた。
両手が自由になった俺はポケットから携帯を取り出して二人に見せる。
68 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:03:59 ID:wnc2UBmM0
「なんじゃこれ」
「なんですかね つやつやしてますけど」

「ちょっと待ってね」
どうしよう、通話は出来ないし・・・そうだ!

機能設定で着信音を呼び出して・・・ピロリロリ〜ン♪ピロリロリ〜ン♪

「ヒイィィィ なんじゃ!?」
「ひえ〜」
急に音がなって二人が驚い抱き合ってる。

「七乃〜 こ、これは楽器か何かなのかえ?」
「私に聞かないでくださいよ〜 私も聞いた事のない音ですよぅ」

「まあ、楽器じゃないんだけど・・・これで少しは信じられた?」

抱き合ったまま二人はコクコクとうなずく


「う〜ん 市井の噂で聞いた話があるから北郷さんがそうなのかと思ったんだけど。う〜ん」

「七乃 市井の噂とは何じゃ?」

「管輅さんていう最近有名な占い師さんの話なんですけどね。
 黒天を切り裂いて、天より飛来する一筋の流星。
 その流星は天の御使いを乗せ、乱世を鎮静す、と。」

「・・・・・・難しくてようわからんのじゃ・・・」
69 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:05:52 ID:wnc2UBmM0
「ええと 黒天が昨日の夜で、流星は昨日見た流れ星、これが天の御使いを乗せてきて乱世を鎮める。
 だから北郷さんが天の御使いなのかなぁと」

「おお そうなのかや!」
七乃の説明に袁術が驚く。

「いや、俺はそんな大それたもんじゃ・・・」

「でもあれですよお嬢さま、北郷さんが流星と一緒に現れたのは事実ですし、
 これってお嬢さまの下に天の御使いが降臨したって事になるんじゃないですか?」

「それじゃ七乃!」
「お、お嬢さま?」

「妾は今ビビッと来たぞよ。天の御使いが妾の下に降臨したのはまさに吉兆! 
 天に愛された袁家の当主たる妾の天下が約束されているという事じゃ!」

「おお〜 それでお嬢さまどうやって天下を取るんですか?」

「ふふん そんなのはその北郷とやらが妾のために
 犬馬の労を惜しまず頑張る事じゃろうて。」

「さっすがお嬢さま! 大事をなすのも全て他力本願でいいとこどり〜!
 生まれながらに王者過ぎますよぅ!」

「うむうむ もっと妾を褒めてたも!」

もう天下取ったつもりの二人を見ててちょっとクラッときた。
まあでも二人とも悪い人ではなさそうだ。
70 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:12:10 ID:wnc2UBmM0
「いや、盛り上がってるところ悪いんだけど俺の意思は・・・?」

「なんじゃ 妾の家臣に取り立ててあげるのに不満なのかや?」

上機嫌から一転むぅ〜とにらむ袁術。
いやほんとわかりやすい子だよね。

「いや、不満はないんだけどさ、他にいくとこもないし。でも何したらいいんだ俺?」

「う〜ん 何したらいいんじゃ?七乃」

「え〜と、とりあえずこの国の事を知ってもらうのが先決ですね〜 しばらくは私がお教えしますね」

「うむ、よきに計らうのじゃ。頼んだぞ北郷よ。特別に妾の真名、美羽を呼ぶ事を許すのじゃ」

「真名って?」

「自分が認めた相手や、親しい相手にだけ許す大切な名前、真の名と書いて真名ですよ。
 つまり北郷さんは美羽さまに信頼されたって事です♪」

「そんな大切な事をいいのか?」
71 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:12:54 ID:wnc2UBmM0
「大事無いぞよ。 そなたは妾の信頼に応えるがよいのじゃ!
 妾の真名は軽くはないぞよ」

「あ、私の真名は七乃です、北郷さんよろしくお願いしますね♪」

「わかった。ありがとう美羽、七乃さん。
 俺は真名ってのはないけどよかったら一刀って呼んでくれ」

「はぁい 改めて一刀さんよろしくお願いしますね♪」

「むう なんで七乃がさん付けで妾が呼び捨てなのじゃ」
口を3の字にして不満さを隠ささない美羽

「あ、ごめん。やっぱり様を付けた方がいいのかな? なんか美羽が可愛いからつい妹とかそんな気分で呼んじゃって」

「・・・ふん! 別にそのままでもよいのじゃ!そのかわり妾も一刀と呼び捨てにしてやるのじゃ!」

「ああ、構わないよ。よろしくな」


───こうして俺は袁術軍に仕官する事になった。
   袁術軍で天下とるって・・・ゲームなら上級者プレイだよね?
77 名前:21[sage] 投稿日:2009/01/11(日) 04:27:13 ID:wnc2UBmM0
「さてお嬢さま、それじゃあ湯冷めしちゃいますしもうお眠りですよ〜」

「むぅ・・・七乃〜 寝る前にお布団でこの間のお話の続きを聞かせて欲しいぞよ。」

「え〜と 秦王が山界の王様の楊端和と盟を結ぶところでしたっけ?」

「それじゃそれじゃ 妾は始皇帝大好きじゃからの♪」

「じゃあ 私も湯冷めしちゃうから、今日は美羽さまと同じお布団でそのまま寝てもいいですか〜♪」

「おお! よいぞよいぞ♪」
さっきの不機嫌さもどこへやら、美羽は機嫌の変わりやすいが、裏を返せば過ぎた嫌な事はすぐ忘れる特性がある

(フフッ お嬢さま、さっきまであんな不機嫌だったのにもうあんな笑って。 ホント面白いなぁ)
(でもさっきの人はホントに何なんだろ。多分あの流れ星があの人なんだよね?)

「まあいっか♪」

「何じゃ七乃?」

「なんでもないですよ〜 それじゃいきましょうか♪」

「うむ!」




60と61の間にこれ書いてたのに投稿ミスった・・・吊ってきます。

次回からはレス数告知してからにしますね

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