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604 名前:まほつか[sage] 投稿日:2010/01/30(土) 00:13:07 ID:GHFa/ZmU0
一壷酒氏乙であります。
玄朝秘史がかなり進んでいるので、一気に読み明かしてきます!


そんなこんなでご無沙汰をしておりました。
私事ではありますが、長期出張からようやく帰ってきてPCを久しぶりに起動させたところ、
データがものの見事にクラッシュしていました…。
『一刀、家出する ― 始まり ―』の続きも飛んでしまい、一気にモチベがダウン。
一度『一刀、家出する ― 始まり ―』を削除する事にしました。
管理人様。お手数ですが一覧からこれの削除をお願いします。
お恥ずかしい事にdlkeyを失念しました;
半端なマネをしてすみませんです。


これだけではアレなので、SSモチベを上げる為に変なテンションで書き上げた

― 一刀・帰る ―

を桃香します。

魏√ENDからの帰還ものとなっていますので、苦手な方はご注意を。

URL: http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0466



― 一刀・帰る ―





「いよいよ…か」
 目の前に広がる光を見つめ、俺――本郷一刀はそう呟いた。
「ぬぅっふ〜ん! ご主人様ってば、そんなにソコを硬くしちゃってぇん」
「ふははははは! 良きオノコのモノは硬くて、汗ばんでおって、スゴ素晴らしいのう!」
 俺の隣で二人の筋肉ダルマ――貂蝉と卑弥呼が無駄に高いテンションで話かけてくる……て言うか人の握り拳に対して変な表現をするな!
「わ、分かったから二人とも動くな! 暑苦しい!」




―――現実世界へ戻されて数年。
何としてでも華琳達の元へ帰ろうとあらゆる書物を読み漁りその手段を探した。
だが、帰りたいと言う純粋な思いは日が経つにつれ半ば意地へと変わり、
それでも手掛かりさえ掴めない現実からいつしかその意地も、徐々に諦めへと変化を始めていた。
そんな時だった。
精も根も尽き果て掛けた俺の前に二人のモンス…漢女が現れたのは。
怪しさ大爆発な二人だったけど、その名を聞いた時――正確には貂蝉の名を聞いた時、俺の心に一筋の光が差し込んだ。

 『帰りたい?』

極めつけのこの一言に俺はすぐさま二人の話に飛びついた。
……今思えば相当軽率な行動だったかもしれないな。
ともあれ、二人の協力を得て華琳達が居る世界――“外史”への扉を開くことに成功したのだった。




「それじゃあ二人とも、行ってくる」
「ご主人様気をつけてね。その中に入ったら強く“想う”こと、忘れないで?」
「ああ。分かってる」
 貂蝉から最後の忠告を受ける。
 なんでも外史と言うのは俺が華琳達と過ごした世界だけではなく、無数に存在するらしい。
 そこで外史への移動の際に強く願い・想うことで、ある程度の軌道修正が出来るのだそうだ。
「ふはははは! 本来、我らが交わるべき(二重の意味で)はこの世界ではない。良きオノコよ。我らもすぐに後を追おうぞ。先に行って待っておるが良い!」
「…なんだか寒気を感じたけど、ありがとう卑弥呼。またな!」
 二人に背を向け、ゆっくりと光の中へ歩を進める。


「華琳。皆。今、行くから」


〜 〜 〜 〜 〜 〜


「う……ここは…」
 光の中、ひたすら『華琳達に会いたい』と願っているうちに気を失ったらしい。
 気が付けば周りには木々が立ち並ぶ森の容相となっていた。
 けど、ここには見覚えがある…。
 周りを見渡してみると一つの石が目に付いた。
「そうだ…。ここは橋玄さまのお墓がある場所だ」
 一度だけ連れて来てもらった華琳の恩人が眠る場所。
 と言う事は都まではそんなに離れていないって事か。
「しかし、何故ここに…?」
 そう呟いて何気なくお墓を見つめる。
「……意外と橋玄さまが導いてくれたのかも、な」
 とりあえず無事到着出来た事に感謝し、橋玄さまに向けてそっと手を合わせる。
 願わくば、ここが俺の居た外史でありますように…。


「え…?」


 突然だった。
 背後から聞こえてきた声に慌てて振り向く。

 そこに立っていたのは妙齢の美女。

 腰まで伸びるしなやかな金髪は木漏れ日を受けてきらきらと光り、端整な顔立ちに意思の強さを感じさせる蒼い瞳。

 少女から大人の女性へと変わっていても決して見間違える筈の無い顔。

 ずっと、ずっと想い焦がれてきた女性がそこに立っていた。

「華琳!!!」
 気が付けば走り出していた。
 分かってる…。この華琳は俺の知っている…俺を知っている華琳じゃないかもしれない。
 下手をすれば一刀のもとに斬り捨てられるかもしれない。
 頭では分かってるけれど、俺は自分の行動を止める事が出来なかった。
 そして、立ち尽くしたまま動かない彼女を強く抱きしめる。
「会いたかった…! 何度も挫折したけど…何度も諦めようと思ったかも分からない…。けど、帰って来れた…帰って来れたよ…!」
 滲む涙を堪え、やっとの思いで言葉を紡ぐ。
「……………」
「…華琳?」
 だが、彼女から返ってくるのは沈黙だけ。
 一抹の不安がよぎりそっと体を離す。
 すると華琳は表情を変えないまま口を開いた。
「…あなたは誰?」
「………え? 今、なんて……。じょ、冗談だよな?」
「………」
「そんな…そんな……。 き、君は華…曹操じゃない…のか?」
「ええっと、私は…そ、曹丕よ」
「そ、曹丕…?」
 曹丕って言えば確か曹操の………
「…………え、ええええええええええええええ!!!!」


〜 〜 〜 〜 〜 〜


「……なるほど。それでやっと帰って来れた、と言う訳ね?」
「そう…なんだけどね……」
 曹丕さんは華琳から俺の事を聞いていたらしく、俺の言葉をすんなりと信じてくれた。
 そして話を聞く限りではここが俺の居た外史で間違いないみたいだ。
 でもまさか外史ではこんなに時が経っていたなんて…。
 ちなみに、曹丕さんの父親は俺ではないそうだ…。
「ねえ、いつまでそうしているつもりなの?」
「………」
「はぁ。そんなに落ち込む程、お母様の事が好きだったのかしら?」
「…娘である君の前で言うのは気が引けるけど、愛していたよ。いや、今でも愛している。だからこうして帰ってきたんだけど…さ」
 流石に母親の恋愛話は恥ずかしいのか曹丕さんの顔が真っ赤になる。
「そ、それで一刀はこれからどうしたいの?」
 火照った顔を冷ましているのか、両手でパタパタと仰ぐ曹丕さん。
 くぅ。可愛い…可愛すぎるぞ!
 姿だけじゃなく声までソックリなんて、もう拷問の域だよな…。
「ちょっと聞いているの?」
「あ、ああ、これから…か…。なあ、曹丕さん」
「何かしら?」
「俺が話した皆の予定、知ってるかな?」
「ええ、把握しているわ。それがどうかした?」
「一目だけでもいいから、皆の様子を見てみたくてね」
 曹丕さんの話では、華琳以外の皆も後継は立てず現役で働いているらしい。
 ……今更目の前に立って「帰ってきた」なんて言うつもりは無い。
 それぞれが幸せを手にしているだろうから、それを見守りたいだけなんだ。
「なんて言うか、草葉の陰からってやつさ」
 俺の自嘲気味な笑いに曹丕さんは黙って頷いてくれた。


〜 〜 〜 〜 〜 〜


「武官は勘が鋭いからちょっと遠目になってしまうわね」
「皆の実力はよく知っているからね。仕方がないさ」
 小高い丘の上に俺達は立っていた。
 そこから少し離れた場所では凪、沙和、真桜の三人が新兵の訓練に勤しんでいる。
「それじゃ、はいコレ」
「あれ? これは…双眼鏡?」
「ええ。あなたの話を基に真桜が作りあげたものよ」
「へぇ、とうとう完成したんだな。この話をした時は華り…曹操も興味津々だったもんな」
「……娘の前だからって気を使わなくても良いわ。お母様が許しているのだから、普段通り真名で呼んでも構わないわよ」
「あ、う、うん。ありがとう」
「はぁ………」
「ん? 何か言った?」
「何でもないわ」
 そう言うとそのまま明後日の方向を向いてしまった。
 やっぱりちょっとわざとらし過ぎたかな…。
 ともあれこの双眼鏡はありがたく使わせてもらおうかな。
「おお良く見える!……って、な、なんだ三人のあの尋常じゃない若々しさは!?」
 そ、曹丕さんが二十歳くらいだろうから、最低でも二十数年は経ってるはずなのに!
「将は皆あんな感じよ? 妖怪か何かかしらね?」
「そ、そんなさらりと流せる事じゃ無い気がするんだけど…」
 でも実際に若さを保ってるんだから、し、仕方がない……のか?
 うん。仕方がないって事で納得しよう。うんうん。仕方がない仕方がない………。
 と、とりあえず自分の中で無理やり決着を付け、もう一度双眼鏡を構える。
 相変わらず三人とも仲が良いな。
 笑ったり、ずっこけたり…楽しそうで何よりだ。
 ……お。いよいよ陣形を組むみたいだな……って、なんだあの形は!?
 多少いびつではあるけど確かに

    一  刀

 と言う形を形成している。
「な、なんだありゃ?」
「…さしずめ“御遣いの陣”と言った所かしら」
 曹丕さんが呆れてる…
 いくら俺でもあれは無いと思うし…。
「まさか、俺が居た時もああやって遊んでたんじゃないだろうな…?」
「さてね。それじゃ時間も惜しいし、次に行きましょうか」
「分かった。それじゃ、凪、沙和、真桜。幸せにな…」


〜 〜 〜 〜 〜 〜


 次は春蘭、秋蘭、季衣、流琉ら親衛隊がいる演習場へとやって来たんだけど…。
「ちょ、えええええええええ!?」
「ちょっと一刀! 静かにしなさい!」
「だ、だって! 季衣と流琉はどんなに頑張っても十代くらいにしか見えないんだけど!?」
 そう、これまた遠目に演習を見ていたんだけど、季衣と流琉が若すぎるのだ。
 それを言ったらさっきの三人と春蘭に秋蘭も異常なんだけど、二人は群を抜いている。
「我が魏軍、七伝説の一つよ? それで納得しなさい」
「何その七伝説って!? これクラスのが後六つもあるの!?」
「だから落ち着きなさい。 いい加減静かにしないと見つかるわよ?」
「うっ…す、すまない」
 曹丕さんの言葉でなんとか平静を取り戻…せないので、装う。
 気か? 気でも操ってるのか? それともこの世界の人間は某戦闘民族なのか?
「…何故かしら。 あなたがとても失礼な事を考えている様に感じるのだけれど?」
「い、いやいや! 何でもないです!」
 ジト目で睨み付けてくる曹丕さんから慌てて目を逸らす。
(あ、あの迫力は母親譲りだ! 絶対!)
 背中に冷や汗をかきつつ双眼鏡を覗き込むと、先ほどまで演習を行っていた親衛隊がいつのまにか姿を消していた。
 その場に残っているのは春蘭と秋蘭だけ…しかも春蘭は何故か怒ってるみたいだし。
「なんだ…? 一体どうしたって言うんだ?」
「さあ?」
 まだ俺に疑念を抱いているのか、曹丕さんの態度は素っ気無い。
(うう…。そんな鋭い所までソックリなんですね…)
 そんな事を考えていると、季衣と流琉が何かを担いで戻って来た。
 あれは…………俺ぇ!?
「お、俺だ! 俺がいる!」
 チラリと横に目をやると、曹丕さんも大きく目を見開いて絶句している。
 あんなの(多分、華琳のと同じ1/1人形なんだろうけど)があるなんて知らなかったのだろう。
 しかし、あの人形で何をするつもりなんだ?
 人形を立たせ、季衣と流琉が人形を挟み込む様にしながら少し離れた位置に立ち、走り出した。
 そのまま……タックル!? からのさば折!!?
 じょ、上半身と下半身が千切れそうなんですけど…。
 そこへ秋蘭が近づいて…きょ、強烈なビンタが一閃! 俺(人形)の首がくるくる回ってる…。
 すると今まで黙って握り拳を作っていた春蘭が動いた。
 身を低く屈め、大地を蹴り、勢いを付けてから繰り出されるアッパーは正確に俺の…
「あぁああぁああ!」
「……何故あなたが痛がるのかしら?」
 股間を押さえてプルプル震える俺に、曹丕さんの呆れた声が浴びせかけられる。
「い、痛くないけど、痛い…痛すぎる…」
「はぁ…」
 

〜 〜 〜 〜 〜 〜


 城への移動中、ふと気付いた事を訪ねてみた。
「そういえば霞の姿が見えなかったけど…」
「霞はね、張三姉妹と旅に出ているわ」
「…そっか。本当に行ったのか」
「知っていたの?」
「ん、そんな話をした事があるんだ。霞は旅に、三姉妹は歌で全国制覇をしたいってね」
「そう…………」
「どうかした?」
「何でもないわ。ただ、元気にしているかなって」
「大丈夫さ。なんたってあの霞がついてるんだ。それに三姉妹の元気の良さ、知ってるんだろ?」
「ふふ。確かにね」
「霞達にも会いたかったけど、仕方がないか」
 ふと空を見上げる。
 どこまでも広がるこの空の下、元気にしているであろう彼女達へ、少しの間思いを馳せる…。


〜 〜 〜 〜 〜 〜


 城の隠し通路から城内へ入った俺と曹丕さん。
 魏が誇る名軍師三人が卓を囲み話し合っているのを見つけ、少し離れた茂みに身を隠す。
「………なあ」
「何かしら?」
「魏って不老の薬でも出回っているのか…? それともゴッドハンドエステティシャンでもいるのか?」
「さあ? 私の知る限り前者みたいな怪しい薬は出回っていないし、“ごどはんどえすててぃしゃん”なんて聞いた事もないわ」
「違う! ゴッドハンドエステティシャンだ!」
「ご、ごど…?」
「ゴッドハンドエステティシャンだ!」
「ああもういいわ。とにかく今見ている事が全てよ」
 なんと言うか、予想通り軍師の三人も『尋常じゃない若さ』スキルを所持していた。
 外史ってところはもう色々とすごいな。
「それにしてもなんだか表情に余裕があるな」
「誰かさんが残していった知識のお陰で治安も良いし、国の整備も順調だから楽が出来ているのよ」
「あはは。褒められてるような、責められてるような…」
 でも俺なんかの意見が役に立っているのなら嬉しいな。
 しかし桂花のヤツ、あの歳でもネコミミフードなのか。変わらない奴。
 …お? なんかプルプルと震えてる?
 そんな桂花に稟が何やら話しかけて…って、うお! いきなり鼻血噴いた!? まだ治ってなかったのか!
 そして例によって例の如く風がとんとんしに稟の隣へ…移動……し………
「…一刀?」
「……………」
「ねぇ一刀。どうしてソコが膨らんでいるのかしら?」
「…え? あ!」
「ちょっと貸しなさい!」

 ………………
 
 ………………

 ゆっくりと曹丕さんがこちらへ顔を向ける。
 俺、土下座。
「すみませんすみませんすみませんすみません」
「……行くわよ」
「は、はい」

 まばゆいばかりの 白 でした。
 本当にありがとうございました。


〜 〜 〜 〜 〜 〜


 城から出て橋玄さまのお墓まで戻ってきた時、もう日は傾きかけていた。
 夕暮れ時の少しだけ冷たい風が木々を揺らしている。
「ん〜〜〜はぁ…。曹丕さん、案内してくれて本当にありがとう」
 ゆっくりと背を伸ばし、お礼の言葉を伝える。
「これで満足したのかしら?」
 曹丕さんは真剣な眼差しでこちらを見つめている。
 ここまで頑張って明るく振舞ってきたけれども、それもここまでみたいだ。
 ここでどんなに言葉を着飾ったとしても、この瞳の前では俺の気持ちなんて簡単に見透かされてしまうだろう。
 だから素直に今の気持ちを答える。
「覚悟していたとはいえ、辛いよ」
「…そう」
「ああでも、皆の中で俺が“重荷”になっていないって事には安心したよ。殆どネタ扱いされてたけどね」
 苦笑。
「でも…その気持ち以上に寂しさが込み上げてきてね…。胸が張り裂けそうだったよ」
「……お母様に会わない理由もそれかしら?」
 途端に鼓動が速く、大きく脈打つ。
 そう。俺は華琳とは会わずにここまで戻ってきていたのだ。
「…流石は華琳の娘さんだ。正解だよ」
 自分の胸の辺りをぐっと掴む。
「そりゃ華琳が幸せでいてくれるのなら本望さ。けでね、今でもこんなに苦しいんだ…。俺には…もうこれ以上耐えられそうにない」
 後半は声が少し震えてしまった。
 そんな俺を見かねてか、曹丕さんは背を向け肩を震わせだした。
「ま、まぁこうなったのも俺が悪いんだし、気にしないでよ!」
 こんなバカな俺のせいで曹丕さんに辛い思いをさせる訳にはいかない。
 空元気でもいいから、重々しい空気を振り払わないと!
「きょ、今日はさ! 俺なんかの為に魏のお姫様を付き合わせちゃって悪かったね! せっかくの休みを使ってもらって本当に感謝してるよ!」
「……ねぇ一刀」
「ん、何かな?」
「良い事を教えてあげるわ」
 背を向けたまま、今までの雰囲気とは打って変わって、途端に明るい口調で話しかけてくる曹丕さん。

「この魏に、姫なんて存在しないのよ」

「………えーっと、ゴメン。意味が良く分からないんだけど? 君は魏の王・曹操の娘、曹丕さん…だよね?」
 金髪を翻しながらくるりと回り、こちらを向いた彼女は…満面の笑みだった。
「それは嘘よ♪」
「は? いや、華琳は結婚して娘を…」
「だから嘘よ♪」
「…え? え? ここは二十年後の魏で…」
「違うわよ♪ まぁ確かに時間はそこそこ経っているけどもね」
「……皆、所帯を持ってて…」
「それもう・そ♪ あ、でも霞達の旅は本当よ」
「そんな……なら…なら、君は…」
「…私は?」
「か、か…り……ん……」
 もう、言葉が出ない…涙が…止まらない…。
「…ええ。そうよ」
 心の奥底まで響く優しい声…。それと同時に俺を包む柔らかな温もり…。
 その心地良い温もりの中で、俺はただただ涙を流し続けた…。


〜 〜 〜 〜 〜 〜


「しかし酷いなぁ。ずっと騙してたって事だろ?」
 まぶたをゴシゴシこすりながら華琳へ文句をぶつける。
「元はと言えば、勝手に消えた方が悪いと思うのだけれど?」
「うっ。け、けど俺だってああなるなんて知らなかったからさ…」
「それにしては達観してる風だったわね?」
「か、華琳だって落ち着いてたじゃないか」
「私は…王だもの。下の者に弱い姿を見せる訳にはいかないわ」
「何を今更! 華琳の“弱い所”ならいくつも知ぐはっ!!」
 俺の腹に突き刺さる華琳の拳。
「ぐぇ…! は、速すぎて、パンチが、見えなかったんですけど…」
「…帰還早々、死にたいのかしら?」
「み、耳まで真っ赤にしといて…よくやる……」
「う、うるさい!」
「ふ…ふふふ……。その様子だと、俺以外の男は、ま、まだ知らないな…?」
 言った後で『しまった!』と思う…ちょっと調子に乗りすぎた!
 こ、これはマジで殺されるかもしれない…。
「…ええ、その通りよ」
「……へ?」
 軽く身構えていた俺に返ってきた言葉は意外なものだった。
「私が認めている男は一刀以外にもいるわ。華佗とかね」
「か、華佗…?」
「けれどもね、私が抱かれても良いと思った男は…」
 華琳は一旦そこで区切ると、一度大きく空気を吸い込み、そして吐き出した。
「か、一刀…あなただけよ」
 予想を遥かに超えた突然の告白。
 華琳の顔は先ほどよりもさらに赤く染まっているが、多分俺はそれ以上に赤くなっていると思う。
 と、とりあえず何か、何か言わなければ!
「あ、ああああ、あり、あり、あり…!」
「ぷっ。 少し落ち着きなさい」
 手をバタつかせながら必死にお礼を言おうとする俺を見て、華琳は笑った。
「もう。 そんなに動揺しなくてもいいじゃない」
「いいい、いや、だって俺、調子に乗りすぎたって思ってたから…」
「ええそうね。 正直、もう一発お見舞いしようかとも思ったのだけれども…」
「や、やっぱり」
 ビビッテ腰を引く俺を見て華琳はクスッと笑う。
「あなたが素直に気持ちを語ってくれるものだから、私もちょっとだけ素直になっただけよ」
 柔らかく微笑む華琳を見て、胸がドキリと大きく弾む。
「……………」
「どうかした?」
「あ、いや、その……俺さ、帰ってこれて本当に良かったなって、しみじみ思ってさ…」
「ふふっ。 そうね…」


「お帰りなさい、一刀」

「た、ただいま…華琳」


                               ― おわり ―













※ 注意! これより下にはおまけがありますが、本編の余韻(あるのか?)を壊す可能性があります! !注意 ※





「はいはーい。 そろそろお邪魔させてもらいますよー」
「うああっ!?」
 この気恥ずかしい雰囲気を一気に吹き飛ばした声の主。それは…。
「ふ、風!」
「どうもお兄さん。 お久しぶりですね〜」
「あら風。 何? もう我慢できなくなってしまったの?」
「え? 華琳気付いてたのか!?」
「当たり前でしょう?」
「いやいや〜。 あのままだと雰囲気に流されたお兄さんと『ちゅっちゅ』してしまいそうだったので。 そうしたら今よりさらに出にくくなりますからね」
「その予定だったのだけれど…」
「「い、いけません華琳様!!」」
 風の後ろから二つの声が重なり合い、そして声の主が姿を現す。
「け、桂花に春蘭!?」
「華琳様! その様な事をすればこの変質者極まりない覗き趣味の寝取り男は、すぐさまあなた様を押し倒すはずです!!」
「そうですよ! このバカ北郷は華琳様のさらにお美しくなられた体が目的で帰ってきたのですから!!」
「んな人聞きの悪いことを言うな! つーか寝取りってなんだよ寝取りって!」
「はああ…私と華琳様が閨で“いたしている”時に北郷殿が乱入…。そのまま私は手足を縛られ、目の前では北郷殿が華琳様を後ろから………ぷはっ!」
「りぃぃぃぃん!! 出てきたと思ったら即血の池かよ!」
「あらあら。 私との時は出さなくなったというのに…。 ちょっと妬けるわね」
「はーい稟ちゃん、とんとんしましょーねーとんとん」
「ふがふが…」
「な、なんでだ!? なんで風達がいるんだ!?」
「なんや隊長。 まだ気付いてへんのか?」
「真桜! それに沙和に凪も!」
「私達もいるのだがな…」
「兄ちゃん!」
「兄様!」
「しゅ、秋蘭に季衣、流琉まで…。 もうどうなってるの……?」
「ふっふっふ〜。 隊長と華琳様が隠れていた場所、沙和達からは丸見えだったの〜」
「んなっ!?」
 俺は慌てて華琳の顔を見る。
 にんまりと口の端を上げる華琳はしたり顔だった。
「じゃあ隠れて見てた場所は全部…」
「彼女達は気付く。あなたはその事に気付かない。絶妙な距離というものね」
「うそぉ!?」
「隊長」
「お、おう凪。 久しぶり」
「お久しゅう御座います。 早速ですが、抱いてください」
「ぶふぅ!!」
「たく、凪ってばさっきからこの調子なんやで? あ、凪抱くんやったらウチも一緒やで♪」
「あ〜! だめなの〜! さっき『三人一緒に』って決めたばっかりなのに〜!」
「ダメダメですよお三人さん。 お兄さんは風のパンツを早々に見ているので、責任を取ってもらわないといけないのです」
「な、なんだと北郷!? 貴様、華琳様とご一緒しておきながら他の女に色目を使ったのか!」
「ちょっと待てちょっと落ち着け春蘭!」
「お兄さん、色は?」
「穢れ無き純白でございました」
「ふむ、潔い…が、それが仇となる事もある。 季衣、流琉。 陣を組め」
「「はい!」」
 秋蘭の一言で季衣と流琉が俺の側面へそれぞれ立ち、正面に春蘭と秋蘭が…って、このフォーメーションは!
「行け!!!」
 春蘭の怒号と共に駆け出す季衣と流琉。
 咄嗟の事に俺は反応する事が出来なかった。
「うああああああ!」
 二人が腰に抱きつき、俺は死を覚悟した時…。
「兄ちゃぁん! 会いたかったよ! 会いたかったよぉ!!」
「兄様! 兄様! 兄様ぁ!!」
 腰に回されている腕に、それ以上力が込められることはなかった。
 代わりに、二人は服を強く掴み、顔を埋めていた。
「季衣…流琉…」
 泣きじゃくる二人の頭を優しく撫でる。
「北郷」
 名前を呼ばれ顔を上げる…

 パンッ!!

 有無を言わさぬ秋蘭の平手が俺の頬を打つ。
 首が回転こそしないものの、かなり強烈だ。
「っつぅ。 ありがと。 やっぱり夢じゃないんだよな」
 そう言うと、秋蘭は微笑んだ。
「さて、本命だ」
 そう秋蘭が呟くと、俺の正面からさっと移動した。
 秋蘭の後ろには春蘭がいたはずだが、どこにも見当たらない…。
 はっと気付き下を見ると、そこには身を低く屈めている春蘭が!
 大地を蹴り、そこから放たれるアッパーカット。
 その拳は俺の目の前を通り、天高く突き上げられた。
 少し送れ、突風かと思うほどの拳圧が俺の髪を舞い上げた。
 かんっぜんっに、“縮みあがった”…。
「うお……おおお………」
「はっはっは! どうだ、ちびったか!」
「も、漏れそうにはなった…」
「罰だ罰!」
 なんの罰かはやぶ蛇になりそうなので言うまい…。

 そんなこんなしている内に、辺りは徐々に暗くなり始めていた。
「はい。それじゃ皆再会も済ませた事だし、そろそろ戻るわよ」
 華琳の号令。
 俺は皆から思い思いの洗礼(?)を受けつつ、帰路へとついたのだった。


 その帰り。
 俺は小さな窪みに足をとられこけてしまう。
 と同時に視界に入ってきたのは小さくガッツポーズを取る桂花。
 ……後で絶対イジメてやる。


〜 〜 〜 〜 〜 〜


「さて、それじゃあ一度魏に戻るってことでいいわね?」
「うん。 それでいい」
「お姉ちゃんも問題なーし」
「うちも構へんで。 うーん春蘭と久しぶりに手合わせ出来るんやな! 楽しみや!」
「ふっふっふ。この成長したちぃの魅力でまたまた魏のみんなを虜にしてやるんだから!」
「ちーちゃん胸は成長してないけどねー。お姉ちゃんだって負けないんだから〜」
「兵の慰安を優先して行って、魏国内での興行費を華琳様へ掛け合ってみなくちゃ」
「あーせや出発の前に…。 なあ人和、この街に薬師っておらんかったか?」
「確かいたはずだけど…調子悪い?」
「ん〜…今日の昼くらいからなんや胸がドキドキしてな…ちょっと熱いんよ」
「え…? それだったら私も一緒…」
「人和もか?」
「しあちゃん、れんほーちゃん。 実は私もなんだよ。 どうしたんだろうね?」
「ちぃもちぃも!」
「四人揃ってか…。 かといって体調が悪い訳でもないんよな」
「うん…旅には支障無いと思うけど…」
「でもさ、この熱っぽさって悪い気分じゃないよね…。 逆に心地良いって言うか…」
「うんうん。 一刀と一緒に居た時みたいな感じがする〜」
「一刀か…。今ごろあのアホは何しとるんやろな…」
「だーっ! 一刀の事でしんみりしないって決めたじゃないの!」
「たはは、すまんすまん」
「さ、明日から魏を目指すんだから、今日は早く休みましょう」
「は〜い!」



                             ― 今度こそおわり ―

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