改行による2パターンとなっています。最初は整形なしの素です。 ブラウザでご覧の方は、『ctrlキー+F』を押して出た検索窓に整形と入力して飛んでください。  「無じる真√N31」  前の主である劉繇が逃亡し、今は孫策の所有となった曲阿にある城。  その一室は夜も深くなっているにも関わらず、窓から灯りが漏れていた。 「ふぅ、まだまだやることは山積み……か」  そう呟くと部屋の主である周瑜は方を叩く。首を左右に倒してみれば小気味よくごきりという音がする。  そして、目の前に山津に魅されている書簡を見つめながら思わずため息を漏らす。 「雪蓮は今頃大喬と……まったく、のんきなものだな」  そう呟きながらも周瑜は自分の口端が吊り上がってしまっているのに気付いた。  酒を呑み、気軽に振る舞い周りの者と楽しくやる……それが孫伯符であるのだと知っている……というよりも既に諦めの境地に達しているのだ。  そして、そんな彼女を愛おしくも思っている……だから、「しょうがない」やら「やれやれ」」とぼやきながらも苦労を多く背負い込むのだ。  それが最早、本能的に身についている……それを実感してしまったからこそ笑みがこぼれたのだろう。  周瑜は自己分析をそう締めくくると、再び筆を執る。 「ふ、きっと甘いのだな……私は」  もし、孫策の行動を管理するのが孫策、孫権、孫尚香の三姉妹の母であり、孫呉の虎と呼ばれた孫堅――字を文台という――だったならば、どうなっていただろうかと周瑜は想像を巡らす。 「いや、駄目だな……私の苦労が増えるだけだ……」  想像しただけで、周瑜は頭を抱えてしまう。何故なら、孫策と孫堅は何かと喧嘩をする親子だった。もちろん仲が悪かったとは周瑜は思わない。  むしろ、二人は感性などが似すぎたがために逆にそうなったのだと周瑜は思う。とはいえ、その喧嘩に毎回巻き込まれるのは恐らく周瑜なのだ。  兼ねてから孫呉のために働く黄蓋はそう言うときには役に立たないことがわかる。 他の者は立場上口を挟むのを戸惑われてしまうことになるのが容易に思い浮かぶ。そうなれば周瑜しかいないというわけになる。  本当に不味いときはさすがに黄蓋も止めに入るのは間違いないが……通常は周瑜にそのお役目が回ること請け合いだ。 「いかん……気が重くなってしまった」  一旦、浅く深呼吸して周瑜は再度書簡とにらみ合う。 「さっさと終わらせねばな……」  一度、集中し始めれば作業効率も良くなり、次々と書簡に記された案件に対する処理を進めることが出来た。  そして、いくつもの書簡に目を通し、仕事をこなした周瑜は再度筆を置く。そして、固まりかけた身体をほぐすように伸びをする。 「ん……ふぅ。しかし、いい加減に私も小喬とのんびりと過ごしたいものだな……」  孫策にとっての大喬のような存在というものが周瑜にもいる。それが小喬である。その小喬とも最近共に過ごすことはあっても二人きりであったり……ましてや愛し合うなどということなど時間が許さなかった。 「まぁ、それでも二人の舞を見れたのは良かったのだがな」  そう呟く周瑜の脳裏に先日の光景が蘇る。劉繇が残していった楽女たちを中心に琴や琵琶などで奏でられる美しくも儚げな旋律にのって踊る大喬と小喬……それは幻想的で手に持っていた酒を口元へ運ぶことさえ忘れるほどだった。  その日、孫策も周瑜もそして、その酒盛りに参加した者たちは皆、酒ではなく二喬の舞踊に酔いしれた。  そんな記憶が頭を巡り続け、いつの間にか周瑜は瞼を伏せていた。 †  周瑜が仕事に励んでいる頃……同城内の別所では、未だ室内で物音がしている部屋があった。  暗く静まりかえった部屋の中、二つの影が寝台の上でもぞもぞと動く。  その一つ、小柄な……少女と思しき影が苦しそうな息遣いでもう一人を見つめている。 「ん……くぅ……はぁ、はぁ……し、雪蓮さま……」 「ふふ……可愛い顔しちゃって」  目の前で顔中を真っ赤にして悶える裸の少女……大喬に見つめられながら、同じく一糸まとわぬ姿をしている孫策は微笑む。その足先は大喬の股間を刺激し続ける。そう、両腿の間に聳えるその肉の棒を上下にこすり上げる。  さらに孫策は右手で彼女の胸でその存在を強調している蕾を摘んだり頃がしたりといじくり回す。それに合わせて孫策の足に大喬の分身の強張りが伝わってくる。  左手では大喬の小振りな胸を撫でるように掌を動かしながらも五本の指で揉みしだく。 「も、もぅ……くぅん……あっ、ん! そ、そろそろ……」 「さて、それじゃあそろそろ……いいかしらね」  最早大喬の瞳が自分を捉えることすらできなくなっているのを見て孫策は頃合いだと判断し、脚でしごいていた大喬の分身を右手に持ち変えた。  そして孫策は、少女の甘く誘うような息に惑わされ濡れそぼち、朝露にまみれたように、びちょびちょに濡れそぼった自らの朝顔に導いていこうとする。 「はぁ、はぁ……だ、駄目……です」孫策の手を制して大喬がそう呟く。 「……またなの?」  最早、全身どこにも力が入ってはいないように見える大喬。それなのに孫策に強力な視線を送ってくる瞳。  これはいつものことだった。必ずと言って良いほど前への挿入を大喬は断るのだ……。 「んもぅ……じゃあ、今日もこっちで」  僅かに息を乱しながら孫策は膝歩きで後ろ向きになり、自分でもそれなりにハリのあると思う尻を大喬の方へクイっと突き出す。大喬の両手が孫策の尻肉をがしりと掴む。 「……うぅ……は、はやく……んっ」  ふらふらとしながらも徐々に孫策へ向かって前進する大喬。  その両手は本当に力ないとは思えない程にギュッと孫策の尻を掴んでいる。そこから大喬は、孫策の腰にある二つの山をぐいと左右に引っ張った。 「んっ……そろそろ……ね」 「はぁ、はぁ……雪蓮さまのお尻の穴、いつ見ても可愛いですね」  そう言って大喬は尻朶の間にある陰花へと口づけをする。 「ひゃんっ、うぅ……んっ」孫策が小さく悲鳴を漏らす。これもいつものこと。何度されても孫策は慣れないのだ。 「ちゅ……んっ、はぁ、雪蓮さま……はぁ、ん……じゅ」  大喬が陰花を揉むように口先をもごもごと動かし、その中心部にある穴へと舌を挿入する。舌のざらざら感が孫策へ刺激を与える。また、送り込まれる大喬の唾液によって陰花が湿り気を帯びていくのを孫策は感じた。 「んっ……大分、ほぐれて来ましたね……それじゃあ、そろそろ」 「んっ、そうね……」 「でも、最後に……じゅじゅっ」口を離さずに大喬が思いきり吸引した。 「ひあっ!?」油断したところだったために孫策は思わず声を漏らす。 「ふふ……それじゃあ、今度こそ」  僅かに余裕を持ち始めた大喬が、孫策の尻にある谷間でひくひくと小刻みに震える陰花へと分身をあてがう。 「はぁ、はぁ……んっ」息を乱しつつ大喬が孫策の中を進む。 「ふ、くぅ……うぅん……はぁっ!」大喬が一歩一歩進む度に孫策は声を漏らす。  そして、ついに大喬の根本が孫策の尻肉へとぶつかり、パァンと音がした。 「そ、それじゃあ……動きます……ね」  大喬は、孫策が頷く前に既に動き出した。  大喬の腰が前後し、孫策の尻肉をこぎ見よい音を立てながら打つのに合わせて、中では大喬の分身が激しく暴れる。 「んくっ……はぁ、いいわよ……んふ」 「し、雪蓮さま……ふ、うんっ……あっ」  一瞬、大喬の動きが止まる。恐らくは快感に酔いしれかけたのだろう。何故なら……孫策が尻にぎゅっと力を込めて大喬の分身を締め付けたのだ。  だが、すぐに動きを再会する。それでも、大喬の息遣いに先程までよりも喘ぎが混じり始める。 「ん…………だめぇ、つよすぎれす……くぅ!」 「ほらほら……はぁ、はぁ……どうしたのよ?」  対数分前と後主逆転。冉戯同様、孫策が有利になる。大喬の意識が昂ぶり孫策の尻を突くこと以外を忘れかけた瞬間に陰花を絞めて大喬を責める。  その繰り返しをする内に再び大喬が孫策の背中や寝台上に涎をまき散らしながら口を開いた。 「も、もう……げんかい……げんかいぃぃいい! れ、れちゃう! れちゃいまひゅううぅぅうう!」 「い、んぅっ……いいわよ! 来なさい、わ、私ももうイク、イッちゃうわ……くぅ、いっ! んんんんんー!」  そして、大喬の分身が最後の膨張をし、全てを解き放った。同時に孫策の頭の中で火花が散る。終わりにはいつも視界がこうなるのだ。  孫策の視界が霞に覆われている中、大喬が背中にもたれかかるのを感じた。 「……んぅ……ふぅ、ふぅ……ひぅっ」  倒れ込んだ際に両胸にある小豆のような乳首が擦れたらしく軽く息を呑む大喬。そんな少女を愛しく想いつつ、彼女を背に乗せたまま孫策は寝台に俯せで寝そべる。 「……ふぅ……んっ……あ、ありがとね……大喬ちゃん」  孫策は未だ陰花の中に大喬を抱いたまま、ウトウトとし始めた。  大喬の温もりを未だ躰で感じているからだろうか、ぼんやりとする頭に初めて大喬と閨を共にしたときの会話が思い起こされる。  それは、孫策が初めて大喬と行為に及び、その余韻に浸り互いに落ち着きを取り戻したときのことだった。  寝台の上で大喬を腕の中に治めたまま孫策は口を開く。 「ねぇ、大喬ちゃん」 「は、はい。なんでしょうか、孫策さま」行為を終え、気分が落ち着いたためか緊張で声が上ずっている。  大喬……そして、妹の小喬という双子の姉妹、彼女たちは所謂踊り子をしていた。  二人揃ったときの何者にも及ぶことの出来ない美しい舞に、巷では"二喬"という二人の総称すら出来ていた。それを孫策、周瑜が見初め、自分たちの元へと誘った。  孫策と周瑜は身分を明かさずに口説いた。それ故に二喬は普通に接してきた。だが、口説き落とした後に孫策たちが本当の事を教えると、二人は大層な驚き様を見せ、妹の小喬はまだしも姉の大喬に至っては恐縮しきってしまっていた。 「あぁ~その、話の前に一つ」 「孫策さま?」小首を傾げながら大喬が孫策を見つめる。 「雪蓮」 「はい?」 「だーかーらー! 私の事は雪蓮って呼びなさい」 「え! そ、そんな恐れ多い……」  両手を慌ただしく振りながら大喬が顔を左右に振る。その様子に孫策は頬をぷくっと餅のように膨らませる。 「むぅ~! 雪蓮なの!」 「で、でもぉ~」 「はぁ、あのね……大喬ちゃん」  孫策は一度気を引き締めながらも穏やかな表情で大喬を見つめる。 「あなたはもう、私の大切な家族なわけ。だ、か、ら、私の事も真名で呼ばないと、ね?」孫策はそう言って大喬に微笑みかける。 「……そ、それじゃあ……し、雪蓮さま」  大喬は頬を赤めながら見上げるような上目で恐る恐ると言った様子で孫策の真名を口にした。 「んもぅ~可愛いんだから~」思わず大喬を抱きしめる孫策。 「雪蓮さま……私、凄くうれしいです」大喬も抱きしめ返す。 「ふふ、もう他人行儀な呼び方はダメだからね」 「はい」  本来ならばここで大喬の真名の話になりそうだが、孫策はそこには触れなかった。知っているのだ、彼女は。大喬、小喬の二人はとある事情で真名がないことを。  理由もあるため、真名についての話を終え、孫策は大喬を見つめながら元々の話題へと移る。 「それで、本題なんだけど」 「そういえば話がありましたね」  孫策は、一先ず大喬にしていた腕による拘束を解いた。そして、彼女が窺うように孫策を見つめるのを確認すると再び口を開いた。 「なんで、前を断るわけ?」訝る孫策。 「え?」対して、大喬は首を傾げる。 「前よ、前……ここよ」  抽象的な言葉ではわからないかと、孫策は僅かに両脚を開き、その中心部にある淫猥な花園を指さした。それを見た大喬の顔が一瞬で朱に染まる。 「ねぇ、どうして?」 「そ、その……やっぱり、前は……大事な人にしてもらうべきだと思って……」 「その大事な人が大喬ちゃんなんだけどな~」 「いえ、そうじゃないんです……私にもよくわからないんですけど」  そこまで言って大喬は浅く深呼吸する。孫策はただ黙って彼女を見つめて先を待つ。 「えぇと……ですね。きっと、私と雪蓮さまを同時に愛してくれる人が現れる……そんな気がするんです」 「うぅん……でも、その……ね、大喬ちゃんってほら……特殊だし……」  正直、言っていいものか迷いながらも孫策は濁しながらもそのことを意見した。そう、彼女の特徴の一つについてだ。  だが、大喬は大して動揺もせず、ただ静かに首を振る。 「確かに、そうです。きっと、私の真実を知って真正面から受け止めてくれる人なんてそういないと思います」 「でしょ……なら、やっぱり、思い違いってだけなんじゃ……」 「いえ、私の全てを見ても微笑んでくれる人がいるんです。例えば、そう……私と小喬ちゃんのどちらも愛することができる……そんな人がいるんです!」  何故か、大喬の瞳が強い光を放つ。まるで、絶対的な証拠を持っていて自信にも満ちあふれているかのようだ。あまりの気迫に孫策は息を呑む。 「ちょっと……どうしたのよ」大喬が強気な発言をしていることにわけがわからなくなり孫策は眉をひそめる。 「すみません……私にもよくわからないんです……でも、確信めいたものが私の中にあるんです……」 「ふぅん……私と同じようなものでもあるのかしら……?」孫策は大喬に言うわけでもなく一人呟く。 「そ、それにですね……何故か、雪蓮さまのことも不思議と信じられたんです……その、初めてあった時から」 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」 「その理由も同じなんです、雪蓮さまたちと一緒に行けば私たちは幸せになるって……そういう気がしたんです、あの時も……それも、私だけでなく小喬ちゃんも」  大喬の言葉に孫策は内心、信じても良いのかもしれないと思った。何故なら、彼女の勘が告げているのだ、目の前の少女の言葉に嘘も偽りもない、真っ直ぐな言葉だと。 「そっか……それじゃあ、信じないとね」 「え? 信じてくれるんですか?」  目を見開き、信じられないといった様子で大喬が口元を抑える。その様子を雪蓮は可笑しそうに笑みを零しながら見つめる。 「当たり前でしょ……それだけ真剣な顔で言われちゃ……それにね、私ってさ……結構すごいのよ?」 「すごい……ですか?」 「そ、私の勘は良く当たるの! その勘が大喬ちゃんは嘘言ってないって訴えかけてくるのよ……ふふ」  孫策は、自分の勘は良く当たると自負していた。もっとも、それ以前に大切な存在となった少女を信じたいという想いがあったわけなのだが、それは黙っていた。 「ありがとうございます……その、信じてくださって」そう言うと、大喬は満面の笑みを浮かべた。 「いいのよ、まったく……可愛いんだから」  明るい表情になった大喬の頭を撫でながら、孫策は思う……大喬のいう人物とはどんな者なのか、本当に自分たちを受けとめることができるのかと……。 † 「ど、どこだ。ここは……」  気がつけば暗闇の中、周瑜は一人佇んでいる。自分が発している声だけが自身の聴覚を刺激する。他はまったくの無音、そして、視界もただ闇に覆われた状態……まるで瞳が機能停止してしまったかのように……。  自分が何処に立っているのか、またどの方角を向いているのかすらわからない。自らの姿も見えず、自分の存在を感じることが不安定になっていく。そんな折、どこからともなく声がする。 「おい、聞こえるか?」 「……だ、誰だ!」声を張り上げて辺りを見回す周瑜。  だが、やはり辺りは闇……それでも、気配はある。 「ふん、今は俺のことなどどうでもいいだろうが。それより、周公瑾。お前はこの世界の真実を知りたくはないか?」 「真実……だと?」  周瑜は訝りながら声のする方を見据えようとするが、声は四方八方から聞こえてきているようにも感じ、どこからしているのか特定できなかった。やむを得ず、周瑜は視線を宙へと漂わせた。  声から判断すると少年……もしくは青年といったところだろうと周瑜は判断する。だが、やはりその姿はどこにも無い。  何度も姿を目線だけで探る周瑜に特に反応も見せず、声は淡々と語りかけてくる。 「そうだ……お前や孫策……それどころか、貴様たちのいる世界において北郷一刀以外に知る者はない……いや、奴もまだ知らないのか? まぁ、なんにせよだ……知る者の少ない隠された真実だ」  途中で出てきた名前に周瑜の心臓が一際大きく脈打つ。それでも、相手にそのことを気取られぬよう表面だけは冷静さを保つ。もっとも、何も見えないため自分では確認のしようなど無いが。 「姿も見せぬ者の言葉にこの周瑜が乗るとでも?」 「乗るかどうかは貴様の好きにすればいい。俺はただ、お前に真実を見せなきゃならないだけだ」  周瑜の言葉にさも興味あらずといった様子の返事をする声の主。 「おい、一体何を言って――」意味が分からず周瑜が訊ねようとする。 「えぇい、まどろっこしい! いいから、見ろ!」  周瑜の声を遮って苛立たしげに声がそう叫ぶと、辺りが光に包まれていく。今まで黒一色だった周瑜の視界があっという間に白色へと塗り替えられていく。  そして、周瑜の意識もその白い光に溶け込んでいくように薄れていった。 †  微笑ましい過去を思い出しながら孫策はいつの間にか眠ってしまった大喬へと視線を巡らせる。  大喬との初めてを体験した日以降、様々な男に出会うことがあった。だが、大喬のお眼鏡に適うような者はいなかった。てっきりすぐにでも現れると思っていた孫策はそれに対して拍子抜けしたものだった。  そんな孫策には、大喬のように他者とは違う特徴があった。それは、戦闘を行うと、血が昂ぶり、それを沈めるためには性的な方法を取らねばならないということだった。もちろん、大喬はそんな特徴が孫策にあることを知ったときは大いに驚愕していた。だが、それでも昂ぶる彼女を優しく受け入れてくれた。  それ故、孫策は何度も大喬と閨を共にしてきた。だが、大喬は一度として孫策の中心部を貫こうとはしなかった。何度か、孫策が入れようとしたがことごとく大喬に却下されたのだ。  また、あまり強引に行おうとして大喬が拗ねてしまったこともあった。  やはり、受け入れる者の出現を信じ続けているのだろう……指に絡めたりして少女の髪で遊びながら孫策はそう思う。 「まさか……冥琳の言ったとおりというわけでもないだろうし……」孫策はぽつりと呟く。  親友でもあり大喬と同じように愛する対象であり、また、家族でもある周瑜。彼女は至って冷静に物事を見る。  故に、大喬の言ったことをそれとなく話しても「白馬の王子様というのが遠い国にいるらしい……なんでも、神聖さを持っていて、とても紳士的なのだそうだ。雪蓮の言う少女というのが誰を指しているのかはわからないが、きっと、白馬の王子様という存在を待ち望んでいるだけ……つまりは、夢見がちなだけなのだろう」と歯牙にも掛けない様子であしらわれてしまった。  本当に大喬がただ白馬の王子様を夢見ているだけとは孫策には思えない。彼女の真剣な眼差しを受けたのだから。そして、周瑜には話していないこともあったからだ。  そんなことを思い返していると、雪蓮の横で熟睡している大喬の口がもぞもぞと動く。 「うぅん……雪蓮さま……」 「ま、いいか」  雪蓮にとってみれば、何もかもが関係ないのかもしれない。ただ、この愛すべき少女、そして家族たちと共にいれるだけで十分満足しているのだ。  だから、大喬が信じていることがあるならそれを信じればいいとも思う。何しろ、孫策自身、孫呉の復興という夢を叶えることが出来ると信じているのだから……。 「でも、それにはやることやらなきゃね」  孫策は、次なる戦……呉郡にいる"東呉の徳王"と称する厳白虎を相手とするものを思い描く。それだけで、不思議と体中の血が沸き立ってくる。その熱を感じながら孫策は窓から空を見る。 「そう……夢ばっかりとはいかないのよね」  そう、理想だけでは駄目なのだ。それを孫策は知っている。理想だけ、現実だけ、そのどちらも間違っていることを孫策は知っているのだ。  理想を追い求めるから人は走り続けることが出来る。また、現実を見るからこそ自分の足下に広がる大地をしっかりと踏みしめることが出来る。  そうして、人は人生というものを駆け続けるのだ。孫策に流れる孫呉の血は、そのことをよく感じさせてくれる。戦場で馬を走らせて駆け回っている時も、今、自分は夢のために動くことが出来ている……そんな想いに満たされるのだ。そして、全身が高揚感に支配されるのだ。 「だけど……大喬の白馬の王子様はどうしようもないわよね」孫策は苦笑混じりに呟いてみる。 「か――さん……」 「え? 大喬ちゃん?」 「すぅ……すぅ」 「なんだ、まだぐっすり寝てるのね」  背後で、大喬が呟いた言葉を寝言だと判断し、孫策は再び夜空を眺めた。 †  その夜は異常に暑苦しく感じた。その証拠に周瑜の身体をいくつもの汗が走っている。彼女の黒々とした長い髪が孫呉の人間特有とも言える褐色の肌に張り付く。  そして、荒ぶる息によって眼鏡に曇りが生じている。 「はぁ……はぁ……」  妙な圧迫感を胸の奥底に感じながらも周瑜は目の前の男を見る。いや、見させられる。 「こんばんは――美周郎殿」 「……誰だ、貴様は」  自分の口から出る言葉。それは周瑜自身の意思で発している言葉ではない。その証拠に今周瑜が感じている苦しみが声に現れていない。それに寸前まで感じていた汗や纏わり付く髪の気持ち悪さが無くなっていた。  いや、それ以前に意識だけがまるで身体と切り離されたかのような感じがする。そう、かつて目を通したことのあった文献に書かれていた幽体が抜け出てしまうと言う事象のように。もっとも、現在の周瑜は肉体にすっぽり収まってはいるのだ、だが身体は言うことを聞かないと理解しがたい状態だった。 (何だ……これは)  自分であって自分でない……そんなよくわからない事態に陥りながらも彼女は必死に考える。常人ならば、全ての抵抗を投げ出し、流れに身を任せてしまうか、はたまた狂ってしまいかねない……それ程までにいまある状況は異常であり、胸の苦しみもまた常軌を逸していた。  だが、周瑜は常人とは違った。その明晰さと孫呉の人間として生きる者が持つ豪毅な本質が彼女をギリギリのところで狂気に満たされるのを踏みとどまらせている。  正体不明の苦しみに周瑜が堪えている間も目の前の男――耳へかける部分の無い眼鏡をしており、黒髪を左右と後ろへ流している道士――と完全に今ある意識と切り離された周瑜との会話が交わされていく。  だが、苦しさと異常事態に飲み込まれた恐怖に耐えていた周瑜にはその多くを聞き取ることは出来なかった。 「――時間の無駄だ」  会話をしている方の周瑜が何かの問いに対してだろうか、そう答えた。 「北郷一刀のことだとしても?」 (!? 北郷……一刀だと?)  その名前に周瑜は興味を引かれた。北郷一刀という存在はあの反董卓連合の時に見て以来、周瑜の心にひっかかり続けていた。  あの時、おかしな事に周瑜は北郷一刀に対して曲者だという認識を持っていた。そして、その"勘"を不思議といつまでも覚えていた。普段ならば勘などと言うものは不思議と良く当たる孫策のものくらいしか信じないし、これまでも余り信じてこなかった。なのに、周瑜は北郷一刀を見た時に抱いた勘に対して、何の迷いもなく「その勘は間違いないことだ」という自身の直感を信じてしまっていた。 「……ほお」  今ある意識とは別に動いている周瑜も道士の言葉にまんざらでもない様子を見せる。 (この私も警戒をしているのか……北郷一刀はそれほどまでの男なのか?)  自分の勘が間違っていない……それがこの周瑜から伝わってくる。いま身体の持ち主となっている周瑜と北郷一刀の間に何があったのかはわからない……ただ、少なくとも北郷一刀という名を聞いてすぐに反応を見せたことから考えるに彼女の頭の中にしっかりと刻まれているのだろう……何故ならば、それはある意味自分のことだからわかるのだ、意識のみとなっている周瑜には。 「ふふっ、興味を示されたようですね」  男が不適な笑みを浮かべながら周瑜を……会話の相手となっている周瑜を見据える。 「……良いだろう。試しに言ってみるが良い」  そう会話をしている周瑜が告げると道士はゆっくりとその意味を周瑜に噛みしめさせるように語っていく――。 (う、嘘だ……そんなことがあるはずは……)  周瑜は道士の話にただ呆然とするしかなかった。まるで、頭の中における思考能力が落ち、すべての機能が停止したかのように何も考えられなくなる。ただ、速く打つ鼓動の音のみ――おそらくは意識だけがある方の周瑜のものだろう――が彼女の耳に届く。  そんな彼女とは裏腹に、会話をしている方の周瑜は未だ冷静なままである。 (いや、それが普通なのだろうな。いまの……"こちらの私"がおかしいのだろう)  そんなことを意識のみの周瑜が思っている間も、周瑜と道士による言葉による駆け引きが行われていた。  そして、一先ず話が纏まったのだろう……会話をしてる方の周瑜が道士に名前を尋ねる。 「ふむ……貴様、名は何という」 「我が名は于吉。以後、お見知りおきを……」 (于吉!)  道士の名前を聞いた瞬間、意識のみとなっている周瑜に電撃が走る。何かが周瑜の中で叫び出す。まるで街のどこかで忘れ去られた幼子が必死に親を呼ぶように気付け、気付いてくれと喚いている。 (……ぐ、なんだこれは……)  周瑜を呼ぶそれは一つの記憶。なにか忘れていることがある……それが思い出せと周瑜に語りかけている……そんな気がしてならなかった。  その記憶の自己主張によるものなのだろう、周瑜は頭が割れそうなほど痛むのを感じた。 「――追い風が吹くことになるのでしょう」  いつの間にか会話が進んでいたらしく、于吉が丁度周瑜に何かを言うところだった。 「亡き親友の遺志を継ぐための風が――」 「下郎が――」  再び頭痛に襲われ、二人の話声が遠くなっていく。 (これは……なんだ……何を言っているのだ、この于吉という男は……それに私は……いや、この周公瑾は何を怒っている?) 「――そろそろ考えてみてはいかがですかな?」 (何をだ……)  必死に頭痛に耐えながら周瑜は于吉を見据える。もう一人の周瑜も黙って于吉を見ている。  鋭い視線を突き刺されても薄い笑いを浮かべ続けながら于吉が口を開く。 「友が目指した覇王への階を歩んで行くために」 (友……覇王? なんのことだ?)  さっぱり意味がわからない……いや、おおよそ推察はできるがその答えが明確に合っているとは言い難い。何せ、意識のみとなっている周瑜にはそれが信じられないのだから。 「…………」  頼みの綱であるもう一人の周瑜も今は黙り込んでいる。そして、于吉が最後に周瑜に声を掛けて姿を消した。 「雪蓮……私は……」  空を見つめながらそう呟いた周瑜の言葉、そしてその瞳に込められた切なげな光に、意識のみの彼女は自分が抱いた予想が会っていることを確信した。 (この私の傍に彼女はいないのだな……)  この周瑜の想いが不思議と意識のみとなった彼女にも伝わってくる。悲しみ、戸惑い、迷い、恋しさ、懐かしさ……ありとあらゆる想いが混ざり合ってしまった"ソレ"が自分の心に同化していく。  それを感じた瞬間、周瑜の意識は薄れ始め、辺りは再び闇に覆われていく。その時、何か会話が聞こえた気がした。 「ふむ……今回――ここ――でのようですね――左慈」 「ふん、これで限界とは――惰弱なものだな。所詮は――か」 「おやおや……貴方も人の事など――」 「うるさ――すぞ――ゲイ――郎」 「貴方にこ――されるなら、それは――栄なこ――です」 (何を言ってる……?)  二人の会話に耳を澄ませようとするが、周瑜の耳にはもう届いてはこなかった。 「はっ!」  閉じていた瞼を思い切り開くと、そこは周瑜の自室だった。 「……夢、か」  不思議な夢だった、そう呟こうとしたところで周瑜は気付いた。己の両瞳から涙が流れ続けていることに。 「これは……」  止めどなく溢れる雫に思わず手を触れようとした瞬間、傍で何かが動いた。 「……冥琳さま?」 「誰だ!」 「ひっ」周瑜の傍に居た何者かが息を呑む。 「む? 小喬か……どうした?」 「い、いえ……その、お疲れなんじゃないかと思って少し様子を見に……」  未だおどおどとした様子で周瑜の顔を俯きながら窺っている小喬に周瑜は口元をほころばせる。 「ふふ……悪い。少々寝覚めが良くなかったのだ」 「い、いえ……そんな冥琳さま」  首が取れてしまいそうなほど勢いよく首を振って小喬が否定する。その様子が愛おしく感じ、周瑜は小喬を抱き寄せる。 「め、冥琳さま? んっ……」 「くちゅ……んっ……ちゅっ」  静かな部屋の中、二人の口元か発せられる水音が鳴り続ける。それはどこか官能的であり、それがまた二人を一層燃えたてる。  そして、小喬の瞳がそのまま消えてしまうのではないかと思える程に蕩けきったところで周瑜は唇を放した。  二人の間に銀色の橋が架かる。それを舐め取ると周瑜は小喬の頭を撫でる。 「ありがとう、小喬。随分気が楽になった」 「……ふぁい」頬を朱に染めた小喬は未だぼっとしている。 「ふ、本当に感謝するぞ」  そう、周瑜は小喬に救われていた。実際、先程まで……夢から覚めたばかりの頃は周瑜の胸には妙な不安感と何かに迫られる緊張感が残っていた。そして、あろうことかそれらの感情に周瑜は押し潰されかけていた。  だが、小喬の……他者の温もりを感じたところで、その想いは内心における規模を縮小していった。 「冥琳しゃま~」小喬が周瑜にしな垂れかかる。 「ふ……どうやら、口吻だけでは満足できなかったか」 「……あ、その……」  急に小喬はもじもじとしだし、両手を腿の付け根に挟み込み上目で周瑜を見つめてくる。 「もう少しで、一区切りつく。それからだな」 「……はぁ……い」  返事をすると小喬はふらふらと頼りない足取りで寝台へと向かった。そのまま彼女が寝台に腰掛けるのを見届けると、周瑜は私語を再会した。 「どうやら、まだまだ夜は長いようだな」  そんな周瑜の影が灯りによってゆらゆらと揺らいでいた……まるで彼女の精神状態を表すように。 †  鄄城の玉座の間……深夜にも関わらず二つの影が蠢いている。玉座に座る人物の足下からぴちゃぴちゃと水音が部屋中へ飛び、静かな空間に一際大きく響き渡っている。 「ん……ふぅ……ぺろ……ちゅっ……はぁ」 「ふふ……随分といやらしくしゃぶりつくわねぇ」  玉座に座る曹操は足下に跪いて自らの足の指を口に含んでいる荀彧を見て口角を吊り上げる。 「あぁ……ちゅちゅ……華琳ふぁまぁ……んぅ」  指の一本一本に舌を丁寧に這わせていく。それがまたくすぐったくもあり、荀彧の口からあふれ出ている指が彼女の涎でびちょびちょになっているために、夜のひんやりとした空気を一層際立たせている。 「んぁ……くふぅん!」  わざと脚を突き出し喉の奥へと足を押し込むと荀彧が呻きながら躰を震わせる。それに合わせて彼女の淫裂、そして、その後方にある菊の陰花……それらに差し込まれた絡繰りが上下する。  荀彧に差し込まれた絡繰り……それは棒状でありながら先が膨らんでおり、機能としては振動するというものだ。また、片方に限ってはさらにうねりが追加されている。  この荀彧を貫きいじめ通す棒形の絡繰りは李典――真名を真桜という――の作品の一つだった。彼女は絡繰りを作る点においては非常に優れており既に様々な発明をしていた。もちろん、戦場での活躍も曹操は買っているが……。  ただ、問題点もある……それは李典が夜な夜な何か部屋で作っているため初めて夜警にあたる兵を怖がらせてしまうのだ。そして、彼女は何を作っているのか曹操にも秘匿している。 「あぁいうのを職人気質と言うのかしらね」 「あぁぁ……ふぁりんふぁまぁ……んっくぅぅううう!」  急に甲高い声を上げてびくびくと躰を上下させる荀彧に曹操は視線を下ろし、彼女を見つめる。どうやら考え事をしている間、無意識に荀彧の口腔内を脚でかき回し続けていたらしい。  それが荀彧のお気に召したのか……はたまた溜まりに溜まったモノが決壊したのかは分からないが、彼女は絶頂を迎えた。 「はふぅ……ぅぅ……くぅ、まだ、動いて、ひぃっ」未だにナカで動き続ける二つの絡繰りに荀彧の口から涎と悲鳴に似た喘ぎ声が僅かにあふれ出る。 「あらあら、まだまだ欲しがっているのかしら」  さて、次はどう責めようかと曹操が思いを巡らしていると、扉が開かれ、一つの影が早足で歩み寄ってくる。 「そう――おほん、華琳さま……うっ!?」  曹操を睨み付けるようにその切れ長の眼を一層鋭くした郭嘉が急にうめき声を上げて立ち止まった。 「あら……稟。何の用かしら?」 「そ、それは……いえ、それ以前に何をしておられるのですか!」  曹操の質問には答えず、郭嘉は逆に質問を口にした。 「何って……ナニかしらね?」 「なぁっ……あ、貴女という御方は……」郭嘉がわなわなと両肩を震わせる。 「ふふ……なんなら、桂花と一緒に可愛がって上げましょうか?」 「ふざけないで頂きたい!」  顔を真っ赤にして郭嘉が怒鳴り声を上げる。その声が躰に響いたのだろう、曹操の足下で転がる荀彧がびくりと跳ねる。 「あら、ふざけてなどいなわ……私はいつだって真面目なつもりよ?」 「そういう物言いがふざけていると申しているのです」神経質そうに眼鏡の縁を弄りながら郭嘉が詰め寄ってくる。  そんな郭嘉の様子を見ても、曹操が抱く感想は恐怖でも驚愕でもない……というよりも興味が別のてんにあった。 (いつになったら……この初心さを捨てて閨を共に出来るのかしらね)  彼女と肌を重ねることを曹操は郭嘉の顔を見ながら考えていた。 「そもそも、玉座の間で臣下にその様な醜態を晒させるとは何をお考えなのか私には理解しがたい」  そう言って郭嘉が荀彧へ視線を送る……未だ絡繰りに弄ばれている荀彧、下着を足首に掛けている以外は何も付けて居らず、高揚感の表れであるかのごとく赤く染まっているきめ細やかな肌を晒し、その線の細い小柄な肉体を引き攣らせている。 「……どこが醜態なのかしら」  曹操は荀彧から郭嘉へ視線を戻すと、疑問を抱いていることを素直に伝える仕草として小首を傾げる。 「な!? 本気でそのようなことを申しておられるのですか!」 「えぇ……本気よ」 「こ、このような淫らな……卑猥な……うっ」郭嘉が苦しそうに俯く。 「あ、マズいわね……」  それが、何の兆候であるかを察した曹操は郭嘉に歩み寄ろうとする。だが、郭嘉は曹操が近づくのを手で制止した。 「ぐぅ……ま、まだ……大丈夫……な故、心配はいりません」 「そ、そう……まぁ、いいわ。限界を迎える前に速く用件を伝えなさい」 「ふんぐぁ……ぐぅ……で、では」  鼻に詰め物をしながら郭嘉が曹操を見据える。真剣な目つき、表情だ。「でも、正直締まらないわね」と曹操は内心で呟いた。 「華琳さま……ふが……劉備を……ふが……傍に置こと考えているというのは本当なので……ふが……すか?」 「少し聞き取りにくいわね……まぁ、いいけど。そうよ、しばらく劉備は私の元に付けるわ……既に劉備にも確認を取ったから、もう"考え"ではなく"決定した事項"ってやつね」 「ひかひ……劉備を置くというのは……ふがが……非常に……ふが、我が軍にとっての不利益が……ふがふが……多いのではないですか!」  激高して曹操に刺し貫くような視線を向ける郭嘉。その鼻の穴には二つの詰め物……やはりどこか間抜けだ。 「んうぅ……こ、こぇえが……ひうっ!」 「桂花……うるさいわよ」  再び郭嘉の怒声に反応して声を漏らす荀彧に注意を促すと、曹操は郭嘉をじっと見つめる。 「それで、なんの話だったかしら?」 「ふがが! おほん、ですから……劉備を置いておくだけでも……ふが……民衆の心が彼女に移る可能性は高い、ふが。それにも関わらず、貴女は劉備を側近のように扱われる……いや、それ以上に近い位置へ置こうと考えておられる……それこそ愚の骨頂というもの。どのような風評がたつかわかっておられるであろうに。では、何故そのようなことをなさるのか! ふがががが!」  興奮しすぎであるがために、郭嘉の最後の一言が全く持ってわからなかった。曹操がそれを瞳で訴えると、郭嘉は再度、咳払いをして口を開いた。 「何故そのようなことをなさるのか、お教え願いたい!」 「ひぅん! くはぁぁああ!」曹操より先に桂花が反応を示した。 「桂花!」  あまりにドタバタと五月蠅かったため、曹操はピシャリと荀彧を叱りつけた。それに反応して荀彧の躰が跳ねる。 「ひん! う……」  限界の限界を迎えたらしく荀彧がすっかり黙り込んだ。気のせいか、ぐったりしている。 「さて、静かになったわね」 「え? いいのすか……コレ」郭嘉が視線を向けないようにしながら床に寝そべるものを指さす。 「えぇ、かまわないわ……それより、話を続けるわよ」  僅かに戸惑う素振りを見せた後、郭嘉は床の存在をなかったことにするかのように真っ直ぐと曹操を見てきた。曹操も、郭嘉を見つめ返し、言葉を発する。 「稟……確かに、貴女の言うことも、もっともだわ」 「な、ならば!」 「待ちなさい。貴女の危惧することも確かにあるとは思う……でも、本当にそれだけだと思っているのかしら、稟」 「う……」郭嘉が僅かに身を退きかける。 「……少なくともそれにも勝る利得があると私は思うけれど、どうかしら?」 「そ、それは」郭嘉が口ごもる。 「それに、劉備を邪険にしたらそれはそれで私の風評が落ちるのではないかしら?」  そう、劉備を傍に置けば置いたであらぬ話をでっち上げる者が現れ、悪評をばらまく恐れもある。だが、それはあくまで噂にすぎない。だが、ここで劉備を警戒して疎遠にすれば、それこそ悪評に対する裏付けとなるだろう。そして、それを知った民衆は実際の事として受け止めることになるだろう。  これまで、新たな知識などを動員し、自国を栄えさせた。中でも屯田に関してはなかなか上手くいき、民衆の指示も得ることに成功してきた。  だが、ここで劉備との関係を拗らせ民衆の心を放してしまったら取り戻すのは非常に難しくなるだろう。  もちろん、曹操はその辺りも考えていた。そして――目の前の聡明な少女もそれは同じなのだろう。  その証拠に、郭嘉は黙り込み、瞳を閉じて何か考えを巡らせている。 「…………」 「そんな難しい顔をしないで。冗談よ。別に稟を責め立てるつもりはないわ」  恐らく、郭嘉は何も反論できないこと、そして、非を認めざるを得ないことを理解しつつもまだ何かあるのではと足掻き、思考の迷宮へと落ち込んでいたのだ。だから、曹操はその迷宮から郭嘉を引っ張り出した。 「華琳さま……いえ、やはり私の考えが浅はかすぎました、ふが」 「そう……」  予想通り、素直に謝罪することを選んだ郭嘉に曹操は微笑む。そして、言葉を重ねる。 「まぁ、今回のことはそうねぇ……閨でしっかりと返してもらうことするわね」 「えぇ……いえ、ほ、本日の所はこれにて失礼!」  顔を真っ赤にして、郭嘉が部屋から出て行った。扉が閉まる寸前に赤い噴水のようなものが見えたが曹操は気にしないことにした。 「それよりも……」視線を床へ巡らす。 「…………くふっ……すぅ」  破顔して、敢えて表現するならば"にへら"といった表情で気を失っている荀彧。その下半身にある二つの淫靡な穴からはいつの間にか絡繰りが滑り出ていた。それを拾い上げると曹操は口元を緩める……いや、歪める。 「…………ふふ」 「……っ! ひぎぃ!」  無意識の状態で再度挿入された絡繰りに荀彧の背が反り返り、彼女は口から甲高い声を張り上げた。 「まだまだ……夜は長いわよ……」  そう呟くと、曹操は意識を取り戻したばかりで状況が飲み込めていない荀彧を背後からがっちりと両腕で抱きしめた。  そう……曹操と荀彧の夜はまだ明けてはいない。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 整形版はここからです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――  「無じる真√N31」  前の主である劉繇が逃亡し、今は孫策の所有となった曲阿にある城。  その一室は夜も深くなっているにも関わらず、窓から灯りが漏れていた。 「ふぅ、まだまだやることは山積み……か」  そう呟くと部屋の主である周瑜は方を叩く。首を左右に倒してみれば小気味よくご きりという音がする。  そして、目の前に山津に魅されている書簡を見つめながら思わずため息を漏らす。 「雪蓮は今頃大喬と……まったく、のんきなものだな」  そう呟きながらも周瑜は自分の口端が吊り上がってしまっているのに気付いた。  酒を呑み、気軽に振る舞い周りの者と楽しくやる……それが孫伯符であるのだと 知っている……というよりも既に諦めの境地に達しているのだ。  そして、そんな彼女を愛おしくも思っている……だから、「しょうがない」やら「やれ やれ」」とぼやきながらも苦労を多く背負い込むのだ。  それが最早、本能的に身についている……それを実感してしまったからこそ笑み がこぼれたのだろう。  周瑜は自己分析をそう締めくくると、再び筆を執る。 「ふ、きっと甘いのだな……私は」  もし、孫策の行動を管理するのが孫策、孫権、孫尚香の三姉妹の母であり、孫呉 の虎と呼ばれた孫堅――字を文台という――だったならば、どうなっていただろうか と周瑜は想像を巡らす。 「いや、駄目だな……私の苦労が増えるだけだ……」  想像しただけで、周瑜は頭を抱えてしまう。何故なら、孫策と孫堅は何かと喧嘩を する親子だった。もちろん仲が悪かったとは周瑜は思わない。  むしろ、二人は感性などが似すぎたがために逆にそうなったのだと周瑜は思う。と はいえ、その喧嘩に毎回巻き込まれるのは恐らく周瑜なのだ。  兼ねてから孫呉のために働く黄蓋はそう言うときには役に立たないことがわかる。  他の者は立場上口を挟むのを戸惑われてしまうことになるのが容易に思い浮かぶ。 そうなれば周瑜しかいないというわけになる。  本当に不味いときはさすがに黄蓋も止めに入るのは間違いないが……通常は周 瑜にそのお役目が回ること請け合いだ。 「いかん……気が重くなってしまった」  一旦、浅く深呼吸して周瑜は再度書簡とにらみ合う。 「さっさと終わらせねばな……」  一度、集中し始めれば作業効率も良くなり、次々と書簡に記された案件に対する 処理を進めることが出来た。  そして、いくつもの書簡に目を通し、仕事をこなした周瑜は再度筆を置く。そして、 固まりかけた身体をほぐすように伸びをする。 「ん……ふぅ。しかし、いい加減に私も小喬とのんびりと過ごしたいものだな……」  孫策にとっての大喬のような存在というものが周瑜にもいる。それが小喬である。 その小喬とも最近共に過ごすことはあっても二人きりであったり……ましてや愛し合 うなどということなど時間が許さなかった。 「まぁ、それでも二人の舞を見れたのは良かったのだがな」  そう呟く周瑜の脳裏に先日の光景が蘇る。劉繇が残していった楽女たちを中心に 琴や琵琶などで奏でられる美しくも儚げな旋律にのって踊る大喬と小喬……それ は幻想的で手に持っていた酒を口元へ運ぶことさえ忘れるほどだった。  その日、孫策も周瑜もそして、その酒盛りに参加した者たちは皆、酒ではなく二喬 の舞踊に酔いしれた。  そんな記憶が頭を巡り続け、いつの間にか周瑜は瞼を伏せていた。 †  周瑜が仕事に励んでいる頃……同城内の別所では、未だ室内で物音がしている 部屋があった。  暗く静まりかえった部屋の中、二つの影が寝台の上でもぞもぞと動く。  その一つ、小柄な……少女と思しき影が苦しそうな息遣いでもう一人を見つめて いる。 「ん……くぅ……はぁ、はぁ……し、雪蓮さま……」 「ふふ……可愛い顔しちゃって」  目の前で顔中を真っ赤にして悶える裸の少女……大喬に見つめられながら、同 じく一糸まとわぬ姿をしている孫策は微笑む。その足先は大喬の股間を刺激し続け る。そう、両腿の間に聳えるその肉の棒を上下にこすり上げる。  さらに孫策は右手で彼女の胸でその存在を強調している蕾を摘んだり頃がしたり といじくり回す。それに合わせて孫策の足に大喬の分身の強張りが伝わってくる。  左手では大喬の小振りな胸を撫でるように掌を動かしながらも五本の指で揉みし だく。 「も、もぅ……くぅん……あっ、ん! そ、そろそろ……」 「さて、それじゃあそろそろ……いいかしらね」  最早大喬の瞳が自分を捉えることすらできなくなっているのを見て孫策は頃合い だと判断し、脚でしごいていた大喬の分身を右手に持ち変えた。  そして孫策は、少女の甘く誘うような息に惑わされ濡れそぼち、朝露にまみれたよ うに、びちょびちょに濡れそぼった自らの朝顔に導いていこうとする。 「はぁ、はぁ……だ、駄目……です」孫策の手を制して大喬がそう呟く。 「……またなの?」  最早、全身どこにも力が入ってはいないように見える大喬。それなのに孫策に強 力な視線を送ってくる瞳。  これはいつものことだった。必ずと言って良いほど前への挿入を大喬は断るのだ ……。 「んもぅ……じゃあ、今日もこっちで」  僅かに息を乱しながら孫策は膝歩きで後ろ向きになり、自分でもそれなりにハリの あると思う尻を大喬の方へクイっと突き出す。大喬の両手が孫策の尻肉をがしりと掴 む。 「……うぅ……は、はやく……んっ」  ふらふらとしながらも徐々に孫策へ向かって前進する大喬。  その両手は本当に力ないとは思えない程にギュッと孫策の尻を掴んでいる。そこ から大喬は、孫策の腰にある二つの山をぐいと左右に引っ張った。 「んっ……そろそろ……ね」 「はぁ、はぁ……雪蓮さまのお尻の穴、いつ見ても可愛いですね」  そう言って大喬は尻朶の間にある陰花へと口づけをする。 「ひゃんっ、うぅ……んっ」孫策が小さく悲鳴を漏らす。これもいつものこと。何度され ても孫策は慣れないのだ。 「ちゅ……んっ、はぁ、雪蓮さま……はぁ、ん……じゅ」  大喬が陰花を揉むように口先をもごもごと動かし、その中心部にある穴へと舌を挿 入する。舌のざらざら感が孫策へ刺激を与える。また、送り込まれる大喬の唾液によ って陰花が湿り気を帯びていくのを孫策は感じた。 「んっ……大分、ほぐれて来ましたね……それじゃあ、そろそろ」 「んっ、そうね……」 「でも、最後に……じゅじゅっ」口を離さずに大喬が思いきり吸引した。 「ひあっ!?」油断したところだったために孫策は思わず声を漏らす。 「ふふ……それじゃあ、今度こそ」  僅かに余裕を持ち始めた大喬が、孫策の尻にある谷間でひくひくと小刻みに震え る陰花へと分身をあてがう。 「はぁ、はぁ……んっ」息を乱しつつ大喬が孫策の中を進む。 「ふ、くぅ……うぅん……はぁっ!」大喬が一歩一歩進む度に孫策は声を漏らす。  そして、ついに大喬の根本が孫策の尻肉へとぶつかり、パァンと音がした。 「そ、それじゃあ……動きます……ね」  大喬は、孫策が頷く前に既に動き出した。  大喬の腰が前後し、孫策の尻肉をこぎ見よい音を立てながら打つのに合わせて、 中では大喬の分身が激しく暴れる。 「んくっ……はぁ、いいわよ……んふ」 「し、雪蓮さま……ふ、うんっ……あっ」  一瞬、大喬の動きが止まる。恐らくは快感に酔いしれかけたのだろう。何故なら… …孫策が尻にぎゅっと力を込めて大喬の分身を締め付けたのだ。  だが、すぐに動きを再会する。それでも、大喬の息遣いに先程までよりも喘ぎが混 じり始める。 「ん…………だめぇ、つよすぎれす……くぅ!」 「ほらほら……はぁ、はぁ……どうしたのよ?」  対数分前と後主逆転。冉戯同様、孫策が有利になる。大喬の意識が昂ぶり孫策 の尻を突くこと以外を忘れかけた瞬間に陰花を絞めて大喬を責める。  その繰り返しをする内に再び大喬が孫策の背中や寝台上に涎をまき散らしながら 口を開いた。 「も、もう……げんかい……げんかいぃぃいい! れ、れちゃう! れちゃいまひゅう うぅぅうう!」 「い、んぅっ……いいわよ! 来なさい、わ、私ももうイク、イッちゃうわ……くぅ、いっ!  んんんんんー!」  そして、大喬の分身が最後の膨張をし、全てを解き放った。同時に孫策の頭の中 で火花が散る。終わりにはいつも視界がこうなるのだ。  孫策の視界が霞に覆われている中、大喬が背中にもたれかかるのを感じた。 「……んぅ……ふぅ、ふぅ……ひぅっ」  倒れ込んだ際に両胸にある小豆のような乳首が擦れたらしく軽く息を呑む大喬。 そんな少女を愛しく想いつつ、彼女を背に乗せたまま孫策は寝台に俯せで寝そべ る。 「……ふぅ……んっ……あ、ありがとね……大喬ちゃん」  孫策は未だ陰花の中に大喬を抱いたまま、ウトウトとし始めた。  大喬の温もりを未だ躰で感じているからだろうか、ぼんやりとする頭に初めて大喬 と閨を共にしたときの会話が思い起こされる。  それは、孫策が初めて大喬と行為に及び、その余韻に浸り互いに落ち着きを取り 戻したときのことだった。  寝台の上で大喬を腕の中に治めたまま孫策は口を開く。 「ねぇ、大喬ちゃん」 「は、はい。なんでしょうか、孫策さま」行為を終え、気分が落ち着いたためか緊張で 声が上ずっている。  大喬……そして、妹の小喬という双子の姉妹、彼女たちは所謂踊り子をしていた。  二人揃ったときの何者にも及ぶことの出来ない美しい舞に、巷では"二喬"という 二人の総称すら出来ていた。それを孫策、周瑜が見初め、自分たちの元へと誘っ た。  孫策と周瑜は身分を明かさずに口説いた。それ故に二喬は普通に接してきた。だ が、口説き落とした後に孫策たちが本当の事を教えると、二人は大層な驚き様を見 せ、妹の小喬はまだしも姉の大喬に至っては恐縮しきってしまっていた。 「あぁ~その、話の前に一つ」 「孫策さま?」小首を傾げながら大喬が孫策を見つめる。 「雪蓮」 「はい?」 「だーかーらー! 私の事は雪蓮って呼びなさい」 「え! そ、そんな恐れ多い……」  両手を慌ただしく振りながら大喬が顔を左右に振る。その様子に孫策は頬をぷく っと餅のように膨らませる。 「むぅ~! 雪蓮なの!」 「で、でもぉ~」 「はぁ、あのね……大喬ちゃん」  孫策は一度気を引き締めながらも穏やかな表情で大喬を見つめる。 「あなたはもう、私の大切な家族なわけ。だ、か、ら、私の事も真名で呼ばないと、ね? 」孫策はそう言って大喬に微笑みかける。 「……そ、それじゃあ……し、雪蓮さま」  大喬は頬を赤めながら見上げるような上目で恐る恐ると言った様子で孫策の真名 を口にした。 「んもぅ~可愛いんだから~」思わず大喬を抱きしめる孫策。 「雪蓮さま……私、凄くうれしいです」大喬も抱きしめ返す。 「ふふ、もう他人行儀な呼び方はダメだからね」 「はい」  本来ならばここで大喬の真名の話になりそうだが、孫策はそこには触れなかった。 知っているのだ、彼女は。大喬、小喬の二人はとある事情で真名がないことを。  理由もあるため、真名についての話を終え、孫策は大喬を見つめながら元々の話 題へと移る。 「それで、本題なんだけど」 「そういえば話がありましたね」  孫策は、一先ず大喬にしていた腕による拘束を解いた。そして、彼女が窺うように 孫策を見つめるのを確認すると再び口を開いた。 「なんで、前を断るわけ?」訝る孫策。 「え?」対して、大喬は首を傾げる。 「前よ、前……ここよ」  抽象的な言葉ではわからないかと、孫策は僅かに両脚を開き、その中心部にある 淫猥な花園を指さした。それを見た大喬の顔が一瞬で朱に染まる。 「ねぇ、どうして?」 「そ、その……やっぱり、前は……大事な人にしてもらうべきだと思って……」 「その大事な人が大喬ちゃんなんだけどな~」 「いえ、そうじゃないんです……私にもよくわからないんですけど」  そこまで言って大喬は浅く深呼吸する。孫策はただ黙って彼女を見つめて先を待 つ。 「えぇと……ですね。きっと、私と雪蓮さまを同時に愛してくれる人が現れる……そん な気がするんです」 「うぅん……でも、その……ね、大喬ちゃんってほら……特殊だし……」  正直、言っていいものか迷いながらも孫策は濁しながらもそのことを意見した。そう、 彼女の特徴の一つについてだ。  だが、大喬は大して動揺もせず、ただ静かに首を振る。 「確かに、そうです。きっと、私の真実を知って真正面から受け止めてくれる人なん てそういないと思います」 「でしょ……なら、やっぱり、思い違いってだけなんじゃ……」 「いえ、私の全てを見ても微笑んでくれる人がいるんです。例えば、そう……私と小 喬ちゃんのどちらも愛することができる……そんな人がいるんです!」  何故か、大喬の瞳が強い光を放つ。まるで、絶対的な証拠を持っていて自信にも 満ちあふれているかのようだ。あまりの気迫に孫策は息を呑む。 「ちょっと……どうしたのよ」大喬が強気な発言をしていることにわけがわからなくなり 孫策は眉をひそめる。 「すみません……私にもよくわからないんです……でも、確信めいたものが私の中 にあるんです……」 「ふぅん……私と同じようなものでもあるのかしら……?」孫策は大喬に言うわけでも なく一人呟く。 「そ、それにですね……何故か、雪蓮さまのことも不思議と信じられたんです…… その、初めてあった時から」 「あら、嬉しいこと言ってくれるわね」 「その理由も同じなんです、雪蓮さまたちと一緒に行けば私たちは幸せになるって ……そういう気がしたんです、あの時も……それも、私だけでなく小喬ちゃんも」  大喬の言葉に孫策は内心、信じても良いのかもしれないと思った。何故なら、彼 女の勘が告げているのだ、目の前の少女の言葉に嘘も偽りもない、真っ直ぐな言葉 だと。 「そっか……それじゃあ、信じないとね」 「え? 信じてくれるんですか?」  目を見開き、信じられないといった様子で大喬が口元を抑える。その様子を雪蓮 は可笑しそうに笑みを零しながら見つめる。 「当たり前でしょ……それだけ真剣な顔で言われちゃ……それにね、私ってさ…… 結構すごいのよ?」 「すごい……ですか?」 「そ、私の勘は良く当たるの! その勘が大喬ちゃんは嘘言ってないって訴えかけ てくるのよ……ふふ」  孫策は、自分の勘は良く当たると自負していた。もっとも、それ以前に大切な存在 となった少女を信じたいという想いがあったわけなのだが、それは黙っていた。 「ありがとうございます……その、信じてくださって」そう言うと、大喬は満面の笑みを 浮かべた。 「いいのよ、まったく……可愛いんだから」  明るい表情になった大喬の頭を撫でながら、孫策は思う……大喬のいう人物とは どんな者なのか、本当に自分たちを受けとめることができるのかと……。 † 「ど、どこだ。ここは……」  気がつけば暗闇の中、周瑜は一人佇んでいる。自分が発している声だけが自身 の聴覚を刺激する。他はまったくの無音、そして、視界もただ闇に覆われた状態… …まるで瞳が機能停止してしまったかのように……。  自分が何処に立っているのか、またどの方角を向いているのかすらわからない。 自らの姿も見えず、自分の存在を感じることが不安定になっていく。そんな折、どこ からともなく声がする。 「おい、聞こえるか?」 「……だ、誰だ!」声を張り上げて辺りを見回す周瑜。  だが、やはり辺りは闇……それでも、気配はある。 「ふん、今は俺のことなどどうでもいいだろうが。それより、周公瑾。お前はこの世界 の真実を知りたくはないか?」 「真実……だと?」  周瑜は訝りながら声のする方を見据えようとするが、声は四方八方から聞こえてき ているようにも感じ、どこからしているのか特定できなかった。やむを得ず、周瑜は 視線を宙へと漂わせた。  声から判断すると少年……もしくは青年といったところだろうと周瑜は判断する。だ が、やはりその姿はどこにも無い。  何度も姿を目線だけで探る周瑜に特に反応も見せず、声は淡々と語りかけてくる。 「そうだ……お前や孫策……それどころか、貴様たちのいる世界において北郷一 刀以外に知る者はない……いや、奴もまだ知らないのか? まぁ、なんにせよだ… …知る者の少ない隠された真実だ」  途中で出てきた名前に周瑜の心臓が一際大きく脈打つ。それでも、相手にそのこ とを気取られぬよう表面だけは冷静さを保つ。もっとも、何も見えないため自分では 確認のしようなど無いが。 「姿も見せぬ者の言葉にこの周瑜が乗るとでも?」 「乗るかどうかは貴様の好きにすればいい。俺はただ、お前に真実を見せなきゃな らないだけだ」  周瑜の言葉にさも興味あらずといった様子の返事をする声の主。 「おい、一体何を言って――」意味が分からず周瑜が訊ねようとする。 「えぇい、まどろっこしい! いいから、見ろ!」  周瑜の声を遮って苛立たしげに声がそう叫ぶと、辺りが光に包まれていく。今まで 黒一色だった周瑜の視界があっという間に白色へと塗り替えられていく。  そして、周瑜の意識もその白い光に溶け込んでいくように薄れていった。 †  微笑ましい過去を思い出しながら孫策はいつの間にか眠ってしまった大喬へと視 線を巡らせる。  大喬との初めてを体験した日以降、様々な男に出会うことがあった。だが、大喬の お眼鏡に適うような者はいなかった。てっきりすぐにでも現れると思っていた孫策は それに対して拍子抜けしたものだった。  そんな孫策には、大喬のように他者とは違う特徴があった。それは、戦闘を行うと、 血が昂ぶり、それを沈めるためには性的な方法を取らねばならないということだった。 もちろん、大喬はそんな特徴が孫策にあることを知ったときは大いに驚愕していた。 だが、それでも昂ぶる彼女を優しく受け入れてくれた。  それ故、孫策は何度も大喬と閨を共にしてきた。だが、大喬は一度として孫策の 中心部を貫こうとはしなかった。何度か、孫策が入れようとしたがことごとく大喬に却 下されたのだ。  また、あまり強引に行おうとして大喬が拗ねてしまったこともあった。  やはり、受け入れる者の出現を信じ続けているのだろう……指に絡めたりして少 女の髪で遊びながら孫策はそう思う。 「まさか……冥琳の言ったとおりというわけでもないだろうし……」孫策はぽつりと呟 く。  親友でもあり大喬と同じように愛する対象であり、また、家族でもある周瑜。彼女は 至って冷静に物事を見る。  故に、大喬の言ったことをそれとなく話しても「白馬の王子様というのが遠い国に いるらしい……なんでも、神聖さを持っていて、とても紳士的なのだそうだ。雪蓮の 言う少女というのが誰を指しているのかはわからないが、きっと、白馬の王子様とい う存在を待ち望んでいるだけ……つまりは、夢見がちなだけなのだろう」と歯牙にも 掛けない様子であしらわれてしまった。  本当に大喬がただ白馬の王子様を夢見ているだけとは孫策には思えない。彼女 の真剣な眼差しを受けたのだから。そして、周瑜には話していないこともあったから だ。  そんなことを思い返していると、雪蓮の横で熟睡している大喬の口がもぞもぞと動 く。 「うぅん……雪蓮さま……」 「ま、いいか」  雪蓮にとってみれば、何もかもが関係ないのかもしれない。ただ、この愛すべき少 女、そして家族たちと共にいれるだけで十分満足しているのだ。  だから、大喬が信じていることがあるならそれを信じればいいとも思う。何しろ、孫 策自身、孫呉の復興という夢を叶えることが出来ると信じているのだから……。 「でも、それにはやることやらなきゃね」  孫策は、次なる戦……呉郡にいる"東呉の徳王"と称する厳白虎を相手とするもの を思い描く。それだけで、不思議と体中の血が沸き立ってくる。その熱を感じながら 孫策は窓から空を見る。 「そう……夢ばっかりとはいかないのよね」  そう、理想だけでは駄目なのだ。それを孫策は知っている。理想だけ、現実だけ、 そのどちらも間違っていることを孫策は知っているのだ。  理想を追い求めるから人は走り続けることが出来る。また、現実を見るからこそ自 分の足下に広がる大地をしっかりと踏みしめることが出来る。  そうして、人は人生というものを駆け続けるのだ。孫策に流れる孫呉の血は、その ことをよく感じさせてくれる。戦場で馬を走らせて駆け回っている時も、今、自分は夢 のために動くことが出来ている……そんな想いに満たされるのだ。そして、全身が 高揚感に支配されるのだ。 「だけど……大喬の白馬の王子様はどうしようもないわよね」孫策は苦笑混じりに呟 いてみる。 「か――さん……」 「え? 大喬ちゃん?」 「すぅ……すぅ」 「なんだ、まだぐっすり寝てるのね」  背後で、大喬が呟いた言葉を寝言だと判断し、孫策は再び夜空を眺めた。 †  その夜は異常に暑苦しく感じた。その証拠に周瑜の身体をいくつもの汗が走って いる。彼女の黒々とした長い髪が孫呉の人間特有とも言える褐色の肌に張り付く。  そして、荒ぶる息によって眼鏡に曇りが生じている。 「はぁ……はぁ……」  妙な圧迫感を胸の奥底に感じながらも周瑜は目の前の男を見る。いや、見させら れる。 「こんばんは――美周郎殿」 「……誰だ、貴様は」  自分の口から出る言葉。それは周瑜自身の意思で発している言葉ではない。そ の証拠に今周瑜が感じている苦しみが声に現れていない。それに寸前まで感じて いた汗や纏わり付く髪の気持ち悪さが無くなっていた。  いや、それ以前に意識だけがまるで身体と切り離されたかのような感じがする。そ う、かつて目を通したことのあった文献に書かれていた幽体が抜け出てしまうと言う 事象のように。もっとも、現在の周瑜は肉体にすっぽり収まってはいるのだ、だが身 体は言うことを聞かないと理解しがたい状態だった。 (何だ……これは)  自分であって自分でない……そんなよくわからない事態に陥りながらも彼女は必 死に考える。常人ならば、全ての抵抗を投げ出し、流れに身を任せてしまうか、はた また狂ってしまいかねない……それ程までにいまある状況は異常であり、胸の苦し みもまた常軌を逸していた。  だが、周瑜は常人とは違った。その明晰さと孫呉の人間として生きる者が持つ豪 毅な本質が彼女をギリギリのところで狂気に満たされるのを踏みとどまらせている。  正体不明の苦しみに周瑜が堪えている間も目の前の男――耳へかける部分の無 い眼鏡をしており、黒髪を左右と後ろへ流している道士――と完全に今ある意識と 切り離された周瑜との会話が交わされていく。  だが、苦しさと異常事態に飲み込まれた恐怖に耐えていた周瑜にはその多くを聞 き取ることは出来なかった。 「――時間の無駄だ」  会話をしている方の周瑜が何かの問いに対してだろうか、そう答えた。 「北郷一刀のことだとしても?」 (!? 北郷……一刀だと?)  その名前に周瑜は興味を引かれた。北郷一刀という存在はあの反董卓連合の時 に見て以来、周瑜の心にひっかかり続けていた。  あの時、おかしな事に周瑜は北郷一刀に対して曲者だという認識を持っていた。 そして、その"勘"を不思議といつまでも覚えていた。普段ならば勘などと言うものは 不思議と良く当たる孫策のものくらいしか信じないし、これまでも余り信じてこなかっ た。なのに、周瑜は北郷一刀を見た時に抱いた勘に対して、何の迷いもなく「その 勘は間違いないことだ」という自身の直感を信じてしまっていた。 「……ほお」  今ある意識とは別に動いている周瑜も道士の言葉にまんざらでもない様子を見せ る。 (この私も警戒をしているのか……北郷一刀はそれほどまでの男なのか?)  自分の勘が間違っていない……それがこの周瑜から伝わってくる。いま身体の持 ち主となっている周瑜と北郷一刀の間に何があったのかはわからない……ただ、少 なくとも北郷一刀という名を聞いてすぐに反応を見せたことから考えるに彼女の頭の 中にしっかりと刻まれているのだろう……何故ならば、それはある意味自分のことだ からわかるのだ、意識のみとなっている周瑜には。 「ふふっ、興味を示されたようですね」  男が不適な笑みを浮かべながら周瑜を……会話の相手となっている周瑜を見据 える。 「……良いだろう。試しに言ってみるが良い」  そう会話をしている周瑜が告げると道士はゆっくりとその意味を周瑜に噛みしめさ せるように語っていく――。 (う、嘘だ……そんなことがあるはずは……)  周瑜は道士の話にただ呆然とするしかなかった。まるで、頭の中における思考能 力が落ち、すべての機能が停止したかのように何も考えられなくなる。ただ、速く打 つ鼓動の音のみ――おそらくは意識だけがある方の周瑜のものだろう――が彼女 の耳に届く。  そんな彼女とは裏腹に、会話をしている方の周瑜は未だ冷静なままである。 (いや、それが普通なのだろうな。いまの……"こちらの私"がおかしいのだろう)  そんなことを意識のみの周瑜が思っている間も、周瑜と道士による言葉による駆け 引きが行われていた。  そして、一先ず話が纏まったのだろう……会話をしてる方の周瑜が道士に名前を 尋ねる。 「ふむ……貴様、名は何という」 「我が名は于吉。以後、お見知りおきを……」 (于吉!)  道士の名前を聞いた瞬間、意識のみとなっている周瑜に電撃が走る。何かが周 瑜の中で叫び出す。まるで街のどこかで忘れ去られた幼子が必死に親を呼ぶよう に気付け、気付いてくれと喚いている。 (……ぐ、なんだこれは……)  周瑜を呼ぶそれは一つの記憶。なにか忘れていることがある……それが思い出 せと周瑜に語りかけている……そんな気がしてならなかった。  その記憶の自己主張によるものなのだろう、周瑜は頭が割れそうなほど痛むのを 感じた。 「――追い風が吹くことになるのでしょう」  いつの間にか会話が進んでいたらしく、于吉が丁度周瑜に何かを言うところだっ た。 「亡き親友の遺志を継ぐための風が――」 「下郎が――」  再び頭痛に襲われ、二人の話声が遠くなっていく。 (これは……なんだ……何を言っているのだ、この于吉という男は……それに私は ……いや、この周公瑾は何を怒っている?) 「――そろそろ考えてみてはいかがですかな?」 (何をだ……)  必死に頭痛に耐えながら周瑜は于吉を見据える。もう一人の周瑜も黙って于吉を 見ている。  鋭い視線を突き刺されても薄い笑いを浮かべ続けながら于吉が口を開く。 「友が目指した覇王への階を歩んで行くために」 (友……覇王? なんのことだ?)  さっぱり意味がわからない……いや、おおよそ推察はできるがその答えが明確に 合っているとは言い難い。何せ、意識のみとなっている周瑜にはそれが信じられな いのだから。 「…………」  頼みの綱であるもう一人の周瑜も今は黙り込んでいる。そして、于吉が最後に周 瑜に声を掛けて姿を消した。 「雪蓮……私は……」  空を見つめながらそう呟いた周瑜の言葉、そしてその瞳に込められた切なげな光 に、意識のみの彼女は自分が抱いた予想が会っていることを確信した。 (この私の傍に彼女はいないのだな……)  この周瑜の想いが不思議と意識のみとなった彼女にも伝わってくる。悲しみ、戸惑 い、迷い、恋しさ、懐かしさ……ありとあらゆる想いが混ざり合ってしまった"ソレ"が 自分の心に同化していく。  それを感じた瞬間、周瑜の意識は薄れ始め、辺りは再び闇に覆われていく。その 時、何か会話が聞こえた気がした。 「ふむ……今回――ここ――でのようですね――左慈」 「ふん、これで限界とは――惰弱なものだな。所詮は――か」 「おやおや……貴方も人の事など――」 「うるさ――すぞ――ゲイ――郎」 「貴方にこ――されるなら、それは――栄なこ――です」 (何を言ってる……?)  二人の会話に耳を澄ませようとするが、周瑜の耳にはもう届いてはこなかった。 「はっ!」  閉じていた瞼を思い切り開くと、そこは周瑜の自室だった。 「……夢、か」  不思議な夢だった、そう呟こうとしたところで周瑜は気付いた。己の両瞳から涙が 流れ続けていることに。 「これは……」  止めどなく溢れる雫に思わず手を触れようとした瞬間、傍で何かが動いた。 「……冥琳さま?」 「誰だ!」 「ひっ」周瑜の傍に居た何者かが息を呑む。 「む? 小喬か……どうした?」 「い、いえ……その、お疲れなんじゃないかと思って少し様子を見に……」  未だおどおどとした様子で周瑜の顔を俯きながら窺っている小喬に周瑜は口元を ほころばせる。 「ふふ……悪い。少々寝覚めが良くなかったのだ」 「い、いえ……そんな冥琳さま」  首が取れてしまいそうなほど勢いよく首を振って小喬が否定する。その様子が愛 おしく感じ、周瑜は小喬を抱き寄せる。 「め、冥琳さま? んっ……」 「くちゅ……んっ……ちゅっ」  静かな部屋の中、二人の口元か発せられる水音が鳴り続ける。それはどこか官能 的であり、それがまた二人を一層燃えたてる。  そして、小喬の瞳がそのまま消えてしまうのではないかと思える程に蕩けきったとこ ろで周瑜は唇を放した。  二人の間に銀色の橋が架かる。それを舐め取ると周瑜は小喬の頭を撫でる。 「ありがとう、小喬。随分気が楽になった」 「……ふぁい」頬を朱に染めた小喬は未だぼっとしている。 「ふ、本当に感謝するぞ」  そう、周瑜は小喬に救われていた。実際、先程まで……夢から覚めたばかりの頃 は周瑜の胸には妙な不安感と何かに迫られる緊張感が残っていた。そして、あろう ことかそれらの感情に周瑜は押し潰されかけていた。  だが、小喬の……他者の温もりを感じたところで、その想いは内心における規模を 縮小していった。 「冥琳しゃま~」小喬が周瑜にしな垂れかかる。 「ふ……どうやら、口吻だけでは満足できなかったか」 「……あ、その……」  急に小喬はもじもじとしだし、両手を腿の付け根に挟み込み上目で周瑜を見つめ てくる。 「もう少しで、一区切りつく。それからだな」 「……はぁ……い」  返事をすると小喬はふらふらと頼りない足取りで寝台へと向かった。そのまま彼女 が寝台に腰掛けるのを見届けると、周瑜は私語を再会した。 「どうやら、まだまだ夜は長いようだな」  そんな周瑜の影が灯りによってゆらゆらと揺らいでいた……まるで彼女の精神状 態を表すように。 †  鄄城の玉座の間……深夜にも関わらず二つの影が蠢いている。玉座に座る人物 の足下からぴちゃぴちゃと水音が部屋中へ飛び、静かな空間に一際大きく響き渡 っている。 「ん……ふぅ……ぺろ……ちゅっ……はぁ」 「ふふ……随分といやらしくしゃぶりつくわねぇ」  玉座に座る曹操は足下に跪いて自らの足の指を口に含んでいる荀彧を見て口角 を吊り上げる。 「あぁ……ちゅちゅ……華琳ふぁまぁ……んぅ」  指の一本一本に舌を丁寧に這わせていく。それがまたくすぐったくもあり、荀彧の 口からあふれ出ている指が彼女の涎でびちょびちょになっているために、夜のひん やりとした空気を一層際立たせている。 「んぁ……くふぅん!」  わざと脚を突き出し喉の奥へと足を押し込むと荀彧が呻きながら躰を震わせる。そ れに合わせて彼女の淫裂、そして、その後方にある菊の陰花……それらに差し込 まれた絡繰りが上下する。  荀彧に差し込まれた絡繰り……それは棒状でありながら先が膨らんでおり、機能 としては振動するというものだ。また、片方に限ってはさらにうねりが追加されている。  この荀彧を貫きいじめ通す棒形の絡繰りは李典――真名を真桜という――の作 品の一つだった。彼女は絡繰りを作る点においては非常に優れており既に様々な 発明をしていた。もちろん、戦場での活躍も曹操は買っているが……。  ただ、問題点もある……それは李典が夜な夜な何か部屋で作っているため初め て夜警にあたる兵を怖がらせてしまうのだ。そして、彼女は何を作っているのか曹操 にも秘匿している。 「あぁいうのを職人気質と言うのかしらね」 「あぁぁ……ふぁりんふぁまぁ……んっくぅぅううう!」  急に甲高い声を上げてびくびくと躰を上下させる荀彧に曹操は視線を下ろし、彼 女を見つめる。どうやら考え事をしている間、無意識に荀彧の口腔内を脚でかき回 し続けていたらしい。  それが荀彧のお気に召したのか……はたまた溜まりに溜まったモノが決壊したの かは分からないが、彼女は絶頂を迎えた。 「はふぅ……ぅぅ……くぅ、まだ、動いて、ひぃっ」未だにナカで動き続ける二つの絡繰 りに荀彧の口から涎と悲鳴に似た喘ぎ声が僅かにあふれ出る。 「あらあら、まだまだ欲しがっているのかしら」  さて、次はどう責めようかと曹操が思いを巡らしていると、扉が開かれ、一つの影 が早足で歩み寄ってくる。 「そう――おほん、華琳さま……うっ!?」  曹操を睨み付けるようにその切れ長の眼を一層鋭くした郭嘉が急にうめき声を上 げて立ち止まった。 「あら……稟。何の用かしら?」 「そ、それは……いえ、それ以前に何をしておられるのですか!」  曹操の質問には答えず、郭嘉は逆に質問を口にした。 「何って……ナニかしらね?」 「なぁっ……あ、貴女という御方は……」郭嘉がわなわなと両肩を震わせる。 「ふふ……なんなら、桂花と一緒に可愛がって上げましょうか?」 「ふざけないで頂きたい!」  顔を真っ赤にして郭嘉が怒鳴り声を上げる。その声が躰に響いたのだろう、曹操 の足下で転がる荀彧がびくりと跳ねる。 「あら、ふざけてなどいなわ……私はいつだって真面目なつもりよ?」 「そういう物言いがふざけていると申しているのです」神経質そうに眼鏡の縁を弄り ながら郭嘉が詰め寄ってくる。  そんな郭嘉の様子を見ても、曹操が抱く感想は恐怖でも驚愕でもない……という よりも興味が別のてんにあった。 (いつになったら……この初心さを捨てて閨を共に出来るのかしらね)  彼女と肌を重ねることを曹操は郭嘉の顔を見ながら考えていた。 「そもそも、玉座の間で臣下にその様な醜態を晒させるとは何をお考えなのか私に は理解しがたい」  そう言って郭嘉が荀彧へ視線を送る……未だ絡繰りに弄ばれている荀彧、下着を 足首に掛けている以外は何も付けて居らず、高揚感の表れであるかのごとく赤く染 まっているきめ細やかな肌を晒し、その線の細い小柄な肉体を引き攣らせている。 「……どこが醜態なのかしら」  曹操は荀彧から郭嘉へ視線を戻すと、疑問を抱いていることを素直に伝える仕草 として小首を傾げる。 「な!? 本気でそのようなことを申しておられるのですか!」 「えぇ……本気よ」 「こ、このような淫らな……卑猥な……うっ」郭嘉が苦しそうに俯く。 「あ、マズいわね……」  それが、何の兆候であるかを察した曹操は郭嘉に歩み寄ろうとする。だが、郭嘉 は曹操が近づくのを手で制止した。 「ぐぅ……ま、まだ……大丈夫……な故、心配はいりません」 「そ、そう……まぁ、いいわ。限界を迎える前に速く用件を伝えなさい」 「ふんぐぁ……ぐぅ……で、では」  鼻に詰め物をしながら郭嘉が曹操を見据える。真剣な目つき、表情だ。「でも、正 直締まらないわね」と曹操は内心で呟いた。 「華琳さま……ふが……劉備を……ふが……傍に置こと考えているというのは本当 なので……ふが……すか?」 「少し聞き取りにくいわね……まぁ、いいけど。そうよ、しばらく劉備は私の元に付け るわ……既に劉備にも確認を取ったから、もう"考え"ではなく"決定した事項"って やつね」 「ひかひ……劉備を置くというのは……ふがが……非常に……ふが、我が軍にとっ ての不利益が……ふがふが……多いのではないですか!」  激高して曹操に刺し貫くような視線を向ける郭嘉。その鼻の穴には二つの詰め物 ……やはりどこか間抜けだ。 「んうぅ……こ、こぇえが……ひうっ!」 「桂花……うるさいわよ」  再び郭嘉の怒声に反応して声を漏らす荀彧に注意を促すと、曹操は郭嘉をじっと 見つめる。 「それで、なんの話だったかしら?」 「ふがが! おほん、ですから……劉備を置いておくだけでも……ふが……民衆の 心が彼女に移る可能性は高い、ふが。それにも関わらず、貴女は劉備を側近のよう に扱われる……いや、それ以上に近い位置へ置こうと考えておられる……それこ そ愚の骨頂というもの。どのような風評がたつかわかっておられるであろうに。では、 何故そのようなことをなさるのか! ふがががが!」  興奮しすぎであるがために、郭嘉の最後の一言が全く持ってわからなかった。曹 操がそれを瞳で訴えると、郭嘉は再度、咳払いをして口を開いた。 「何故そのようなことをなさるのか、お教え願いたい!」 「ひぅん! くはぁぁああ!」曹操より先に桂花が反応を示した。 「桂花!」  あまりにドタバタと五月蠅かったため、曹操はピシャリと荀彧を叱りつけた。それに 反応して荀彧の躰が跳ねる。 「ひん! う……」  限界の限界を迎えたらしく荀彧がすっかり黙り込んだ。気のせいか、ぐったりして いる。 「さて、静かになったわね」 「え? いいのすか……コレ」郭嘉が視線を向けないようにしながら床に寝そべるも のを指さす。 「えぇ、かまわないわ……それより、話を続けるわよ」  僅かに戸惑う素振りを見せた後、郭嘉は床の存在をなかったことにするかのように 真っ直ぐと曹操を見てきた。曹操も、郭嘉を見つめ返し、言葉を発する。 「稟……確かに、貴女の言うことも、もっともだわ」 「な、ならば!」 「待ちなさい。貴女の危惧することも確かにあるとは思う……でも、本当にそれだけ だと思っているのかしら、稟」 「う……」郭嘉が僅かに身を退きかける。 「……少なくともそれにも勝る利得があると私は思うけれど、どうかしら?」 「そ、それは」郭嘉が口ごもる。 「それに、劉備を邪険にしたらそれはそれで私の風評が落ちるのではないかしら?」  そう、劉備を傍に置けば置いたであらぬ話をでっち上げる者が現れ、悪評をばら まく恐れもある。だが、それはあくまで噂にすぎない。だが、ここで劉備を警戒して疎 遠にすれば、それこそ悪評に対する裏付けとなるだろう。そして、それを知った民衆 は実際の事として受け止めることになるだろう。  これまで、新たな知識などを動員し、自国を栄えさせた。中でも屯田に関してはな かなか上手くいき、民衆の指示も得ることに成功してきた。  だが、ここで劉備との関係を拗らせ民衆の心を放してしまったら取り戻すのは非常 に難しくなるだろう。  もちろん、曹操はその辺りも考えていた。そして――目の前の聡明な少女もそれ は同じなのだろう。  その証拠に、郭嘉は黙り込み、瞳を閉じて何か考えを巡らせている。 「…………」 「そんな難しい顔をしないで。冗談よ。別に稟を責め立てるつもりはないわ」  恐らく、郭嘉は何も反論できないこと、そして、非を認めざるを得ないことを理解し つつもまだ何かあるのではと足掻き、思考の迷宮へと落ち込んでいたのだ。だから、 曹操はその迷宮から郭嘉を引っ張り出した。 「華琳さま……いえ、やはり私の考えが浅はかすぎました、ふが」 「そう……」  予想通り、素直に謝罪することを選んだ郭嘉に曹操は微笑む。そして、言葉を重 ねる。 「まぁ、今回のことはそうねぇ……閨でしっかりと返してもらうことするわね」 「えぇ……いえ、ほ、本日の所はこれにて失礼!」  顔を真っ赤にして、郭嘉が部屋から出て行った。扉が閉まる寸前に赤い噴水のよ うなものが見えたが曹操は気にしないことにした。 「それよりも……」視線を床へ巡らす。 「…………くふっ……すぅ」  破顔して、敢えて表現するならば"にへら"といった表情で気を失っている荀彧。そ の下半身にある二つの淫靡な穴からはいつの間にか絡繰りが滑り出ていた。それ を拾い上げると曹操は口元を緩める……いや、歪める 「…………ふふ」 「……っ! ひぎぃ!」  無意識の状態で再度挿入された絡繰りに荀彧の背が反り返り、彼女は口から甲 高い声を張り上げた。 「まだまだ……夜は長いわよ……」  そう呟くと、曹操は意識を取り戻したばかりで状況が飲み込めていない荀彧を背 後からがっちりと両腕で抱きしめた。  そう……曹操と荀彧の夜はまだ明けてはいない。