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864 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:15:46 ID:w8aOeS4x0
わたしの名はメーテル……クリスマステキストを投下する女。

何事も無ければ22時30分より桃香予定よ、鉄郎。
866 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(1/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:31:49 ID:w8aOeS4x0
 美羽の朝はそれほど早くない。
 夜は早かろうが眠くなったら気ままに寝るのだが、朝は誰かが起こしに行かない限り、昼近
くまで起きてこないのだ。
 そして、そんな彼女を起こす仕事は、ただ起こすだけに終わらない。
 かの美少女君主様は、寝起きしばらくは「うにゅ」と鳴くだけの可愛らしくも無力な生き物
であるので、顔を洗う、歯を磨く、服を着替える、朝食をとる、その他さまざまな支度、これ
ら一切を世話してやらねばならないのだ。
 このなかなかに大変な朝のお役目は、以前は七乃が一人で行っていたものだが、今は月と七
乃が日替わりで交代して行っている。
 当初七乃は『お嬢様のお世話は私がするんですっ!』と言い張ったのだが、袁家を中心とす
る勢力の規模も大きくなっており、それによって仕事も増え、彼女自身相当に忙しい身の上に
なってしまっている。現実問題として毎朝の時間、美羽にべったりとくっついているのは難し
くなっているのだ。
 これはなにより、以前とは違ってその仕事をきっちり監視監督しているお目付の軍師もいる
のが大きい。
 それでも要領良くほどほどに手を抜きつつも、きっちり片付けて美羽に構う余裕があるあた
り如才ないのだが、やはり多忙には変わりなく毎朝美羽を起こすのは物理的に不可能だ。
(なお、彼女とは正反対に、真面目にかっちり仕事をこなすが故に、時間を上手にやりくりで
きないのが陳宮である)
 一方、月に関しては美羽自身も彼女のことを気に入っており、月も美羽のことを自分の妹の
ように可愛がっていることから、美羽の世話係としてはこれ以上望めないほどの適任者であっ
た。
 それでなくとも洛陽の都で窮地を救われ、その上生きていく場所まで作ってくれたことを、
月は深く感謝している。
 美羽に関する苦労なら、買ってでももしたいというのが正直なところなのだ。
 そういうわけで、月は多忙を押して世話する七乃と、交代で朝のお勤めを果たしていた。
868 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(2/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:35:26 ID:w8aOeS4x0
「何の音かな……?」
 月が疑問を漏らしたのは、そんな朝の勤めを果たすために彼女の部屋の前に来たときだった。
 普段なら朝のこの時間、シンと静まりかえっているはずの部屋の中から、今日はなにやらド
タドタと物音がするのである。
 これが戦慣れした武将たちであったなら不審に思うところであったろうが、月は特に気にす
ることもなく戸を叩いた。
「美羽ちゃん、起きてるの……?」
 月は声をかけてから遠慮がちに戸を少し開け、そこからひょっこりと顔を覗かせた。
 すると中にいた美羽から、元気良く声がかけられた。
「おお、月か。今日もおはようなのじゃ!」
 朝、部屋の中でこんなふうに美羽から挨拶されるというのが既に異常事態だが、月が目にし
た部屋の中はもっと尋常ならざる様相であった。

 部屋の中には、既に着替えを済ませた美羽の他に、
『はっ!』
『ほっ!』
『せいやっ!』
『そいやっ!』
 と、かけ声を出して作業する、屈強そうな体つきをした男たちが数名いたのである。
 彼らは、美羽の部屋の窓に何かを取り付けようとしたいたり、天井に何かを取り付けようと
している。
「えと……美羽ちゃん?」
「ん?……おおっ!」
 月がやや怯えた視線を男たちに向けていることに美羽が気づくと、コホンと一つ咳払いをし
てから説明を始めた。
「こやつらは七乃配下の、親衛隊の者たちじゃ。今朝は少々頼み事があって来てもらっておる」
『『『『はっ! 我ら袁術様親衛隊、〔内装†無双〕であります!!』』』』
 男たちは美羽の紹介に呼吸を合わせ、一斉ぐるりと顔を向けて、黄金色に焼けた顔に無駄に
白い歯を輝かせて月に笑いかけた。
「へぅ」
 それは月でなくとも、悲鳴を漏らしてしまうのは仕方がない不気味なマッチョフェイスであった。
870 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(3/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:37:36 ID:w8aOeS4x0
 そして部屋の中。
 未だ男たちが作業する音がトンテンカンテン響いている。
 内装†無双の皆さんが作業する音をバックに、美羽と月は円机を前に並んで座っていた。
 円机の上には、美羽の朝食が並べられている。
 美羽の健康は勿論、目を楽しませることも考えられた、色とりどりのおかずが、何種類も少
量ずつ皿に乗せられている。
 無論、これらの献立を考えているのも七乃である。
「美羽ちゃん、今日は一人で起きられたんだね」
「うむ、今日はなにやら自然と早く目が醒めてしまってのぅ」
 それを聞いて月はにっこりと微笑む。
「うん、それはいいことだね」
 美羽が早く目覚めてしまった理由には月も心当たりがある。そこまで思い至って笑ったのだ。
月にとって美羽のこういう気質は実に好ましいものであった。
 だが、笑ってから思い出したように、部屋の隅で作業する男たちを見ながら月は問いかけた。
「……あの、それで、あの人たちは一体何なのかな……」
 美羽が早起きをした理由と、〔内装†無双〕の存在がどうしても結びつかなかった。
「うむ、こやつらは今晩の仕掛けを任せてあるのじゃ。次は卵焼きが食べたいの」
「仕掛け?」
 そう言って、月は箸で卵焼きを割ると、自分でまず一口食べて、何の問題もないことを確認
してから、残りを美羽の口元へ持っていった。
「あーん」
「はむ」
 毒味である。
 本来は毒味役が事前に箸をつけて、食膳に毒が盛られていないかを確認するものであるのだ
が、美羽の場合はこうして直前に毒味をするのが常であった。
872 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(4/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:40:37 ID:w8aOeS4x0
「今宵は大捕物があるのでな、その準備なのじゃ。次は魚が食べたいの」
「お魚だね。……はい、あーん」
「はむっ」
 加えて美羽は箸も持たない。
 流石にこれは甘やかしすぎかなと思わないでもないのだが、美羽自身別に箸を使うことがで
きないわけでもなく、他の者の目がある前では普通に食事を取っているので、別にこのままで
もいいのかなと最近は思っている月である。
「それで、大捕物って何をするの?」
「はむはむ……。今日は栗州升とかいう行事の日らしい」
「うん、そうみたいだね」
「一刀の奴の話では、なにやら栗州升の日に靴下をつっておくと、賛多黒臼なる怪人が真夜中
に部屋に忍び込み、密かに贈り物を置いていくらしいのじゃ! ……次は芋が欲しいの」
「はいはい」
 栗州升と賛多黒臼。その話は月も一刀から聞かされている。
 なんでも天の国の行事で、西の方で産まれた偉い人の誕生日を祝う風習らしい。
 天の国の行事をお気に入りの美羽が、今日それを言い出すのは予想の範囲内である。
「それでな、妾は気づいたのじゃ! 賛多黒臼を捕まえてしまえば、奴が配ろうとしている贈
り物を、すべて独り占めできるではないか! とな」
「……はぇ?」
 その言葉を聞いて、思わす掴んだ箸から美味しそうな芋の煮物がポロリとこぼれ落ちた。
「賛多黒臼は、靴下を吊した者、すべての前に現れるそうじゃ。つまり、き奴めを捕らえれば、
この世のありとあらゆるものが手に入るということなのじゃ!」
「えーと……」
 月は改めて、部屋の中を見回した。
 よく見れば、窓辺に設置されようとしているのは、侵入者の身動きを封じるトリモチではな
かろうか。
 よく見れば、天井に設置されようとしているのは、侵入者を捕らえる網ではなかろうか。
 そして更によく見れば、そんなものがこの部屋中、いたる所に設置されているではないか。
 その意味に気がついた月の笑顔が、小さく引きつった。
873 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(5/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:43:27 ID:w8aOeS4x0
 北郷一刀は確かに月に栗州升と賛多黒臼の話を教えていた。だが、月は美羽の口にした以上
の真実も聞かされていた。
 曰く、賛多黒臼の話は、子供だけが信じているおとぎ話なのだと。
 本当は賛多黒臼なんてどこにも存在しない。贈り物は親が賛多黒臼の代わりに子供に用意し
ているのだと。
 月はそれを聞いたとき、どうして子供にそんな嘘を教えるんだろうと彼に聞いたと。それを
聞かれた天の御使いである彼は、
『大人はさ、生きていくために嫌が応にも色んなことを知らなくちゃいけないんだと思う。だ
から子供の頃くらいは、夢を見た方が良いって思うんじゃないかな。そう思うから、昔子供だ
った大人は、子供のために幸せな嘘を教えるんだよ、きっと。今だけは、ってさ』
 そう答えて笑ったのを、覚えている。

 美羽はその真実に気づいていないようだった。
 彼女は無邪気に賛多黒臼が実在して、子供たちに贈り物を配ってまわるのだと信じている。
 そしてこのままいくと、罠に引っかかって捕まるのは、賛多黒臼ではない誰かに違いない。
 そのとき、美羽は一刀の言う『幸せな嘘』の真実を知るだろう。
 そこまで思い至ったとき、月は、
「あの……美羽ちゃん、そういうのは、いけないんじゃないかな」
 そう口にしていた。
874 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(6/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:46:37 ID:w8aOeS4x0
「うん? どうしてじゃ?」
「うーん。美羽ちゃんがそうやって賛多黒臼が捕まえちゃったら、贈り物をもらうはずだった
他の人たちは、どうなっちゃうのかな?」
「無論、妾が独り占めじゃから、何ももらえんじゃろうな」
「それって、もらえなかった人はとても悲しいんじゃないかな? 泣いちゃうんじゃないかな
?」
 心なしか責めるようになってしまった月の言葉。それを耳にして美羽は、はっとした顔にな
り、それから可愛らしく眉間にしわを寄せた。
「むぅ、それは確かに……、そこまでは考えておらんかったのじゃ」
「美羽ちゃんだって、誰かが独り占めしたせいでもらえなくなったら、嫌な気持ちになるでし
ょう?」
「む、むむむ……」
 諭されて、美羽が唸りはじめた。
 基本的に美羽はアホの子であるが、悪い人間ではない。
 言って聞かせればわかる程度の分別は持っているし、それを言うのが月や七乃なら尚更だ。
「確かに月の言うとおりじゃな……よし、決めたぞ! 月よ、妾は賛多黒臼を捕らえるのを辞
めるぞ!」
 拳を掲げて力強く美羽が宣言する。
 それを聞いて月もぱちぱちと小さく手を叩いた。
「うん、それが……」
 『いいね』、と言いかけたそのとき、月の言葉を遮って、突如として戸口がドパァンッ! 
と音をたてて開かれた。

「いけません美羽さまっ!!」
876 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(7/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:49:53 ID:w8aOeS4x0
 放たれた鋭い制止に、思わず二人の目がそちらに引き寄せられる。
 そこには軍服風ではあるが、プリーツスカートにニーソックスという、決して軍服ではない
袁術親衛隊の制服を着た女性が立っていた。
「七乃!?」
 そう、多忙を極めているはずの七乃である。
 二人が呆然としていると七乃はつかつかと中に入ってきて、胸の前で両手をきゅっと握って
左右に振る、『いやいや』の動作をした。
「いけません、お嬢様ともあろう方が、ただ贈り物を享受するだけだなんて! 全然、ぜんっ
ぜん! そんなのらしくありませんよ!」
「なんじゃとっ!?」
 その言葉に、雷に打たれたように美羽が硬直する。
「いや、だがしかしそうかもしれんっ……。七乃や、妾は一体どうすればいいのじゃ!?」
「きっともっと美羽さまに相応しい、冴えたやり方があるはずです!」
「なんとっ!?」
「……えぇとー」
 盛り上がる二人に挟まれて月が、声を漏らした。
 せっかく上手く治まりそうだったものが、ものの見事に台無しである。

「はっ!? そうじゃ、妾は思いついたぞ!」
「流石美羽さまっ! 思わず期待しちゃいますっ! で、何を思いついちゃいましたか?」
「うむ、賛多黒臼が独り占めするはずだった賛辞を、妾が奪うじゃ!」
「ええっ! そんな!?」
 さも驚いた風を装って言う七乃であるが、顔の方は実に楽しそうだ。
「妾が賛多黒臼の代わりに贈り物を配るのじゃ。さすれば何も知らぬ俗人どもは、本当は妾が
与えたものとも知らず、ただ賛多黒臼を褒め称えるに違いない! その実、妾を褒め称えてい
るとも知らずにの!」
879 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と賛多黒臼」(8/8)[sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:53:51 ID:w8aOeS4x0
「なあるほど! 美羽さま素敵です! 予算のことで後々詠ちゃんとねねちゃんが発狂する見
事にはた迷惑な思いつきですっ! しかもそれ、賛辞されてるの美羽さまじゃなくて賛多黒臼
なんですけど、面白そうだから言わないでおきますぅっ!」
「わはははっ! 良いぞ、妾をもっと誉めてたもっ!」
「いよっ、美羽さま! 三国一の策士っ!」
「そうじゃろうそうじゃろう。うはははは! よし、善は急げ、月も行くぞ! まずは配るも
のを集めるのじゃ!」
「へぅ……?」
「はぁーい。共犯者さま一名ごあんなーい」
「あ、あの……」
 おろおろとした月の手を、美羽と七乃が強引に引いていく。

 そんなわけで、袁仲はその日も平和であった。

 メリークリスマス!
881 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/12/24(木) 22:59:47 ID:w8aOeS4x0
わたしの名はメーテル……投下終了を告げる女。
クリスマスだけれども、今回もいつもの通り美羽と七乃よ。

さて、以前に予告していたようなしていなかったような「歌合戦」ネタなのだけれど、まさかのアニメ版とのネタ被りのため、公開を延期させてもらうことにしたわ……
手直しがすんだら、また報告に来るわね、鉄郎。

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