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492 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:34:07 ID:g1F0bfOE0
わたしの名はメーテル……遅刻してきた上、規制に巻き込まれた女。
10分後にハロウィンテキストを投下させてもらうわね、鉄郎。
終わったら、どなたかスレの方に転載していただけると嬉しいわ……
495 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(1/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:45:53 ID:g1F0bfOE0
「杷炉韻である!」
「杷炉韻だね」
「杷炉韻って何よ」

 夏も終わり、そろそろ肌寒くなってくる秋の夜長。
 王者の威風漂う、その絢爛なる部屋に、美羽、大喬、小喬の三人がいた。

「ふふん。小喬は相変わらず世間知らずじゃのぅ。どれ、大喬よ、不出来な妹に説明してやる
がよい」
「あのね小喬ちゃん。杷炉韻っていうのは、一刀さんがいた天の国の行事で、お化けの格好を
しながら『お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうぞ』っておどかして、お菓子をもらう行事なん
だって」
「そんな天の国の行事なんて、わたしが知るわけないでしょ!」

 江南の二喬と呼ばれるこの二人が、城に住むようになってから、幾ばくかのときが流れてい
た。
 呉からの交換人員として、半ば献上品のように差し出されたこの二人。元はといえば、美羽
と七乃の二人を籠絡するという密命を帯びて遣わされたのであるが、季節が一つ移り変わった
いまとなっては、すっかり美羽の遊び相手となってしまっている。

「というわけでじゃ、そなたら二人には、妾と共に仮装をして菓子をもらう栄誉を与える!」
 美羽は踏ん反り返ってそう言った。
「何それ、勝手にすればいいじゃない。わたしたちには関係ないし。ね? お姉ちゃんもそう
思うでしょ?」
「わたしは……」
 言いよどんで大喬が美羽を見ると、美羽が『それ! ずばっと言ってやるのじゃっ!』とい
うジェスチャーをしていた。
「……面白いんじゃないかなって……」
「ふはははははー! 流石に姉のほうはよくわかっておるのぅ!」
「またお姉ちゃんったら! 美羽には甘い!」
 とまあこの三人、終始この調子である。
496 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(2/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:47:37 ID:g1F0bfOE0
「で、仮装するって言っても一体何をするのよ。わたしもお姉ちゃんも準備なんてしてないわ
よ」
「うむ! 当然ながら妾に相応しい装いを用意してある」
「そんなこと聞いてないし……」
 言うや否や美羽はとととと、部屋の隅へ歩いていき、そこに置いてあった木箱を手にとって
戻ってきた。
 手にした木箱。
 美羽はおもむろにそこに手を突っ込むと、入っていたものを取り出して二人に見せた。
「……南瓜?」
 そう、中から出てきたのは、手のひらサイズのカボチャである。
 だが、ただのカボチャではない。
 職人技の精緻な彫り込みによって、見事に龍の頭の形に整えられていた。
「妾に相応しいものといえば龍しかあるまい!」
 美羽はそう言うと、その龍の顔の形をしたカボチャを頭にのせて、えへんを威張ってみせる。
「そしてそなたらには、これを持つことを許す!」
 と、彼女は次に、棒を二つ、それぞれ二喬たちにずずいと押し付けた。
「何これ?」
 小喬はそう言って棒を受け取ると、しげしげとそれを見た。
 棒の長さは肘からゆびさきくらいまでの長さ。
 そしてその先端部分が、緑色をした鱗を持つ龍の胴体部分に繋がっている。
「あたしたちはこれを持ってあんたのあとについて行くってこと?」
「うむ!」
 要するに、美羽一人だと龍の胴体を引きずることになるので、二人の役目はその棒で胴体部
分を支えていて欲しいということらしい。
 明らかに三人いないと成立しないこの仮装に、小喬は深く溜め息をついた。
「しょうがないわねぇ……」
「わかったか。では参るぞ! 二人とも妾についてまいれ!」
「う、うん……」
「はいはい」

 こうして、杷炉韻の夜がはじまったのだった。
497 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(3/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:48:14 ID:g1F0bfOE0
 ◇七乃の部屋の場合◇

「さて、最初はまずここじゃ!」
 まず美羽が立ち止まったのは、先ほどまでいた美羽の部屋の隣、七乃の部屋の前であった。
 基本的に、美羽の重臣たちには希望すれば城の外に用意された屋敷に住んでもよいことにな
っている。
 ただ、いま現在は城内に割り当てられた部屋で生活している者が殆どである。
 この城に引っ越してきたときに、『お嬢さまのお部屋の隣がいいですぅ』と言って誰よりも
先に美羽の隣の部屋を確保した七乃も、そんな一人であった。

「はいはい。さっさとすれば」
「うむ!」
 美羽は勢いそう言うと、元気よく七乃の部屋の戸を叩いた。
 『人の部屋に入るときは、いきなり戸を開けちゃいけません』
 一刀の教育のたまものである。

 ドンドンドンドンッ!
 美羽が戸を叩く。
「七乃、妾じゃ! ここを開けてたも!」
 すると部屋の中から七乃の声がした。
『お嬢さまですか?』
「うむっ!」
『えー? 本当にお嬢さまですかー?』
「うむ! 本当の本当に妾なのじゃっ!」
『本当の美羽さまなら、この問題に答えられるはずです』
「何じゃ、申してみよ!」
『孫子が兵法において、一番大事なこととして説いているのは?=x
「孫子って誰じゃ?」
『わー、本物のお嬢さまだ〜』
498 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(4/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:49:22 ID:g1F0bfOE0
 ガチャリという音と共に、七乃の部屋の戸が開かれた。
 それを見ていた美羽が『わははは』と得意満面な顔で入ってく。
 そしてその後ろについて行く二人は、美羽の性格がこうなのは、七乃の影響に依るところが
大きいのではないのかという疑惑を深めたのであった。

「美羽さま、よくいらっしゃいました」
 通された七乃の部屋は、趣味よく小綺麗にまとめられていた。
 全体的に美羽の部屋と似偏った雰囲気があるが、これは美羽の部屋の内装などを決めたのが
全て七乃だからである。

「うむ七乃よ。今日は杷炉韻じゃ、妾に菓子を寄越すのじゃ! あま〜いやつじゃぞ!」
「はいはい、わかってますよぅ」
 言って、七乃は予め用意してあったのか、机の上にあった小箱から、薄紙に包まれたものを、
一つ、二つ、三つと手に取った。
「はい、お嬢さまの大好きな蜂蜜の飴ですよ〜」
「おおっ!」
「はい、大喬ちゃんと小喬ちゃんにも蜂蜜の飴ですよ〜」
「ありがとうございます、七乃さん」
「あ、ありがとう……」
 そうして三人に飴を渡し終わった七乃は、改めて美羽に向き直った。
「いいですか美羽さま。沢山もらっても、蜂蜜の飴は、一日二つまでですからね。あと、食べ
たら寝る前には歯を磨かなくちゃ駄目ですよ」
「わ、わかっておるそのくらいっ! 我は四世三公を排した名門袁家の家柄であるぞ! わか
らぬはずがなかろう!」
「わーい流石お嬢さま! ここで家柄とか関係な〜い!」
「わはは! そうじゃろうそうじゃろう! もっと妾をほめてたも!」
「あはは〜」
499 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(5/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:50:07 ID:g1F0bfOE0
 夜の城に、わははあははと、明るい笑いがこだました。

「ど、どこから突っ込めばいいかわからなかったわ……」
「はははは……」

 ◇月・詠の部屋の場合◇

「わはははは、妾たちに菓子を寄越すのじゃ!」
 次に美羽たちが向かったのは、月と詠に割り当てられた部屋である。
 本来、陣営の筆頭軍師ともなれば一人部屋が割り当てられて当然なのだが、そこはそれ。彼
女たち二人の希望によって、二人は相部屋が割り振られているのだ。

「ああ、早速来たわね」
「うん。ちょうどそのお話を詠ちゃんとしてたんだよ」
「ならばわかっておるな! 菓子を寄越さねば悪戯をするのじゃ!」
 その言葉に、思うところがあったのか詠が手で顔を覆った。
「……むかつくわ。そういう行事だってわかってても、恫喝外交に屈したみたいで、すごくむ
かつくわ」

 さて、その部屋の内装と言えば、『上品』という言葉が似合うものであった。
 美羽や七乃部屋と比べると煌びやかなどの点では、華やかさに欠けるが、その分落ち着ける
雰囲気なのだ。
 机の上や、寝台の上、その他いろいろなところにファンシーな小物が置かれているのは、月
の趣味なのだろう。
500 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(6/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:51:01 ID:g1F0bfOE0
「まあまあ。はい、美羽ちゃん。七乃さんから聞いてるよ、蜂蜜の飴」
「うむ!」
「大喬ちゃんと小喬ちゃんも」
「あ、ありがとうございます……」
「くれるって言うなら、もらっといてあげるわ!」

 そうやって三人に飴を渡してから、月は美羽のほうに向いた。
「いい美羽ちゃん。沢山もらっても、蜂蜜の飴は、一度に食べちゃ駄目だよ。一日二つまでだ
からね。あと、食べたあと寝る前には歯を磨かなくちゃ駄目だよ」
 その言葉に美羽は、
「……はて、先ほど誰かにも同じことを言われたような……?」
 と、人差し指でこめかみを押さえながら首を傾げた。
「七乃よ! あんたさっき七乃からも同じこと言われてたでしょうが!」
「おおっ! そうであったそうであった! うむ、わかっておるぞ!」

 わかっているのかいないのか、小喬が呆れる中、美羽はわははと声をあげた。

 ◇恋・音々音の部屋の場合◇

「おまえらいい加減騒がしいのですよ。馬鹿騒ぎがこの部屋まで聞こえていたのです!」
 開口一番、音々音の口からそんな言葉が飛び出した。

 城の外に屋敷を持つものもいるというのは、先ほどの通りだが。天下の『飛将軍』呂布奉先
もその一人である。
 だが、彼女の場合は屋敷は持っているが、普段からそこに住んでいるわけではない。
 与えられた屋敷には、主に動物たちが住んでいるのだ。そして彼女自身は普段、城内に用意
された部屋で寝起きしているのだ。
 だが、そんな寝起きしている部屋にも、様々な動物たちが溢れていた。
 ここにいる動物たちは、まだ子供ばかりである。
 恋は拾ってきた動物や、怪我をしているのを手当てした動物の中でも、まだ子供のものはこ
うやって自分の部屋に引き取ってきて、暫く一緒にいるのだ。
 なお、音々音が一緒に生活しているのは、彼女本人の希望によるものである。
501 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(7/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:51:50 ID:g1F0bfOE0
「ささ、恋殿。あれを」
「うん」
 恋は音々音に促されて、机の上に用意されていた薄紙に包まれた飴玉を、無造作にむんずと
掴むんだ。
「美羽、大喬、小喬」
「おまえら、ありがたく思うのですよ。恋殿は心が広いのです!」
 そう言って二人が三人のほうを向き直ると、

『わふぅ』
「わはははははっ! こ、これ! 舐めるでない! わはは!」
『ハッハッハッハッハ!』
「やっ、駄目、ちょっと! なんてところに潜り込んでくるのよ! そ、そこはだめぇ!」
『ばうっ』
「お、重い、重いよ……誰か、助け……」
 部屋の中にいた動物たちが彼女たちに群がっているところだった。

「おおう……なにやら絵的にすごいことに……。って、恋殿、手を差し出してどうしたのです
?」
「ねねにもあげる」
「な、何ですとー!?」
「一刀が、杷炉韻は子供にお菓子をあげる日だって……」
「ねねは、ねねはずっと恋殿について行きますぞー!」
 音々音は、滝の涙を流しながら天にも昇る心地で叫びをあげる。
 そしてそれに紛れるように小喬の声が、最後にか細く響いた。

「そんなことより早く、助けなさいよ……」
502 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(8/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:52:11 ID:g1F0bfOE0
 ◇麗羽の部屋の場合◇

 ややくたびれて麗羽の部屋の前。
 そこで美羽は「う……」と呻いた。
 ここに来て、初めて美羽は部屋の戸を叩くのを躊躇っていた。

「どうしたの? 早く叩けばいいじゃない?」
「わ、わかっておるわ!」
 美羽が麗羽を苦手とすることを知らない小喬の声に急かされるようにして、美羽はドンドン
と戸を叩いた。

「まあ美羽さん! よくぞいらっしゃいましたわね!」
「ちぃーっす」
「美羽さま、こんばんは」
 と、開かれた戸の中から挨拶を返したのは麗羽、猪々子、斗詩であった。
 この三人に関しては、詠と音々音が城の外に屋敷を与えることに猛反対したために、城内に
麗羽に一部屋、猪々子と斗詩に相部屋が与えられていた。
 その理由は
『あんなの放っておけるわけないじゃないっ!』
『何をしでかすかわからないのですっ!』
 との二人の主張である。
 要するに、この三人は要監視対象なのだ。

 一応麗羽一人に宛がわれた部屋であるそこは、ある意味では美羽の部屋によく似ていると言
なくもなかった。
 豪華絢爛。絨毯から調度品、その他小物に至まで、ありとあらゆるものが贅をこらされた逸
品で統一されている。
 美羽の部屋が、美羽の趣味によるちゃめっ気がアクセントになっているとすれば、こちらは
豪華一点張りと言ったところである。
503 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(9/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:52:59 ID:g1F0bfOE0
「まあまあまあ。その頭に乗せているカボチャが仮装ですのね。美羽さんにお似合いの、可愛
らしい龍ですこと。よろしいっ! 猪々子、この三人の飴をお与えしてちょうだい!」
「あいあいさー」
 麗羽の合図に合わせて、猪々子が返事をする。
 そして彼女は高笑いが響く中、三人に蜂蜜飴を渡して回った。
「うむ、大義である!」
「あ、ありがとうございます……」
「ふんっ、一応礼は言っておいてあげるわ!」
「いいって、いいってっ」

 三人の反応に気をよくした麗羽はますますテンションをあげていく。
「ほーっほっほっほっほっ! 三人とも、この海よりも寛大なわたしの心に、感謝するといい
ですわっ!」
「まあ、飴を用意してくださったのは七乃さんなんですけどね」
「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほ!」
 そんな斗詩の声も無視して、麗羽の高笑いは次第にハウリングを増して……
「それでは麗羽姉さま。ありがとうございました」
 と、そこで、美羽は適当に礼だけ言って、厄介なことに巻き込まれる前にそそくさとその場
を退出した。

「あの三人と話していると、頭が痛くなってくるのじゃ」
「ああはなりたくないわねー」
「だ、駄目よ二人とも、そんなこと言っちゃ……」
504 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(10/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:53:47 ID:g1F0bfOE0
 ◇華なんとかの部屋の場合◇

『修行の旅に出る! 探せるものなら探してみろ!』
 その戸には、そんな張り紙がされていた。

「何じゃ、留守か」
 それだけ言うと、美羽は踵を返そうとする。
「留守か、じゃないでしょ! 将軍が勝手に消えたのよ! もっと他に言うことあるでしょ!
?」
 という小喬の言葉に、美羽は心底わからないという顔をした。
「んん? 何かあるかのぅ……。まあ、華……華……華何とかじゃからな。普段から気にして
おらんからようわからんのじゃ。そんなことより、次じゃ次っ!」
「ちょっとっ!?」
 こういったこの城の危機管理や、人員掌握を、本気で冥琳に報告するべきかと日々悩む小喬
であった。

 ◇白蓮の部屋の場合◇

「おーい残念長史、ここを開けるのじゃ−!」
 戸口の前に立って、美羽がそう大声で叫ぶと、
『残念って言うなぁっ!』
 と、中から声が響いて、ガラリと戸が開いた。

「おお、残念のほうはおったか」
「面当向かってだから残念とか言うなぁ!」
 立っていたのは、私服に着替えた白蓮である。
505 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(11/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:54:36 ID:g1F0bfOE0
「それで、こんな時間に一体何の用なんだ?」
「うむ、今日は杷炉韻ぞ! 悪戯をされたくなければ菓子を寄越すがよい!」
「あー、そっか今日が七乃の言ってた日か……、まあいいや、用意するから、おまえたち三人
とも中に入れ」
 その言葉に三人は、
「美味しくない茶はいらないわよ」
「し、失礼いたします……」
「ふははははっ! 入ってやるからありがたく思うのじゃ!」
 そう言って三人は中に入った。

 そうして招かれた白蓮の部屋は、なんというか普通だった。
 そこそこ小綺麗に片付いており、そこそこ女の子っぽくあり、そこそこ落ち着いている。
 奇抜さもなければ、アクセントもない。印象にも残らない。
 有り体に言えば……
「なんというか、つまらん部屋じゃのぅ」
「そうねぇ。普通っぽいわね」
「おまえらそんなこと言うために来たなら帰れ!」
 叫びながら、白蓮は机の上をごそごそと探していた。
 どうやら机に置いておいた飴を無くしてしまったようなのだが、散らかっているわけでもな
いのですぐに見つかるだろう。

 そうやって白蓮が飴を探している間、きょろきょろと部屋の中を見ていた美羽は、壁に掛け
られた変なものを見つけた。
「ん? 何じゃこれは?」
「仮面、なのかな……?」
「……趣味悪いわねぇ」
 壁に掛けられていたそれは、白を基調に金縁をあしらった、目元を隠すタイプの仮面であっ
た。
 旅芸人や、役者などがつけるものに、見えないこともない。
 けれども、部屋に飾るような洗練されたデザインには到底思えない。
506 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(12/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:55:07 ID:g1F0bfOE0
 三人がそれを見ながら感想を漏らしていると 飴を見つけた白蓮がやってきた。
「おい、見つけたぞー。って、何を!?」
「ん? どうした残念。妾たちは趣味の悪い仮面を見ておっただけじゃぞ」
「趣味が悪……っ」
「コレはないわねー」
「ないのぅ」
「二人とも、本当のこと言ったら失礼だよぅ」
 口々にそう言われて、白蓮は壁にふらりと手をついた。
 そして、空いた手のほうに握られていた薄紙に包まれているものを美羽が目ざとく見つけた。
「何じゃ、飴のほうは見つかったようじゃな。うむ、くるしゅうない。妾たちがもらっておい
てやるぞ! では皆のもの! 次の部屋じゃ!」

 そうして美羽たちが去っていくと、あとにはうちひしがれた白蓮だけがその場に残されてい
た。
「趣味が悪い……趣味が悪……」
 そうやってブツブツと呟く白蓮であった。

 ◇霞の部屋の場合◇

 張遼の部屋の前、美羽の後ろで大喬と小喬はガタガタと奮えていた。
 いまや張遼は呉においては、鬼神雷神と恐れられる存在である。
 『遼来来』と言えば、泣く子もちびって黙るという恐れられようだ。
 彼女たち二人が、このようにガタガタ震えて怯えるのも致し方ないことであった。

「むう、そういえば霞のやつはいま、床に伏せっておるのだったな」
 そう言って美羽は顔を上にあげて、唇に手を当てながら暫く考える仕草をした。
 合肥の戦いののち、霞は頻繁に体調を崩すようになっていた。
 この日も彼女は体調を崩し、床に伏せっていると、美羽は七乃に聞かされていたのだ。

「よし、病の床にある家臣を慮り、今回は訪ねるのをやめるぞ! ふははは! 天下万民に何
とも大きな妾の懐の深さを示すのじゃ!」
「……ここでそんなことしても、誰も知ったこっちゃないでしょうけどね」
507 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(13/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:57:42 ID:g1F0bfOE0
 ◇一刀の部屋の場合◇

「最後はここじゃ!」
 美羽たちが最後に訪れたのは、奥まった場所にある部屋であった。
 今回彼女たちは、城内に住まう親しい者たちの部屋を訪ねている。
 そういう意味では、該当する中で、その部屋が今夜巡っていない部屋であった。
 この部屋は、天の御使い≠ナあり、袁家血族に名を連ねる男、北郷一刀に用意された部屋
であった。

 美羽が意味もなくうむうむと頷いていると、もじもじとした大喬が口を開いた。
「それにしても美羽ちゃん……」
 そしてその奥歯にものが詰まったようなものいいのあとを、小喬と大喬は別々の口で続ける。
「あいつの部屋を最後にするなんて……」
「一刀さんの部屋を最後にするなんて……」
 そこで二人は呼吸を合わせて、

『『案外えっちだよね』』
 と、そう言った。

 その言葉の意味するところに気がついて、美羽がぎょっとする。
「な、何を言っておるのじゃ! 妾は別にそういう……」
 確かに、このあとは特に何もすることがない。部屋に帰って寝るだけである。
 そして寝るだけなら、別に部屋に戻らずとも……。
508 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(14/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:58:39 ID:g1F0bfOE0
「べ、べべ、別に妾はそのようなことは何も考えておらんのじゃ!」
「いいよ美羽ちゃん、別に隠さなく立って。……それにわたしだって、美羽ちゃんの白い肌を
思い出したら……」
「ちょっ! 大喬、何を押し付けておるのじゃ……わ、妾のお尻に何か、何か堅い、堅いもの
が当たってっ!」
「お、お姉ちゃん!? こんなところでサカっちゃだめだよ!」
「だって、美羽ちゃんがいけないんだもん……。こんなに美味しそうなお尻をわたしの前で見
せつけて……」
「う、うひいぃっ!」

 半ば逃げ出すようにして、美羽が勢いよく一刀の部屋の戸を開けた。
 すると、
「おっかえり一刀ー!」
 と黄色い声で叫んだ何者かが、矢の早さで美羽の首に飛びついた。
「うきゃっ!?」
 悲鳴をあげながら、美羽がもんどりをうって倒れこむ、
 そして美羽を押し倒した何者かは、その胸にすりすりと自分の顔を押し付けていた。
「一刀ー、一刀ー、かーずとー! 今日はどうする? ご飯食べながらシャオにする? お風
呂入りながらシャオにする? それとも、シ・ャ・オ? って、何か一刀縮んだ?」
「むきゅう」
 押し倒され上に乗られた美羽は、すっかりと目を回していた。
「小蓮さま!?」
「あ、小喬に大喬だ。やっほー」
 そう言って、美羽の上で二喬に手を振ったのは、孫尚香、小蓮であった。
 彼女は二喬たちと一緒に袁仲入りした一人なのだが、彼女の使命は他の二人とは違って天
の御使い*k郷一刀であった。けれども、彼女に関しては籠絡するのではなく、むしろ籠絡さ
れたといっても過言ではない状態である。
509 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と杷炉韻」(15/15)[sage] 投稿日:2009/11/02(月) 23:59:51 ID:g1F0bfOE0
「しゃ、しゃしゃ、小蓮さま、服を着てください……っ!」
 飛び出してきた小蓮の姿を見て、小喬が顔を真っ赤にしてそう言った。
 何せ彼女の格好といったら、裸に肌が透けて見えるほどの薄着を纏っただけの、何とも艶め
かしい、目のやり場に困る姿だったのだ。
 殆ど隠していないのは、露骨に隠していないよりいやらしいということを、二人は知った。
「なぁんだ、一刀じゃなかったんだぁ。折角シャオがお風呂に入って、玉の肌に磨きをかけて
待ってるのに、シャオの旦那さまったら何してるのかしら。それで、小喬と大喬は何してるの
?」
「実は……」
 と、小喬が一刀の部屋を訪ねた事情を説明すると小蓮はそれに、
「三人ともお子様だなぁ。シャオだったら、飴玉なんかよりも一刀の赤玉が欲しいなぁ〜」
 という感想を漏らしたのだった。

 結局、美羽は次の日の朝になるまで、意識を取り戻すことは無く、把炉韻の夜はそんな風に
終わったのだった。

 終
510 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/11/03(火) 00:04:39 ID:PM8qL7bw0
わたしの名はメーテル……投下終了を告げる女。
今回は真で居なくなってしまった二人が登場よ。

突然寒くなったから、風邪には注意するのよ、鉄郎……

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