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507 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:02:04 ID:T43GBFs90
わたしの名はメーテル……投下を始める女。
前回25レスと言ったのだけれど、整形してみたらもう少しありそうだったから、前後編に分けることにしたわ……
それでは投下を開始するわね、鉄郎……
508 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (1/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:05:41 ID:T43GBFs90
 その日の朝は、耳元に囁かれる、甘い声から始まった。

「にいさま」

 自分を呼んでいるらしい、その声。
「にいさま起きて下さいですの」
 一度ならば夢かもしれない、しかし二度ともなれば現に違いない。
 一刀は聞き慣れない声に誘われて、まどろみの淵に手をかけて、ゆっくりと覚醒していく。

「早く起きてくれないと、折角 ――が作ったお料理、冷めてしまいますの」
 そんな誰かの声。
(だ……れ、?)
 そんなことを思い浮かべながら薄目を開ける。
 途端に暗闇が払われて、世界が光に彩られた。

「はーい、お兄さん。起きて下さいましたかー?」

 すると耳に飛び込んできたのは、そんな声だった。


「あれ……? 今の声、誰?」
 眠い目を擦りながら声のした方を見ると、そこには一糸まとわぬ姿で体を起こして、こちらを見下ろしている風の姿。
「以前に星ちゃんに教えて貰った方法なのですが、お兄さんには思いの外に効果覿面、と。風もびっくりなのですよー」
「え、? ……今の、風?」
 周囲を見渡しても、今この部屋……いや、布団の中には、自分の他には風ともう一人の姿しかなかった。
「はいー。お兄さんは妹っぽい子に起こされるのが好きかと思いまして。気を利かせてみました」
「――ソンナコトハナイデスヨ?」
 一刀は一応、己の尊厳のために弁明はしておく、別にそんな願望はないはず……多分と思いながら。
510 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (2/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:08:17 ID:T43GBFs90
 一方風はそんなことは構わず、
「と、まあ、口ではそんなことを言いながらも、体は正直に喜んでいるだらしのないお兄さんなのでした」
 言って、布団の一部分を風は持ち上げた。
 めくられたそこには、昨夜は大暴れの暴れん坊将軍がいらっしゃった。

 何も裸なのは風だけではない、一刀とて同じである。
「う、うわわわあっ!」
 大事な一人息子を慌てて隠す一刀の様子を見ても、風は悪びれず言った。
「風のお腹をこんなにしておいて、今更隠すもなにもないと思いますけどねー」
 そう言った風のお腹はぽっこりと膨れていた。
 妊娠、七ヵ月である。

「い、いや、まあそうなんだけどさ……ほら、まだ朝だし、何となく恥ずかしいし……」
 一刀は自分の子供を宿した風のお腹を見ながら、そんな風に殊勝なことを言ってみた。
「うぶなねんねじゃあるまいし。今更恥ずかしがる必要なんてないのですよ。ふにゃ〜」
「わっ! こら、やめ……きゃーっ!」

 一刀と風がじゃれ合う中、一刀の背後から、寝言が聞こえてきたのはそんな時だった。
「うるさいわね……静かにしなさいよ、この最低孕ませ男……黙らないとその首捻り切るわよ……」
 やたらに物騒な寝言。勿論その声も一刀にはなじみのあるものだ。
「あ、起こしちゃったかな」
 そう言って一刀が振り向くと、そこにはこちらに背を向けて寝ている桂花がいた。
 彼女もやはり裸である。
 同様なのはそれだけではない。彼女もまた、お腹が大きく膨らんでいる。むしろそれは風よりも一回り大きい。
 お腹の子の父親は、やはり一刀だ。
512 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (3/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:11:30 ID:T43GBFs90
 まだ起きる様子のない桂花の寝顔を見つめ、ついでその髪を手で梳いてやりながら一刀は言った。
「……大丈夫みたいだな」
「桂花ちゃん。ぐっすり寝てますねー」
 横からのぞき込んだ風も言う。
「そうみたいだなぁ……」
 確認のため一刀は頬を突いた。起きていたら罵詈雑言の嵐であろうその行動にも反応無し。
 一刀はそのまま調子に乗って顎から首のラインに指を這わせ、鎖骨へ移動し、桂花のふくらみを手で覆った。
 そしてそのまま、妊娠前に比べて二回り程も大きくなった桂花の胸を、むにむにと揉みしだく。
「はあ……幸せを感じる……」
 一刀の手の中で、形を変える桂花のおっぱい。その弾力を楽しみながら一刀は恍惚の表情を浮かべる。
「もう、お兄さんったら、最近桂花ちゃんに構い過ぎなのですよー。華琳さまがお怒りになっても風は知らないのですよー?」
 その言葉に思わず周囲を見回してしまう一刀。

 そう、昨日は華琳と風、桂花の三人を相手に大立ち回りの一刀だったのである。
 

 なお、今はもう床に華琳の姿はない。
 お腹が大きくなって政務に支障をきたすようになった風や桂花とは違い、妊娠していない華琳はいつもながら、いやいつも以上に多忙の毎日を送っているのだ。
 何せ今は軍師が二人も抜けているのだ。彼女が精力的に働かなければ魏は立ちゆかなくなってしまう。

「うーん。分かってるんだけど、つい構いたくなるって言うか……ああいう風に、必死に声を押し殺して何も感じてませんよって顔を繕ってるのを見るとさ……」
「それは分かりますけどねー」
 一刀の言葉に、風も同意の頷きを返す。
「それでなくとも、桂花ちゃん、可愛いですからねー」
 そう言った風の表情が、少しだけ寂しそうだったことに、一刀は気付かない。

「そう?」
 と返して、一刀は空いている左手をすーっと延ばし、風のお腹を触った。
「?」
 顔に疑問を浮かべている風を余所に、一刀の手はお腹を登って風の胸の頂に至る。
「風も可愛いよ」
 そして右手の動きと同様に、妊娠によって大きくなった風の胸を弄ぶ。
514 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (4/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:14:36 ID:T43GBFs90
「あー……幸せだ……」
 自分のせいで膨らんだ風や桂花のお腹や胸を触っていると、難しいことなど消し飛んで幸せの境地に立ってしまう一刀であった。

「あんっ。でもお兄さん。風や桂花ちゃんのこれは巨乳にあって巨乳に非ず。いわば虚乳、赤ちゃんにおっぱいをあげたら、そのうちまた元に戻ってしまうものなのですよー」
「うん、分かってる。だから大きいうちに、存分に味わおうかと思って」

 むにむに、むにむに

「はー。そうですかー」
「うん、そう」

 ふにふに、ふにふに

「……ところで風さん」
「はい、なんでしょうかお兄さん」

 ぷにぷに、うにうに

「なんだかワタクシ辛抱堪らなくなってきたんですが」
「……ここで嫌とは言えないあたり、風はもうお兄さん無しでは生きられない体なのかもしれないと思う次第なのです」





516 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (5/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:17:30 ID:T43GBFs90
 時はうつろい昼少し前。

「ほんっと最低! 朝っぱらからあんなもの見るだなんて、今日は厄日だわ! 天中殺よ!」
 そう言って通りを大股で歩いて行くのは桂花。
「いやー、その場の雰囲気でつい……」
「いやはや、お兄さんの熱意に根負けしてしまいまして」
 その後ろを付き従うように歩いているのは一刀と風である。
 朝から元気に営みに励んでしまった一刀と風は、ことの最中で目覚めた桂花を連れて、今は大通りを歩いていた。

「五月蠅いわね! 黙りなさいよ! 空気が穢れるじゃないっ! 息するのを今すぐやめて死になさいよ! そうよっ、死ねばいいのにっ!」
「さも名案を思いついたふうをよそおって人を殺そうとするな」
「まったく、華琳さまの言いつけでなければ、こんな害獣絶対連れて行かないのに……」
「仕方がありませんよー。外出には絶対に凪ちゃん真桜ちゃん沙和ちゃんお兄さんのうち、誰か一人を同行させること、というのは風たちが外出するときの条件ですからねー。凪ちゃん真桜ちゃん沙和ちゃんが警邏で居ないから、お兄さんが同伴するのは当然のことかとー」
「そ・れ・で・もっ! 嫌なものは嫌なのっ! 良いわねっ、分かった!? あんたの存在が既に胎教に悪いんだから、不必要に近づかないでよねっ!」
 胎教って概念あるのか、とか、近くにいなかったら護衛の意味ないよな、といったことは口に出さず、一刀は困った顔をしてとりあえず頷いておくことにした。

「それで、あんたの言ってた妊婦用の服も沢山取り扱っている店っていうのは、本当にこっちにあるんでしょうね」
「ああ、そのはずだよ。と言っても、教えてくれたのは沙和だけど」
 三人は今、一刀の案内で風と桂花が着る新しい服を買いに街に出ているのだ。
 何せ妊婦用の服はデザインセンスは二の次である。はっきり言って野暮ったい。華琳の前にそのような姿を晒したくない桂花は、常々周囲に不満をこぼしていたのだ。
 そういうことで最近沙和が見つけてきた、『阿蘇阿蘇にも取り上げられた、妊婦服も多く取り扱っている服屋』という店に、三人は向かっているところなのである。


519 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (6/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:21:11 ID:T43GBFs90
「あ、あれかな?」
 そう言って一刀が指さしたのは、通りに面した大きな服屋だった。
 まだ出来て間もないのか、よく近くを巡回する一刀にも見覚えのない店だった。
「ちっ。嘘だったら舌を引っこ抜いたのに」
「舌を引き抜かれて死んだら、閻魔様のところで申し開きできないだろ……」
「地獄で行いを反省すれば?」
 言って肩を竦めてみせる桂花。
 どこまでが本気か分からなかった。


「それで、どうかな、この店は」
「まぁ、変態精液男にしてはまともな店じゃない」
「教えてくれたのは沙和だしな。ってことだから、起きろ風」
「ぐー」
 立ったまま寝ている風のほっぺたを指で押してみた。
「おおっ。これは良さそうなお店です。これなら桂花ちゃんも満足できそうですねー」
「……そうね。これなら華琳さまの前に出ても恥ずかしくない服が揃えられそうだわ」
 言葉とは裏腹に、桂花の表情は期待に満ちている。よほど最近自分が着ている服に満足していなかったのだろう。
 そんな様子を見て、一刀も我がことのように心が弾むのを感じた。
「良かったな。桂花」
 その言葉に、桂花がびくりと反応を示す。
「〜〜〜っ! 誰のせいでこんな思いをしていると思っているのよっ、この強姦魔! あんたがあの時、この私に無理矢理種付けしたりしなければ、こんな思いしなくてすんだんだからね! やっぱりあんた死になさいよ!」
 返ってきたのは、顔を真っ赤にした桂花のそんな言葉。勿論、これもいつものことだ。
「ささ、早速入りますよー」
 何事も無いように先に進む風のマイペースさも、日常の風景。
「こらっ! ちゃんと話を聞きなさいよ、この全身烏賊臭男!」
 放たれる罵声をはははと笑って受け流した一刀は、店に入っていく風を追いかけたのだった。


521 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (7/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:23:29 ID:T43GBFs90
 そうして店の中。
 ふぅと漏らして、一刀は一息をついた。

 先ほどまで風と桂花が服を選ぶ横についていたのだが、それからも開放されて、今は手持ちぶさたの時間である。
 店の中に据えられた腰掛けに座り、店員が用意してくれた茶などをぼんやりと飲む。

 女性の買い物というのは、兎に角長い。
 それが、自分の身につける服となれば尚更に。
 服一つ選んでそれをああでもないこうでもない、また一つ選んでああでもないこうでもない。その繰り返し。
 よくも飽きないものだと、この世界に着たばかりの頃によく春蘭や秋蘭、華琳の買い物に付き合って思ったものだ。
 しかし、女性に付き合って買い物をするのも辛いが、女性の買い物を待つのはもっと辛い。
 今や一刀は一人。
 なぜゆえ一人かと問われれば、それは暫く前の会話まで遡らなければならい。

『お兄さん。この服はどうでしょうか』
 二人と一緒にいた一刀は、突然風から声をかけられた。

『うん? いいと思うよ。風の雰囲気によく合うと思う』
 次は桂花。
『じゃあこっちはどうかしら?』
『うん。それも良いと思う。桂花らしくて、似合うと思うよ』
 そしてまた風。
『じゃあお兄さん、こちらならどうですかー?』
『似合うと思うよ。足のところがふわっと広がってるところとか、風にぴったりだと思う』
 それぞれに、一刀は思ったままに素直な反応を返した。
 
『……あんた、さっきから似合う似合うって、そればっかりじゃない』
 だがそれは、二人の反応を見る限りでは、あまりよろしくない受け答えであったようだ。
『うーん、そんなこと言われてもなぁ……どれも凄く似合ってて、二人にぴったりな服ばかりだし』
523 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (8/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:27:50 ID:T43GBFs90
『あんたねぇ……だからって全部が似合うってことにしてたら、いつまで経っても決まらないじゃない。そんなことも分からないのかしら、この万年発情性欲男は』
『まーまー、お兄さんの言いたいことは、風たちに一番似合っているのはやはり生まれたままの姿、ということではないかとー』
 その言葉に、一刀が思わず噴き出した。
『なっ、最っ低! あんたってやっぱり、本当に最低の屑だわっ!』
『いや、そんなこと思ってっ!……うん、裸も良いけど』
『ちょっと! 何を考えているのよ! 余計なこと考えたら切り落とすわよ!』
『お兄さんらしいですけどねー』
『いいわ、こんな奴に意見を聞こうっていうのがそもそも間違いだったのよ。 店主! ここにある服、全部試着させて貰うわよ! ほら、風も来なさい』
『おおっ』
『あんたは付いてこなくて良いからねっ! もしも覗いたりしたら……全力で呪う』


 ――などというやり取りの後、一刀は二人の着替えが終わるのをずっと待っているのだ。

「……遅い、なぁ……」
 半ば予想していたこととはいえ、やはり長いものは長い。
 おまけに店が女性に人気の店ともあって、男の一刀が一人、茶を飲んでいるのは、悪目立ちすることこの上ない。
 お茶のお代わりも既に三杯目。流石に四杯目は頼みづらいものがある。
「まだかなぁ……」
 一刀はただそうして、辛抱強く二人の戻りを待つことしかできなかった。


 一方、桂花たちと言えば、更衣室で着替えてはお互いを品評するということを繰り返していた。
「これならどうかしら?」
「んー……お腹は目立たなくなりましたが、逆に全体の様相が崩れてしまったように思います」
 今桂花が手に持っているのは、一刀の世界で言うところのマタニティウェア。妊婦用のワンピースである。
「そう? じゃあこれとの組み合わせならどう?」
「先ほどよりは良いですけれど、やはりちぐはぐな印象が否めません」
 赤いワンピースと黒いワンピースを手にとって交互に肌に当てる。
 ちなみに二人の今の格好は、ブラジャーとショーツだけという色気溢れる格好だ。
526 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (9/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:30:49 ID:T43GBFs90
「はぁ……分かったわ。じゃあこのあたりで妥協しておきましょう」
 妥協といっても、桂花のそれは、ある程度高い水準での妥協である。敬愛する華琳の側に立つのに相応しい服装というのが、根底にあるからだ。
 そもそもマタニティウェアというものは、機能性を重視した結果として、形は画一化されてしまっている。
 ともなれば、こだわる部分は色と細部のデザインくらい。そんな中で、自分の満足できるものを探すのはなかなか難しい作業なのである。

「そですねー。お兄さんも待ってるでしょうし」
「……別にあんな奴のことはどうでもいいのよ。どうでも」
 冷たく一刀のことを切り捨てて言う桂花。
 彼女のそれは『別に普段はツンツンしてる彼女だけど、二人だけの時はデレデレ』とかそういう類のものではない。
 本人がいようがいまいが毛嫌いする、それが一刀に対する桂花の基本姿勢なのである。
 それは皆が分かっているところのはずなのだが、今日の風はそれに口を挟んだ。

「お兄さんが桂花ちゃんの為に待っていても、桂花ちゃんは気にしない、ということですかー?」
「ええ、そうよ。……何よ風、今日は随分と絡むじゃない」
「いえいえ。そのようなことはないのですよー、ただちょっと、桂花ちゃんはズルイなーって思っただけなのです」
 のんびりとした口調でそんなことを言う風。
 桂花は風が『ずるい』などという言葉を使っているのを初めて聞いた気がした。
「ずるい? 私が?」
「あー、失言失言。今言ったことはどうかお気になさらず。むしろ桂花ちゃんの問題ではなく、お兄さんの方の問題なのですから。今日のところはこのまま下着の方もずずいと選んでしまって、外のお兄さんは待たせてしまいましょう」
 特に普段と変わりがない様子で、更衣室の隅に置かれていた籠から下着を取り出す風を見て、桂花は言葉を漏らした。
「? 変な子ね」
 華琳を除いて、他の人間の機微には疎い桂花であった。


527 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (10/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:33:33 ID:T43GBFs90
 二人が更衣室から出てきたのは、たっぷりと時間が過ぎて、一刀のお腹がお茶で膨れてしまった頃合いだった。
「お、終わったのか……?」
「はいなのですよー。風も桂花ちゃんも、満足できるものが見つかりましたー」
「そう……それは良かった……」
 心持ち、精彩を欠いた一刀が言う。
 女性向け服飾店での数時間に渡る孤独は、彼の心に多大なダメージを与えたのだ。

 けれど、そんな風に白くなっている一刀に対しても、桂花には容赦というものがない。
「ふん、いい気味ね。完全精液白濁男には当然の報いよ」
「くあっ。折角待ってたのにそこまで言うか……」
「当たり前じゃない。あんたってショウウジョウバエより器の小さい男ね。そのくらいは責任の内だと思いなさいよ」
 そう言って、よっとかけ声をかけて桂花は服の入った籠を持ち上げようとした。
 すると、

「重いだろ。持つよ」

 すいっと近づいた一刀が、片手でそれをひょいと持ち上げてしまった。
「ちょっと! 何してるのよ! 折角華琳さまにお見せするために買った服なのに、北郷一刀が感染ったらどうしてくれるのよ!?」
「俺は病原体か!?」
「五月蠅いわねっ! 返しなさいよ!」
「妊婦にこんな重い物は持たせられませんっ。よってこれは俺が没収、会計に持って行きます」
「ちょっ!? 何勝手に決めてるのよ!」
「風もそれで良いだろ?」
 一刀がそう声をかけて風を見ると、風は黙って一刀の顔を見ているところだった。
「お兄さんがそれでいいなら、風は一向に構いませんよー」
「ん。わかった、よっこらせっと」
 風の篭も片手で持ち上げる一刀。風はその顔をじっと見ていた。
 その視線に気づいた一刀が声をかける。
「ん? もしかして顔に何かついてる?」
「いいえ。何も付いていませんよー。ただの、いつものお兄さんなのです」
529 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (11/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:36:32 ID:T43GBFs90
 いつものお兄さん、という言葉にひっかかりを覚えた一刀だったが、その場は大した気にもとめず、会計へと歩き始めた。
「こらっ! 待ちなさいって言ってるでしょう!?」
 その後ろにぷりぷりと文句を言いながら桂花がついて行くのを、じっと見つめて、それから風も後を追った。

 午前中に城を出た一行だったが、服屋から出たときにはすっかり昼飯時も過ぎた頃合いのようだった。
 道々にある食事がとれそうな店は、軒並み夕方の仕込みに追われている様子。
 それは、一刀が目当てにしていた店にしても同じこと。
「参ったなぁ……」
 妊婦をあまり連れ回すわけにもいかない。そう思って目星をつけていた、先ほどの服屋からほど近い店だったのだが、他の店同様、今の時間は戸が閉まっている。
「ここ以外だと……この時間に開いてる店は、少し歩かないといけないかな」
「ふん。下調べも満足にできないなんて、所詮は性欲だけの男よね、あんたは」
「そうは言ってもなぁ……」
 まさか服を買うのにこんなに時間がかかるとは思わなかったし、と思ったりもしたのだが、それとてよく考えればすぐに分かりそうなことだったなと思い直し、とりあえずこの場は謝っておくことにした。
「ごめん。ちょっと歩くことになるけど、二人とも大丈夫?」
 ちょっとと言っても五分ほどと付け加えて言うと、その言葉に桂花がため息をついた。
「はぁ……あんたに多くを期待したりしないから、別にあの屋台でいいわよ」
 そうして桂花が指さしたのは、どこにでもありそうな、なんの変哲もない一軒の屋台。
 そこは一刀も知っている屋台だった。別段不味い店ではない。だが、女性と一緒にご飯を食べるようなお洒落なお店でもない。
 一刀がそのことを伝えようと口を開きかけたところで、桂花が言葉を続けた。
「きちんとした店に入って、会計の時にあんたが手持ちが足りないとか言いだしたら、恥をかくのは私たちなのよ。だからあの店で良いわ」
 そう言って桂花は顔をぷいっと逸らしてしまった。
 どうやら今日の桂花は自分の財布からはびた一文払うつもりは無いようである。
 まあ、一刀としても今日の払いは全て自分で持とうと思い、とっておきのへそくりを持ち出してきているので、金銭には余裕があるのだが。
「うーん……風はどうする?」

531 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (12/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:39:28 ID:T43GBFs90
「風も桂花ちゃんが言う通り、あの屋台でいいですよー。お兄さんの財布にも優しいですし」
 風のその言葉を聞くと、桂花はずんずんと屋台へ向かって大きなお腹を抱えながら歩いて行ってしまう。
 仕方なしに、一刀達もそれを追いかけるのだった。

 風と桂花が拉麺を、一刀が拉麺と点心を食べ終わって屋台を後にすると、空にはすでに、夕の気配が漂い始めていた。
 三人は城への帰路を歩いているのだが、一刀には先ほどから一つ、少々気がかりなことがあった。
 それは先ほどから風に、いつもの元気がないということである。
 普段なら猫のように脈絡無くじゃれついてきたり、こちらをからかってきたりするのだが、先ほどの屋台からこっち、風はどこか上の空であった。
 これが噂のマタニティブルーというやつだろうか? そう思い声をかけてみたりもしてみたのだが、
『何でもないのですよー』の言葉で返されてしまった。
 悩んでいるなら力になってあげたいと一刀は思う。だが、相談されなければそもそもどうやって力になればいいのか分からない。
 そんな葛藤を知って知らずか、風はたまにじっと一刀を見つめるものの、それ以外では自分から一刀に話しかけたりはしなかった。
 一方桂花はというと、そんな場の空気を読んでいるのか、先ほどから口を閉じている。
 結果、誰も喋らない、何とはなしに気まずい雰囲気が三人の間で漂っていた。

「隊長〜」

 よって、自分を呼ぶ声が聞こえてきたとき、一刀にはそれが救いの女神の声に聞こえた。

「やっぱり隊長なのー。後ろ姿を見てそうじゃないかなーって思ったのー」
 そう声をかけてきたのは、一刀の部下で、警邏や新兵訓練を担当している三人娘の一人、沙和だった。

「そっか。沙和って今日はこの辺の見回りだっけ」
「なのなのー。隊長がお休みしてる分まで、沙和が頑張ってるの!」
 そう言って、一刀に向かってぶいっと二本の指を突き出してくる沙和。
 一刀はそんな無駄に元気な沙和の姿に、この時ばかりはほっとするのだった。

 沙和はころころと表情をよく変える娘だ。
 泣いたと思ったら笑っている、そんな娘だ。
 だから、あっと叫んで沙和の表情が驚きに変わるのも、よくあることだ。
「隊長が持ってるその籠! この間沙和が教えたお店のだよねー」
533 名前:真・恋姫無双 外史 「繋風捕影」 (13/13)[sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:42:19 ID:T43GBFs90
 そう言って指さしたのは、一刀が左右の手から下げている籠だった。
「ああ、今日は桂花たちをつれて沙和の教えてくれて店で買い物してたんだ。桂花たちもすごく喜んでくれたみたいで、それもこれも沙和のおかげだよ」
「もぉ〜。隊長ったらまだ夜にもなってないのにお口が上手なのー」
 そう言って沙和は体をくねくねとさせると、今度は風達に向き直った。
「あのねあのね。隊長ったら、深刻な顔して沙和に『妊婦が着る服を買うのに、良い店はないかな?』なんて聞いてきたんだよー。沙和、隊長から服のお店のこと聞かれるの初めてだったから、びっくりしちゃったのー」
「わわ、ちょっ、沙和!」
「それでね、こーんな真剣な顔して『桂花が喜ぶような服を買ってあげたいんだ』なんて言ったのー」
「わ、わわわわ!」
 一刀は慌てて沙和の口を塞ごうと手を伸ばした。
 しかし沙和とて仮にも武将。一刀のそんな動きなど、するりするりと抜けてしまう。
「隊長ったら、まだ日が昇ってるうちから往来で痴漢行為だなんてー」

 一刀が沙和を追いかける、沙和がきゃらきゃらと笑って逃げまわる。
 そんな様子を見ていた風が、桂花に向かって話しかけた。

「桂花ちゃん、良かったですね」
「……何がよ」
「お兄さん、今日は桂花ちゃんの為に張り切っていたようなのです」
「………」
「嬉しくないのですか?」
「嬉しいわけ、ないでしょう。私はあんな奴のこと、ほんっっっとうに、どうでも良いんだから」
「……そうですか」
「そうよ」
「………」
「………」
「そうですか」

 その背後、路地の影から、ぬっと太い腕が伸びてきたことに、二人は気づかなかった。
537 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/01/31(土) 22:45:53 ID:T43GBFs90
わたしの名はメーテル……列車の中で打鍵する女。
投下中の支援、感想、とてもありがとう……
続きはは月曜日の夜10時に投下予定よ。

それと、最初に言っておかなければならなかったのだけれど、このお話は前に書いてお話とよく似た外史のお話なのよ、鉄郎……

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