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205 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/17(木) 22:44:08 ID:ieE18EYR0
※横山三国志アニメ版23話を恋姫キャラに置き換えています。反董卓連合軍の戦後という設定です。
ちなみに華雄は死なせるに捨て難いので、彼女を生存させた設定にしてます。

董卓討伐戦にて、北郷一刀らは董卓の配下の将・呂布と華雄を新たな仲間として迎え、両名から董卓の暴政が偽りである事を知り、その逆賊の汚名を着せられていた少女・董卓とその軍師・賈駆を内密に保護。
戦の後、曹操は功績のあった北郷軍を伴い、都・許劭へと凱旋した。
これが、漢帝国の運命を変える決断となろうとは、曹操は知る由もなかった。
206 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:31:56 ID:Tn/WWJ5+0
一刀と曹操は、玉座の間で、献帝に謁見していた。
「曹操よ、此度の戦い、ご苦労に思う」
「有難きお言葉にございます」
曹操が跪いた状態で、深々と頭を下げる。
そして、一刀の方を向く。
「ここに控えますのが、”天の御使い”と名高い北郷一刀殿です」
曹操に紹介され、一刀も頭を下げる。
献帝が一刀の姿を見て、歓喜の声を上げる。
「おぉ、そちが北郷一刀か!立派な働きぶりと聞いておるぞ。ご苦労であった」
「立派なんて、そんな大した事じゃないですよ…」
一刀がポリポリと頭をかき、照れ臭そうに答える。
献帝は玉座を立ち、一刀の手を取る。
「北郷、どうかこの乱世を太平の世に変えてくれ。朕は心強う思う」
そして、曹操に振り向く。
「丞相・曹操よ。左将軍宜城亭侯の官位を授けたいと思うが、どの様なものかのう?」
「宜しかろうと存じます」
曹操が答える。
「北郷よ、これからも朕の力になってくれ」
「は、はい。精一杯頑張ります」
ここまで期待されると、たじろいでしまう。
一刀はしどろもどろに答えた。
曹操は、その様子を苦々しく見ていた。
献帝は隣にいた伏皇后に声をかけた。
「皇后よ、何か祝いたいのう」
「天の御使い・北郷殿を迎えて、酒宴をなされては?」
「うむ、それが良い!皆の者、宴のしたくを致せ!」
207 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:33:22 ID:Tn/WWJ5+0
盛大なる酒宴の後、曹操は丞相府に戻った。
部屋には、荀ケ・夏候惇・夏候淵が曹操と話をしている。
「華琳様、このままで宜しいのですか?」
「何が?」
曹操が夏候惇に聞き返し、それに荀ケと夏候淵が答える。
「北郷一刀の立場は、華琳様よりも有利になるのでは?」
「宴会でも帝は、北郷殿の事を持て囃してばかりおられました」
「別に大丈夫じゃないかしら」
曹操があっさりと答えた。
「あの男が許劭にいる間は、私の手の内にあるのよ。何も恐れる事はないわ」
「とは申しましても…」
夏候惇は曹操の答えに納得が行かない様だ。
「この際、華琳様は帝に代わって天下を…」
「春蘭!」
「むぐ…!?」
曹操が彼女の口を手で塞ぎ、言葉をさえぎる。
「滅多な事を口にしないで。朝廷にはまだまだ忠義を誓う家来も多いのよ?」
「ぷはっ…。確かに油断は出来ませんが…」
「……そうだわ。久々に帝を誘って巻狩でもやろうかしら」
「巻狩…ですか?」
不敵な笑みを浮かべる曹操に、荀ケが聞き返す。
「そうよ。それに託けて、重臣達の心を探ってみるの」
「なるほど…それは名案ですね」
「そうと決まれば…桂花、手はずを整えて」
208 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:36:11 ID:Tn/WWJ5+0
翌朝、その巻狩は開催された。
曹操は、自ら帝と轡を並べ、腹心らに身辺を固めさせた。
鈴々が帝の持つ矢を覗き見ると、その矢は黄金色に輝いていた。
「ねぇねぇ愛紗、見て見て。帝の矢がキラキラなのだ〜」
「鈴々、少しは口を慎め。ご主人様が恥をかいてしまわれるだろう」
その時、一匹の大きな鹿が草原を駆け抜けた。
「おぉ、良き獲物!」
帝は自らの弓矢を構える。
だが、鹿のあし速さに追いつけず、鹿に矢は命中しない。
「丞相、射て見られよ」
「御意」
そう言うや否や、曹操は帝から弓矢を奪い取った。
「っ!?」
突然の曹操の行動に帝はもちろん、一刀や愛紗、鈴々、朱里達も呆気に取られた。
曹操はそんな様子を気にもせず、弓矢を構えて鹿に狙いを定めて、それを放った。
矢は見事鹿に命中した。
遠くから様子を伺っていた兵らが声を上げる。
「おぉ、金の矢だ!」
「帝が射止められたのだ!帝が鹿を射られましたぞ!」
兵が声を上げるが、それを曹操が遮った。
「お待ちなさい!その鹿を射止めたのは、この曹孟徳よ!」
それを聞くと、周りの空気が重くなった。
帝も曇った表情となってしまう。
だが、曹操に怒りを持っていた者が一人だけいた。
愛紗である。
愛紗が刀の鞘を抜こうとするが、一刀はそれに気が付いてそれを止めた。
一刀は曹操に近寄り、わざとらしく褒めた。
「へぇ〜、やるもんだな。曹操って、弓矢の才能があるんだ?」
「ふふ…これも帝の御意向というものよ。さて、次の獲物はどこかしら?」
そう言うと、曹操はそのまま馬を別の方向へと走らせた。
「あーっ!帝の弓を返さないのだ!」
鈴々が曹操を指差して、声を上げるのだった。
209 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:37:42 ID:Tn/WWJ5+0
「私は許せません!」
愛紗がバンと机を叩き、声を上げる。
「曹操の帝に対するあの仕打ちは、臣下としてあるまじき行為です!討ち果たして国の害を除こうとしましたのに…!ご主人様、何故止めたのですか!?」
「落ち着いて、愛紗」
一刀が怒り心頭の愛紗を宥める。
「もし愛紗が曹操に手を出してたら、曹操の部下達が黙ってなかったかも知れないだろ?」
「その時は、我らも負けてはおりませぬ!臣下の前で帝よりも己の力を誇示しようとする曹操の傲慢を、黙って見過ごす事は出来ません!」
「そりゃ愛紗の気持ちも分かるけどさ…。あの時争ったりして、帝にも危害が及んだりでもしたら大変じゃないか」
「あっ…」
「そんな事になったら、その罪は俺達が被る事になる。愛紗なら、それは分かるだろ?」
「…そうでした」
愛紗が俯き、謝罪する。
「申し訳ありません、私の考えが浅はかでした」
「そんな事ないよ。それだけ愛紗が国の事を思ってくれてるって事は、きっと帝も喜んでくれるんじゃないかな」
一刀が窓の外を見上げる。
「それにしても…帝も気の毒だよな。その辺は、正直なところ俺も同意見だよ」

曹操の横暴に耐え兼ねた帝は、忠臣として功績ある車騎将軍・董承に密命を出し、曹操を討つ決意をした。
だが、それが大きな天下を呼び起こす事になる。
210 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:40:12 ID:Tn/WWJ5+0
修正 大きな天下を呼び起こす事になる⇒大きな波紋を天下に呼び起こす事になる
211 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:47:52 ID:Tn/WWJ5+0
帝は広間にて、董承を呼び出した。
「お召しによりこの董承、参上致しました」
「おぉ、よくぞ参ったな、董承」
帝が董承を優しく出迎える。
「皇后とも話しておったのじゃ、”董承は真の忠臣じゃ”と…。そちには、反董卓連合の戦の後、董卓の配下であった李確と郭に長安へ連れ込まれ、
そこの脱出の際に助けられた恩がある」
「恐れ入ります…。臣下として当然の事でございます」
董承が答え、帝は壁に書かれた人物画を眺める。
「ここには、朕の先祖…漢の高祖から24代に渡る皇帝が纏られておる。高祖皇帝・劉邦、天の史上に身を起こし給い、三尺の剣を携え、数多くの戦を経て、
大漢400年の歴史を創られた…。それほどの偉大な先祖を持ちながら、朕はあまりにも情けない。今は曹操の操り人形に過ぎぬ…」
「お察し申し上げます…」
語りながら涙を流す帝に、董承の心が痛む。
彼にとって、帝が悩み苦しむ姿ほど心苦しいものはなかった。
「この董承、お力になれれば、幸せに存じます」
「おぉ…よくぞ申した。これからも朕の為に頼むぞ」
帝はそう言うと、机においてある、豪華な衣服と帯を董承に手渡した。
「これは、朕の衣と帯じゃ。受けてくれ」
「身に余る光栄に存じます」
「董承、それを良く改めよ…。頼んだぞ」
「は…?は、はい」
董承はその言葉にどこか引っかかるものを感じながら返事をした。
そしてその様子を…物陰から荀ケが窺っていたのだった。
212 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:53:31 ID:Tn/WWJ5+0
 董承は帝の部屋を出て、自宅に戻る帰路を歩いていた。
(帝のご様子…ただ事ではない。この玉帯に何か謎があるのか…?)
「ごきげんよう、董承殿」
「!?」
突然、後ろから少女の声がした。
恐る恐る振り向くと…そこには、曹操が立っていた。
後ろには夏候惇と夏候淵が控えている。
「こ、これは丞相殿…」
「帝に拝謁されてのお帰りかしら?珍しいわね」
「…」
「あら、何かしら?その手のものは」
曹操が董承の手に持っている衣服と帯を見て、尋ねる。
「いや、これは…いつぞや長安から都を移られた時、賊と戦った功労として、御衣と玉帯を頂いたのでございます」
「ふぅん、今頃になってあの時の恩賞をねぇ…」
「はい、身に余る光栄と喜んでおります」
「そうでしょうね。私にも見せて下さらない?」
「そ、それは…」
「どうしたの?嫌だとおっしゃるのかしら?」
「い、いえいえ!決して…」
董承はあらぬ疑いを掛けられるのは嫌なので、渋々それを手渡した。
213 名前:放たれた虎[sage] 投稿日:2007/05/18(金) 00:54:56 ID:Tn/WWJ5+0
曹操は衣服や帯をマジマジと眺める。
そして、図々しくも、それを自らの身体に着込んでしまう。
だが、身体の小さい曹操では大きい様だ。
「どう?寸法を合わせれば私に似合うでしょう。譲って下さらない?」
「と、とんでもない!我が家の家宝でございます!」
思わず、董承が声を上げる。
「そんなに嫌?何か隠してあるのかしら…?」
「…それほど申されるなら、差し上げましょう」
「ふふ…クスクス…。あはははははは!」
あまりに向きになる董承に、曹操は声を出して笑う。
「冗談に決まってるじゃない。人の恩賞を横取りしたとあっては、人聞きが悪くなってしまうわ」
そう言うと、曹操は着ていた衣服と帯を脱いで、董承に返した。
「名誉な事じゃない。大切になさいな」
「ありがとうございます…では」

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