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910 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 07:10:36 ID:Qgu67BeQ0
95%ぐらい書き上がったんだけども75kとかアホみたいな量になった。
素人が書きたいように書いたSSだけど、読んでみてくれると嬉しいです
ちなみに前提として誰も死んでないということになってます
とりあえず完成してる部分(三分の一)だけ投下


――01話、終わりからの始まり、苦悩と決意30*4

ハムのことを思い描いた
かゆのことを思い描いた
醤油のことを思い描いた
→皆のことを思い描いた?

あれ…誰か一人忘れているような、
「どうかしたの?」
「いや、なんか誰かを忘れてるような……」

「むっ!?なんです、この揺れは!こんなものはプロットに無かったはず……っ!」
「この世界に何かが起こっているのでしょう……」


暗転


…さま!……一刀様!」
身体を揺さぶられる感覚に目を開けるとそこには

「太守様、ご無事ですか!何があったのですか?
 お連れになった将の皆様はいったい何処に?」
部下の兵達に助け起こされて周りを見渡すがそこには誰も居ない。

そうだ、左慈と干吉を止めるためにこの泰山の頂上に来た
皆で戦って、干吉に鏡を投げ渡されて、光に包まれて…
「ああ、愛紗!星!誰か!居ないのか?朱里!鈴々!翠!紫苑!
 どこにいったんだ!?伯珪!華雄!居るんだろう?どこだよ貂蝉!!」
兵の手を振り解き走り出す、心に広がってくる不安から逃げるように
神殿から外に飛び出し、駆けながらに声を張り上げて呼ぶが応えは無い。
頂上から見渡す山下には魏呉蜀の軍勢が整然と揃い、戦いの終わりを告げていた

あの鏡を受け取ったあと、いったい何が起こったのか皆は居なくなり
先行して追って来てくれたらしい華琳や蓮華、恋たちも消えてしまい
兵達が白装束を打ち払い、駆けつけた時には
ただ俺だけがこの神殿に倒れていたと言う。
世界は救われたのか?貂蝉の言っていた外史としてのこの世界は
消える定めにあるという運命は覆ったのか?
皆の……犠牲の結果として?

兵を従え、城に戻ると月も詠も璃々すらも居なくなっていて、待っていたのは
世界を救った英雄にして天下を統一した覇王としての歓待と期待
世界を治める為の膨大なやらねばならぬ仕事の山だけだった。

指揮官がいなくとも朱里や紫苑たちのおかげで組織としての体裁が整い
人材も揃ってきている蜀はともかく、魏や呉は戻ってきたと思った主が
再び突然居なくなったこともあり、反感や猜疑が巻き起こっているうえに
勝手のわからない言わば余所の領土、とてもどうこうできるものでもなく
そのまま残った者達に任せるしかなかった。

いや、そんな言い訳は要らない、もう何もしたくなかった
誰も居ない、大切な人も仲間も親しい者達の誰一人としていない
ここは本当にあの世界なのだろうか?あの時貂蝉は言っていた
この世界は終わる、しかし新しい外史が創造される可能性があると。
もしかしてこの世界は俺が新しくつくった外史世界なんじゃないのか?
だからこそ、愛紗も華琳も蓮華も月も誰もいないんじゃないのか?
そう思えば白装束の連中、左慈に干吉もあれから一切姿を見ない説明もつく
だったら…… だったら皆はどうなったんだ?
皆の居たあの世界はどうなったんだ?
あの世界はもう消えてしまったのか?だとしたら皆は……皆も……


「愛紗、ごめん。やっぱり俺はそんな立派な人間にはなれないよ」
結局のところ俺は仲間たちを守りたかった、大切な人を守りたかっただけなんだ
この世界にも愛着が湧いている?それも嘘じゃない。でも違う
どの世界でも関係無い。愛紗が、皆が居るから、そこが大切な場所になる。
誰も居ないこの世界で、覇王として君臨したとしても何の意味があるというんだ。
いったい誰が何時そんなことを望んだと言うんだ。

俺のせいなのか?俺が自分だけ助かればいいと考えたからなのか?
彼女達のいない世界を、俺自身が?そんなバカなことが……
あの時は戦いの最中、それを否定しきれない自分が居た。
どうしてこんなことになってしまったんだ。

元の世界に戻れず、大切な仲間たちも失ってしまった。
もう、なにもなくなってしまった。


仕事も手につかず皆が使っていた部屋を訪れては思い出にすがる日々
我ながらなんて情けないんだろう。こんなことじゃ愛想をつかされてしまう
でももうそんなことも……
ガタタタ、
棚に積んであった書類を崩してしまい、あわてて床に散らばったものを拾い集める。
「!、この鏡……朱里の、集めた資料?」
銅鏡に神器だのあやしげな物品や、それにまつわる情報が書かれた書や絵が
いくつも出てくる、あの戦いの前、貂蝉の話を聞いて集めたのだろう。

そうだ、あの時鏡に触れると意識が、ということは?アレは?
あの鏡はどうなった?考えるより先に走り出していた、馬を駆り泰山を目指す
そうだ、そもそもこの世界に来たのは鏡!あの鏡に吸いこまれたんじゃないか!
こんな主君にも忠実についてきてくれる護衛の兵たちのことさえ忘れて
夜通し駆けた―――。

泰山の頂上にある神殿、その祭壇に件の鏡は……あった。
あの時たしかに見たものと同じ、だがしかしなんの変哲も無い銅鏡。
触っても眺めても映してみても、なにも起きなかった。


やはり、ダメなのか。もうどうしようもないのか?
違う、違うちがうチガウちーがーうー、諦めるな!愛紗に約束したじゃないか
ずっと一緒にいるって、愛紗だけじゃない、みんなと!約束した!
だから、だから俺が諦めるのだけはダメだ!皆を裏切ることになる。
あの時の思いを嘘にしてしまうことになる。それだけは許せない。
約束を守らないと。守るんだ。絶対に諦めない。
俺はみんなともう一度、何があろうと必ず皆のもとへ戻るんだ。


――02話、一方その頃、新生した外史では30*3

聖フランなんとか学園、広大な敷地面積を持つ全寮制の云々……
その至る所に現代にはおよそそぐわない服装の人間が多数姿を現す
人々ははじめ戸惑った様子で、しかしすぐに一箇所に集まっていく
そしてその人の輪の中心には学生らしき一人の少年が
これまた一人の少女の腕に抱かれて眠っていた。

そこに突然全裸の男性?があらわれ人々を導くかのように
少年と少女を連れて行く、集まっていた人々もそれに従うように姿を消す

その日、そこで起きたことは誰にも説明できない、信じがたい出来事であった。

それからおよそ一週間の後、舞台は同じく学園の敷地内。
学生寮の一室で寝台に横たわる少年
さてその少年、名を北郷一刀と言う。ここ聖なんちゃら学園のれっきとした
生徒ではあるが、彼は未だ眠りの中に居た。
その傍らには一人の少女、これまた学生服を纏ってはいるが
その立ち居振る舞いや雰囲気はどこか普通でないものを漂わせつつも、
横たわり目を開けること無き少年を案じるかよわき乙女であった。
「ご主人様……一刀、、さま、」
どうして?どうして目を開けてくれないのだろう?
彼女はただそれだけを考えていた。

この世界が彼の居た世界、天界でありそこに彼と共に戦った仲間たちと
こうして来ることができた。理屈はともかくそれは事実のようであり
この世界での生き方というものも説明され理解はしているつもりだ。
見知らぬ世界で戸惑う自分達のために貂蝉が随分骨を折ってくれたことも
この世界を知るほどに分かってきて当分は頭が上がらない。

もとの世界、自分の生まれた世界のこと、残してきた者たちのことも
気にはなるが、それよりも自分たちを導いてきた存在が
忠誠を、命を、それ以上の想いをも捧げ、そしてそれ以上のものを与えてくれた
唯一無二の主君、かけがえのないご主人様、北郷一刀その人がなぜ!
あれから何日経ってもまるで目を覚まそうとしないのか?
「どうして…」

「まだ、そうしていたのか、そう毎日ではお前の方が参ってしまうぞ、愛紗」
扉をゆっくりと開け、音も無く現れた少女が呆れたような声でそう諭す
「貂蝉も言っていただろう?主が目を覚まさぬのは何か原因があると
 それがこの世界へと飛ばされたことと関係しているなら、我等には
 どうしようもない。なにせ、、われらにはこの世界のことさえわからない
 ことばかりなのだからな」
僅かに言い淀んで、自嘲気味にそれでもはっきりと言いきる

「だからと言って!なにも、なにもせぬではおれん!」
「おるではないか?こうしてココで主の顔を眺めていても何の解決にもならん
 主のことは貂蝉に任せ今は一刻も早くこの世界に馴れることが肝要ではないか
 やることはいくらでもあるぞ?」

「……わかっている、わかっているが私にはそのように割り切るなどできん。
 それに、そういう星とてココに来るのはもう何度目だ?」
「わたしは!……主ばかりでなく気を回さねばならぬ者が多いのでな
 朱里やか、曹操など夜通し書物にかじりついておるし、あれはアレで心配だ。
 鈴々も他の皆も心配しておったぞ?霞なども珍しく寂しそうにして居たな
 ……まあ、言うて聞く愛紗ではないか、まったく世話がやけるのぅ」
照れ隠しか、言い残すように扉を開けたまま星と呼ばれた少女は立ち去る
ゆっくりと扉がしまっていき再び静寂が部屋を覆う。
規則正しい寝息だけが響く中、その寝顔を眺めながら愛紗と呼ばれた少女は
少年の手をそっと握りしめ彼のことを強く強く想った。



同時刻、同じ学生寮の入り口付近に生徒らしき少女たちが集まっていた。
皆がどこか落ち着き無い様子でなにかを待っているようにも見える。
一つ個所にまとまっているのではなく
あちら、そちらといくつかの小さな集まりに別れて散在している。
それだけでは珍しくも無い光景ではある。
ここが男子寮であり、集まっているのが女性ばかりと言うのも
特段無い話というわけではないだろう。

しかしその集団には普通の学生にはあたりまえにあるだろう笑顔や活気が無かった。
誰一人として気の緩みが無く、まるでこれから戦場にでも向かうような
それでいてそれを今かと待っているような雰囲気がその場を支配していた。

と、建物の入り口から一人の少女が現れ、幾人かが迎えるように近付く
「星〜おにいちゃんと愛紗はどうだったのだ〜?」
「おいおい、そんなすぐに変わるわけね〜だろ?何回同じこと聞いてんだよ〜」
「む〜、そんなの知らないのだ、翠ははくじょーものなのだ」
 
星と呼ばれた少女は小さく息を吹くと肩で返事を返し、それ以上なにも言わなかった。
それを見て声をかけた二人も嘆息する。
遠巻きにその様子を見ていた他の者たちにもその空気が広がったのか
その場を再び重苦しい沈黙が埋め尽くす。

およそ学園、学生、というイメージに似つかわしくないある種異様な空間に
それでも空は青く晴れ渡り、照りつける日差しは強く降り注ぐ。


――03話、旅立ち、そして……30*3

それから俺は手始めに各地の都市を巡り、情報を集めることにした。
すでに大きな敵対勢力もなくなったこともあり、政務は部下たちに委ねてしまい、
自分の足で直接手掛かりを探す旅をしている。
まるで傷心旅行だ。と我ながら思う、人を使って情報を集めさせてもいたし
皆の捜索隊も各地に派遣しているが、知らせが来るのを玉座で
ただ待つだけなんてとても出来なかった。

こんな状態で仕事をしても役に立つどころか大きな失敗をしてしまうかもしれない。
もとより才能があった訳でもない、皆が支えてくれたから押し上げてくれたから
上に立っていただけだ、そう割り切って数人の護衛だけで城を出た。
愛紗や華琳たちには王としての責任を放棄していると咎められるだろうな
そんな風に思い出すだけで喪失感に押しつぶされそうになる
何処にいるんだ?もう、どこにも居ないのか?

後悔する、心配する、悩む、思い出す、どれも今やるべきことじゃない。
そのどれもが甘美な誘惑で俺の足を止めようとする
迷いを振りきるように思考を急いで巻き戻す、何を考えていたんだっけ
そうだ、王としての仕事……

王として民の為に善き統治者足ろうと努力することは正しい。
やるべきことは山積しており、やりがいもあるだろう
自分の持つ未来の知識もきっとその役に立つに違いない。
忙しく働きその成果に一喜一憂して、そのうちには再び
新しい仲間たちも愛する人もできるかもしれない。
失ったものは取り戻せなくても、その穴は何時の間にか別の大切なもので
埋まるかもしれない、この世界に来た自分がそうだったように。

ぬるま湯が足元を少しずつ満たしていくような感覚
知らぬ間に少しづつ身動きが取れなくなっていき
気がついたら首まで浸かって満足してしまっている姿を想像し怖気が立つ
「…っざけんじゃねえ!!」
思わず叫んでしまってから往来を歩いていることに気付く、
周囲を歩いていた人々が何事かと振りかえって注目を集めてしまう。
そのことをまるで他人事のように冷静に捉えている自分に驚いた

考えるのを止めて行動せねば、動いていなければ立ち止まってしまう
そして一度足を止めてしまったら二度と立ち上がれないのではないか?
恐れだった、自分が諦めてしまうことが怖かった。
いつのまにか走り出している足、そうだ!前だけを見て……

ドン!
「ひゃあ!」
自分の出来ることからやるしか、って、あ……
交差路で衝突してしまったソレを見て己が目を疑う、
何故ここにコイツが居る?え?あれ???
脳が高速で空回りして思考が急ブレーキでもかけたようにスリップしていく
身動きも出来ずそのまま固まっていると

「な、ななななんですのいったい、わたくしにぶつかってくるなんて
 どこの間抜けのスットコドッコイのコンコンチキですの?」

鎧こそないが見間違えるはずも無い見事なぐるぐる巻きに
確かに聞き覚えのある声と常軌を逸した喋り方。
「え、えんしょ、う?」
脱力しながらそれだけつぶやくと

「?あなた、どうしてわたくしの名前を?あら……
 どこのブ男かと思いましたら北郷一刀ではありませんの!
 わたくしにぶつかって来ておいて謝罪の言葉一つないなんて
 やっぱりあなたはどうしようもない下賎の者のようですわね!」
目を吊り上げて数倍の勢いでまくしたてられて我に返る
「悪かったな、考え事をしていたんだ」
ぶっきらぼうに言って手を差し伸べる。
「その割りにはずいぶんな勢いで疾走していましたけど、それに」
手を勢いよく払われて、パン!と乾いた音が響く
「あなたのような方の手を借りるまでもありませんわ」
そういうと袁紹はすっくと立ちあがりそのまま立ち去っていく

固まっていた思考がようやく動き出す、袁紹が何故ここにいるんだ?
そうだ、キ州での戦いのあと行方が知れなくなったが
生きていても問題ないと言う朱里の判断に従って放って置くことにしたんだ。
いや、しかし何故ここに?いやそれよりも袁紹がいるということは
この世界は俺のつくった新しい外史世界ではない?だとすれば…いやいや待て待て

あ、戻ってきた、腰に手を当ててこちらを指差し
「お待ちなさい!ここであったが百年目ですわ北郷一刀!積年の恨み、悪業の数々
 世の民草にかわってこの袁本初が成敗してさしあげますわ!
 おーっほっほっほ!」
そう言うや袁紹はこちらに向かってきて、手の届く距離まで来たところで
何かに気付いて立ち止まり手持ち無沙汰にきょろきょろと周りを見渡している。


どうしようか?


――04話、三馬鹿結集30*3

「……わたくしも鬼ではありません、本郷一刀。そうですわね
 あなたが平伏して謝るのであれば許してあげてもよろしくてよ」

はあ?なにを言ってるんだという思いと、やっぱりかという思いが
同時に湧きあがってきて深い溜息が自然と口から吐き出された。

「なんですの?せっかくわたくしが謝罪を受け入れるというのに
 こんな機会は今を逃しては二度とございませんわよ?」

冷静になるんだ、どうあれ今ここで袁紹に会ったということが
何かの手掛かりに繋がるかもしれない。その逃してはならない
機会が目の前にあると直感が告げている気がした。
迷うな、行動せよ、背中を焦がす不安など吹っ切ってみせろ

大仰に両手を掲げ袁紹の目の前で勢い良く五体倒置してみせる
「ひっ、、、(なんだ)、そ、そうですわ、そうやって身の程を弁えれば
 よろしいのですわ」
「これでお許し戴けましたでしょうか?袁紹さま」
出来る限り皮肉を隠して慇懃に対応する。
ここまでしても、羞恥や悔しさなど微塵も感じない
むしろ目的の為に行動しているという事実に喜びに近い充実感さえ感じる
俺は渇いている、失ったものの為に何も出来ないことに渇き
そのためになにかをすることでその渇きを潤そうとしているのだと思う。

「袁紹さま〜、どこいったんですか〜、ああ、やっぱり居たいた〜」
「文ちゃ〜ん、待ってよお〜」

そこにさらに二人、袁紹の仲間か?首筋に冷や汗が流れる。

「な〜斗詩、だから言ったろ?この路地に入っていくのが見えたって」
「うん、でも、袁紹さま?なにやってるんですか?」

「なにって、見ればわかるでしょう?悪党をこらしめてるんですわ
 これが魚釣りでもしているように見えます?」
「あ〜、またかこの人は……あたいらが姫の分まで働かされてる間に
 なにやってくれちゃったんですか?」
「大丈夫ですか?あれ?この人、どこかで……」

どうやら悪い予感は杞憂だったらしい、二人組みの片方に優しく助け起こされるが
「なにを言ってるんですの、文醜さん!顔良さん!その男は北郷一刀ですわ!
 わたくしに働いた数々の無礼をどうしても謝りたいとおっしゃるから
 仕方なく受け入れてあげただけですのよ」

途方も無く事実を捻じ曲げた発言に呆れも通り越して諦めの心境になる。
しかし文醜に顔良だって?袁家の二枚看板がこんな可愛い少女ってのは
今更驚かないが、未だに袁紹についているのには驚いた。
「北郷って、あの麗羽さまが負けた天の使いとかいう?」
「誰が負けたですって?わたくしは勝ちを譲ってあげたんですのよ」
「もうそれはいいから……本当に北郷さんなんですか?」

「ああそうだよ、君達は袁紹の仲間か、苦労していそうだな」
そう言って苦笑しつつ、うなずいて肯定すると
「あ、わかります?って、ええ〜〜、本当の北郷さんなの〜!?」
「どうかしましたの?そんなに驚いたりして」
「だってだって、北郷さんって今や曹操さんも孫権さんも倒して
 世界の覇王なんですよ〜?どうしてこんなところに」
「あ〜、そうなんだ?すごいじゃないですか袁紹さま、そんな人に
 謝られるなんて、もしかして惚れられちゃったとか?」

「いやそれはない」「冗談じゃありませんわ」

「そんなことより麗羽さま、酷いじゃないですかあたいらにばっかり
 働かせて自分はこんなとこで男と逢引きなんて」
「猪々子?しつこいですわよ?それにどうしてわたくしがそんな下々の
 者がすることをしなくてはいけませんの。
 そもそもあんな筏で海に乗り出そうとしたのは誰でしたかしら?
 そのせいで本当に遭難するところだったんですからわたくしの代わりに
 助けていただいたお礼をするぐらい当〜然のことですわ」
「そうだけどさあ〜海にいこうって言い出したのは姫じゃんか〜」
「わたくしはあ〜んな筏で……」

「あの〜本当にすいません〜この人たちいつもこうなんです」
「いや、良いんだ、それよりも君達に相談というか、協力して欲しいことが
 あるんだが……」


ぶおーー
突然、法螺貝の笛の音とともに武装した兵士の集団が
狭い路地の両側から雪崩れ込んできた

「な、なんですの?これは、猪々子さん、なにをなさったんですの?
 怒らないから言ってご覧なさい」
「なーに言ってるんですか、どうみても姫のせいじゃないですか!」


――05話、文醜暴走!?30*3

どうやら護衛の者が近くに居たようだ、倒れているところでも見て
兵を呼んだのだろう。兵達は問答無用に包囲すると盾を構えて押し寄せてくる。
しかし抵抗しなければ連行されるだけ、話のできる者を呼べばすぐにでも……
「ええーい、寄るな寄るな、こいつがどうなってもいいのかぁ!」
後ろから首根っこを掴まれると物凄い力で引きずり回される
「お、おい、大人しくしたほうが……」
「人質は黙ってろぃ!そうらそうら、道を開けろ〜!」
「ちょ、ちょっと文ちゃん、そんなことしたらまた……」
「ほら斗詩、話はあとで聞くから早く逃げなって!」
「こうなっては仕方ありませんわね、行きますわよ斗詩さん」
目を輝かせながら嬉々として悪役を演じる少女に言葉は通じなかった
俺は文醜に引きずられるままに路地から表通りへ、また路地へと
目の回るような逃走劇を繰り広げさせられ、子供の頃に乗った
ジェットコースターを思い出していた。


二人でひとしきり駆け回ってから兵たちを撒いて身を隠し、
裏通りの手近なボロ空家に連れこまれた。
「どうするつもり?こんなことをしたらお尋ね者になってしまうよ」
「うーん、まあそれは前にも何度かなってるし、どうにかなるっしょ
 とりあえず夜までここで待って、暗くなったら外に出るよ
 斗詩、ちゃんと逃げれたかなあ」

「可愛い顔してずいぶん荒っぽいんだな」
「!、うわー、さらっとお世辞出るんだ、怖いなあ、あはは」
「いや、お世辞じゃないぞ?正直な感想だよ」
「え、いやいやその前の……ヵゎぃぃってのがさ」
「だからそれも、正直な感想だって」
「ぅ、わははは、そんな気を遣わなくても取って食いやしないって
 あーあ、ただ隠れてるだけってのもつまんないな〜」
照れ隠しかうろうろと狭い小屋の中を行ったり来たり落ち着かない
まるで子犬のようだ、と思った。

床に座って引きずりまわされた身体を休めていると、疲労のせいか
睡魔が襲ってきてウトウトする、気がつくと外は夕焼けに赤く染まり
子犬も流石に疲れたのか、床にうずくまって寝息をたてていた。
丸くなって眠る文醜、こうして見ると本当に可愛い少女だ、
やべ、なんか変な気分になってきたぞ、随分ご無沙汰だからなあ。

我ながら正直な反応に呆れるやら情けないやらで、
頭を振って煩悩を振り払い外に出ると
心を落ち着けるために落ちていた小振りな棒キレを拾って素振りをはじめる
剣に集中すれば他のことは気にならなくなる。

ガキの頃からの習い性だが、思えばこの世界に来て
僅かなりとも自信のあった剣の腕なんかなんの役にも立たないことが
証明されてしまった。愛紗たちの腕前は桁違いだが、それどころか
雑兵と呼ばれるよう寄せ集めの兵士たちにすら及ばないのが現実だった。

それでもその桁違いの相手に鍛えてもらい実戦も少ないが経験したことで
確実に強くなったつもりだったが、あの左慈とかいう道士には
まるで歯が立たなかった。そして守ってくれた仲間たちはもう居ない
何があっても助けてくれる者は居ないのだ、もっと強くならなければ

「んー、気合入ってるけど、まだまだだね」
何時の間にか文醜が起き出して来て眠そうに目をこすりながらそう評した
「あたいが稽古つけてあげよっか?ふわああ(欠伸)、今暇だし」
「いいのか?俺は袁紹の敵だろ?二枚看板の文醜将軍が敵に協力なんかして」
「そういうややこしい話はどーでもいいよ、それともあたいらと戦う気?
 だとしてもそんな腕じゃ敵にもならないっしょ、へへーん」
さらりと流されたうえに痛いところを突いてくる
「はは、情けないけど違いないな。それに思い出した、俺も袁紹を捕らえる気も
 戦う気もないよ、それを説明しようと思ってたんだった。
 邪魔が入って駆けずりまわされたせいですっかり忘れていたよ」

「ふーん、それで逃げなかったのか、けど袁紹様なんかになんの用?
 三国の覇王ともあろう人が部下の一人も連れずにさ」
「まあ、それも含めていろいろと説明したかったんだけどさ、簡単に言うと
 袁紹に協力を頼みたかったんだよ、助けて貰いたいことがあってさ」
「ええー!?袁紹さまに?頼みごと?う〜ん、それはどうかなあ……
 悪いことは言わないから他をあたったほうが賢明だと思うけどなあ」

「ははは、それはよくわかってるし他ももう、あたれるだけあたってるんだ
 その上でどうしても手を貸して欲しいと思ったんだけどダメかな?」
「いや、まああの人のことだから断らないと思うけど、本当にいいの?
 どうなっても知らないよ?」
「できれば文醜将軍からも頼んでくれると助かる」
「それはいいけど、ってその文醜将軍はやめてよ、もう将軍でもなんでもないし
 文醜でいいよ」 
手を振りながらそう言うと思案顔で腕を組み、品定めするように
こちらを頭からつま先まで眺めて
「ふーむ、まあいいか、あんた弱そうだし、悪い人じゃなさそうだ。
 それに困って頼ってくる人見捨てちゃ寝覚めも悪いかんね、
 そろそろ暗くなってきたし、袁紹さまのところに案内してあげるよ」
信用して貰えたようだ、ってもしかしてそこまで考えて俺を見定めるために
あんな騒ぎ起こしたのか?いやさすがに考え過ぎだろう……
先を歩きながら振りかえって「置いてくぞー」と呼んでくる文醜を
日が沈み暗くなってきた街の中に見失わないように追いかける。

この時の俺には知る由も無かったが
この後袁紹たちに合流するまで何時間も街中をさまようことになったのは
言うまでもない。


――06話、一夜のエン?30*4

「斗詩〜やっと会えたよ〜あたいが居ない間寂しくなかった?
 麗羽さまに変なことされなかった?あたい心配で心配で」
「もう〜心配したのはこっちのほうだよぅ」
「猪々子じゃありませんのにそんなことするわけないでしょう?」

「本当?よかったあ〜、斗詩があたいのこと見捨てて逃げちゃったかと
 思って、流石に焦ったよ〜」
「もう、文ちゃんてば、私達を逃がそうとあんなことしたんでしょ?
 そうじゃなきゃ文ちゃんを置いて逃げたりなんかしないよぅ」
「さっすが斗詩、あたいのことよくわかってるじゃん
 じゃああたいが今、何が欲しいかもわかるよね……」
「え?ちょっと文ちゃん、こんなところでいきなり抱きついちゃ!?」
ぐぐぅ〜、と大きな音が文醜の体内から響き渡る
「斗詩ぃ〜あたいもうお腹すいて動けない〜」

「本当に仲が良いんだな、袁紹も部下には恵まれてるじゃないか」
彼女達三人の関係が、どこか自分と仲間たちとのそれと重なって見えて
一歩引いて二人を眺めている袁紹につい馴れ馴れしく声をかけた。が
「あら?あなたまだ居たんですの?もう過去のことは水に流してあげますから
 わたくしの気が変わらないうちにさっさとお帰りなさい」
と急に不機嫌そうに投げ返されてしまった

「いや、そういうわけにもいかないんだ、実は袁紹に頼みたいことがあってさ」
「勘違いしないでくださる?どうしてわたくしがあなたのような」
「この通りだ、頼む。本当にもう袁紹しか頼れる者が居ないんだ」
先程と同じように、今度はゆっくりと膝をついて頭を下げて頼み込む。
「さすが袁紹さま〜大陸を統一した王にこうまでして頼まれるなんて〜」
しっかり聞いていた文醜が顔良の背中越しに援護してくれる、のはありがたいけど
なんであからさまに棒読みなんだよ!

しかし当の袁紹はというと急に黙り込むと僅かな逡巡の後にあっさりと
「……そ、そこまでおっしゃるなら、わたくしも無下に断るわけにも
 いきませんわね、良いですわ、有能で才と人望と美貌に恵まれたわたくしが
 どうしようもないブ男のあなたに手をお貸しして差し上げますわ
 おーっほっほっほ」
あんたはそれでいいのかよ!
「あ、ありがとう恩に着るよ」
うーむ、この人は物凄く扱いやすいというか乗せやすいな
なんだか少し心配になってきた、いろんな意味で。

それからこちらには敵意や捕らえる気など無いこと
皆が消えてしまったこと、その理由やどうなったのかを調べていることなどを
どうにかこうにか説明する。

とはいえこんなノリだから話はあっちへ転がりこっちへ転がり
立ち話もない、と宿に案内されて途中からは酒まで入る始末。
顔良には同情され、文醜は励ましてくれてるんだか、妙な説教?をされ
袁紹には華琳とのことをしつこく聞かれるわでなにがなんだか……
けれども、それよりなにより彼女たちの存在が、
まるで皆にも再会できることの証であるような気がして、
一筋の光明が見えてきたような安心感に包まれて気が抜けたのか
薄らと明るんできた空を見ながら久しぶりに深い眠りにつくことが出来た。



「俺がバカだった、一時の安心感にだまされて少しでもやつらのことを
 見直した、実は良いやつらなんじゃないか?なんて思った俺が!
 それどころかこれでなんとか皆に再会することが出来るんじゃないか
 などと協力してくれることを前提に考えていた俺がああああ!」
目を覚ましたら何故か身一つで馬小屋に転がっていた、催眠術や洗脳
なんてチャチなもんじゃねえ、本当に恐ろしいものの片鱗を(ry

幸いというか、盗られて困るようなモノは持ってないし
油断して逃げられただけだ、けれどもまた振りだしか……
薄着で外で寝てたせいか寒いし、地面に横になって考えていると
自己嫌悪や後悔が湧き出して気分が落ち込んでくる。

「ふぁあ〜(欠伸)、あれ?一刀ぉ?なんでそんなとこで寝てんの」
来ましたよいきなり馴れ馴れしく呼び捨て、ってそうじゃなくて、えぇ〜?
「あの、こっちが聞きたいんですけど……ヘックチョン!」
てっきり荷物とか奪われて三人とも逃げたかと思っていたが、どうも違うようだ
「おいおい、修行もいいけど風邪ひいたら大変だぞ〜、皆を助けに行くんだろ?
 そんなで大丈夫かな〜」
しゅ、修行ですか?どんな修行ですか?馬小屋で寝る修行って
じゃあなくて!ああもう、こういうノリも油断させる演技じゃなかったのか

「文ちゃ〜ん?どうしたの〜?あ、こんなところに居たんですか北郷さん
 なにやってるん……あ〜、また文ちゃんが迷惑かけたんですね〜
 すいませんすいません〜」
「ちょ、違うちがう、と思うんだけど」
「酷いなあ顔良〜あたいまだなにもしてないよ〜?」
まだってなんかするつもりだったんかい
「ほぇ?違うんですか?あ、ごめ〜んだって文ちゃんのことだからまた」
「はぁ〜〜〜あ!、良い朝ですわね〜」
とっくに日は折り返して西の地平に向かっているんだけど

「三人ともそんな馬小屋の前なんかでなにを騒いでますの〜?」
「あ〜、いや昨日というか今朝、確かに部屋の寝台で眠りについたと思ったんだが
 気がついたらここで寝てたから、お前らに騙されたのかと」
「あ〜、そうですよねぇ〜普通そう思いますよね〜」
すでに諦めの漂う顔良のつぶやきをさえぎるように袁紹が目を吊り上げて抗議する
「な〜にをおっしゃいますの?わたくしがそんなこそ泥みたいな真似を
 するわけがございませんわ!単に貴方がわたくしの寝台を占有してらしたから
 仕方が無く、ええ、仕方なくアホズラで愛紗〜などとつぶやく貴方を
 ここまでひきずって来ただけですのよ!」

一瞬の沈黙、諦めムードが場全体に広がる
「あちゃ〜、、それはどう考えても麗羽様が悪いよ〜」
「だよねぇ〜」
「……」

なんというか、常識を保っていたら生き残れない気がしてきたが
しかし、先行きがものすごく不安なのに心が以外にも軽くなってくるのは
何故だろう……

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