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915 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/04/09(月) 19:09:36 ID:6IiT1cnX0
はあ、それではなんとか書き上がった続きです。
あともう三分の一で終わりです。

なんか沢山キャラ出したら口調があってるかわかんなくなってくる
特に呉の人々はなんか二面性があるというか、うまく把握できなかった。
しかしなんか読み返す度に恥ずかしくなってきて死にそうだ
自分で評価しようにも日頃ろくに文章を読みも書きもしないから
どこが悪いのか全然わからないんだわ
でも2ヶ月近くかけて書いたから投下しちゃうさ

でっていう。


――07話、一方その頃、その弐30*6
学園の廊下を二人の女子学生が歩いている
真中を歩く女子は蝶を模した眼帯をしており、不機嫌そうな表情を
隠そうともせず歩くだけで周囲を威圧している。
そのすぐ後ろを無表情で追うもう一人の女生徒が、急に立ち止まり
前を行く女子を呼び止める。
「姉者、このあたりではなかったか?」

「……」
返事もせず振り向き、戻ってくるがすぐに周囲をうろうろと周り始める。

そこに二人よりも一回り小さい背格好の少女が駆け寄って来る。
「お待たせしましたー、はあ、はあ、
 すいません、ちょっと迷っちゃって、結構待ちました?」
「待ったに決まっているだろう、遅すぎるぞ季衣!
 そんなことでは戦場では……」
「待て姉者、咎めるほどではなかっただろう?
 気にするな季衣、ほら、そんな泣きそうな顔をするな、ここは戦場でもないし
 特に急ぐ用があるでもない。私達も今さっき来たばかりだ」
「ふええ、ごめんなさい〜春蘭さま〜秋蘭さま〜」
「ああ、もううるさいぞ、わかったから静かにしろ!」
春蘭と呼ばれた女生徒はそういうとまた廊下をどかどかと
音を立てて進んでいく、二人もそれを追って歩き出す。

「春蘭さま、どうかしたんですか?」
「ああ、今朝からずっとあんな調子だ、多分華琳さまが相手をして下さらない
 からだろうな、あまり気にするな」
小声でヒソヒソと後ろの二人が声を交わす。
「華琳さま、桂花と一緒に部屋に篭ってるか本読んでるかですもんね〜」
「ああ、だがそれも無理もない、急にこのような世界に連れてこられたうえに
 北郷殿があんな状態ではな……」
僅かに表情を曇らせ、ふっと溜息をつく秋蘭
「そうですよね〜、はぁ〜、いっちーたちも元気にしてるのかなあ〜」
「……そうだな、(今頃どうしているんだ?、斗詩……)」
遠い目で空を見つめて、置いてきた者たちに心を馳せる

と、突然前を歩いていた春蘭が立ち止まり、後ろの二人もそれに気付いて
足を止め、三人が並んだようになる。
「どうした?姉者」

ぐるりと振り向くと二人の首をわきに挟んで締め上げる
「ひぇっ!春蘭さまっ!?」
「二人でこそこそ何話してるんだ……私に聞かれて困ることか?」
「ちょ、待て姉者そうじゃない、落ち着け」

「あーっ!もうどいつもこいつもなにもかも気に入らない気に入らないっ!
 なんでこんなことになってるんだ!誰かなんとかしろおお!」
二人を挟んだままぐるぐる回し始める春蘭
「わあああああああ!!」
「くっ……」

ガラガラガラガラ――
ちょうどその前にあった扉が開き、背中まである黒髪をサラサラなびかせて
清楚なお嬢様といった雰囲気の女生徒が現れ、流れるような動きで
回転する三人を避けてその中心に入っていく。
「騒々しいな、なにをしている?」
目の前で制止された春蘭が驚いて相手に目を凝らす
「……貴様なにも、の、か、甘寧?」
「?、なんだその反応は、私はどこかおかしいか?」
そう言いながらも多少恥ずかしそうに視線を散らす甘寧
「いや、……プッ、ゴホン、な、なんでもないぞ?
 それよりなんのようだ!」
「(今笑ったではないか)……そうだ、貴公ら周喩殿を
 見かけなかったか?探しているのだが、保険室には居ないようなので」

「いや、我々は見ていないな、こちらの棟には居ないのではないか?」
「ボクも見なかったよ〜」
黙ったまま震えている春蘭のわきに挟まれたままの二人が答える。
「そうか、失礼したな」
それだけ言うと甘寧は疾風のように駆け出して見えなくなる。
あとには呆然とする二人と、堪えきれず吹き出した春蘭の笑い声だけが響いていた。



「思春はまだか……」
図書館の一室で蓮華は窓から外を眺めて呟いた。
視線を室内に戻す、ソファの上で熱にうなされたように苦しげに
横たわる女生徒の姿。

彼女たち、蓮華と思春の二人がいつものように様子を見にくると、
そこにはいつもよりもさらに高く積み上げられた本の山と
それに埋もれるようにして倒れている知人の姿があった。
二人はすぐに彼女をソファに移して、思春は一人で保険医を呼びに行ったのだが……
「知恵熱、、、のようなものなのか、穏ったら無理をして」
額に乗せた濡らした布を交換しながらその理由であろう者のことを考える
(でも少し羨ましい、私にもなにか、彼の為に出来ることがあればいいのに)
深く溜息をついてから、自分が目の前で苦しむ部下に心配するよりも
嫉妬していることに気付いて、その浅ましさと恥ずかしさにさらに沈み込んでしまう。
「こんな時に私はなにを……、ああ、どうすればいいの、一刀……」


「は〜、良い天気だなあ……」
庭の木陰で横になっていた伯珪は目を細めて空を仰ぐ
「つい先日まで一軍を率いていた将とは思えない呆けぶりだな」
少し離れた場所で斧を振りまわしていた華雄がそこに近寄って
隣りに腰を下ろしながらそう言って、木の幹に背をもたせ一息つく。
「こういうのも悪くないだろ、それに今はなんにもやる気にならないんだよな〜」
「ま、どうせ今私たちにできることなんて無いんだろうがな」

「北郷、だいじょぶかなあ……」
何時どこで何をしていても、考えることは一つしかない
横で目を瞑ったままの華雄も同じなのだろう、僅かに眉根を寄せる。
今までの人生とはまるで違う価値観、生き方を求められる世界で
武も智も戦ってきた経験もなんの役にも立たない状況、
何もできないのはわかっている、でもそれはどうしようもない歯痒さとして
彼女たち全員の上に圧し掛かっていた。

「思えば、あの時袁紹たちに負けそうなところをあいつが
 助けに来てくれたから今の私が居るんだよな」
「そうだな、私もまさか斬られる間際に敵の主君に庇われるとは思わなかったぞ」
「聞いた話じゃ愛紗が一刀のこと背中から斬っちゃったんだっけ?」
「ああ、真剣勝負の最中だからな、幸い皮一枚の軽傷で済んだが、
 その取り乱し様と言ったらなかったな、ふふっ」
思い出して華雄は意地悪そうに笑う
「おーい、また悪い顔になってるぞ〜華雄〜」
そう言いながらも簡単にその様子が想像できて伯珪も苦笑する 

「あらあら、こんなところでおサボりなんて悪い子たちね〜」
「それも人の恋路を肴に嘲笑とは、感心しないな」
悪い生徒を見つけた教師がいつの間にか忍び寄り、談笑に水を差してきた。
「げ、紫苑に周喩……」
「お前らだってこんなところに油を売りに来ているじゃないか
 それに誰かさんは学校にも来ないで一人占めしてるんだ、このくらい良いさ」

「そう邪険にならないの、私たちだってまだわからないことばかりで
 そんなに出来ることがあるわけじゃないのよ」
「……愛紗のことは私達も一応考えているが、こればかりは本人の問題だ
 どうしようもないさ。それに……私にも今の愛紗の気持ちはわからないでもないわ」

「はっ、気持ちはわかるだって?それにあの勝負は私だって当事者だったんだ
 殺るか殺られるかの戦いの最中に感傷なんてお笑い種だねえ」
「もういいからやめろって華雄〜、周喩も勘弁してくれよ」
「いいのよ伯珪、脳筋娘と口論なんてする気はないし
 あったとしても会話のレベルが違いすぎてできないわね、ふふ」
「余裕のつもりか!これだから小賢しい年増は」
「華雄さ〜ん、なにかおっしゃりました?うふふふふ」
どこから取り出したのか巨大な洋弓が華雄のこめかみに矢をつきつけて
引き絞られている。
「ちょ、紫苑、落ち着け、落ち着けって」
「くっ、さすがは黄カンショウ、気配すら察知させないとは私の完敗だ……」

馬鹿馬鹿しいと言いたげに冥琳は肩をあげると紫苑を一瞥して
「紫苑、それよりこれからチョウセンを手伝いに行くのではなかったか?」
とだけ言うと自分はもう歩き出して立ち去ろうとしている。
「あら〜、そうだったわね〜、それじゃあ二人とも大人しく良い子にして
 待ってるのよ〜、たまには授業も受けなきゃだめよ〜」
紫苑もそれを聞いて、弓をどこかに仕舞い込むと二人にそう言い残して
周喩のあとを追って行ってしまう。

そこからそう遠くない校舎の屋根の上で
「あっち、……周喩?と、紫苑……」
犬を抱いた少女は寝転がったまま呟くと頭を振って方向を示す
制服が乱れるのも気にせず最上階の窓から壁に張り付いて上ってきた甘寧は
ひょい、と屋根の上に飛び乗って示された方向を眺める
「……!、間違い無い、この礼は必ずする、呂布殿」
振り向いて感謝の言葉を述べると、そのまま目的の方へ屋根を伝って行き
風に髪をなびかせて勢い良く踏み切り地面に舞い降りる。


「お、おい、チョウセンに会うってなんだよ、北郷のことか?
 なにかわかったのか?お〜い……わあっ!?」
二人を追いかけてきた伯珪を一気に追い抜いて甘寧は周喩のもとに駆け寄る
「待て周喩!蓮華さまが御呼びだ!……っではなくて、穏が倒れて……」

二人は門の外に待っていた運転手つきの自動車に乗ろうとしていたが
「ふむ、紫苑、私はあとで行くから先に行っていてくれないか?」
「そうね〜、わかったわ。それじゃ行っちゃって下さい運転手さん」
車は走り去り、周喩はそのまま甘寧に案内されて何処かに立ち去ってしまい
あとにはぽつんと一人、伯珪だけが残される……。

「オレは寂しくなんかない、悲しくなんかないぞー!」
風が強くなってきて、空が雲に覆われてぽつぽつと雨が落ちてくる
夕立は急に激しく降り注ぎ、しかし僅かな時間で水分を消費しつくして止んでしまう。


ゆっくりと歩いてきた華雄がズブ濡れで呆然と佇む伯珪の肩に、ポンと手を置いて声をかける
「焦ってもしょうがないさ、どうせ私らが聞いても理解できない。
 あいつらならきっとなんとかしてくれるだろ、それがダメでも
 一刀には頼りになる仲間が大勢いる、私らはそれを信じて待てばいいさ」
「……華雄って結構大人だよな」
「そういう伯珪は以外と子供っぽいな」
「ふん、でも頭の中身まで華雄と一緒にしないでくれよ」
「……なんだと?」


その日、学園の敷地内で雨に降られたものは彼女を除いて一人も居なかったという……。

――08話、山中のお屋敷編、その壱30*4

袁家の三人という心強い?協力者を得たのは良かったが
当然というか、そのままとんとん拍子で事態が好転するはずも無く
地道に情報を集めながら一度幽州に戻り、袁紹たちの人相指名手配を
取り消す手続きをしたり、懐かしい店でメンマ丼を披露したりしながらも
結局のところどうにも行き詰まってしまったいた。

そんな現状にイライラして、気持ちが浮ついていたんだろう
袁紹の強い要望で何故か南に向かったのはいいのだが……

「あ〜、雨まで降ってきたよ〜、はあ〜、あとどのくらい行けば
 街につくんだっけ?」
「そんなこと知るわけありませんわ、ここがどこなのかもわからないのに
 なにをおっしゃってるのかしら」
「あ〜あ、誰だよこんな山の中突っ切って行こうなんて言い出したのは」
「それは、どこかの誰かさんがその方が早いとかおっしゃるから……」

地図があるから迷わないということはない、なんとなく現代の感覚で
見ていたがこの時代の地図でもある、甘かった。
「それは俺が悪かったよ、けど二人だってあんなに乗り気で賛成してた
 じゃないか」
「そんなこと言い訳になりませんわ!王者足るもの自らの言動ひとつにも
 責任というものを持つのは当然のことですわよ」
「麗羽さま〜、それ、麗羽さまにだけは言われたくないと思うなあ〜」
「なぁんですって?文醜さん!それはいったいど〜いう意味ですの!」
「いや、どうもこうもそのまんまの意味ですけど」

「も〜ぅ、ただでさえ疲れてるのにケンカしないでよお〜文ちゃんも姫も〜」
「ふう、そうですわね、こんな不毛な言い争いは何の得にもなりませんものね」


「お?一刀、みてみてよあそこ、なんか明るくない?」
隣りを歩いていた文醜が急に立ち止まってこっちを呼ぶ
「ん?ああ、明かりが灯ってるな、集落か山小屋でもあるのかもしれない」
「じゃあ、そこでちょっと雨宿りでもできるかもしれませんね」
「ついでに美味しい料理とお風呂と一晩の宿も貸していただけるといいですわね?」
「おー、それいいですね麗羽さま、あたいもさっきからお腹空いちゃってさあ、
 よーっし!それじゃあ早速いってみよかあ〜」
いきなりテンション上がってるけど、流石にそれは期待し過ぎだろう
と思ったけどなんかもうどうでもよくなってきて、それもいいな
などとその期待に同調したくなるほど疲れていたので何も言わないことにする。
顔良を見ると同じようなこと考えてたのか苦笑いが帰ってきた。


そして辿りついたのは思っていたよりもはるかに大きな門
壁の向こうにはお屋敷か小さな砦でもありそうなほどだ。
「麗羽さま、これはちょっと期待できるんじゃないですか?」
「そうですわね、お手柄ですわ猪々子」
「でも、こんなところにこんな大きな建物、誰が住んでるんだろう?
 もしかして山賊の砦とかなんじゃ……」
「なんでまた斗詩はそんなテンション下がること言うかなあ〜
 いや、待てよ?それはそれで盛り上がるかも、
 うんうん、大丈夫だって、そんときはあたいがやっつけてやるから」
ギギイーーー
「ひっ」
重い音をたてて扉がゆっくりと開く。
「ほら、騒いでるから起こしちゃったじゃんか、っと、アレ?
 すいませ〜ん、旅の途中で迷ってしまって、一晩宿を貸してくださーい」
「ぶ、文ちゃん、今自分であけたんじゃないの?誰もいないよ?」
「え?……と、斗詩ぃ〜、あたいのこと怖がらせようとしてそういうこと」
「違うよお、ほらこっち来てよ、誰も居ないし明かりも……」

「袁紹、重いんだけど」
「へ?あ、あなたなにわたくしに抱き着いてるんですの?は、離れなさいな」
そういいながらもしっかりしがみついてるのは……まあ、悪い気はしないけども
「まったくどうしようもないですわ、男のくせに臆病ですわね!」
顔を赤くして呟く袁紹をひきずるようにして二人のあとを追って門をくぐる
「文醜さん?顔良さん?どこに行きましたの?」
さっきまで目の前に居たはずの二人が居ない。

なんだか、どこかで聞いたような状況、こういうときは大抵入り口が……
ヒヒーン
門の外で馬のいななきがする、振りかえると埋め尽くさんほどの狼の群れが
っておい!無理無理、無理に決まってる。袁紹をひっぺがして急いで門を閉める。
あまりなお約束の連続に呆れながらも、疲れた頭が何も考えたくない
状況に流されるしかないと言っている。

「ふう、いったいどうなってますの?あんな狼どこから湧いてきたのかしら
 それに文醜さんも顔良さんも肝心なときに居なくなるなんて、
 困った人たちですわね」
袁紹が強引に腕を掴んで俺を引っ張っていく、元気だな、この娘は
どっから出てくるんだその気力は、呆れながらも感心させられる。
でも何かあったら役に立たないから結局俺が働かされるんだろうなあ
あの二人もよくこんな人間についていく気になるよなあ……。
「なにかおっしゃいました?」
「い、いやなんにも?しっかし二人はどこいったんだろうなあ」
「……」
鋭いんだか偶然なのか、考えを見透かされたかと焦ったがそんなわけないよな。

袁紹に先導されて屋敷に入り、巨大な水槽をひっくり返したり
壁に飾られた鎧に驚いて剣でバラバラにしたり
食堂で勝手に食材を漁ったりしながら奥へと進んでいく。
「ほら、なにをぼーっとしてますの?もっとしっかりなさい!
 だいたいなんですの?わたくしと二人っきりだというのにその態度は」
「あ〜、なんだ袁紹そういうの、期待してるの?」
「はあ!?だ、誰があなたなんかと……」
気のせいか、どこからともなくかすかに艶っぽい音曲が聞こえてくる。
松明を片手に端から飾台に明かりを灯しているのに、そんなに暗いのは怖いのか
しっかり腕を掴んで引っ張ってくる袁紹がかわいく見えてきたぞ?

いやいやいやそんなことないだろ、常識的に考えて……


――09話、お屋敷編、その弐30*4

「おっかしいな〜、あの二人どこいっちゃったんだろ?」
「やっぱりダメ〜、外は狼が沢山いて馬も食べられちゃったし出られないよ〜」
「にゃにい?あたいの愛馬をよくも!そんな狼なんて皆殺しにしてやる〜」
「愛馬って、あれは本郷さんに借りた馬じゃない、
 それにあの二人じゃ猪々子と違って狼となんて戦えないだろうし、
 やっぱり中に居るんじゃないかなあ」
「でもさっき屋敷は見てまわったよ?……あ!まさかどっかに隠れて
 二人で?」

「もぅ〜文ちゃんでしょそれはー!!、あんな時に急に物陰に隠れて
 変なこと言い出すからはぐれちゃったんじゃない」
「でも斗詩だって嫌がらなかったじゃ」
「もうその話はいいからああ!!」
巨大な金鎚が文醜の横すれすれに何度も振り下ろされる
「わ、わかったわかったから斗詩、落ち着いて、ほら水だよ」
「はあ、はあ、んっ、ごくっ
 ……あれ?この水なんだか不思議な味が、って文ちゃん?!この水どこで」
「え?そこの井戸だけど、さっきあたいも飲んだけどなんともないし」

「だ、か、ら、なんでそういう怪しいモノを確認もしないで飲んじゃうのよぉ〜」
「大袈裟だなあ、斗詩は〜、別にただの井戸水だよ、入ってたとしても
 犬か鳥か人の死骸がせいぜいだから心配しなくても大丈夫だって」」
「それ、全然大丈夫じゃないよぅ〜」


「どうかしましたの?猪々子、斗詩」
「え、袁紹さま?」
「無事だったんですね、あれ、本郷さんは一緒じゃなかったんですか?」
「え?ええ、そうですわね、どこにいったのかしら」
「それじゃ袁紹さま、一人だったんですか?こんな夜中に明かりもなしで?」
「ええ、そうですけどそれがどうかしました?」 
話しかけた文醜は別の方向、後ろから返事を聞き、驚いて振り向く
「袁紹さま?、え?こっちにも袁紹さま?姫が二人?」
「文ちゃん、、なんでだろう、わたしたち沢山の袁紹さまに囲まれてるように
 見えるんだけど、もしかしてこれって……」
笑みを浮かべて近付いてくる大勢の袁紹に取り囲まれて狼狽する二人

「わああああ、ごめんなさい袁紹さま、私達のせいでこんなところで
 死んでお化けになっちゃうなんて〜許してえ〜」
「斗詩!しっかりして斗詩ってば、あ〜もう、しょうがない!
 麗羽さまゴメン、あとでちゃんと供養してあげますからね」
片手で顔良の手をしっかりと握り締めると、片手で背丈以上の大剣を振りまわし
群がる袁紹をばったばったと切り倒して進んでいく文醜
「斗詩、あたいが絶対に助けてやるからな、それにしても
 ひゃ〜お!!、なんだろう、この爽快な気分!」
「あああ、文ちゃんが麗羽さまを、、、ごめんなさいごめんない〜」


「なにかおっしゃいました?」
袁紹がいきなり振り向いて尋ねる
「いや、なにも……!」

これで幾つめの部屋だろうか
飾台のない部屋で明かりが点けられない袁紹はビクビクしながらも
やる気の無い俺を引っ張って入っていく。
いくら無人の屋敷だとしても、これって泥棒なんじゃないかと思ったが
どうせ言っても無駄だろう、この屋敷を一晩借りるだけだとか
安全を確かめるためとかなんとか言うに決まっている。

松明で前を照らしながら、そーっとそーっと進む袁紹
俺は腕を掴まれてそこについていくだけ、なんだけども
歩いていていきなり止まられるとこっちは止まりきれずぶつかる
そんな時に振り向かれると……

「!!!くぁwせdrftgyふじこlpあ、ああああなた、な
 ななななんてことをしてくれますの!」

おもいっきり突き飛ばされて壁に頭を打ったのだが
「んむ、、今のは不可抗力というやつです、はい」
自然と笑みがこぼれる、なんだかこの屋敷に来てからというもの
袁紹がかわいく見えて仕方が無い。

「な、なにをへらへらしてますの!怒ってるんですのよわたくしは!
 あなたは嬉しくて仕方が無いのでしょうけど、絶対に許しませんわ!」

「いや、そんなに嬉しくもないけど、まあ嬉しいかもな」
「!、と、とにかく、あなたはもうわたくしに近付かないでくださる?」
キッ―と目の端を吊り上げてこちらを睨み、そう言って松明を向けてくる
「近付くもなにも自分でしがみついて連れまわしたんだろうに」

「黙ってついて来るんですのよ!ただし手の届く距離には近付かないように
 寄ったら斬らせて頂きますわ」
腰の剣を抜いて振りまわしはじめる、これなら確かに危なくて近寄れないが
どうせ舌の根も乾かぬうちに怖がって自分からくっついて来るんじゃないのか?

と、思ったんだがその後も袁紹はこちらを意識して時折振り返ったり
声をかけてはくるものの、一定の距離をとったまま探索を続けていた。
なんだよもう、思わせぶりにくっついたり離れたりして
それにさっきから耳に残るかすかな音色がなんだか気になって仕方ない
どこから聞こえてくるのか、耳を澄ますと聞こえなくなる。
なのに気がつくと聞こえてくる、気のせいなのか?

ああ、袁紹が呼んでる……はあ、はあ、もうダメだ
我慢できない。俺は今モーレツにお前を無茶苦茶にしてやりたいいいい
駆け出した身体は止まらない、袁紹が驚いて悲鳴を上げている
それすらも甘美な調べだ、押し倒して鎧を引き剥がそうと手を掛けながら
頭を寄せてもう一度――?
ドゴオオオオオオオオオオオッ
轟音とともに巨大な剣の切っ先が頭の上スレスレを通り抜け
強烈な剣風で袁紹ごと地面に吹きつけられる。

「おらおらおらー!どけどけどけえええ!!死ぬぜえ、あたいに近付くと
 死んじまうんだぜええ!!」
巨大な剣と金鎚を両手で振りまわしながら、顔良を背負った文醜が
鬼神のごとく暴れまわりながら駆けぬけていく。
後には壁も柱もなにもかもが滅茶苦茶に破壊されてしまい
竜巻にでもあったかのようだ。

――10話、お屋敷編、その参30*5

「……ちょっと、北郷さん、そろそろどいてくださいません?」
袁紹の声に我にかえり、周囲を見まわしてから気付く
そうだ、俺は今いったい何ということをしようとしていたんだ
「わっ、うわあっ!悪かった袁紹!すまん!ごめん!うわっ?わあああ!」
「ちょっと!?なにやってるんですの!ひゃああ」
焦って離れようとしてマントに躓き、袁紹の鎧を支点に
てこの原理で一回転、今度は俺が袁紹の下になってしまった。

「、、、なにを焦ってらっしゃるの、まったく落ち着きがありませんわね
 そんなに必死にならなくとも、事情がわかっていれば怒ったりしませんわ」
袁紹がゆっくりと起き上がり、俺もそれに併せてマントから抜け出す
「いや、そうじゃないんだ、すまん」
後ろめたさと情けなさでひたすら謝るばかりになってしまう
「良いっていってるんですのよ?それに、その、助けて頂いたことは
 事実ですし、さっきのことは帳消しにして差し上げてもぼそぼそ……
 まったく猪々子ったら、少しはまわりを見て行動できないのかしら」

袁紹はまるで疑う様子も見せずに、そう言うと文醜を追って
壁が抜けて見晴らしの良くなっている方へと回廊を歩いていく。

はあ、いったいなんだってあんな暴挙に出ようと思ったのだろう
いろいろと溜まってたからか?それにしても酷い、気付かれなかったことは
何の言い訳にもならない。俺はいつのまにか自分の欲求の為に
女の子を襲うような男になってしまったのだろうか?
ショックで動けないでいると袁紹が走って戻ってきた
「み〜つ〜け〜た〜これで最期の一匹だ〜!おとなしく往生せぇや〜!」
「いやあああ!なんの冗談ですの猪々子!?、斗詩寝てないで止めてええ!!」
文醜が先ほどと同じく剣を振りまわして追いかけている
って袁紹を?文醜がなんで?顔良は相変わらず文醜の背中で寝てるし……
いや、悩んでる状況じゃない!失敗も間違いも誰だってすることだろう
それは後から償えば良い、次に間違わない為に努力すれば良い。
そうだ、ある種の後悔は取り戻すことができるんだ!!

眼前を横切った二人を追いかけながらその動き、周囲の状況を観察し
勝機を探す、相手の一手にこちらの一手を交えて新たな可能性を生み出す。

両手に大剣と大金鎚を携え、背中に顔良を背負ってなお縦横無尽に駆ける文醜。
一騎当千の猛将とはいえ、どうみてもその小さな身体にはあまる重量を
手当たり次第に叩きつけ、一撃毎に発生する反作用や勢いを逆に利用することで
飛ぶように軽やかに駆ける高度な技術なのだろう。

しかしその技術を持ってしてもすでに疲労は限界のはず、そして
行動が説明できるということは、前の一撃を見れば次の行動はある程度絞り込める
さらに目標が一つに特定されている以上いかに力量に差があるとしても!
「袁紹!俺の名を呼んでみろおおおお!」
「なんですの急に!それどころじゃ……そうですわ!わたくしを助けなさい北郷
 ちょ、猪々子、待っ、早く、助けなさいって、いゃあああ助けてええ一刀ぉーーー!」
壁際に追い詰められた袁紹に文醜が剣をまっすぐに構えて突撃する。
俺はすでに金鎚の一撃から袁紹までの軌道に対して交差するように全力疾走している
「おおおおおおおおっ!!」
こうすれば文醜の長剣の腹にぶつかって軌道を逸らすことが出来るはず。
理屈を捏ねても最期はただ我が身を投げ出すだけとは……!

俺が飛び出した先には剣は無く、目の前で振り上げられた剣の長い刃が光る
ああ、これじゃ袁紹と一緒に真っ二つだ。

「一刀?」
観念して目を瞑った瞬間、文醜の剣ではなく言葉が降り注ぐ。
「い、猪々子、正気に戻りましたの?」
目を開けると文醜が武器を手放してまじまじとこちらを見比べている
「一刀は〜、お化けじゃないよね?、てことは〜麗羽さまも?」
「うう〜ん……文ちゃん、どうしたのお?」

「斗詩〜、やっと目が覚めたんだね、よかった〜」
文醜が背中から降りた顔良の足元にすがりつくようにしゃがみこむ
「ちょっと文ちゃん?、急にどうしちゃったの?」
「だって、袁紹さまは死んじゃうし、一刀はいないし、あたいはもうクタクタだし」
「誰がお化けで誰が死んだんですの?」
「わあああ!袁紹さまが出たあああ」
「大丈夫だよ、斗詩、この袁紹さまは本物みたいだし」
「本当?あ、一刀さんも居るじゃない、お化けじゃないですよね?」
そういって顔良はキョロキョロと周囲を見渡す
「お化けじゃないよ、もうちょっとでお化けにされるところだったけど」
「本当ですわ、だいたい二人してなんですの?お化けだの死んだの縁起でも
 ありませんわよ、ちゃんとわかるように説明なさい」

「だから〜、それは〜かくかくしかじかでぇ〜……」
「あ〜、、これ文ちゃんがやったの?」
「だってそこら中に麗羽さまが居たんだからしょうがないじゃんか〜」
滅茶苦茶に打ち壊された周囲を見て呆れる顔良と文醜に話を聞いていると
思い出したように袁紹が切り出す。
「そういえばさっきから耳元でうるさかった音がしなくなりましたわね」
「ああ、そういやそうだな、え?、ああ、袁紹も聞こえてたんだ」
「音ってなに?なんのこと?」
「いや、なんでもない」「なんでもありませんわ」

「なんなんですか?一刀さんまで〜」
「んん〜?、なんだか怪しい、、匂う、匂うぞ〜?」
「ん?なんか焦げ臭いな、確かに」

「わっ!火、火が燃えてるう〜」
熱をともない煙が押し寄せてくる。すでに天井まで届くほどの炎が
見える、袁紹があちこちに灯した火が文醜の大暴れで引火して
広がったのだろう、もうどうにかできる状態じゃない。
「文ちゃん?早く逃げないと!」
「あれ〜?おかしいなぁ、、斗詩ぃ〜、あたい立てない〜」
「ちょっと、そんなこといってる場合じゃないよぅ〜」
「違うよ〜、本当に脚が立たないんだよ〜」
「本当に猪々子は、、仕方ありませんわね、あんな無茶をするからですわ」
呆れ顔でそう言いながらも袁紹が文醜の肩を支えて立たせる。
「ごめんなさい〜麗羽さま〜」
「北郷さん、なにしてますの?あなたも手を貸しなさい」
「はいはい、ただいま」
そうくると思っていた自分に、こんな状況なのに自然と苦笑がこぼれる。
「お願いします、一刀さん」
両手に文醜の剣と自分の金鎚を持った顔良が壁を壊して
少しでも火の周りを遅らせながら、逃げ道を切り開く。
四人で必死になって炎上する屋敷から逃げながら
皆と居る日常とも多くの兵を率いての戦いの日々とも違う、
よくわからない不思議な充実感のようなものを感じている自分が居た。


こうして屋敷から脱出した俺たちは離れた場所で燃えつづける炎を
眺めて朝を待ち、どうにか山を抜けて街道に戻ることが出来たのだが
街に着いた後一週間以上も休息することになってしまった
結局あの屋敷での不可思議な経験はなんだったのだろう?という謎は残るものの
今は無事に戻って来れたことを感謝して休むことにした。


――11話、ちょっと休憩30*4

「ただいまーっ」
「おかえりなさい文ちゃん、一刀さん、ご飯にする?お風呂にする?」

「いや、いま山ほど食べてきたんでご飯はいいです」
「斗詩〜、続きは?続きは?」
「もう、文ちゃんやめてよ、北郷さんの前でまで」
「ガーーーーーン!……やめてよね、やめてよね、やめてよね(エコー)
 と、斗詩い〜!酷いじゃないのさ!あたいのことなんてもうどうでもいいんだ」
「そんな大袈裟なこと言ってないよう、ちょっとしたことでしょ〜」
「ちょっとしたことじゃない!あたいにとっては、あたいにとっては
 なによりも大事な一番の楽しみなのに〜!」

「はあ、それでどこ行ってたんですか?文ちゃんと二人で」
勢いに置いていかれて黙って見ていたのに、いきなり話を振られては一寸焦る
「え?、、あ、ああ、ちょっとした食事というか屋台巡りをね」
「いやあ〜こないだ北でご馳走になったメンマ丼があんまり美味しかったからさ
 そのお返しっていうの?おっと、大丈夫だって斗詩が心配するような
 ことはなにもなかったよ、ちょっと残念だけど」
「誰もそんな心配なんてしてません〜北郷さん、迷惑じゃなかったですか?」
「!ガーーーン、そんな、あたいよりもやっぱり……」
「あ、ああ、どれもクセはあったけど結構美味しかったよ、ちょっと
 懐かしい気持ちになっちゃったけど。そうだ、聞いたんだけど顔良は
 秋蘭と仲が良いんだって?、文醜が季衣と親友だって聞かせてくれて
 まあ他にも昔話とか、それもあっていろいろと思い出してね」

「そうなんですよ、今だから言いますけど、私たちが北郷さんに協力してるのって
 最初はそれもあったからなんですよ」
「まあねー、きょっちーがピンチとあっちゃ放っておくわけにもいかないよ」
「はは、そっか、それじゃ二人にも再会したら感謝しなくちゃならないな」
二人の顔を思い浮かべると、その声まで聞こえてくるようで
まるで居なくなったなんて嘘のように思えてならない。

「いや〜、けどお金の心配しないで食べたからちょっと食べ過ぎちゃったかも」
「文ちゃん、いつもお金の心配してくれてたんだ、あれでも一応」
「そりゃまあ、少しはね〜、でもどうせなくなったら稼げばいいからさ
 少しだけだけどね〜、あ〜、そうだ!いいこと考えた〜
 今さあ〜一刀は好きな人がみ〜んな居なくなってさあ〜
 一人ぼっちじゃんか〜?だから〜今のうちに嫁になっちゃえばさ〜
 いつでも好きなだけ食べ放題じゃんか〜」
「文ちゃん、酔ってる?北郷さん、お酒も沢山飲んだんですか」
「ああ、俺はちょっとだけ、あ、でも文醜は結構飲んでたかもなあ〜」
「あ〜、でもでもあたいは斗詩がいるからなあ〜そだ袁紹さまだあ〜
 姫とくっつけちゃえば〜、あたいらもその恩恵で〜
 一生遊んで暮らせるよ〜ウハウハじゃ〜ん……」
言いたい放題言って座りこむと机に頭を乗せて静かになる文醜

「文ちゃん、、、いくらなんでも露骨すぎるよう」
「ははは、袁紹が居たらなんて言うか」
「あれ?本郷さんはいいんですかそれでも」
「いや、そこまでは言わないけどさ、でも正直悪くないっていうか
 ああ、皆のもとに戻ることが一番なのは変わらないよ。
 でもなんだろう、四人で旅を続けていろいろあったけど
 良いも悪いもひっくるめてそれが馴染んできたっていうのかな」

「へえ〜、そっか北郷さんも、そう思ってくれてたんですね
 わたしは北郷さんのおかげで大分楽になったと思ってますよ
 お金もそうですけど、二人の面倒を一人で背負わなくて済む……って
 こんなこと聞かれたら怒られちゃいますけどね、ふふっ」

俺も少し飲みすぎたのか、それとも顔良が話を聞くのが上手いのかな
思っていても普段は言い難いようなことも言葉になってこぼれ出す。
「そっか、俺も実は心配だったんだ。はっきり言えば今回のことって
 きみたち三人にはまるっきり関係ないこと、俺の我が侭みたいな話で
 俺としては何をしてでも取り戻したいことでも、袁紹の性格を利用して
 こうやって無理につき合わせてしまってるんだって思っててさ
 だから二人が秋蘭や季衣と親友だって聞いてちょっと安心したりも……」

「一刀さんって、全然王さまらしくないですよね、ふふっ。
 あ、こんな言い方失礼ですよね、つい」
「いやいやそんな気にしないでいいって、自分でもそう思うし」
つまらない後ろめたさなんか笑顔で吹き飛ばされてしまい、苦笑を返す。

「孔明ちゃんや伯珪さんたち、皆さんが北郷さんを主に選んだ気持ちが
 今ならわたしにもわかる気がしてますよ。
 本来なら私たちが気軽に話ができる関係じゃあないはずなのに
 こんな風にあたりまえのように接してるだけでもそうですし、同じように
 敵だったはずの曹操さんや孫権さんたちまで大切な仲間って一生懸命に探してる。
 きっと皆さんも同じように本郷さんを思ってるんだって
 それが全部見ててわかっちゃいました」

顔良は優しく、すごく気持ちのこもった言葉で柔らかく俺の心を包んでくれる
それを聞いているだけで心が癒されていくような気がしてくる。
「どこか普通と違う、本当に天の国から来た人なんだって思います。
 でも天の国の人だから本郷さんを選んだんじゃないですよ
 こうやって一緒に旅をしていてわかったんです。
 北郷さんが今ここに居る一刀さんだから、好きになったんですよ
 少なくとも私は……」


「え、好きって……」
「と、斗詩!?そ、そんな、本当に一刀のことが?」
「え!?文ちゃん?ああああぁ、違うんです!そういうことじゃなくて」
「くうぅ〜、まさか本当に二人がそうだったなんて
 あたい、あたい悔しいけど斗詩には幸せになってほしいから」
「あの〜文醜さん、どうしてそう言いながら人を押し倒そうとするんですか」 
「一刀は黙ってればいいから、ほら、斗詩おいで」
「文ちゃん!?なにやってるのぉ!もういい加減にしてぇ〜」

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