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255 名前:華琳@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:05:39 ID:BTkW4PuQ0
では、投下開始します。
今日の分が終わったら、「続く」と入れますね。
256 名前:華琳1@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:07:03 ID:BTkW4PuQ0
「秋蘭」
「はっ」
「酒造りだけでは足りない」
「は…」
「ここの書庫の本は読みきったわ。与えられる資金だけでは、やたらと本を買い集めること
もできない。第一、本ばかりでは体に苔が生えてしまうわ」
与えられた自室に与えられた本。与えられた金。
そんなもの、面白くもなんともない。
王としての仕事は忙しかったが、刺激的だった。
「はっ。では外の空気でも吸いにまいりましょう」
「そうだな…それも悪くない…か。何か刺激になるものがあるかも知れないものね」
「ええ」
秋蘭は優しく目を細める。
いつでも私の心を癒す、大事な家臣だ。
「ところで」
「は」
「春蘭はどこにいったの?」
「鍛練をすると言って出ております」
「そう…あの子らしいわね」
単純だと言おうか…。武に固執する者達は、悩むことなど無いんでしょうね。何でも武で解
決しようとする様は、以前は小馬鹿にしていたものだが捕虜となった今では羨ましささ
え感じる。
257 名前:華琳2@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:08:51 ID:BTkW4PuQ0
「まったく…」
根を張らせていた椅子から腰をあげながら、溜め息を一つ。
「これじゃ、本当に北郷の肉奴隷じゃない…」
「か、華琳様!?」
「あれから二度目があったわけじゃないわよ。ただ、この退屈な扱いのことよ。まるで愛
人か何かを囲っているようだとは思わない?」
「なるほど…確かにそう思えなくは無いですな」
処罰どころか、労働をさせるわけでもなくただ部屋と金を与えて…。
後宮の女どものような扱い。
外出の時は、見張りつきだし…。
「秋蘭」
「はい」
「先日捕虜になった孫権らは、外出の際に見張りを要求されていないというのは本当?」
「はい。どうやらそのようです」
「フフン」
「どういうつもりなのでしょうな、北郷殿は。我々と呉の違いとはなんなのでしょう」
「それだけ、私達のほうが危険だと判断したんでしょうね」
「怒るべき所、でしょうか」
「いいえ、逆ね。要するに、我々の牙はまだ抜けていないと判断されているってことで
しょう」
「そうですね」

―実は、これは朱里の提案からである。
「曹操さんは、見張りつきにしたほうが自尊心をくすぐって良い方向に進むのではないで
しょうか?逆に孫権さんは平和第一の方ですから、ご主人様のお人柄やこの町の様子を見
てもらえれば私達に逆らおうと考える人じゃないと思います」という進言を北郷が採用し
たまでだった―
258 名前:華琳3@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:13:11 ID:BTkW4PuQ0
「春蘭は、どこに行ったの?」
「確か、庭に行くと申しておりました」
「そう。じゃあまずは、それを眺めに行ってあげましょうか」
「御意」
なんということはない。茶々を入れてからかいたいだけ。
秋蘭を従え、城の庭へ向かう。
近づくと、ほどなく威勢の良い雄たけびが聞こえてくる。
「ふうん…がんばってるじゃない」
そこには、馬超と試合をしている春蘭の姿があった。
傍らには、張飛もいる。

「どうした、夏候惇!あたしの槍に恐れをなしたのかい!?」
「ほざけ!!調子にのるな!」
馬超は、その肩に槍を担ぎ、春蘭はそこから十歩ほど離れたところで体制を立て直す
ところだ。
どうやら劣勢のようね。あの春蘭が苦戦するとは、やはり北郷の家臣には優れた武将
が揃っているわね。
「さあ〜て。あたしの次の一撃、受け止めようなんて思うんじゃないよ!!」
馬超が、槍をクルクルと回し、大きく上段に構えながらは走り込んでいく。
「チッ!」
春蘭も、戦いにおいては優れた才能を持っている。
次の一撃は頭に血をのぼらせた状態でどうにかできるものではないことくらい、気付くでしょう。
腰と膝に力を溜め、ギリギリまで引き付けてからの回避を狙っているのかしら。
259 名前:華琳4@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:14:19 ID:BTkW4PuQ0
「……っらっしゃおらああああ!!!」
槍の先端が見えないほどの速度で、馬超の槍が振り下ろされる。
当然、春蘭は寸でのところでかわしている。

ドゴオオオオオン…!!

爆音、というのだろうか。私は鼓膜の痛みに顔をしかめた。
もうもうとあがる砂煙の中、二人の声が聞こえてくる。

「まったく…城の庭をへこませてどうするんだ。この馬鹿力め」
「へっ!始めから当たるなんて思っちゃいないよ。……って、馬鹿力って言うなあ
あ!」


「行きましょう、秋蘭」
「最後までみていかれないので?」
「いいわ…こっちにまで馬鹿がうつりそう」
「そうですか。わたしは見ていて爽快です。私もああいう風に一つのことに熱中でき
ればと思います」
「そうね…ああいう性格、たまにうらやましくなるわ」
私はどうも、ああいう風にムキになることができない。どれだけ真剣になっても、心
のどこかで冷静な自分を残してしまう。
たまにでいいから、ああいう風になったら楽しいだろうに…。

「……!!秋蘭!!」
「はっ!?」
「これよ、これ!思いついたわ!ちょっと一緒に来なさい!」
「は、はい!ど、どちらへ!?」
「決まってるじゃない、書庫よ!」
そう言い、私は走りだした。
260 名前:華琳5@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:16:35 ID:BTkW4PuQ0
…華琳様は、いったい何をするおつもりなのだろう?書庫で何冊もの本を私に預け、

「それを私たちの部屋へ持っていって。それと、桂花の知恵を借りたいから呼んでき
ておいてね。私は北郷に許可をとって市に行って来るから」
と言って出て行ったきり、もう二刻ほど過ぎた。
「まだかなあ、華琳様」
桂花も暇をもてあましている。
「この本、みんな薬草とか毒草のことを書いた本ばっかりなのよね。華琳様、なにを
するおつもりなのかしら…」
「も、もしや北郷を毒殺!?…と、いうことはない、か」
「う〜ん…だったら楽しいんだけど、きっと違うでしょうね。そんなことをしたら、
華琳様のお名に傷がつくもの…」
「うむ…では、華琳様は一体なにを…」
「わっかんな〜い」
そこから華琳様が戻られるまで、もう半刻ほどを要した。

「だいぶ手間取っちゃったわね。さて、始めるわよ。桂花、あなたの知恵を借りる
わ。秋蘭は悪いけど春蘭が来たら入ってこないように見張っててもらえるかしら」
「はい!」
「は…?…春蘭を、ですか…」
「そう、あの子に知られたくないのよ。頼むわね」
「…御意」

ほどなく春蘭が戻ってきたが、事の経緯を話し、私たちは部屋の前から立ち去った。
261 名前:華琳6@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:17:54 ID:BTkW4PuQ0
その日は結局、夜中になってもお声がかからず私たちは寝る場所を探すために北郷殿に
相談に行くことになった。
危うく北郷殿の伽の相手をさせられるところだったが、書簡を取りにきた諸葛亮が激し
く北郷殿を叱責したため、難を逃れた。後に諸葛亮から捕虜の私たちにも個別に部屋を
与えたらどうか、と北郷殿に進言があったらしい。

特別に与えられた部屋の床につく時、私たちはそれから三日三晩、同じ床で休むハメに
なるとは予想していなかった。


「春蘭!秋蘭!」
四日目の朝、ようやく華琳様が私たちのいる部屋に訪れてくれた。
その時の春蘭の喜びようは、思わず目を覆いたくなるようなものだった。
「待たせたわね。まずは朝食をとりましょうか」
262 名前:華琳@蓮華の人[sage] 投稿日:2007/02/27(火) 22:19:02 ID:BTkW4PuQ0
今日のところはこれで「続く」です。
また、コツコツ書いていきます。

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