[戻る] [←前頁] []

133 名前:蓮華4[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:21:02 ID:8RL/+sdJ0
勢いで書き終わらせました。
まとめの人が、直前までを「蓮華3」としてくれているので、ここから4としていきます。


「ほら、食べてみてよ」
席に案内され、店主が茶とともに持ってきた先程の皿を北郷が受けとると、そのしゅうく
りぃむなるものを一個、私に差し出してきた。
「あ、ありがと…」
見慣れぬ物におずおずと手を伸ばし、北郷の手から受けとる。
「やわらかい…」
ゴツゴツとした見掛けで思っていたよりずっと柔らかい。中にはもっと柔らかい物が入っ
ているらしく、少し力を加えれば壊れてしまいそうだ。
「たいそうな物を作らせたのね…。いいの?私が最初に口にしても。…今更返せと言われ
ても、もう食べてみたくて仕方ないから返さないけれど」
「うん。蓮華に食べてもらいたいんだ」
満面の笑みを浮かべる北郷。
「いただきます」
134 名前:蓮華5[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:21:55 ID:8RL/+sdJ0
…はむ…

「甘い…!」
「どう?」
「おいしい…!すごい、こんな味のするもの、初めて…!」
「気に入ってもらえたみたいだね」
「本当においしいわ…。うまく言えないけど、今まで食べたことがない感じがする。表面
がゴツゴツしてるから、見た時は硬そうな感じがしてたの。でも、触れると柔らかくて、
薄皮の中はとろけるよう…これが、天界のお菓子の味なの?」
本当に、おいしかった。北郷が自信満々で私に食べさせた理由がわかったような気がし
た。
「それね、俺の蓮華のイメージなんだ」
「…え?」
私のイメージ?このお菓子が…?
「呉の王だった蓮華は、見た目はしっかりしていて厳しそうな…このシュークリームと同
じように硬そうなイメージだと思う」
「………」
「でも、触れてみると思ったよりも柔らかい。他人を常に思いやっている、心のやさしい
人だ。」
「あ…」
「そんなのも、表面の薄い皮だけの話。蓮華という女の子の中身は、このシュークリーム
の中身といっしょでとろけるように柔らかく、食べる者を幸せにさせるほどに甘い」
「やめて…恥ずかしい…」
「あの晩、蓮華が自分の部屋に戻ってから、俺は蓮華のことを考えてた。そしたら、この
シュークリームのことを思い出してね。次の日ここの姐さんに相談したのさ」
「そうだったの…」
こんなおいしいお菓子と、私を重ねて見てくれているの…?
あの晩、私が帰ったあとも私のことを考えていてくれたの…?
……嬉しい……!
135 名前:蓮華6[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:22:26 ID:8RL/+sdJ0
「氷には苦労させられたよ。うちの軍師に相談したんだけど、北の山から氷を切り出して
くるのに思った以上に費用がかかってね。お菓子なんかにそんなにお金を使えません!っ
て怒られちゃったよ」
言いながら、北郷は頭をかいて笑う。
「それはそうよ…」
「地方の町にも仕事を与えて国全体の発展を進めるのにも役に立つって話をしたら、しぶ
しぶ承諾してくれたよ」
「もぅ。本当にあなたは、自分がやりたいことは強引にでもやるんだから」
「氷がここまで届くのを待っていたら、すっかり日数がかかっちゃった。その間、かまっ
てあげられなくてゴメンよ」
「えっ!?それで、ここしばらく私に顔を見せなかったの?」
「うん。俺が蓮華をどう思っているか、このシュークリームで伝えたかったから。それま
では口でどんなに言っても伝わるかどうか自信がなかった」
「…ありがとう」
「え?」
「ありがとう。あなただけよ、私のことをやわらかいなんて言ってくれるのは。」
「うん。みんな、王としての孫権しか見えてないんだろうね。」
「そう…ね」
136 名前:蓮華7[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:31:46 ID:8RL/+sdJ0
ああ、この人に捕虜にされて良かった。呉の皆に申し訳が立たないことだけど、私は今、
産まれて初めて本当の自分の気持ちに気付いたんだと思う。
私はきっと、ずっと前から王としての重圧に負けていたんだ。
王だから、こうしなくてはいけない。
王だから、こうであってはいけない。
そんなことばかり考えていた。そんな気持ちのどこに、自分の気持ちがあるだろう。
私はきっと、王としてではなく、私の心を受け入れてくれる人を探していたんだ…!
「ありがとう…北郷。あなたのお陰で私は、本当の私になれそうな気がするわ」
「本当!?それは良かった!」
無邪気に笑顔を見せる北郷。ああ、なんて幸せな時間なんだろう
「それでその…もし、あなたが良かったらなんだけど…」
「うん?」
「あなたのこと、か、一刀って呼んでもいい…?」
「も、もちろん!」
「良かった…断られたら、どうしようかと思った…」
「断らないよ。そのほうが俺も嬉しい」
「本当に?あ、でも最初のうちは慣れないからうまく呼べないかも知れないけど、そのう
ちきっと自然に呼べるようになるから、それまで待ってて…ね?」
「わかったよ。自然に呼んでもらえる日を待ってる」
「ありがとう…一刀」


―完―
137 名前:蓮華あとがき[sage] 投稿日:2007/02/26(月) 01:33:23 ID:8RL/+sdJ0
以上で終わりです。
この外史中で語られていた「明日の夜」星とどうなるのか、甘寧はどう動くのか…などを考え
ると妄想は広がるばかりなのですが、とりあえず当初の結末に達したので終了とさせてい
ただきます。
感想やアドバイス等をいただいた皆様、本当にありがとうございました。

 [戻る] [←前頁] [上へ]