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181 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 16:29:26 ID:MM3oLIhN0
ええ外史ばかりや…。ということで一つ投下。
小蓮の話で、公式の紹介通りだったら、という話。
まさかあそこまで違ったものだとは思いませんでしたので。
182 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/06(火) 16:30:25 ID:MM3oLIhN0
「天の御遣い?何それ?」
晴天の下、以前より笑顔が満ち溢れ活気盛んになった市の屋台で、年端もいかぬ少女が不思議そうに尋ねる。
「何だい、知らないのかい嬢ちゃん。ほれ、あの名高い関羽将軍や張飛将軍を従える幽州の英雄さ」
屋台の主人はまるで我が事のように嬉しそうに話を続ける。
「黄巾党の征伐から始まり、虎牢関ではあの呂布を退けて、あの暴君董卓を処刑したお方さ。
 そんでもってここらを支配してた袁紹を倒して、代わって治めてくれてる方だよ」
「最初はどんだけ恐ろしい人かと思ったけど、略奪もしないわ暴政もしないわ素晴らしいお方だよなぁ」
今人々が憧れる話題とあってか、次々と周りの人間も話に乗ってくる。
「俺たち下々にも気兼ねなく話しかけて下さるし、税金もきつくない。前の袁紹とは段違いの方だよ」
「ああいう方が治めて下さるから、安心して商売も出来るってもんさ」
心の底からの笑顔でワイワイと賑やかに話が弾む。
こんなにも嬉しそうな人々の笑顔は見た事がない、と少女は思い、そして沸々と興味が湧いてくる。
「ねぇおじさん、その人今どこにいるか知ってる?」
「へ?うーん、まだ幽州にゃ戻ったって話は聞かないからまだここらの町の近くにはいらっしゃるとは思うが…」
「ありがとっ!お金ここに置いておくね!」
その言葉を聞くや否や、時間が惜しいとばかりに走りだす。
雰囲気の悪い家を飛び出してからこれほど面白そうな事はなかった。
「英雄かぁ…、ふふっ、どんな人なのかな?」
武人みたいな厳つい人なのかな?それとも詩人みたいな優しそうな人なのかな?
そんな事を考えながら少女は、町の外にいるお付のモノの元へ向かっていった。

鬱蒼とした森の中、しかしそこだけ陽の光が入る場所に男が一人入ってくる。
少年と青年の境目であろう年頃の男は腰に徳利を下げたまま、苦笑いをしながら歩いていく。
その歩みは腰ぐらいまでの岩の前で止まる。自然に落ちている岩ではない。人目を忍ぶようなそれは石碑のようである。
「やぁ、伯珪。遅くなってごめんな。事後処理で色々ゴタゴタしててさ、わりぃ」
男―北郷一刀はそう言って岩の前に腰を下ろす。
そう、この石碑は墓碑。袁紹に敗れた公孫賛の墓。
その人柄を慕っていた人達が袁紹の目を隠れてこっそりと建てたものである。
「こんな所にあるなんて知らなくてさ。たまたま耳にしなかったらもっと遅くなってたかもな」
少し昔を懐かしむようにぼやく。まだ自分の傍に愛紗と鈴々しかいなかった頃。
素っ気無い口ぶりながらも黄巾討伐を助けてくれたり、反董卓連合でも何かと気にしてくれた少女。
素直に礼を言えば恥ずかしがる様子は年相応の少女のものでとても可愛らしかった。
だが皮肉にも彼女の存在が、自分が荒れた乱世の世界にいるのだと気付かせてしまった。
少しばかりの連勝で浮かれていたのか?
自分を知る者、そして自分が知る者があっけなく死んでしまった事に自分がいかに甘かったかを痛感させられた。
戦死の報を聞いたあと、一人、部屋で後悔した。
自分が駆け付ければ助けられたなどと自惚れる気はない。だがもしも――と考えてしまうのも確かだった。
「伯珪は俺たちを助けてくれてたのに、助けられないで…ごめん。何にもお礼が出来ずホント……ごめん」
うつむかせた顔から涙が地面に零れ落ちる。
今や一大勢力の主となった自分は、本当はこんな涙など見せてはいけない。
  けどいいよな?周りには誰もいないし、少しぐらい弱みを見せても許してくれるよな?
しばらく悲しみに浸り、そして意を決したように涙を拭い、精一杯の笑顔を見せる。
「いつまでも泣いてちゃ、伯珪に怒られそうだもんな。『ばーか』って何度も言われそうだしな」
だから一通り泣いた後は笑っていよう。それが彼女の為にもなるだろうから。
「ほら、上等なお酒持ってきたんだ。あとで星に『何で仲間外れにしたんです!』って言われるかもしれないけど、一緒に飲もう」
二つの杯に注ぎ、岩の前に置く。
「俺、頑張るから。みんなと一緒に、伯珪に『ばーか』って言われないような世の中にするからな」
杯の中身を口に入れ、もう一つの杯を墓碑にかける。
何となく彼女の笑顔が見えた気がした。

気持ちを切り替えてからは酒は進む。端から見れば岩に話しかけてるアブナイ人にしか見えないが、まぁ構うまい。
だが残りが少なくなってきたと感じた時、後ろからガサゴソと音がする。
一応、少し離れた所に護衛はいるのだがわざわざ呼び出して動物とかではあまりにも情けない。
慣れてはいない剣を抜きかけた時、声が聞こえた。
「こら!………は駄目だって………いう雰囲気じゃない………」
所々聞こえなかったが、少女の声のようだ。
(なんだなんだ?痴話喧嘩かなんかか?)
抜きかけた剣を収め、声のするほうへ近寄ろうとしたのだがそれがまずかった。
「お、押さないでってば!わぷっ!きゃああんっ!!」
「どわああぁっ!?」
珍妙な悲鳴をあげる物体が、勢いよくぶつかってきてはひとたまりもない。
避ける間もなくその物体と一緒に地面に転がってしまった。
「「あいたたた……」」
二人の動作はほぼ同じ。痛みに声を上げ、頭を振り、目を開ける。だから思わず動けなかった。
目を開ければ蒼い瞳がパチクリとこちらを見つめていた。
まだ幼さと天真爛漫さが残る顔つきではあるが、分類としては間違いもなく美少女。
そんなものが息を吹きかければ当たる距離にいきなり現れたものだから頭は混乱。しかし目は離せない。
どのぐらい見つめ合っていたのか。先に口を開いたのは少女のほうだった。
「えっと……もう、手、離してくれるかな?」
「へ?」
気付いていなかったが、ぶつかったときに思わず抱えてしまってたようだ。しかも腰にまわしながら。
「おわわっ!?ご、ごめん、わざとじゃないんだ!」
慌てて手を解き、少女はよいしょ、と可愛らしい声を出しながら立ち上がる。
自分の手から離れていった温もりを寂しいと思ったのは気のせいか。
「えっと…謝るのはこっちだよ。ごめんね、立ち入れる雰囲気じゃなかったのは分かってたんだけど…。
 あの子たちが無理矢理押してくるもんだから、つい……」
墓参りの途中に乱入してきたのは流石に申し訳ないと思ったのか、小さい体を更に縮こまらせてシュンとなる。
「あー…それはいいんだけど。……あの子たち?」
「うん。……おいで!まったく世話を焼かせるんだから!」
少女の声に促され、木の陰からお付のモノ達が姿を現す。
「って、と、虎にパンダぁ!?」
予想だにしなかったものが現れたものだからつい声が裏返ってしまう。
「ぱんだ?あの子は大熊猫だよ?見たことないの?」
ああ、中国語じゃたしかそういう名前でしたっけ。って突っ込み所はそこじゃない!?
「お、俺を食ってもおいしくないぞ!?あ、あんまり肉も付いてないし!?
 ほ、ほら餌ならあとでたんまりとやるから!?」
アタフタと何を言ってるのか。その様子が可笑しかったのか少女は声を上げて笑う。
「ぷっ、あははっ!そんなに慌てなくても…あはははっ!」
「え、えっと…あれ?別に取って喰ったりしない?」
「しないよぉ!あははっ、あの子たち人は食べないし、それにシャオが何で謝ったと思ってるの?
 うふふっ、な、なのにそんなに慌てて…あははっ!」
お腹を抱えて笑う少女に、狼狽したのが恥ずかしく不貞腐れた声を出してしまう。
「なんだよ…そこまで笑うことかよ…」
「ご、ごめん、で、でも可笑しくってつい…あははっ!」
だが悪意のないその笑顔にこちらとしても気が緩んでしまう。二人の笑い声が森の中で木霊していった。

「…それじゃやっぱりここは大切な友達のお墓だったんだ。…邪魔してごめん…」
「そう暗くなるなって。…伯珪、湿っぽいの嫌いそうだし、こういう賑やかなほうがいいんじゃないかな」
笑いもようやく収まり、二人は墓標の前に立つ。その後ろでは白虎とパンダがあくびをして佇んでいた。
「そういやお互いまだ自己紹介もしてなかったよな。俺は北郷一刀、よろしくな」
年上らしい所を見せようとスマートに言ったのだが、言われた当人はただポカンと見つめてくる。
「あ、あれ?俺、なんかおかしい事言った?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど……天の御遣いがそんな簡単に名乗っていいのかなぁ、って思って」
「けど別に君は俺を暗殺とかしに来た訳じゃないだろ?」
「それはそうなんだけど…ちょっと無用心じゃないかなって」
「…ハイ、愛紗にもよく言われます…」
「ふふ〜ん、その人、恋人?」
唇に指を当てて悪戯っ子のようにからかってくる。
「ち、違うって!仲間だよ、仲間!」
「へぇ〜、ふ〜ん、ま、そういう事にしとこっか。わたしはそん…ゲホゴホッ!よ、Y夏だよ!」
今度はこちらがポカンとする番である。なんてこったい。
「えーと、つかぬ事をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ふぇ?な、なにか変だった!?」
そんなに慌てふためいていては自分から嘘だと言っているようなものですよ。まぁしょうがないとは思うけど。
「君の名前………孫尚香だったりしないかな」
「ひぅ!な、なんでわかったの!?Y夏って言えば今までバレなかったのに!?」
「はっはっはっ、天の遣いをなめちゃいかんよ、君ぃ」
嘘です。たまたま漫画を読んでただけです。
しどろもどろに慌てる様子が可愛らしかったが、悪戯はここまでにしておこう。
「…正体を隠す気持ちは分かるけどね。こんな所に孫権の妹がいるなんてわかったら色々と大変だろうし。
 本当は俺もそうしなきゃいけないんだけどね。あ、大丈夫、誰かに言ったりなんかしないよ」
「…ホント?手篭めにして言うこと聞かせたり、無理矢理誘拐して人質にしたりしない…?」
「俺はそういうイメージを持たれてたのか…」
がっくりと膝をつく。
「いめぇじって何だろ…?とにかくそんなに落ち込まないでよ〜、冗談だって!」
てへっ、と笑った顔を見て何となくわかった。この子はこういう子なんだなぁと。
「理解してくれて何より。…でも何でまた孫家のお姫様がこんな所に?」
その質問をしてから後悔する。尚香の顔が暗くなってしまい、うかつな質問をしてしまったものだと。
「…わたしん家、ちょっとゴタゴタしててね。お姉ちゃんとかがギスギスしてて。
 そんな雰囲気が嫌だったから家出したの。…ま、そのお陰でこうして一刀の噂を聞いて会えたんだからいいけどね!」
最後は無理矢理笑顔を作り出して、それがあまりに痛々しかったからそれ以上は深くは聞かないでおこう。
「…そっか。まぁお姫様でもこんな力強い友達がいるなら一人旅も出来るか。大抵は逃げ出すもんなぁ」
話題をすり替えようと後ろに佇む白虎とパンダを見やる。眠いのか退屈なのか二匹とも目を瞑っている。
「…聞き出さないの?孫呉の情報を掴む絶好の機会なのに」
「人が無理矢理話題変えようとしたのに戻しますか貴女は。……甘いと思われるかもしれないけど、
 何かそういうの…嫌なんだよ。女の子の弱みに付け込んだりってさ。そんな哀しそうな顔してる子からなんて…出来ないよ」
人からどう思われようとこれだけは変えられない。こんな世の中でも譲れないものはある。
「…優しいんだね、一刀って」
その柔らかな笑顔に思わずドキリとしてしまう。照れを隠すように頭を掻き、そっぽを向く。
「そ、そんなんじゃないって。っともうこんな時間か…そろそろ戻らなくちゃ」
「え〜っ、もう帰っちゃうの!?」
「こんなんでもやらなきゃいけない事が沢山あるんでね。戻らないと怒られるんだよ。…でも楽しかったよ」
「むぅ〜、じゃあシャオも一刀のトコに付いてくっ!まだまだお話したいもん!」
何を言い出しますか、このお姫様は。
「ちょっと待てぇい!流石にそれはマズイんじゃないか?敵対してる訳じゃないけど、孫家のお姫様を連れてくなんて――」
「だ〜いじょうぶ、大丈夫!名前を言わなきゃ分かんないって!」
「そういう問題か!?」
尚香も譲る気はないようで、腕をガッシリと体に密着させて抱きついてくる。
こ、これはまた温もりがダイレクトに…それにほんの少しの膨らみが……じゃなくて!
「人前じゃシャオって呼んでくれれば大丈夫だって!あと、二人きりの時は真名で呼んでね。
 シャオの真名は小蓮っていうんだよ。よろしくね、か〜ずとっ!」
ジーザス、これは何かの罰ですか!?それとも伯珪、これは墓参りが遅れたことへの嫌がらせか!?

その後、戻ってから仲間達にこっぴどく搾られたのは言うまでもない。
ハハハ、俺の威厳などどこにもありませんよ?

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