「あなたの記憶を取り戻す旅へ」
拠点イベントという名の閑話です。短いです。
注意
・旧作→真
・一刀さんが2人います。1人はオリジナルな名前です
・微妙に厨っぽい、かも
・誤字脱字があったらごめんなさい
・甘い話は苦手
感想をくれた方々、ありがとうございます。励みになります。
台詞に外来語が入らないように注意していきたい、です。
拠点イベント 星・風・稟
星『今は口付けだけ』
星達と旅をし始めて2日ほど経ったある日。
日中、荒野を歩き続けてへとへとになった俺達は、夜になってようやく宿屋を見つけ、そこで泊まることになった。
「疲れた……」
ドサリとベッドに転がり、俺は身体を思いっきり伸ばした。
今日は足がパンパンだ。多分1日で歩く距離としては人生で最長を記録したのではないだろうか。
もう何もする気が起きない。このまま火を消してさっさと寝てしまって……
「主よ」
「って、おわ!」
なんと窓から星が入ってきた。物音もせずに忍び込んでくるのでびっくりだ。
「な、なんだ星。どうしてまた窓から……」
「扉から入ると風達に気付かれるのですよ。散歩に出ると言って表に出た後、壁を伝ってきた次第」
「そ、そうか」
普通に俺の部屋に行くって言えばいいだけだと思うが。
いや、今は旅仲間としてではなく主従として話したいことがあるのだろうか。
星はその辺にあった椅子に座り、じっと俺の顔を見つめてきた。
なんだか気恥ずかしくなり、俺から話を振ることにする。
「で、どうした? また酒に付き合うのか?」
「主、女が息を潜めて男の部屋にやってくる目的など、そう多くはないと思われますが?」
「え……まさか」
いやいや、確かに俺と星はそういう間柄でもあったけど。
星を抱きしめた時にそういう事を考えなかったと言えば嘘になるけど。
再会してまだ数日しか経っていないのに早速そういう事をしてしまっては、星風に言うと「風情がない」。
そう思い、もう少し出会えた喜びを噛み締めた後、落ち着いた時にでもムードを高めて、と思っていたが……
「どうなされた? 女がはしたなく夜這いに来るのはお嫌か?」
ニヤニヤ笑っている星。さて、どうしたものか……
「いや、前の世界でも何度かこういうことはあったし、それは今更だけどさ」
窓から入ってきたことなんて何度もあった。
「俺も嬉しいし、したいとは思うけど、なんというか……再会して記憶も戻ったばかりなのに、いいのかなって」
「良いも悪いも、互いに求めているのなら特に問題はないと思われますが?」
星が挑発するような上目遣いをしている。もしかすると、彼女は全て分かってやっているのではないだろうか。
「まあ、主の言いたいことも分からないでもない。10年ぶりの再会をした恋人同士が、その日いきなり閨を共にするなど、風流も何もありませんな」
「そうそう、そういうこと」
俺はうんうんと同意する。やはり星は分かってくれたか。
「それに、今ここで抜け駆けをしてしまうと、後で愛紗達に説教されてしまいそうだ。なので」
と言った瞬間、星が突然距離を詰めてくるのに反応できず、
「……ん。今はこれだけにしておきましょう。これなら風情があるのでは?」
目の前にはやはり不適な笑みを浮かべている星の顔。
俺は自分の唇に降ってきた感触に呆然とした。
「それでは。良い夢を見られよ」
星はそう言い残し、また窓から外に出て行ってしまった。
表からも彼女の気配が消え、完全に行ってしまったようだ。
ぼーっとしたままそれを見送った俺は、急にとても恥ずかしい気分になり、顔を赤くした。
そりゃあ、相手の部屋に忍び込んだのにキスだけをして帰るとは、なんともロマンチックではあるが。
「……性欲をもてあますんだが」
彼女の残り香が部屋の中に漂っている。
あれだけ期待させておいて、確かに躊躇したのは自分だが、こんな不意打ちを残していくなんて卑怯な。
今日は眠れそうにない。
しかし、それでも星とのキスに心が浮き立ち、幸福感で一杯になってしまうのだった。
※
風『君も夢見て』
「うー……」
その日の朝、宿屋の寝台の上で俺は泣いていた。
いや、寝ている間に泣いていたようだった。
「めちゃくちゃ濡れてるし……」
目頭がやけに熱くなっていて、枕元が濡れている。
おそらく目は完全に赤くなっているだろう。
あー、と俺はこうなった理由を思い返し、手近な布で頬の涙を拭う。
この世界に来て初めて、愛紗達の夢を見たのだ。
しかも幽州の城に皆でいた時の夢で、その中で俺は皆と一緒にいた。
朝に愛紗の意外に上手い炒飯を食べ、午前中に朱里と仕事を終わらせ、昼に鈴々と城下町の食堂に向かい、午後は翠と馬で遠乗りし、夜は星、紫苑と酒を飲んでいた。
あまりにも懐かしく、それでいて楽しかった夢。
夢のくせに卑怯だ。これでは泣くに決まっているじゃないか。
「刃さーん、起きてますかー?」
部屋の外に人の声。この間延びした声は風のものだった。
俺は慌てて水差しの水を一気のみし、「起きてるよ」となるべく普段通りの声で応対した。
扉が開き、風が堂々と入ってきた。
「おや、起こしちゃいましたかねー」
「いや、ついさっき起きた所だよ。どうしたんだ? もしかしてもう宿を出るのか?」
「いえいえ、稟ちゃんがまだ起きてないので、ここを出るのはまだ先ですよー」
稟か、と俺は昨日の晩のことを思い出す。
昨夜の夕食、いつも通り4人で食堂に行ったのだが、そこで星のいたずら心の悪い面が出てしまい、風と稟の前で自分の箸をいきなり俺の口の前に持ってきたのだ。
いわゆる「あーん」という恋人同士が取る動作。
俺はすぐに「おいっ」と抗議の声をあげたが、聞き入れられず。
星はニヤニヤと俺の反応を楽しんでいた。
だが、俺以上に過剰な反応を見せたのが1人。
「私達に隠れて星殿と刃殿があんなことやこんなことを……ぷはぁー!」
妄想全開少女、稟。
彼女はその頭の中で俺と星を登場人物にどんな痴態を想像したのか、料理めがけて見事な鼻血の滝をかけてくれた。
そのせいで今日は朝から腹が減って仕方ないが、それはともかく、稟はこの鼻血が影響で今も寝込んでいる。
早いところ鼻血を出なくさせるか、もしくはすぐに止める方法を見つけないと彼女の命が危ういのではないだろうか。
そんなことを思い出しながら、俺は部屋の椅子に座り、風に水を出してやった。
お茶は高価過ぎて、今は飲めない。月と詠達の淹れてくれたお茶が懐かしい。
「で、こんな朝っぱらからどうしたんだ?」
「特に何もありませんよー。強いて言うなら少し刃さんとお話がしたかっただけですね」
「お話ねえ」
「例えば、その目の辺りに残っている塩っ辛い水の跡について教えてくれたらなー、とか思っています」
「まだ消えてなかったのか……ちょっと待ってくれ」
風の話は一旦保留にしておき、俺はもう一度布で顔を拭く。今度は水を少し染みこませて、入念にした。
「取れたかな?」
「はい、取れましたー」
どうにも恥ずかしい。男の涙は女に見せるべきではない、と俺は思う。
しかし風はそんなことは気にしておらず、ただ純粋な好奇心だけを示していた。
「で、どうして泣いてたんですか?」
「んー、そうだな。ちょっと昔のことを夢で見たからかな」
「昔のことですか?」
「そう、懐かしい思い出って奴だよ」
懐かしくももう戻らない日々。幽州の城で彼女らと過ごした生活。
楽しく、嬉しく、辛く、悲しく、そして後悔を残さないように走り続けたあの世界。
思い出すとまた泣いてしまいそうで、俺は風との会話に意識を集中させた。
「誰にだって望郷の念ぐらいはある。そうだろ?」
「んー、泣くほど懐かしいというのは早々ないと思いますがー」
「ははは……」
乾いた笑いと水を飲むことでごまかしておこう。
と、風は俺の顔をじっと見つめてきた。
「ん?」
「お聞きしたいのですが」
少し真剣な声。
俺は「どうぞ」と姿勢を正して答えた。
「刃さんはずっと旅を続けるんですか?」
「目的が達成されるまでは、そのつもり」
「もしこの地に平穏が訪れた時、風達に刃さんの話を聞かせてくれるという約束、ですよね」
「ああ、覚えてるよ。約束した」
風と稟に真名を預けてもらう代わりに、俺の過去を話すという約束。
他の約束と同じくらい、俺にとって大事なものだ。
風は俺の答えに、嬉しそうに微笑んだ。
「では、今ここでその涙の理由を聞くのは野暮ですねー。後のお楽しみに取っておくとします」
「そうか。けど、俺としては結構無茶苦茶な約束をしちゃったかな、って思ってるんだよなあ」
「どうしてですか?」
キョトンとした顔をする風。
俺はそのかわいさに苦笑する。
「だってさ、旅をしてたら、お互いにこれからどうなるかが分からないわけだろ?」
風と稟はおそらく曹操の軍師になるから、「お互い」という言葉は少し間違っている。
正確には「俺」だ。俺がこれから、無事にこの世界を回れるのか、この世界が終端を迎えるのを防げるのかが分からない。
努力はする。だがそれに結果がついてくるかは神のみぞ知る。
無事に再会できる保証がないのに約束なんてして良かったのだろうか?
風達だけでなく愛紗達も同じだ。ただ彼女達を悲しませてしまう結果になりはしないか。
そんな思いが俺の頭の中でちらりと浮かんでいた。
「守れない可能性がある約束はするべきじゃなかったのかも……なんてね」
「んー、刃さん」
「ん?」
風がいつになく爽やかな笑みを浮かべている。いや、これは怒っているのだろうか?
紫苑の笑いながら怒る姿が思い出される。あれと似たような感じだった。
風はいつもの飴で口元を隠しながら、言った。
「弱気な姿を見せるのは、親しい女性の前だけにした方がいいですよー。母性本能なんて、ただの知り合いの男性に対して抱くことは少ないのですから」
「あー……なるほど、ごめん」
弱気な男というのは、見ているだけでイライラするものだ。
「もっとしっかりしてください」と何度言われたか分からない。こういうのが俺の悪い所だろう。
俺は素直に自分の非を認め、頭を下げた。
「うん。ちょっとふがいなかった」
「まあ、風はそういう姿も嫌いではありませんが」
「ごめ――はい?」
ふふふ、と風は笑う。
「そうですねー。近い将来、風達はその辺のどこかでお偉い人になっているはずです。
もし刃さんの行方が分からなくても、職権を乱用してでも刃さんを探し出します。
そしてお茶でも飲みながらゆっくりお話を聞かせてもらいますから、その辺りの心配はしなくてもいいと思いますよー?」
「ははは……」
これはからかわれてるな、と気がついたのは風のニヤニヤした顔を見てからだ。
しかし、こういう軽口も嫌ではない。心が軽くなる。
そして何より「約束は守れます」と風が言外に述べてくれているのが分かり、安心する。
信頼してくれているのだ。きっと俺は風とまた会えるのだと。
俺と風は微笑みあい、その約束を再確認した。いずれは風達との旅も終わるだろう。しかし、きっと再会しよう、と。
「そういえば、風は夢って見るのか?」
これからの風達について考えていると、ふと俺の知っている史実が思い出され、そのまま彼女への質問となった。
風は不思議そうな顔をして「はい」と首肯した。
「夢ぐらい、そりゃあ普通に見ますよー?」
「なら、最近見た夢の中で、こう……今後の人生に大きな影響を与えるようなものとか、なかった?」
俺の質問が不可解なのか、風は首を傾げてしまう。
そうか、まだあの夢は見ていないのか。
「いや、なんでもない。良い夢が見れるといいな」
「変な刃さんですねー。頭に春が来たのでしょうか。撫でて治してあげましょうかー?」
ははは、と俺はごまかした笑いを浮かべるしかなかったのだった。
風、きっと俺たちは再会できるさ。
※
稟『憧れの曹操』
その日、ある街で宿を取ることになった。
星達と同じ宿を取った。なので晩御飯もてっきり同じだと思ったのだが、星は
「久々にメンマを調達してくる」
と言ってどこかに出て行き、風は
「少々お話したい人がいるのでー」
と言って長老の家に行ってしまった。
仕方ないので俺もどこかの食堂でご飯を済ませることにし、街中をぶらりと歩く。
そして、小さな食堂の中に彼女はいた。この街に来て早々、「調べものがある」と言って別行動を取っていた彼女――稟が。
「ん、あいつ何してんだ?」
料理屋にいるというのに、今その黒縁の目がねが向けられているのは料理ではなく、何かの書類だった。
俺は彼女の姿が気になり、その店に入った。
「らっしゃい」
「あ、俺はラーメンで。塩味でいいよ」
「へい、まいど」
料理屋の店員に注文をし、稟の座る席へと向かう。
あちらは俺に気付いていないようだった。
「おーい、稟」
俺が声をかけると、稟はちらりとこちらを見た。
「ん……何か?」
「いや、特に用はないよ。俺も晩飯だったから」
「そう」
「前、座ってもいい?」
「どうぞ」
俺が相席を頼んでも、稟はさして興味なさそうに書類を読み続けていた。
いったい何をそこまで熱心に読んでいるのか、非常に気になる。
「何読んでるんだ?」
「……ちょっと待って。今大事な所だから」
「おっと、ごめんごめん」
鋭い声で注意されたので、俺は平謝りして口を閉じる。
その時ちょうどラーメンも来てくれたので、稟が読み終えるまで、俺は黙々とラーメンをすすることにした。
「……はぁ」
俺がラーメンを全て食べ終えた頃、稟はようやく顔を上げ、突然ため息をついた。
その顔は何か楽しいもの、美しいものを見た時のように恍惚の色に染まっていた。
と、次の瞬間には俺の顔を見て驚く。
「じ、刃殿、いつの間にここに?」
「おいおい、さっき声かけたじゃないか」
「いえ……そうだったかしら? 覚えてないわ」
「どんだけ集中してたんだ……で、何読んでたんだ?」
「え? ああ。これは最近この幽州で起きた出来事をまとめたものよ。商人が売ってたのを買ってきたの」
「ああ、新聞か」
「新聞?」
「いや、この時代にはまだないんだった……まあとにかく、そこには風聞が書いてるわけだろ?」
「ええ。本屋に寄った帰りに見つけて、珍しかったからつい、ね」
そう言って、稟は俺にその紙を渡してくれた。
紙の上には汚い手書きの文字で、ここ最近起こった出来事が年表のようにまとめられていた。
こうもたくさんの出来事を書き出せるいうのは、様々な場所を行き来する商人ならではだ。
現代マスメディアのような詳細さはないが、ひとつの場所にいながらこういう情報を目にできるのは貴重なことだろう。
稟がこういうことに興味を持つのも当然だろう。
軍師にとって情報の収集は不可欠だ。朱里も他国に間諜を何人も放ち、積極的に情報を集めていた。
彼女と同じように稟も軍師なのだなあ、と俺は何度目か分からない感心を抱く。
「なるほど……十常侍、そうとうあくどいことやってるんだなあ」
「ええ。このままだと民衆の不満は溜まるばかりよ。時代が変わっていくのがその紙面からでも分かる」
「うん……ん? これは」
ある時期を境にして、ひとつの名前が頻繁に紙面に出てくるようになった。
それは「曹操」。
今は一都市の役人をやっているが、はてさてこの紙面の騒がしようはただの役人の所行ではない。
曰く
「盗賊団を3つ、1日で壊滅させた」とか、
「街にはびこっていたごろつき共をその剣の一振りで更正させた」とか、
「相手が名族であろうとも法を犯せば等しく棒叩きの刑に処する」とか、
「城主が逃げ、盗賊団に襲われていた他の街へ、一夜で舞い降り救った」とか。
真実と嘘が入り混じってはいるだろうが、この活躍ぶり、さすがは曹操と言った所か。
やはり彼女は以前と変らず覇王として今を歩んでいる。威圧感が紙面からでも伝わってきた。
「曹操ってすごいな……」
俺が思わず呟いた一言に、稟はびくりと身体を震わせた。
そう、これまでに一度も見たことがない満面の笑みを浮かべて。
「刃殿もそう思う?」
「あ、ああ……って、なんか稟、嬉しそうだな」
「嬉しい? そんなことはないわ。ただ単に、この『曹操』っていう人に興味があるだけ」
慌てて取り繕ったように顔を引き締める稟。
興味があるだけ、ねえ……
そう言う割には顔がかなり赤い。これではまるで恋する乙女のようだ。ちょっとかわいい。
ああ、と俺は納得する。稟はこの情報紙に書かれた曹操が大層気に入ったのだろう。
物語の登場人物に恋するようなものだ。
「曹操に興味あるのか?」
俺がそう尋ねると、稟はすぐさま顔を赤くした。
「さ、さあ、どうかしら」
「ははは……けどまあ、良いと思うよ。俺も曹操はきっと凄い人になると思うから」
そして君は彼女の軍師となる、なんて予言めいた言葉は胸の内に秘めておく。
そんなことを言って彼女の意志を乱したくはない。
あくまでこの世界を生きるのは彼女達なのだ。
「天の御使い」という役割があるならまだしも、外からやってきた上に何の役割も持たない人間がどうこう言って、道を荒らしたくはない。
きっと稟は曹操の軍師になるだろう。だが、それは彼女が考えて決めた未来でなければならない。
そうだ。左慈達のように、この世界の人間に無理やり干渉して世界を乱すなんてこと……やってはいけないのだ。
しかしそう考えているのとは反面、心に波が押し寄せているのを感じ、俺はその波に浚われ、戸惑った。
この世界での自分の在り方。この事を考えると、いつも胸の奥がざわつく。
俺はふぅ、とため息をついた。
と、同時に稟もため息をついた。それはまるで愛する人を恋焦がれるようだった。
「もう少し曹操っていう人のこと、調べてみても……」
その呟きに俺は心のざわめきを抑え、笑みを浮かべる。
「ああ、いいと思うよ。なんなら手伝おうか?」
「刃殿が? いえ、私の気まぐれにつき合わせるわけには」
「いいよ。星も風もどっかに行っちゃって、結構暇なんだ。探し物に関する情報もなかなか見つからないし」
「そう……なら、手伝ってもらおうかしら」
一瞬、稟が寂しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。星と風の名前を出した辺りだったような……
だが、その疑問に答えが出るよりも先に稟の顔は引き締まり、食べかけていた焼売や叉焼をペロリと平らげ、
「じゃ、行きましょう!」
と足早に外へと出て行ってしまった。
ああ、本当に、彼女は曹操のことが気になっているんだろう。
これから先、荀ケのように曹操に恋することになったりとか……しそうだから侮れない。曹操はそれほど魅力的な人物なのだから。
しかし、
「あ……お代」
店員の困ったような顔。
稟は食事代を払わずに出て行ってしまっていたのだ。
「おいおい、俺、あんまり金ないのに」
足りなかったら皿洗いだろうか? と俺は肩を落とすのだった。