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魏ルート帰還SSのプロローグ最後の一つです
最後の一行が書きたかったが為だけに書いた話だったのですが、ここまでだらだらと書き連ねてしまいました。
自分の表現力と構成力の乏しさが恨めしいです

さてここから漸く本編へと突入するわけですが、恋姫に登場する魅力溢れる様々なキャラクターを頑張って活かしていきたいと思います
相変わらず文章量は少ないかと思われますがご容赦下さいませ



草の上に、俺と女の子が座り込んでいた。犬は、いまだに俺の膝の上でもぞもぞと動いている。

「そういえばその犬セキトっていうの? かっこいい名前だね」
「セキトは、恋の大切な家族」

言葉に詰まった想いと、慈しむような視線。それだけで、この子がこの犬――セキトをどれだけ大切に思っているのかが理解できる。
優しさに溢れていた。少なくとも、現代で犬にこれだけの想いを注げるような人はかなり少ないに違いない。

「可愛がってあげてるんだ。俺にも懐いてくれたし人に馴れてるね」

こくりと頷く女の子。よくよく考えてみれば、犬の名前は判明したが未だ女の子の名は明かされていない。そして、俺もまだ名乗っていなかった。

「俺は北郷一刀って言うんだけど、君の名前は?」
「――――私の事、知らない?」
「えっと、ごめん……知らない、かな?」

そう大してぶしつけだった様には思わなかったが、俺の投げかけた問いに女の子はやや驚いたような顔を見せる。
少なくとも俺のあまり優秀とはいえない頭からは、こんな女の子に会った記憶を掘り起こすことはできなかった。こんなかわいいプラスアルファ変わった子、一度みれば忘れないような気もする。
女の子は何かをずっと考え込むような仕草。セキトが腕の中でくぅんと鳴いた。ひょっとしたらアイドルだか何かみたいな有名人なのか? 天和達三人のように活動をしているような。それなら、自分が知られていない事に驚くような事もなきにしもあらずだろうけれど。
しかし、随分変わった話し方をする子だ。カタコトと言うか吟味して話しているというか。まあ霞や真桜は関西弁だし今更驚くような事でも無いんだろうけどな。

「私は、恋で良い。私も、一刀って呼ぶ」

ほんの少し揺れていた眼差しは、また怖いほど真っ直ぐなものになっていた。

「じゃあ、れんちゃんって呼ぶね。どういう字書くの?」
「恋は、こいの恋」
「女の子らしくて可愛い名前だなぁ。うん、似合ってる」
「…………」

女の子、恋の顔色がほんの少しだけ髪の毛の色に近付いた。

「おいでセキト」
「おっと」

朱色の差した顔は、俺の膝上から勢いつけて飛び出していったセキトの体で隠れてしまった。
セキトが戯れる姿を見るとやはり恋ちゃんがセキトの飼い主……もとい家族なのだという事が一目瞭然だ。こういう光景を見ていると俺もペットの一匹や二匹欲しくなってくる。
――――しかし、彼らはほぼ確実に俺より先に天寿を全うすることになって俺は確実に彼らの末期に立ち会うことになるだろう。
来る事がわかりきった別れ、友や家族との別離。俺が図らずも一度経験することになってしまったことだった。

「……じゃあ俺、そろそろ行かなきゃ。探してる人がいるんだ」

そこまで考えて、俺は自分が何をするべきなのかを思い出した。真っ先に彼女に会いに行くことが礼儀でもあり、俺の望みであった筈なのに。

「……だれ? 私の知ってる人?」
「ううん、どうだろう……。でもここにいるのは確かなんだけどね」
「恋、探すの手伝う」
「大丈夫だよ、ありがとう。それにできれば自分で探して会いに行きたいんだ」
「そう」

これは、大して意味の無い俺の我侭だ。ドラマや映画だと真っ先に華琳に会いに行くってのが絵になるしロマンチックで良いだろう。けど、現実はそんなに上手くできてない。
勿論恋ちゃんに会ったことはある意味とても運が良いことだろうし、これ以上を望んだらバチが当たるかもしれない、と俺は思った。

「会えると、良い」
「きっと会えるさ。当然、恋ちゃんとも又会えるよ」
「…………一刀」

立ち上がった俺に声をかける恋ちゃん。丁度、俺さっき始めて会った時と入れ替わりの構図だった。見下ろす俺に、見上げる彼女。触覚のように伸びた髪が風に揺れている。
出会って一時間もたっていない仲だけど、確かに俺は恋ちゃんの友人になる事ができたんじゃないかと思う。勿論、セキトもな。

「……またね」
「うん、またね」
「わうっ!」

セキトの声を背に受けながら、俺はその場を後にした。
実はほんの少し不安だった。もしかしたら、ここは俺の知ってる世界とよく似た違う世界なんじゃないかって。
だけどそんな事は今考えてもどうしょうもない事実で、今俺がすべき事としたいことは常に重なって一つだってことを思い出したんだ。
華琳に会って、謝ろう。そして話をしたい。俺がいなくなった後何をしていたのか、何があったのかを記録じゃなく彼女の口から聞きたいと思った。
そして俺はいずこにおわします俺の覇王、寂しがり屋の女の子の下へと又一歩足を踏み出した。







そして今、彼女の影が俺視線の先にある。
根拠も何も無く確信したのは、彼女が間違いなく俺の知っている彼女なんだという事。
彼女が俺の手の、声の届く所にいる。姿も、服も、髪も鼻も口も眼差しも、全てが俺の愛した華琳だった。別れた時そのままの姿だった。どれだけ褪せても、俺の目蓋に焼き付いて離れなかった曹孟徳が実際にそこに立っていたんだ。
感情の発露が臨界を越えると、涙も出ないんだななんて冷静な自分が囁く。寧ろ、冷静な自分がいる事に驚きだった。浮ついた体と飽和した心が完全に分離して空から自分を見下ろしているみたいな感覚。

映像だけしか処理しない脳が、彼女の横顔が笑みを形作ったのを認識したと同時に俺は我に返っていた。
遠眼にみとめられた笑顔は、どうやら気付け薬のような効果を果たしてくれたらしかった。
呼びかけよう、すぐにでも彼女に。俺は口を開き域を吸い込んだのは、そのにこやかな笑顔のまま天を仰いだ華琳は口を開いたのはほぼ同時で――――




「じゃあね!     一刀!」

「            」






そして一つの世界が、音を失った。
延ばした右手は行き先を失い、虚空を彷徨ったまま硬直する。開いた口が閉じられることも無く、彼が正気を取り戻す様子も無いようだ。
こうして、一念世界を貫き曹孟徳の下へ馳せ参じた北郷一刀は眼前にて突然、その最愛の人に別れを告げられたのである。



to be continued....

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