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第一幕のおまけとして付けようとしたのですが、その割には少し長くなりそうでしたので番外編として別々に投稿しました。結構早く内容が出来上がって書き終わったので自分でもビックリです。
内容は羽貴が何か画策している描写とやりたかったネタです。
ネタに呆れる方もいるかもしれませんが、どうぞ。番外編です。



記憶を失いし天の御遣い・第一幕、番外編


街に残って路銀を稼ぐと言った羽貴は店の中で給仕をする訳ではなく、路上に座っていた。しかし彼の前に置かれたお碗にはお
金が入っていった。
「皆さん。今回は私の笛の音を聞いて頂き、ありがとうございます」
そう言うと周りの観客は拍手を送った。そう、羽貴は旅芸人の真似事をして稼いでいた。あまり効率がいいと思えないが、お碗
には言ったお金の量を見てみるとそんな事ない程に入っていた。
「いやいや。にいちゃんの笛の音は凄く綺麗だったよ」
「そうよ。まるでかの伝説にある鳳凰のさえずりみたいだったよ。聞いた事はないけどね」
観客の中にいる休憩中の店員や主婦がそんな評価を言ってくれるが、羽貴本人が鳳凰なので知る者は「それはそうだろ」と思う
だろう。しかし笛を吹くたびに鳥が寄ってきていたのでそう思ってしまうのも当然かもしれない。ついでにそのお陰もあって更
に観客が増えてくれてもいた。
「ではこれでお開きにします。しばらくはこの街にいますので、お時間があれば聞きにいらっしゃって下さい」
そう言って集まっていた観客を解散させた。そしてお碗の中に集まった路銀を袋に移し、その二つを裾の中に収めた。
「さて。結構早く集まった事だし、情報収集に行くか」
もう一つの目的である情報収集の為に羽貴はその場から適当に歩き出した。しかし人混みの中に入った瞬間、彼女と出会った。
「相変わらず美しい音色を奏でますね、鳳凰殿」
そう、羽貴の正体で呼んだのは月琴を背負った女の旅人だった。いきなり声をかけられた羽貴はそのまま歩いて返事をした。
「この姿は雀景って名乗ってるよ、管輅」
歩いたまま羽貴が返事をすると管輅はその隣に来て肩を並べていた。
「天の御遣い殿は?」
「雷命と一緒に盗賊退治させている」
「ああ、南蛮にいた悪龍の事ですか。女性の龍人として蘇ったそうですね」
真名を聞いただけで管輅はその正体を言い当てて今の状態さえ知っていた。しかしそんな事などは想定内だった羽貴はそのまま
話を続けた。
「ところで、この外史の終末は知っているか?」
「ええ、もちろん。ですが貴方が少々いじった為に星が変わってしまいましたよ」
「はは。さすがは大陸一の占い師、星読みの管輅だな」
「褒めて頂きありがとうございます」
二人して笑う光景は旅仲間か恋人同士に見えていた。特に先ほどまで笛を吹いていた青年が月琴を持つ女性と一緒にいるとなお
さら誰もがそう思っていた。
「ここでは策士の方々に本を与えるのでしょう」
「ああ。でも今は留守だし、帰って来るまで待つつもりだ。あいつの記憶に関するきっかけもある事だしな」
「そうですか。では私はこれで」
管輅が別方向へ姿を消そうとする直前、最後に羽貴へ一言を伝えた。
「もし許劭殿に出会ったらよろしく伝えて下さい」
「どうだろうな。お前みたいに放浪としている占い師に会うのって必然じゃないとな」
これを最後に二人は別れた。
「さぁ〜て、今の状況を調べないとな」
改めて羽貴は情報収集を始めた。あまり店舗を出している相手は出来るだけさけ、休憩をしているような職人や店員に情報を集
めていった。周辺の地理の変化や現在の政策、特に目立った出来事などを中心に聞いていき、それを元に今後の旅計画を修正し
ていった。
「このくらいか?」
一刻半ほど経って羽貴は集めた情報を更に整理して旅計画の細かい所までに手を加えていった。
「成都を出発してからはこう行って……。いやでも道は険しくなっているから早く行くならこっちの方が……」
紙や地図には記さずにあくまで自分の頭の中で計画をまとめていたが、やけに騒がしくなってきたので中断した。
「なんだ?」
何かと羽貴が思うとわずかに焦げくさい匂いを嗅いだ。すぐに匂う方へ顔を向けると黒い煙が上がっていた。それを見て羽貴は
すぐにその現場へと向かった。そして辿り着くと大勢の住民と警備員、そして炎々と燃える建物だった。
「火事か」
目の前の災害に羽貴も驚くが、冷静に今の状況を知ろうとした。
「おい、アンタ」
「えっ?あっ、笛のにいちゃん」
適応に尋ねた開いてはどうやら笛の演奏を聴いていた観客であったようで遠慮なく質問した。
「何があったんだ?」
「ああ。どうやら放火があって、それでこんな状況に」
簡単に説明してくれると改めて燃え上がる建物を見上げた。大きい作りだが幸いに燃え広がるような物は辺りにはないので二次
災害はないようだが、それでも被害は大き過ぎた。しかし警備兵が総動員して消火作業をやっているが、それでもすぐとはいか
ないだろう。
「どうするかな……」
羽貴ならこの状況をすぐに打破出来る事が可能であるが、それほどの事態になってはいないので行動すべきか悩んでいた。しか
し、それを推し進める事態が聞こえた。
「今入っちゃ危ない!あともう少し炎が治まらなきゃダメだ!!」
「ですが、まだあの中には子供が二人も残っているんです!!」
炎の中に飛び込むとした女性を警兵が止めるが、その口から発せられた言葉に全員がどよめいた。しかし、炎の勢いは人が入れ
るほど優しくはなく、入る者などはただの自殺者であった。誰もが子供はすでに助けられないと絶望した瞬間、その母親の隣り
に羽貴が現れた。
「お子さんは何処に居ますか?」
「え?入り口から一番奥だと思いますが……」
いきなり質問されながらも母親は答えてくれた。
「キミ、そんな事を聞いて―――」
「着装!!」
警備兵がどういう意味かと訪ねようとしたが羽貴の突然の声が遮断した。そして羽貴は裾を振り上げてその中から兜、胴当と腰
当に籠手と言った鎧の一部が飛び出し、そして落ちてくるそれを羽貴は器用に着付けた。
「着装完了!」
そう言って何故か敬礼をした。いきなりの事に隣りの母親や彼女を止めた警備兵、そして野次馬や他の警備兵は唖然とした。特
に良く分からなかったのは羽貴が被った兜の顔面部分は丸出しではなく金の様な半透明の色付き板で覆われていたその代物だっ
た。
「ちょっと行ってくる」
奇妙な行動をした後、羽貴は出かけるように言って炎の中に飛び込んだ。
「っ!?キミ!!」
側にいた警備兵は止めようとするも唖然としていた為に少し遅れて止める事は出来なかった。
「おっ、おいお前!何やってるんだ!」
「申し訳―――」
隊長らしき人物も唖然としていた意識を覚醒させて怒鳴ると羽貴を止められなかった警備兵は謝罪しようとしたが、燃え上がる
家の中から何かが出て来た。それが転げて炎を消し去ると、それは羽貴だった。そしてその両腕には何かを抱いているようであ
った。
「ふぅ。意外に通り易かったな」
そう言いながら両腕を開くとその中には二人の子供が抱かれており、そしてその二人は母親が助け出したかった二人だった。
「ああっ!!」
母親は歓喜のあまりに名前を呼ぶ前にすぐに二人の子供を抱き締めた。
「母さん……」
「かか様……」
そして二人の子供も恐怖の中で思い続けていた人に出会って歓喜に泣き出した。
「さて、一気にやるか」
二人の子供を助け出して母親に渡した羽貴は立ち上がると両袖から得物の鉄扇を取り出し、同時に開いた。
「皆さん。危ないですからちょと離れていて下さい!」
野次馬や警備兵にそう言うと結構素直に場を離れていき、すでに燃え上がる家の前には羽貴しかいなくなった。
「よし……」
周りに人がいなくなると腰を下げて鉄扇を構えた。多くの者は祈っているようにも見えるが、わかる者は鉄扇に溜まっていく気
が見えていた。そしてその気が頂点に達すると羽貴は鉄扇を強く扇(あお)いだ。
「最終鎮圧!!」
大声と共に扇がれた気の風は竜巻のようになり、燃え上がる家に向かって行った。そしてその勢いが炎を吹き飛ばし、そして竜
巻と共に消え去った。
「鎮圧作業、爆裂的に完了……」
決め台詞を最後に呟いて二つの鉄扇を袖の中に収めた。その直後、周りの野次馬が歓声を上げた。
「すっげぇー!!」
「よくやった、にいちゃん!!」
「かっこいいぞー!!」
様々な喝采が浴びられ、誰も竜巻の事など気味悪がらないのはこの街だったこそだ。そんな中で羽貴が兜を外すと先ほど助けた
子供の前でしゃがんだ。
「大丈夫だったか」
「うん!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
先ほどまでとは違って元気に駆け寄って感謝の言葉をかけてくれる二人の子供に羽貴は等しく頭を撫でてやった。
「ところでお兄ちゃんて誰なの?」
ようやくその事までくると羽貴は立ち上がってから答えた。
「日々は笛を奏でる旅芸人、雀景。そしてもう一つの姿は気を操り、人々を災害から救う為に大陸を歩く者、その名も――」
そこまで言って再び兜を被ってポーズをとった。
「災害救命士、一号!!救命一号と呼んでくれ!!」
そう言って周りにも呼び掛けると更なる喝采が浴びせられた。そして羽貴は何故か警備兵に連れられる事なく、その場を後にし
た。


その後は適当な宿を見付け、密かに飛ばしていた野鳥から盗賊退治が終わった事をその直後に聞いてその処理の為に警備員達へ
報告をした。しかし丁度先ほどの火事にいた警備兵だったので災害への対処の教えを請われたので拠点に案内するついでに色々
と教えたのだった。







(始めて書くあとがきです)

補間とネタの番外編、終了です。
この本編を書きあげていく上でやりたかったネタです。元ネタは平成の特撮ヒーローもの、トミカヒーローレスキューフォース
です。書いてみると作品として物凄く嬉しかったです。この後に出会う華蝶仮面との絡みにも熱が入ります。いつかあのセリフ
も出したいです。

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