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488 名前:岡山D ◆V9q/gp8p5. [sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20:49:27 ID:HKhoD8/c0
 
 お久しぶりです、先日は敵前逃亡かました岡山Dです。

 懲りずに又投下させてもらいます。
 [西からの使者]です。
 以前も書きましたが、本当に山も谷も無いです。
 後、改行の仕方を変えてみました。読みやすくなって居ればいいのですが……。
 

 ・この作品は、魏ルート・アフターであり、萌将伝は含まれておりません。
  ですので、萌将伝と食い違う場面が多々ありますがご勘弁ください。
 ・キャラ同士の呼称や一刀に対しての呼び方が本編と違う場合が有ります。
 ・ストーリー上オリジナル設定(脳内妄想)が有ります。
 ・関西弁や登場人物の口調など、出来るだけ再現している心算ですが、
  変なトコとかが有ったらゴメンナサイ。
 ・18禁なシーンに付いては期待しないで下さい。

 以上についてはご容赦のほどを。
 
 
 SS初心者なので、至らぬ事も多いかもしれませんが、よろしくお願いします。
 もし、感想・批評などございましたら、避難所の方へお願いします。
 
 本編はtxtで専用UP板にアップしましたのでご覧ください。
URL→http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0648



  西からの使者
      あるいは
       帰って来た種馬はリハビリ中


「(うわぁー、うわぁー、うわぁー)」
  賊を退治した夜、一刀にあてがわれた砦の部屋を覗いている蒲公英。そこに見えるのは、蜀では出会う事の無い光景であった。
  魏の脳筋代表だと思っていた春蘭も、
 同じ騎馬を操る先輩として尊敬している霞も、
 質実剛健とか実直と言う言葉を正に表していると思っていた凪も、
 お洒落やおしゃべりを一緒に楽しむ姉気的存在だと感じていた沙和も、
 役に立つ物から大人の玩具まで何でも作る発明家だと思っていた真桜も、
 何時もは見せない妖艶な表情と、淫猥な雰囲気を醸しだし絡み合っている。
  そしてそんな彼女達とその中心に居る北郷一刀から蒲公英は眼が離せないで居た。
  星に聞いたどこか現実味の無い武勇伝や、紫苑に聞いた何かに包まれたような愛の体験談とも違う生々しさがそこには有った。
  自分は恋に恋する少女等では無いと思っていた蒲公英でも、目の前で繰り広げられる光景は刺激が強過ぎる。まるで炎に集まる
 蛾の様に、一刀に群がる五人の女達。そしてその内に、一人、又一人と嬌声を上げ果てていく。それは一巡して終わりかと思えば、
 二巡・三巡と際限なく続いていく。
  そんな底無しの欲望を見ていた蒲公英は怖いと思った。
  しかし、全身に汗を浮かべ、朱色に上気した身体で幸せそうな顔を見せながら一刀に寄り掛かっている女達を見た時、蒲公英は
 羨ましいとも思った。
  だが、その時の蒲公英には普段なら絶対に起こらない事態が起こっていた。
  際限なく続くかに思われた狂楽の宴が動きを止めた時、蒲公英はある事に気が付いた。彼女の直ぐ隣にもう一人居る事に今迄全
 く気が付かなかったのである。
  それは誰であろう斗詩であった。そんな蒲公英の気配に気付いたのか、蒲公英の方に目をやった斗詩は蒲公英とお互いに目と目
 が合ってしまった。
  その瞬間、蒲公英は斗詩の手を取って一目散に走り出した。そして砦の城壁の上まで止まることは無かった。そこで壁に背をも
 たれて乱れた息を整えながら、蒲公英は口を開いた。
「いっ、何時から隣に居たの?」
「……えっと、……その、……一刀さんと皆さんが口付けを始めた頃です……」
「ほとんど初めからじゃない!」
「そっ、そうなんですか?廊下を歩いていたら馬岱さんが居たので、何をしてるんだろうと思って……」
「絶対に……」
「えっ?」
「絶対に今夜の事は秘密だからね!」
「わっ、判りました。絶対に秘密です(他の人に言える訳無いよぉ……)」
  二人は暫く沈黙していたが、それを破ったのは蒲公英だった。
「……でも、凄かったよねぇー」
「本当に……、魏の種馬の二つ名は伊達じゃありませんね……」
「(北郷さん、ちょっと格好良かったなぁ……)」
「(皆さん幸せそうな顔してたなぁ……、何時かはわたしも……)」
「あ、ははははは……」
  少し不自然にお互いを見ながら笑い合う二人。秘密の共有により、二人の間に友情が生まれた瞬間であった。
  しかし、世の中そう上手くいく訳もなく、実は二人が覗いていたのは霞にはバレていた。そして、翌朝から二人は霞の生暖かい
 視線に悩まされるのでる。
  これにより、より一層友情の深まった蒲公英と斗詩は真名を交換する事となった。



〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜



  一刀が魏に帰還してから五日目、三日三晩続いてた酒宴とその後の狂楽の宴は何とか収束を迎えていた。三日目には公演を終わ
 らせ洛陽に戻って来た張三姉妹も加わり、混迷の度合いは最高潮を迎えていた。何とか乗り切った一刀ではあったが、流石に四日
 目は精根尽き果てたのか動けなかった。それを見た華琳達も流石に自粛しようと思ったのか、それともただ溜まっている仕事を片
 付けようと思っただけなのか、魏に何時もの日常が戻りかけていた。
  そして六日目、一刀はやっと元の自分の部屋に届けられていた荷物を片付けていた。それを季衣と流琉が一緒に手伝っている。
  他の面々もその荷物に興味が有るのかよく顔を出す、特に軍師達は顕著であの桂花ですらよく顔を出している。流石に長時間一
 刀の部屋に居る事は叶わず、探しに来た文官達に直ぐに連行されていた。
「兄ちゃん、言われた様に分けるの終わったよ」
「兄さま、こちらも終わりました」
「よぉし、ならとりあえずこれだけ持って向こうへ行くか」
  そこに一人顔を覗かせるものがいた、祭であった。
「北郷殿、居られるか?」
「あれ、公覆さんどうしました?」
「おお、居った、居った。いや、公謹に言い付けられたお使いも終わったのでな、少々長居もしたが呉に帰るのじゃ。
 で、挨拶に参った」
「そうなんですか、それは残念ですがくれぐれもお気を付けて」
「おお、少々名残惜しいのじゃが、今度は帰らねば帰らぬで公謹に怒られる。全く、昔はぴーぴーよく泣いて可愛げが有ったのに、
 今は小言ばかりじゃ、どうしてこうなったものやら……」
「ははは、きっと公覆さんを心配して気を付けているんですよ」
「そうじゃろうか。後、お主に頼みが有るのじゃが」
「何でしょうか?」
「お主に呑ませて貰ったあの天の酒じゃが、まだ残っておるか?もしお主が良ければ策殿達への土産にしたいので、譲って欲しいの
 じゃが」
「ええ、かまいませんよ」
  そお言って一刀は荷物の中から何本かの酒の入ったビンをを取り出す。それを見た祭の眼が輝きだす。
「こっちが公覆さんも呑んだ米のお酒、こちらは麦のお酒です。どうぞ」
「おお、恩に着る北郷殿、良い土産がまた増えた」
「また?」
「いや、こちらの話じゃ。今度は北郷殿が呉に参られよ、儂が色々と馳走しましょうぞ。他に会うて貰いたい者も居る」
「ええ、是非」
「では北郷殿、また会いましょうぞ」
「はい、公覆さんもお元気で」
  祭の出立は明日の朝というのを確認し彼女は立ち去っていった。それを見送った一刀が呟いた。
「いやぁ、色々凄い人だよなぁ」
「ホント、凄いよねぇ……、あのおっぱい。いいなぁ……」
「ああ、凄いよなぁ……」
「季衣!兄さまも!」
「さっ、さあぁ、とりあえず向こうへ行くか。しかし、俺にまで屋敷を用意してくれるとはな、驚いたよ」
「話を変えても誤魔化されませんよ、兄さま」
  自分の失言と、流琉の冷たい視線に冷や汗を掻きながら支度を再開する一刀であった。

  三国との争いが終わった現在、大きく変わった事の一つとして武将の一人一人に屋敷が宛がわれていた。争いの最中はいつ何時
 事が起こってもいいように城内に執務室兼私室が有ったのだが、争いの無い現在は魏の有力者たる彼女達には公私にわたる不特定
 多数の訪問者が訪れるようになり、その者達を全て城内に招き入れる訳にもいかず、この様な事になったのである。
  一刀が警備隊に復帰すれば以前桂花の陰謀によって建てられた警備隊隊長用の官舎も有るとは聞いているのだが、未だその内示
 は無く、とりあえずは洛陽の豪商の持ち物であった別宅を宛がわれていた。その後そのままそこが一刀の屋敷になるのだが、洛陽
 の繁華街や花街にも近く、城にも近いという利便性の為、幾人もが入り浸る様になるがそれは又別の話しである。
「よし、じゃぁ仮の住処に向かいますか。あっ、季衣そっちのやつ頼めるか?」
「兄ちゃんこれ?いいよー」
「あっ、兄さまわたしも持ちます」
  そうして三人屋敷に向かって行った。

  屋敷に行く道すがら一刀は季衣と流琉に尋ねていた。
「なぁ、季衣、季衣もお屋敷貰ってるのか?」
「うんそうだよ。でもボクは流琉と一緒だよ。ねぇ流琉」
「はい、一人だと寂しいなって思ってたら、華琳さまがわたし達は一緒にしてくださいました。将来的にはわたし達にも一人づつお
 屋敷が頂けるみたいなんですが、当分は一緒がいいかなぁって。でも、春蘭さまや秋蘭さまのお屋敷の直ぐ側なんですよ」
「でもさぁ、女官長さん何時もは優しいんだけど、時々怖いんだよねぇ」
「それは季衣がお屋敷の中で食べながら歩いたり、湯浴みの後に裸でウロウロしたりするからでしょう」
「ははは、それは流石に怒られるだろう(なる程、季衣や流琉の教育係も配備済か、やるなぁ華琳)」
  等と話している内に指定された場所に着く、その門の前で一刀は固まっていた。
「おいおい、嘘だろ。こんなに大きいのか?」
  仮の住いだと聞いていたので、もっとこじんまりした建物を想像していた一刀だが、現代日本の常識が抜けていない一刀にとっ
 て、これは驚き以外の何物でも無い。確かに歩いている途中、長い塀が有るなぁ等とは考えてはいたが、それが自分に宛がわれた
 物などとは思ってもみなかった。
「えー、春蘭さまのお屋敷はもっと大きいよ。ねぇ流琉」
「そうですよ兄さま、急いで探したからこんなのしか見つからなかったって風さんは言ってましたけど」
「勘弁してくれよ……、これなら季衣や流琉の所に間借りさせてもら方が……」
  それを聞いた季衣と流琉の顔がパッと明るくなる。
「本当ですか兄さま」
「そうしなよ兄ちゃん」
「そんな訳ありませんわよ、おチビさん達」
  そう声がした方を見ると門の所に立っている者が居る。麗羽であった。
「麗羽、来てたのか?斗詩と猪々子は?」
「二人なら中に居りますわ。先ずはお帰りなさいませ一刀さん」
「何で袁紹さんがここに居るんですか?」
  そう問い掛ける流琉、季衣は隣でううっと唸り声を上げながら威嚇している。
「何故って、一刀さんがここに住むのですから当然でしょう。何を当たり前の事をお聞きになりますの?
 それに聞けば、華琳さんが寄こした元城付きの女官はほんの一握り、残りは市井からの行儀見習いだと言うじゃありませんか。そ
 の様な者達に一刀さんの身の回りのお世話など任せて置けるはずが無いでしょう。
 さぁ、何時までもこんな所で立ち話などしていては街の者達の目に付きます。中にお入りなさいませ」
  麗羽にそう促され門をくぐる一刀達。
「お帰りなさいませ、御館様」
  屋敷の者の総出の出迎えに怯む一刀。聞けばこの屋敷には女官や文官、侍女や下男や下働きの者、後警備の者等を含めると、約
 七十人程が居るとの事である。益々気の遠くなる一刀であった。

  屋敷の中に入るとこれは又圧巻であった。流石豪商の別宅だと言うだけあって、かなり豪華な造りになっている。麗羽に言わせ
 ると、少々成金的に過ぎると言っていたが、一刀にとって何処までが豪華で、何処からが成金的なのかなど、判ろうはずも無い。
  多少造りを変えようかと言う麗羽を止めるので精一杯であった。
「この者は以前宮中にも仕えていた、中々に出来る者です」
  そう麗羽から紹介された女官長は、初老の上品な人であった。その柔和な表情からは全てを推し量る事は難しいが、麗羽も褒め
 ていたし、華琳が直々に送り込んだのだから只者ではあるまい等と考える一刀であった。
「こちらでお待ちください、今お茶を持って参ります。その後に、屋敷の中をご案内させて頂きます」
  女官長にそう言われ通された応接室に斗詩と文醜こと猪々子が居た。
「おっ、アニキ、やっと来たのかよ。待ちくたびれたぜ」
「すいません一刀さん、どうしてもって麗羽さまが聞かなくて」
  斗詩に勧められた椅子に座って大きな溜息を吐く一刀。
「いや助かったよ、俺一人じゃどうすればいいのか判らなかったし」
「ならあたい達ここに居ていいのか?」
「文ちゃん!」
「ああ、君等さえ良かったらそうしてくれ、こんなんじゃぁここに居ても落ち着かない」
  それを聞いた流琉と季衣の機嫌が悪くなっていくのが手に取るように判る。女官長が用意してくれたお茶を飲みながら、二人を
 宥める一刀。何時でも遊びに来たり、泊まりに来たりしてかまわないからと何とか其の場を収めていた。
「では屋敷内の御案内をさせていただきます」
  そう女官長に声を掛けられた一刀。未だ納得しきれないのか、季衣は一刀の裾を手で握ったまま付いて来ていた。
  屋敷内を案内された一刀はただ閉口していた。
  先程まで居た母屋の他に、数々の客間や応接の有る建物が西側に、東側にはまだ離れも有る。それらが未だ造園中の大きな中庭
 を囲む様に配置され、それぞれが回廊で結ばれている。他にも家人達の住居や警備の兵達の住居、オマケに厩舎や蔵までも有る。
  これは余談ではあるが、実は座敷牢まであった。何でこんな物まで有るのかは判らなかったが、流石に皆には秘密にしていた。
  しかし、後にばれてしまい桂花に嫌味の限りを尽くされ、それを見た稟は無言で鼻血を吹き、立ったまま気絶していたと言う。
  あちらの世界では1LDKのアパートでの生活で十分満足していた一刀にとって、ギャップどころの話しでは無かった。前回で
 はずっと城で生活していた一刀にとって、様々な施設の有る城が大きいのは理解できるが、自身の住む所がこんなに大きいと言う
 のは理解不能である。
  豪商達の大きな屋敷は見た事も入った事も有ったが、まさか自分が住む様に為るとは思ってもみなかったのであった。それにこ
 の屋敷の維持費も心配になっている。
  これは一刀は知らぬ事だが、魏の重鎮である春蘭、最古参の一人であり曹孟徳の食客である一刀、庶人出身の季衣や流琉・三羽
 烏達は、実際はその身分に応じたかなりの額の報酬を得ていたのだが、秋蘭が気を利かせて小遣い制にしていただけであった。
  「これで足りるでしょうか」等と屋敷を見た麗羽が心配そうに言うの聞いて、「何が?」としか答えられぬ一刀であった。


  またもや大量の家人達に見送られ屋敷を後にする一刀達。
  途中、落ち着く為と季衣や流琉のご機嫌取りも兼ねて甘味処に寄ってから城へと戻って行った。
  城に着き、屋敷の報告をする為に華琳の執務室に向かっていると、風と稟に出会った。
「風、あんな大きなお屋敷でなくて良かったのに」
  そう言う一刀に風が答える。一刀の反応を見た風はしてやったりと言う風な顔をしている。
「そうですか?風は立地条件も大きさもまぁまぁかなーと思ったのですが。もしかして風と一緒が良かったですか?
 まぁ、本来ならもう少し落ち着いた物件の方がお兄さん好みかとも思ったりもしたのですが、何分急ぎだった物ですからしょうが
 ないかと〜」
「おうおう兄ちゃん、何か文句が有るのかよ。花街にも近いし、言う事無ぇだろうがよぅー」
「これ宝ャ、何をいらない情報を教えてやがるのですか。お兄さんがそんな所に行く余裕などある訳が無いでしょう。
 ねぇ〜お兄さん」
「えっ、まぁナンだ、うん……、あははははは……。じゃなくて、お屋敷だよ。大き過ぎるぞ」
  それを聞いた稟が、二人の話に割って入る。
「一刀殿、貴方は天の遣いと言うだけでなく、今や魏の重鎮の一人でもあります。それは呉や蜀の人間も知っている事です。
 その地位に在る者がみすぼらしい館しか与えられていないと為れば、華琳さまの沽券にかかわります。赤貧と言えば聞えは良いか
 も知れませんが、そういうものでは無いのです」
「判ったよ。これは俺が慣れるしかないか」
「そうして下さい」
「どうせお兄さんが一人寝するなんて事は無いのですから、お屋敷が広くても寂しいなんて事は無いのですよ〜」
  風は軽いチャチャを入れた心算だったのだが、そこに季衣からとある発言が飛び出した。
「そうだよ、聞いてよ風ちゃん。兄ちゃんたらいっちー達と一緒に住むって言うんだよ、ズルイよねぇー」
  それを聞いた風と稟がすっと立ち止まる。そして一刀を一瞥してから再び歩き始めた。
「おうおう兄ちゃん、やるやるとは聞いちゃいたが、いきなり三人も囲うとはやるじゃぁねぇか」
「乳ですか?袁紹殿と顔良殿の乳ですか?そんなに大きいのが好いのですか?常に側に無ければならないのですか?」
「ばっ馬鹿、そんなんじゃないって。俺一人であんな大きな屋敷をちゃんと仕切れる訳ないじゃないか。そういう時にあの三人の袁
 家での知識や経験が生きてくるだろう。それに彼女達行く所も無いし。
 だから胸なんか関係ないからな。風も何時までもそんな目で見ない、それに稟も。おっ俺はやましい事なんか無いぞ」
「まぁ、もう少しマシな言い訳を考え直した方がいいですね〜。こちらの方には」
「へっ?」
  風の発言に間の抜けた返事をする一刀。気が付くと華琳の執務室の前に立っていた。
  話に夢中だったのだろうか。目の前の扉の前に立つ一刀はこれから起こるであろう事を想像すると、背中にツウッと一筋汗が流
 れるのを感じていた。
  すると手も掛けてないのに扉が開く。その中では華琳が満面の笑顔を湛えていた。
「では言い訳を聞かせてもらおうかしら。……一刀」
  この夜から狂楽の宴が再開したのは言うまでも無い。
  翌朝、呉へと帰る祭を見送ったのは辛うじて覚えていた一刀であったが、別れ際に祭と二言三言話した事は全くと言っていい程
 記憶に残っていなかった。
  黄公覆曰く。
「肌艶の良い上機嫌の女達と、文遠殿と元譲殿に両脇を抱えられまるで操り人形のごとき北郷殿に見送られたのは、忘れられぬ光景
 じゃった。長江を渡るまで、思い出しては笑うておったわ」
 と、後々酒を呑む度に蒸し返されていた。



         〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜



  一刀がこの世界に戻ってから十五日が経った日、遂に一刀に洛陽警備隊への復帰の内示が下された。これは当初から予想されて
 いた事であり、驚く者など居らず警備隊の面々には歓迎されていたのだが、同時に行われた斗詩と猪々子の警備隊への配属は、警
 備隊の面々には少なからずの驚きをもって迎えられた。
  どうやら麗羽だけが一刀の食客で、斗詩と猪々子は魏への帰順と言う形が採られた様である。
 「仕事を下されば、何でもやります」等と言っていた斗詩の希望もあり、風の「この際ですから顔良さんの希望通り文醜さん共々
 お仕事してもらいましょう〜。人手が多いに越した事はないですし〜。袁紹さんと下手につるましておくよりもお二人にとっては
 良いかと。最近は袁紹さんも大人しいですし〜」等の意見も有り、この様な事に為ったのである。
  実際、最近では真桜は開発部の仕事に時間を割かれる事が多いし、沙和も兵の訓練に関わる時間が多い。二人の不在のしわ寄せ
 が全て凪に向かっていた。中間管理職の者も多く居るのだが彼らに全て任す事が出来ず(凪の性格的なものも有るのだろうが)、
 その全てを自分で処理しようとしていた為、かなりの負担になっているのは事実であった。
  元将軍の二人にとって警備隊の仕事は少々役不足の感も有るが、先ずは元袁紹軍であった色を落とし、魏のやり方に馴染むのが
 先決であった。実際着任してみれば、斗詩の良く気配りされた仕事ぶりや、猪々子の竹を割ったようなサッパリとした性格は警備
 隊の面々には好評であり、歓迎されていた。
  それに反し初めは自分達の居場所が無くなった様に感じて不平を漏らしていた真桜と沙和であったが、一刀の身体を張った説得
 もあり今では真名の交換も済ませ五人仲良くしている。
  ただ麗羽の沈黙が皆を不安にしていたのだが、後にこれは麗羽の興味が別の方向に向いていただけの事であるのが判明し、皆胸
 を撫で下ろすのだった。
  麗羽はただ一刀の屋敷の改装が忙しかっただけの様であったのである。


  内示のあった日、一刀は有無を言わさず引きずられる様にして華琳に或る所に連れて行かれた。
  その場所とは帝のおわす宮中であった。
  現在の帝は正に漢の象徴としての存在でしかなく、権力など無きに等しいのだが、未だ民達や今は大人しく三国に従っている地
 方の豪族達等への影響を考えれは無碍に扱う訳にはいかない。
  現在では帝の近従等の中の胡散臭い連中は全て排除しているし、帝の教育係等は華琳の意向を受けた者が勤めている。別に華琳
 の傀儡等にしようとされている訳ではなく、間違った事を教えている訳でも無いので、周りも表立って文句も言えないでいた。
  問題が有るとすれば、一刀の肩書きの[天の遣い]の方であった。
  魏の面々にしてみれば今ではどうでもいい肩書きではあるが(もう一つの肩書きの方がよっぽど厄介だと思っているだろうが)、
 帝の周りにいる者にしてみれば天とは帝を指すものであり、天の世界から来たとはいえ(例えそれが一刀の身を守る為の方便だっ
 たとしても)それを名乗られるのは問題であった。
  天の遣い北郷一刀の名前が特に魏の現在の本拠地である洛陽や、元の本拠地である許昌やその近辺等では未だ絶大な人気と支持
 を得ているのを知っている者達にしてみれば、それは見過ごせない事であり、取って代わられるのではないかと恐れている事でも
 ある。その彼等の畏怖を払拭する為も有り、華琳は一刀を連れ参内した。
  華琳にしてみれば、彼等の牙は既に抜いているとはいえ、つまらない事が原因で以前の様な寵略や暗躍が跋扈する場所に戻した
 くは無いと言うのもあった。
  結果としては、何も問題は無かった。
  彼等の思いが杞憂であったと判れば、後は一刀のペースである。
  自分の思いを素直に帝やその近従達に伝え、あちらの世界の事柄に帝が興味を持っていると判れば、あちら側の様子やそこでの
 暮らし、そしてあちら側の説話などを、時には真剣に時には面白おかしく話す一刀だった。歳若い帝は一刀の話をただ食い入るよ
 うに耳を傾けていた。
  そのやり取りを見ていた華琳は、「あれの人たらしの腕前は以前と比べても数段上がっている」等と城で近従の者達にケラケラ
 と笑いながら洩らしていた。
  結局は宮中の畏怖も払拭され、逆に帝のお気に入りとなり、これ以降事有る毎に参内させられる羽目になった一刀であった。
  ちなみに帝の劉協は、見目麗しく、着る物によっては女性にも見える中性的な男子であると伝えられている。その様な事も有り、
 一刀との仲睦まじい様子が伝えられる度に異形の色に瞳を染める小さな軍師達が居たのは余談である。



  明くる日、一刀の屋敷に急な訪問者が訪れた。それは誰であろう華琳であった。
「へぇー、あなたの指図の割にはいい感じじゃないの麗羽」
「何ですの華琳さん、藪から棒に。一刀さんなら斗詩さんや猪々子さんと出掛けていましてよ」
「出掛けているのではなくて、仕事よ、仕事。今日はあなたに会いに来たのよ、少し話がしたくてね」
「まぁ、そうですの。では今日はお天気もよろしいのでお庭に参りましょうか。
 ではあなた後は任せましたわよ、ああっ、そこのあなたお茶の用意をお願いしますわね」
  そう職人や女官に言い付け、麗羽と華琳は庭へと向かう。その見慣れぬ庭を見た華琳から声が漏れる。
「あら、この庭は?」
「ええ、この庭は一刀さんの言い付けですわ、確か『日本庭園』と言われたかしら。天の様式だそうですわ」
  そう言われ、華琳の顔が曇る。やはり口ではああ言っていたが、一刀は未だにあちらの世界への未練が有るのではないのだろう
 か。そんな事を考える華琳であった。
  実は一刀としてはただあちらの世界の庭を華琳や皆に見せたかっただけなのであるが、そんな一刀の真意を知らない華琳にとっ
 ては考え過ぎても仕方のない事である。
  そして麗羽に促され、四阿(というより東屋)に通され、腰を掛ける。
「最近あなたが大人し過ぎると皆が不安がってね、様子を見に来たのよ」
「まぁ、失礼な。あなた方が私の事をどう思っているかは存知上げませんけれども、私が一刀さんの迷惑になるような事をする訳が
 ないでしょうに……。
 最近はこの屋敷の改装やら、侍女達の躾やらで忙しかっただけですわ」
「そう……。あなた少し変わったわね」
「私は私、袁本初ですわ。でも、あなたが言うのですからそうなのでしょうね」
  そう言って華琳を見詰める麗羽。見詰められた華琳は麗羽を見て綺麗だと思った。
  以前から麗羽は美人の部類である事は間違いないとは思っていたが、今は昔の高慢さが影を潜め、落ち着いた大人の女性に見え
 た。
  するともう一つの想いが頭に浮かんでくる。年恰好が釣り合うであろう一刀と麗羽が並んだ所を想像していた。その思い浮かべ
 たものに華琳は嫉妬すら感じていた。
  華琳はそんな自分が少々情けなかった、しかし自分がそんな気持ちを抱くのかと思うと嬉しくもあった。だが今は心の奥底にそ
 れを仕舞い込み、平静を装う。
「やはり一刀?」
「ええ、一刀さんとの出会いは私にとって衝撃でしたわ。私の今迄の人生であの様な接し方をされた殿方は初めてだったのですから。
 そうですわね、昔も私に優しく接してくださる殿方は多く居ましたわ、一刀さんより武の勝る方も知が勝る方も……。
 でもその方々が見ていたのは袁家あっての私、誰も私自身を見ては下さいませんでしたわ。少なくとも私はそんな風に感じていま
 したの。そして父が死に袁家を継いで益々そんな想いが強くなりましたの。今思えば、あの頃の私は虚勢を張ってただ吠えていた
 子犬の様なものだったのでしょうね。
 そんな私に付いて来てくれた者達や、付いてこざるを得なかった者達……、皆にも多くの迷惑を掛けてしまいました。そしてあな
 たに官渡で敗れ国を失う結果になったのも、この私の不徳の致すところですわ。
 そんな私を自身の身を盾にして守って下さったのは、斗詩さんや猪々子さん以外ではあの方だけでした。一刀さんは大した事では
 ないと仰るでしょうが、私にとっては驚きでした。そして喜びでしたわ。
 ですから天の国から来られたあの方にとって、こちらの世界の理に納まりきらないあの方にとって、私達はただの女。
 それ以上でもそれ以下でもないのでしょうね」
  そう言って笑う麗羽。麗羽の話を聞きながら華琳は一刀らしいと思っていた。そして昔自身が一刀に頬をぶたれた時の事を思い
 出していた。
「今はどう?」
「そうですわね……、上手くは言えませんが、何だか身体が軽いですわ。三人での放浪生活も今にしてみれば楽しかったですし、そ
 のお蔭で一刀さんとも出会えた訳ですから。
 それに今迄とは色々な物が違って見えますわね。後……」
「後?」
「つまらない事も考えましたわね……。
 何故一刀さんともっと早く出会えなかったのだろうか、何故一刀さんは私の前に一番に現れなかったのだろうか」
「………」
  そう自嘲気味に話す麗羽を見て、華琳は何も言えなかった。
  もし一刀が麗羽の元に現れ、もっと早い時期に麗羽の今のような変化が起こっていたら、自分は勝てていたであろうか。もしか
 したら自分と麗羽は今とは逆の立場に成っていたのではなかろうか。いや、例え負けぬとしても、三国の平定にはもっと時間が掛
 かり今とは違った形に成っていたのではないか、等と考えていた。
「何て顔をしてますの華琳さん」
  そう言われ、ハッとした顔で麗羽を見詰める華琳。そして珍しい物を見た風な顔で微笑む麗羽。どうやら考えが華琳の顔に出て
 いた様だ。そんな失態に華琳は少々顔を赤らめていた。
「そんな死んだ子の歳を数える様な事を何時までもしている私ではありませんわよ」
「そういうところは変わらないわね、麗羽。でもやっぱりあなたは変わったわ」
「当たり前ですわ。何時までも後ろばかりをを見ていたら一刀さんを見失ってしまいますもの」
「お互いとんでもない男に惚れたものね」
「覚悟はしておりますわ。あの方と接した女性は惹かれずにはいられないでしょう。まだまだ増えますわよ」
「ええ、でしょうね」
  お互いの顔を見て笑い合う華琳と麗羽。そこへ見計らった様に侍女がお茶を運んできた。
「あらっ、いい香りね」
「ええ、一刀さんに頂いた『お抹茶』ですわ。こちらのお菓子とご一緒にどうぞ」
  二人の間に緩やかな、心地よい時間が流れる。この度の訪問が自分にとって有意義なものであったと感じる華琳であった。
  この後、華琳と麗羽の以前とは違った関係に一刀以下一同が驚く事に成るのだが、当の本人達は周りの反応等は気にも止めず、
 この良い友人関係を続けていくのであった。



  同じ頃、一刀は斗詩・猪々子・凪そして稟達と共に警備隊本部に居た。一刀が警備隊に本格復帰する為の打ち合わせと、業務の
 引継ぎ、そして本部の建物の説明も兼ねていた。
「しかし、俺が貰った屋敷もだけど、ここの施設も大きいなぁ……」
「一刀殿……」
「判っているからそんな顔をするなよ稟」
  確かにこの本部の建物はかなり立派な物であった。下手な地方都市の城等よりも余程立派な物である。その洗練された建物とい
 い組織といい、自分がほんの少し話したことをここまでの物にしてしまう魏の頭脳たる軍師達や華琳に一刀はただ脱帽していた。
  実際、この洛陽の警備隊の仕組みを魏の領内に応用してかなりの成果を上げていた。勿論このやり方は機密扱いなどにはせず、
 呉や蜀にも広く公開し、その二国でも順調に成果を出している。
  そうこうしているうちに、窓から見える少し妙な建物が一刀の目に入ってきた。
「なぁ、あの建物は何なんだ?」
  一刀の指差す先に廃屋とまではいかないが、かなり壊れた建物があった。壁には所々穴が開いていたり、場所によっては燃えた
 跡の様な所も有る。
「えっ、あっあれは訓練用の施設なんです。要人警護の訓練とか、屋内に立て篭もった賊への対処とか……。
 でっですので隊長が気になさる事は……」
  説明している凪の様子が少しおかしい。横に立っている稟は無言でメガネのズレを直している。それを見た一刀は二人の態度に
 疑問を抱いていた。
「へぇ、色んな訓練をするんですね、ただ街の治安維持だけじゃないんですね」
「なるほどなぁ、出入り口や窓以外から穴を開けて突入するのか……、これは中に居る連中も驚くわな」
  感心している斗詩と猪々子。するとおもむろに稟が口を開いた。
「あれは元総隊長用の官舎だったのですよ」
「稟様!」
  凪が声を上げるが、稟はそれを無視して話し続ける。
「桂花殿が一刀殿を城から追い出す為に造ったのですよ。どうやら戦の最中から行われていた様なのですが、出来上がったのは戦の
 終わった後だったので主の居らぬままだったのです。
 その意図を知った者達が使われないのならあそこで訓練をしようと言い出しまして、少々やり過ぎたのか結果があの様です。戦後
 武将達にはそれぞれ屋敷が下賜されたので結果は同じだったのですが……、
 まぁ可愛いじゃありませんか。今では正式に訓練施設になっています。書類上は未だ官舎のままですが……」
  そお言って凪を見る稟。凪は下を向いて真っ赤に顔を染めていた。一刀は笑ってその凪の頭をクシャクシャと撫でながら総隊長
 室へと向かうのであった。

  総隊長室では、稟から現在の警備隊の組織の概要や、凪達の配置に関しての説明を聞いていた。以前とは違い、現在では組織内
 の中間管理職等が格段に整備されており、本来なら組織内の負担が隊長格の人間に集中する事等は無くなっていた。凪はかなり無
 理をしていた事になる。
「これはもしかしたら、かなり楽が出来るのか?」
  一刀の発言を聞いた稟が物凄い形相で睨んでいた。
「ええ、以前の様な巡察と称して街をふらつくなんて事は無くなりますよ」
「別に遊んでた訳じゃないぞ」
「ええ、余裕が出来た分、一刀殿には洛陽だけでは無く他の領内の警備隊の指導や他国への技術供与等も行ってもらいます。それに
 一刀殿は魏の重鎮の一人でも有りますので、これ以降は政治的な折衝の場にも表立って貰う事にもなるでしょう。
 一人二役や三役はこなして貰います、呑気に遊ばせておく心算はありません」
  そう言うと稟はニヤリと笑った。悪い顔をしている。
「おいおい……」
「アニキぃ、がんばれー」
  猪々子の無責任な声援が一刀に掛けられていた。

  その後は場所を一刀の屋敷に移し、一刀と稟そして凪の三人、そして時には斗詩や猪々子も交え多方面に亘るかなり突っ込んだ
 情報の説明を受ける事になった。今回は主に三国の治安の状態や、異民族に対する三国の対応、魏領内の地方豪族の動向、戦後の
 呉や蜀の復興から発展の具合に至るまでのかなり細かい事までも含まれていた。
  その中で、この間の砦での事の顛末を教えられた。あの後魏の領内では盗賊達が自主的に投降してくる事が増えた様だ。どうや
 らあの砦での捕り物が尾ひれ背びれを付けて領内に広まっているらしい。
  その広まっている内容とは、
「あの砦で事を起こした賊達は、夏侯惇と張遼率いる三万の軍勢に無慈悲に全滅させられた。命乞いをするも聞き入れられる事は無
 く、ただただ殺された。民の生活を脅かす者には死有るのみ、それが現在の魏の方針である」と。
  どうやらそんな噂が広まっている様なのだと稟は話していた。実際はあの時の賊達の死者は二割にも満たないはずなのだが、華
 琳も今は好都合とこの噂を放置しているらしい。これはある程度のところで方向を修正しなければと一刀は思ったが、よく考えれ
 ば桂花・稟・風の軍師達がそんな事を見過ごす訳が無い。これは任せておけば良いと結論付けた。だが春蘭と霞には後日謝らねば
 ならないと思う一刀であった。
  麗羽を交えた夕食が終わった後も三人での話は夜遅くまで続いた。勿論話が終わった後、稟と凪が一刀の屋敷に泊っていったの
 は言うまでも無い。



         〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜 〜〜〜☆〜〜★〜〜☆〜〜〜



  前述の通り、現在洛陽の城内に主要な武将や軍師達は住んでいない。その代わりに毎日幾人かの者が夜は城に詰めている。それ
 は例外が無ければ、武将二人・軍師一人が基本である。今夜城に詰めているのは、秋蘭と桂花そして一刀であった。その話を聞い
 た一刀は自分は武将扱いなのかと考えていたが、自分が軍師よりなのかと考えればそうでもない。自分の立ち位置に疑問を抱く一
 刀であったが、当てにされているのならばそれに答える他無いと思っていた。
  城での夕食は華琳を交えて秋蘭の料理に舌鼓を打ちながら談笑……とは成らず、食べながら打ち合わせと相成った。食事はもっ
 と楽しくする物だろうにと思う一刀であったが、そんな事を言えば桂花から何を言われるか判らなかったので決して口には出さな
 い。一刀も六年で成長していた。
「どうだ北郷、警備隊に復帰して暫く経ったのだが……」
  食事も終わりかけた頃、そう秋蘭が一刀に話し掛けた。
「ああ、昔と違ってかなり大きな組織になっているからどうなる事かと思っていたけど、上手くやっていけてるよ。
 桂花や稟達のお蔭で管理職の出来も良いし、組織自体もしっかりしている。何より街の住人の評判が良い」
「当たり前でしょ。華琳さまや帝のお膝元である洛陽で無様な事が出来るはずないじゃない」
「街の住人の評判って……、呆れた……まだ街の警邏に出てるの?」
「勿論、まぁ前ほど頻繁には出来ないけどね。こういうのは自分の目や耳で確認しないと。それに町割りの変わってる所の確認もし
 ないと、以前とは食い違ってる所もあるし」
「ふーん……」
  そっけない返事をする華琳であったが、顔は満足そうであった。それを確認した秋蘭が話を続ける。
「では復帰間もないとはいえ、今迄の感想は?」
「洛陽全体で見れば治安は悪くない。住宅街や繁華街でもかなり遅い時間でも人の行き来が有るのが証明している。まぁ、外からの
 流れ者が集まる所で何箇所か治安の悪い所があるが、大体そういう場所にはそれを仕切る者が居るから彼らと話は付けている。
 何某かの商売を独占させる代わりに外部から流入してくる者達の監視と独自のルール……いや決まり事を作る様に言っておいた。
 それで彼らも納得している。暫くすれば落ち着くと思う。勿論彼らに好き勝手にやらせる心算もない、手綱は握っている」
「うむ、他には?」
「この洛陽のやり方を洛陽以外の都市にも応用しているのも上手くいってると報告が入っている。実際自分の目で見た訳ではないか
 ら、これについては報告を信じるしかない。そしてその街を結ぶ街道の治安も良い。それは街の市や店先に並ぶ品物でも見て取れ
 る。北部の産品や呉や蜀の物まで滞る事無く物が並んでいる。後、天和達からも聞いているよ、以前と比べて都市から都市への移
 動が随分楽になったと。後は……」
「後は?」
  満足気に聞いていた華琳が怪訝な顔で聞き返す。
「後は、最近増えてきた江賊かな」
  一刀の答えを聞いた桂花が嫌な顔をしていた。
  江賊の被害は件数や規模は大きくはないが、増えているのは確かであった。魏にも一応水軍なる物は存在するが、呉のそれと比
 べれば錬度はかなり低いと言える。その水軍を使い警備を増やす事によって一応江賊の被害を抑えてはいるが、根本をどうにかす
 る事は出来ていない。被害の増える速度を遅らせるだけに留まっている。
  今の時代、大量輸送の点では船での輸送に敵う物は無く、それの安全が脅かされるとなると放っては置けない。しかしそんな事
 は百も承知な桂花である、ただ手をこまねいていた訳ではない。それにはそれなりの理由が有った。
「別にアンタに言われるまでも無く判ってるわよ、そんな事。水軍の件に関してはもう呉に打診しているわよ。あちらが落ち着けば
 直ぐにでも始めるわ」
「落ち着く?」
  桂花に対して一刀が疑問を返す。その疑問に答えたのは華琳であった。
「赤壁での大敗、そして蜀と違って呉は一度は完全に陥落したわ、ここまでは一刀も知っているわね」
「ああ」
「三国との争いの後、呉の領地に関しては雪蓮に返還したけど、その混乱している時期に呉の地方豪族や山越が蜂起したの。その後
 始末や引き締めに手間が掛かってたのよ。それに荊州の領土問題も有ったしね。だからさっきの事は未だ手付かず、これからね」
「なるほどなぁ……」
  稟からも聞いた情報とすり合わせながら、一人納得している様な一刀。そんな彼に秋蘭が問い掛ける。
「北郷、何か打つ手を思い付くか?」
「うーん……、まぁ考えてみるよ。ああ、秋蘭ご馳走様、美味しかったよ」
  そう言って席を立つ一刀。その後姿を目で追う三人であった。

  一刀が席を立ち、見えなくなったのを確認して華琳が口を開いた。
「で、秋蘭。一刀の働きぶりはどう?」
「はい、華琳さま。警備隊に復帰直後は多少戸惑っていた様ですが、以前からの部下の多くも残っていたのが幸いして、今は順調に
 職務をこなしています。部下や街の住人達の評判も上々です。まぁ、これは以前からの事でもありますので現在の評価にはなら無
 いかもしれませんが」
「そう。桂花はどう?」
「はい、流民街の実力者との交渉でも判りますが、以前の様な思い付きだけの暴走気味な先走りも無く、きちんと下調べと根回しを
 行っていました。以前よりも思慮深く、視野も広くなっています。今回の政治的な判断も問題は無いかと」
  そう答えた桂花を華琳と秋蘭が目を丸くして見詰めていた。そんな顔で見られている事に気が付いた桂花はうろたえている。
「なっ、何でしょうか華琳さま……。秋蘭も何よ!」
「いや、桂花からそんな答えが出るとは思わなかったのでな、少々驚いていたのだよ」
「そうね、最大級の賛辞じゃない桂花」
「べっ、別にアイツの仕事の評価をしただけで、アレの人間性を評価した訳ではありません。第三者としてのアイツの仕事について
 述べただけです。こんな事に私情は挟みません、あくまでアレの仕事の上の評価だけです」
  そう顔を真っ赤に染めながら桂花は早口にまくし立てる。そんな桂花を華琳と秋蘭はニヤニヤとしながら眺めていた。
「たまには一刀に面と向かって言っておあげなさい。あいつも喜ぶわよ」
「絶対に嫌です」
  そう即答して桂花は目の前に置かれた食後のお茶を一気に呷っていた。
  そんな桂花を見ながら華琳と秋蘭は再び顔を見合わせ笑うのであった。


  華琳達と別れた一刀は一人中庭で木刀を振っていた。暫く素振りをしていたが、今は型の演舞に変わっていた。
「(江賊も流民街の場合と一緒だよな、潰すよりも取り込むほうが良いし、それに今から水軍を鍛えるのではな……。しかし呉も素
 直に教えてくれるかなぁ、軍事情報だからなぁ……。そういえば、呉の甘寧って元江賊だったよなぁ、彼女に意見が聞ければ一番
 なんだが、呉の今の状況をもう少し詳しく聞いとかないとなぁ……。こういうのは風に聞けばいいのか?やっぱり俺も細作とかを
 雇っておく方が良いのかなぁ……。ああ、呉と言えば海が近いよなぁ、海の魚は俺にとって魅力だよなぁ。それに呉の米は酒を作
 るのなら必要だよな、これは落ち着いたら一度呉に行ってみないとダメだな。となれば蜀も見ておくべきだよなぁ、南蛮とかも興
 味が有るし……)」
  雑念を振り払う為の行為を、雑念まみれで行っている一刀であるが、流石に近付いてくる者には気が付いた。
「白蓮の演舞も綺麗だったが、北郷の飾り気の無い演舞も中々だな。」
  そう言いながら近付いてくる秋蘭。
「秋蘭一人?華琳と桂花は?」
「残念だがわたし一人だ。華琳さまと桂花は執務室に戻った。何だわたし一人では不満か?」
  そう言う秋蘭の顔が少々拗ねている様に見える。食事の時に呑んだ酒が残っているのだろうか、秋蘭の感情が素直に顔の表情に
 出る様だ。それにこの場に一刀と秋蘭の二人しか居ないという事も関係有るかも知れない。
「まさか、歓迎するよ秋蘭」
  そう言って演舞を続ける一刀。秋蘭は側の芝生に腰を下ろしそれを眺めていた。
  暫くそれを続けた後、一段落したところで一刀は秋蘭の横に座り込み汗を拭っていた。
「公孫賛の演舞かぁ、一度見てみたいな」
「これから先、何度でも見られるさ……」
  一刀の問いに答えた秋蘭が不意に黙り込む。その不自然さに一刀が問い掛ける。
「秋蘭?」
「……なあ北郷。他の者にも聞かれているだろうが、わたしも聞きたい」
  真剣な目で一刀を見詰める秋蘭。そんな秋蘭を見た一刀は居住いを正し、彼女を正面に見据える。
「二度とあんな事……、黙って消えてしまうような事は無いのだな」
「無い」
  簡潔に、そして力強く秋蘭の問いを肯定する。
  それを聞いた秋蘭は安心したのか、そのまま顔を一刀の胸に落とす。一刀はそのまま秋蘭を抱き締めた。
「判った。だからもう二度とこの事は聞かない」
「ああ、だから秋蘭も気にしないでいいからな」
  一刀の言葉を聞いて、驚いた様な顔をする秋蘭。一刀は自分を見上げた秋蘭の顔を見た時、「やはり双子だな、こんな顔は春蘭
 とソックリだ」等と考えていた。
「春蘭から聞いた。秋蘭が定軍山の事を、俺が消えた原因の一つではないかと気にしているって」
「姉者め……」
  頬を朱色に染め、そんな事を言いながら一刀から離れ様とするが、一刀が離そうとしない。直ぐに諦めたのか、再び一刀の胸に
 収まる秋蘭。
  そして暫くの間、二人はそのまま星を眺めたり、他愛も無い話を続けるのであった。

「そう言えば北郷」
「何?」
「いや、鍛錬を見る限り、以前より剣が鋭くなっているな。向こうでも鍛錬は続けていたのか?」
  今は、一刀に肩を抱かれ、彼の肩に寄り掛かる様にしている秋蘭がそう一刀に語り掛ける。
「まぁそれなりにはね。前よりはマシになっているとは思うよ。かと言って先陣を切って突撃なんてのは無理だろうけど」
「ふふふ、そんな事は皆期待してないさ。北郷は北郷らしく居てくれればいい」
「何だよそれは」
  そう言って二人は笑い合いながらじゃれ合う様に芝生に上を転がる。
「話は変わるけど秋蘭」
「どうした?」
「最近春蘭が時々挙動不審な事が有るんだけど……」
  芝生の上に寝転がり、一刀の首に腕を掛けたままの秋蘭がそれに答える。
「ああ、今の北郷の姿だよ」
「俺の?」
「うむ、姉者とわたしは華琳さまに近しい臣下の中では年長を自覚していたんだよ。だから北郷の事はわたし達の弟分の様な認識で
 あったのだ。それが戻って来たお前はわたし達より年上になっていた。それに未だ姉者は慣れていないのだろう」
「そうなのか……、秋蘭はどう?」
  そう聞かれた秋蘭は満面の笑みを湛え答えた。
「わたしはこうして気兼ねなく一刀に甘え易くなったのが嬉しい」
  そして一刀の首に回した腕に力を入れ、唇を重ねる秋蘭。それを受け入れる一刀。唇を重ねている内に気分が高揚したのか、一
 刀が秋蘭の裾から手を差し入れる。それを拒む事無く受け入れていた秋蘭であったが、「あっ……」と声が出た瞬間我に返ったの
 か、一刀を引き離そうとする。
「いっ、今はダメだ一刀……。くうっ……、未だ城内の……みっ見回りもある……。そっそれに……んん、こっこんな所で……アッ
 アアァァァ……」
「こんな所で?」
  一刀は秋蘭の耳元でわざと息が掛かるように囁く。秋蘭は何とか離れようと抵抗するが、勿論一刀は手を止め様とはしない。
「こんな所では……、しっ城の者に……見られてしまう……あぁぁっ。お願いだから……、今は許して……。きゃぁぁっ……そっそ
 こはダメだっ……くっぅぅぅぅぅ……」
  涙を浮かべながら秋蘭は懇願するも、最後は一刀にしがみ付き果て様とした時、不意に一刀の手が止まった。
「なら、先に仕事を終らせようか。続きはその後で……」
  そう笑顔で言う一刀を秋蘭は上気し蕩けた様な顔で見ていた。
「非道いぞ一刀……、人を……こんなに……しておいて……」
  未だ息が整わないのか、何とか言葉を搾り出すように話す秋蘭。
  そんな彼女の首筋にもう一度口づけをしてから起き上がらせる一刀。
  何とか力の入らぬ下半身で立ち上がった秋蘭の腰に一刀は手を回し、城内の見回りに向かう二人であった。秋蘭の視線が噛み合
 わずあらぬ方向を見ていたり、たまに「ああっ」と艶っぽい声を上げていたりしたのだが、幸か不幸か城内の者にしてみればただ
 二人仲睦まじく歩いている様にしか見えず、気に留める者など誰も居なかった。これもひとえに一刀の日頃の行いの賜物であった
 と言うべきであろうか。
  そして二人は何時もの何倍も時間をかけた城内の見回りをするのであった。
  ちなみに今夜の出来事は、秋蘭に一刀の成長具合や、その他の色々な新発見を認識する事になった。



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  時と場所は変わって、ここは長安の都。その街の屋台に手持ち無沙汰に茶を飲んでいる女性と、既に二杯のラーメンを完食し、
 三杯目のラーメンに手を付けている少女が居た。
  馬孟起こと翠と張翼徳こと鈴々であった。
「なぁ、鈴々。あの二人の買い物は何時までかかるんだ?着いて行こうかって言ったら断られたし」
「鈴々も良く判らないのだ。ここで何か食べながら待ってろって言われてお小遣いまでくれたので言われた通りにしてるのだ」
  そう言って手元のラーメンを口にかき込む鈴々。その食べっぷりは、屋台の主人も感心している。それを横目に見ながら、翠は
 話を続ける。
「まぁ、長安に着く前から何かそわそわしてたからなぁ。よっぽど大事な物か、ここでしか手に入らない物なんだろうけど……。
 こんな事なら紫苑と璃々の買い物に付いて行けば良かった……。だけど鈴々、少し食べ過ぎだぞ」
「全然大丈夫なのだ。鈴々は翠と違って成長期なのだ。たくさん食べてお姉ちゃんや愛紗みたいにばいんばいんに成るのだ。
 そして今度こそ、あの春巻き頭に絶〜対に勝って見せるのだ」
  そう意気込む鈴々をマジマジと眺める翠。
「絶対に勝つって、前に洛陽へ行った時と大して変わって無いじゃないか」
「そんな事無いのだ!前より背もおっぱいもずっと大きく成ってるのだ!無意味にでっかいおっぱいの翠には判らないのだ」
  鈴々の反論を聞いた翠が、顔を赤らめ手で胸を隠しながら立ち上がった。
「バッ馬鹿、こんな所で何言ってんだよ!少しは場所を考えてだなぁ……」
  そして二人の口喧嘩が始まった。通りを歩く人々も、何が始まったのかと集まり始めている。そこへ買い物を済ませ手を繋いだ
 黄漢升こと紫苑とその娘璃々が戻って来た。
「あらあら、翠ちゃんも鈴々ちゃんどうしたの?」
「ああ、紫苑聞いてくれよー……」
  翠が事のあらましを説明する。それをニコニコと微笑みながら聞く紫苑。
「二人の言い分も判るけど、ダメよこんな所で言い争いを初めちゃぁ……、人集りが出来てるじゃない。街中で二人が喧嘩してたな
 んて愛紗ちゃんに知れたら大目玉よ。
 そろそろ朱里ちゃん達の用事も終るだろうから、二人は預けた馬を引き取りに行ってくれるかしら」
  紫苑に諭された二人は渋々ながらも言われたとおりにする。騒ぎが収まったのを見た街の者達も其の場を離れ始めた。
  そんな所に、入れ違いで諸葛孔明こと朱里と鳳士元こと雛里が手に大きな荷物を抱えて戻って来た。
「何か有ったんですか?」
「……何だか人集りが出来てたみたいですけど」
  朱里と雛里の問いに紫苑が答える。
「いいえ、何でもありませんよ。さぁ、皆もそろったので洛陽に向かいましょう」
  紫苑の笑顔にはぐらかされた様な気がした二人であったが、深くは追求せず先に行った二人に追い着くべく歩み始めた。

  本来なら、今回の洛陽行きは帝への桃香からの書簡(中身は時候の挨拶であり、大した内容ではない)を届ける事と、冬に向け
 ての蜀魏間の貿易についてと、五胡に対する打ち合わせが主な事で、その役所は紫苑とその護衛役の翠だけであった。だが、天の
 遣い北郷一刀の帰還を聞いた朱里と雛里がその人なりと、それによる魏の変化を確認するために同道する事になり、そして洛陽行
 きを聞きつけた鈴々は季衣との決着を付けるべく、愛紗に懇願して無理やり付いて来たのであった。
  最後まで「わたしも行く」と言い続けていた桃香であったが、流石にそれは愛紗に却下されていた。
  そんな彼女達がそれぞれ様々なモノを心に秘め、洛陽へと向かって行く。
  何も起こらないはずが無かった。


                    西からの使者 了


おまけ

  ここは洛陽の城内のある一室。現代日本で言えば四畳半程の広さで、出入り口は一箇所しかも四方の壁は石造りというかなり機
 密性が高い部屋である。
  そこに数名の者が集まり、何やら話をしていた。
「秘密会議や」
「なんですの姐さん、秘密会議って?」
「にゅふふ、秘密会議の秘密は……」
「長くなるので止めなさい風」
「むぅぅぅ……、稟ちゃんは様式美というものが……」
「で、議題はナンなのか教えて欲しいのー」
「沙和ちゃんまで……」
  凹んでいる風を無視して霞が話を続ける。
「今回の議題はズバリ!……一刀の今後の取り扱いについてや」
「取り扱いって、たいちょは危険物かいな」
「せや、十分危険物や。今迄は一刀は余り表に出ることちゅうんは無かったけど、これからはそうはいかん」
「確かに。今までは機密とまではいかなくとも、一刀殿は余り表には出ませんでした。しかし、これからはそうは言っていられませ
 ん。前面に出ることが増えますし、政にも係わりが多くなります」
「ちゅう事は蜀や呉の者との接触が増えるちゅう事や。袁紹達の事を考えれば……」
「お兄さんは初物、いや魏に居ない『たいぷ』に弱いと言う事ですね〜」
「そういうこっちゃ。蜀や呉には魏に居らん『たいぷ』やったか?それがぎょうさん居る」
「あ〜んなるほど、紫苑はんを筆頭とした年上お姉さま系や、愛紗はんや翠はんそれに蓮華さまの生真面目系」
「雪蓮さまや冥琳さま、穏さまの迫力『ぼでい』系も要注意なのー」
「確かに、以前なら一刀殿は雪蓮殿や冥琳殿より年下でしたから、相手にされない可能性も有りましたが、今はほぼ同い年」
「後は蜀の小動物系の朱里ちゃんや雛里ちゃん、それに恋ちゃんも〜……。ああ、あの国筆頭の桃香さんもいましたね〜。
 それに星ちゃんもああ見えて中身はかなりの乙女ですし〜」
「なぁ、今名前が出ただけでもかなりの数や。それに蜀には最強の隠し玉が居る……」
「最強の隠し玉って姐さん……」
「……月や」
「あぁぁぁ……」
  その名を聞いた四人が一斉に諦めにも似た声を上げた。
「月殿は洛陽での一件を一刀殿に感謝している風でしたし……」
「あんな超箱入りのお嬢様、たいちょなんぞに見せたら……」
「其の場でお持ち帰りされちゃうのー」
「月ちゃん自体それを嫌がらない可能性も有りますね〜」
「せやろ、それが問題やねん……」

  恋姫達の悩みは尽きる事無く、洛陽の夜は更けていった。

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