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812 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:17:54 ID:5xCYK1qQ0
私の名はメーテル……投下する女。
10分後に4レスほどの小編を投下させてもらうわ、鉄郎……
813 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(1/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:32:47 ID:5xCYK1qQ0
 問:これは食べ物ですか?
 答:はい、これは食べ物です。
 そんな問答が、頭を過ぎる。

「……これを、食べるの?」
「ええそうよ。折角作ったものだもの。勿論全部食べてくれるわよね」
「……本気?」
「本気」
 にっこり桂花が微笑んだ。
 それは地獄行きを告げる閻魔のようであった。

 ◆◆◆

 桂花の誕生日のことである。
 普段は一刀に願い事などまずしない桂花が一刀に言ったのが、『味見役として、私の手料理
を食べて欲しい』ということだった。
 正直桂花が料理? などと訝しむ気持ちもあったが、一刀はこの願いを一も二もなく受け入
れた。
 女の子が自分に手料理を振る舞いたいと言っているのだ、それを拒否するのはそれこそ据え
膳食わぬは何とやら。
 それに何より、これは誕生日のお願いだ。
 食べぬわけにはいかないではないか。
 加えて、流琉からここ数日桂花が夜遅くまで厨房に詰めて、何かをしていると聞かされもし
ていた。
 きっとこの日のために、特訓でもしていたに違いない。
 そう思うと、桂花も結構いじらしいところがあるじゃないか、そんな気持ちが湧き上がって
きて断れるはずがなかった。

 だからそういうこともあって、一刀は案内されて厨房に連れてこられるまで、春爛漫のルン
ルン気分でいた。
 そう、実物が目の前に出されるまでは。
814 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(2/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:34:32 ID:5xCYK1qQ0
 ◆◆◆

 それは、地獄の窯の蓋が開いたようだった。

「……赤いを通り越して黒いんですけど」
「西方より取り寄せた特別な辣を、限界まで濃縮してみたわ」
「息してるだけで鼻が痛いんですけど」
「鼻が痛いなら口で呼吸すればいいじゃない」
「毒?」
「食べられるものしか入れてないわ」
「念のために聞くけど、コレ、何?」
「辣を練り込んだ拉麺、略して辣麺よ」
 打てば響くとはこのことか。
 予め用意してあったのだろう回答を、桂花はすらすらと口にした。
 一刀は逃避したい気持ちを抑えて、改めて目の前に置かれたものを確認した。
 それは血の池地獄さながらの、赤黒いスープが並々と注がれた拉麺どんぶり(特大)である。
 浮かんでいる具材も赤黒く染まっており、既に元が何であったかなど判別がつかない。
 勇気を絞り、恐る恐る箸を入れてすくってみると、異様に高い粘度の汁の中から、不自然に
赤い麺が顔を見せた。
 嗚呼、恐ろしい。
 見ているだけで汗が噴き出てくる。
 それはもう、この世の食べ物とは思えなかった。
「本当に、これを?」
「ええ。喜んで食べてくれるわよね?」

 普段絶対に見せないような満面の笑みをした桂花を見ながら、一刀はゴクリと喉を鳴らした。
 本能が、それを食べることを拒否している。
 だがしかし、一度食べると約束したのだ。それを反故にするのは男として許されざる行為。
 何より女の子が作ってくれたものだ、無碍にするのは気が引ける。
 それに見てくれが悪いだけで、実は美味しいかもしれない。
 もしかしたら、いや多分、きっと、美味しいんじゃないかな、ま、ちょっとは覚悟しておけ。
815 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(3/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:36:14 ID:5xCYK1qQ0
「………」
 しばし熟考。
 そうして暫くどんぶりを凝視してから、ついに一刀は覚悟を決めた。
 震える箸を使って、ゆっくりと麺の一本を持ち上げて、それを口に……
 そして次の瞬間、
「ぎゃ、ぎゃあああああああ!!」
 口の中に兵器、具体的には焼夷爆弾が落ちた。
「辛、辛いっ! っていうか痛ぁっ!!」
 一刀がテーブルに突っ伏してのたうち回りはじめる。
 同時に人体に備わった保護回路が働き、刺激に対して涙腺から涙が溢れだした。
 辛味、それが度を超えてと『痛み』という次元に達したのである。
 涙と同時に鼻からは鼻水が滂沱の如く流れ落ちる。
 むしろ目や鼻から逆流してきた粘液の方が甘く感じるほどであった。
「あら、どうしたの? ちょっとだけ辛くしたけど、まさかこのくらいで音を上げたりしない
わよねぇ」
「い、痛っ、痛い! 無理、ちょっ、これ無理!!」
 逃げ出しそうとする一刀であったが、その両肩を桂花ががっちりと掴んでいる。
「痛い? 痛いですって? ほほほ、あんたに無理矢理散らされた私の純潔、あのときよりも痛
かったのかしら?」
 半泣きどころか七分泣きくらいになっている一刀を見下ろして、桂花がサディスティックな
笑みを浮かべる。
「ほーら、もう一口。あ〜ん……」
「あ、あがががが……」
 口の筋肉が痙攣して上手く閉じられない。
 そうして半開きになっている口に、桂花が手ずからゆっくりとレンゲを使ってスープを運び
入れた。
 嫌なのに、口に入っちゃう……。
816 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(4/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:37:37 ID:5xCYK1qQ0
 そうして再び悪魔の物質が口中を通過した途端、一刀の体が電流が走ったようにビクンと一
度大きく跳ね――そして電源が落ちるようにして一気に脱力した。
「ふふん。これで少しは思い知ったかしら。あのとき、私が身と心に感じた痛みを!」
 一刀を見下ろして桂花が笑った。
 しかし、とは言ったものの、一刀はもう既に聞こえているかも怪しい状態である。
 正直、その姿を見て桂花自身も少しやり過ぎてしまったような気がしたが、
(ふんっ、いい気味よ。こんな変態色情男にかける情けなんてないんだから)
 乙女の純情(百合的な意味での)を踏みにじった罪は重い、そう思ってあえてスルーした。
「さて、と」
 眼下には白目を剥いて突っ伏している一刀。
 何はともあれ、全自動変態精液注入孕ませ強姦魔には天誅が下った。
 後はこの危険物を処理するだけである。
 そう思って辣麺の入ったどんぶりを片付けようと、手を伸ばしたそのときであった。
 桂花の腕が、横から伸びた誰かによって突然掴まれた。
 勿論、そんなことが出来る人間は、この場に一人しかいない。
 一瞥すると、案の定それは一刀の手であった。
「何よ、まだ何かあるの?」
「………」
 だらしなく弛緩した顔、涎を垂らした唇、一見して到底意識があるようには思えない。
 だがよく見ると、半開きになったままの口が、小さく動いていることに桂花は気付いた。
「ん? 何か言いたいことがあるの? まぁ、どうせだから聞いてあげようじゃない」
 そう言って、桂花は顔を寄せて耳をそばだててみた。
「辛……痛……」
「? 何? 小さくて聞こえないわよ」
「辛……痛……」
 意味不明な言葉だった。
 やはりただの譫言か、そう思って体を離した矢先の出来事であった。
「だがそれがいい!」
 一刀の顔が、がばりと唐突に持ち上がった。
「……へ?」
 汗、涙、鼻水、涎、流せるだけの体液を全て流しながら顔を真っ赤にして、ぐるんと白目を
剥いていた一刀の顔が、悦びに輝いていた。
817 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(5/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:38:37 ID:5xCYK1qQ0
 さて、こうなっては一刀の中でいかなることが起きたのかを説明せねばなるまい。。
 人間という生き物には、ある種のリミッター、あるいはブレーカーというようなものが備わ
っている。
 それは肉体、あるいは精神が極限まで追い詰められた状態に陥ると作動して、自己保全を図
ろうとする防衛機構である。
 限界超えて肉体を酷使したマラソンランナーが恍惚状態に陥ったり、酷い拷問を受けた信仰
者が神を見たりするのも、苦痛を乗り切るために肉体が起こすこうした作用によるものである。
 今まさに一刀に起こった変化。それはこの働きが、過剰反応したことによって起きたもので
ある。
 辛い/痛い。
 その需要できる限界を超えた一刀の脳内では快楽物質が大量に分泌され、それにともない一
刀の中にあった価値観を一気に反転させてしまったのである。
 即ち、辛さ/痛さを超えた向こうにある、得も言われぬ多幸感。
 桂花の辣麺は、一刀を一口でその領域に到達させてしまったのだ!

 つまり、今の一刀にとって『辛い』=『美味い』であり『痛い』=『気持ちいい』ことなの
である!

「あばば、あばばば、美味い、ハムッ! ハフハフ、ハフッ!! 箸が、ズビッ、止まらないっ、
ズルッ、美味い、ぅぅぅうんまぁ〜いっ!!」
「ちょ、ちょっと!? 何やってんの!? そんなにいっぺんに口に放り込んだら死ぬわよ!?」
 焦点が合わぬ曖昧な瞳で突然麺を掻き込みはじめた一刀を見て、流石にこれは不味いと思っ
たのか、呆然としていた桂花もあわてて止めに入った。
「はひっ、はひっ! 止めないでくれ桂花! こんな美味いもの、これを逃したら、もう二度と
っ、食べられないかもしれないっ! だから、俺は……俺はっ! アヒャ、アヒャヒャヒャ!」
「や、やめなさいっ! ちょっ、だめっ、箸を放しなさいっ!!」
 暴れる一刀を必死にテーブルから引き離そうとする桂花。
「ウマウマ……ウマウマ……モットモット」
「きぃぃ! 放しなさいって言ってるでしょう!」
 狂気と正気が交差する中、救いの主は突然やってきた。
818 名前:真・恋姫無双 外史 「桂花辣麺」(6/6)[sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:41:37 ID:5xCYK1qQ0
「だから姉者、ああいう場合はおもいやりを持ってだな……」
「なるほど、流石秋蘭だ。確かにその方が破壊力が増すな」
「待て姉者。ちゃんと私の話を聞いていたか?」
「だから、重い槍を持つのだろう? よし、明日からは重さを三倍にするぞ!」
 扉を開けて厨房に姿を見せたのは、春蘭秋蘭の姉妹である。
 訓練を終えたばかりなのか、二人とも鎧を着けたままだった。
「おお、一刀に桂花ではないか。お前たちも昼か?」
「見てわかんないの!? 緊急事態よ! あんたたちも手伝いなさい! こいつを机から離すわ
よ!」
「何?」
「フー! フーッ!! 足りない! もっと、もっと食べさせてくれェ!!」
 羽交い締めにする桂花に、獣のように手足を振り回して暴れる尋常ならざる様子の一刀。
 流石は歴戦の武将、二人はその光景を見て一目で異常事態であることに気付いたのか、真
剣な表情で顔を見合わせた。
「よし秋蘭! 先ほど言っていたことを実践してみせるぞ! 重い槍を持ってきてくれ!」
「だからそれは違うと……」
「何でもいいから早くしなさいよっ!」
 この後、主に春蘭の活躍で一刀がコンパクトに折りたたまれて騒動が収まったのは、騒ぎを
聞いて華琳が駆けつけた後のことだった。

 結局、桂花の作ったこの拉麺には常軌を逸した効能があることが判明し、華琳の厳命によっ
て製造が禁止され、その製法も秘中の秘として国庫の最奥に封印されることとなった。
 しかし、フグしかりツバメの巣しかりピータンしかり、それがどのようなものであれ人は美
食を求めるもの。
 封印された筈の製法の断片が出回り、後に『桂花拉麺』なるものが作られ世に広まることと
なったことは言うまでもない。

 また、そのような恐ろしいものを世に作り出してしまった桂花が、後日戒めとして華琳の前
で一刀相手に赤ちゃんプレイに興じることになったのもまた、言うまでもない。
819 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2010/11/06(土) 22:47:59 ID:5xCYK1qQ0
私の名はメーテル……またうかつな女。
分割数4ではなく、6になってしまったのよ。

前に桂花の短編が欲しいという要望もあったから、今回は桂花小編よ。
袁術公路の方は、もう少しかかりそうなのよ、鉄郎……

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