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322 名前:思春曰く、[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 00:58:18 ID:hL+jAI3E0
>>281
調理したらこうなった。
五つの予定。
323 名前:raindrops(1/5)[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 00:58:46 ID:hL+jAI3E0
こんこん
「すまん、真桜。今時間いいか?」
「お、春蘭様やないか。ウチの部屋に来るなんて珍しい」
新しいカラクリの開発に没頭していた真桜の部屋にやって着たのは珍しい客。
「う、うむ。ちょっと用があってな」
「どないしたんですか?」
剣を構えているときの彼女と同一人物なのかと疑いたくなるほどに切れが無い。
「あ、あ、あああのな。傘余ってないか?一本ほ、欲しいんだが」
「傘ですか。隊長のせいで、売れなくなっとるんで、在庫はあるっちゃありますが」
そう、隊長のせいで売れなくなった。けどちゃんと相合傘で元以上のものを取ったと思っている。
「そそそうか。なら、出来ればでいいんだが、ほんご……なんでもないっ!普通のでいいから一本くれ!」
こんなに分かりやすいのも珍しい。いや、接点の少ない真桜が知らないだけで、春蘭はものすごい分かりやすい人物なのだが。
「ははーん。春蘭様もオナゴっちゅーことやね。せや、これならどや?隊長も可愛いって褒めてた柄やで」
「ほ、北郷は関係ないだろ!う、うむだが、可愛いな、それ。よしそれを買おう!いくらだ?」
こんなに良い笑顔をされたらお金をもらえない。けど、何かは貰わないと。
「タダでいいですわ。けど、隊長がどんな反応をしたか、ちゃんと教えてくださいな」
「そうか。すまんな、って北郷は関係ないって言っただろうが!」
こうして傘を手に入れた春蘭は満面の笑みで部屋から出て行った。


「よし、良い天気だっ!」
春蘭が大きな声で叫ぶ。周囲にいた人達はぎょっとする。
春蘭の声の大きさもそうだが、なにより雨が降りそうな空模様を良い天気と言ったことにだ。
「そ、それで北郷はっと」
きょろきょろと周りを見渡す。と、
「いたぞ」
そして春蘭は作戦を実行すべく右手と右足を同時に出し、北郷の下へと向かった。
324 名前:raindrops(2/5)[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 00:59:14 ID:hL+jAI3E0
「おーい、北郷っ!」
誰かに呼ばれる。声の方を向くと春蘭が近づいてくるのが見えた。……かなり硬い動きで。
「春蘭か。どうした?」
「どうしたって何がだ?」
追いついて横に並んだ春蘭がありえないことを言い出す。
「いや、俺のことを呼んだろ?何か用があるんじゃないのか?」
「よ、用か。それはお前と……っ!用なんてあるか!」
……何だ。物凄く睨まれているんだが。まぁ良いか。いつのもことだし。
「なら暇か?暇なら一緒に街回ろうぜ。一人で退屈してたし」
「そそそそそうか。仕方ないな。付き合ってやる」
こうしてデートが始まる。


そしてその二人を見守る一対の瞳。
「あぁ、姉者。大事なことに気がついてないじゃないか」


なんだかんだで一緒に街を歩いていたら、春蘭の硬さも解けてきた。今はこの時間を満喫している。
しかしながら――
ポツッ
頭に何かが掠める。それは天から落ちる一滴。
「雨か、最近天気不安定だなぁ」
なんとなくぼやいた一言。その一言に隣にいた春蘭が想像以上の反応を示す。
「ああああ、あああ雨か」
どうしたんだ?さっきまで普段どおりに戻っていたのに、また硬くなってしまった。
「春蘭?大丈夫か?」
「ああ。いい天気だな」
……ヤバイかも知れないな。そう思いながら俺は持っていた傘を広げようとした。
325 名前:raindrops(3/5)[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 00:59:40 ID:hL+jAI3E0
少し先の服屋に華琳様に似合いそうな服が飾ってある。そこに向かうべく北郷に声を掛けようとした、が。
「雨か、最近天気不安定だなぁ」
……忘れてたーーーー!今日、私が何をしようとしていたのか!
北郷との時間が楽し……まぁ、それなりだったから忘れてた。しかしここで変な反応をしたら北郷に気が付かれてしまうかも知れない。
「ああああ、あああ雨か」
よし、成功したぞ。これなら北郷にばれないだろう。しかし問題はここからだ。ここから、どうやってアレをすればいいのか。
「――――」
北郷が何かを言ったが、考え事をしていた私には気がつかなかった。只、何となく受け答えをしたことは覚えているが。
そして、チラリと北郷の方を見ると、持っていた傘を広げている彼の姿が。
……何故だ!何故北郷が傘を持っているんだ!北郷が傘を持っていたらアレが。華琳様の時は持ってなくて、何で私のときだけ!


「ようやく気がついたか、姉者。しかし、混乱している姉者も可愛いな」
声の主は、もちろん秋蘭。春蘭がいつもと違う様子だったので、隠れてついてきた。
「ふむ。仕方ない。北郷、悪いな。これも姉者の笑顔のためだ」
出来る妹は姉が何をしたいのか、十二分に理解している。そのため彼女はそれの手伝いをするだけだ。
ギリギリッ――ュン
風切り音と共に放たれる何か。その何かは一直線に目標に向かっていく。そう北郷のほうへと。


春蘭も気になったが、目の前の脅威である雨の対策をすべく傘を広げる。
華琳と相合傘の件は楽しかったのだが、真桜を始めに色々な人から弄られた。
そのため最近では、危ないなと思ったら傘を持つようにしてる。今日も役に立ちそうだ。
バサッ
と広げたのと同時。傘を持っていた手に何か違和感を感じる。
そう、傘を広げたとき掛かる力とは異なる力を感じた。しかし、身体に痛みは無い。そっと傘を見る。
「はぁーーーーーーーーーーーーーーっ?」
またしても叫んじまった。傘には綺麗に二つの穴が開いていた。まるで何かが通り抜けたかのように。
何かの正体も気になるが、問題は傘だ。これじゃあ全く機能しない。嘆いている俺に横から声が掛かる。
326 名前:raindrops(4/5)[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 01:00:30 ID:hL+jAI3E0
目の前の映像がゆっくり動く。
北郷が傘を上に向けながら、少しずつ広げ始めた。
「――ま、待て」
彼女の声は青年に届かない。少し前まで溢れていた希望は絶望に変わっていく。
そして――
彼の傘が開ききった。のと同時にその傘を貫いた、何か。よく見慣れたようなものだった気がする。
しかし春蘭の頭はそれを追う事より、北郷の傘が使い物にならなくなった現実に占められる。
好機はここしかない。戦場で鍛えられたカンが彼女にそう告げた。


「ほ、北郷!」
大きな声で呼ばれる。なんだと、春蘭の方を向く。
「不幸だったな。それじゃあ、傘も使えないだろう。たまたま、たまたまだからな!私も傘を持っているんだ。
おま、お前がどうしても、と言うのなら、い、入れてやらんでもないぞ!」
満面の笑みでそう言い放つ。俺の不幸を笑っているのか?いや、別に理由があるようだ。
……相合傘を狙っていた?そんなまさか、な
一応春蘭の傘を確認する。その傘の柄は以前真桜に可愛いといった記憶がある柄。その時真桜はいざと言うときに使う、と言ってたっけ。
ちょっと、いやかなり嬉しいかもしれない。と、ここで自分の傘を見る。
そこには何かが通ったような穴が二つ。そう、まるで矢のようなものが。
春蘭は愛されているなと思いつつも、俺も皆の作戦に乗る。
「そうだな、俺もびしょぬれになりたくないし、一緒に入ってもいいか?」
「し、仕方ないな。だが、狭いからって変なところを触るなよ」
憎まれ口を叩かれたが、今日一番の笑顔だった。
そうして二人は一つの傘を共有し、ゆっくりと城へ向かう。
327 名前:raindrops(5/5)[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 01:00:54 ID:hL+jAI3E0
そんな彼らを見つめる二対の瞳。
「秋蘭。ご苦労様」
いきなり声を掛けられて思わず振り返る。
「華琳様。いつからここに?」
そこには主と決め、一生付いていくと心に誓った少女が。
「ついさっきよ。遠目に春蘭と一刀が見えたから、観察してたの。そしたらどっかの誰かが、街中にも関わらず矢を放っててね」
「申し訳ございません」
「いいのよ、別に。春蘭も幸せそうだしね。それより、秋蘭。はい」
華琳の手にあったのは二本の傘。おそらく自分のと、秋蘭のものだろう。
「自分の傘を忘れるなんて、ほんと春蘭のことになると冷静さに欠くんだから」
「申し訳ございません」
同じ言葉を繰り返す秋蘭。ふふっと笑う華琳。
「秋蘭、私達も一緒の傘に入る?」
「そんな、恐れ多い。それに華琳様の傘に入れるのは一人だけでしょう」
「……そうね。あいつはそんなこと考えてないようだけど」
二人もゆっくりと城へと向かう。一つの傘を共有している二人を見守るように。
328 名前:思春曰く、[sage] 投稿日:2010/07/04(日) 01:02:42 ID:hL+jAI3E0
以上。
姉者は可愛いな。
きっと悩んでいたときは「しゅらーん」て言ってたんだろうな。

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