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270 名前:春蘭曰く、[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:44:11 ID:Oq7UAJ6c0
雨。ただそれだけ。
凪……と思いきや華琳。
おそらく五つ。
271 名前:雨(1/5)[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:45:34 ID:Oq7UAJ6c0
――ザー
「ふぅ。ギリギリ……アウトだったなぁ」
「あうと、ですか?それより隊長。早く身体を拭かないと冷えてしまいます」
どうぞ。とまだ自分は濡れ鼠なのに俺へタオルを渡してくる凪。
全く……。苦笑いで凪から受け取る。そして
「あっ、わっ!た、隊長、私のことはいいですから、ご自分のお体を……」
ごしごしと凪の頭を拭いてあげる。凪って強い印象があるけど、横に立つとやっぱり小さい女の子だよなぁ。
「俺には俺の体より、凪の身体のほうが大切なんだよ」
「……っ!」
顔を真っ赤にしてなすがままにされた凪だった。


さて、おおよそは理解しているであろうが、説明をしよう。
俺と凪は警邏隊を率い街を巡回していた。そして今日も何事もなく終わる。
で、警邏隊を副将に任せ、二人で城へと向かっていた。……のだが。
まさかのゲリラ豪雨。城が見えて後少し、と思っていたら後ろから雨が近づいてきた。
皆は雨に追われたことがあるか?雨って結構はやいのよ。
多分、凪一人だったら大丈夫だったんだろうな。けど凪は俺と同じ速度で走る。
「凪!俺のことを気にせずに行けぇぇぇぇぇえええぇえぇぇえ!」
「隊長!私には、私にはそんなこと出来ませんっ!私は隊長に何処までもついていくと決めたんです!」
「凪……ありがと」
「ぃぇ」
なんて三文芝居をしていたのも悪かったのだろう。走る速度が落ちる。結果最後の最後で雨に当てられた。
で、二人で、びしょびしょになりながらタオルを探しはじめた。そして文頭に戻るわけだ。
272 名前:雨(2/5)[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:46:42 ID:Oq7UAJ6c0
「しっかし」
髪をごしごし拭きながら呟く。横からは同じく髪を拭いている凪が?といった表情。
ある程度拭き終えたら凪はもう一枚タオルを探して俺に渡してきた。結構楽しかったのになぁ。
「向こうだったら、コンビニに傘が売っていたからここまで困らなかったんだけどな」
前の世界ではそれなりに歩けばコンビニに当たるような時代だったし、折りたたみ傘も普及していたから、よほどのとき以外はそれほど困った印象は無い。
「こんびに?かさ?」
またしても知らない言葉が出てきたのか、凪が繰り返す……って傘も知らないのか?
「えーと、凪。傘ってしらない?」
「いえ、知ってはいるのですが、あれと雨が一致しないので」
聞いてみると、この世界での傘は主に儀式用や日傘のようなものらしい。雨傘として使われてはいないようだ。
「なるほど。ちょっと真桜と話してみるか。有った方が便利だもんな」
その後、俺は真桜に話をし、開発、製造。爆発的な大ヒットとなる。


「驚いた」
なにが驚いたって?それは傘のヒット。需要はあると分かっていたが、ここまでとは。
周りをみると、曇りの日なのに持って歩いている人が多いこと。
新しいもの好きなのと、色々なデザインを作ったことでファッションの一つとして認知されたようだ。
「やっぱり、どんな時代でも可愛くとか、かっこよく見られたいよなぁ」
ぼやきながら街を歩く。と何か嫌な予感。
「はぁあ?」
またしても雨が後ろからやってきた。ふっ、ここで慌てる俺じゃない。傘買うか。
『大盛況により売り切れ御免。入荷は未定となっております』
「ちょーーーーーーーーーーーーーーっ」
思わず叫んじまった。周りを見ると雑貨屋の全てに同じような立て札が。売れすぎにも困ったものだ。ってそんな余裕無いし。
273 名前:雨(3/5)[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:47:55 ID:Oq7UAJ6c0
走り抜ける。ただひたすらに走り抜ける。が、やはり雨は早かった。徐々に雨が近づいてくる。
「やべぇ。このままじゃ追いつかれる!ん、アレは!おーい」
俺が走る方向。何か見慣れた後姿。しかし護衛の一人おろか、双子や軍師がいないとは。
俺の声に気がついたのか、可愛らしい背中の持ち主が振り返る。
「あら、一刀じゃない。貴方も街に来ていたの?……って雨ね」
バサッっと目の前に広がる鳳凰の絵。おしゃれな華琳が、やはり持っていた傘を開いたようだ。……鳳凰ですか。
「丁度良かった!華琳入れてくれ。俺傘持ってないんだ」
「ちょ、一刀やめなさい。せまいじゃない」
「いいじゃん、いいじゃん。ほれ、俺が持つから傘を貸してくれ」
「ふぅ、好きにしなさい。けど私を雨に当てたら殺すわよ」
……入る相手を間違えたかもしれない。


――ザー
雨はやむ様子を見せない。俺と華琳は一つの傘でゆっくりを城に向かう。
いつもならもう少し速いのだが、二人で傘を共有しているせいか、はたまた慣れていないせいか、華琳の速度が上がらない。
結果、お子ちゃまにも抜かれるような速度で歩く二人。
この世界の人はいくら傘が普及したとはいえ、未だ雨になると外出をひかえるらしい。街道には余り人影が無い。
「なぁ、どっかで雨宿りしていくか?」
ゆっくり歩く華琳に問いかける。わざわざ無理に歩く必要も無い。って俺雨宿りすれば良かったんじゃね?
「嫌よ。これから城で仕事があるの。あまり時間が取れないのよ」
何故か硬い表情で前を向いたまま答える華琳。ならもう少し速く歩いた方がいいんじゃないか。
が、そんなことを言えない。華琳が有無を言わせない雰囲気を出しているし、何より気がつけば相合傘の状態。
こんな美味しい場面を自ら壊そうとは思わない。俺もゆっくり歩いて、この柔らかい時間を満喫する。
……柔らかい?
274 名前:雨(4/5)[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:48:59 ID:Oq7UAJ6c0
「あっ、ごめん」
気がついたら肩と肩が触れていた。少し距離を取ろうとする。
「べ、別にいいわよ。傘の中は狭いんだし、当たるのは仕方ないでしょ」
またしても前を向いたまま。それに何か言葉に切れが無い。
「もしかして華琳、緊張してる?」
「バッ、そんなこと無いわよ。たかが貴方と一緒の傘に入ったくらいで」
……はい、正解。華琳緊張してるわ。ちょっと嬉しいかも。
「なによ、その顔。ムカつくわね。……そうね、もしかしたら緊張していたかも知れないわね。だったら普通の私に戻りますか」
そういいながら、何を思ったか傘を持っている俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
ヤバイ、腕全体に、主にひじ辺りが特に、柔らかい。しかも近づいたせいか、いい匂いもしてくる。
「もしかして一刀、緊張してるの?」
やはり一生、華琳に勝てる気がしない。


「ご苦労様。全く、こんなにギリギリになるとは思わなかったわ」
やっとのことで城に着いたのだが、先ほど言っていた予定の時間が近いのか、そんな愚痴を言う華琳。しかし顔には笑顔。
自惚れかもしれないが、華琳も俺との相合傘の時間を満喫してたのだろう。
「それじゃあ、貴方も仕事に励みなさい。それと一刀」
仕事に向かうのだろう、俺に背中を向けたまま俺を呼ぶ華琳。
「私といるときぐらいは気を使わなくてもいいわよ。早く服を乾かすことね。あと、ありがと」
ばれてたか。華琳と反対側の肩から先がびしょぬれの俺。まぁ、男として当然のことをしたまでなんだけどな。
……もしかして腕を組んできたのも、俺が傘に入れる面積を広くするためだったのかもしれないな。
「いえいえ、お姫様を守るのが、俺の役目だからね」
「……バカ」
275 名前:雨(5/5)[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:49:38 ID:Oq7UAJ6c0
後日談
「隊長、ちょーと来ぃ」
華琳と相合傘をした日から数日後。俺は笑顔の真桜に呼び止められる。うん、笑顔だ。
「どした、真桜。俺、忙しいんだけど」
嘘。が、きっと今の真桜の傍にいてはいけない。
「隊長のせいやからな!せっかくウチが傘の専売特許をとってたちゅうのに、最近売り上げ落ちてんよ」
「そうか、それは残念だな。けどなんで俺のせいなんだ?」
「わからんかぁ、自分の胸に手ぇ当てて考えてみぃ」
うーん、さっぱり分からん。
「隊長が大将とあんな、いちゃいちゃする傘の使い方するせいで、皆真似しようとして傘を買わなくなったんや!」
……は?もしかして、皆相合傘をしたいんだけど、傘を持ってると一緒に入る口実が無いから傘を買わない、それで良いのか?
「えーと、すまん」
「すまんで済んだら警邏は要らんっちゅーねん。せやから隊長はウチに償いをしないといかんのや。
大丈夫さかい、簡単なもんにしといたから」
果てしなく嫌な予感。
「隊長、ウチと、大将と一緒にやってたの今からするでー!」
あぁ、太陽がまぶしいぜ。
276 名前:春蘭曰く、[sage] 投稿日:2010/07/02(金) 01:51:03 ID:Oq7UAJ6c0
以上。
wikipediaの知識だから間違ってたらごめんね。
え?星が傘を使っている特典があった?
……またね。

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