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628 名前:大喬曰く、[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:30:28 ID:N5Gye0Qw0
べったべた。
璃々ちゃん。
三つ。
629 名前:(1/3)[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:31:02 ID:N5Gye0Qw0
「ご主人様、ここはどうすればいいの?」
「えーと、ここはね……ちょっと待ってね。ここが、こうなって、でここがこうか。分かった!多分こうやるんだよ」
「ありがとー」
そう言いながら璃々ちゃんは目の前の物に向きなおす。一心不乱に集中している姿を見ると可愛らしさと絆の強さが感じられる。

さてさて俺と璃々ちゃんが二人きりで何をしているかというと……硬くて長いものを抜いたり刺したりしてます、針だよ。
そう、璃々ちゃんが刺繍をしているのだ。正確にはぬいぐるみを作っている。
切欠は、俺。新緑輝かしきと言うに相応しい季節。城の庭にも緑が栄え始めた。
そしてふと思い出したのは向こうの世界。そういえば、と。この季節は確か母の日だったか。
ぼー、と考えていたからかいつの間にか口に出していたらしい。一緒に日向ぼっこをしていた璃々ちゃんの耳に入ったようだ。
「ご主人様、母の日ってなーに?」
丁度紫苑は朱里に呼ばれて席を外している。
「えーと、俺の世界にあった風習なんだけど、この時期に母親に感謝の気持ちを込めて贈り物をするんだ」
「ご主人様!璃々もお母さんに何か贈り物したい!いつもありがとーって」
「そっか、じゃあ俺も手伝うよ。璃々ちゃんは紫苑に何を渡したい?」
「んーとね。出来れば璃々が作ってあげたい」
「よし、じゃあ二人でがんばろー」
「おー」

そして二人で市に行ったときにたまたま売っていたぬいぐるみを見て璃々ちゃんが一目惚れ。作るー!とのこと。
俺としては簡単なものが良かったんだが、璃々ちゃんのやる気に水を指すのはと思い、結局ぬいぐるみ用の材料を集めた。
630 名前:(2/3)[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:31:27 ID:N5Gye0Qw0
材料を集めたときは笑顔。布を切って縫い始めたら集中した顔。
やはり璃々ちゃんは紫苑のことが大好きなようだ。しかし……
「むー」
集中力が途切れてきたのか、それとも。少しずつ璃々ちゃんの顔には苦さが混じってきた。
俺の手助けも高が知れており、殆ど相談レベル、戦力にもなっていない。
だんだん俺に尋ねてくる頻度も少なくなってきて、頭も下を向き始めた。
「……っ。……ぇ」
璃々ちゃんが何か呟いた。分からないのかなと思い手元を見る。すると……。
針は動いておらず、小さな手は真っ白になりながら布を握り締めている。僅かに震えてもいるようだ。そしてポツリと滴り落ちた何か。
「なんで。どうして」
小さいながらも聞こえた璃々ちゃんの声。普段の明るい璃々ちゃんからは想像できない悲痛さ。
「どうして上手く出来ないのっ!これじゃあお母さん喜んでくれないよ……」
紫苑への強い思いゆえか。市場で既製品を見たのも拙かったのかもしれない。
璃々ちゃんの理想と現実が上手くかみ合わない。紫苑に上手に出来た物をあげたいのに自分が生み出しているのは不恰好なもの。
俺からすれば、初めてとしては上出来。年齢を考慮しても中々なのだが満足できないらしい。
「もういやっ!」
自分への憤りか手に持っていた物を机の上に投げてしまう。しかし紫苑への気持ちも捨てられないのか席は立てない。
そんな璃々ちゃんを見て愛おしく思う。大切なお母さんのために頑張る。けど出来ない。その愚直なまでな愛情。
ただ、そうただちょっとだけ方向を間違えてしまっただけだ。だったら俺はそれを正そう。
「璃々ちゃん」
呼んでみるが、璃々ちゃんは頭を上げずイヤイヤと振る。仕方ない。
「璃々ちゃん。そのままでいいから聞いて」
頭を撫でながら続ける。
「まずはゴメンね。俺は璃々ちゃんの何にも役に立たなかったね」
首をフルフル。ちょっと嬉しい。
「ありがと。俺は横で見てたけど、璃々ちゃんは凄く頑張っているのを分かったよ。璃々ちゃんは何が悲しくて泣いてるの?」
「だ、だって、お母さんに、ひっ、あげ、たいのにっ、上手く出来なくて、んっ、こんなのあげても、お母さんはぁ、喜んでくれないよ……」
言葉にしたことで自覚したのか涙が止まらなくなってしまった璃々ちゃん。両手でぐしぐしと目を擦っている。
631 名前:(3/3)[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:31:51 ID:N5Gye0Qw0
――ちらっ
部屋に置いてある姿見に一瞬何かが映る。さすがと言うべきか。
「そっか、璃々ちゃんは綺麗に出来なくて悔しかったんだね」
コクッ。
「だけど璃々ちゃん。それは違うよ。璃々ちゃんは何でぬいぐるみを作っているんだっけ?」
「おか、お母さんに、ありがとって言うため……」
「だよね。きっとね、紫苑に璃々ちゃんのありがとうを一番伝えるのって見栄えじゃないよ。
璃々ちゃんが、紫苑への気持ちを一杯に込めた物をあげることが、紫苑にとって一番だと思うんだ。
横で見てたけど、璃々ちゃんの紫苑のために、って言う気持ちすっごい感じてたよ。紫苑もそうだろ?」
「そうですわ。これ、璃々が作ってくれたの?ありがとね、璃々の気持ちを凄く感じて嬉しいわ」
いつの間にか俺の横に立っていた紫苑が、机の上に璃々ちゃんが投げてしまった、作り中のぬいぐるみを持って答える。
先ほど姿見に映ったのは紫苑の姿。タイミングを見て部屋の中に入ってきたのだろう。
「お、おかあさん。おかあさーん!」
紫苑の暖かい声に振り返った璃々ちゃんは、椅子から飛び降りて紫苑に抱きつく。
「ごめんね、ごめんね。上手く作りたかったんだけど、上手く出来なくて……」
「璃々、いいのよ。ご主人様も言ってたでしょう。私には璃々が私のために作ってくれたことが一番嬉しいわ」
「ありがとう。……お、お母さん、あの、ね」
「どうしたの?」
「やっぱり、お母さんに、綺麗なの作りたいから一緒に作ろ」
「ええ、ありがとう、璃々」
「えへへー」
俺は抱き合う二人を見ながら、紫苑と璃々ちゃんの絆の深さを再確認した。

その日、出来たぬいぐるみは二つ。
一つは不恰好ながら丁寧な作りの子猫。そしてもう一つはその子猫を見守るかの如く、愛情と優しさが溢れている親猫だった。
632 名前:大喬曰く、[sage] 投稿日:2010/05/08(土) 23:32:24 ID:N5Gye0Qw0
以上。
もう一個考えたけど、また明日。
では

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