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189 名前:新山 ◆oB.MaXrQTY [sage] 投稿日:2010/04/02(金) 19:34:45 ID:u5ob3/BA0
「黄 弐」を投稿しました。
この長編は久しぶりですね。いきなり私の脳内にロリ華琳なんか降ってくるから…。
実はロリ華琳の方が書いてて楽しかったですがwではまた。

設定として……
魏ルートの終了後に生まれた外史の物語と考えてください。
そのため記憶はありませんが、魏軍の人たちは一刀君に何かを感じております。
またその親近感ですが、華琳のように魏ルートを全て覚えている人や余り感じていない人など千差万別です。
オリキャラ、チートキャラを出す予定はありません。名前だけ使用、モブとして登場ならあるかもしれませんが。
おまけを載せている話がありますが、近しい設定の、違う外史の物語であり、本編には関係がありません。

注意として……
なるべくキャラクター像は原作に忠実にいきたいと思います。
ですが書いていくうちに変化があったりすると思いますのでご了承下さい。
あと執筆、話共にテンポがだだ遅いです。
また未熟者ゆえ不定期連載。かつ読み辛いなど読者方々にご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。


以上のことを確認の上、時間が空いてしまったとか、他にやることないよって方はどうぞご覧下さい。

URL:http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0514

べ、別に話を忘れたわけないよ?まとめ読み直してなんかないよ?プロット何回も確認してないよ?
自分は忙しくなると他の事(例えば執筆作業など)をやりたくなる模様です。
これは純粋にMなのか、自分に対してドSなのか、それが問題だ。

ここからまとめ不要です。
疲れてたのかメール欄に名前打ってましたorzコテを晒すところでしたw



黄 弐 −アチシ白蓮っち。お前……げげごぼうおぇっ−

「へぇ結構活気に溢れているね」
 俺達四人は公孫賛の本拠地にやってきた。季衣達のような村ばかりを回っていたからか久々の町に少々面食らう。
「白蓮ちゃんはね、何でもそつなくこなせるし、優しいからこんなに賑わっているんだと思うよ」
とは桃香の談。なるほど確かに治安も悪くなさそうだし公孫賛は優秀な人なのかも知れない。
「ご主人様、この後はどうなさいますか?いくら桃香様が同門とはいえ、いきなり公孫賛殿の下へ向かっても相手にされますまい」
「俺に一つ考えがあるんだ。公孫賛さんと会えれば俺らの勝ちだ。だからまず……」
「あれ?白蓮ちゃんだ。おーい」
 桃香、今大事な話をしようとしているから、たまたま居た昔馴染が懐かしいからって……白蓮ちゃん?
白蓮って確か公孫賛の真名だよな。桃香もそう呼んでいたし。慌てて桃香が向いているほうを見るとこちらに近づいてくる女性が。
「やっぱり桃香じゃないか。久しぶりだなー、この町になんか用でもあったのか?」
「久しぶりー。うん、ちょっと白蓮ちゃんに会いたくって。白蓮ちゃんは何してるの?太守さんが市に居るなんて珍しいよね」
「あぁ、書類や部下の報告じゃ分からないことがどうしても出来るから、時間があったらなるべく市井に来るようにしてるんだ。
最近じゃ黄巾党って変な集団の噂も絶えないしな。それより私に用?もし長くなりそうなら城に来るか?席なら設けるが」
 桃香とそれに釣られる様にこちらを向いた公孫賛と思われる少女。願ったり叶ったりの状況らしい。
「俺は今桃香達と一緒に旅をしている北郷一刀と言います。大事な話だから出来ればその提案に甘えたいんだけど良いかい?」
「私はここの太守をしている公孫伯珪だ。用件は何となく見当は付くが……じゃあ一緒に来てくれ」
 苦笑いを浮かべながら先導をしてくれる。
「ところでご主人様。先ほど公孫賛殿に会う計画を話している途中でしたが一体何をなさるつもりだったのですか?」
言えない。俺が桃香を助手に未来仕込みの簡単な手品をやって目を付けて貰うつもりだったなんて。
 実は自信満々に答えていたけど、かなり行き当たりばったりでした、はい。


「それで桃香はある程度知っているから良いとして、他の三人は何が得意なんだ?」
 正式に、とのことで玉座の間に通された俺達に投げかけられた第一声。やはり公孫賛は優秀らしい。それとも俺達が露骨すぎたのか。
「我が名は関羽、字は雲長。青龍刀の扱いには少々覚えがあります」
「鈴々はね、張飛っていうんだよ。愛紗より強いのだ」
 愛紗と鈴々が自己紹介を終える。次は俺の番か。……はて?俺が得意なものって何だ。
武芸は二人の手前得意と言えないし、政もしたことが無い。それ以前に喋れてはいるが読み書きは出来るのか?
「白蓮ちゃん、ご主人様はね天の御使い様なんだよー。私達の夢を真摯に聞いてくれたし、すっごくいい人なんだ♪」
「ほぉ、最近天の御使いと称する者達が旅をしているって噂を聞いていたが桃香達のことだったのか。で、その天の御使いさんは何が出来るんだ?」
 言っても良いのだろうか、俺がおそらくこの先に起きるであろうことを知っていることを。
いや、戦争は情報と言う。だったら無駄に脅威を与えないほうが良いだろう。ある程度暈して言うか。


「えっと理解はし難いとは思うけど、俺は違う世界から来たと考えて貰って良い。桃香が天って言っている場所ね。
だから君達が知らない知識をある程度持っているし、政策に対してもそっちでの経験が活かせるかもしれない。
ただ……今言った様に違う世界から来たから、こっちの常識は余り知らない。そこには目を瞑って欲しい」
「それが本当なら確かに強みだな。分かった、桃香と……えぇっと、北郷だっけ?には政務を手伝ってもらおう。
でそっちの二人だが、一応強さを見させて貰う。どうするかな……」
「おや伯珪殿、ずいぶんと早い巡回でしたな。……客人でしたか、これは失礼」
「星か、ちょうどいい。ちょっとこっちに来てくれないか。この二人の力量を測りたいんだ」
「二人の立ち振る舞いを見る限り相当の腕と見受けしますが……おや、おぬしは」
 公孫賛が此方を覗いていた人に声をかける。ん……星?どっかで聞いた名だ。
「あーーーーーーーーーーーーー!!!」
「前回はいきなり真名を、今回は悲鳴と指差しとは呆れて物も言えないですぞ」
 振り返った先に居たのは、あの藍槍の少女。
「ご主人様、この者と顔見知りなのですか?」
「あぁ君達と会う前に盗賊に襲われたんだけど、そのとき助けてくれた人だよ」
「それだけ〜?なんかあの子呆れているけど。真名がなんとかって言ってたし」
「……実は此処に来たばかりで真名のことを知らなくてね、いきなり呼んでしまったんだ」
「そういえばお兄ちゃん、初めて会ったとき真名呼んで殺されかけたって言ってたのだ」
 はい、それです。一緒に居た程立と戯志才は何も言わなかったから只の名前だと思ってたんだもん。
「この間はごめん。前も言ったけど真名が大切なものだと知らなかったし、今もまさか再会出来るとは思ってもいなくて……
俺の名前は北郷一刀、君の名前は?」
「私の名は趙雲。今は訳があり伯珪殿の下、武を磨いている」
「趙雲!!もしかしてあの常山の昇り龍、趙子龍かい?」
 思わず字で呼んでしまったと思うがすでに遅し。公孫賛と趙雲と名乗った少女は驚きと疑いの目で俺を見ている。


「もしや天とは……まさか、な。そんなわけあるか、後世から来るだなんて。もしそうならば……んー」
 もしかしたら公孫賛は気が付いたか?若干違うとはいえ未来から来た、と。
まぁなるようになるさ。公孫賛も悪用するような人間に見えないし、口も堅そうだ。
「どうしてお主は通り名はともかく、私の字を知っているのだ。それに伯珪殿のその反応。何か理由がお有りなのか?」
「あぁ彼……北郷は天からの御使いらしくてな。私達の知らない知識を持っているらしい。逆にここの知識は余り無いと言ってたが」
「なるほど、そのような理由が。ただの礼儀知らずの御仁かと思えばいやはや。ではいきなり私の真名を呼んだのもそれで?」
「うん、この世界に来て初めて会ったのが盗賊と君達だったからね。程立達は真名について何も言ってなかったし。
そうだ趙雲。ありがとう。君のおかげで俺は此処に居る。それなのに失礼な真似をしてすまなかった」
「北郷殿、そのことは水に流しましょう。何回も謝罪も受けましたし、
そのような理由があったと考えを回さず、頭ごなしに拒絶した私にも落ち度がある」
 随分と潔いと言うか爽やかと言うか……。確かにこの人はあの趙雲、その人なのかもしれない。声に出さずにもう一度感謝をする。
「それで鈴々達はどうすればいいのー?」
 飽きてきたのだろう。鈴々はあからさまに面倒くさそうな声で公孫賛に問いかける。
「星もああ言っているし大丈夫だろう。お前達は将として働いて貰おう。
いきなりだが一週間後に黄巾党の退治をするつもりだ。よろしく頼む。今侍女に部屋を用意させるから星、この城を案内してくれないか?」
「私は伯珪殿の部下ではなのですが……まぁいいでしょう。私も彼女等、特に天の御使い殿に興味があるゆえ。では皆こちらへ」
 趙雲の後についていき玉座の間を出る。そういえばと、
「趙雲、聞きたいんだけど程立と戯志才の二人もここにいるのかい?」
「いえ、二人はまだ旅を続けていると思いますぞ。私は路銀が無くなってしまったためここにいるので。
また時期になったら旅をしたいと思っております。たった一度の人生。我が主と思える人に仕えたいと思いますゆえ」
 かっこいい事言ってる気がするが貧乏だからここにいるってことだよな。まぁ人のことを言えないが……。
「白蓮ちゃんには仕えたいと思えないの?」
「伯珪殿もよい人柄だとは思いますが精々州牧程度の器かと。我が主とするなら少々、な。さてさてそなた等は何処まで行かれる方やら」
 趙雲はふふふ、と独特の笑みを浮かべながら桃香、いや俺を見ている。


「ところで公孫賛殿が言っていた黄巾党とはどれぐらいの勢力なのだ?」
 真面目な愛紗はお仕事よろしく趙雲に尋ねる。
「まったく、余裕の無い女はすぐに飽きられてしまうぞ。北郷殿もそうであろう?」
 何故それを俺に聞く……。趙雲の不敵な笑みと愛紗の鋭い視線。
「愛紗のは余裕が無いんじゃなくて真面目なんだと思うよ。そこが愛紗の良い所だしね、俺は好きだよ」
 んなっと照れる愛紗、おやおやと驚いた顔をする趙雲、私はー?鈴々はー?とうるさい二人。……俺にどうしろと。
「んっんんっ、で趙雲殿どうなのだ?」
 照れ隠しの咳払いと共にもう一度尋ねる愛紗。チラッと頬を染めこちらを見たのは気のせいか。
「そうだな、一言で言うと数だけと言ったところか。いかんせん農家の次男坊などの集団だ、数を使いこなしていない。
ただ数は暴力でもある。たちが悪いのも確かだ」
 確かに。兵量で上回るのは兵法の基礎だ。俺でも知っている。
「では今度退治に行くと言っていた黄巾党と公孫賛殿の軍ではどれぐらいの差が?」
「そうだな、およそ倍と言ったところか」
 不敵に笑う趙雲。厳しいな……と思っていたのだが、
「じゃあ簡単そうだね愛紗ちゃん♪そんなに兵士さんいるし、愛紗ちゃんに鈴々ちゃん、それに趙雲さんが居るんだもん」
 ……あぁ……。
「そうですな、この状況下でそれだけ集められたことは僥倖でしょう。伯珪殿の善政と人徳と言ったところか。
それに獅子に導かれた猫と猪の集団では猫が勝つのが自明の理。劉備殿の言うとおり何を恐れることがあるか」
 ふぇ?って顔をしている桃香に耳打ちをする。
「あのね、公孫賛さんの軍は黄巾党の半分しか居ないって意味で趙雲は言ったんだ」
「えっ、えーーーーー!じゃあ……」
「その先を言うのは無粋ですぞ劉備殿。そうだ丁度良い。今は訓練の時間だ。見学にこられるか?」
「そうだな、まずは己の戦力を知っておくのが良いだろう。趙雲殿、よろしく頼む」
「鈴々もそろそろ体を動かしたいのだー」
 鈴々からしたら自分が入れない話題ばかりでつまらなかったのだろう。腕をぶんぶん振り回している。


「はっ、はっ!」
 一糸乱れずに動く兵達。公孫賛の軍は良く訓練をされているらしい。今まで見てきた黄巾党や賊とは全く異なる。
趙雲は隊長らしき者に手を挙げ此方の存在を示す。
「さて、いかが見るかな関羽殿に張飛殿」
「うむ、良く訓練をされているな。それに個々がこの国を背負っていると言う自負を持っている」
横で鈴々もウンウン頷いている。
「そうか……ならばっ」
横から空気の切れる音と金属同士が激しくぶつかる音。隣に居た趙雲が愛紗に向けて槍をなぎ払っていた
「いきなり何をする!」
 攻撃を防いだのはさすがというべきか。攻撃を防がれた趙雲は跳躍し間合いを取る。
それを見て愛紗は俺等から離れた位置に、鈴々は守る位置に。
「ふん。いきなり来たならず者に大事な兵を任せられるものか」
 彼女独特の笑みを浮かべながら、そう口にした趙雲。気がつき周りを見てみると、休憩に入っていたのか殆どの兵が此方を見ていた。
「何を言い出す!先ほどは一緒に戦おうと言っていたではないか」
「そんなことを言ったつもりはないのだが。もし言っていたとしても今は乱世。すぐに相手を鵜呑みするのは阿呆のすることだ」
「きっ、貴様ぁっ!言うことに欠いてそんな戯言を!」
「御託は良い。私を、周りを認めさせたかったら、さっさと実力を示せ……ふっ」
 遠目から見ていたから分かるが、相対している者には急に目の前に来た、と思わせるほどの速さを乗せた突き。
それを愛紗は軽く往なす。だが往なすのみ。顔には怒りと戸惑いが出ている。
「私はご主人様と桃香様の大志の為に槍を振ると決めた。このような意味の無い決闘なぞに……」
「意味が無いだと。劉備殿はどこか抜けていると思っていたが臣下も抜けているのか。
ふむ、お主程度のものを重用しているとは、あの男も天の御使いと名乗っているがそれも疑わしいな」
 『天の御使い』と言う単語が出た途端、周囲がざわつき始めた。此処まで名は通っているらしい。
「私だけだから黙ってはいたが、ご主人様を愚弄するとは許せん!」
 横で「私は?」と呟いたのは聞こえなかった、うん。


 まぁこの桃香の様子から分かって貰えるとは思うが、こっちの三人は事に対し特に心配はしていない。鈴々なんか愛紗だけずるいのだと言う始末。
 趙雲が殺気を込めたのは始めの一撃のみ。いきなり襲われたことと、趙雲の態度の変化に戸惑った愛紗だけが気がつかなかった。
「ねぇ……ご主人様」
 桃香が何を言いたいのか分かる。趙雲の目的のことだろう。だから俺も答える。
「うん、そうだと思うよ」
 どんどん桃香が落ち込んでいく。どうしたんだ?
「……やっぱり私抜けているのかなぁ」
 そっち?むしろ、今それを聞く自体が抜けている証拠だと気がつかないのか!


「やれやれ、やっと本気になったか。全く手を煩わせる」
「何をぶつぶつ言っている。ご主人様を愚弄したことを後悔するがいい」
 俺でも余り見たことのない殺気を趙雲に向ける愛紗。青龍刀を構える。そして気合を入れ
「はっ」
 一気に間合いを詰め、一閃。しかし動作が大きかったためか軽く避けられる。
「随分と大味な攻撃をしてくる。そんなにがさつだと北郷殿に捨てられてしまうぞ」
「ご主人様は関係ないだろう!」
 勢いを上手く使い石突きで胴を狙う。それも後ろに跳躍して間合いを外される。
「ひょいひょい避けるな!お前も武人ならば掛かって来い」
「上手く状況や策を使い、無駄に消耗しないのも将の資質だと思うが。まぁそう言うのなら私も攻撃をさせて貰おうか」
 一瞬、趙雲の目に火が燈る。先ほどと同様の踏み込みと共に槍を横に薙ぎ払う。
「ふん、その速さはもう慣れた」
 反撃の機と見たのだろう愛紗は紙一重で趙雲の攻撃を避け、反らした上体の反動を使い突きを……
「んぐっ」
 気合とは違う愛紗の呻く声。
「咄嗟に飛ぶとは、なかなか」
 先ほどまで愛紗が居たところには変わるように趙雲のみが居り、愛紗は数メートル離れた位置に居た。


「えっと……どういうこと?」
 横に居た桃香にはちゃんと見れなかったらしい。まぁ俺もだけど……。ぶーたれた顔の鈴々に訊ねる。
「白いおねーちゃんの攻撃を避けて、愛紗が攻撃をしようとしたんだけど、攻撃される前に踏み込んで愛紗を掌底で吹っ飛ばしたんだよ。
やっぱりあのおねーちゃん強かったのだ。愛紗ばっかりずるいのだ!おーい愛紗!鈴々と交代するかー?」
「煩い!鈴々はご主人様と桃香様の傍にいろ」
「ふむ、すぐにそれほどの大声を出せるとは……。手ごたえからして痛手を与えられなかったと思ってはいたが」
「ふぅー。すまない趙雲殿、少し頭に血がのぼっていた様だ。ご主人様を侮辱したのは許せないが、平時の気で相手しないと失礼だったな」
「おやおや、私の思い違いだったか。てっきりお主は感情の変化で能力も上下すると思っていたのだが。
今の方が清清しく良い空気を纏っている。私も純粋に打ち合いをしたくなってきましたぞ」
 綺麗に一撃を貰ったことで冷静になれたのか、愛紗は張りすぎていたものが抜け、良い雰囲気になっている。
そのためか、趙雲の真意にも気がついたらしい。すでに笑みを浮かべている。
「ならば純粋に仕合うか。お主のような技の使い手は初めてだ。私も楽しませてもらうぞ」
 お互いに相手を認めた笑みを浮かべ武器を構える。
「いざ、参らん」


 物事には一つ共通することがある。どんなものでも、ある域に達するとそれは芸術品の様な美しさを醸し出す。
 そして目の前の光景もすでにその域だ。俺が居た世界でも名を轟かせていた二人の立ち回り。
 先ほどまでとは違い愛紗から痛々しい空気が発せられていないためか、周りの兵たちもそれこそ舞を見ているような雰囲気がある。
すでに何十合も槍をあわせ、二人には最初のような切れは見られない。しかしそれでさえも神々しさは損なわれていない。
 この舞はいつになったら終わるのか。もしや二人の事が切れた時がその瞬間かもしれない。誰もがそう思っていたとき、
「おいーっ、星!自分でわざわざ戦わなくても分かるって言っていたのに何してんだ!
ったく誰も桃香達を見かけたって話をしてなかったから探してみたら」
 その場の雰囲気を一瞬にして収束させたのはこの城の主、公孫賛だった。
話しかけられた趙雲も、相手をしていた愛紗も気が削がれたのだろう、打ち合いを終えていた。
「伯珪殿の空気の読めなさには敵いませんな。関羽殿、今日は此処までにしておこうではないか。
先ほどの貴女の主への非に対する謝罪の意も込め私の真名を預けよう。私は趙子龍、真名を星と言う。宜しく頼む」
「ふむ、私もお主ほどの使い手を久々に見た。内に秘めた思いの向かう先も同じであろう。
私は関雲長、真名は愛紗だ。ありがたく預からせていただく」
「なぁ桃香……私話しかけたら不味かったのか?」
 周りの兵には舞に対する賞賛と、終わってしまったことへの落胆が顔に出ている。
「うーん、白蓮ちゃんらしいと思うよ」


「愛紗も趙雲もお疲れ様。怪我は無いかい?」
俺達の場所に戻ってきた二人に話しかける。
「はい、大丈夫です。しかし三人とも気が付いていたのですね。私だけが……」
「愛紗は単純なのだ」
 本当は鈴々に反論をしたいのだろうが、先ほどの自分を思い出し素直に聞いている。
「それにしてもおねーちゃん強かったのだ。今度は鈴々と戦おうねー。鈴々は愛紗より強いから覚悟するのだ」
「ふむ、また後日と言うことにしておこう。流石に体力を使いすぎたようでな。
それよりお主からも愛紗と同じものを感じる。これからは真名を使ってくれ。知っていると思うが趙子龍、星だ」
「分かったのだ。鈴々は鈴々って言うんだよ。今から仕合が楽しみなのだ!」
「あーっ!愛紗ちゃんと鈴々ちゃんだけずるいー。ねぇ趙雲さん、私も真名で呼んでね♪劉玄徳、桃香だよ」
「あい、分かり申した。桃香殿もどうぞ私の真名をお使い下さい。これから宜しく頼みますぞ、御三方」
「あ、れ?俺は?」
「なるほど、北郷殿は女の園に入りたいと言うわけですな」
 にやりと笑みを浮かべる趙雲。結構人をからかうのが好きなのかもしれない。
「違う!ただそういう流れだったからちょっと期待しただけ!」
「ははっ、冗談ですよ。それにそのことは水に流そうと申したではありませんか。ただ、一つ気になることがありましてな。
真名を預けるのは、それが解決した後でも遅くはないと思いまして」
「そうだね。俺が言うのもなんだけど、真名って迷いがある相手に預けるものではないと思う。
うん、じゃあ趙雲が何を気にしているか分からないけど、それが解決して俺に預けて良いと思えるようになる日を期待しておくよ」
「そうですな、明日になるか一生有得ぬか。期待せずに待っていてくだされ」


「ところで、星と愛……関羽は何で戦っていたんだ?」
 すっかり忘れ去られ、真名の交換会にも参加できなかった公孫賛が尋ねてくる。
「なに、伯珪殿が一週間後の賊退治で愛紗と鈴々を将として使うと申していたので、
手っ取り早く兵から信頼を得るために愛紗の力を顕示しただけですぞ」
 やはり趙雲は俺達が潤滑に公孫賛軍へ馴染めるよう一計を働かせてくれたらしい。
少しはつわものと戦いたいという気持ちもあったと思うが。
「最初に気が付かなかったのは恥ずかしい限りですが……。
 そういえば公孫賛殿、先ほど言い忘れておりましたが我が姉であり、主でもある桃香様と真名を交換しているお方だ。
どうぞ私のことも愛紗とお呼び下さい」
「そっ、そうか!だったら私のことも白蓮と呼んでくれ!桃香と一緒に旅をしているんだ、お人よしに違いない!
そっちにいる張飛と北郷も真名で良いからな!」
さっきの真名交換に参加できなかったのがよほど悔しかったのか満面の笑みで答える公孫賛改め白蓮。
「私と一緒に旅をしているからお人よしってどういう事かな、白蓮ちゃん♪」
桃香の目が怖い。
「いや、すまなかった。それで愛紗と鈴々は我が軍はどうだ?気になる点があれば言って欲しい」
「先ほど星にも申しましたが、皆気負い良い顔をしております。訓練も良くされており素晴らしい兵たちかと。
残念ながら私と鈴々は軍を率いた経験がないため、気になる点と言うものが良く見えませんが、明日以降訓練に参加をすれば何か見つかるかと」
「そうか、なら二人には歩兵がいいか。騎兵は星に任せるとして……作戦は後日伝えるが、宜しく頼む。
そうだ四人とも、部屋の用意が出来たらしいから今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう、ありがたく使わせて貰うよ。俺は部屋に行こうと思うけど皆はどうする?」
「うーん白蓮ちゃんが忙しそうでゆっくりお話出来なさそうだから私も部屋に行こうかな」
「私は訓練の様子が気になるのでもう少し此処で見ていこうと思います。お二人は気になさらずにゆっくりして下さい」
「鈴々もまだここに居るよ。愛紗はさっき星と戦ったから良いけど鈴々は動き足りないのだー。
誰か鈴々と戦うものは居ないかー」
 あんなに軽々と蛇矛を小さな子が扱っている。
きっと相手は見つからないだろうなと思いながら俺と桃香は侍女に案内され用意された部屋へと向かった。


 夕食も終えた俺達四人は俺に用意された部屋に集まっていた。
「お兄ちゃん凄かったのだ!」
 食事の時に出されたお酒を飲んで、少し頬を赤く染めた鈴々が寝台に寝転びながら叫ぶ。
「こら、鈴々はしたないぞ。しかしご主人様、あのようなことが出来るとは驚きでした」
「だよねー。白蓮ちゃんも星ちゃんも口を開けて驚いてたよ♪」
 何故俺が三人から喝采を受けているかと言うと、食事の時に手品をしたためだ。

# # #

 白蓮が昼間あそこで会えたのは運が良かったなと話してきたのだが、何故か愛紗が誇らしげに
「いえ、ご主人様には桃香様と白蓮殿を確実に引き合わせる秘策を持っていたので大丈夫と申しておりました」
なぞ言い放った。そして視線が俺に集まってくる気配。愛紗からは「さぁ!」といった笑顔。
はぁー、やるしかないのかな……。
「秘策とまではいかないけど、人が多いところで手品をしようかと……」
 手品?と訝しげな視線……。こうなるから黙っていたのに。
「えーと縄ってあるかな?これ位の」
 手を広げて長さを示す。
「ふむ、少々長いですがこれで良いでしょうか?」
 何処から取り出したのか星の手には縄が握られていた。受け取ると人肌の温かさ……。気にしたら負けなんだろうな。
 果物に添えてあった小刀を手にとって広い場所に移動する。そして一礼。
「いいか?本当は仕掛けをしないといけないから地味なのしか出来ないから期待はし過ぎないように」


 趙雲から貰った縄を首に巻き結ぶ。そして一気に引っ張ると……首は絞まらず、しゅるりと解ける。
さらに移動した際、皆から死角になるように端っこを少し切っておいたので、それを使いもう一つ。
白蓮に俺が持った縄を切って貰う。それを俺が空に投げると……一本のまま白蓮の手元に。
あとは、結び目を作ってそれを桃香に軽く握ってもらう。そしてそろそろーと引っ張ると結び目はなくピンと綺麗な縄が。
 動体視力がよさそうな趙雲たちだが、純粋に楽しんでくれたようだ。 ……うけてよかった。
いやー、学校で及川が「これで学祭のヒーローや」と読んでいたマジックの本を借りといてよかった。
芸は身を助くとは上手いことを言ったもんだ。昔の人?未来の人?分からないけどありがとう!

# # #

 まぁ回想は終わりにして何故夜中に女性三人が俺の部屋にいるかと言うと……。
「それで今後の方針だけど」
今後の方針についての話し合いをするためだ。色気がなくて悪かったな。
 三人の喝采がいい加減恥ずかしくなってきたので口を開く。
「愛紗と鈴々は軍事を体で覚える感じかな?訓練の仕方とか兵ではなく将としての戦い方とかを学んでいって欲しい。
俺と桃香はやっぱり政策を中心にだね」
 皆ウンウン頷いてくれる。
「若いときの辛労は買ってでもせよって言うし、これからの経験が俺達の基盤になると思う。だから毎日何か一つでも学ぶ気立てで」
 幸いにも俺はこちらの文章を読めるらしい。白蓮から借りた本は―時間はかかるが―内容は理解できた。
広い大陸だから若干言葉に違いがあるだろうけど、そのような本には共通語で書かれているものも多いらしく潰しがききそうだ。
 白蓮とは良くも悪くも持ちつ持たれつの関係を築こう。
「ふむ、でしたら北郷殿、愛紗と鈴々は私に任せてくだされ。将とは何たるかを教えようではないか」
 ここにいる三人とは異なる声がいきなり部屋に響く。慌てて声のしたほうを向くと、片手に杯を持って窓辺に座っている趙雲の姿が。
「内緒話はもっと緊張感を持って行った方が良いのでは?
鈴々の楽しげな声が聞こえてきたので、私に内緒で酒盛りをしているのかと期待してしまったではないですか」
 お酒を飲むのにも趙雲の許可が必要なんだろうか?
「別に内緒話ではないよ。経験を沢山積んで大陸に太平をもたらしたいねって話をしているだけだ」
「誰の手でしょうかね?まぁ酔っ払いの与太話は置いといて、愛紗も鈴々も将として磨けばかなりの器になると思われる。
二人のことは私に任せて頂こう」
「そうだね、趙雲なら安心だ。二人も良いよね?けど良いのかい?趙雲には何の見返りがないけど」
「そうですな、では北郷殿の出世払いということで。期待しておりますぞ」
「了解、期待しないで待っててね」
話すことも終わった俺達は結局趙雲の思惑通りに遅くまで酒盛りをしてしまったのだ。


こうして俺達は白蓮の下、太平への一歩を踏み出した。


予告
将としての資質を開花し始める愛紗と鈴々。
政務の基礎を学ぶ一刀と桃香。
ゆっくりだが確実に力を蓄え始めた一刀達。
そこへ二人の少女が姿を現す。
次回「黄 参 −もちろんですよ。ご主人様のお世話をするのが私の生きがいですから−」


編集後記
白蓮登場しました。あと星も再登場。そして次回には……。
少しずつメンバーが集まってきました。さて、ちゃんと個性を引き出せるのやら。
桃香がちょくちょく可哀相な扱いを受けていますが好きですよ?白蓮も。
手品の話ですが絶対『ロープマジック 種明かし』と検索をしないで下さいw
戦闘シ−ンがしょぼいよなぁ……もっと勉強します。


おまけ
「秘策とまではいかないけど、人が多いところで手品をしようかと……愛紗ちょっと手伝って」
「私ですか?」
「あぁ、愛紗にしか頼めないことだ」
「わ、分かりました。私は一体何をすれば」
他の人に聞こえないように愛紗へ耳打ちをする。
「辛いと思うけどずっと同じ体勢を維持して欲しいんだ。どんなことがあっても」
「どんなことがあってもですか。……分かりました、ご主人様のご期待に沿えるように頑張ります」
愛紗の承諾も得たので椅子を三個並べてその上に愛紗を寝かせる。耳元に顔を寄せ
「ごめんね、辛いと思うけど頑張って」
「は、はいぃぃぃい」
何故か頬が赤くなった愛紗。きっと気合を入れたのだろう。
「それではいきます!」
掛け声一番真ん中の椅子を外す。愛紗は一瞬震えたが俺が言った通りに体勢を保つ。俺は得意げに皆を見渡した。
……む、余り驚いていないな?鈴々なんか愛紗を指差して笑ってる。だったら。
「愛紗、もう一踏ん張りだ!」
「ご、ご主人様、少々お待ちをー」
愛紗の声は聞こえない。勢い良く足の方の椅子を外す。
「でりゃああああぁぁぁぁぁぁああぁあ」
愛紗にしばらく口を利いてもらえなくなりました。

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