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765 名前:星華蝶曰く、[] 投稿日:2009/11/09(月) 01:56:05 ID:L6MZQWG20
投下したいんだけど、
表の18は半端に残ってるし、その状態で19使うのも気が引けるし…
何より規制解除がどれだけ進んでるか分かんないから、十分量の支援貰えるか怪しいし。
という訳で他に予定者いないなら、
月曜21時あたりから22レス程頂いてよろしいですかな?
780 名前:外史喰らい曰く、 ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/11/09(月) 20:47:49 ID:L6MZQWG20
問題なさそうなんで、時間前にいつものテンプレをば。

外史喰らい編第4-1話


・一刀は無印決戦後
・左慈、干吉がメイン扱いで登場
・オリ真名として、左慈:光(コウ)、干吉:雲(ユン)を設定。ネタ元は中の人
・光、雲がデフォルトでチートな上、一刀も乱世1回分というチート経験値なので、メアリー・スー気味
・仲間になった経緯が違うので、女の子→一刀の言葉遣いが原作と違います。

・今回からチート度が大きく上がります。

〜あらすじ〜
気がつくと真っ暗な空間にいた一刀。
そこで、左慈・干吉と再び出会う。左慈は一刀を殺そうとするが、干吉がそれを止め、とある話を始める。
曰く、『外史喰らい』という、外史を喰らう存在が発生していて、その対処を手伝え、という。
外史喰らいを止めるには外史の存続を願う想いが必要で、そのための想いは一刀への想いを変換して集めるらしい。
前回と似た外史で想いを集めると聞き、再び愛した彼女達に出会えると感じて、手伝いを了承する一刀。
彼を主として立てるために、左慈と干吉は真名を預ける。
そして、新たな外史の発端が開かれた。

プロローグ(第0話):ttp://koihime.x0.com/ss/b011_294.html(まとめサイト)
782 名前:外史喰らい編4-1話(1/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:01:43 ID:L6MZQWG20
大事なので、即答は出来ない。
そう言い訳をして、使者に下がってもらうまでは我慢した。けど、もう限界だ。
「――なんでこうなるんだよ!!」
八つ当たりで、玉座の肘置きを叩く。
「クソ―――」
予測が甘かった――違う、予測さえしていなかった。
前の外史をそのまま当て嵌めて、起こるはずがない、と高を括っていた。
それがこの様だ。
叩きつけた右手に握った、一枚の手紙。
そこに書かれていたのは、董卓の暴政と、それを止めるための反董卓連合結成の誘いだった。

「そんなはずがありません」
焔耶が言う。手紙への評価だ。
「あの子がそんなことが出来るとは思えません。ほんの少し話をしただけですが、それぐらいは分かります」
「うん。俺も同じ意見だ」
董卓がそんなことをするはずがない。性格は月と同じだし、もし何かの間違いで暴政が行われても、賈駆か誰かが止めるだろう。
それなのにこんな手紙が来た。
「……何でだ?」
「三つばかり考えられますが、お聞きになられますか?」
「――」
漏らした呟きに、雲からノータイムで返事が来た。
「頼む」
「ではまず、一つ目。一刀殿と焔耶が、董卓殿の性格について思い違いをしている。董卓殿はそこに書かれているような暴政を行う冷酷な性格で、二人と会った時には猫を被っていた」
「それはない」
これは即答できる。
あれが演技なはずがない。演技だとすれば、あの性格はメリットが少ないし、恋が気を許すはずがない。
それに、そういう性格なら、音々音を庇わずに人混みの中に逃げていただろう。
783 名前:外史喰らい編4-1話(2/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:03:16 ID:L6MZQWG20
「では二つ目。袁紹殿が、董卓殿の行政を誤解している。もしくは、悪意ある噂を信じてしまっての、先走り」
ですが、と雲は言葉を切る。
「これもありえないでしょう。袁紹・袁術両名の名と判。これだけ揃った正式な文章での行軍の呼び掛けを、不確かな情報で行うわけがありません。………本人達の性格は置いておいても、臣下が特に」
「―ってことは」
「ええ。たぶん、これが正解でしょうが……落ち着いて聞いてくださいよ」
そう前置きして、

「三つめ。大義名分を持って董卓殿を討つための、情報操作」

「――ッ!」
「権力の中枢にあって、皇帝の信頼も篤く、有能な部下も多い。噂を聞く限り、袁紹殿も袁術殿も、これを妬まぬような人格者ではありません。『自分達がいるはずの位置にいる身の程知らずに、思い知らせてやろう』十中八九、そう考えるでしょうね」
要するに、この手紙の裏側は。
「董卓への嫉妬です」
「――」
右手の中で、何かが破れる音がした。
「一刀殿」
「大丈夫……落ち着いてる…」
事前に釘を刺されてたのが、少しは効いてる。
「―分かってる。怒るだけじゃ、何も意味が無い」
玉座にいる時は、対外的なポーズ以外で怒りを露わにするな。身内の前で怒る暇があるなら、怒りの元を何とかする方法を考えろ。だろ、雲。
「……まあ、落ち着こうとしているなら、よしとしましょう」
ふぅ、と小さく息を吐いて続ける。
「では、この連合は袁家の二人による謀略であり、董卓に非は無い、とした上で――連合への参加は必須であると主張させてもらいます」
「何故だ?董卓殿が悪くないのなら、連合の意味は無いはずだ」
雲の言葉に、焔耶が反論する。
「ええ、董卓殿に非はありません―――我々の認識では」
784 名前:外史喰らい編4-1話(3/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:06:00 ID:L6MZQWG20
「どういうことだ?」
「我々にこのような書状が来たということは、他の領主へも同様のものが回っていると見るべきです。人を使って市井にも噂を流しているでしょう。
ならば真実がどうあれ、大陸では今現在、『董卓は悪人だ』という認識が主流になっています。この状況で董卓に味方する、あるいは連合に敵対する行動を取る者がどういう扱いをされるか」
言わずもがな、だ。
「今回の件にあっては、我々は後手を取りました。そして、大陸の認識は既に引っ繰り返せないところまできています。残されている選択肢は二つ。連合に参加し董卓を討つか、連合に逆らい朝敵となって滅ぼされるか、です」
まともに考えれば、前者以外の選択なんてありえない。連合の大義名分は「逆臣董卓の討伐」だ。それに加わらないということは朝廷に反旗を翻すに等しく、連合に参加している各勢力に絶好の理由を与えることになる。
だけど。
「待てよ、雲…」
前者を選ぶということは。
「董卓達を見捨てろって言うのか…!」
「……明言しなければ分かりませんか?」
平素な声だった。そのことに疑問も罪悪感も感じていないような。
「お前!」
「雲!」
焔耶と二人、声が荒くなった。
「ならば代案があるとでも?領内の民を守った上で、董卓殿を救う妙案を示していただきたい。案も無しに吠えているわけではありませんよね?」
「連合ではなく、董卓側での参戦は無理なのか?」
「参戦自体は可能です。連合の合流地点は洛陽の東ですので、董卓軍と銜を並べることはできるでしょう。
……ですが、勝ち目が無い。我が軍は徴兵しても精々が二万人。董卓軍と合流したとて、十万を超えるか否か、といった程度でしょう。
対して相手は、既に参加を表明しているだけで袁紹・袁術・馬騰・公孫賛。おそらく曹操も加わります。さらに、公孫賛麾下の劉備、袁術麾下の孫一族。…どう見積っても五十万以上の大軍です。申し訳ないのですが、四倍――三十万――の兵力差を埋める方法は知りません」
「それほど、なのか…」
敵対することになるかもしれない人数を聞いて、焔耶が鼻白む。
785 名前:外史喰らい編4-1話(4/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:07:24 ID:L6MZQWG20
けど、それは董卓軍が立ち向かう相手だということでもある数だ。それに、
「方法はあるだろ、雲。――泰山での戦い、忘れてる訳ないよな?」
「傀儡ですか。確かにあの術なら勝機は見出せますが――」
そう。雲の傀儡なら何十万何百万と出せるはずだ。
確かにあの時は俺達が勝ったが、それは魏と呉の援護があったからだ。単調な動きしかしないが、怯むことも怯えることもない、数を減らすこともない無数の兵士。
あいつらが使えれば、兵力差なんか瞬時に埋まる。
「――あんな邪法、そう簡単に使えるわけがないでしょう」
邪―、法?
「ええ、隠していても仕方が無いので正直に言いましょう。あの術で傀儡を生みだす為には寿命を消費します。約三百体程でほぼ二日。今回の戦に使うとなれば、六十万は必要でしょう」
「―――それ、は」
六十万を生みだすのに必要なのは、十一年。
「申し訳ないのですが、さすがに代償が大きすぎます」
「そう、か…それじゃ、仕方ない、な」
仮に強行させて連合に勝利したところで、その後の混乱に備えるためにはさらに大量の傀儡が必要となる。
そんなことは強要出来ない。
「じゃあ、合流地点への行軍中に、洛陽に寄って董卓達を救い出すってのはどうだ?」
「大軍が攻めてくると伝えておきながら、首脳陣だけを連れ出す訳ですか。洛陽の民は別として、董卓軍の兵士はどうします?」
「えっと…ウチの軍に編入って形にすれば―」
「無理です。どう取り繕っても、郡二つ分の兵力だとするには多すぎます。そこに疑いをかけられれば、それまで。
なにより、すでに兵の配置は終わっているでしょう。水関・虎牢関に籠らせている兵を洛陽に戻らせて編入させて、それから合流地点へ向かう。この日程が無茶かどうか、言わなくても分かりますよね?」
「それじゃあ、兵士にはそれぞれの足で涼州にまで帰ってもらうとか」
「あの距離を事前準備もなく自力で旅せよと?」
「な、なら――」
「いい加減になさい、北郷殿」
「――っ」
怒鳴りはしない、その迫力に気圧された。
786 名前:外史喰らい編4-1話(5/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:08:24 ID:L6MZQWG20
「彼女らと共にいた貴方が、自分が言っていることがどれだけ無茶か、分からないとは言わせませんよ」
「……だけ、ど」
「それに、頭が十全に働いていないのかは知りませんが、董卓一派を助けるためにこちらが被る損害を忘れている、とも。己が領地の民を、無用な戦で傷つける御積もりですか?」
「う……でも…」
「まだ納得できませんか?ならば今すぐに街へ行き、民一人一人に頭を下げて許可をもらってきなさい。『自分の満足のために皆を戦に巻きこむが許してほしい』と」
抑え込むための極論だと言うのは分かる。でも、同時に俺が望んでいることは、そういうことなのだという理解も出来る。
「それさえも出来ぬというのなら、城を出て北郷一刀個人として董卓軍に加わりますか?そこまでするというのなら止めませんが?」
…………………………。
脱力して、玉座にもたれかかった。
「………分かったよ。反董卓連合に参加しよう」
この場は、俺の負けだ。
「賢明な判断です。………まあ、洛陽へ一番乗り出来れば、助ける機会もあるかもしれません。望みは捨てぬことです」
「………ああ」
そういう手もあったな。
頭を振って、玉座から立ち上がる。
「では、袁紹からの使者に返事をすると―――一刀殿、どちらへ?」
勝手に席を立った俺を見咎めて、雲が訊いてきた。
「どうも気分がよくない……自室で休むよ。悪いけど、返事は雲がしといてくれ」
「…了解しました」
「お館、大丈夫ですか…?」
心配して駆け寄ってくる焔耶を、手を挙げて制した。
「大丈夫、だから……ごめん、一人にしてほしい」
「あ、………はい」
「ごめんね」
もう一度言って、玉座の間を後にした。

787 名前:外史喰らい編4-1話(6/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:09:21 ID:L6MZQWG20
その日の深夜。
えーと。
路銀よし、食料よし、着替えよし、毛布よし、武器よし、と……。
荷物の最終チェックをして袋に詰め、刀は腰に差す。
OK、準備完了。
ロウソクを吹き消し、星灯りを頼りに窓際まで行く。
「……暗さに目が慣れるまで待った方がいいかな?」
窓を開けようとして思い至り、振り返る。
この際だ。たぶん、もう見れないだろう部屋の風景を見ておくのもいいか。
ぐるりと室内を見渡して、やっぱり執務机の上で目が止まった。
そこには手紙が一枚。結局、内容は謝罪ばっかりになっちゃったな。
「…………光、雲。…悪い」
俺はここでリタイアする。
俺には、董卓達を見捨てるなんて出来ない。
現状、俺達の立場で出来る方法は、雲が示したものが最良だとは理解している。領主としての立場では、な。
北郷一刀個人としては、絶対に納得できない。
だから、「城を出て北郷一刀個人として董卓軍に加わ」ることに決めた。
俺なんかが加わっても、戦力にならないのは承知してる。自己満足でしかないってことも、理解している。
それでも、あの子達を見捨てたら、絶対に後悔すると分かる。たとえ三国を統べたとしても、そのしこりは消えないだろうとも。
そして、どちらを選んでも、二人と同じ方向を向いて進むのは出来ないということも。だからリタイアだ。
『外史喰らい』の方は……たぶん、あいつらなら何とかしてくれるだろう。言葉から察すれば、何度か対処した経験もあるみたいだし。
焔耶には……悪いことをした、と思う。事故の責任取りで無理矢理引っ張ってきておいて、真名まで許してもらって、その相手が消える訳だから。
このまま、光と雲と一緒に平和を目指してくれるのか。それとも蜀に戻るのか。そこはまあ、焔耶の好きにすればいい。
788 名前:外史喰らい編4-1話(7/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:10:23 ID:L6MZQWG20
目が慣れて、室内の様子が鮮明になってきた。
「……っし、行くか」
窓を開け、音を立てないように乗り越える。
まずは街を出るか。
洛陽まで徒歩で行けると思うほど馬鹿じゃないが、こんな時間に馬に乗っていて見張りに見つからない訳が無い。
他の街までは徒歩だ。そこで適当に売ってもらえばいい。
「さて、と。取り敢えず―」
「取り敢えずどうするんです、お館?」
「!!!」
ドグン、と大きく心臓が鳴った音が聞こえた。
今の声、まさか。
「………焔、耶…?」
恐る恐る言ってみる。
答えるように、眼前の茂みが鳴る。そこから一人の少女が出てきた。焔耶だ。
「……えっと、こんな時間に、こんなとこで……どうしたの?」
苦し紛れに訊いた。
「お館こそ、こんな時間に、そんな大荷物で窓から抜け出されて、どうしたんです?」
ニコニコ笑顔で問い返された。
…………これ、絶対に分かってて訊いてるよなぁ。誤魔化せないか。
仕方ない、白状しよう。
「えーっと、実は―」
「――城を抜け出して、董卓殿達を助けに行くんでしょう?」
――――――――え?
「あれ、違いました?」
「あ、いや、その通りだけど……」
何で分かったんだ?
「お館の下に来てから、どれだけ経つとお思いですか?大まかな考えは読めますよ」
「………そんな分かりやすい態度取ってたかな?」
自分じゃ上手く誤魔化せたつもりだったんだけど。
789 名前:外史喰らい編4-1話(8/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:11:43 ID:L6MZQWG20
「本当に誤魔化すのであれば、目を見せるべきではありませんでしたね。覚悟というものは目に現れます。一度でも覚悟を決めた目を見たことがあれば、見分けるぐらい訳ないですよ」
げ。そんなところでばれたのか。
「…………はぁ。止めたって、無駄だぞ?」
袋を下ろし、左手を刀に添えて言った。抜く気は無いし、たとえ抜いたところで焔耶に勝てるとは思わないが、気は心だ。殺気の有無辺りでばれてるかもしれないけど。
「止めませんよ」
「え?」
予想外の言葉に、思わず脱力した。
「じゃあ、何でこんな時間にそんなとこで待って――」
言いかけて気付いた。
焔耶の足元。そこに、俺が持っているのと同じ様な袋が置いてある。
俺の袋の中身は、洛陽に行くための荷物。
「―――焔耶」
まさかと思うけど。

「ワタシもご一緒します、お館」

「………いいの?」
「ええ。ワタシも雲の提案には納得できません。そして、お館が行かれるというのなら、ワタシが付いていくのは当然です。――ワタシは、白帝城ではなく、お館に仕えているのですから」
…ああ。覚悟を決めた目っていうのは、こういうのか。そりゃ、こんな目で「気分悪い」とか言ってたら気付かれるよな。
「そっか……ありがと」
小さく息を吐いて、刀から手を離す。
「悪いな、焔耶。俺の我が儘に突き合わせる」
「いえ、気にしないでください!」
笑顔で返事をして袋を担いだ焔耶に合わせて、俺も袋を持つ。
790 名前:外史喰らい編4-1話(9/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:12:50 ID:L6MZQWG20
「じゃあ、行こっか」
「ええ。………あの、お館。一つお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
俺の後ろを歩きつつ、焔耶が訊く。
「その……雲の分析が正しいとすれば、董卓軍に勝ち目は無いのですよね?それでも行くと決心できる程、…えっと、お館にとって、董卓殿達は大切な存在なのでしょうか」
「うん、そうなるかな」
少なくとも、こんな状況で放っておける程度の相手じゃない。
「……そっか。……………羨ましいなぁ」
「ん?何、焔耶?」
声が小さくて聞き取れなかったんだけど。
「あ、い、いえ!何でもありません!――そ、そうだ。昼の内に、中庭に馬を用意しておいたんです!そっちに行きましょう!」
「それって、大丈夫なの?」
ありがたいけど、尚更ばれる確率あがるだろ馬二頭連れなんて。
「…あれ、知らないんですか、お館?お館とワタシが一緒にいれば、大抵の行動は見過ごされますよ」
「…………あー…」
そういえば思い当たる。
ここ最近は、見張り台の上で月見酒してても、護衛無しで城外に出ても、止める言葉がかかった事が無い。
精々、お気をつけて、の一言だけだ。
見過ごされてるのか、いつもの事、とあきれられてるのか。
「まあ、どっちでもありがたいや。始めから馬が使えるなら、その方がいい」
が。
791 名前:外史喰らい編4-1話(10/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:15:36 ID:L6MZQWG20
「あ、あれ…?おかしいな、たしかにこの木に繋いでおいたのに……」
焔耶に連れられて行った中庭の隅に、馬の姿は無かった。
「馬番には言い含めておいたから、連れ戻されるはずはないし…場所を間違えてる訳でもないし…」
ぶつぶつと確認をしつつ、焔耶は額にしわを寄せて辺りを見回している。
「焔耶ー。別にいいよ?次の街で適当に買えば済むんだし」
「はあ…。ですが、もし場所を間違えているのだとすれば、あいつらはここに縛られたままになってしまいますし……」
あ、そっか。それはちょっとかわいそうだな。
「じゃあ、俺はあっちを探して―」
みるよ、と言い切ろうとした言葉は途中で止まった。
向いた先、ほんの二メートルばかり離れた木にもたれかかって腕を組み、こちらを見ている光を見つけたからだ。
全身から、ぶわりと嫌な汗がわき出るのを感じる。
「………光、か…?」
焔耶も気付いて、表情を硬くした。
光がゆっくりと口を開く。
「馬なら、俺が戻しておいた」
「―――!」
その言葉で、焔耶同様、光にもばれていた事を知った。
いや、ばれてなくても、光の耳なら深夜にあれだけドタバタしてれば気付くか。
「……お館…」
袋を置いて、焔耶が俺の前に出ようとする。力尽くでも行くつもりなのだろう。
それを手で制した。
「…俺が話す」
落ち着け。
姿を見せた、ってことは、交渉の余地があるってことだ。
「一応訊くけど、俺達が何をしようとしているのかは、分かってるよな…?」
「ああ」
短い返事。
口に出すのも馬鹿らしいと呆れているのか、理由なぞ何でも構わないと考えているのか。
792 名前:外史喰らい編4-1話(11/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:17:00 ID:L6MZQWG20
「……それで、何の用だ?止めに来たんじゃあ、無いよな」
それだけは確信が持てる。
「―――貴様に一つだけ、問いたい事がある」
そのためにわざわざ待ってたのか。大仰だな。
「分かった。何?」
無意識に体に入っていた力を抜いて、訊く。
光は問わず、焔耶を見て言った。
「焔耶、お前には聞かせられん。下がってろ」
その言葉に、焔耶が激昂した。
「き、貴様―!」
「悪い、俺からも頼む。下がってて、焔耶」
焔耶に聞かせられない―――つまり、外史に関わる話題だろう。
「で、ですがお館…!ワタシが目を逸らした隙にお館を気絶させ、無理矢理留めるつもりだとか―?」
「そのつもりなら、初めから姿を見せるはずが無いよ。光なら、それぐらいできる」
焔耶に気付かれずに、二人とも気絶させるぐらいは。止める気なら、今頃二人揃って寝台の上で気絶してるだろう。
それに、酷な言い方になるけど、焔耶じゃ光を止められないだろう。
「……分かりました。…ですが、何かあった時は、大声をあげてください。すぐにまいります」
不承不承ではあるだろうけど、納得してくれたらしい。
光を一睨みして、下がってくれた。
「――それで、光。何が訊きたいんだ?」
「―――あの時。何故引きさがった?」
………は?
「何故一言、『傀儡を使え』と命じなかったのかと訊いている。それが出来る立場にある、ということぐらいは理解しているはずだ」
ああ、軍議の時の話か。何でって…
「だって、使ったら雲の寿命が縮むんだろ?それも、必要数を満たす為にはかなり大量に」
その後のことも考えたら、それこそ二十年三十年の消費になる。
とてもじゃないけど、そんな命令は出せない。
793 名前:外史喰らい編4-1話(12/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:18:08 ID:L6MZQWG20
「何故そんなことを気にする?貴様にとって董卓一派は、その程度の存在か?」
「いや、そんなことはないけどさ……」
「なら何故、俺達の寿命などを気にする?たかが『装置』の命を気にかけている余裕があるのか?」
「……装置、ねぇ」
光に聞こえないよう、小声で呟く。
そういえばそうだったか。外史を消す為の存在、だっけ?
「またえらく卑下した表現だな」
らしくないというか、何というか。
「事実だ」
短く答え、光はこちらを睨む。
とっとと答えろ、と眼が言っていた。
まあ、確かに余裕は無い。というか、無いからこんなことをしてる訳で。
それでも、雲の寿命を使え、などとは当然言えない訳なんだが。
「……そもそも、この質問の意図ってなんだよ?」
また主としてのテストかなんかか?
「……なんだと?」
「いや、だって……そんな分かり切った事わざわざ訊くんだから、何か試してるんじゃないのか?」
言わせたい言葉があるのか、俺の反応を視てるのかは知らないけど、随分と意地の悪い質問だ。
答えろっていうなら答えるけどさ。
「仲間を助けるために仲間を犠牲にしたら、本末転倒だろうが」
「…仲間……?」
む、納得行ってないか?まあ、確かに「こっち」の董卓達とはあんまり仲良くないし、精々が友達辺りか?
「ふざけるなよ……」
うん?
「仲間だと……馬鹿を言うな!」
今が深夜だということも忘れて、光が叫んだ。
「前の外史で俺達が何をしたのか、忘れた訳ではあるまい。自分自身を、自分の愛した世界を消そうとした相手を、仲間だと…!」
まるで敵対していた時のように感情を露わにしている。
「甘さも大概にしておけよ…!『敵』の心配をして、仲間を危険に晒す余裕などあるのか!?貴様にとって現状第一は董卓共だろう。それを――」
794 名前:外史喰らい編4-1話(13/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:19:23 ID:L6MZQWG20
「待った。それは訂正させろ」
光の言葉に割り込む。
俺がどういう奴かの判断は個々の自由だけど、「その部分」は誤解されたくない。
「今の俺にとっての第一は、お前と雲と焔耶、それにこの領内の人達だ。それは間違えるな」
「……冗談はやめろ。焔耶はともかく、俺達が第一だと?博愛論でも唱える気か?」
「そうじゃなくて。……あのな、たとえ元は敵対した相手だろうが、装置だ何だって自分を卑下してようが、同じ目的のために一緒に戦ってるなら、それは仲間だろ?」
「――――」
光は何も言わず、眼が先を促してくる。
「俺は、華琳も蓮華も、それ以外にも敵対していた子を何人も抱いたし、好きだって言った。その気持ちに嘘は無い。いがみ合う理由が無ければ、過去なんてどうでもいいと思ってる」
それに、
「『装置』だっつうなら、俺もそうだろうが」
「……な…?」
何でそこで「どういうことだ?」みたいな顔するかな。
「お前らが言ったんだろ?俺はオリジナルの北郷一刀から分岐した内の一人だって。つまり、外史を作るために出来たコピーの一人って訳だろ。なら俺は、この外史のための『装置』になるよな」
この外史を回す為の、ファクターの一つって訳だ。
「外史を消す為の『装置』と、外史を回す為の『装置』なら同格だろ?で、外史喰らいを止めるために一緒に行動してる。かつ、俺は過去に敵だったかどうかなんて気にしない。―――これじゃ、仲間って呼んじゃ駄目か?」
訊いて、ガシガシと乱暴に頭を掻いた。
あーもう、こんな小恥ずかしい事言わせるなよな。
「だから、今のお前らにとって俺がどういう位置にいるのかは分からないけど、俺はお前らの事を仲間だと思ってる」
で、
「董卓達を助けるためとはいえ、仲間の寿命を使うなんて事は出来ない。だから命令しなかった。……これでいいか?」
「………」
光は答えない。
ただ腕を組んで、俯いている。
795 名前:外史喰らい編4-1話(14/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:20:31 ID:L6MZQWG20
時間にして二十秒ぐらいか、たっぷりと沈黙した後、そうか、と一言呟いて背を向けた。
「北郷、取引だ」
「…あ?」
毎度毎度唐突だな、ホントに……
「お前たちを引き止めないと約束しよう」
あー、それはありがたいね。
「で、対価は?」
「明日の正午まで出発を待て」
……それ、引き止めるっていうんじゃないかな?
「……嫌だって言ったら?」
「焔耶と揃って手足の骨を折られるのとどちらがいいか選べ」
…………選択肢どこだよ、オイ。
「悪い様にはせん。――――信じろ」
「………」
その言葉に、大きく溜息を吐いた。
「了解…。部屋戻って寝るよ」
「ああ」
俺の返事に頷いて、光は歩き出した。
あっちは光の部屋がある方だし、納得したんだろう。
796 名前:外史喰らい編4-1話(15/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:21:22 ID:L6MZQWG20
「………おーい、焔耶―」
もう一度大きく息を吐いて、焔耶を呼ぶ。
まだ不機嫌が二割ぐらい残った顔で出てきた焔耶に、光との取引の事を話した。
「――それで、お館は信用なされたのですか?」
「ああ」
いや、いつもだったらこんなに簡単に引き下がらないんだけど、
「あいつに『信じろ』って言われたの初めてなんだよなぁ」
信用しろだの信頼しろだのはよく言われたけど、それは「主として部下を」って意味だ。
光個人を信じろって言われて、信じないわけにはいかない。
「あいつ、言葉は悪いし、無愛想だけど、俺の不利になる様な事しないし」
無論、一緒に行動するようになってからは、だが。
それにまあ、半日なら単なる足止めにしたってそこまで問題にはならないだろう、って判断もある。
「はあ……お館が納得されているのであればよろしいのですが……」
焔耶の言葉は、さすがに歯切れが悪い。
そりゃ、夜中にこんなことしたのに、「明日まで待って」だもんな。
悪い、と手を合わせて頭を下げた。
「い、いえ、お館が謝られる事ではありません…!止められない、というのなら、やはり日のある内に出発すべきですから」
だよね、と頷くと、眠気が降ってきた。昼間に仮眠取っておいたはずなのにな。
城を抜け出すという緊張感で、精神が疲れてたんだろうと自己分析して、大きく欠伸をした。
「じゃあ、もう、今日のところは寝とこ。明日から旅になるんだし、少しでも体力取っておかなくちゃ」
「はい。ではお館、お休みなさい」
「うん、お休み」


797 名前:外史喰らい編4-1話(16/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:22:36 ID:L6MZQWG20
翌朝。
「申し訳ありませんでした」
中庭で焔耶と二人、いきなり雲に頭を下げられた。
昨日の光といい、二人して頭でも打ったんだろうか?
「ええと……、何を謝られてるのかな?」
人差し指で頬を掻きつつ訊く。
「お二人に、隠していた事実がある事を、です」
「へー…何?」

「――洛陽突入時以外に、董卓達を救う方法は、あります」

……………何だって?
「ど、どういうことだ、雲!?」
掴み掛らんばかりの勢いで、焔耶が訊く。
それを、まあ、落ち着いてください、と雲はいなし、
「縮地の法、というものをご存知ですか?」
と訊いた。
「聞いた事が無いな……。お館、御存知ですか?」
「まあ、一応……」
知ってはいるけど、三国志のアレは、劣悪な視界を利用した戦術だろ?
「目的地と現在地の間の空間を歪めて距離を無くす、仙術による長距離移動法の一種です」
俺が突っ込む前に、雲から説明が入る。
うん、まあ、元はそういう術らしいけど……。
「まさか、使えるのか……?」
二信八疑、といった声色で、焔耶が訊いた。
「ええ。……そういえば、焔耶には話していませんでしたね。私と光と一刀殿、この三人は、白帝城に来る以前、大陸のはるか東の端のさらに向こう側にある島国にいましてね」
そこ、位置的に日本じゃね?てか、俺もカウントに入ってる?
「そこでとある仙人の下で修業をしていまして。まあ、三人とも才能が無かったらしく仙人に至る事は出来ませんでしたが、各々一つだけ仙術を習得しているのですよ」
で、雲の習得した術が縮地の法、という話だった。
ちなみに、光の能力は三里四方までを網羅する目と耳、俺の能力はランダム発動の予知夢らしい。
798 名前:外史喰らい編4-1話(17/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:23:39 ID:L6MZQWG20
へー、俺そんな術持ってたんだー。
……色々突っ込みたいけど、取り敢えず黙って聞いておこう。どうも焔耶を丸め込むための話っぽいし、なにより、董卓達を助ける方法に繋がる話だし。
でも、そこ無視しても気になるところはある訳で。
「なら何で、軍議の席で言わなかったんだ?」
謝罪の、根本的なところを訊いてみた。
雲は情けなさそうに笑い、小さく頭を振る。
「縮地の法は、私にとってまだ高等な術ですので……無理に使えばこちらとて寿命を消費するのですよ」
それでも今回必要な量の傀儡を出すのに比べれば半分程度ですが、と付け加える。
「待て。昨日お館の言葉を断った理由も、寿命の消費ではなかったか?」
雲の言葉を、焔耶が止めた。
「ええ。たしかにそれが理由でした」
それなのに、今は自分から寿命を使う術を使う、と進言している。
「何故だ?」
問いに、雲は心底愉快そうに喉を鳴らして笑い、
「光に頼まれたのですよ」
「「光……に?」」
焔耶と二人、目を丸くした。
「あのような珍しいものを見られたのなら、五年程度安いものです」
「そう……か…」
呆れ四割ぐらいで納得したけど、少し気になった。
「ちなみにそれ、いつの話?」
「昨晩です。あなた方が一悶着起こした直後ですね」
………城抜け、こいつにもバレてたか。じゃなくて。
つまり、あの後すぐだ。
待てと言ったのも、信じろと言ったのも、このためだった。
寿命を削る事を承諾させる頼み方など、想像もつかない。けど、光はそれをした。
董卓達のため、じゃない。それが分からない程愚鈍じゃない。
城を抜けてでも董卓達を助けようとした、俺のためだ。
「そうか……」
くそ、ますます頭上がらなくなったなぁ。
799 名前:外史喰らい編4-1話(18/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:25:48 ID:L6MZQWG20
「雲」
そこまでしてもらったんだ。
「縮地の法、今すぐ出来るか?」
「すぐ、は無理ですね。準備に少なくとも半刻はかかります」
「なら、すぐに準備を始めてくれ。終わり次第出発したい」
「御意。行かれるのは、一刀殿、私―」
「ワタシもいいか?」
「では、焔耶も。半刻後、ここに集合してください」
「あれ、光は行かないのか?」
「城に誰も残らない訳にはいかぬでしょう。どうせ今回の貸しとして執務を押しつけてありますので、執務室で留守番をしていてもらいます」
あー、そう。なら三人か。
「ならワタシは、鍛練でもして時間を潰していよう。お館、失礼します」
そう言って、焔耶は練兵場の方へ向かった。
さて、と…。
「雲」
「仙術の話にあなたを含めたのは、その方が都合がいいからです」
「……………」
相変わらず、察しの良すぎる…。
「三国志の知識――この外史の者たちにとっての『未来の知識』を堂々と使う理由が必要でしたのでね。我々だけならばともかく、今後幹部級の者が増えていく事を考えると、誰かが気にかけるでしょうからね。何故主はそんな事を予想出来るのか、と。その予防のためです」
多少怪しくても、事前に堂々と理由を付けとけば誤魔化せるらしい。
まあ、オカルト全肯定な時代だしな。
他にご質問は?、と訊いてきたので、無いよと返すと、
「では、こちらから話があります」
「何?」

「傀儡を使うのにも、縮地の法を使うのにも、寿命は使いません」

「…………は?」
何だって?
からかい目的の嘘……じゃないよな。そういう方向の無駄を好む奴じゃないし。
800 名前:外史喰らい編4-1話(19/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:26:55 ID:L6MZQWG20
けど本当だとすると。
「ちょっとまて……色んな前提崩れないか、それ…」
寿命の消費量が少ないから傀儡じゃなくて縮地の法使うんであって、その決定には俺達が城抜けしようとした事が絡んでいて、でも城抜けの理由は傀儡を使わずに董卓達を助けたいからで……。
昨日今日のゴタゴタが、一気にひっくり返るぞ、オイ。
「……はぁ。せめて混乱は顔に出さぬよう心がけてくださいね」
「…お前なぁ」
その言い方で、わざとこんがらがる言い方をしたんだと分かった。
いつでもどこでも君主訓練かよ。
渋い顔のこちらを無視して、雲は説明に入る。
「傀儡の召喚も縮地の法も、私の能力の使い方の一部だ、という説明は要りませんね?万能に見えるかもしれませんが、いくつか代償があるのですよ」
「で、その代償が寿命じゃない、んだよな?」
じゃあ、何だ?
「順番に説明しますので、せっつかないでください。――代償と言うより、制約と言う方が正しいですね。まず、その外史にとって、技術水準を大きく超える物質は持ち込めません」
オーバーテクノロジー不可か。機械持ってくるとかは無理で、日本刀ぐらいならOKな部類かな、今までの事を見る限り。
「そして今回はこちらに属するのですが、外史内でこの術を利用した移動は基本的に無理です。考えれば分かると思いますが、『一瞬にして離れた地点に到達する』方法が、その外史内に存在しない故です」
どちらにせよ、「話を台無しにする」行為だ。メアリー・スー要素と言うか。
ですが、と指を立てる雲。
「これらは無理矢理行う事も可能です」
その時に必要なのが代償か。
「だから代償って何だよ。それ伝えるための話じゃないのか?」
代償は、

「外史が歪む事です」

「歪む?」
「ええ。話の筋が拗れるとでもいいましょうか」
801 名前:外史喰らい編4-1話(20/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:28:20 ID:L6MZQWG20



曰く。
外史とは物語である。
物語である以上、「話の流れ」と呼べるものが存在し、それに従って存在している。
しかし、その中で話の流れから離れた事実・行動――物語としての矛盾――があったらどうなるか?
矛盾を許容しきれずに、話自体が破綻するのか。
矛盾を無視し、異物を抱えたまま話を展開させ続けるのか。
どちらも否。
矛盾を許容し、
そしてそれ故に狂い、
しかし破綻せずに、
矛盾を抱え込むために話を改変させて存在し続けるのだ。



802 名前:外史喰らい編4-1話(21/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:29:44 ID:L6MZQWG20
「いくつか、心当たりがありませんか?」
こう訊いてくるってことは、俺が知ってる範囲内で起きた事があるってことだ。
つまり、前の外史で起きた事だという意味で、それなら心当たりは山ほどある。
董卓連合以前に仲間になった諸葛亮。
蜀にいなかった黄忠。
孫権と不仲だった周瑜。
挙げればキリが無い。
「全部がそうだって言うのか……?」
「分かりません。元からそういう展開だった可能性もありますし、我々のせいで狂った可能性もあります」
元々消すつもりだった外史だ。歪む事など気にせずに乱用していたらしい。
「そして、私としてはここが一番面倒なのですが……何が歪むのかが全く分からないのです」
要するにそれは、先が全く読めなくなるという事だ。
「この外史を選んだのは、前の外史と状況が似ていて、ほぼ歴史道理に物語が進むからです。そこに不確定要素が増えるのは、極力避けたい」
先の先まで読んだ手を、ルール外から滅茶苦茶にされるのだ。軍師としては、この上ない苦痛だろう。
故に隠した。
「……分かった。今後は、本当に最終手段としてしか使えないと思っとく」
「出来れば最終手段としても除外していただきたいのですが」
「使わず負けるのと使って勝つのじゃ、どっちがいい?」
「使わず、最小限の被害で負けて、再度挑みます」
「そーきたか……」
軽口を叩き合う。今回の移動での外史の歪みについては話題にしない。
雲が決めた以上、そこに気を回すのは失礼だ。問題が無い、あるいはなんとかなるが故の決行だからだ。
「寿命としたのは、他者への建前として都合がよいからです。よもや味方に死ねとは言えますまい?」
昨夜、「言え」って半強要されましたが?
「ちなみに、一度に五千程までなら傀儡を使っても歪みは無視できる程度しか発生しませんので、こちらは計画的にどうぞ」
はいよ。
「質問が無ければ空けてもらってよろしいですか?そろそろ準備を始めますので」
「ん、了解」
教えられた事を肝に銘じつつ、中庭を後にした。


803 名前:外史喰らい編4-1話(22/22)[sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:30:29 ID:L6MZQWG20
光と顔を突き合わせての政務、という物珍しい一時間は結構早く過ぎて。
再び足を運んだ中庭には、一面に大きな方陣が描かれていた。この外史に入る時に見たものとよく似ている。
「準備はよろしいですか?」
「大丈夫」
特に必要な物がある訳でもないし、心の方はとっくに出来てる。
では、と言って、雲は方陣へ入り、招くように、仰々しく右手を横に振って一礼した。
妙にサマになってるから反応に困る。
は、と短く呆れの溜息を吐いて、焔耶と一緒に方陣へ足を踏み入れる。
それじゃあ。
雲の招待で彼女達を救いに行くとしますかね。
804 名前:外史喰らい曰く、 ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/11/09(月) 21:47:55 ID:L6MZQWG20
以上です。

次回は4-1話か、漢ルート再構成の第1話のどちらかになります。
年内には一本ずつ投下を予定しているので、お待ちください。



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一刀「雲えも〜ん、助けてよ〜!」
雲「君はじつに馬鹿だな」
雲「ど〜こ〜で〜も〜ド(自主規制)」

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