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429 名前:魏エンドアフターの人[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 21:19:02 ID:X/R3yHt20
何か歌を聞いていたらインスピレーションが浮かんだのでまた帰還ものを書いてみました。
6レスほどの予定です。一刀君が原作よりだいぶヘタレてます。
430 名前:1989 1/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:20:45 ID:X/R3yHt20
「やっと……帰ってこれた……」
元の世界に戻って1年。馬鹿みたいに必死になって、こっちに戻る方法を探した。
あの変な踊り子?の言うことが正しいなら、ここは俺と華琳が別れた場所……成都の近くのはずだ。
とにかく、街に行ってみよう。ここが本当にあの世界なのかも確かめないと。

そして街に入って早速。俺は警備兵に捕まっていた。
良く考えれば当たり前だ。日本刀を持って、見たことも無い格好の奴がうろうろしていたら
俺だって捕まえる。こんなところで時間を使う気は無いんだけどどうしたものか。
しかし、俺を捕まえて詰め所につれて来たの良いが、警備兵たちが何一つ質問してこない。何で?
「……なぁ、良く考えたらこの格好ってどっかの貴族じゃないか?」
「……確かに。こんな綺麗な服見たことが無い」
「じゃあ捕まえたら不味いんじゃ……」
なるほど、風たちと一緒で俺を貴族と勘違いしてるのか。
戦時中なら問答無用で取り調べられただろうけど、今は平和だからそこまでしなくても大丈夫なんだろう。
「おい、誰か将軍様を連れてきたほうが良いんじゃないか?」
「何か問題でもあったの?」
「りゅ、劉備様!?このようなところにお一人で……」
「私も居るから問題無い。桃香様が自ら視察なさりたいと仰ったのだ……で、何があったのだ?」
「はっ!武装した怪しい格好をしたものがうろうろしていたので連れてきたのですが……」
「覚えているかはわかりませんが、お久しぶりです、劉備さん」
「会ったことありましたっけ……う〜ん……あっ、分かった!華琳さんと一緒に居た人!」
「この光り輝く服……曹操殿のところに居た……もしや、天の御使い様では?」
蜀の人にまで自分の呼び名が伝わっているとは思わなかったな。
「そんな大層な者じゃないけど、魏ではそうやって呼ばれることが多かったです」
とにかく、ここに劉備さんと関羽さんがいること、俺を天の御使いと認識していることで、
俺が元々居たのと同じ世界だということは分かった。あまり心配はしていなかったけど、ほっとする。
「しかし、天の御使い様はあの戦の後天命を終えて天に還ったと聞きましたが?」
「どうしてもこの世界に居たくて、八方手を尽くしてここに戻ってきました」
431 名前:1989 2/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:21:54 ID:X/R3yHt20
「左様でございましたか。桃香様、とりあえず城に来てもらったほうがよろしいかと思いますが」
「そうだね、色々聞きたいこともあるし」
城で蜀の皆に自己紹介をした後、早速本題を切り出す。
「出来れば、馬を一頭貸してもらえませんか?」
「え〜。始めましてがすんだばっかりなのにもう行っちゃうの?」
「出来れば、早く華琳たちに会いたいので」
元の世界に居た1年、俺はずっと孤独だった。あの世界でのことは誰にも話さなかったが、
雰囲気が急に変わった俺と仲良くしてくれる奴なんてほとんど居なかった。
俺があまり人と仲良くしないようにしていたのもあるけど、
他の人と話した分だけ、魏の皆との記憶が薄れるような気がしていたから。
及川には、変なかずピーなんて言って笑われたけど、とにかく魏の皆と会うことしか考えていなかった。
「しかし、御使い様お一人で大丈夫ですか?」
「戻ってから1年、それなりに修行しましたから、野盗ぐらいなら大丈夫です」
「そこまで言われるのなら……ただ、これからしばらくすると、三国を挙げての式典が
ありますから、それまで待たれたほうがいいかと思いますが」
「三国を挙げての式典ですか?」
「ええ、終戦記念とでも言いましょうか。毎年魏・呉・蜀どこかの国で執り行っております
今年は蜀の持ち回りですので、1ヶ月ほど待たれれば、魏の方たちもこちらに来ます」
成都から魏までは1ヶ月以上かかるし、今から出れば入れ違いになってしまう。
これは、お言葉に甘えて待たせてもらったほうがいいだろう。
「分かりました。ですが、いいんですか?俺みたいな者が居ても」
「御使い様は曹操殿の大事な方と聞いておりますし、その名は三国に伝わっております。
戦を終わらせることが出来たのも、曹操殿の考え方が変わったのもあるいは御使い様のおかげであったかも知れません。
そのような方を、むげに扱うことなど出来ませんよ」
「ならお言葉に甘えますが……その、そんなに敬語を使わないで貰えると……
魏ではただの警備隊長だったわけですし。皆さんのほうが偉いですから」
「なら、ご主人様って呼ぶね!私のことは、桃香って呼んでください」
ご主人様!?
「な、桃香様!?」
「戦を終えられたのも、きっとご主人様のおかげなんでしょ?だから、私たちのご主人様」
432 名前:1989 3/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:22:25 ID:X/R3yHt20
「なるほど、天の御使いなら我々にとっては主も同然ですな」
「でしょ?だからご主人様」
なし崩し的にご主人様と呼ばれることになってしまったりしたが、とにもかくにも祭の日がやってきた。
「ご主人様、そろそろ魏の皆さんが到着いたします」
「愛紗さん、わざわざありがとう。俺はそろそろ隠れようかな」
「すぐにお会いになればいいのに」
俺も今すぐにでも皆に会いに行きたい。だけど、皆に会えば何も言えなくなってしまいそうだから、
しばらく皆を影から見て、気持ちを落ち着けたかった。
「皆にも言ったけど、俺が居ることは黙っておいてね」
「ご主人様がそう仰るなら……」

皆に気付かれないように注意しながら街に出る。格好も、目立たないように蜀の兵士の物を借りた。
すると早速、季衣、華琳、桂花を見つける。それを見るだけで、自分の目が潤んでいるのが分かる。
3人とも、楽しそうな笑顔だ。
俺は、皆と会わない間、あんな風に笑ったことがあるだろうか。いや……ないな。
鈴々ちゃんたちと一緒だから気を使って笑っている感じではない。
俺は、皆にとってその程度の人でしかなかったんだろうか。

その後こっそり華琳たちの後を付けてみても、魏の皆は明るかった。
俺が居ないことで塞ぎこんでいないのは良いことだ。良いことだけれど、やっぱり引っかかるものがある。
そして、魏・呉・蜀の皆が揃ったところで、華琳のつぶやきを聞く。
「じゃあね!……一刀!」
途中の部分は聞こえなかったが、最初と最後ははっきりと聞こえた。
俺は最愛の人に会いに来て、最愛の人と再会する前に、最愛の人に別れを告げられた。
433 名前:1989 4/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:23:02 ID:X/R3yHt20
その後どうやって歩いてきたのかは覚えていない。気付くと、街の端で座り込んでいた。
大きくため息をついて、祭で浮かれている、楽しそうな街を見る。
「会ったら渡そうと思ってたんだけど」
向こうの世界から持ってきた指輪たち。婚約指輪とまではいかないが、皆に似合いそうなものを
選んで買って持ってきたのだ。まあ、渡すことも無いんだろうけど。そう思うとまたため息が出る。
「また独りぼっちになっただけじゃないか」
1年も独りぼっちだったんだ、もう慣れっこじゃないか、と虚勢を張ってみる。
この1ヶ月、蜀で色々なことを手伝ったりした。最悪、ここで文官として働いていけばいいなんて考えても見たが、
雛里ちゃんと朱里ちゃんという二大軍師がいる蜀に俺みたいなのが文官として登用して貰えるかは疑問だ。
この世界で俺を必要としている人が、一人でも居るのだろうか。
あの踊り子は言っていた。
『外史がご主人様を必要としないとき、ご主人様が外史に必要だと感じられないとき、
ご主人様は外史から弾き出されるわ』と。
ふと自分を見ると、何だか透けている気がする。もう消える時間が近いのかもしれない。
街を出て、華琳と別れた森に行こう。最後を迎えるなら、やっぱりあそこがいい。

元々着ていた服に着替えて、森に来る。ここまで来ると、街の喧騒も聞こえない。
俺はどんな風に魏の皆と過ごしていたっけ?どんな顔で?声で?そんなことも分からなくなる。
喉が渇いたので、川の水を飲んで、岩に腰掛ける。
「ま、誰にも気付かれないで逝ったほうがいいだろう」
蜀の皆にお礼がいえなかったのはちょっと残念だけど、皆への手紙は借りた鎧と一緒に部屋に置いておいた。
会えば、皆別れを惜しんでくれるだろうけど、それは余計に辛い。別れは、少ないほうが良い。
「華琳と別れたときは、もっとすぐだった気がするけどなぁ」
今回は透け始めてから消えるまでが長いように感じる。この世界に未練があるからだろうか。
それとも、惜しむべき時間はすぐに過ぎてしまうということだろうか。
ガサガサという草を掻き分ける音が聞こえたので、振り返る。そこに居たのは
「一刀……なの?」
華琳だった。それに気付くと同時に、俺は駆け出した。
434 名前:1989 5/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:23:34 ID:X/R3yHt20
後ろから誰かが追ってきているのが分かる。華琳だろう。
とにかく、華琳に会いたくない。直接別れを告げられたら、俺はもう立ち直れない。
「え、兄ちゃん!?」
「季衣、何言ってるの。兄様がいるわけ……兄様!?」
途中魏の皆に会いながら
「北郷、待て!」
「隊長、止まらないのなら止めて見せます!」
春蘭や凪に殺されそうになりながら
「私の仕掛けた落とし穴に引っかかると良いわ……何で避けるのよ!?」
桂花が作った罠を避けながら
たどり着いたのは、城壁の上だった。下から、魏の将ばかりか蜀の皆も群がるようにこちらを目指しているのが見える。
「一刀」
「やっぱり一番は華琳だったか」
後ろは振り向かない。もはや俺の体は、ほとんど消えかかっている。話せるのも、少しだけだ。
「何故?」
「それは何に対しての何故?」
「何故貴方がここにいるの?何故貴方は私たちから逃げるの?何故貴方は消えかかっているの!」
「華琳に会いたかったから。華琳にさようならといわれたから。俺がこの世界に必要だと思えないから」
「貴方何を言って……」
「皆と別れて1年。俺は今日の皆みたいに笑えなかった。そうしたら、俺の存在なんてそんなものだったのか、
とちょっと不安になったんだ。その後華琳の後を付けてたら、華琳にきっぱり別れを告げられたからな」
「一刀……私たちが貴方を必要としていなかったと?」
「そこまでは言わないけど、俺の存在が薄れているのは確かだと思って。なら……」
不穏な気配を感じて身を竦めると、あの大きな鎌が俺の上を通り過ぎた。
「そう、貴方がその程度に考えているのなら……そんな一刀なら、ここで!」
435 名前:1989 6/6[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:24:04 ID:X/R3yHt20
何で俺は斬られそうになっているんだろう。必死に華琳の攻撃を受けながら思う。
何で俺は抵抗するんだ?華琳に斬られるなら本望じゃないか。
それに……何で華琳は、泣いているんだ?
「貴方が!消えて!3年!笑えるように!なるのに!どれほど!苦労したと!思っているの!!」
「3年?俺のところではまだ1年しか……うわっ!」
「なら余計によ!1年しか経たない頃なんて!皆!毎日泣いて過ごしていたのに!貴方は1年で!
私たちを!諦められたというの!?」
華琳の手から鎌が零れ落ちる。
「やっと現れたと思ったらまた消えるなんて!そんなこと、私が許すと思っているの!?」
華琳の攻撃を受けて息も絶え絶えになりながら、必死に頭を働かせる。
俺は独りぼっちでやることは何も無かった。華琳たちは泣きながらも国のことをしなければならなかった。
俺は1年しか経っていなかった。華琳たちは3年経っていた。
つまりは、それだけのことだったのだ。
「何だ……全部俺の勘違いだったのか」
「やっと会えたのに、勘違いで逝かれたらたまったもんじゃないわよ」
よろよろになりながらも、うずくまる華琳に近づく。
「ごめんね、寂しがり屋の女の子」
「……バカ」
華琳を抱きしめる俺の両手は、もう透けてはいなかった。
436 名前:七乃曰く、[] 投稿日:2009/11/01(日) 21:25:39 ID:X/R3yHt20
構想5分、執筆30分ぐらいなのでもう少し練ればよかったかな、と思います。
一刀君はこんなにヘタレない気がしますが、歌にあわせて作ってしまったので。

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