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166 名前:鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:21:04 ID:4OsVyEvA0
第八章一節が仕上がったので投下。
七章八節ではなく、ここから八章とします。
どのように内容が変わったかは、ご覧頂いて判断して頂きたく存じます。
167 名前:1 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:22:19 ID:4OsVyEvA0

第八章


-1-


呉の天譴、北郷一刀の読みは誤っていた。
否、半分は当たっていたのやもしれぬ。
実際、曹魏は楽浪の地にて孫呉の軍門に下り、国主曹操は、その実母である曹嵩と共に
孫呉への忠誠を誓った。

だが、彼は、ある一つの軍勢の存在を完全に見落としていた。
曹嵩が呉にもたらした密書に頼りすぎ、美周郎こと周公謹ですら、彼らの存在にまるで気づいていなかった。
今まで彼らは、反董卓連合のとき以来、一切の戦も起こさず、ただひたすら沈黙を守り続けていたのである。


――――― 蜀。


西方にある第三の大国。 曹魏との会戦と同時に、西では彼らが動いていた。
兵たち一人一人がすべて一騎当千の豪傑揃いといわれる
劉表率いる劉蜀正規軍三十万と、蜀と裏で結託していた五胡の羌軍十三万、
さらにもうひとつの五胡勢、低軍十万。
あわせて五十三万の大兵団が、電光石火のごとき素早さで巫県の関門を突破すると、
その勢いにのって周辺の都市を次々と制圧。
兵力を東方に集中させていた孫呉は、手薄だった西方を見事に突かれてしまった。
結果、わずか一週間のうちに江陵も占領され、
南荊州と建安以南をあらかた蜀に奪い取られてしまったのである。
168 名前:2 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:23:17 ID:4OsVyEvA0

彼らは皆一様に将校以外は服も鎧も漆黒で、黒い装束をかぶっていた。
平民には誰一人として危害を加えていないらしいが、
彼らは闇夜と共に黒獣の如く孫呉の兵士たちに襲い掛かると、
まるで獲物を食らうかのごとくその喉笛を食いちぎり、
呉軍の幕者に火を放って劫掠(ごうりゃく)の限りを尽くしていった。
後はほとんど、戦いにもならなかった。

この報を呉に組する山賊から聞いた主将黄蓋は瞠目し、
すぐに韓当率いる二十万を建安から差し向けたのである。
だが、帰還した来た兵の少なさに、呉の軍師陸遜は文字通り飛び上がった。
帰還した兵は三分の二にまで減っており、、韓当はほうほうの体で荊州から逃げ出してきたのであった。

一方、劉備軍配下の呂布と陳宮。彼らは、劉表の手が及んだ草だった。
蜀進撃を聞いた彼ら二人は、偵察に行ってくると劉備に言い残し、そのまま帰ってこなかった。
そして陳から許昌に渡り、廃帝董卓とその配下の軍師賈駆を誘拐。
別方面では蜀の将軍となった華雄と低の単于(ぜんう = 大将軍のこと)率いる騎馬隊が
洛陽になだれ込むと、一気に城門を突破し、守将荀ケを捕縛、連行。
楽進・李典・于禁率いる追撃部隊を蹴散らすと、そのまま徐州になだれ込み、あっという間に下丕を占領。
劉備・関羽たち一行五万は、間一髪で徐州を脱し、建業にいる孫呉の軍勢に助けを求め、
そのまま黄蓋配下に参内したのである。
169 名前:3 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:24:15 ID:4OsVyEvA0

桃香「困ったねぇ〜… どうしよっか、みんな」

愛紗「ぬう……兵の質、数共に我らとあやつらでは違いがありすぎるぞ。
   このままでは、我ら同盟軍はいずれ敗れてしまう」

朱里「はうううぅ……」

雛里「あうぅ……」

嘆く万夫不当の英傑、関羽こと愛紗と、落ち込む伏竜と鳳雛。
現実は厳しいものであった。入ってくる報告は、敗戦の報ばかり。
魏の兵をつり出すはずであった韓当の二十万は蜀の連合部隊と当たり、
六万を失う大敗北を喫してしまったのである。対して、敵が失った兵はわずかに二万。
誰が見ても、勝敗は明らかであった。
おまけに、北からは魏が睨みを効かせている。
蜀と結託して、北から侵攻されたら文字通り孫呉は一巻の終わりだ。
可能性は、十分すぎるほど高かった。

その中で、今の自分たちの将軍の数は、劉備、関羽、張飛、諸葛亮、鳳統、黄蓋、陸遜、呂蒙の八名のみ。
この八名のみで、孫呉をうまく纏め上げねばならぬ。
前途は、多難という言葉だけでは表現しきれないほど切実としていた。
軍師が多いのが、せめてもの救いか。
しかし、劉備はというと、特に武に才があるわけでもなく、かといって知の方はお世辞にも賢くはないので、
要は一般民衆とそう変わらず、結局どちらにも属せないので、差し引き実質七人といったところか。
人望だけはなぜかあるようだが、この厳しい状況では、何の足しにもならぬ。
170 名前:4 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:25:15 ID:4OsVyEvA0

祭「韓当の奴にはすまぬことをしたのぅ……」

彼らの規律には一糸の乱れなく、まるで部隊全体が何匹もの黒い獣のようであった。
それらが一気に襲いかかり、呉の軍勢と領地を飲みつくし、食い尽くしていく。
およそ容赦というものがなかった。
周辺の支城を攻略するときは、降ってくる矢を盾で防ぎ、
城門の隙間から剣や斧を振り下ろして破壊する。
扉の一部が壊れると、今度はそこから槍を突き込んで、呉軍の兵たちを次々に串刺しにし、
最後は謎の巨大な獣に体当たりさせて城門を壁ごと破壊する、という苛烈さだった。

彼らは決断を迫られたのである。

遷都か、徹底抗戦か。

遷都し、楽浪に逃げ込めば、確かに孫堅らに合流できる。
しかし、東の戦の趨勢が分からない以上、うかつに建業を放棄して逃げ出すわけにもゆかぬ。
すでに楽浪に向けて援軍要請の船は出したが、
向こうに到着するのには、どんなに早くとも、あと五日は掛かるだろう。
おまけに、果たしてこの遠い異国の建業まで彼ら高句麗の兵たちが本当にやってきてくれるかどうか。
はっきり言って、雲を掴むような話であった。

亞莎「しかし、私たちにはもう時間がありません。 何とかしてこの状況挽回しないことには、
   このままでは孫呉は歴史の闇へと消え去ってしまいます」
171 名前:5 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:26:08 ID:4OsVyEvA0

朱里「…呉の水軍を彼らに当ててみるのはどうでしょうか?」

祭「水軍を当てるのは良いが、奴らは機動力に特化した騎馬軍団じゃぞ。
  平地に逃げ込まれてしまっては、手も足も出ぬわ」

朱里「はううぅぅぅーーー……」

祭「おまけにどこだかで手に入れたのかは知らぬが、
  奴らの中によう分からぬ馬鹿でかい獣も混じっておる」

穏「うみゅう〜〜 大きな獣、ですかぁ〜」

雛里「…もしかして、戦象のことではないでしょうか?」

桃香「象? あの鼻が長くて、耳がとても大きいっていう?」

鈴々「雛里ー、知ってるのか?」

雛里「ええ、はるか南の果ての南詔という国では、
   馬の代わりに象が騎乗するための動物として使われているそうです。
   馬と違い、矢を数本受けた程度では、まず倒れることはなく、
   皮膚も硬く、普通の剣では傷一つ負わせることのできない凶暴な動物であると……」

祭「そういえば韓当の阿呆も言っておったな。見たこともない巨大な化け物が混じっておると。
  そやつら怪物どもに孫呉(ウチ)の下っ端連中は、すべて踏み潰されてしまったのだそうじゃ」
172 名前:6 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:27:19 ID:4OsVyEvA0
蜀が投入してきた兵器は、戦象だけではなかった。
取っ手を回すだけで上昇していく折りたたみ式の櫓。
先端に大きな刃のついた特殊な盾。

対してこちらには、あまりに対抗手段が少なすぎる。
城壁から投石器を持って相手側に石を投げ落とせば、
一時的に戦力を低下させる効果はあろう。
しかし、後から後からやってくる兵たちはどうする。
それにも限りというものがある。数の力に押されいずれ尽きろのが落ちだ。
そうしている間にも、周りの都市はどんどん制圧されていく。
建業だけ防げても、ほかの街が彼らに奪われてしまったら意味がない。
文字通りの四面楚歌というものだ。


さあ、どうする。
皆で悩んでいたとき、ふと亞莎がひらめいたかのように口を開いた。
173 名前:7(終) 鬼畜王文台 ◆C6nfqQUYs. [sage] 投稿日:2009/10/01(木) 03:28:18 ID:4OsVyEvA0

亞莎「……思い出しました! 陸遜様、ほら、あの時みんなで集めた毒草です!!
   すっかり忘れていました」

穏「おおおおおおおぉぉぉぉぉううううぅぅぅ〜〜〜〜〜〜 亞莎ちゃん、すぅ〜ごーいですぅぅぅ」

祭「おお!! あれじゃったか。確か北郷が、『どうしょうもなくなったときの最後の手段として使え』
  とかばかげたことを抜かしておったな」

愛紗「なんだ? その毒草というものは」

祭「うむ、まぁ実物を見たほうが早いじゃろうな。 こっちじゃ、ついて参れ」

祭は劉備軍の将たちに、城の火薬庫を案内した。
孫呉軍、起死回生の毒草作戦が幕を開いた。、



第八章一節終わり 第二節に続く

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