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704 名前:冥琳曰く、[sage] 投稿日:2009/08/08(土) 00:24:08 ID:YegV5syE0
「むにゃむにゃ……おとうさん……」

 ◇ ◇ ◇

 ぽかぽかとした陽気に誘われて始めた散歩。
 木陰でひと休憩入れていると、同伴者である璃々ちゃんがうつらうつらしてきていたので、
 「ちょっと横になる?」と聞いたら「えへへ」と少し照れながら膝にごろんとされてしまった。

 ◇ ◇ ◇

「す〜、す〜」
 目を細めながら璃々ちゃんの髪を梳く。
 少しくすぐったそうな反応が返ってきたけれど、嫌がられることはなかった。
 その様子を見ていると、
「ふああぁあぁ〜。なんか俺も眠くなってきた」
 俺の膝を枕に眠りこける璃々ちゃんの姿は、良い感じに眠気を誘発してきてくれて……、
 ………
 ……
 …
「…………ぐぅ」
「お館様」
「うわっ!! ……って、桔梗か。びっくりした」
 心臓が口から出ていくぐらいの勢いで飛び跳ねる。
「女性(にょしょう)が話しかけたのに対し、吃驚したとは失礼な話ですな、お館様よ」
「って、桔梗か。いや、桔梗がどうかっていうんじゃなくて、いきなりだったからさ」
 いきなりも何も、普通に話しかけただけですぞ? と小首を傾げる桔梗。
「いや、別にどう、ということはないんだが……」
 桔梗が言ってきているように女性に対し、驚いてしまったこと少し申し訳なく思い、小声になってしまったところ、
「……何かやましいことがおありか?」
「ぶっ」
706 名前:冥琳曰く、[sage] 投稿日:2009/08/08(土) 00:27:03 ID:YegV5syE0
 思ってもみない桔梗の台詞に思わず吹き出してしまった。
「天をも衝く○○○を持つお館様が、わしの一言ごときで反省されるわけがない。で、あるならば
何か引け目を感じるところがお有りだったに違いない」
 すうっと、桔梗の眼が細くなる。
「引け目なんてないからね?」
 実際そんなものはないんだが、割合本気成分が含まれていそうな桔梗の眼に
なんとなく不穏なものを感じてしまう。
「声がうわっついておられるようだが?」
 いよいよ疑念は深まってきてしまったようだ。……100%誤解成分で出来ているというのに。
 さて、どうして誤解を解けばいいのかなと考えてみたところ、腑に落ちるように名案が浮かんできた。
 璃々ちゃんに証明して貰えばいいんじゃないか、と。
「ちょっと起きてもらっていいかな、」
 それを早速実行に移そうと璃々ちゃんの肩を揺すろうとしたところ、
「おとうさん……や、そこはさわっちゃ……だめぇ……」
「…………」
「…………」
「そこかっ」
「どこだよっ!?」
 フリーズから復活した桔梗の確信に満ちた叫びに対するカウンターは、非常にむなしい響きを伴っていた。
 桔梗が最重視するのは、勿論璃々ちゃん発言。それがどれだけトンデモであろうとも、信用度は男のソレと比較にならない。
「よくよく当たる己の勘を、これほどやっかいだと感じたのは初めてぞ。世には知らずに済ませた方が良いこともある」
 ガチャリという鈍い音とともに轟天砲の銃口が向けられる。
「いや、ちょっとそれは」
 適当なことを言えば、この身がふっとぶ。
 場を切り抜けようと頭が高速回転を始める。「どう考えてもあり得ることじゃないと思うですよね、
桔梗が考えていることは。だっていつも桔梗と紫苑にしていることは璃々ちゃんとじゃできないことばかりで
その1点だけでも俺の潔白はむしろ証明されているというか、そう思わない? 桔梗?」
707 名前:冥琳曰く、[sage] 投稿日:2009/08/08(土) 00:28:38 ID:YegV5syE0
「ふむう……」
 一方的にまくし立てた俺をうさんくさげに見ながらも考え込む桔梗。
 そして、叫び声。
「年増っ!!」
「誰が年増ですかっ」
 どこから湧いてきたのか、いきなり現れる紫苑。……そこの岩場にでも隠れていたのだろうか。
「そんなことはどうでもいいから」
「全然良くないでしょう?」
 抵抗する紫苑を、桔梗が強引に陰へと引っ張っていく。
「ひそひそひそ」
「ひそひそひそ?」
「ひそひそひそ」
「ひそ、ひそ、ひそ」
 ひそひそ話は終わったのか、ジロリ、と俺を睨め付けてくる紫苑。
「ご主人様っ」
「はいっ」
「桔梗に言った言い訳は本当ですか?」
「言い訳じゃなくて」
「お黙りなさい」
「はいっ」
「それが本当なら……」
「勿論本当ですとも」
「誠意を見せていただきたいですわね、桔梗」
「そうさな。ふたり合わせて三日間、とかかの」
「三日間も!?」
「あらあら、桔梗は意外と遠慮する方なのね。しかし、ご主人様の誠意が三日ぐらいなんてそれは却って失礼というものよ?」
 俺の叫びを当然のように黙殺した上でその斜め上を行こうとする紫苑。
「ほう、では紫苑ならそこはどう読む?」
「それはもう十日間耐久、なんていうめくるめくことを期待していいのではないかと思っているわよ?」
708 名前:冥琳曰く、[sage] 投稿日:2009/08/08(土) 00:29:03 ID:YegV5syE0
 そろり、そろり。
「はははっ、それは豪儀じゃ。……で、お館様よ、どこに行かれるおつもりかな」
 抜き足差し足で撤退しようとする俺の背後に桔梗が回り込む。
「逃がしませんぞ」
 桔梗の豊満な胸と腕の間に挟まれたかと思うと、反対は紫苑にがっちり抑えられてしまっていた。
「いやあそろそろ仕事に戻らないとね?」
「部下に誠意あるところを見せるのも、立派なお役目ですな」
「そうね、ご主人様を十日間も占有できるなんて、わたくしたち本当に果報者ね」
「や、いくら俺でも十日間はムリ……」
「たっぷり可愛がってくださいね?」
 ほんのり頬を染める紫苑は可愛くてエロいけど……、
「それは流石に種が持たない〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
 叫び声はあっさりと虚空の中に消え、ずるずると引きずられる音だけが、辺りにいつまでも響いていた。



<了>
709 名前:冥琳曰く、[sage] 投稿日:2009/08/08(土) 00:30:35 ID:YegV5syE0
桔梗タイムが過ぎちゃったけど、書いたので桃香〜。
(一発ネタなので、転載は不要です)

それでは。

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