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924 名前:雪蓮曰く、[sage] 投稿日:2009/07/20(月) 23:05:31 ID:MkIWSOWU0
自分の中で呉成分が不足してきたので突発的に書いてみました
無印やったの随分前なんでちょっと違和感のあるキャラがいるかも知れませんがご容赦を

http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0350
930 名前:雪蓮曰く、[sage] 投稿日:2009/07/20(月) 23:54:46 ID:MkIWSOWU0
>>928
転載ありがとうございました


大喬については公式がフタなんで否定もせず、個人的には苦手なので明確な描写もせずって感じにしました
女の子でもおちん子でもお好きな方を思い浮かべてください



「北郷」
 行為の余韻に浸っていると、不意に冥琳が放し掛けて来た。
 顔を向けると彼女は軽く髪をかき上げながら俺の顔を見つめていた。
 汗で頬に張り付いた後れ毛が艶かしくて、一瞬ドキッとしてしまう。
「何?」
「もし、私に何かあった時に頼まれて欲しい事がある」
「何か?何かって何だよ?」
 彼女の不吉な物言いに、俺は胸がざわつくのを感じた。
 俺達にとって等しく大事な存在だった雪蓮が死んでまだ間もない。
 この上冥琳まで居なくなるなんて、俺は考えたくもなかった。
 必然的に声が荒くなる。
 そんな俺の様子に、彼女は苦笑を漏らして言った。
「前にも言っただろう?こんな時代なのだ。先に何があるかなんて誰にも分からない。私
が死ぬかも知れないし、お前が死ぬかも知れない。天命が尽きれば人は死ぬ。それだけの
事だ。ただ、その時に悔いを残したくは無い。だからお前に頼んでおくのだよ」
 顔には笑みを浮かべているが、その目は真剣そのものだった。
 そんな目をされて俺が断れるはずも無い。
「わかったよ。俺に出来る事なら何でもするさ。けど俺で良いのか?祭さんとか明命とか
俺よりも頼りになりそうな人は沢山居ると思うんだけど」
「お前だからだよ。私にとって信頼できる人間と言うのは何人も居るが、頼ろうと思える
のはこの世に二人だけだ。そして──今はお前しか居ない」
「冥琳……」
「何だ、その顔は?まるで狐に抓まれたみたいだぞ。それとも本当に知らなかったとでも
言うのか?少なくとも私は、それぐらい思える相手でもなければ身を委ねよう等とは思わ
ないがな」」
「いや、だって、俺なんか大して役にも立ててないのに、まさかそんな風に思われてると
は思わなかったし」
「あまり謙遜をするな。傲慢なのはダメだが、卑屈すぎるのも良くない。お前が自分を卑
下すると言う事は、お前を認めた私達をも莫迦にしているのだぞ?」
 その言葉は口調こそ穏やかなものの、彼女が本当に怒っている事が感じられた。
 つまりは彼女の言葉に嘘が無いと言う事を意味していた。
 その事実は俺にとって純粋に嬉しく、同時に申し訳なくもあり、だから素直に謝った。
「ごめん、冥琳。それと、ありがとう」
「まったく。雪蓮が居たらいきなり殴られているところだぞ?」
 そう言って冥琳が微笑んだ。
「うん。雪蓮に冥琳、この世で最高の女性二人が認めてくれたんだ。謙遜なんかするより、
胸を張って恥ずかしくない様に頑張らないとな」
「あ、ああ。うん、分かれば良いさ」
 冥琳の顔は僅かに赤くなっている。
 じっと見つめると目を逸らされた。
 うん、間違いなく照れている。
 多分さっき俺が言った最高の女性ってとこが引っ掛かったんだろう。
 だけど俺に謙遜するなと言った手前否定も出来ず面映く感じてるってところか。
 尤も俺の言葉は紛れも無い本心なんだからしょうがないよな。
 それに照れる冥琳ってのも目新しくて可愛いし。
 でもこれ以上追い詰めると後々自分に返って来る事を俺は知っている。
 祭さんの様に半日正座させられた上、痺れた足を突っつかれまくるなんて俺はごめんだ。
 だから俺は気付かないふりをして彼女に訊いた。
「それで俺に頼んでおきたい事って何?」
「うむ。それはな──」
 後にして思えばこの時はもう、冥琳は知っていたんだろう。
 自分がもうすぐ死ぬ事を。
 
 首都建業から歩いて半日ほど、山間の小さな村の外れにその家はあった。
 それほど大きくは無いが造りはしっかりしており、また簡素な様でいて所々に意匠を凝
らした細工が施されている。
 なるほど、建築時には雪蓮が積極的に関わっていたと聞いてたけど、確かにこの辺の趣
味は雪蓮の好みに近い。
 俺は懐かしさも相俟ってフラフラと家の敷地内に足を踏み入れてしまった。
「何者!?」
 鋭い声に誰何された。
 目を向けると女の子が俺を睨み付けていた。
 まだ幼い容姿ながらかなり可愛い。
 おそらくこの少女が冥琳の話していた子だろう。
(とするともう一人──)
 俺が辺りを見回すと、女の子がもう一人姿を現し、先程の子に駆け寄った。
 よく似た容貌で二人が姉妹なのは疑いようも無かった。
 ただ最初の子がかなり気が強そうに見えるのに対し、後から来たこの方はやや大人しげ
な印象を受けた。
「ちょっと!黙ってないで何とか言ったら!?」
 黙ったままの俺に痺れを切らし、初めの子が声を荒げた。
「小喬ちゃん、何があったの?この人は誰?」
「家の前をうろうろしてたからそれを問い質してるところよ。お姉ちゃんは下がってて」
 小喬と呼ばれた子は、姉と呼ばれた子──こちらが大喬なんだろう──を背に庇う様に
して再び俺をキッと見据えた。
「もう一度訊くわよ。アンタは何者?答える気が無いの?だったら──」
「ゴメン、悪かった。別に怪しい者じゃないよ。君達に用があって来たんだ。俺の名前は
北郷一刀。今は呉王孫権の下で世話になってる」
「北郷……?何か聞いた事ある名前ね」
 そう言って小喬が俺の姿をじろじろと無遠慮に眺めた。
 と、後ろにいた大喬がハッとした表情を見せた。
「小喬ちゃん、北郷さんって確か雪蓮様や冥琳様がよく話していらっしゃった──」
「天の御遣い!?」
 どうやら雪蓮や冥琳はこの子達に俺の事を話して聞かせていたらしい。
 話が早い、そう思った次の瞬間だった。
 小喬の顔から一切の表情が消えた。
「あんたがここへ来たって事は、そう言う事なの……?」
「……ああ。冥琳が死んだ。俺はそれを伝えに来たんだ」
 冥琳の奴、この子達には自分が長くないって事を伝えてたってわけか。
「これ」
 ポケットから包みを出して小喬に手渡した。
 それを手に取りながら彼女が俺の顔を見上げた。
「冥琳の遺髪。何かあった時は君達に届けてくれって頼まれてた。雪蓮の時は冥琳が持っ
て来たんだろ?一緒に置いてやってくれ」
 小喬がのろのろと包みを開ける。
 中から生前の冥琳そのままの艶やかな美しい黒髪が一房現れた。
「……冥琳……様……」
 小喬がポツリと冥琳の名を呼ぶ。
 暫くそうやって遺髪をぼんやりと見つめていた小喬だったが、不意にその顔が歪んだか
と思うと、双眸からぼたぼたと大粒の涙を溢れさせた。
「う……ふぐっ……ぅあ……ああっ……ああああぁぁぁぁぁ────っ!!」
 遺髪を胸に抱きしめ小喬が泣き崩れる。
 意外な事に気弱そうに見えた大喬の方が、気丈にも妹を気遣っていた。
 そんな俺の心中を視線から察したのか、大喬が俺に顔を向けた。
 流石にその瞳は涙で潤んでいたが、取り乱すような様子は無い。
「小喬ちゃんは誰よりも冥琳様に懐いていましたから。雪蓮様が亡くなられた時は、私が
今の小喬ちゃんの様な感じでしたけど」
(そう言えば史実でも大喬は孫策の妻、小喬は周瑜の妻だったな)
 この世界では孫策も周瑜も女性だからそう言った関係は無くなっているようだけど、元
の歴史上の関係が相性とかそう言ったものにも影響してるのかも知れない。
 妹を支える大喬の姿に、俺はそんな事を思っていた。
 しかし大喬もそれが限界だったらしい。
 小喬の悲しみが伝わったかのように彼女の肩も震え始め、口からは押し殺した様な嗚咽
が漏れ聞こえていた。
(冥琳、やっぱりお前早過ぎたよ。俺達の他にもこんなにもお前の死を悲しむ子達が居る
じゃないか)
 思い残す事は何も無いと、彼女は言った。
 自分の為すべき事を成し遂げたのだから満足している、とも言った。
 だから悲しまず、笑って見送れと。
 そう言えば雪蓮が死んだ時も、悲しみなんてのは生者の感傷に過ぎないと言ってたっけ。
 けどそれは共に肩を並べて戦い、その想いを引き継ぐ事が出来た俺達にだから言える言
葉だったんだ。
 でなければ形見分けなんて感傷以外の何物でもない行為を、俺に託すわけがない。
 俺は二人を見ながらそんな事を考えていた。
 
「二喬?」
「うむ。喬公と言う人物の娘なんだがな、姉の大喬と妹の小喬を総じてそう呼ばれている。
共に江東を代表する美少女と名高い」
「それでその二喬がどうしたんだ?」
「元々美形で知られる二人だったのだがな、とある人相批評の大家が姉妹を見て『この二
人を妻にする者がいたら、その者は必ずや富貴を極めるであろう』などと傍迷惑な評価を
下した事で姉妹を手に入れようとする人間が殺到したのだ。大将軍何進のような位人臣を
極めた者から、州牧・太守、果ては一介の商人やら賊徒の頭目に至るまで欲に塗れた愚人
共が我こそは、とな。結局姉妹を力尽くで手に入れようとした厳白虎と言う男を雪蓮が斬
り、二人を人知れず保護してこれまで援助してきたのだよ」
「へぇ。いかにも雪蓮らしいな」
「だが何時までも二人を援助し続けるわけにもいかん」
「え?な、なんで?」
「何時何が起こるとも分からん世の中だ。曹操に負ければ呉は滅ぶ。私だって何時死ぬか
など誰にも分からない。その様な不測の事態が起こった時に誰が二人を支援すると言うの
だ?私は何があっても自分達で生きていけるように、二人には力を付けて欲しいと思って
いるのだ」
「うん、冥琳の言いたい事は分かるよ」
「それでなのだがな、もし私に何かあった時は、お前が二人に会って彼女達に生きる道を
指し示してやって欲しい」
「お、俺がっ!?冥琳が予め言っておくのじゃダメなのか?」
「私が死んだ後の事を私が指示してどうするのだ。それでは何かあった時に責任が取れな
いではないか。だからお前が──この世で只一人、私が頼れる人間である北郷一刀が、責
任を持って二人を導いてやってくれ」
「…………」
「……ダメ、か?」
「……いや、分かった。冥琳の想いは、必ず俺が引き継ぐよ」
「ありがとう。お前ならそう言ってくれると思っていた」

 冥琳に二人を頼まれた時の事を思い出していると、二人がスッと立ち上がって俺の前に
立った。
 二人とも泣き腫らして真っ赤な目をしていたが、気分は幾分落ち着いたように見える。
「冥琳様の遺髪を持って来てくれた事には礼を言うわ。でも、もう来ないで」
「え?」
 突然の小喬の言葉に面食らう。
「私達なら大丈夫です。二人で生きていけますから」
「冥琳様もそれを望んでいたんでしょ?」
「……ああ。でも」
「私にとって大切な人は冥琳様と雪蓮様とお姉ちゃんだけ」
「私にとって大切な人は雪蓮様と冥琳様と小喬ちゃんだけ」
「だから他の人の世話にはならない」
「だから他の人には頼りません」
「それが冥琳様の愛したあんたであっても」
「それが雪蓮様の妹である孫権様であっても」
『私達はお二人の想いがあれば、それだけで充分』
 俺はそれ以上何も言えなかった。
 彼女達の目を見れば、それが只の虚勢かそうでないかなんてすぐ分かる。
 一見小蓮ともさほど歳が違わないように見える幼い少女達は、俺が思っても見なかった
くらいに大人だった。
 一人の大人に道を指し示すなんて、傲慢が過ぎる。
 だから俺は素直に帰る事にした。
「それじゃ、また来るよ」
「ちょっと!あんたさっきの私の言葉、聞いてなかったの!?」
「いや、聞こえてたよ」
 確かに彼女は俺にもう来るなと言った。
「じゃあどう言うつもり!?もしかしてあんたも私達を手に入れて権力を手にしようって
考える輩!?」
 小喬が柳眉を吊り上げて俺を詰った。
「そんな事考えちゃいないよ」
「ならどうしてなんですか?私達はそっとしておいて欲しいんです」
「だって、仲間だろ?」
「い、いつ私達があんたなんかと仲間に──」
「雪蓮と冥琳。同じ人達を愛した仲間だよ」
「!」
「君達を利用するような真似はしないと約束するよ。だから俺の知らない冥琳達の話を聞
かせてくれないか?」
「……そんな口約束なんて」
「なら雪蓮と冥琳の名に懸けて誓う。もしこの誓いを破ったら殺されても文句は言わない」
 本心だった。
 これで俺が誓いを破れば二人の名前に泥を塗ることになる。
 そうなったら誰よりも俺が俺自身を許せないだろう。
「…………お茶なんか出さないわよ」
 暫く俺の顔を睨むように見つめていた小喬だったが、プイと顔を背けながらそう言った。
「それって」
「フン!」
 しかし不機嫌そうに鼻を鳴らすと、それっきり何も言わずズンズンと家の方へ立ち去っ
てしまった。
 そんな妹の様子を見て大喬がクスッと笑った。
「小喬ちゃんも北郷さんの事を信じてみても良いと思ったんですね。──ううん、あなた
じゃなく、あなたを信じた雪蓮様や冥琳様を信じているって感じかな」
「それでいいよ。初対面の俺をいきなり信じてくれって言ったって無理だろうし。俺の事
はこれからゆっくり知ってもらってその上で判断してくれ」
「はい!」
 明るくそう返事する大喬の笑顔はとても魅力的だった。
 
 それから数年が過ぎた。
 亞莎や穏に次ぐ副軍師としての立場に居る俺は以前と比べても何かと忙しかったが、そ
れでも十日に一度くらいは姉妹の家に顔を出した。
 早くから俺を受け入れてくれた大喬に比べ、小喬の方は中々打ち解けてはくれなかった
が、それでも半年が過ぎた頃には大分心を許してくれているように見えた。
 そして二人に子供が産まれた。
 どちらも娘で、無論俺の子だ。
 大喬の子は孫紹、小喬の子には周循と名付けられた。
 喬姓を付けなかった理由を訊くと、
「私達と同じ苦労を味あわせたくなかったから」
「未だに私達姉妹を手に入れたら、なんて考えてる莫迦もいるらしいから。そんな奴等が
この子達を私達の代わりになんて考え起こさないとも限んないでしょ?」
 そう答えた二人に俺は頷いたものの、喩え子供達に喬姓名付けたとしても俺は絶対にこ
の子達を不幸な目に遭わせるつもりはない。
 その事を二人に告げる。
「うん、分かってる」
「当然でしょ。冥琳様の信頼を裏切ったりしたら私が殺してやるんだから」
 反応は対照的だが二人がそれぞれに俺を信じてくれているのは伝わってきた。
 なら俺はその信頼に応えなきゃな。
 この二人も、二人の子供達も、勿論蓮華達とその子供達も。
 必ず、守る。
(だから雪蓮、冥琳、見ていてくれよな)

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