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646 名前:星曰く、[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:24:35 ID:4PrpDwRk0
いきなりですけどちょっと長めの小ネタ桃香します
647 名前:振り向けば小さな昨日 1/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:26:51 ID:4PrpDwRk0
「かーずと!」
 洛陽の街を巡回していた俺は、突然後ろから掛けられた声に振り向いた。
「何だ、天和達か」
 そこにはニコニコと手を振っている天和達が立っていた。
「ちょっとー、何だとは何よ!ちぃ達に声を掛けられて嬉しくないっての!?」
「そんな事言ってないだろ。後ろからだったから誰かと思っただけだよ」
「そうだよー。一刀は私と逢えて嬉しいんだもんねー」
「ちぃと逢えた事の方が嬉しいに決まってるでしょ!?」
「えー、お姉ちゃんと逢えた事のほうが嬉しいよー」
「二人とも、その辺でやめて。そんな言い争いをする為に一刀さんを探してたわけじゃな
いでしょ?」
 人和が二人の間に割ってはいる。
 人和の言葉にはあっさり従う辺り、相変わらず姉妹のまとめ役なんだな。
 それにしてもこいつらといい、春蘭達といい、なんで魏の姉妹って妹の方がしっかりし
てるんだろ?
 まあ、それはともかく──
「俺を探してたって?偶然会ったわけじゃないんだ」
「うん、そうなのー」
「実はアンタに頼み事があってさ」
「俺、今仕事中だから。じゃ、そう言う事で」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
 踵を返した俺の腕を地和が慌てて掴んだ。
「話も聞かないってどう言う了見!?」
「いや、お前等の、って言うか天和と地和の頼み事って言うと、また何か買えとか、奢れ
とかだろと思って」
「何よ、それ!?」
「ひっどーい!一刀ってば私達の事、そんな風に思ってたんだー」
「普段が普段だから仕方ないと思う……」
「人和の裏切り者ー!」
「れんほーちゃんはお姉ちゃんの味方だと思ってたのにー」
「ああ、分かった、分かった!俺が悪かったって。とにかく話を聞くから、天下の往来で
騒がないでくれ」
648 名前:振り向けば小さな昨日 2/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:27:43 ID:4PrpDwRk0
 ただでさえ美少女姉妹で人目につくのに、ましてや今をときめく数え役満しすたーずが
こんな所で大騒ぎしてる姿なんて格好の見世物過ぎる。
 こんな姿を華琳に見られたら何を言われるか──って、あの通りの角でニヤリといかに
も邪悪な笑いを浮かべて姿を消したの桂花じゃないか?
 あの様子は絶対華琳にチクる気だ。
 この間、性懲りも無くまた落とし穴掘ってたから後ろから脅かしたら、自分が落ちて中
にばら撒いていた犬のウンコ踏んだのまだ根に持ってるのか。
 ……どこまでも自業自得のクセに酷い逆恨みだな。
 とにかくここでこうしていても仕方ない。
「取り敢えず移動しようぜ」
「ならお姉ちゃん、お腹も空いてきたし一刀の奢りでご飯食べながら話すー」
「あ、それちぃも賛成ー!」
「ちょ、お前等!」
「何食べよっかー?」
「ちぃ、春風亭の餃子が食べたーい!」
「だから誰も──」
「うーん、三遊亭の小龍包も捨てがたいなー」
「奢るとは一言も──」
「締めは古今亭の杏仁豆腐よね!」
「言ってないって!」
 当然ながら二人ともガン無視。
 人和の憐れむ様な眼差しが、余計胸に突き刺さる。
 結局俺は抵抗虚しく、天和と地和に引き摺られて行ったのだった。
 
「それで俺に頼みってのは?」
 あらかた料理が片付いたところで、俺は口を開いた。
 テーブルには皿の山が積まれている。
 ……経費じゃ落ちないだろうなぁ……。
「あのねー、来月早々にまた公演があるんだけどー」
「それがちょっとややこしい内容なのよ」
「ややこしいって?」
「いつもの新兵の徴募や戦意高揚を目的とした公演ではないって事」
649 名前:振り向けば小さな昨日 3/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:28:44 ID:4PrpDwRk0
「と、言うと?」
「華琳様からの依頼で、戦で心に傷を負った兵士達を立ち直らせるような歌を披露しなく
てはいけないの」
「華琳からの?え、でも俺、何も聞いてないけど?」
 華琳直々の依頼なら、姉妹の世話役である俺に話が来る筈だ。
「アンタ、ここんとこ体調崩してたんでしょ?だからあまりアンタに負担を掛けないよう
にって、代わりの人を寄越したのよ」
「そう言う事か」
 言われてみれば定軍山の戦いの頃から、疲れやすくなってたもんな、俺。
「あの子、楽進ちゃんだっけ?可愛いよねー。あんまり喋らない子だけど、私達が一刀の
事を話すたびに一々反応して、もう一刀好き好き光線全開って感じー」
「ま、一刀はちぃのなんだけどね」
「えー、一刀はお姉ちゃんのだってばー」
「いや、俺は誰の物でも──」
「もう、話が進まないじゃない。一刀さんは私達三人ので良いでしょ?」
「ちょ、人和まで」
「うーん、それで手を打つか」
「お姉ちゃんもそれで良いよー」
「俺の意見は無視ですか……」
「はいはい。それじゃ話を先に進めるわよ」
「…………」
 ま、何時もの事なんだけどね。
 それで姉妹の話を要約するとこうだった。
 依頼の要件を果たす為に新曲を作る事にしたらしい。
 それも従来の彼女達の歌とはかなり趣の違うものを作ろうとしたらしい。
 曲は出来て、歌詞も概ねは完成したそうなんだが、一部語呂の悪い箇所があるらしい。
 そこでその部分に天界の言葉、つまり俺の世界の言葉を組み込みたいって事だった。
「で、具体的にはどんな言葉が良いんだ?この前のぎゃらくてぃかみたいな何となく凄そ
うな感じの奴で良いのか?」
「いえ、出来れば歌詞の意味に当てはまる言葉が良いわ」
「なるほど」
 なら英訳とかすれば良いのかな?
650 名前:振り向けば小さな昨日 4/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:29:46 ID:4PrpDwRk0
 まあ英語は苦手だったから簡単な単語くらいしか分からないけど。
「それで当てはめたい言葉ってのは?」
「若い男の人に呼び掛ける様な言葉ね。ちぃ達に目を惹き付けるような」
「若い男ねぇ。ならボーイとか……ヤングマンはちょっと違うかな?」
「ぼうい?」
「若い男って言うか、厳密には少年って意味なんだけどね」
「ふむ。悪くないわ。どうせちゃんとした意味を知ってる人なんて居ないんだし、何より
語呂が良いもの。それじゃあ後はそのボーイに呼び掛ける様な感じの言葉ね」
「うーん、ヘイとかカモンとかって感じかなぁ?」
 正直要求が抽象的でよくわかんないけどな。
「ボーイヘイかボーイカモンって事?」
「いや、この場合はヘイボーイやカモンボーイって方が正しいかな」
「なるほど」
 そう言うと人和は何やら考え込んだ。
 多分どっちが他の歌詞や曲のイメージに合うか考えてるんだろう。
 俺は邪魔しないように彼女の様子を見守った。
「ねー一刀ー。れんほーちゃんばっかりずるいー」
「そうよ、少しはちぃ達の相手もしなさいよ!」
 我侭な姉二人は無視──
「いふぁいいふぁいいふぁい!ほ、ほっへふぁをひっふぁるふぁ!」
 出来なかった。
「何やってるのよ……」
 人和の呆れたような声で我に返る。
 見ると荷物を片付けているところだった。
「決まったのか?」
「ええ。一刀さんのお蔭よ、ありがとう」
「お礼なら公演が成功してからにしてくれよ」
「フフッ、それもそうね。──ほら、姉さん達。帰って新曲の練習するわよ」

651 名前:振り向けば小さな昨日 5/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:30:54 ID:4PrpDwRk0
 それから五日が経った。
「隊長、今日の警備頑張りましょう!」
「え?あ、ああ、勿論しっかりやろうぜ。真桜と沙和も良いな?」
「あったり前やないかい。今日の公演は絶対成功させて見せるわ!」
 真桜の答えが予想外に意気込んでいたので、俺は少し面食らった。
 見ると沙和もウンウンと頷いてる。
 凪はともかく、こいつ等がこんなに張り切ってるなんて珍しいな。
 そんな疑問を抱えていると──
「何しろ今日の公演の結果如何で、あの子達が立ち直れるのー!」
「あの子達?」
「うち等が手塩にかけて育てた兵士達やがな」
「戦で傷付くのはある意味仕方ないですが、機会があるのならやはり立ち直らせてやりた
いですから」
「戦場ではどうしても『兵士』として一括りにされちゃうけど、皆一人の人間なんだもん。
沙和達にとっちゃ全員大事な教え子なのー」
 なるほど、そう言う事か。
 この国の兵士って事は、当然こいつ等が鍛えたって意味だもんな。
 そりゃあ意気込みも違うってものか。
「よし、しっかり警備して、最高の公演が開けるようにするぞ!」
『おーっ!!』
 そしてライブが始まった。
「みんなー、大好きー!」
『て────んほ────ちゃ────ん!!』
「みんなの妹ー!」
『ち────ほ────ちゃ────ん!!』
「とっても可愛いー!」
『れ────んほ────ちゃ────ん!!』
「うーん、やっぱり何時もに比べて盛り上がりが低いなぁ」
 俺は観客の上げる声を聴いてそんな感想を持った。
 当然あいつ等もその事は感じているだろうに、全くそんな表情を見せないあたり流石は
張三姉妹だ。
 ここから先は彼女達のお手並みに期待するしかないけど、きっと上手くやってくれるさ。
652 名前:振り向けば小さな昨日 6/6[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:31:55 ID:4PrpDwRk0
 そんな事を考えている内に曲が始まった。
 何時ものポップな曲調と比べると、凄く熱い感じの曲だ。
「確かに闘志が湧き上がりそうな感じだな」
 そんな事を考えていると舞台の上で姉妹が動いた。
 天和が中央で左右に地和と人和。
 このフォーメーションは天和がメインで地和達がコーラスを務める時によく使う形だ。
「勿論地和達もそれぞれパートはあるんだろうけど。──っと、そろそろイントロが終わ
りかな?」
 俺の予想通り、三人がマイクを構えた。
『Come on Boy!!』
「辛い時ほど♪」
『Come on Boy!!』
「笑おうぜ♪
 そうさ勇気がすぐ戻る♪」
「男だもんな♪」
「若さだもんな♪」
「心の炎が眩しいもんな♪」
『Yay!Yay!Yay!』
 非常にメタルな歌だった。
「………………あー、うん、まあ確かに熱いよね」
 事実観客はさっきと比べ物にならないくらいの盛り上がりを見せ、会場全体をもの凄い
熱気が包んでいた。
 固有名詞はどうなんだとか、何で刑事達は飛ばしたんだとか、色々突っ込みどころは満
載だけど、盛り上がってるし、まあ良いか。
 何となく春蘭が聴いてなくて良かったと思ってしまう俺だった。
 ちなみにこの時の観客は殆どが戦線に復帰したと言う事実を追記しておく。

653 名前:星曰く、[sage] 投稿日:2009/06/05(金) 23:32:18 ID:4PrpDwRk0
以上、お目汚し失礼しました

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