──真√──
真・恋姫†無双 外史
北郷新勢力ルート:第三章 反董卓連合之四
外史スレ再びの規制のため、専用UP板に上げさせて頂く事になりました。
折角ですので、本作における共通の注意事項をいくつか。
・オリジナルルートの為、登場人物同士の呼び合い方が、原作とは異なるものがあります。
例)風→一刀=原作:お兄さん・本作:ご主人様
※独自の呼び名は、そのキャラのイメージによりますので、人によっては違和感を感じるかもしれません。
・エロ成分は極薄です。
・北郷一刀の立ち位置、作品内にて歩んだ道筋により、『天の御遣い』と言う名の持つ影響力は、原作より強くなっています。
・原作にてセットになっているものを崩す傾向にあります。
例)張三姉妹→人和 北郷隊三羽烏→凪
・本作にはご都合主義成分が多分に含まれております。用法、用量を守ってお読み下さい。
さて、いよいよ虎牢関攻略戦になりました。
相も変わらず戦闘描写は稚拙でございますが。
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では、気が向きましたら、お付き合い下さいませ。
──真√──
真・恋姫無双 外史
北郷新勢力ルート:第三章 反董卓連合之四
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連合軍はとうとう虎牢関へと迫っていた。
自然と人の手が織り成す、天険の要害。難攻不落と謳われる虎牢関は、静かに連合軍を待ち構える。
攻め寄せる連合軍は、前曲右に劉備軍と公孫賛軍を、前曲左に北郷軍と涼州軍を配置し、先鋒とする。
そして左翼からは曹操軍が、右翼からは孫策軍が虎牢関を伺い、前曲と後曲の間に他の諸侯を、
後曲として袁紹軍と袁術軍が、攻めの機会を伺っていた。
──後曲・袁紹軍──
「ホ〜ッホッホッホ!ホ〜〜ッホッホッホ!!」
戦場に高笑いが木霊する。
金色の鎧にその豊満な身体を包み、美しい金髪を風になびかせるは、麗しの袁家の姫君、袁本初である。
「さぁ、劉備さん!天の御遣い〜とやら!このわ・た・く・しの為に道を切り開きなさい!!」
「うわぁ〜……なんか姫、気合入ってんなぁ……」
袁紹の高らかな声に、いかにも面倒くさそうに言ったのは、“袁家の二枚看板”として名を馳せる一人、文醜だ。
「水関に一番乗りした孫策さんの名前が、思ってたよりも諸侯の評判に上がったからねぇ。
水関ごときーって放っていた分、悔しいんだと思うよ」
文醜のぼやきにそう答えたのは、二枚看板のもう一人である顔良。
「虎牢関こそはってやつかぁ。ま、あたいとしては城攻めとは言え、ようやく戦えるからいいんだけどな」
「もぉ〜……文ちゃんってばぁ」
はははーと笑う文醜を、仕方ないなぁと言う様に見る顔良。
「でもどうせ虎牢関の人たちは篭城するだろうから、私達って結局出番無いかもしれないよー?」
「え〜!?なんだよそれぇ!
……こらーー!!お前達出てこーい!!!」
「も〜、ここから叫んだって……」
聴こえるわけないよ……と顔良が続けようとしたそのとき──虎牢関より出陣の鼓が、鳴り響く。
「うそ!?本当に出てきた!?」
──前曲左・北郷軍──
「さて、向こうはどう出てくるかね?」
一刀は遠目に、閉ざされた虎牢関の門を見つめながら、隣に居る稟へと問いかける。
「はっ……こちらの希望としては虎牢関に篭ってくれるのが一番なのですが」
「その間に月ちゃん達に、色々と根回しができますからねー」
「ええ。……ですが、一刀様のおっしゃっていた呂布の強さが本当であれば……一度打って出てくる可能性が高いかと」
「打って出てくる……ですか?ですがそれで水関で失敗しているのでは?」
稟の予測に、周泰がそんな疑問の声を上げる。
「ええ。ですがあれは、作戦上と言うよりも、むしろ華雄が暴走した……と言った雰囲気でした。実際、張遼の引き際は見事でしたので。
ですが、今回は違います。彼女等の立場とすれば、篭城することは大前提としても、その前に一度こちらを大きく攻め、
自分達の士気を盛り上げる事は、悪いことではありません」
「そして虎牢関には呂布さんがいますからねー。飛将と謳われていても、その実際の強さは連合軍には知られておりません。
故に、連合側の出鼻を挫き、痛手を負わせるならば、今を置いて他にありませんからー。
寧ろ水関の結果が結果だけに、打って出るのは必須と言っても、言い過ぎでは無いかもしれませんよ?」
「やはり水関……ですか」
今度は風の言葉に、周泰はぽつりとそう呟いた。
水関の名は、事有る毎に上げられてきた。そう、それほどまでに──
「それほどまでに、あの緒戦は重要であったと言うことなのですよー。
董卓軍にとっても、連合軍にとっても……我々にとっても」
「…………さて皆、過ぎてしまった事は仕方が無いし、今は目の前の虎牢関に集中しようか」
少し重めになってしまった雰囲気を飛ばす様に、軽めに一刀が言うと、
「左様ですな。張遼と呂布……どちらが来るかは判りませぬが、どちらにしても不足は無い。腕が鳴ると言うものです」
「はは。張り切るのも良いけど、無茶はしないでくれよ?それと、目的を見失わないように。……ま、星なら問題は無いだろうけどな。
周泰も、期待してるけど、無理はしないでくれ」
「はい、ありがとうございます!御遣い様!」
そんな周泰の返事に、一刀は僅かに眉を顰めて「う〜ん」と唸る。
「なあ、周泰」
「は、はい!何でしょう、御遣い様?」
「そうそれ。よかったら、その『御遣い様』って言うの止めないか?やっぱりどうも照れ臭くてさ。
短い間かもしれないけど、折角仲間になれたんだし、名前で呼んでくれると嬉しいかな?」
「えっと……その、よろしいのですか?」
突然の一刀の申し出に、少々困惑しながら聞き返してくる周泰に、一刀は「もちろん」と快く頷く。
「……では、一刀様と呼ばせていただきます」
「うん、ありがとう。周泰」
と、今度は一刀の返事に周泰が考えるそぶりをする。
そして、良い考えが浮かんだとばかりにニッコリと笑みを浮かべると、
「あ、では、私の事も明命とお呼び下さい!」
「ええ!?」
その提案には、さすがの一刀も困惑した。
「えっと……それこそいいのか?そんな深く互いのことを知ってるわけじゃないけど」
「なるほど……さすがは主。己の事を名で呼ばせるのは、相手の真名を呼ぶ為の周到な罠ですか」
「星……冗談でもそんなことは言わないでくれ……」
至極真面目な表情を作りつつも、どこか茶化す様に言う星に、心底げんなりした風に言う一刀。
だが残念な事に、今も、今までも、意図はせずとも星の言う通りになっているのであるが。
「まぁ、星の冗談はともかく、別に俺が名前でって言ったからって、周泰まで真名で呼ばせてくれる必要はないんだぞ?」
「いえ、そうですね……先程の一刀様のお言葉を返すようですが、折角仲間になれたのですし……と言う所でしょうか。
それに、一刀様のお人柄などは、冥琳様よりお伺いしておりますし、色々なお噂も耳に届いています。
実際にこうしてお会いして、噂は事実であろうと、確信もいたしました」
周泰はそこまで言ってから一刀の顔を見て、もう一度、太陽のような笑みを浮かべる。
「ですから、一刀様に真名をお教えするのは、私がそうと判断したからに過ぎません」
「……わかったよ、明命」
そこまで言われてしまっては、一刀としても断るわけにはいかなかった。
そして、一刀の返事に明命はもう一度にこりと笑うと、他の皆へも真名を告げて行き、皆もまた、それに応える形で、
彼女へと真名を託すのだった。
そしてその時──虎牢関より、出陣の鼓が響き渡る。
──虎牢関・城壁上──
連合軍の布陣を俯瞰出来るその場所に、三人の人物が立っている。
「いやぁ……壮観やねぇ……」
虎牢関前に展開する連合軍を見やり、そう言ったのは張遼。水関に引き続き、虎牢関を守る将。
「まったく暢気な事を……それに霞殿は、連合軍は水関で見たはずでありましょう!?」
と、少し頬を膨らませながら言ったのは、この虎牢関を預かる知将、陳宮。
そして……
「……霞、ちんきゅ……出る」
そうぽつりと呟いたのが、万夫不当の飛将軍、呂布である。
「そうかぁ、出るかぁ。……って、出るって……出陣する言うんか!?」
呂布があまりにも何気なく言った為に、思わず聞き流しそうになった言葉の意味を理解し、張遼は耳を疑った。
「ちょい待ちぃや恋。水関がなんであない早う落ちたんか、解っとるんか?」
「…………………………(コクリ)」
一応頷きはしたものの、その前の長い間に不安になる張遼。
「……っちゅーか絶対解っとらへんやろ?あんな……」
「……お待ち下され、霞殿。打って出るのは良い案かもしれませんぞ」
張遼が呂布へと言葉を続けようとするのを遮る形で、二人の会話を聞いていた陳宮が声を上げる。
「なんやねん?いくらねねが恋の言う事が一番言うてもな、ちゃんとした理由を聞かん事にはウチは頷かんで?」
そう胡乱気に言う張遼に、
「無論、理由はありますぞ」
コホンっと軽く咳払いをしてから言葉を続ける。
「敵は水関を短期で破り、今は破竹の勢いに乗っております。
一方、こちらは難攻不落の虎牢関とは言え、押されている戦況に、兵達の士気は下がりつつあるのです。
なればこそ、ここで一度恋殿に打って出てもらうことに意味がでてくるのです!」
「成る程。一騎当千の飛将軍の実力を見せ付け、敵の勢いを止めて士気を挫き、こっちの士気を盛り上げる……か」
張遼の言葉に、「その通りなのです!」と相槌を打つ陳宮。
「おそらく、敵の中で恋殿の実力を知っている者はほとんどおりますまい。逆に言えば、打って出る機会は今しかないと言うことになりますな」
そんな彼女に、張遼はニヤリと楽しそうに笑うと、
「……っちゅーことはや、ウチも出んとアカンやろな?」
もう一度連合軍の布陣を確認しながら言う張遼に、陳宮もまた眼下を見渡しながら頷く。
「そうですな。敵は前曲を左右二軍に分けて居る模様。さらに左翼、右翼も部隊は多い。ここに恋殿一人が突っ込んだとて、
包囲されるのが関の山なのです」
「よっしゃ!そうと決まれば思う存分やったるわぁ!」
ようやく暴れられると気合を入れる張遼に、陳宮は半ば呆れ気味の目を向け、
「思う存分やるのはよいですが、間違っても深入りなぞしないようにするのですぞ!」
「わぁっとる。贅沢言えば、これで袁紹の頸でも挙げれたらそれで終わりなんけどなぁ。……さて、恋。右と左、どっち行く?」
「……………あっち」
呂布が指し示したのは、向かって左──劉の旗印であった。
「恋のご所望は劉備かいな。……ウチも関羽とやってみたかったけど……まぁええわ。
じゃあウチはあっちの十文字やね。どこの軍か知らへんけど、楽しめる相手がおるとええなぁ」
張遼は不適に笑いながらそう言うと、準備の為に城壁から降りて行った。
さあ、出陣の鼓を鳴らせ──。
飢えた獣がその顎を開くかのように、虎牢関の扉がゆっくりと開いていく。
そこに現れ出でしは、紺碧の張旗と、深紅の呂旗。
整然と並んだ両部隊は、次の瞬間、張遼隊は十文字の旗へ、呂布隊は劉旗へと突撃を開始した。
──前曲右・劉備軍──
「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、こっちには呂布さんが来るみたい。気をつけて!」
「応なのだ!愛紗、呂布とはまず鈴々が戦うのだ!」
「なにっ!?……鈴々、先ほど私が言った、北郷殿の言葉を聞いてなかったのか!?」
前線にて相手を待ち受ける関羽と張飛を心配する劉備に、張飛が応じたその言葉に、関羽が困惑の声を上げる。
「聞いてたけど、やっぱり実際にやってみないと分からないのだ。
だから、最初は鈴々が一人で戦うから、愛紗は後ろで見ているといいのだ」
そうニシシと無邪気に笑いながら言う張飛に、「まったく……」と溜息を吐く。だが、止めない辺り、その行動を認めている様でもある。
「愛紗ちゃん……大丈夫なの?北郷さんは、絶対に一人で当たるなって言ってたけど」
やはり心配そうに言う劉備に、関羽は苦笑を浮かべ、
「確かにそうですが……杞憂かも知れないとも言っていましたし。
我等としても、一人に対して二人掛りと言うのは……やはり気が引けます。
それに何より、我等にも武人の誇りと言う物があります。
呂布が強いと言うのであれば、尚更真っ向から戦ってみたいと言うのも本音なのです」
「う〜ん……どうかな?朱里ちゃん」
関羽の言いたい事も分かるのだろう。意見を求められた諸葛亮は、頬に手を当ててしばし考え、
「…………そうですね。危なくなったら直ぐに助けに入る……と、言うのであれば」
「ホントか?やったのだ!」
意外にも出た諸葛亮の言葉に、張飛が嬉しそうな声を上げる。
実際の所、関羽と張飛の力を良く解っているのは彼女達である。
それ故に、実際に一刀に話を聞いた劉備や関羽、諸葛亮でさえ、その二人がかりですら敵わない……等と言う言葉には、
内心あまり納得できてはいなかったのだろう。
それ故の、今のやり取りであるのだが。
「朱里ちゃん……本当に大丈夫かな?
私は直接お会いしてないけど……『天の御遣い』様なんだし、余りいい加減な事は言わないと思う……」
そんな中、疑問の声を上げたのは鳳統だ。
「うん。……けど、流石に愛紗さんや鈴々ちゃんが、幾らも保たないって事は無いと思うの。つまり……」
「交互に休みながら挑んだ方が、この場で食い止められる?」
「そう。そして攻めきれずと判断すれば、虎牢関に引き返すだろうから」
そんな諸葛亮の説明に、そう言う事ならと鳳統が頷く。
「では、桃香様は朱里とそろそろお下がりください」
そして、敵の襲来に備えて、関羽が二人に後退を促し、
「うん。愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、気をつけて!
雛里ちゃん、二人をよろしくね」
「はい。ご安心ください」
「任せるのだ!!」
「……お任せ下さい」
劉備の言葉に、三人が三様の返事をした後──
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
雄叫びと共に襲来した呂布軍と劉備軍が、激突した。
──前曲左・北郷軍──
「うらうら!うりゃあぁ〜!!
どうしたどうした〜?かかってこんか〜い!!」
北郷軍との会敵後、馬から下りて暴れまわる張遼が、楽しげな声を上げる。
そしてそれに応えたのは──
「では、私がお相手しよう──」
そんな一言と、雷の如き、槍の一突きであった。
「うぉっとお!!」
張遼は、咄嗟に放たれた一撃を上手く交わし、その相手へと向き直る。
「やるなぁ、あんた。何者や?」
「我が名は趙子龍。常山の登り龍にして、北郷一刀が敵を打ち破る一の槍」
「ウチは張文遠。ほな趙子龍……楽しもうやないか!!」
名乗りを上げた二人は武器を構え──互いに、相手に向かって突進した。
打ち下ろされる張遼の一撃を星が受け止め、突き出される星の攻撃を張遼が受け流す。
一瞬星の体勢が崩れた所を、張遼が横薙ぎに払い、それを星が咄嗟に槍を立てて受け、その勢いを利用するように、
自ら後ろに飛んで間合いを空ける。
そして次は己の番と言わんばかりに、一気に間合いをつめた星が、二連、三連と突きを放つと、張遼がそれをいなし、
交わして防ぎきる。
それはまさに一瞬の攻防。雷鳴の交差。
そして再び鉄の打ち合う悲鳴と共に、二頭の龍が交差する。
烈火のごとく放たれる、張文遠の飛龍の斬撃。
そしてそれに対するは、趙子龍の繰り出す、千変万化の龍の牙。
「はは!はははは!!」
数十合と交わされる龍の演舞に、張遼が楽しげな笑い声を上げる。
「水関で見た関羽も凄い思うたけど、アンタも大概楽しいなぁ!!」
「お主とて、噂に違わぬその実力。
愛紗や鈴々はともかく、呂布に華雄にそなた……いやはや、世間は広い」
そして互いににやりと笑うと、各々が武器を構えた。
──いざ。
再度、龍の舞いは、紡がれる。
──前曲右・劉備軍──
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃーーーーー!!!!」
気合と共に、連続で放たれるは張飛の猛撃。
それは常人であれば、受ければその武器ごと叩き斬られ、避けようにも避ける間もなく切り捨てられよう。
一撃一撃に強さと速さを込めた攻撃だった。
だが──。
「…………無駄」
そこに相対する人物は、そんな無造作な一言と共に、連撃の全てを受けるのみならず弾き飛ばし、
張飛の体勢が崩れた所に、さらに追撃をかけていく。
張飛はそれを何とか避け、間合いを空けると荒い息を吐いた。
「くっそ〜!恐ろしく強いのだ!」
「………………化物め」
加勢するのも忘れる程に、その圧倒的な強さを呆然と見やり、関羽が呟く。
──そう、そこに居るのは常人などではない。
呂奉先──その強さ、正に武神也。
「…………おまえ、弱い」
呂布は張飛に対してそういい捨てると、張飛の後ろに居た関羽へ視線を向ける。
その視線に「おまえはどうだ?」と言われている様な気がして、関羽は名乗りを上げた。
「我が名は関雲長!呂布よ、お相手願おう!!」
そう言い放つと、獲物である青龍偃月刀を構え、一気に間合いを詰め、左から胴を薙ぎ払う。
「…………」
呂布はそれを何も言わずに受け止めると、関羽を見てから、その後ろで息を休めている張飛を見て、
「…………おまえも同じ。弱い」
そう残念そうに言った。
その言葉に我慢ならなかったのだろう、さらに攻撃をしかける関羽の後ろから、張飛が踊り出てきた。
「愛紗!鈴々も加勢するのだ!!」
「……わかった!いくぞ、鈴々!!」
一連のやり取りで、己単体では決して敵わぬと悟ったのだろう、関羽がそれに応じ、関羽は左、張飛は右から切りかかっていく。
「…………すごく良くなった」
呂布は少しだけ嬉しそうに言うと、関羽の打ち下ろされる斬撃を受け止め、跳ね上げると、勢いそのままに武器を半回転させ、
迫り来る張飛の突きを叩き落す。
直後、石突の部分で関羽を突き飛ばし、張飛に横薙ぎの斬撃を放ち、それを受け止めた張飛を、武器ごと後ろへ弾き飛ばして、
両者から間合いを取ると武器を下ろした。
「……でもやっぱり無駄。おしまい」
そう言ってキョトンとする関羽と張飛を置き去りに馬に跨ると、
「……袁紹殺して終わらせる」
部下達にそう言い放ち、後曲の袁将軍へ向けて突撃をかけた。
その様子を見た鳳統が慌てて駆け寄ってくる。
「……愛紗さん、行かせては駄目です!
袁紹さんが討たれても、呂布さんが討たれても、私達にとって良い方向へは向かいません。
何とか呂布さんを止めて、退却させてください!」
「わかった!……桃香様達には?」
「既に伝令を飛ばしました。私達は先に呂布隊を追撃しましょう」
「応なのだ!」
そして関羽たちもまた隊を立て直すと、呂布を止めるべく追撃して行った。
──前曲左後方・涼州軍──
「くっそ〜……いいなぁ、趙雲のやつ。あたしも戦いてぇぜ」
「まぁまぁお姉様。そんなこと言っても仕方ないでしょ?」
星と張遼の戦いを遠めに見ながらぼやいた所を馬岱に諌められ、馬超は「わかってるよ」と、多少の不満さを滲ませながらも頷く。
そして背後に控える部下達を振り返ると、
「涼州の猛者達よ!暴れられないのはちょいと残念だけど、あたし達はあたし達の役を果たしにいくぞ!続けーー!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
馬超の号令一下馬を駆る涼州軍は、張遼軍の背後を狙うべく、北郷軍の左横を進んでいった。
……左翼の曹操軍と、北郷軍の間を遮る様に。
──左翼・曹操軍──
「……秋蘭、北郷軍と戦っているのは……張遼だったかしら?」
北郷軍と張遼隊がぶつかったのを左翼から眺めながら、曹猛徳は己が横に控えている夏侯淵に、そんな疑問の声を上げた。
「はっ。その行軍速度は神速と謳われ、また義に厚く、武も高い良将と聞きます」
「そう。……欲しいわね。……桂花、北郷と張遼の中に介入して、張遼を手に入れる事は?」
曹操に訪ねられた、軍師である荀ケは一歩進み出、
「はっ。……現在、張遼隊の背後を伺おうとしているのか、涼州軍が我が軍との間に入っておりますので……
ここに軍を進めると、場を大きく混乱させ、いたずらに損耗を広げるだけかと思われます」
その表情に、期待に応えられないのが残念でならないと滲ませながら答えた。
「……ここで兵に無駄な損失を出すわけにもいかないか……」
曹操はそう呟いて、一瞬北郷軍の方へ目を向けたあと、虎牢関を見据えた。
「呂布隊は迂闊にもこちらの陣へ深入りし、張遼隊は北郷軍と交戦に入っている今、我等はこの隙に虎牢関を落とす!
何者にも遅れを取るな!全員、奮励努力せよ!!」
曹操の令に従い、その軍は虎牢関へ進路を向けた。
──後曲・袁紹軍──
関羽と張飛をまるで子供の様にあしらった──
それは、──策を持って一時引いた姿を見せたとは言え──水関にてその二人の強さを見た諸侯に置いては、
戦慄であったと言って過言ではないだろう。
そう、現時点で諸侯がその心に焼き付けた、呂奉先に対する認識は、正に飛将軍の名に恥じぬ猛将であり、一騎当千いや、
当万の将であり──鬼神である。
そして……その鬼神が、劉備軍を抜け、諸侯を蹴散らし、袁将軍へと迫っていた。
それを止めるべく迎え撃つは、袁紹の誇る二枚看板、顔良と文醜。そして後ろから追いすがる、関羽と張飛。
その英雄達の激突に、皆は再び驚愕する。
流石に四人がかりならば倒せるであろうと踏んでいた戦いは、しかして、四人がかりでようやく互角──。
だが、ここでようやく呂布隊の猛進を止めることが出来たのである。
そんな時、苦戦しつつも呂布を足止めする四人の下へ、思わぬ人物から朗報が入る。
まるでその人物を通すかの様に、劉備軍の兵が道を空けて、そこに飛び込んできたのは馬に乗った小さな人物。
その人物を見て呂布が呟く。
「…………ちんきゅ?」
「恋どの〜〜!!申し訳ありませぬ!虎牢関を守りきることができませんでしたのです〜!」
その言葉に周りがざわつくが、陳宮は構わず言葉を続ける。
「最早この戦場に留まる意味はなし、脱出するのですぞ!」
その申し出に、呂布は関羽たち四人を見て、ちらりと虎牢関の方角を伺い、
「………………(こくり)」
渋々ながらも頷いた。
「では皆のもの、離脱するのです!!」
そして陳宮の号令で、囲みの一角へと突進すると、囲んでいた袁紹軍は、
まるで相手をするのはごめんだと言わんばかりに道を空け、そこを抜けて呂布隊は悠々と脱出したのであった。
「…………行ったか……」
「愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、大丈夫!?」
呂布が離脱したのを確認し、安堵の溜息を吐いた関羽達の下へ、劉備達が駆け込んでくる。
「大丈夫なのだ」
「はい。問題ありません。
先ほどの伝令がすんなりとここまで来たのは……朱里の指示か?」
「ええ。あの場合はそうするのが最良だと判断しまして」
その言葉に、苦い顔ながらコクリと頷く関羽。
「ああ、正直呂布が引いてくれて助かった。
……しかし……これでは北郷殿に会わす顔が無いな……」
悔しげに言う関羽の言葉に、他の皆の顔にも苦渋が浮かぶ。
物見の報告によれば、曹操軍が虎牢関攻撃に移ったのは、呂布隊が袁紹軍へ突撃をしかけてからである。
そこから諸葛亮と鳳統が判断するに、その攻撃の切欠の一翼を担ったのは、間違いなく呂布の深入り……
呂布はおいそれと戻っては来れないという安心感……であろうからだ。
今、彼女等の胸の中には、北郷一刀の言うとおり、最初から二人掛りであったならば、この結果は避けられたのではないか──
そんな思いを抱いていた。
「このお詫びは……いつかちゃんとしないとね。
……絶対に、董卓さん達を助けよう!」
その劉備の言葉を、各々が心に刻み付ける様に、深く頷くのだった。
──前曲左・北郷軍──
「張遼将軍、この場は退け!」
「何や、アンタ?」
星と切り結び、膠着状態になった所で、明命に護衛されて来た一刀の声に、いぶかしげな声を上げる。
「俺の名は北郷一刀。『天の御遣い』とでも言えばわかるか?」
「……アンタが月の言ってた……」
その名を聞いて、ほぅと声を漏らした。
『天の御遣い』については、月から噂から実際はどんな人間だったかまで、それはもう色々と聞かされていたからだ。
「月から話は色々聞いとる。んで、退けっちゅーのはどういうことや?」
「呂布は袁紹の頸を取ろうと、こちらの陣深くに突っ込んだ後、流石に無理だったのか敗走したよ。
そして虎牢関には曹操軍が攻め寄せて陥落寸前。……ここまで言えば解るだろ?」
「潮時っちゅーやつか……」
そう言って溜息を吐くと、一刀が敵意は無いと言うように、両手を軽く挙げて近づいて来て、一通の書簡を渡してきた。
「これは?」
「それを月に渡して、逃げるように伝えてくれ」
「逃げるっちゅーてもなぁ……逃げた所で、どこまでも追われて斬られるのが関の山やん」
張遼としては、恐らく袁紹と袁術は、最後まで引くことは無いだろうと思っている。そう、少なくとも、月と詠の首を挙げるまでは。
「だからこそ、その書簡だよ。
それを見せれば、漢中の関所は素通りできる手はずは整えて有る」
「アンタ……自分の所に匿うっちゅうんか?」
一刀の意外な申し出に、張遼は目を丸くする。せいぜい、案があっても、身分を捨てて野に下れ……程度のことだろうと思っていたからだ。
「ああ」
「本気で言っとるんか?」
あからさまに疑っていると言う意志を込めて、睨みつける様に聞いてやる。
それでも……張遼の目の前に立つ青年は、
「ああ、本気だよ。
俺は……俺達は、月達を助ける」
怯む事無く、張遼から目を逸らす事無く、しっかりと頷いた。
張遼は確信する。この青年は本気だと。本気で……
袁紹辺りに知られれば、それこそ次は“反北郷連合”を組まれるだろう事を、しようとしているのだと。
「その言葉、何に誓う?」
それでも問う。それは月を守るために。
そして青年は、
「『天の御遣い』の名に」
「……その名は、懸けられる程のものやと思っとるん?」
「思っているよ。
……始めは、こう言う時の為に、ハッタリ……虚勢にでもなればいいとしか思ってなかった。けど……」
「けど?」
「今まで、多くの人がこの名前の下に、命を賭けて戦ってくれた。俺がこの名を誇りに思わなければ、散って行った命に申し訳が立たない。
……そしてこの名は、初めて逢った時、月が「憧れている」と言ってくれた名だから。
今の俺にとって、『天の御遣い』の名はすごく大切なものだよ」
己の想いを込めて、張遼にそう告げた。
しかしてその言葉は……いや、想いは、張遼の心に響いた。
彼女は今の一刀の言葉を聞きながら、自然と己に置き換えていた。
彼女とて、己が武名には誇りを持っている。そして、その武名を信じてくれる者達の為にも、それを穢す事無く在りたいと思っている。
目の前の青年にとっては、それが『天の御遣い』の名なのだろう。
そしてその考えに思い至った張遼は、
「……そうか……アンタの想い、よう解った。これは必ず届けたる。
それとな、ウチの真名は霞や。
アンタがウチ等を……月を助けようっちゅうなら、ウチはアンタを信じる。真名を預けるんが、その証や」
『天の御遣い』を……『北郷一刀』を信じる事に決めた。
己が主君が、敵味方と別れてからも、この青年を信頼しているように。
「ありがとう、信じてくれて。
何があったとしても、必ず助けてみせるよ」
嬉しそうに言う一刀に、霞もまた軽く笑みを返す。
やるべきことは決まった。ならば最早ためらうことは無い。
「……あぁ、期待しとるわ。
全軍、引くでーー!!戦場を突破して、洛陽へ帰還する!!」
そして号令一下、北郷軍の包囲の薄い部分──間違いなく、わざと開けてあるのだろう──へ向け、軍を進めて行った。
虎牢関は、曹操軍と後から追いついた袁紹軍の占領争いの末、曹操軍が一番乗りを果たし、戦勲を飾った。
それを尻目に兵達を休憩させていた一刀達の元へ、袁紹の使いがやってきたのは、虎牢関占領から僅か一刻後の事である。
「北郷一刀へ、総大将、袁本初よりの命を申し付ける!」
そんな尊大とも取れる言葉に続き、金の鎧に身を包んだ兵は、袁紹よりの命令書を読み上げる。
「北郷軍は洛陽へと先行し、配備されているであろう敵部隊の排除をすべし!
出立は明朝!袁本初の梅雨払いとして恥じぬ様、迅速、且つ優雅に、華麗に行動せよ!」
袁紹の使者は、言うべきことを言った後、さっさと戻ってしまった。
残ったのは、呆気に取られている北郷一刀以下配下達である。
「いや……何と言うか、総大将とは言え、また一方的な命令を出してくるな……」
苦々しげに言う一刀に、稟は「まったくです」と頷きつつも、
「しかし、先行して洛陽の様子を探れるのは、こちらにとっても好都合です。
実の所、いかにしてそれを行うかが悩みどころではあったのですが……」
「その点は袁紹に感謝……か?」
そう言いつつも、出てくるのは苦笑いばかりなのはまぁ、致し方の無い事であろう。
「じゃあ、今のうちに兵達をしっかり休ませておいて。
あと、袁紹は随分焦っているみたいだから……」
「はい。まぁ間違いなく、虎牢関一番乗りを曹操軍に奪われたからでしょうが。
では、馬超殿、劉備殿へ、なるべく行軍速度を落とす様に頼んでおきましょう」
稟の提案に、孫策の名が無い事に一刀は疑問を浮かべるが、虎牢関戦前に、洛陽一番乗りを欲しがっていた事を思い出した。
冗談めかして言っては居たが、彼女達の立場を考えれば、名声はいくらでも欲しい所だろう。
「明命」
「はい!」
一刀に名を呼ばれた明命が、勢い良く返事をする。
「孫策さんに、今あった袁紹からの命令の内容、伝えておいて。多分それで解ると思うから」
「……よろしいのですか?」
立場的に複雑な思いがあるのだろう、伺うように聞く明命の頭を撫でながら、
「構わないよ」
「ありがとうございます!」
一刀の言葉を聞いた明命は明るく返事をし、善は急げと、その場を辞して孫策達のもとへ向かった。
自分達が先行して行く以上、恐らくは戦闘はあるまいと踏んでいる一刀達であったが、水関、虎牢関と、
自分達の想定していた結果とはかけ離れたものになってしまっている為に、やはり皆、どこか不安……いや、緊張の色は隠せないで居る。
次に往くは、都、洛陽。
果たして、そこにはどのような結果が待ち受けているのか──。