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181 名前:一刀十三号 ◆keNb29aoZQ [sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:06:20.27 ID:c1xHjXCZO
「にゃー(生きてる…なんとか生きてる)」
「バカですねさっさと働けば良いものを…」
「にゃー(そんな簡単に仕事は見つかりませんよ〜…あぁ、魏で雇ってくださいよ!これって名案?)」
「首を跳ねられる仕事ですか?ならすぐに紹介出来ますが…」
「にゃー(それって迷案!第一仕事じゃね〜)」
「いえいえ、民達を引き締める意味で立派な仕事ですよ〜」
「に″ゃ―――」
「あら?どっか行っちゃいましたね、仕方ありません。代わりに…30桃香なのですよ〜」
184 名前:荊州攻防戦(前)1-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:12:30.97 ID:c1xHjXCZO
「風、荊州攻略の発案をお願い…ただし親衛隊や一線級の部隊を抜きにしてよ」
「・・・ぐぅ〜」
曹操自らの命令を、指示された程仲徳が寝息で返したことから始まった曹魏の荊州攻略。
しかも“親衛隊や一線級の部隊を出すな”との注文付きで。
出兵に選ばれた者たちは曹魏の将として、自分や部下に自信は有れど不安も少なからず有り、彼らは君主に問うた。
『なぜ、近衛や親衛隊の出撃を禁止するのか?』と。
「ちゃんと同行させるわよ、秋蘭と流琉を…」
曹操の口から出た人物の名前に出撃部隊の将はホッと胸をなで下ろした、次に続く曹操の言葉まで。
「…二人を今回の戦の監視役として、戦には基本的に参加させない」
「それでは夏侯淵将軍と典韋将軍はなにしに付いて来られるのですか?」
「だから言ってるじゃない監視役だって、その権限で軍規を乱す者をその場にて処罰する、それが第一の仕事。戦の方は状況次第よ、全ての判断は彼女らに任せる」
発せられた言葉に衝撃を受けるも、誰も反対意見を言わなかった。
今まで自分たちの君主曹孟徳が、自分を頭にしたその集団の発展や成長の選択や指示に間違いなどほぼ無かったし、なにより一度口にした事を覆さないのを知っているから命令には素直に従うのだった。
185 名前:荊州攻防戦(前)2-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:16:51.55 ID:c1xHjXCZO
そして順序として荊州の劉表に降伏勧告の使者を出した、当然ながら受諾されずに開戦となる。
そこで劉表は救援の使者を二カ所に出した。
一つは揚州の雪蓮の所に、もう一つは最近に自分たちの州を通過し益州を平定した桃香の所にだった。
◇ ◇ ◇
劉表からの救援要請の手紙を読んだ雪蓮が、
「パ〜ス」
「派亜巣?」
聞いたことの無い、妙に間延びした言葉に摩訶不思議そうな顔と声で反応した劉表の使者。
「あぁ悪いわね。最近聞いた天の言葉で“拒否”の意味よ」
「なっ!孫策殿、もし荊州が曹操の手に渡るようなことになれば揚州にもいろいろと不都合なことが有るかと、特に益州の劉備殿と連絡が取れなくなるのは、それの極みかと」
「確かに“荊州が曹操の手に落ちた”なら、何かと不便でしょうね。けれど決して益州と連絡が取れなくなる、なんてことは無いのよ。それに、ねえ…明命」
「はっ!ここに」
名を呼ばれた明命が誰もいなかったはずの空間、雪蓮の数歩後ろの所に、最初から居たかのように音も無く姿を現していた。
「今回の出撃する部隊の中に夏侯姉妹や張遼はいる?」
「夏侯淵将軍が出撃する部隊の一覧に有りましたが今回は監視役とのこと、ですから戦には参加しても必要最低限かと」
187 名前:荊州攻防戦(前)3-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:22:22.68 ID:c1xHjXCZO
「(なんだ、揚州はもうそんな情報まで入手しているのか)」
「なら親衛隊は出る?せめて最近頭角を表しだしたという許昌の警備隊ぐらいはいて欲しいんだけど」
「親衛隊では典韋将軍が出撃、ですがこれも夏侯淵将軍同様に監視役とのこと。他は警備隊はおろか軍師勢ですら曹操の側近の者は出撃いたしません」
「総数は」
「約五万強、六万は届きません」
「だ、そうよ。だから、私……ヤる気出ないのよね〜」
「孫策殿!国の一大事をなんと心得てますか」
雪蓮の言う動かない理由に当然納得がいかない使者は思わず声を張り上げた。
「周瑜殿!軍師として、今国がいかほどの状況か理解しているはずです。自分の主を説得してください」
「劉表の使者殿。孫伯符の言い分、君主としてめちゃくちゃなのは重々承知してます。ですが我らが主は、選択や感は少々ながら神憑りな処があってな不思議ど間違ったことが無いので、
 その辺の話になると反対出来ないのですよ」
「いずれ国家存亡に関わる出来事だと分かっている時に、現実主義な軍師の意見が通らずに非現実的な感頼りな意見が通るとわ…」
『信じられない』と落胆の色が顔に濃く出ていた
189 名前:荊州攻防戦(前)4-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:27:18.32 ID:c1xHjXCZO
そんな使者をよそに、
「国の一大事なら、既に間接的じゃなくて直で当の曹操相手で一度体験しているわよ…あの時は急襲だったし救援要請も出さなかったから援軍云々に関しては何も言わないけど…」
そこまで言うとある出来事が脳裏を過ぎり、
「どこからも心配する素振りの使者すら来なかったのよね〜」
完全に一刀と自身に起こった出来事を思い出す、雪蓮の声のトーンが次第に深く沈むにつれ、使者は落胆の顔色から今度は恐怖でひきつっていった。
「そういう訳で乗り気じゃないから、今回の援軍の話は辞退するわ」
「じ、辞退ですと…」
「安心しなさい」
「安心など出来る訳が有りませぬ…」
「どうせあっちにも、益州にも救援要請しているんでしょ」
「それは勿論のこと、味方は多いにこしたことはありませんから」
「なら彼女たち、お人好し集団が助けてくれるわよ。どの辺りが出てくるか知らないけど、曹魏が相手でも二軍なら問題無いでしょ。あなたたちじゃ駄目だけどね」
その言葉に反応して抗議の声を上げた使者だったが。
「なら、益州の援軍の使者も下げて自分たちだけで戦ってみる?」
そう言われると何も言い出せなくなるなっていた。
192 名前:荊州攻防戦(前)1-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:34:00.67 ID:c1xHjXCZO
「ならご苦労様、お帰りはあちらよ」
こうして望まない返事を承った使者はほうほうのていで荊州に引き返したのだった。
◇ ◇ ◇
一方、受け取った手紙を読み終わった桃香の第一声は、
「大変だよ、ご主人様。劉表さんが曹操さんに攻められるって」
「次は荊州か…」
「劉表さんは私たちが荊州を抜ける時に通行を許可してくれて、通してくれた優しい人だよ。ご主人様…私、劉表さんを助けたい」
軍師勢や一刀、一部の武将は劉表が自分たちを無事に通したのを、今の事態に備えての行動なのを分かっていたが、純粋な桃香の気持ちを尊重する為に黙っていた。
「それにですね荊州が曹操さんの手に落ちた場合、戦略的に雪蓮さんとの連携を分断される可能性が大かと。ここは助けるのが上策だと思います」
朱里も桃香の考えに戦略面から賛成をする。
「まあ、桃香がそう言うなら援軍の件に関しては問題無いんじゃない…ただ誰を行かせるか?だな」
「そうですね、戦略において軍師は雛里ちゃんで決まりだから……順当なら愛紗さんか星さん、どちらかを前線指揮に頼むんですが」
朱里が編成を考える最中、まるで待っていたかの様に揚州からの使者が訪れたとの報告がもたらされる。
197 名前:荊州攻防戦(前)6-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:39:16.96 ID:c1xHjXCZO
すぐに連れくるよう指示を出すとまもなくするとその者は現れた。
「あなたが雪蓮の使者?」
「いいえ。正確には一刻でも早く知らせた方が良いだろうと独自に判断した周泰様の使いです、内容は此度の曹操軍の細かな情報を知らせにまいりました」
言われて見れば普段よく来る使者とは違いどことなく薄汚れていて、『確かにどちらかと言えば間者だな』と思った一刀。
「ならば、報告する内容は?」
「はい。荊州攻めの曹操軍、総数五万強で六万には届かず。また将も親衛隊や側近は動かないとのこと」
「えっ?」
もたらされた報告に多くの将は『信じられん!』といった顔をする中、軍師たちは“著しく低いとしても可能性の一つとして有った”という表情だ。
「夏侯淵将軍と典韋将軍が同行するらしいですが、監視役としてらしく戦には極力参戦しないとのこと」
「他に出撃する曹操軍の将は?」
「どれも二線級の将ばかりで名を上げる必要も無いかと」
「軍師勢は?」
「詳しく参列する軍師は判りませぬが、少なくとも彼の三軍師は出ないようです」
「夏侯淵さんと典韋さんは戦わないと確信出来ますか?」
「確信は出来ません。が、出撃準備している直属の部隊の数と装備が…あれでは戦をするには些か不安が有るかと」
200 名前:荊州攻防戦(前)7-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:43:40.95 ID:c1xHjXCZO
「その数は?」
「定数の七割から約八割…」
「罠の可能性は?」
「罠かどうか分かりませんが…既に軍勢は許昌を出ています、これから新たに出撃準備をしても間に合わないかと。また他の地域は補給物資の手配は有るものの部隊を集結している様子は有りませんでした」
「…でしたら進行予想の道は…」
「…それでしたら…」
「…ならば…」
更に聞きたいことを朱里と雛里、二人が身近で聞き出した。
しばらくした後。
「…で、良いかな?」
「結果的には良くなると思うよ」
「じゃあそれで行こう」
朱里と雛里が二人同時に振り返ると。
「桃香さま、ご主人様、援軍に向かう人選を発表したいと思います。総大将にご主人様を、軍師は雛里ちゃんで、出撃する筆頭の将は紫苑さん、残りの将軍職は桔梗さん焔耶さんにお願いしようかと思います」
「ちょ、なんでよ!普通なら益州に詳しい三人をここに残して内政や人選に関わらせる。二軍とはいえ相手はあの曹操軍なのよ、こちらは精鋭をぶつけるのが定石じゃないの」
朱里の案に『待った』をかけたのが元董卓軍筆頭軍師の詠だった。
「はい、詠さんの言う通りで短期的に今だけを見るならそれが一番確実で安全だと思います」
203 名前:荊州攻防戦(前)8-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:48:55.47 ID:c1xHjXCZO
「だったら尚更…」
「既に詠さんもある程度理解していると思いますが私と雛里ちゃんはずっと先を、未来を見据えています」
自分の考えを肯定され、更に強調しようとしたのを遮られたてしまう詠。
「・・・」
「親衛隊や近衛隊を出撃させない曹操さんの動きを見ると今回の荊州攻略は本気じゃない無いと読んでます」
「本気じゃない?」
「はい、確かに荊州を攻略すれば益州と揚州を分断出来ます。が、逆に考えれば挟撃される危険が常時発生します。だから荊州には常にそれなりの兵力を割かなければいけなくなります。
 ならばこちらは雪蓮さんと歩調を合わせてまずは荊州に牽制の攻撃、そしてお互いの本命を許昌に攻め込ませれば…わりと楽に攻めとれるかと」
『ふう〜』
珍しく説明に長く喋った為か深呼吸をする雛里。
「寄って将の分散化、治安安定まで多数の兵士の常駐、それに伴う多額の維持費が理由で荊州攻略は負担の方が大きいと読んでます」
「攻め落とす気が無いのに出兵するか?」
「財政が未だ整わない私たちには考えられませんが…おそらく曹操さんはこの戦、実戦を兼ねた二軍の演習かと思います。もちろん攻略出来ればそのまま攻略しますが、攻め込ませれば荊州保有は固持しないと思います」
208 名前:荊州攻防戦(前)9-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 21:55:04.58 ID:c1xHjXCZO
「そんな馬鹿な、第一に私たちや孫呉が援軍として駆けつけたら訓練どころじゃないだろ!?」
「それなら、相手の力量を見抜けるかどうか、無事に撤退出来るかどうかの判断材料にするかと…これから先、私たちや雪蓮さんと戦う曹操さんも熾烈極める戦いが予想出来ます。
 そこで曹操さんは可能ならここで二軍の配下をふるいにかけて選別するんだと思います」
「そんな、なら桃香様や雪蓮殿がお互いに荊州に援軍を送らなかったらどうするのだ?」
「それはそれで、普通に劉表さんの軍と戦って実戦を経験し、その後“どう動くのか”で総合的に将としての判断材料にするかと…」
朱里の話は予測の規模が大きすぎていまいち合点が合わない者が多々いる中、一刀だけはその行動原理をなんとかく理解していた。
「とにかく自分たちが出撃してそこそこにあしらえれば、曹操軍は無理してまで荊州はとらないってことだろ、朱里」
「その通りです、ご主人様」
一刀の分かりやすくした説明に朱里が相槌を打った。
「なら決まりだ。ほっといて万が一に荊州を要害にされても困るし、桃香の言った通り荊州を通った時に見守ってくれた恩も有る。ここは出撃して助け、後々曹操の北側と反曹操の南側の構図も作らなきゃいけない」
211 名前:荊州攻防戦(前)10-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:00:50.01 ID:c1xHjXCZO
「でも、まだあの三人が出撃する理由にはなってないわよ」
「ですから、曹操さんがお試し期間実施中なんですよ。ならこちらも相手が格下なのを良い機会と判断して、こちらも紫苑さんたちの戦い方、部隊ごとの癖などを把握して熟達しようかと」
「逆に愛紗さんたちは内政面で益州の文官達に慣れ親しんでもらうのが目的です」
「それがあなたたちが考えた先を読んだ判断って訳」
「はい、些か弱いかも知れませんが、ですが曹操さんが相手ですから打てる手は先手先手で打たないと直ぐ詰みになるかと…」
「分かったわよ。で、兵力はいくつ出すつもり?」
「曹操軍が五万、劉表さんが推定で四万から五万として、私たちはご主人様の親衛隊一万と三人が中心の益州の部隊が四万かと、後は雪蓮さんがどれほどの援軍を出すかですね」
不意にみんなの注目が明命の部下に集中すると。
「申し訳ありませんが許昌より直に赴いた為に建業の動きは分かりません」
「まあ、万が一に雪蓮さんたちが援軍を出さなかったとしても。こちらの兵力は少なくとも九万から十万、既に相手よりも倍近くの兵力を揃えていますから兵法に基づいて考えてもこちらがかなり有利です」
212 名前:荊州攻防戦(前)11-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:04:39.37 ID:c1xHjXCZO
「だからって油断は禁物だよ」
「それはもちろん。ですが雛里ちゃんが軍師に付き、益州の名将と名高い方々が三人も同行しますから普段と同じに行けば問題は無いと思います」
「そうか、なら決まりだ。俺と雛里、それと紫苑さんに桔梗さん、それに焔耶で荊州に出陣する。のこりの者は引き続き益州の復興と政治の立て直しを」
「「「応っ!」」」
こうして桃香たちは荊州を守る為に行動に移ったのだった。
・・・
・・

◇ ◇ ◇
荊州の襄陽に一刀たちが辿り着くと住民たちから盛大に歓喜の声で出迎えられた。
総兵力で圧倒的に敵わない常勝と謳われてる曹操軍に狙われた恐怖から、共に戦ってくれる援軍が現れた事実に一時的にでも恐怖から解放された住民たちの喜びはひとしおだった。
揚州に救援を断られていた劉表や部下たちも現れた益州・劉備軍の援軍に内心ホッとしていた。
『これで、兵力だけでも倍近くになった』と。
ひとまず明命からもたらされ、それを劉備軍から劉表軍に伝えた曹操軍の進行予想経路を偵察隊が斥候する。
そして再び城に帰ってこれたのが“曹操軍の進行予想経路以外に斥候に出た隊だけ”であった。
215 名前:荊州攻防戦(前)12-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:08:35.26 ID:c1xHjXCZO
この事実からも曹操軍の進行ルートは予想通りで間違い無いだろう、と言うのが両軍の一致した意見であった。
◇ ◇ ◇
一方、曹操軍側の間諜又は偵察隊の殆どが帰ってこなかった。
理由としてはそのほぼ全てが捕縛、又は闇に消されていたからである。
恋の獣並の直感と、紫苑や桔梗の熟練された経験に基づき曹操軍側の間諜や偵察隊を捕縛し、逃げに徹すれば恋からでも逃れられた者も密かに護衛と間諜排除の任に付いていた明命とその部下に消されていた。
帰ってこれた者は、たまたま運が良かった者と消えていく仲間に恐れをなして深く潜入出来なかった者である。
だから得られる情報もかなり乏しく、つい先日益州を平定した劉備軍が“天の御遣いと共に、荊州の援軍に駆け付けた”こと、敵の兵力は自軍より多いことぐらいしか判らず尚も情報は錯綜していた。
そして曹操軍は相手の方が多いのだから『兵力を分散するのは下策』と判断、兵力をまとめたまま襄陽に向かい進軍していた。
そんな中、夏侯淵と典韋が自分の部隊と共に戦列から離れていった。
◇ ◇ ◇
籠城するには数が多過ぎて逆に不利だと『せっかく数で勝っているのですから、それを最大限に生かす為に野戦にしましょう』と軍師雛里の進言で城から出撃した劉備・劉表連合。
217 名前:荊州攻防戦(前)13-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:13:42.73 ID:c1xHjXCZO
更に雛里は『にわか仕込みの連携は付け入る隙を与えるもの。ですから、常に連絡を密にしてどちらかが襲撃を受けたらすぐに一方が敵の背後を討つようにしましょう』と作戦を述べて採用される。
万が一に奇襲や攻撃を受けたとしても、もう一方が曹操軍の背後を突く作戦だ。
こうして襄陽から出撃の準備が整い、それぞれの軍が出陣しようと各々の馬に乗り込もうとした時。
“ヒイィ――ン!!”
雛里の馬が急に暴れ出した。
『危ない!』
まだ、馬に乗る前だった一刀が咄嗟に駆け出して、暴れる馬から振り落とされた雛里をフライングキャッチする。
そのまま雛里を抱えて、自分の身体で雛里を庇いながら暴れる馬の真横を転がった。
ゴロゴロゴロ……‥・
「ご主人様!」
「お館様!!」
「お館!」
それぞれが異なる呼び方だが、同一人物に対して心配の声を上げながら駆け寄った。
暴れる馬のいななきが響く中、ようやく駆けつけた兵士たちが馬を取り押さえようとした瞬間!その場の空気が凍ったような感覚に襲われた周辺の人々。
暴れてた馬も瞬時に、大人しくなるのを通り越してその他の馬と共に脅えていた。
されど一刀はピクリとも動かない、紫苑が医者を呼ぼうとした時。
220 名前:荊州攻防戦(前)14-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:18:46.78 ID:c1xHjXCZO
「ご主人様?……ご主人様!ふえぇぇ、ご主人様ぁぁ。起きてください」
雛里が泣き出しいよいよ本格的にヤバいと思った時、泣き声に応えるかのように一刀の右手が上がり雛里の頭をなでだした。
「ご、ご主人様〜」
「雛里、出陣前の涙は不吉だよ…」
意識を取り戻した一刀は雛里に優しく語りかけ。
「…ご主人様〜」
尚、笑って答える一刀に雛里はますます泣き出してしまった。
「お館様!平気なのか」
「ちょっと腰を打ったかも……痛てて」
なんて言いながら頭をさすっている一刀にみんなが心配の眼差しを向ける。
「ふえぇぇ…ご主人様、私なんかの為にごめんなさい。私がちゃんと馬に乗れな…」
すると一刀は人差し指で雛里の唇を縦に軽くおさえると。
「雛里は悪くない、馬の機嫌が悪かっただけだよ。それより雛里の方こそ怪我とかない?そりゃ〜雛里の知謀も大事だけど、雛里自身の方がとっても大事なんだから、自分“なんか”なんて言わないでほしい…雛里」
自分の体のあちらこちらが痛い筈なのに、なおも真剣に自分の身体の心配をしてくれる一刀に我慢出来ずに飛びつきながら再び泣き出してしまった雛里。
そこへ近寄った紫苑が話し掛けた。
222 名前:荊州攻防戦(前)15-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:23:04.12 ID:c1xHjXCZO
「ご主人様。ここは大事を取って出撃をお取り止めになさった方がよろしいかと…」
「なんで?俺は平気だよ」
「ですが、万が一に馬に蹴られていたり、頭を打たれていた場合…最悪、命に関わるかと」
あまりに心配なのか紫苑の喋り方がいつも以上に丁寧であった。
「ご主人様…」
紫苑の言葉に再び雛里が涙声に変わっていく。
「俺一人の為に全体の動きを、劉表殿との連合の動きを止める訳にはいかない。雛里に普段あまり乗らないけどあの大人しく白馬を!」
と、話してる最中にに酷い脱力感と眩暈に襲われた。
以前に何度も味わっている酷い脱力感と眩暈、だがここまで酷いレベルのを味わったのはたった一度、雪蓮が襲われた時以来だと感じていた一刀。
「…ま…ご主人様?やはり、出陣はお取り止めになった方が…せめてご主人様だけでも襄陽に残られてはどうでしょうか?」
話し掛けられた一刀は紫苑の顔を見て“紫苑だ…”と、当たり前のことを考えた。
しかし同時に“なぜ紫苑なんだ?”と、謎の疑問も浮かび上がった。
自分でも意味が解らず酷い脱力感と眩暈に意識を支配され気を失いそうになる、だがそれは絶対にいけないとなにかが語りかけてくる。
「お館……桔梗様、やっぱり紫苑様の言う通りに出陣は…」
224 名前:荊州攻防戦(前)16-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:27:10.12 ID:c1xHjXCZO
次に語りかけてきた焔耶の姿が視界に映った一刀、焔耶を意識するとまたもや当たり前なことが浮かび上がってくる“焔耶だ…”と。
悪い方の意味でマワる頭で思い画かれたモノは。
「(焔耶が居て、紫苑さんも居て……雛里も居る、その雛里が馬から振り落とされて…)」
酷い脱力感と眩暈が更に酷くなったが無視して考える一刀。
「(焔耶は魏延で…紫苑さんが黄忠で…そして雛里は…鳳統で…!)あぁ!」
突然、声を張り上げた一刀に一堂が驚き、桔梗が話し掛けた。
「どうなられた!お館様」
「いや、なんでもない……悪いけどちょっとだけ待って」
「そう仰られるならば」
一刀の願いに素直に従う桔梗、そうして一刀は深く考え込む。
「(これって落鳳破のフラグ?それとも考え過ぎ?……第一にここは荊州であって益州じゃない、入蜀は何事も無く事が進んだんだ。念の為に落鳳破も避けた……だからこそ逆にそうなのか?
 本来ならここ荊州で黄忠の紫苑さんと魏延の焔耶を仲間にして蜀に入り落鳳破だよな…華琳の時の定軍山と一緒で順番狂いか?むしろ二人が揃った戦で条件を満たしちゃたのか?
 二手に別れての進軍、落馬による馬の取り替え、紫苑さんと焔耶、俺が桃香の代わり…フラグ…成立か?)」
227 名前:荊州攻防戦(前)17-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:33:15.16 ID:c1xHjXCZO
「ご主人様、やはり出撃は延期に」
「(延期?…延期にしても一度立ったフラグは消えない気がするな〜確実にへし折らないと、そこら辺で阻止力が働いてこの嫌悪感なんだろうし……それに、劉表軍が孤立して倒されちまう)」
短くも可能な限り考えての一刀が出した結論は。
「いや出るよ、俺は大丈夫。少し気分が悪くなったけど、頭は打ってないから安心して…だから出るよ」
「そこまでおっしゃるなら…分かりました。全軍、出撃しますよ」
一刀の決意に負けた紫苑が全軍に出陣命令を出し、軍が動き出す。
「あの、ご主人様…私はどうすれば?・・・あわ!私はここでお留守番ですか?」
後半、またもや涙目で語る雛里に一刀は。
「今の俺に雛里を外す余裕なんて有りませ〜ん、仮に有ったとしても手放さないけどね!雛里はここ♪」
自分の馬の鞍を叩きながら雛里に話しかけた。
「あわわ…そうするとご主人様自身は馬をどうするのですか?」
そんな心配をした雛里を突如抱きかかえた一刀、半ば強引に自分の馬に乗せると。
「こうするんだよ!」
自分も自分の馬に乗っかって雛里にぴったりとくっ付いた。
「はい?…あわわ!ご・ご・ごひゅひん、ご主人しゃま!」
229 名前:荊州攻防戦(前)18-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:37:42.97 ID:c1xHjXCZO
プチパニックになった雛里は噛みまくって何を言っているのか殆どが解らなかった、しかし一刀がたった一言、
「嫌かい?」
と訪ねたら。
「・・・よろしくお願いします」の言葉と同時に『プシュー』となにかがオーバーヒートをおこしたような音が雛里から聞こえてしばらく放心状態になった。
そして雛里が放心状態の間に一刀は紫苑を脇に呼び、進軍させながら語りかけた。
「弓矢の達人、紫苑さんにお願いしたいんだけど」
「なんですかご主人様?改まって」
「これから先、弓による絶好の狙撃場所が表れたら教えて欲しいんだ…名手、一般兵構わず」
「……分かりました、ご主人様」
「助かるよ、紫苑」
「このぐらい平気ですよ、ご主人様のお役に立てるならいくらでも」
こうして、多少遅れてしまったものの劉備軍は出撃した。
◇ ◇ ◇
丘から自軍の布陣を見詰める一団が居た、戦列から離脱していた夏侯淵と典韋が率いる別働隊である。
その身軽さからこれから始まる戦や敵味方の布陣を一望出来る場所探し、今はそこに落ち着いていた。
「自軍の布陣をどう見る?流琉」
「至って普通です。有利でもないですが、取り分け致命的な不利もありません。定石通りの突撃陣です」
231 名前:荊州攻防戦(前)19-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:42:44.19 ID:c1xHjXCZO
「その通りだな。兵力が不利なのだから防戦では勝機は見えてこない、一点突破で敵を突き崩し敵が戦線を回復出来ないまで崩すか…相手の大将の首を取ればいい」
そう言いながら丘から視認出来る敵に視線を移した夏侯淵。
劉表軍はまもなく曹操軍と接触する位置、もう一方劉備軍はやや遠いものの開戦にはギリギリ間に合いそうな所にいた。
「だがそれも敵が一つに集まり兵力もほぼ同数の時だな。二手に別れている上に数も報告と違い倍近くはいる。距離が少々離れている感もあるが開戦には十分間に合うだろう、ならば我が軍は二方面作戦を強いられるな」
「流石に…不利ですね」
「あそこにいる者たちが姉者を筆頭に華琳様が率いる我が軍ならなんら問題は無い、いや華琳様ならこんな状況にすらならぬか……しかし、定石はならばこそ
奇襲に弱いか。
 ましてや劉備側の大将はあの天の御遣い、徐州攻略の時の後遺症が無ければ良いのだが……」
目を細めて送る視線の先に『鳳』の旗印も見つけ。
「しかもそれに付く軍師は最近劉備軍で伏竜と並んで名を上げている、鳳雛こと鳳統ではないか。軍略に関して諸葛亮より上と聞く・・・奴らにはいささか荷が重過ぎるか?」
言うやいなや弓矢を取り出し、そしてつがえる。
233 名前:荊州攻防戦(前)20-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:46:29.08 ID:c1xHjXCZO
「戦場での力量を図るのが目的、と言っても華琳様の大事な兵。無駄に失う訳にもいかぬ…」
と、語りながら弓矢を構えた。
◇ ◇ ◇
遅れた分を取り戻そうと少々移動速度を上げて進軍している劉備軍。
そんな道中、雛里は一人夢心地で浮かれていた。一刀と共に一頭の馬に乗っている為にお互いの身体がぴったりとくっつけているからだ。
軍略の鬼才と言われている雛里も恋愛に関しては素人同然、頭の中で朱里に謝りつつもこのアクシデントと言う名の幸せを噛み締めていた。
一方、紫苑は一刀のお願いで少数の部下と先行しながら襲撃ポイントを丹念に見て回っている。
そうしている内に、それらしき場所を見つけた紫苑は熱心のあまり一刀との距離が少々離れてしまっている事に気付き、兵士たちには不安を与えない様に自然な立ち振る舞いで一刀の傍らにまで戻り囁いた。
その為に少々時間がかかってしまう。
「ご主人様、この先に見える丘からの攻撃が少々危険かと……私程度の腕があれば十分狙えますから、ここは風通しが良すぎるかと」
紫苑に注意を促され左右を見れば確かに身を隠す遮蔽物が全く無い、紫苑ほどの腕前ならば丘から狙えばここは絶好の狩場になると一刀は思った。
235 名前:荊州攻防戦(前)21-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:51:01.56 ID:c1xHjXCZO
「紫苑レベルの敵がごろごろ居られたら正直困るけどね。忠告ありがとう気をつけるよ紫苑」
「私のれべる?」
「あぁ、ごめん、解らないか…この場合は紫苑が言った通り“紫苑さんに匹敵する腕前の人”って意味を天の言葉で言ったんだよ」
軽い口調で喋ってみるも、益州出立前の明命の部下による報告の中に夏侯淵の名前が有ったことを忘れていなかった一刀。
演義や史実で弓矢による攻撃で倒されたと言われる天才軍師鳳統。
その鳳統が演義の中で討たれる直前に起きた出来事が、その人と同じ名を持つ雛里の身にも起きていた。
場所や時期は全く当てはまらないものの、二手に別れて進軍すること・主力の将が沢山いる中から伴った者に紫苑と焔耶がいること、けれどこんなものはまだ偶然と言えなくもない。
どうしても一刀に心に引っかかるキーワードが弓矢だった、鳳統が討ち取られたと言われている武器。
そこに監視役として“曹操軍有一の弓矢使い”夏侯淵が居るのだ自然と警戒心も高くなる。
更にもう一つ。鳳統に降りかかった厄災の発端、劉備の白馬を借りて乗る出来事が“乗る予定の馬が暴れて、一刀の白馬を借りて乗る”そんな出来事が発生しそうになった。
238 名前:荊州攻防戦(前)22-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 22:56:53.84 ID:c1xHjXCZO
最早一刀から見れば偶然ではなく仕組まれた必然としか思えない、表情も固くなり『(進路、代えられるかな?)』と考える。
更にその表情を見た紫苑がなにかを察しようとした時、一刀は紫苑から警告された丘から光るなにかを見て“咄嗟に雛里を庇った!”
『キィーン!』
直後、澄みきった甲高い金属音が響く。
目標が雛里の眉間で、それを体を張って庇った一刀の右肩に突き刺さる筈だった夏侯淵の矢は、割って入った“方天画戟”に阻まれたのだ。
◇ ◇ ◇
「チッ!外したか」
狙撃を阻止されたことを空気と感で悟った夏侯淵は二射目を放つ為、すぐさま矢を手に取った。

矢を弓につがえて狙おうとした時、謎の気迫らしきものに瞬間気圧され隙を作ってしまった夏侯淵。
一瞬の隙なれど再び狙う相手に意識を戻した時には恋が方天画戟を、紫苑は颶鵬に矢をつがえた状態で待ち構えていた。
そして、ある一定のレベル以上の域いる者同士だけが解る覇気で。
紫苑が…
『それを放ってみなさい。次の瞬間、私の矢があなたの眉間を貫きますわよ』
恋が…
『……撃ってみろ、落として……お前、殺しに行く』
と、物語っていた。
それが決してはったりや嘘ではないことを夏侯淵は感じ取って、撃つに撃てなくなった夏侯淵が居た。
242 名前:荊州攻防戦(前)23-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:01:31.21 ID:c1xHjXCZO
そして十文字が牙門旗の傍らに一つの旗が新たに上がった、それが誰の旗なのか解っていても夏侯淵も典韋も語らなかった。
だがあまりに特徴がある為、文字が見えない部下たちにもそれが誰の旗なのか分かってしまう。

“血で染め抜いた深紅の旗”

その事実に部下たちの間に動揺は無かったものの衝撃は走る。
徐々に後退する劉備軍が夏侯淵の射程圏外まで後退すると夏侯淵もようやくかまえを解けた。
強制的な連続した緊張に流石の夏侯淵も片膝を付いて肩で息をする。
「秋蘭さま、大丈夫ですか?」
心配して話し掛けた典韋に返答も出来ず尚も肩で息をし続ける。
もうしばらくしてようやく息を整えた後。
「流琉。私たちもこの丘から移動、本隊の後方に回るぞ」
「はい」
こうして移動命令を出し夏侯淵たちもこの丘を後にしたのであった。
◆ ◆ ◆
『キィーン!』
直後、澄みきった甲高い金属音が響く。
雛里を狙っていた夏侯淵の放った矢は方天画戟に阻まれていた。
いつの間にか傍らにいた恋が攻撃を阻止していた。
『恋!』
と、叫びかけて矢を放っただろう者を思い出した瞬間。

「 夏侯妙才! 」
半分は無意識で丘に向かって渾身の力で叫んでいた。
244 名前:荊州攻防戦(前)24-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:06:07.61 ID:c1xHjXCZO
『・・・』
「(追撃が…無い)」
一刀の知る夏侯淵ならとっくに二射目が飛んで来ている筈なのだが一向に飛んでくる気配が無い。
一射目もそうだが二射目も避ける暇など無いと思った一刀は身体を張って雛里を守るしかない考えた。
だが実際には二射目は飛んで来ない。
ひとまずは心に多少なりとも余裕が出来た一刀は周りに見渡す、右側には紫苑・左側に恋がそれぞれの得物で構えて丘に向かって睨みを効かせていた。
「恋?」
ここでようやく“本来、居ない筈”の恋に話し掛ける。
「……ご主人様、平気?」
丘を向いたまま次の攻撃に牽制と警戒を与えながら答える恋。
『なんでここにいるの?』と、続く筈の質問も、今はまだそんな時じゃないと思い直す。
「あぁ、ありがとう。恋のおかげで俺は平気だ」
「……なら、いい」
次に狙われただろう雛里を心配して声を掛けた。
「雛里は平気かい?」
「・・・はい?・・・!。ハイッ!平気です、ご主人様」
咄嗟の出来事に事態を把握出来ていなかった雛里もすぐに何が起きたのか理解し返事をする。
「ご主人様、本当にありがとうございます」
改めてお礼を言う雛里に対し。
246 名前:荊州攻防戦(前)25-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:10:48.68 ID:c1xHjXCZO
「俺は咄嗟に身体を盾にすることしかできなかった、お礼なら攻撃を凌いでくれた恋や。今も敵に牽制してくれている紫苑が先だよ」
まだ夏侯淵の攻撃の脅威から抜け出せていないと判断している三人の表情はいまだ緊張感が解かれていない。
「雛里ちゃんもご主人様もお礼はこの場を抜け出してからね。ご主人様…慎重に、慎重に後退してください」
「……大丈夫、飛んでくるモノ……恋が全部落とす」
「そうね、なら飛んでくる矢は全て恋ちゃんに頼みましょう。ご主人様、安心して後退してください。それと兵の後退指揮は雛里ちゃん、全部お願いね」
「分かった」
「分かりました」
「……ねね、旗を」
その言葉に元気な声で返事が来た。
「了解ですぞ!恋殿」
「えっ!?ねねまでいるの」
「いちゃ悪いのですか?恋殿が居る所に必ずねねも居るのです!まったく、お前があまりに頼りないから恋殿は心配で心配で、こっそりと後を…」
「……ねね」
「は・はいなのです!」
改めて恋に名を呼ばれたねねは慌てて呂旗を掲げる。
ここでも深紅の呂旗は十文字が牙門旗の傍らに並んだのだった。
こうして一刀たちは夏侯淵の攻撃圏内から抜け出すと彼女たちの軍勢に注意を払いながら軍を再編成した。
247 名前:荊州攻防戦(前)26-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:14:24.92 ID:c1xHjXCZO
再編成を済ますと奇襲に警戒しつつ、改めて劉表軍との合流予定地に急ぐのだった。
◇ ◇ ◇
二度にわたる進軍停止がかなりの時間の浪費に繋がり、一刀たちが戦場に着くと戦は既に始まっていた。
曹操軍も明確な理由が解らずとも相手の軍勢が揃うまで待つ程お人好しでもなく、むしろ好機とみて積極的に攻め立てていた。
二度の突撃に戦線が崩れかけていた劉表軍、三度目の突撃の最中に駆けつけた劉備軍が曹操軍に横撃を仕掛けて痛手を負わせ一時後退させる、これにより劉表軍もなんとか持ち直したのだった。
一旦、仕切り直しとなった戦いに曹操軍は与し易しと判断した劉表軍を積極的に攻め立てていた。
劉備軍も再度横撃を試みるも奇襲と異なり、きちんと対応されてしまい初撃ほどの効果が表れ無かった。
戦いに劇的な流れが無くなり両軍の純粋な削り合いに変化した頃、雛里が劉表軍に伝令を出す。
何らかの作戦要請か指示を出した様子だったが今現在、劉表軍に動きは無い。
または最初に仕掛けるが劉備軍なのか?しかし、その劉備軍にも目立った動きが無かった。
現状は曹操軍と劉表軍が正面から激突し削り合い、やや劉表軍が不利な状況。
249 名前:荊州攻防戦(前)27-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:19:00.93 ID:c1xHjXCZO
劉備軍は先陣に魏・中軍に厳・後軍に十文字と黄、更に呂と陳の旗を靡かせながら曹操軍に横から仕掛けて二方面作戦を強いる。
こちらは、旗が後軍に有れど前線で戦っている恋が無双しているだけで主だった戦果が見られない。
その恋も曹操軍に『対しても極力相手にしない、呂布ならば一時後退しても良い、との方針を徹底された』為に思いのほか戦果が上がらなかった。
そんな中、無傷で全くの手付かずな状態の軍勢が居た、曹操軍側の夏侯淵・典韋が率いる部隊である。
兵力は正規の数に比べればやや少ないものの、部隊としては何の問題も無く十分に力を発揮出来る状態に居た。
その部隊の大将、そして曹操軍の監視役も兼ねている夏侯淵は普段は冷静沈着で有名なのだが、珍しいことに今はやや感情的になっていた。
原因はつい先程の丘での出来事らしい…
二射目の動きを一瞬止められた謎の気配、その相手を捜しているのだが…いや既に相手は分かっていたのだが“認めなくなかった”のだ。
あの場に居た者で主な将の気配は全員違う、当たり前だが軍師でもなく残りの将でもなかった。
天地がひっくり返ろうと雑兵は有り得ない、すると本当に残されたのが北郷一刀だった。
251 名前:荊州攻防戦(前)28-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:23:23.42 ID:c1xHjXCZO
『あの気配の主が北郷一刀?』と結論付く。
決して武勇で名が響かない劉備軍両方の当主、その証拠にいくら気配を探っても既に微塵も感じない。
一般兵士と紛れてしまってるのだ、夏侯淵にしてみれば雑兵と変わらない。
その片割れに武にも繋がる筈の“気迫で圧された?”その可能性に酷く苛立っていた。
いやそんなのは言い訳だった。
本当は何故かあの男、敵将である筈の“北郷一刀に対された行動を取られた可能性”にずっと不快感が溢れ感情のコントロールがまま成らずにいた。
相手は敵将である、敵である自分に敵として接するのが当たり前な筈なのに心は何故か晴れなかった。
「秋蘭様、どうかなされましたか?」
夏侯淵の苛立ちを感じた典韋が話し掛ける。
典韋にも自分をも誤魔化す為に、将に戻る夏侯淵。
「いや、劉備軍の本陣ががら空きにも拘わらず手が出せない自軍にふがいなさ感じてな」
適当に言葉を濁した夏侯淵。
だが濁した言葉もまったく突拍子の無い話でもない、本陣は後方で親衛隊と弓隊のみなのだ。
まさに夏侯淵から見たら、がら空きも同然であった。
最大の障害であろう飛将軍も今は最前線だと報告を聞いていた、彼女ならば動けばすぐにも報告も来るだろうと考慮し
253 名前:荊州攻防戦(前)29-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:27:50.86 ID:c1xHjXCZO
ならば膠着状態のこの戦を終わらせられる、そろそろ兵の損耗も抑える頃合いだとも思ったのだろう。
ついでに相手が居なくなればこの胸の感情も消えるだろうか?と考えた夏侯淵だった。
「夏侯淵隊、典韋隊!劉備軍敵将の北郷の首を取るぞ!突撃準備!!」
「「「応っ!」」」一呼吸後。
「総員突撃!私に続けー!」
「「「オォォォ―――!!!」」」
この戦と自分の感情に決着をつける為に、突撃を仕掛けた夏侯淵であった。
◇ ◇ ◇
「報告!後方の敵、その一部が吶喊してきます。旗印は夏侯と典!」
「分かりました。では十分引き付けてからドラを鳴らしてください」
「了解です!」
まもなくして。
『ジャーン・ジャーン・ジャーン』
けたたましくドラが鳴ると劉備軍の後軍が反転、迎撃態勢に入る。
◇ ◇ ◇
「劉備軍、後方の部隊反転しました!迎撃態勢に入りました」
「想定内の行動だ!…戦う敵は後方支援の弓隊と親衛隊だ。だが、なにも恐れるな!同じ弓隊ならば夏侯妙才直属の部隊は他の軍と違うところを見せてやれ!
 そして戦わずして逃げる飾りの親衛隊など恐るるに足らず!そのまま突撃を継続せよ!」
「「「ウオォォォ――!!」」」
254 名前:荊州攻防戦(前)30-30[sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:31:07.11 ID:c1xHjXCZO
『ジャーン・ジャーン・ジャーン』
再度、ドラが響き渡ると劉備軍の劉の旗はそのままに先陣の魏の旗が厳に代わった。
後方の黄の旗は魏に代わり、続けて後軍の本陣だと思っていた部隊は小綺麗な甲冑を脱ぎ、周りと同じ甲冑に着替えていく。
同時に翻していた十文字の旗と呂旗が下ろされた。
そして中軍の厳の旗が黄に変わり、先程後方の部隊が脱いだ甲冑と同じデザインの甲冑を纏っていった。
そして高々と上がっていく二つの旗は“十文字が牙門旗”と“深紅”の呂旗であった。
255 名前:一刀十三号 ◆keNb29aoZQ [sage] 投稿日:2011/05/15(日) 23:33:49.39 ID:c1xHjXCZO
「にゃー(ご静聴と支援、誠にありがとうございました。ギリギリ、なんとかギリギリアウトで(←駄目だろ)頑張ってます。ちなみに風様、あちき仕事してますよ)」
「夜な夜な緊急回避用に公園から水を汲み出す作業は決して仕事とは認めませんよ、バカ猫」
「にゃー(え〜)」
「『え〜』じゃありません、バカ猫はほっときましょう…では今後の『すけじゅーる』ですが“可能でしたら、ここ肝心ですよ〜可能でしたら”荊州攻防戦(後)・三国私(仮)が表の掲載予定です」
「にゃー(生きてる間は頑張ってやりますよ〜)」
「・・・上の台詞に一部訂正が入ります。『×可能でしたら・○生きていたら』に変更させていただきます」
「に″ゃ―――」
「・・・でわでわ〜皆さんお達者で〜」

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