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18 名前:清涼剤 ◆q5O/xhpHR2 [sage] 投稿日:2011/04/19(火) 01:12:11.06 ID:Y+l8RVdd0
半頃から直投下します。
タイトルは『翠の墓参り』です。
6レス程度の予定です。
19 名前:翠の墓参り(1/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 01:30:34.61 ID:Y+l8RVdd0
 桃香、華琳、雪蓮という三人の英傑が中心となることで大陸は大分落ち着いた。
 いろいろなことがあったけど、今はもう啀み合うことも騙しあうこともない世界。
 俺たちの求めるものがようやく手に入ったんだ。そう思えることが当たり前になったある日のこと。

 事の始まりはそう――

「ちょっと、涼州に戻ろうと思うんだ」

 翠のその一言だった。
 俺は政務のために動かしていた手をとめて翠の方を向いて聞き返す。
「それは、またどうして?」
「母さんのところへ行ってこようと思ってさ。ほら、ようやく平和になったことだしそろそろ顔を見せようかなってね」
「うんうん、みんな頑張ってくれてるから天下太平って感じだもんね」
「もちろん、桃香の頑張りもあってだな」
 桃香は手を合わせてニコニコとしている。
 この大陸で生きる人々が平穏な日々を送れるようになったことが本当に嬉しいんだな。
「なあ、どうかな?」
「構わないと思いますよ。最近は若手の方々にも仕事を回していますので大分余裕もできましたし」
「朱里ちゃんがそう言うならいいんじゃないかな」
「それじゃあ」
「うん、行ってきなよ。お墓参り」
「ありがとう、桃香さま」
「偶には骨休めでゆっくりしてきてください」
「朱里もありがとな」
「……俺には?」
 非常に嬉しそうなのはいいことなのだが、なんで俺だけスルーされているのだろう。
「ご主人様には一緒に来てもらおうと思ってるんだ。だから、ご主人様への礼はその後にするよ」
「俺もって……それは流石にまずいんじゃないか?」
 吃驚して桃香たちを見るが、別段驚いた様子はない。
 それどころか、頷きながら同意してる。
「それじゃあ、日時はおって伝えるから準備しといてくれよな、ご主人様」
 そう言うと、翠は政務室を飛び出していった。
20 名前:翠の墓参り(2/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 01:36:04.97 ID:Y+l8RVdd0
 翠が去った後も唖然としたままの俺は二人の方へと振り返る。
「えっと、なんて俺までなんだろ?」
「もう! それくらい察してあげられないとダメだよ、ご主人様」
「なんのことだ?」
「……はぁ」
 どうして二人は溜息混じりに頭を抱えているのだろうか。
 結局、俺はその疑問の答えを最後まで知ることなく、翠たちと共に蜀を発つことになった。

 涼州へとついた俺たちは宿泊先へと向かっていた。
 久しぶりの風景に蒲公英も翠もずっとどこか嬉々としている。
 時々、翠が調子悪そうにしているのが気になったが、すぐに快復していたので問題という問題もなかった。
 俺は帰郷を喜ぶ二人を見て微笑ましく思いつつ、これまでとは違う環境にしきりに感心していた。
 気になることを頻繁に質問をする俺を面白そうに見ていた蒲公英だったがふと思い出したいう風に話題を変えた。
「そういえば、最近のお姉様ってば凄い食欲なんだよね」
「そうなのか?」
 元々結構な量を平らげるから特に変化には気がつかなかったな。
 ふと見ると、翠は腹をさすりながら首を傾げている。
「なんか、最近無性に腹が減るんだよなぁ」
「へえ……あれ? 翠、気のせいか少し顔赤くないか」
「え? そうかなぁ、ちょっと身体が重いような気はしてたんだけど」
 どこか元気のない表情を見て、心配になり翠をすぐに休ませるべきかと考える。
 宿へと向かう足取りを急がせるが、その間にも翠の調子は悪くなっているようだった。
「ずっと体調が優れてなかったんじゃないのか?」
「……実は、出発まえから変な感じはあったんだ」
「おいおい、それなら先送りにしても良かったんじゃないのか?」
 肩を貸しながらそう言うものの、出立前に気付かなかった俺にも咎はあるから強くは言えない。
 宿泊先までの距離はまだ結構あるのを確認して俺は蒲公英の方を見る。
「仕方ない、蒲公英は先に行っててくれ。俺は翠を医者のところに連れて行く」
「はーい。それじゃあご主人様、お姉様のことよろしくね」
「あたしは別に大丈夫だよ、これくらい」
「何があるかわからないんだから駄目だ」
21 名前:翠の墓参り(3/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 01:42:25.74 ID:Y+l8RVdd0
 無理して一人で歩こうとする翠を半ば強引に抱き寄せると俺は行き先を変える。
 街の人に道を聞いて医者の元へとつくやいなや翠を診てもらうよう頼み、俺は一人隣の部屋で待つことにした。
「あまり酷い容体じゃなければいいんだけど……」
 座りこんだままこめかみを指圧する。
 長旅と心配のしすぎで偏頭痛が先ほどから起きていた。
 しばらく生あくびを繰り返していると、どこか呆然とした様子の翠が戻ってきた。
 俺が口を開きかけると、それよりも早く翠が切り出してくる。
「……妊娠してた」
「へ?」
「だから、あたし妊娠してるらしい」
 うつろな表情で答える翠の言い方はどこか他人じみているように感じる。
 実感がないのかもしれない。
 だが、俺にはそれよりも気になったことがあった。
「本当か? ち、父親は!」
「ご主人様以外にいるわけないだろ! だって他の男としたいなんてこれっぽっちも思ったこともないし、思わないし……」
 顔を赤くして、両人差し指の先をつんつんと突きあいながら答える翠を俺は抱きしめずにはいられなかった。
 自然と腕に力がこもり彼女は少し苦しそうにする。
「ななな、なにするんだよ急に」
「よくやった、翠……本当によくやった」
「……ご主人様」
 抱きしめたまま顔を見合わせると、翠はようやく冷静になり始めたのか瞳は生気を取り戻している。
 しかし、すぐにうるうると瞳を潤ませて俺の背に手を回してくる。
「やったな。これで、翠もお母さんだな」
「あ、あたし、母親になるのか? あたしが……あたし、あたしが……ふ、ふわぁぁん」
 ようやく事態を飲み込めたのかと思ったけど、今度は火が付いたようにわんわんと泣き出す翠。
 ぼろぼろと涙をこぼす翠を抱く力を緩めつつ、俺は子供をあやすように彼女の頭を撫でる。
「何も泣かなくても」
「うぅ……だって、嬉しいじゃないか。このあたしがご主人様の子供を授かるなんて……えぐっ」
 嗚咽混じりに俺を見つめる翠の瞳は喜色に満ちている。
 その反応が嬉しくて、愛おしくてたまらない。
23 名前:翠の墓参り(4/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 01:56:30.93 ID:Y+l8RVdd0
「翠、愛してるぞぉ!」
「な、何を急に! じょ、冗談なんか言うなよ、あたしなんて……っていつもなら言うところだけど、あたしも愛してるよ、あなた」
 耳元で囁く翠の『あなた』に体温が上昇するのを感じる。
 俺の顔は一瞬で赤く染まったことだろう。
 それから翠は暫くの間、ほうっと頬を染めてイヤイヤと顔を振ったり、喜びが蘇ったのか泣きじゃくったりを繰り返していた。
「なんかもう、あたしは胸がいっぱいだよ」
「俺も幸福感で一杯だ」
「本当にあたしのお腹にご主人様の子がいるんだよな?」
 何度目かになる質問に破顔しそうになるのを堪えつつ俺は答える。
「まあ、あれだけやってればな」
「雰囲気を台無しにするなよな、馬鹿」
「ごめんごめん。でも、俺が翠を愛した成果なんだって実感できるだろ」
 その言葉で白目を延々と向けてくる翠を連れて俺たちは寄り添うようにして宿泊先へと戻るのだった。


 泣き疲れもあったのか、到着するやいなやぐっすりと眠ってしまった翠をそのままにして俺は一人近くの酒屋へと赴いた。
 月光りを浴びながら店へと入ると、すぐに酒を頼み静かに嗜む。
「翠も母親になるのか……」
 普段、彼女が蒲公英としているやり取りを思い描き、俺はくすりと笑う。
「きっと子供に手を焼かされててんてこ舞いになるんだろうな」
「あと、お姉様のことだから何か無茶なことをしそうで心配だよねぇ」
「そうそう。幼いうちから鍛えてやるんだなんて言い出しかねない……って、蒲公英」
 感傷に浸りながらちびちび呑んでいたため正面に蒲公英が座っていることに気がつかなかった。
 椅子に腰掛けたまま足をぷらぷらとさせる蒲公英は珍しく静かな顔をしている。
「どうした?」
「いや、なんだか不思議だなって」
 いつの間にか杯を手にしている蒲公英に酒を注いでやる。
「昨日まではお姉様のことをまだまだ子供っぽいところあるなぁ、なんて思ってたはずなのに親になるって聞いたら急に大人に見えるんだもん」
「俺も翠が母親っていうのがすぐに思い浮かばないよ」
「でも、なるんだよね。あのお姉様が」
「なるんだよなあ、あの翠が」
 そう言うと、どちらからともなく吹き出し二人して大笑いをする。
25 名前:翠の墓参り(5/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 02:03:58.57 ID:Y+l8RVdd0
「それにしてもめでたい! いや、ホントめでたい!」
「ご主人様、ちゃんと子供のことを守ってあげないとダメだよ」
「ああ、どんな敵からだって守るさ」
「そうじゃなくて、お姉様から」
 ち、ちと指を振る蒲公英の言葉に俺は椅子からずり落ちそうになる。
「お姉様の犠牲は蒲公英だけでいいもの……」
「いや、いくらなんでもそれは翠に失礼だろ」
 顔に影の差した蒲公英に同情しそうになるのを堪えて俺はそう答える。
 蒲公英は口先を尖らせると、杯から酒を流し込みこちらをぎろりと睨み付けてくる。
「それよりも、蒲公英もご主人様の子供を孕みたいー!」
「バカっ!? 大声でそんなことを言うなよ」
「だってぇ、蒲公英の方がお姉様より積極的にご主人様の子種をもらいにいってるのにお姉様の方が先だなんて納得いかなーい」
「いやいや、翠とだって結構してるぞ」
「むう、なら今夜は蒲公英を孕ませるくらいにたっぷり愛してよ」
「もう少し父親になる気分を味わっていたいんだけど」
「それなら、蒲公英のときにさせてあげるから、ね?」
 これじゃあ、ち●こ呼ばわりされても仕方ないな……などと思いながら俺は蒲公英に連れられるままに酒屋を後にした。
 子供が出来たことによって気分が昂ぶっていたのもあってか長時間試合を繰り広げた。

 翌朝、蒲公英とのことがばれて半泣きの翠に思い切りしばかれた俺は今、馬騰さんの眠る墓を前にしていた。
 別に翠にぼこぼこにされたとどめで埋められるわけじゃないぞ。
「母さん。随分時間がかかったけど……ただいま」
 墓を見ながら帰郷の言葉を告げる翠の顔はどこか哀愁を帯びている。
 未だに彼女の中に当時のことが残っているのだろう。
 俺は黙って彼女の言葉に耳を傾け続ける。
「ようやく平和になって、あたしたちものんびりやれるようになったよ」
「蒲公英も元気にやってる。後でくると思うから確認してくれ」
「今日は顔見せと、この女にだらしのないやつを紹介しにきたんだけど、それよりも報告することができたんだ」
「あたし……母親になる」
 優しい瞳でそう告げる翠を包みこむように暖かい風が吹き抜ける。
 馬騰さんが翠を抱きしめているのかもしれない。そんな感想が自然と浮かんだ。
26 名前:翠の墓参り(6/6)[sage] 投稿日:2011/04/19(火) 02:07:49.53 ID:Y+l8RVdd0
「お姉様ー! お酒とお供えの肉もってきたよ」
「おう、ご苦労様」
 駆け寄ってくる蒲公英の方へ振り返る翠を余所に俺は手を合わせると、墓へ報告をする。
「翠の子供……父親は俺です。絶対に翠も子供も幸せにします。約束します」
 俺の呟きに応える用にどこからともなく撫でるような風が巻き起こり肩を叩く。
 その中に女性の声を聞いたような気がした。
『あたしの娘とその子供のこと、よろしく頼むよ。少年』
 やはり、馬騰さんは翠たちを見守っているのだろう。
 そう思い自然と喜色満面の表情を浮かべていると、翠が不思議そうな顔をする。
「なんか、嬉しそうだな。ご主人様」
「翠と俺の愛の結晶について考えてたら、つい」
「なっ、あ、あああ愛の結晶って、恥ずかしいこと言うなよ」
「なんだよ、昨日は愛してるって言い合ったじゃないか」
「それとこれとは別だ! ほんと、ご主人様みたいにならないようにしないとな」
「まあ、翠に似れば美男か美女になるのは間違いないもんな」
 翠自身が綺麗だし、なんて付け加えたけど、彼女はいつものように動揺したりしなかった。
 ただ頬を染めて嬉しそうに笑っている。
「翠、すごく綺麗だ」
「もう、やめてくれよ。恥ずかしい」
 はにかみながらそう答えた翠は本当に美しく淑やかに見えた。
「なあ、翠」
「ん?」
 俺はなんとなく、言いたくなったことばを彼女に捧げる。
「俺を好きになってくれてありがとう」
 そう言うと、翠は眼を白黒させた後、俺の肩に顔を埋めてぼそりと呟いた。
「ずっとずっと……ご主人様を好きでいる、絶対だ」
 赤くなった顔を見せまいとする彼女に口元を緩めつつ、俺は心の中で密かな決意を固めていた。
 絶対にまた来よう、今度は子供と一緒に。
27 名前:清涼剤 ◆q5O/xhpHR2 [sage] 投稿日:2011/04/19(火) 02:14:00.18 ID:Y+l8RVdd0
以上となります。総数が少ないからと油断していました。

内容はタイトルの割にお墓参りのシーンが少なかったですかねw
でも、翠って無印から萌将伝までの総Hシーンって結構あると思うんですよ。
描かれてない分もあるだろうし彼女が妊娠しないはずがない!
……なんて思ったのがいけませんでしたね。反省です。

それにしてもネタって必要とするときは出てこないのに不意に顔を覗かせますね。
ツンデレもいい加減にして欲しいものです。
また、何か思い浮かんだら勢い任せに投下すると思います。
それではおやすみなさい。

お付き合い頂いた方、どうもありがとうございました。

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