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653 名前:一刀十三号 ◆keNb29aoZQ [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 21:39:42.56 ID:NKas6KPgO
「にゃー(睡いのでシンプルに)」
「はいはい、でわ〜21桃香しますね〜」
654 名前:涼州平定1-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 21:48:54.72 ID:NKas6KPgO
言葉ではどう言い繕うとも、事実上の揚州攻略の失敗。
初の侵略失敗のショックなのか、少々消極的に思えなくもない行動が目立った曹操が玉座に座りながら配下の郭嘉に語り掛けた。
「…稟」
「なんでしょう?華琳様」
「次はどうすれば良いと思う?」
「迷っておられますか?」
「少々ね…」
「それならば少々助言を…迷うなどと戯れ言は覇道を進む華琳様には無用かと。迷えばその間、民は飢え苦しみ倒れていきます。何はともあれ全大陸平定の悲願を」
「・・・・・」
黙って郭嘉の語りを聞く曹操。
「今まで華琳様が歩んで来た、そしてこれからも突き進む道。今更、後戻りもできないでしょうし、そもそも端からその気も無いでしょう」
「言いたい放題ね、稟。私にだって考え込む時ぐらいあるわよ……だとして次はどうするの」
「でしたら揚州攻略の前に進言した涼州攻略を再度進言いたします。念のために一度は降伏の使者を送り、断られた後に攻め入れます。揚州攻略において多少軍事費の浪費はありましたが兵力の被害は事実上の皆無でした」
「ふむ」
「それどころか魏兵士としての心構え、それに伴う質の飛躍的な向上が見られます。もう少し鍛えればすぐにでも涼州兵に対しても引けを感じぬ屈強な兵士が出来上がるでしょう」
655 名前:涼州平定2-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 21:56:53.84 ID:NKas6KPgO
「それで」
「そして涼州を平定すれば後顧の憂いが無くなり、更に涼州の騎馬隊も手に入ります。大陸平定の大きな足掛かりになるでしょう」
「それから」
「その後は徐州の劉備、揚州の孫策、荊州の劉表全て平定し、最後はお好きな様に益州の劉璋を調理すれば」
「大陸を手に入れられる…と」
「御意」
「…立ち止まってはいられぬ…か。“兵の準備は”どの位かかるのかしら?」
「二ヶ月も有れば万全なモノを」
「“次は無いわよ”」
曹操の言葉は何を意味するのか。
「万が一にでもその時は私の不手際、然るのちお側に」
「そう…ならば分かったわ、涼州攻略の準備を始めなさい」
「御意」
郭嘉は深々と頭を下げた。
・・・
・・

◇ ◇ ◇
二ヶ月後。
涼州に遣わされた降伏の使者は案の定追い返され戦が決定する、そして涼州への進攻が開始された。
騎馬隊の運用・戦略を熟知している張遼を先頭に進軍し、その張遼の進言・行動のおかげで敵騎馬隊襲撃に寄る被害は最小限すんでいた。
だが昼夜を問わない一撃離脱なゲリラ戦法が多発する為に、不眠などからなる疲労と精神的不満は積もるばかりであった。
そんなある日。
「貴様らー!自分たちから志願しといて!その体たらくはなんだー!なの〜!」
干禁の罵声が鳴り響く。
656 名前:涼州平定3-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:03:15.14 ID:NKas6KPgO
たまたま通りかかった曹操が夏侯淵に声をかける。
「あれは?」
「はい、わりと最近に取り入れたという沙和独自の鍛練方法の掛け声です。なんでも要望が高く志願で鍛練をおこなっているとか」
「へえ、要望が出る程なんてそれは少し興味あるわね」
「行ってみますか?」
「ええ、行ってみましょう」
夏侯淵を引き連れ訓練場に向かう曹操、相変わらず干禁の罵声は鳴り響く。
「頑張っているみたいね、沙和」
訓練に夢中の干禁は話し掛けてきた者が誰だが気付かないで振り向く。
「ん?誰な!か・華琳さま!!それに秋蘭さま!!なのー」
『ザッ!!』
夏侯淵を抜かしたその場にいた者、干禁を含め兵士全員が直立不動に成る。
「そう不必要に固くならないでいいわよ」
「はい!なの〜」
『なの〜』は直らないものの曹操の言葉の効果は現れる様子が無い。
「それにしても見事なものね」
曹操が感心する訳は、今干禁が鍛えている志願兵の中には嘗てはあまり命令に背く者又は素行がそれほど良くない者が多々含まれていた。
軍としては言うことは聞くがどこか任せられない癖のある愚連隊の様な連中であった。
それが今は干禁の掛け声に一糸乱れず動き、曹操の姿に以前には無い緊張した態度で接していた。
657 名前:涼州平定4-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:09:24.16 ID:NKas6KPgO
「沙和、アナタには感謝しているのよ。あの中々に従わない者たちをよくまあここまで立派な兵士に」
「お褒めに預かりありがとうございます!なの〜」
「で、どうやったの?」
「華琳さまもご存知の通り、この新しい訓練方法での罵声を浴びせたら言うことを聞いたのー。恐らく彼らは罵声を浴びるのが大好きなちょっと変わった性癖の持ち主さん、なの〜」
「へ〜それは確かに少し変わっているわね。けれど沙和、アナタの罵声は聞き慣れないモノが多いわね、その…ふわぁく、とか…いえっさー、とか」
「それはー・・・まあ華琳さまになら構わないかなのー、実はこの本のおかげなのー」
懐から出した物はいつぞやの買った本である。
「良いの?」
「どうぞ、華琳さまなら読んでも構わないのー」
受け取った本の表紙を見ると。
「亜女利歌海兵隊式新兵訓練書?聞いたこと無い訓練方ね。著書は覇亜都萬軍曹?秋蘭知ってる」
問われた夏侯淵は首を横に振る。
「申し訳ございません」
「なら、後で風か稟に聞いてみましょう」
と、本の一頁を捲った瞬間、曹操の表情が変わる。
「これは!」
「どうしました華琳様?」
「よく見なさい、ここの文字。どこかで見覚えない秋蘭」
658 名前:涼州平定5-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:15:03.41 ID:NKas6KPgO
言われてじっくり眺める秋蘭。
「まさか!これは華琳様…」
「そう私には袁紹の所の顔良に届いた密書に書かれていた文字に非常に似ている様に見えるのよね、ここもそう…ここも」
と、記憶を頼りに次々と似ている所を探り当てる。
「沙和、アナタこの本をどこで手に入れたの?」
「その本ですか?それは許昌にある、他州の本も取り扱うとしてわりと有名なあの本屋なのー」
「・・・ああ、あの本屋ね。ことの詮索はこの戦の後にするとして…沙和この本の提出は無理かしら」
「いずれならいいとしても、その本にはまだ習わないといけないことが沢山あるのー」
「そう、ならば必要な時には貸して貰えるでしょ?沙和」
「それなら、ハイなの〜」
「よろしい、ならば沙和偶然と云えよくやったわ、褒美を取らせましょう。なにが良いかしら?遠慮無く言いなさい」
「それでしたら遠慮無く言いますの〜、沙和は新しい服が欲しいの〜」
「そんなので良いの?ならばこの辺の最新の服を…」
と、語っている曹操の言葉を遮る干禁。
「申し訳ございませんが華琳さま、服は許昌の服の方が嬉しいのー」
「あら?それはどうして」
660 名前:涼州平定6-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:20:53.21 ID:NKas6KPgO
「この辺は娯楽がたいへん乏しいみたいなのー。だから服も古臭いというか、着れればいいやみたいな感じでとても娯楽用の服じゃないの〜。
 今日のこの訓練もあまりに娯楽の無いこの環境を、訓練と趣味を多少強引に混ぜこねて誤魔化す為のものなのー」
その干禁の言葉に曹操の頭が回転しだす。
「沙和。アナタ、張三姉妹の予定管理の一人でもあったわよね?」
「はい?…はい、凪ちゃんと真桜ちゃんと三人とで張三姉妹の予定管理はしてますのー」
「いま、張三姉妹はどこ?」
「それでしたら元袁紹の領地を安定・慰問の為に并州にいるはずなの〜」
「呼んだとして何日で来れる」
「う〜ん、状況次第として…それでも距離的に一週間はしないはずなの〜」
「沙和!今すぐ最優先事項で張三姉妹をここに呼びなさい!」
「了解なの、お前たち今日の訓練は中止!解散なの」
「「「サー・イェッサー!」」」
慌てて走り出そうとする干禁に曹操が一言。
「沙和。許昌に戻ったら好きな服、三着買ってあげるわよ」
「了解でありますなの〜」
一瞬立ち止まって敬礼後、干禁は上機嫌で走って行った。
◇ ◇ ◇
とある村外れの淋しい飲食店の座敷で、曹操と郭嘉に護衛の夏侯淵と楽進それと張三姉妹が密会していた。
661 名前:涼州平定7-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:27:13.37 ID:NKas6KPgO
「お呼びにあずかり、到着致しました華琳様」
「ちょっとなにこの店。これじゃご馳走にありつけないじゃない」
三女の礼儀正しい挨拶を空気を読まない次女が全てをぶち壊す。
「お姉ちゃん美味しい杏仁豆腐食べた〜い」
と、長女が止め刺す。
「お姉ちゃんたちはなにか適当に注文でもして少し黙ってて」
注文の許可を貰った上二人の姉はワイワイと注文に没頭する。
「で、今日のご用件は?」
「あなたたちの用なんて歌を歌う以外になにかあるのかしら?」
その言葉に反応したのは次女。
「あっ、なんかその言葉ムカつくんですけど」
「姉さん!」
三女の戒めも聞かずに言葉を続ける次女。
「私たちが歌以外のやること?あるじゃない」
いったいなにを喋るのか意外とみんなが注目をすると次女が答えた。
「私たちの愛好者を先導しての反乱よ!」
あまりに冷たい空気が漂う中、曹操がただ一言。
「そう、なら頑張りなさい。応援は出来ないけれど」
さすがの次女もこの空気の冷たさに気付いたらしく慌てて訂正する。
「嘘よ嘘、やだな〜ちょっとしたお茶目じゃないですか〜」
「そうなの?ならば次からはもっと“嘘だと判る嘘をつきなさい”危うく騙されて討伐するとこれだったわ」
662 名前:涼州平定8-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:32:50.87 ID:NKas6KPgO
明らかに嘘を見抜いていると判っていながら三姉妹側は誰も指摘しなかった、いや出来なかった。
「では、そろそろ本題に…」
三女の冷静な言葉だけが今は響いた。
「あなたたち張三姉妹、数え役萬☆姉妹はこの地で派手に活動をしなさい」
「それだけ?」
「そう、それだけよ。そうね一つ注文を付けるとすれば、より一層派手に、すぐに効果が有る活動するために普段の入場料を半分にしなさい」
その言葉には珍しく三女が口を挟んだ。
「それは出来ません」
「心配しないで良いわ、半分の入場料は軍事費からちゃんと支給するからあなたたちが赤字になることは無いわよ」
「なら問題無いじゃん、れんほー」
「そう言う問題じゃないの姉さん、とにかくその命令には従えません華琳様」
珍しい三女・張梁からの反対意見に。
「訳を聞いても良いかしら?」
「私たち三人姉妹には歌しかないんです。穴を補うと言われても、決して歌そのものを安売りする訳にはいきません。特に将来、私たち三人が独り立ちするんですから尚更です」
「れんほーちゃん…」
「れんほー…」
「そうなの、そこまで考えてるの。でもねこっちもあまり余裕があるわけじゃないの、なんとしてもやってもらわないと困るのよ」
663 名前:涼州平定9-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:39:06.56 ID:NKas6KPgO
「そう言われましても華琳様。理由も無くいきなり半額での公演を始めては…今後、他の地で本来の値段で始めた時に不満が出ます」
張梁の言うことも、最もであった。
「それでしたら、理由を付けたらどうでしょうか?」
口を開いたのは本来護衛役の楽進。
「理由を付ける?」
「はい、華琳様は早急にそれこそ入場料を安くしてでもすぐに何らかの効果が欲しい。しかし、人和殿は将来も視野に入れての安売りは嫌だと。ならば何かしら理由を付けて期間限定にすれば問題も最小限かと」
「他の地域の人達も同じ事をしろ!と、言って来たら?」
「でしたら…やはり期間限定と銘打つ以上、今ここでしかいけない理由を付ければ良いのでわないでしょうか?」
「今、ここじゃないといけない、もしくはここだけの理由?…」
暫し考える一同、そこに店のオヤジが注文の料理を運んで来た。
「へい、注文の料理お待ちどう様。しかしお客様たちよくまあこんな時期にこんな所に、周りは戦だらけだから巻き込まれないように気を付けてくださいよ」
『!』
こうして理由は決まったのだった。
◇ ◇ ◇
『娯楽が全く無い』と言っても過言ではないこの地域、彼らに取って張三姉妹はまさに女神になった。
665 名前:涼州平定10-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:46:08.60 ID:NKas6KPgO
昼間にコンサートを開くと昼間の襲撃が目に見えて減った。
次にコンサートの時間帯を夜に移動させると昼間の襲撃は再開されたが夜襲が完全に消えた。
夜襲が消えたのには将も兵もみんなが大変に喜んだのでコンサートは夜に集中するようになった。
立て続けに開く張三姉妹のコンサートに涼州兵は熱狂し、戦すらそっちのけになる者も多数出る始末。
その位『数え役萬☆姉妹』の人気は凄かったのだ。
こうして進攻当初とは比べものにならないぐらい減ったゲリラ戦法。
その隙に大きく進攻の距離を稼ぐ曹操軍、拠点攻略となれば曹操の軍勢の方が圧倒的に有利で攻め落としていった。
落としては進攻をし、進攻しては落とす。
そして、とうとう曹操の軍勢は馬騰の率いる軍勢を直接叩ける、決戦も視野に入れられる様な距離まで迫った。
ここで曹操は最後の仕上げに出た。
「ホンマにパッタリと涼州兵の襲撃が止んだわなー」
曹操の策にこの五日間、涼州兵の襲撃が止まっていた。
その成果の一つが、眠たそうな次女の文句である。
「当たり前でしょ〜ワフッ。お早うからおやすみまで丸々三日、昼休み以外ずっとの大公演会」
666 名前:涼州平定11-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:52:04.85 ID:NKas6KPgO
張宝の言う通り、五日前に始めた三日間連続の一大コンサート。
入場料はデタラメの安さ、訪れてる兵士たちは場所取りの為に陣には帰らず会場に徹夜。
深夜も曹操の機転で三人が交代してのサプライズ演出に戦でもないのに不眠の番が出る始末。
そうした結果、コンサートに参加した者は精根尽き果てて生きる屍と化していた。
そこに逆に三日間の休暇後に、一昨日まだ余力を残した張三姉妹の慰問コンサートに曹操軍のボルテージは最高潮。
その状態の勢いをかって昨日は一気に馬騰の軍勢との距離を詰めた、いまやその軍勢を視野に捉えている。
「私たちが…ここまで、頑張っ…んだから〜負けたりしたら…承知し…いわよ」
『ドサッ』
「ス〜ス〜」
寝息を立てて草の上で寝てしまった張宝、ちなみに張角・張梁は一昨日の慰問コンサート後、まだ一度も起きていなかった。
「地和を彼女たちの馬車へ運んでやって、季衣」
「ハ〜イ」
ちびっ子だが力持ちの許緒が張宝を抱えて姉妹が寝ている馬車に運んで行った。
「戦の前に馬騰にこの手紙を届けなさい」
「御意!」
決戦が間近まで迫っていた。
「ならば戦の準備をしなさい!今日でこの戦を終わらせるわよ!!」
◇ ◇ ◇
667 名前:涼州平定12-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 22:57:05.53 ID:NKas6KPgO
馬騰の部屋にて怒った声が響く。
「たんぽぽ!お前この三日間どこ行ってた!帰って来るなりずっと眠りこけて!!曹操が直ぐそこまで迫ってるの解ってるのか!!」
「ごめんなさい、本当にごめ〜んなさ〜い翠姉さ〜ま〜」
「たんぽぽ!!」
「ヒャウ!」
「お前だけじゃない、ここにいる半数以上の兵が同じ様な状態だ…いったい何だってんだ」
馬岱を筆頭に大多数の仲間の不甲斐なさに苛立ちを隠せない馬超。
「落ち着きなさい翠、あなたが苛ついたとして皆の状態が改善される訳でもないでしょう」
「けれど母様…」
「翠…ゴホッゴホッ」
「母様!」
「おば様!」
咳き込んだ馬騰に駆け寄る二人。
「母様は安静してくれよ」
「そうして欲しいなら私を少しは安心させなさい、今日にでも起こる戦は貴女が私の名代を勤めるのだから」
そう言われてしまっては素直に静かになるしかない馬超だった。
そんな時。
「失礼いたします馬騰様、曹操からの手紙が届きました」
「何だってこんな時期に、今更降伏勧告もないだろうに」
「読みますからその手紙を寄越しなさい」
「はい」
受け取った手紙を入念に読み出す馬騰。
その全てを読み終わったと判断するや、すかさず質問する馬超。
668 名前:涼州平定13-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:02:56.64 ID:NKas6KPgO
「母様、曹操はいったいなにを?」
暫く考える様な仕草も見せたが馬騰は口を開く。
「何でもありません…『無駄な血を流す必要もないだろう』と、ここにきて今一度の降伏勧告です。無論、私たちは最後まで漢の臣なのだからこの申し受けを了承する訳にはいきません」
息が続かないのか一旦深呼吸をした。
「翠」
「なんですか母様」
「私の代わりに名代として出陣しなさい、そして曹操の軍勢を普段通り五胡の群を蹴散らす様に撃退してきなさい…」
「分かりました母様、なら行くぞたんぽぽ!!」
「了承だよ、翠姉様!」
「待ちなさい」
静かながらも突然の馬騰による呼び止めに立ち止まる二人。
「いいえ、蒲公英に話が有ります。翠、あなたは急いで曹操の迎撃の為の出撃準備を急ぎなさい」
「…あぁ、分かりました母様。じゃあ先に行ってるぞたんぽぽ」
腑に落ちないながらも言われた通り出撃準備の為に移動する馬超。
「うん、判った。お話が終わったら直ぐに行くね、姉様」
「あぁ、待ってるぞ」
こうして馬超は姿を消した、残った馬岱に馬騰は一族を未来に残す為の自分の考えを話した。
「そんな、おば様」
「蒲公英。これは盟主としての命令。そして母としてのお願いでもあるの」
669 名前:涼州平定14-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:08:14.31 ID:NKas6KPgO
「分かりました、おば様。言われた通りに」
「ありがとうね蒲公英。そして辛い役目を背負わせてしまってごめんなさい」
「ううん、たんぽぽは平気だよ!それじゃあ行ってくるね、おば様」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい」
寝床の上からだったが、何事も無いように優しく微笑みながら馬岱を見送った馬騰であった。
◇ ◇ ◇
「華琳様。陣の展開、終わりました。敵陣からも将が出て来ていますが…」
「そう。なら、私も出るとしましょうか」
こうしてお互い声をかけられる距離に近づいた時、曹操から声をかけた。
凄く残念そうな声で。
「………馬騰は?」
「わたしは馬超!馬騰の名代として、この軍の指揮を取る者だ!」
「ああ、そう。馬超ね。そういえば連合の時にも見た顔ね……」
「な……なんだその反応はっ!もっとこう、あるだろうが!この侵略者め!!」
「名将と名高い馬騰と相見えるのを楽しみにしてきたのだもの。その代わりが貴方では……ねぇ」
終始、曹操に言い負かされた馬超は怒りながら陣に戻って行く、一方曹操もやはり残念そうな顔を崩さす陣に戻って行った。
こうして涼州での決戦が開かれた。
670 名前:涼州平定15-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:13:22.65 ID:NKas6KPgO
開戦と同時に騎馬隊が西涼の戦い方の定番通りにもの凄い勢いで突っ込んで行く。
まともに相手をしていたら曹操軍は甚大な被害を出す筈なのだが、どこか軍全体に余裕が伺えた。
そして両軍激突と思えるほんの少し前に涼州の兵たちから怒号が飛び交った、転倒する者まで出る始末。
「な……なんでこの辺りで地面がこんな……っ!溝やぬかるみがあるなんて、聞いてないぞっ!!」
それは李典が率いる工作隊の仕掛けであったが効果は絶大だった、脚を止められ速さを殺されては騎馬隊が主体の涼州軍に取っては致命傷であった。
素より涼州兵は曹操の策により疲れ果てており、そこに脚が止まってしまった騎馬隊は一足遅く攻めてきた歩兵が主体の曹操軍に蹂躙されていくしか出来なかった。
ぬかるみから抜け出すことが第一となってしまった涼州の兵は軍として成り立たず各個撃破されていく。
命からがらぬかるみから脱出した彼らが見たものは既に五分の一以上が討ち取られ、そして約半数以上が捕虜として捕らわれている悪夢のような光景だった。
それを見た馬超が呟く。
「たんぽぽ。お前はみんなを連れて、落ち延びな」
「姉…様?」
671 名前:涼州平定16-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:19:54.46 ID:NKas6KPgO
「まずは益州にでも行け、劉璋はあてにならないけど今のここよりましだろから…駄目ならちょっと遠いが荊州か、最悪徐州の劉備を頼りな」
馬超なりに考えた考えを馬岱に告げると。
「駄目だよ姉様、一人で突っ込むつもりでしょ」
「・・・・・」
馬超は答えない。
「おば様が言った通り」
「母様が…って?」
「おば様はおそらくこの戦は負けると予想してたの。だから密かに兵糧など別の場所に待機させるから『後々、落ち合うように』って、たんぽぽにその場所を教えてくれた」
「だったら母様も連れて!」
「駄目だって、言ってた」
「なっ!なんでだよ」
「姉様だって判ってるでしょ!おば様のあの身体じゃ…足手まといになりたくないって。それに」
「それに?」
「戦いの直前に曹操から来た手紙。あれにはおば様が『逃げ出すことも自決するのも禁ずる』って、書いてあった。もし破るなら残った者を皆殺しにするって、だから自分はここから離れなれないって」
「だったらなおさら母様を助けに…」
衝撃の事実に感情的に動こうとする馬超に馬岱が。
「姉様の馬鹿!」
馬岱が悲痛の叫びをあげる。
672 名前:涼州平定17-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:25:10.32 ID:NKas6KPgO
「おば様が…おば様がどれだけ辛い思いでこの命令を発したと…たんぽぽがどんな気持ちでこの命令を受けたと…姉様はおば様のこの気持ちを無駄に、無駄に…グズッ…」
とうとう我慢出来なくなってしまったのか馬岱が泣きはしないもののグズツいてしまった、それを馬超は不器用ながらも優しく抱き締めて頭を撫でる。
「ごめんな、たんぽぽ…こんな辛い思いさせち待って……判ったよ一旦は引く…だけど必ず再起を図る」
こうして馬超は馬岱と自分に付いて行くという者たちとで馬騰が手配した合流地点に向かった、やるせない気持ちを胸に秘めて。
◇ ◇ ◇
戦も曹操軍が勝利という形で決着がつく。
曹操が側近数名と馬騰がいるといわれてる部屋に向かい、そして訪れた。
「お初にお目にかかります、馬寿成」
進攻し勝利し征服した側としながらも、年上に対する礼儀正しい挨拶をする曹操。
「こちらこそ、初めてですわね…曹孟徳。病気とはいえ床に就いたままの非礼、お詫びします」
そして馬騰も礼儀正しく対応する。
「あぁそれは構わないわ、そちらの都合も考えずに勝手に押し掛けたのだから」
皮肉にしか聞こえない本心を告げて、言葉を続ける曹操。
673 名前:涼州平定18-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:30:46.71 ID:NKas6KPgO
「だけど良かったわ、こうしてあなたとお話が出来て。私に捕まるのを潔しとせず、自決されないかと正直冷や冷やしていたのよ」
「あのような手紙を見せられては…民の為、いかに耐え難いことが待ち構えていたとしても耐えるしかないでしょう」
物静かに、されど深く重い怒りを潜ませて答えた馬騰。
「あの手紙の内容に関しては非礼を詫びるわ、けれどあそこまで書かないとおそらくあなたは…」
ここで一旦、なにかを思ったのか口を止めた曹操。
「(私はもう進むしかないの)だから、あなた程の人物に会う為なら、その程度の蔑みいくらでも甘んじて受けましょう。この曹孟徳、伊達に乱世の奸雄とは云われてないのだから」
言葉とは裏腹にその瞳はなぜか淋しい光が宿っているのを見つけた馬騰、しかしそんなことは口にはしない。
「それで私はどうなるのです、見せしめの為の斬首ですか?」
馬騰の質問に質問で答えた曹操。
「あなたを殺してどうするの」
その答えには驚いた様子で反応し、新たな質問に答えた馬騰。
「何故です?私を処理し残った者たちには恫喝して代理の官にて統治するのが基本的で素早い方法のはず」
675 名前:涼州平定19-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:36:50.37 ID:NKas6KPgO
「馬騰、それはあなたが暗愚だったり平凡な者だったらそうだったでしょう。けれどあなたは凡人ではない、人望高く名将と名高いあなたを処断すれば厄介事しか起きないでしょう。
 正にあらゆる意味でただの損失でしかない、得るものなんて何も無いわ」
「曹操、あなたがそこまで私のことを買っていたのは意外でしたが、やはり私が天子と仰ぐは漢の皇帝のみ」
「なら、それでいいんじゃない?」
この台詞は馬騰にはあまりに衝撃的だった。
「曹操…あなたは何を言っているのです」
「何って…今、あなたは漢王朝の臣って自分で言ったじゃない『国有りて民有るのか…民有りて国有るのか…』だけど私は漢王朝を亡くすつもりは毛頭無い、けれど今のままでよい訳では決してない。
 ならば漢の臣が力を失っている天子に代わって、今一度大陸の統一をやっておくのが筋だと思わない?勿論、宮廷内の害虫も駆逐するわよ。まあ方便にしか聞こえないでしょうけど、ただ民の為になんてね。
 馬騰。あなたを私の配下につかせる訳でもなく、私の為でもなく、漢王朝の為に大陸を統一する…で、どう?」
その誘いは年頃の女の子がお茶をさそうようなお手軽さであった。
676 名前:涼州平定20-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:42:57.46 ID:NKas6KPgO
注目される馬騰の言葉。
「確かに…方便ですね」
「そう、残念ね」
「けれど衰えた天子の威光を回復させるのは臣の役目、そこ言葉には共感出来ます。されど私はこの身体、故にろくに政も出来ず、ましてや宮廷に関しては何も出来ません。
 曹操、天下の政を、特に宮廷内に関しての事を頼めるのならば涼州と五胡の進攻に関しては微力ながら最善を尽くしましょう」
馬騰が漢王朝の為、天子の為、そして民の為に動いた瞬間であった。
「あら?動かなきゃいけないことは動ける人間が動けばいいじゃない。少し不安は有るものの、あなたの嫡子『錦馬超』と武勇は名高い馬超はどうしたの?あの程度の戦で戦死する訳もないでしょうし」
「翠は、馬超は帰って来ませんよ」
「あら、どうして?」
「あの子は風だから、草原を…大陸を翔る風に涼州はあまりに狭すぎるでしょう?(今は辛くともいつか必ず、アナタが本当の自分らしく居られる場所に辿り着けるでしょう…)」
馬騰の問う様な口調と瞳に今度は曹操がなにか感づくもそのことには触れなかった。
「ならば馬騰、涼州の事は任せるわよ。それと有望な文官を遣わすから、せいぜいこき使って鍛えてあげて」
677 名前:涼州平定21-21[sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:48:04.37 ID:NKas6KPgO
出口を向き、
「なら、あまり長い時間の謁見は身体に障るでしょうから退室するわ」
そう言い放ってから歩きだす。
もう一度だけ足を止めた後、
「それと…今日はアナタと出会えて本当に嬉しかったわ。なぜかしら?不思議なことに心の痼りが取れた気分。じゃあ馬騰、身体を大事にね」
そう言い残すと、今度は本当に部屋から出て行った。
廊下を歩く曹操は呟く、
「…そう、私は止まってはいられない…次は麗羽の時の密書と沙和の本…」
と…
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678 名前:一刀十三号 ◆keNb29aoZQ [sage] 投稿日:2011/02/27(日) 23:53:55.97 ID:NKas6KPgO
「にゃー(すいません、寝ます…)」
「はい、わかりました〜。おやすみなさいです〜。それでは皆さん、ご静聴とご支援ありがとうございました〜、でわでわ〜です〜」

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