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305 名前:風鈴 ◆VOACf8e.7. [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 11:31:54 ID:PreG6Xnc0
最後はやはり、直投下にて。

と言うわけですので、本日21時頃、真√最終章を投下させていただきたいと思います。

4分間隔投下で、16.1レス……もとい17レス程度になる予定です。

それでは、また後ほど。
309 名前:風鈴 ◆VOACf8e.7. [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:01:30 ID:PreG6Xnc0
──真√──

真・恋姫†無双 外史
北郷新勢力ルート:終章 志在千里



それは、ひとつの物語の終わり。



・オリジナルルートの為、登場人物同士の呼び合い方が、原作とは異なるものがあります。
  例)風→一刀=原作:お兄さん・本作:ご主人様
    ※独自の呼び方は作者の勝手なイメージです。
・当作品では、『天の御遣い』と言う名の持つ影響力は、原作より強くなっています。


それではしばし、お付き合いくださいませ。
311 名前:真√:終章 志在千里 1/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:02:38 ID:PreG6Xnc0
 それは、陽による統一と言う形で戦乱が終結した日から、約七日が過ぎた日だった。
 一刀により陽の重臣達の他、曹操、劉備、孫策を初めとした元三国の主たる者達も集められ、
今後の事が伝えられた。

 一つ、漢中を除く益州、南中、北荊州、南荊州の西半分は、劉備を領主とした『蜀領』とし、
治めること。

 一つ、揚州、南荊州の東、徐州、准南は、孫策を領主とした『呉領』とし、治めること。

 一つ、幽州、エン州、青州、冀州、并州は、曹操を領主とした『魏領」とし、治めること。

 一つ、司隷、雍州、漢中は陽本国の直轄地とすること。

 一つ、涼州は馬騰を領主とし、治めること。


 これまでで、尤も驚いたのは華琳を初めとした魏の者達であった。
 彼女等にしてみれば、自分たちは“敗者”である。だと言うのに、確かに削られはしているが、
それでも広大な領土を与えられたのだ。
 だが彼女等は──いや、この場に居る者達の全ては、次の彼の言葉でさらなる衝撃を受ける。


 一つ、陽は程c、郭嘉が中心となり、治めること。


 その言葉を聴いた直後、その場に居た者達は彼が何を言っているのか、理解できなかった。
 当然だ。この『陽』と言う国の国主は、北郷一刀その人である。
 国主である以上、陽を治めるのは北郷一刀を置いて他には居ない。そのはずである。
 だが彼は言った。この国は、程cと郭嘉が中心となり、治めろ、と。
 それではまるで──。

「……そう、察しているのね、ご主人様?」
312 名前:真√:終章 志在千里 2/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:06:59 ID:PreG6Xnc0
 その声は、静かに響いた。
 皆がその声の方を向くと、そこにはいつの間にか二人の人物が居て。
 一人は、水晶球を胸の辺りに両手で持った少女。もう一人は、ほぼ全裸に近い格好をした、
筋骨隆々の偉丈夫。
 突如現れたその二人に、咄嗟に身構えようとした者達や、衛兵を呼ぼうとした者達が居たが、
次いで発せられた一刀の言葉にその動きも止まる。

「ああ、一応、自分の事だからね。
 ……ようこそ、管輅、貂蝉。来ると思っていた」

「……一体、どう言う事でしょうか、一刀様?」
 一刀や貂蝉達の真意が解らず、稟が問いかけると、一刀は微笑んで小さく首を振った。
 その酷く儚げで透明な笑みに、一瞬見惚れる者も居たが、次いで発せられた言葉に、その場
の全てが凍りついた。

「……俺はね、多分ここまでなんだ」

「……なぜ……ですか?……ここまで……って……どう言う事なんですか……?」
 酷く申し訳なさそうに言う一刀に対して、月が掠れた声で疑問の声を上げる。その表情には、
信じたくない、と言う想いが、ありありと浮かんでいた。
「……しばらく前から、何となく予感は有った。けど、あの日からハッキリと感じられる様に
なったよ。“大きな力”が、俺を飲み込もうとしているって」
 そんな一刀の言葉を補足するかのように、管輅が続ける。
「本来であれば、今、この時が“選択の時”となるはずでした。
 ですが──貴方は余りにも、この外史が望む“流れ”から逸脱しすぎた」

 ──ピシリ、と、薄氷を割る様な音が聞こえた。

「外史……ですか?」
 聴きなれない言葉に、桃香がポツリと洩らした疑問の声に、貂蝉は頷いて返す。
314 名前:真√:終章 志在千里 3/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:11:02 ID:PreG6Xnc0
「外史とは、正史より派生した『別の歴史』。そう、一言で言えば『この世界』そのもの。
……“この世”はね、一つの大本となる『正史』と、そこより派生した数多の『外史』で成
り立っているのよ。
 ……外史は“流れ”を重視するの。その外史が生まれる基となった、正史の流れに沿おう
とする習性……とでも言えばいいかしら?
 勿論、多少の変化はあるでしょう。でも、ほとんどの確率で、大きすぎる変化と言うのは
起きないわ」
「……それは、我々の辿るべき運命は既に決められている、と取っていいのかしら?……気
に食わない。全く持って、気に食わないわね」
 そんな不機嫌そうな華琳の声に、貂蝉は微笑みながら小さく首を振った。
「確かに、そう言う面が有る事は否定しないわ。……でも、決してそれが全てではない。
“この外史”がそうであったように」
「そうです。貂蝉の言う様に、この外史は違いました。現にこの外史は、既に正史からも、
元となった他の外史の流れからも逸脱しています。
 北郷一刀が誰の下にも寄らずに独自の勢力を築いた事、落鳳破において鳳統が生き延びた
事、赤壁において魏が勝利した事、そして何より──この大陸を、最大の変化とも言うべき
『陽』と言う第四国が統一した事。
 ……大小様々な事象を経て、この外史は、“自らの流れ”を作る道を辿るに至ったのです。
 ですが、これらの変化による歪みは、外史に大きな負荷をかけました。そしてそうなった
外史が行うことは、負荷の原因たるモノの排除。
 ……申し訳ありません、北郷様。私の“予言”程度では、貴方を消そうとする外史の“修
正力”を打ち消す事はできなかった」
 その管輅の言葉に、その場に居る全員の視線が一刀へと向く。
「そうね、けど、管輅を恨まないであげて、ご主人様?
 彼女の“予言”が有ればこそ、事ここに──長き戦乱の終わりの時に至るまで、ご主人様
はこの外史において存在することが出来た、とも言えるのだから」
 そう言って、貂蝉はどこからとも無く、一つの銅鏡を取り出す。
「だけど、積もりに積もった外史への負荷により高まった、異端への修正力は、最早抑えき
れないところまで来ているわ。でも私も管輅も、このままご主人様を消すような事にはさせ
たくはない。だから──」
316 名前:真√:終章 志在千里 4/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:15:13 ID:PreG6Xnc0
 キィン、と言う、耳鳴りにも似た音と供に、銅鏡が光を発しだす。
 それが何を意味しているのか。

「──だから、貴方へ向かう“消滅の力”を幾許かではありますが、私が引き受けましょう」

 それが、この世界へ貴方を連れてきた私の責任だと、管輅は言う。
 ピシリピシリと、薄氷を割る音は徐々にガラスにヒビが入る様な音へと変わり、増えていく。
 そして──
「……貂蝉、後はお願いします」
 その言葉と供に、カシャン、と乾いた音を立て、管輅の持つ水晶球が砕けて落ちて。
 さらさらと砂が崩れるように、管輅の身体は光の粒子となって消えていった。
「……ええ、任されたわ。……しばしの間、おやすみなさい、管輅」
「なっ!……管輅!?」
 その様子に、慌てた様子を見せる一刀へ向けて、貂蝉は小さく頷いて、
「安心して、ご主人様?彼女は仮にも管理者が一人。しばしの間眠りにつくだけ」
 そう言うと、一刀はほっと、それでも哀しそうな顔で息を吐いた。

 そんな中、ごくり、と、誰かが喉を鳴らす音が響いた。
 彼女達の言葉を信じるならば、下手をすれば今のが一刀の辿るべき運命だったのだと思うと、
戦慄しか浮かばない。
 だがそれは、今消えてしまった管輅が引き受けたのだと言う。
 ならば……一刀はどうなるのか?
 まるで、全員の意識が一つとなったかのように、貂蝉へ向けてその顔を向ける。
 その視線を受け、貂蝉は言う。
「管輅の言った通り、彼女が引き受けたのは幾許かの力でしかないの。
 そう、今も尚、ご主人様を排除しようと言う修正力は、無くなったわけではない」
 その言葉で、悟った。解ってしまった。
 その時感じていた思いもまた、皆同じだろう。
 ──聴きたくない、信じたくは無い──。
 それでも、貂蝉は続ける。
318 名前:真√:終章 志在千里 5/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:19:15 ID:PreG6Xnc0
「だから、管輅のお陰で弱まった“消滅の力”の方向性を、この銅鏡によって捻じ曲げるのよ。
……もう解っているでしょう?ご主人様をこの世界より出すの。元の世界へと。──そう、
戦乱を鎮めるために落とされた天の御遣いは、その役目を終えて天へと帰るのよ」
 一刀がこの世界から居なくなる。
 ……それは、たとえ命が失われないのだとしても、死の宣告にも等しい言葉だった。

 流れる音は、銅鏡が発するキィンという音のみの、痛いほどの沈黙。
「っざけんなや!こんな理不尽な別れ方認められるか!……一刀、ウチらとずっとおるって
約束したやんか……」
 きっかけは、霞のそんな叫びだった。
「……何故……何故今なのですか!ようやく戦も終わって、これから平和を謳歌しようと言
う時だと言うのに!!……ようやく……我等の悲願だった……大陸の平和を得る事が出来た
と言うのに……っ!!」
「納得いかない。……納得など出来るはずが無いわ。
 ……北郷一刀、貴方は私に土をつけた唯一の人間。それがこの様な……たかが世界の力等
に屈するなど……誰が認めたと言えど、この曹孟徳が認めたりなどするものかっ!」
 彼が関わり、彼と交わり、彼と出逢った者達が、次々と思いの丈を叫んでいく。
 皆の心に共通するのは唯一つだった。──こんなのは、認められない。
 その間も徐々に強くなり、今や眼もくらむほどに発している光の中、皆は口々に一刀へ向
けて言葉を掛ける。
 だが最早、その声は一刀へと届く事は無く、彼の耳には、キィンキィンと言う、銅鏡が発
する音だけが響いていた。
 彼に駆け寄ろうとする者も、まるで見えない壁に阻まれているかのように進む事が出来な
くて。
 それでも、みなの浮かべる悲痛な表情に、彼はその届く事の無い言葉たちを察し、憂いを
帯びた顔でその場に居る面々を順番に見渡していく。
 そんな中、じっと、口を開くでもなくただじっと一刀を見つめていた風がその口を開いた。

「ご主人様、風は、あの時の約束を果たす事ができたでしょうか?」

 その声は、他の皆と同じように、届かなかったのかもしれない。けれど、一刀には確かに、
聴こえた気がした。
320 名前:真√:終章 志在千里 6/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:23:34 ID:PreG6Xnc0
 思い出されるのは、もうずっと昔の、それでも色褪せる事のない、月夜の約束。

 ──ご主人様が、何があったとしてもこちらに残りたいと思えるようにしてみせるのですよ。

 そんな、風の言葉。

 ──ご主人様。……風はどこまでも、たとえ何があったとしても、ご主人様をお支えして
いくのですよ。

 そんな、誓いにも似た、彼女の言葉。
 そして再び、風の口が動くのが見えた。



──ずっと、お待ちしています。



 今や銅鏡から発せられる音は容赦なく一刀の耳朶を叩き、その音に引かれる様に、緩やかに
意識は遠くなっていく。
 そんな中、今度は確かに、その声は届いた。
 だから、言う。恐らく、己の声も彼女達には届かないだろうと思いつつも、言う。



 ──必ず、帰るよ。



 そして、世界は光に包まれた。
321 名前:真√:終章 志在千里 7/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:24:11 ID:PreG6Xnc0














真・恋姫†無双 外史

北郷新勢力ルート:終章 志在千里 ──恋姫喚作百花王──














323 名前:真√:終章 志在千里 8/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:28:33 ID:PreG6Xnc0
 ──□月□日未明、長らく行方不明であり、捜索願の出されていた少年が、1年数ヶ月振
りに発見された。少年は、彼が通っていた学園の通学路に倒れているところを──



 眼が覚めた時、そこは白い白い部屋だった。
 世話になった事は無い。見覚えのある部屋でもない。けど、こういう部屋があるのは知っ
ている。そんな部屋。
 つんと香る、消毒薬の匂い。
 身じろぎすると、ギシリ、と“ベッド”の“スプリング”が鳴った。
 もう長い間感じていなかった、懐かしい感触に思い知らされる。

 どうやら俺は、戻ってきた、らしい。
 それも、向こうに居た時間と、こちらで居なくなっいた時間は違うようで。

 不思議と、喜びは湧かなかった。
 ただ、俺が感じる以上に、彼女達を待たせてしまうことが、悔しかった。



 ──入院中の少年の話を聴いた警察によると、少年は妄想の類を主張して頑として譲らな
いらしく、薬物を使用された疑いもあるとされ──



 話しても、説明しても、訴えても、どれだけ自分が体験したことを主張したところで、誰
にも信じてもらえない。
 最初はまだ、何とか聞いてもらえた。けど、話を進めるうちに、妄想だと一蹴された。そ
んな妄想に逃げたくなるぐらい、辛い目にあったのかと同情された。
 違うんだ。信じてくれ。本当なんだ。俺の言葉を、否定しないでくれ!
326 名前:真√:終章 志在千里 9/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:32:52 ID:PreG6Xnc0
 ──少年からの薬物の残留反応は無いとの報告及び、少年には虚言癖は無かったとの周囲
の証言によって、当局は彼が失踪している間に何らかの重大な精神の疾患を負ったものと──



 ……何で……何で何で何で何で何で!誰も信じてくれない!誰もまともに俺の話を聴いて
くれないんだよ!!
 アレは夢じゃない!あれは妄想なんかじゃない!皆は!皆と過ごした時間も!築いた絆も!!
何もかも……幻なんかじゃないのに…………



 ──病棟を精神科へと移された後、少年は急速に回復を見せ──



 否定されればされるほどに、皆の存在自体が希薄になりそうで。
 だから俺は、己の事を話すのを止めた。
 何よりも、俺が、俺自身が、あの出来事を否定してしまうようになりそうで怖かったから。
 だから、自分の中に、強く強く刻み込むんだ。決して無くさないように。



 病院から解放されてから少したった頃、俺は学園に復学した。
 そんな中でも、俺は己の体験を──あの外史の事を誰にも話す事は無く、緩やかに、それ
でも確実に時間は過ぎる。
 そんなある日のことだ。
 先輩になっちまった及川と昼飯を食べているとき、あいつが言った。

「なあかずピー、かずピーの体験したこと、教えてくれへん?」

 何故知っているんだとか、何を言っているんだとか色々思ったが、勿論、最初は断った。
330 名前:真√:終章 志在千里 10/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:36:50 ID:PreG6Xnc0
 けどあいつは引き下がらなくて、その日から事有るごとに、何度も催促してきた。
 そしてある日、言ってくれた。言って、くれやがった。
「……なあかずピー。かずピーが何も言わんようになってしもた理由ぐらい、察しとるつも
りや。けど、だからって今のままでええんか?
 ……言いたい奴には好きに言わせておけばええやん。世界中の誰が疑ったって、“かず
ピーが”信じていれば問題ないやんか。
 そんな事より、否定される事を恐れてそれ以降の行動を起こせん方が問題やろ!」
「それ以降の……行動……?」
「……“戻りたい”……いや、“帰りたい”んやろ?だったら、その方法探すために動いた
方が建設的やんか」

 ガツンと、殴られたような気分だった。
 でも、おかげで眼が覚めたんだと思う。
 そうだよ。俺は、皆の所に“帰りたい”。例えそれが、この世界を捨てる事になるんだと
しても。
 自分の言葉を否定されて、妄想だと一蹴されて、悔しくて、それ以上否定されるのが怖く
て、いつの間にか記憶の端に追いやられていた。……あの時に約束したじゃないか。
 例え声が届いていなかったとしても、俺は自分の意思で、言ったじゃないか。……必ず帰
るって。


 ……気がつけば、俺は訥々と及川に話していた。俺が体験した事を。俺が行った世界の事
を。俺が出逢った、彼女達の事を。
 あいつは、話している間、茶化したり笑ったりせずに、真剣に聞いてくれた後、決して馬
鹿にするような笑いじゃない、心底楽しそうな笑い声をあげて、言ったよ。

「……羨ましいわー。……うん、今度帰るときは俺も連れてけや!絶対やで!」

 ……ありがとう……信じてくれて。
332 名前:真√:終章 志在千里 11/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:40:32 ID:PreG6Xnc0
 それから俺は、周りから見れば人が変わったかのように『外史』の事を調べ始めた。
 古い文献をみたり、歴史の専門家に聴いてみたり、とにかく少しでも可能性のある事なら
ば、何でも当たってみた。
 けどやっぱり、所詮は素人なんだろうな。有力な情報なんて何も無いままに、時間は過ぎ
る。萌える緑が深紅に染まって、やがて世界が白く覆われ、薄紅色の雪が降って。……気が
つけば、一年の時が過ぎていた。
 ……けど、諦めたりなんかしない。俺の心は、今もあの大地を駆けているのだから。



 そんなある日、及川のやつがある一枚のチラシを持ってきた。チラシなんかがどうしたっ
てんだ、何て思いながらそれを見た俺は、驚きに目を見開く事になった。
 そのチラシのタイトルには、こんな文字が躍っていたんだ。

『魅惑の外史展』

 驚きつつもそれに書かれている文を読み進めるに、どうやら古代遺物の博物館展示らしい。

『皆さんは、『外史』と言う言葉をご存知だろうか?『外史』とは、正史より外れた別の歴
史。
 私は考古学者として発掘に携わっている内に、ある事に気づいた。
 明らかに、我々の知る歴史とは逸脱した物が出土される事がある、と言う事だ。それこそ
が外史の遺物達。
 外史とは、決して一つではない。例えば、キリストが誕生しなかった外史が有るかもしれ
ない。例えば、カエサルが暗殺されなかった外史があるかもしれない。例えば、太平洋戦争
で日本が勝った外史があるかもしれない。例えば、歴史上の偉人が女性だった外史があるか
もしれない。
 ……そう、『外史』とは、可能性の数だけ存在するのである。
 そんな中、この度はかの有名な『三国志』の時代の、外史の遺物達を皆様にお見せしたい
と思う。

 心躍る『外史』の世界へ、ようこそ』
335 名前:真√:終章 志在千里 12/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:44:30 ID:PreG6Xnc0
 この時、チラシを見る俺の身体は、きっと震えていただろう。
 そんな俺に、及川は言う。
「なあかずピー。これってかずピーの言っとった『外史』ってやつやろ?……当然、行くん
やろ?」
 ニヤリと笑って言う及川に、俺は一にも二にもなく頷いていた。



「何や、外史言うても、普通の物と変わらんのやなぁ」
 そう言う及川の前には、刀剣や鎧が、ガラス越しに陳列されている。
 確かにあいつの言う通り、ぱっと見はただの歴史的な遺物に見える。……けど、俺は確か
に、それらの物にどこか郷愁にも似た懐かしさを覚えていた。
 あの剣も、あの鎧も、あの壷ですらも、まるでつい昨日までそこに有ったかのような、懐
かしさ。
 気のせいかもしれない。思い込みかもしれない。でも……それでも、俺はその感覚に一縷
の望みを掛けて、それらの展示物達を見回っていた。


 ……粗方見終わって、何も、鍵になるようなモノが無い事に、多少の落胆を感じつつも、
それでも諦められずに館内を見回っている内に、俺の足は一つの出土品の前で止まった。

 ――銅鏡。

 あの時あの瞬間の光景が、まざまざと思い出される。
 光を発する銅鏡。“外史の管理者”が持っていた、それ。
 見間違えるはずが無い。それは確かに、貂蝉がその手に持っていたものと瓜二つだった。
「なんやかずピー、何か有ったんか?……って、銅鏡?……かずピー、それって……!」
 恐らく、俺が足を止めたのに気づいたのだろう、先を行っていた及川が戻ってくる。
 俺から話を聴いていた及川も気づいたのか、そう言うと「やったやんか」と笑みを零す。
 それに返そうと、及川の方を向いた、その時だった。
338 名前:真√:終章 志在千里 13/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:48:10 ID:PreG6Xnc0
 及川を挟んだ向こう側に、見えた『それ』。

 慌てて駆け寄り、ガラスにへばりつく様に『それ』を見る。

 長らく土の中にあっただろうに、その形が判るぐらいの損傷で済んでいた『それ』。

「…………ずっと……待っててくれたのか……?」

 思わずそんな言葉が口から漏れる。

「は……はは……」

 想いが、溢れる。

「……はは、ははは……」

 気がつけば、俺は笑っていた。

「あははははははははははは!!」

この世界に戻ってきてから初めて、声を上げて、狂った様に、笑っていた。この世界に戻っ
てきてから、初めての涙を流しながら。

「あはははははははは!!!…………はは……は…………っ…………風…………」

 とめどなく、涙は流れる。

 ただひたすらに、ボロボロになりながらも俺を待っていてくれた『宝ャ』を前にして、俺
はただ、声を殺して、泣き続けた。
343 名前:真√:終章 志在千里 14/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:51:49 ID:PreG6Xnc0
「……行くんやな?」

 深夜、寮を抜け出して昼間の博物館へと向かう俺の前には今、及川が立っている。
 あの後、警備員に連れ出され、上の空で帰った俺は、ポケットの中に一枚の紙が入ってい
るのに気がついた。
 それにはこう書かれていた。『求むるならば、深夜零時、絆の場所へ』と。
 何を、とも書かれていなくても、俺は何となくそれが何を意味しているのか、察していた。
 俺の心は、もう一年以上も前から決まっている。だから、行く事に決めたんだ。



「……ああ、俺は、行くよ」

 及川に向かって、はっきりと己の意思を口にする。

「……そんな、着の身着のままでええんか?」

 俺が今着ているのは、フランチェスカの制服。……“天の御遣い”の、服。

「ああ、この服が、いいんだ」

「……そか。……後悔、せえへんか?」

「……俺は、俺の決断を信じる。後悔なんて、しないさ」

「…………そか。もう何も言わんわ。……達者でな、親友」

 そう言って、掲げられた及川の右手に、通り過ぎざまに俺の右手を打ち合わせて、

「……ああ、じゃあな、親友」

 振り返ることなく、俺はその場を後にした。
346 名前:真√:終章 志在千里 15/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:56:47 ID:PreG6Xnc0
 やがて、俺は博物館の前にたどり着く。きっとここが、絆の場所。
 あの約束の通り、ボロボロになりながらも“ずっと待っていて”くれた『彼女』がいる場所。
 扉に手を掛けると、思ったとおり鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。
 真っ直ぐに、『彼女』の場所を目指す。
 そこに居たのは──

「…………貂蝉」

「やはり来たのね、ご主人様。……後悔は……ふふ、訊くだけ野暮と言うものね」
 そう言って笑う貂蝉は、“あの時”と同じように何処からとも無く、銅鏡を取り出した。
 銅鏡が、淡く光を発しだす。
「……なあ貂蝉、なぜ、今なんだ?」
「……もっと早く、帰れなかったのか?と言うことでしょう?……そうね、理由はいくつか
あるわ。
 ひとつ、あの外史が今まで完全に安定していなかったから。
 ……意図せずとはいえ、ご主人様が歪めた“歪み”は相当なものだった。こちらに飛ばし
てすぐ戻したとしても、今度は確実に、その存在を消されていたでしょう。
 ……安心して?今はもう外史も落ち着いた。完熟した、とでも言えばいいかしら。
 そしてもうひとつ、『完熟した外史』は閉じられるの。そうなったら私たち管理者と言え
ど、おいそれと手出しできなくなる。
 それを踏まえても、“今しかない”のよ。早すぎず、遅すぎない。それがこのタイミング」
 そこまで言って一度言葉を切った貂蝉は、ひたと俺を見据えていた視線を緩め、ふっと、
優しげな視線で宝ャを見る。
「そして最後に、これが尤も重要。……“貴方達”の“絆の強さ”を、確かめたかった。
 ……けど、千八百年以上も待たれてしまっては、文句の付けようも無い事だったわ」
 そう言って笑う貂蝉は、今一度俺に向き直り、微笑みを浮かべた。
 銅鏡は、あの時のようにその光を強いものとしていく。
「時間よ、ご主人様。あとは貴方達がその手で、未来を作っていくだけ。……さようなら」
「……ああ。色々有難う。……君と管輅……それに及川には、感謝してもしきれない」
「……ふふ。私も、もっと早くあの外史で、ご主人様達と逢いたかったわ。それだけが少し
悔しいかしら。……百花の王に幸多からん事を」
 その言葉を最後に、俺の意識は光に呑まれ、静かに落ちた。
350 名前:真√:終章 志在千里 16/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:00:28 ID:PreG6Xnc0

                   ◇◆◇


「行ったんか」
 一刀が居なくなった博物館に、そんな声が響いた。
 貂蝉がその声の方へと顔を向けると、及川が一人佇んでいて。
「ええ、行ったわ……本当にいいのね?」
「ああ。それしか無いやろ。……知る事は無いやろうけど、自分のせいで『この外史』が消
えたなんてもし知ったら、かずピー後悔で死んでまうで。
 ……ったく、それにしても流石は管輅の『予言』やな。……かずピーが向こうに帰る事を
“選択”した以上、『終わりの時』は訪れなければいけない……か」
 そう言ってはははと笑う及川へ、貂蝉は静かに銅鏡を向ける。
「あの時訪れる事の無かった『選択の時』。それでも管輅の『予言』として、下された以上
訪れなければならない……皮肉なものね。ご主人様を救う為に成された『予言』によって、
別の何かが終わらなければならないなんて」
「ま、言ってもしゃーないやろ。……ってわけで、頼むわ」
「ええ……もう何も言わないわ。
 ……まったく、貴方といい管輅といい……普段見守る事で管理する『傍観による管理者』
をここまで動かすなんて……流石はご主人様よね」
「違いないわ。流石は『百花の王』、真性の『人たらし』やんな」
 そう言い合って顔を見合わせた二人は、同時に笑みを零す。
 及川の姿を映した銅鏡は、今一度、強い光を発していく。
「銅鏡の力で、『この外史』に向かう『終わりの力』を貴方に向ける。……さようなら、傍
観者」
「ああ、あとは任せるわ」
 そしてキンッと銅鏡が一際大きな光を発した後には、その場には貂蝉のみが残されていた。


                   ◇◆◇

352 名前:真√:終章 志在千里 17/17[sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:04:36 ID:PreG6Xnc0
 その日、執務室にて政務を執り行っていた風は、一瞬誰かに呼ばれたような気がして、気
分転換がてらに窓を開け、空を見上げたそこで、彼女は、己が目を疑うモノを見る。
 もうずっと前に見たモノと……記憶にあるソレと、寸分たがわぬもの。

 真昼の空であると言うのにはっきりと解る、白い白い、流星。

 それを見た瞬間、彼女は駆け出した。
 周囲の文官たちが驚きの声をあげたが、気にしていられなかった。
 まさか、と思う。けど、間違いないとも思う。
 だから走って走って走って走って、手配するのももどかしく、馬屋へと急ぐ。
 常ならぬ彼女の様子に驚いた、者達が声を掛けてくるが、構ってなどいられなかった。
 手続きするのも煩わしいとばかりに、己の名の権限で馬を一頭連れ出し、城内を、城下町
を、駆け抜け、制止する衛兵を、門番を無視して急ぐ。向かうのは、流星の流れた先。
 駆けて駆けて駆けて駆けて……たどり着いたのは、小さな草原だった。
 先に見える、少し小高くなった丘の上に、人が一人、立っていて。
 彼女はその丘のふもとで馬を止めると、馬蹄の響きで気づいたのだろう、こちらを向いた
その人影に向かって、己の足で駆け出して──
 想いのままに、その相手へ──愛しい人の胸へと飛び込んでいた。

「……ご……ごしゅじ、さま……ご主人様!!」

 愛しい人の──一刀の身体をぎゅっと抱きしめ、その感触に、温かさに、抱き返される力
強さに、ぽろぽろと、別れの時にも流さなかった涙がこぼれる。決して、悲しみの涙じゃな
い、暖かなものが。

「……ご主人……様……風は、あの時の約束を、果たす事ができたでしょうか?」

 あの、別れのときと、同じ問い。一刀はそれにしっかりと頷いて、

「うん。……だから、今度は俺が約束するよ。もう二度と、側を離れたりしないって──」

 ──それは、誓いにも似た、小さな約束。
353 名前:風鈴 ◆VOACf8e.7. [sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:07:22 ID:PreG6Xnc0
以上をもちまして、この恋姫達の物語は、終わりを迎えます。
ここまで続ける事ができたのは、偏に読んでくださった皆様のおかげであると、思わずに居られません。

恋姫†無双を生み出してくれたメーカーに、心からの賛辞を。

まとめの中の人には、心からの“いつもありがとう”を。

そして、真√を読んでくださった皆様に、心からの感謝を。



それでは、いつかまた、お逢いできる日を夢見て。

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