- 841 名前:K-999[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:00:00 ID:V/SSADcM0
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じゃあ逝きます。12スレです。
- 842 名前:覇王の憂鬱(中編)1/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:00:54 ID:V/SSADcM0
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朝のいざこざから30分後。一刀の部屋の椅子に、ふくれっ面の桂花が座っていた。
「……なんか飲む?」
「……結構よ。なんか変なもの入ってそうだし」
「いれるか!」
そして二人で溜息をつく。
「……なによ。その溜息は」
「桂花は嫌じゃないのかよ」
「アンタ、私じゃ不満だっての!?」
「したいのかしたくないのかどっちだよ……」
「したくないに決まってるでしょ!
……でも、華琳さまの命令だもの。しょ、しょうがないじゃないっ!」
そう言ってぷいっと顔をそらす。ちなみに顔は赤い。
(顔が赤いのは怒ってるから……なんだろうなぁ)
一刀は今度は心の中で溜息をついた。
(それにしても華琳のやつ、らしくもなくイライラしてたなぁ。……俺の所為か。
にしても、あの態度はそれを差し引いてもヘンだった気が……)
- 844 名前:覇王の憂鬱(中編)1/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:03:59 ID:V/SSADcM0
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「北郷? どうしたのよ黙り込んで。そ、それよりさっさと終わらせるわよ、いつまでもこうしてたって仕方ないし……」
「なぁ。本当にするのか?」
「な、な、なによその言い草は! そりゃあ私の体は貧相かもしれないけど! アンタんトコの真桜あたりと比べないでくれる!?」
「いや。だからさぁ……」
一刀は今度は口から溜息をついた。
「今日の華琳、変だったろ? 一応その心当たりは有るんだが、ありゃあただの勢いだぞ。本心じゃない。間違いない」
桂花は「ふん」と鼻を鳴らした。
「仮にそうだとしても、正式に華琳さまの口から「命令」されたんだから。それがどれだけ理不尽でも従うのが命令でしょうが」
桂花はさらりと言い切った。そこにはいかなる感情を差し挟む隙間がないことを一刀は感じた。
とは言っても、明らかに華琳が間違った決断をしようとしたら、諌め、真意を問うことを躊躇う桂花ではない。
心底嫌だが、罰としては確かに有効であると認めてしまったが故の言葉だ。
「まぁ、いいけど。でも桂花、そこまで露骨に嫌がられちゃあ俺だってやりにくいんだけど」
それに、一刀にとって桂花と一対一で事に及ぶのは初めてである。と言うか、さっきの今で他の女の子とヤる気はない。
いつもは華琳が間にいるので何とかなっていたと一刀は認識している。
「はあ!? あんた種馬のくせに注文細かすぎよ!」
桂花は呆れつつ怒っている。
そして、ふと一刀の背後の机が目に留まった。正確には、机の上の写真立て。一刀が帰ってきたとき持参した物の一つだ。
- 845 名前:覇王の憂鬱(中編)3/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:06:25 ID:V/SSADcM0
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「これ・・・・・・」
「ああ、桂花は見たことなかったっけ。天の俺の友達だよ」
「友達・・・」
桂花は写真をしげしげと眺める。
そこには一刀の他に、一刀に似た雰囲気の男、緩い表情をした眼鏡の男、そして7人の女性。
「・・・あんた、天でも種馬だったのね」
呆れたような桂花の声に、一刀はがくっと頭を垂れた。
「違うって。その女の子達の殆どはこいつに惚れてたから」
一刀は、写真の中で隣に立つ青年、章仁(あきひと。春恋の主人公)を指す。
「ふぅん・・・・・・」
桂花は、しばらくその人物を見つめる。
「・・・・・・・・・・・・こいつのどこらへんがいいのかしら」
「え?」
「なんでもないわよ」
桂花は、そのまま顎に手をあて沈思する。
なんか妙な雰囲気になって来た。一刀はそう感じた。
- 846 名前:覇王の憂鬱(中編)4/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:13:46 ID:V/SSADcM0
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そして数分後、桂花は顔を上げ、言った。
「私、実はお腹に子どもがいるの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
桂花の、あまりに突然の台詞に、一刀は呆けた顔で固まった。
「子ども」
桂花は繰り返した。
そして、一刀はようやく口を開いた。
「・・・・・・だれの?」
「あんたのに決まってんでしょうがこの種馬!」
桂花のぐーぱんちが一刀の頬に炸裂した。痛くは無かったが。
「まさかあんた以外の男に身体を許したことがあるとでも思ったんじゃないでしょうねっ!?」
聞き様によっては凄い台詞だが、桂花に多分他意はない。
訳すれば、「現在男の中で一番マシ(桂花評価)な北郷でも死ぬほど嫌なのに、
他の男とどうこうなるなど、強姦でない限りありえない。そして強姦された覚えもないので腹の子は北郷一刀の子である」
と言っているのだ。
- 851 名前:覇王の憂鬱(中編)5/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:19:11 ID:V/SSADcM0
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「いや、思わないけど・・・・・・。
それにしても、俺が父親・・・・・・」
一刀は、戸惑いも露に呟いた。
「なによ、認知しない気!?
そ、そりゃあんたの子なんて私だって認めたくないけど、子どもに罪は無いし・・・」
「い、いやいや! そういうわけじゃないんだ! ただ・・・・・・」
「ただ、何よ」
「・・・・・・子どもできたの、初めてだから、さ。嬉しいような、恐いような・・・。とにかくなんて言っていいのか解らないけど・・・・・・」
一刀は、上手く言葉に出来ないもどかしさに頭を掻く。
「・・・・・・へ?」
間の抜けた声を漏らしてしまった桂花は、数秒後に漸く得心した。
種馬、種馬と一刀を呼び続けていたが、実際に子どもが出来たことは無かったのだ。今までは。
一刀の初めての子どもが自分の子である、と認識した桂花だが、
その際に胸の中に微かに灯った、嬉しいような、暖かいような気持ちは気のせいとして気が付かない振りをした。
そして気を取り直し、
「で、いつまでその間抜け面してるつもり?」
「へ?」
「この私を孕ませたのよ? 本当なら首を刎ねても贖えないほどの重罪だけど、さ、流石にこの子になんて言えば良いか解らないし、
この子を一人で育てる事ぐらいはやるつもりだけど、私だけ苦労するのも癪だし・・・・・・」
何を言いたいのかよく解らない。
「まあとにかく、認めたくは無いけど、あんたは一応そこそこ華琳さまの役に立ってるみたいだし、手伝いぐらいはさせてやるわよ」
「な、何の・・・・・・?」
「鈍いわね。まぁ脳内も精液な奴だからしょうがないけど。
私の生活の手伝いに決まってるじゃないの。良くは知らないけど、おなかの子が成長するとものすごい身体に負担なんでしょ?
だったら身の回りの世話をするのが必要になるじゃないの」
「だからって何で俺!?」
「ああ、どうこき使ってやろうかしら。朝から晩まで、些細な事でも顎で使ってやるの。勿論、自分の仕事だってこなしてもらうわ。
男は嫌だけど、あんたはぶっちゃけ慣れちゃったし、まぁなんとか目をつぶってあげる。うふ、うふふふふふ・・・・・・」
もはや一刀そっちのけでニヤニヤしている。華琳のことは除くと近年希に見るほどのご機嫌っぷりである。
「何でそんなに嬉しそうなんだよ・・・・・・」
「嬉しいわけないじゃない。男に孕まされたのよ?」
でも顔は明らかに不機嫌には見えない。
「・・・・・・。そんなに俺をこき使えるのが嬉しいのか?」
「・・・・・・は?」
- 853 名前:覇王の憂鬱(中編)7/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:27:56 ID:V/SSADcM0
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桂花の顔から笑顔が消え、俄かに剣呑な色を帯びた。突然の変化に、一刀は思わず怯む。
「いや、慣れたとは言え俺だろ? だから、その・・・・・・」
言葉を紡ぐ一刀だったが、桂花の表情がズンドコ険しくなっていくに従い尻すぼみになっていく。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そしていつしか沈黙が。
沈黙なのだが、桂花の発する不機嫌オーラに、一刀の背には冷や汗が流れ落ちていた。
時間にしてみれば一分に満たないが、一刀の体感時間はその十倍には感じている。
そしてそうこうしている内に桂花が口を開いた。
「あっそ!」
「え?」
「ええ、ええ。そう言えばあんたは私にとって不倶戴天の敵だったわね」
「け、桂花?」
「私ったらなにを浮かれてたのかしら。馬鹿みたい」
「お、おいぃ」
「もう、いいわ」
- 856 名前:覇王の憂鬱(中編)8/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:40:54 ID:V/SSADcM0
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桂花は立ち上がり、まだほとんど変化の目立たない自分の腹部を撫でた。
「この子は私一人で育てる。そうよ。慣れたとは言ってもあんたなんかに身の回りの世話をさせようだなんて。
・・・・・・我ながら、どうかしてたとしか思えないわ」
そう言い捨て、桂花は踵を返した。主の命令さえも、一時とは言え桂花の脳内からは失われていた。
「ま、待てよ!」
しかし一刀は、そうはさせなかった。させるわけにはいかなかった。
「一人で育てるってどういうことだよ!? その子は俺の子でもあるんだろ!?」
「いくらなんでもね。義務感だけでそんなこと言われても嬉しかないのよ。虫唾が走るのよ。逆に腹が立つってのよ。
最近馴れ合いが過ぎたのよ。嫌いな者同士、適切な距離感ってもんが―――――」
「おれの気持ちを、桂花が勝手に決めてんじゃねえっ!!」
「っ!?」
「俺はなぁ! 桂花のこと好きだぞ!」
「はぁ!?」
目を丸くする桂花に、一刀は肩に手を置き、繰り返した。
「好きだって言ったんだよ!」
- 857 名前:覇王の憂鬱(中編)9/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:41:59 ID:V/SSADcM0
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「え、でも」
「でもじゃないんだ!」
一刀の勢いにうろたえる桂花。しかし、なんとか平静を取り戻し(たつもりで)、
「あ、あのねぇ、好きって・・・・・・私、あんたに色々やったのに・・・・・・」
それは、桂花の素の言葉。純粋な疑問だ。自分の何処に好かれる要素があるのか、正直な所さっぱり分からない。
「好きなもんはしょうがないだろ!」
「は、そ、そんな事言って。凪や春蘭たちはどうなのよ・・・・・・。華琳さまだって・・・・・・」
「もちろん、皆好きだ!!」
「節操無さ過ぎでしょ!!」
「でも本当なんだよ!!」
一刀がそう叫び、二人して肩で息をする。桂花は、自分はこのバカと一体何をやっているのかと本気で思った。
「・・・・・・で、種馬面目躍如なその頭の悪い言葉で、どうしようって言うのよ」
半眼で問う桂花に、一刀はえへんと咳払いして、答えた。
「俺にも色々言いたい事はあるけど、言いたい事は唯一つ」
「矛盾してんじゃないの」
- 860 名前:覇王の憂鬱(中編)10/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:47:33 ID:V/SSADcM0
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桂花の突っ込みは無視。大きく息を吸い込み、
「好きな女の子との間に子どもが出来たんだぞ!? 義務感だけなわけないだろ!! あと出来ればもうちょっと仲良くしたい」
「――――――――」
桂花は、言葉を失い、
「・・・・・・・・・・・・・・・」
俯き、
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
小刻みに震え出した。
桂花がどう反応をするか、内心ドキドキだった一刀は、あるものを発見した。
床に点々と落ちる雫が。
「・・・・・・涙?」
「えっ」
一刀の呟きに桂花は、自分の頬に手をやる。
「な、なんで」
自分でも気付いてなかったのか、戸惑う桂花。
そんな桂花に、一刀は得も知れぬ感情がわきあがってくる。
- 863 名前:覇王の憂鬱(中編)11/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:57:17 ID:V/SSADcM0
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「桂花・・・・・・」
一刀は、そっと桂花を抱きしめた。
「なっ、なにすんのよっ。っく」
意図しない涙にしゃくりあげながらも、桂花は弱々しく抗議した。
「いや、なんとなくこうしなきゃいけないような。
桂花のこと、好きだし」
「嫌いっ、嫌いよっ、離してよ・・・・・・」
桂花は、力なく一刀の胸を叩く。
「嫌だね。離したくない」
「…………………………………………………馬鹿」
桂花は、一刀に顔を見られないように俯き、悲しみではない涙を流した。
「しかしこんなに抵抗されるなんて、そんなに俺って嫌われてんのかー。わかっちゃいたけどショックだなぁ」
ぴしっ。
一刀のこの台詞に、桂花の顔が引きつる。
解っていない。この男、まったくもって解ってない。
かく言う桂花も、自分の気持ちを(驚いたことに)把握しきっていないのだが、それでもこの台詞が見当違いに過ぎることは解る。
- 864 名前:覇王の憂鬱(中編)12/12[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 23:00:06 ID:V/SSADcM0
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この阿呆男まさか胸板叩いてンのを拒絶の意味に取ってんじゃないでしょうね馬鹿かこいつはこんなの反対の意味に決まってんじゃないのああ勘違いしないでよこいつのこ
とは全然好きじゃないけど確かに男の中ではマシだけどいくらなんでもこの期に及んでそういう意味に取るか普通ああまったくなんでこの男なんかをってあああ全然好きじゃ
ないけどないけど!
「ん? 頭でも痛いのか?」
「ッッッ!?」
桂花は鈍感馬鹿の鳩尾に肘を叩き込んだ。
「ほぶうっ!?」
これにはたまらず一刀は床に膝を突く。
「…………はぁ」
桂花は額を押さえて溜息をつく。
しかし、その口元が僅かに緩んでいることを、桂花自身も気が付いていなかった。
と、これで済んでいたならただの微笑ましいだけの話しだったのだが、これだけでは済まなかったのである。
部屋の中の二人が、部屋の外で呆然としている華琳に気が付くのは数秒後のことだった。
後編に続く。
- 865 名前:覇王の憂鬱(中編)あとがき[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 23:01:11 ID:V/SSADcM0
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今回の様子を春蘭が見ていたらきっとこう言ったでしょう。
何 こ の 可 愛 い 生 き 物
これ書きながらふと思いました。気付いてなかったけど、俺ってもしかして桂花のことがめちゃくちゃ好きなんじゃね?
…………別に問題はなかった。
まさか今になってマイフェイバリット蓮華&月の双璧が揺るがされることになろうとは。
…………別に問題はなかった。
後編はいつにしましょうか。今夜の0時とか?