- 113 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2010/03/27(土) 14:53:44 ID:YlWz7GLe0
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一回の分量減らして投下間隔短くする、とか言ってた気がするけど、そんなことなかったぜ!
……いや、マジでごめんなさい。
結局同じくらい間隔開けて、同じくらいの量書いてしまいました。
とりあえず予告です。
外史喰らい編第4-2話投下予告
・一刀は無印決戦後→真外史
・左慈、干吉がメイン扱いで登場
・オリ真名として、左慈:光(コウ)、干吉:雲(ユン)を設定。ネタ元は中の人
・光、雲がデフォルトでチートな上、一刀も乱世1回分というチート経験値なので、メアリー・スー気味
・仲間になった経緯が違うので、女の子→一刀の言葉遣いが原作と違います。
〜あらすじ〜
気がつくと真っ暗な空間にいた一刀。
そこで、左慈・干吉と再び出会う。左慈は一刀を殺そうとするが、干吉がそれを止め、とある話を始める。
曰く、『外史喰らい』という、外史を喰らう存在が発生していて、その対処を手伝え、という。
外史喰らいを止めるには外史の存続を願う想いが必要で、そのための想いは一刀への想いを変換して集めるらしい。
前回と似た外史で想いを集めると聞き、再び愛した彼女達に出会えると感じて、手伝いを了承する一刀。
彼を主として立てるために、左慈と干吉は真名を預ける。
そして、新たな外史の発端が開かれた。
プロローグ(第0話):
ttp://koihime.x0.com/ss/b011_294.html(まとめサイト)
投下予定:28日21時から17レス
ご支援お願いします。
- 179 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:20:31 ID:o0gNDGyg0
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ただ今帰宅
間に合ってなによりです
予告通り10時半から投下しますので、支援お願いします
- 182 名前:外史喰らい編第4-2話(1/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:32:21 ID:o0gNDGyg0
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光が収まると、目の前には一度だけ見た事のある風景が広がっていた。
洛陽の城の、玉座の間だ。
「……いきなり本丸かよ、おい」
城外はさすがに遠すぎるにしても、せめて中庭とか端の方の空き部屋とかいくらでも飛ぶ先はあったろうに。
いや。「助けに来た」→「どうやって?」→雲の能力の説明ってなることを考えると、いきなり見せつける方がいいのか。
実際、思いっきり目丸くしてるし。
「や、久しぶり董卓」
右手を挙げて、軽く挨拶する。
「あ……はい、お久しぶりです……北郷さん」
呆然としつつも、ペコリと頭を下げる董卓。服装は、前の外史で着ていたのと似たような、仰々しいものである。
幾段高い位置に座る董卓。そのすぐ横に立って控える賈駆。
下には呂布を筆頭に、張遼、陳宮、董卓一派揃い踏みだ。
えーと、どう切り出すかな……
ふと、皆の視線が俺達だけに集中していないことに違和感を覚えた。
俺達と、その後ろ――角度から判断すると二メートルぐらい――を視線が往復している。
気になって振り返った。
「な、なななな何だお前達は!?」
そこには文官らしき人が一人。歳は三十過ぎぐらいか。
あれ?つい最近見た気がするな、この人。
金色と黄色の間の様な服の色と、微妙に豪奢なデザインに見覚えがある。
……誰だっけな?
「ひ、光と共にいきなり現れるとは、よよ、妖魔の類か!?――い、いや、先程董卓殿に『北郷』と……!まさか、巴東郡の……!!袁紹様に報告し―」
「!?」
その名前で思い出した。
この服、白帝城に来た袁紹からの使者と同じものだ。
つまり、この文官も袁紹からの使者。
- 185 名前:外史喰らい編第4-2話(2/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:35:36 ID:o0gNDGyg0
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「っ!焔耶、雲!」
叫び、使者の右側で構える。
一拍遅れて、焔耶が左側に入った。
「袁紹からの使者だ!今知られると面倒になる!逃がすな!!」
「はいっ!」
使者は、俺と焔耶の両方を交互に見ながら、じりじりと後ずさりしている。
「き、貴様、董卓に付くというのだな、北郷!このことは、袁紹様に……!」
「……随分と頭の回転が速い人だな」
「な、何?」
「董卓の言った俺の名前から、巴東郡の太守がすぐに引き出されてきた。全郡の情報が頭に入ってないと出来ないことだ。
そして俺が否定しなかったことで確信して、俺が取った行動で自分達にとってどういう立場にいるのかを判断した……。ほんの十秒ぐらいでこれだけの判断が出来るんだ。正直、ウチに欲しいね」
「な、何を言っている!?」
意図が分からない、という顔で使者は訊く。
まあ、分からないよな。分からない様に言ってるし。
頭の回転は速い。それを裏付ける知識も持っている。けど、やっぱり戦に出ない文官ってことか。俺達が構えてるだけで必要以上に緊張しているのだろう。一つ、重要な事を忘れている。
……時間稼ぎはこんなものでいいかな?
「俺達がここに来た時、何人組だった?」
「……――!」
思い至り、探そうと視線を巡らす。
そこに背後から、雲の手によって首に細い紐が一周させられた。全力で引かれる。
「がっ――!?」
使者は慌てるが、もう遅い。
「殺すなよ」
一応言っておく。
「ええ。わざわざ袁紹殿に口実を与えることはありませんからね」
応えて、雲は紐の角度を変える。
たしかチョークスリーパーと同じで、頸動脈が絞まる、というやつだ。脳への血流を遮断して、十数秒で「落とす」。
――さて、少しゴタゴタが入ったけど、言う事だけ言うか。
「助けに来たよ、董卓」
- 186 名前:外史喰らい編第4-2話(3/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:40:14 ID:o0gNDGyg0
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とはいえ、袁紹の使者を何とかしないと矛先がこちらに向くだけなので、取り敢えず客室を借りた。
「で、何とか出来るのか、雲?」
ええ、と頷き、雲は袖の中から一本の糸を引っ張りだす。先には穴の開いた硬貨が結んであった。
「…………あのな」
まあ、驚きはしない。雲なら出来そうな気がするし。
けどそれにしたって糸付き硬貨は無いだろ。それテレビ用のパフォーマンスじゃないのか?
あと、硬貨が五円玉じゃなくて光武帝五銖なのは時代に対するこだわりなんだろうか。
「さて、まずは目を覚まさせなければならないのですが……どちらか気付けの経験はありますか?」
「ワタシがやろう」
と焔耶。寝台に座らせた使者を後ろから抱え、気付けをする。
「う、ぅん……?」
「気がつきましたか?」
自分で絞め落としておいてのうのうと訊く雲。いや、上手いこと硬貨を見てもらうための演技か。
なら俺と焔耶は顔を見られない方がいい。
気付かれない内に、焔耶の手を引っ張って、部屋の外に移動した。
案内兼見張りで付いてきた賈駆も、空気を察してこちらへ来る。
「……何するつもりなの、あいつ?」
部屋を覗き込む賈駆の、訝しげな小声に訊かれた。
どう説明したものか。
「催眠術、って言って、振り子を見つめさせて頭をボーっとさせることで、記憶を改竄する術……」
……かな?
「そんなことが出来るのですか?」
と焔耶。
「……たぶん」
「たぶんって、ちょっと……!」
「シッ。こっちに気付かれたらまずい」
指摘すると、ぐ、と賈駆と焔耶が揃って口を閉じた。
「……まあ、見てれば分かると思う」
言って指差すと、ちょうど雲が振り子を揺らし始めた。
視線が集まる。
- 189 名前:外史喰らい編第4-2話(4/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:45:06 ID:o0gNDGyg0
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右左、右左、とゆっくりと硬貨が往復する。
「よろしいですか?頭を動かさず、これを良く見ていてください」
「ぬ……?……いや、私は……」
「あまり考えず。さあ」
「う……む……?」
気絶から回復したばかりで完全には頭が回っていないのか、使者は促されるまま振り子を見つめた。
「だんだんと、だんだんと。頭の中がすっきりしていきます……。真っ白に……空っぽに……」
少しずつ振り子の往復が速くなり、声も小さくなっていく。
終いには、ここからじゃ聞き取れなくなった。
ぼそぼそと耳元で話しかける雲に対し、使者はゆっくりと頷く。頷く度に口がもぞっと動いているのは「はい」と言っているのだろう。
それが何度かあった後、考える様に間を置いてから、もう一度雲は使者の耳元に話しかける。今度は答える使者の口の動きが長い。
袁術陣営の情報でも訊き出してるんだろうか?
「では」
と、雲のトーンが通常通りに戻る。
「一……二……三!」
三、と同時に雲は手を叩いた。
フッと使者が顔を上げる。それからキョロキョロと周りを見回すと、慌てて部屋から飛び出していった。
「……何なの、あれ?」
走り去った使者を見て、賈駆が雲に訊く。
「『何の問題もなく、役目を果たした。速く袁術殿の元に戻り、報告しなければ』。我々に関する記憶を抜いて、その様な記憶を植え付けました。それに従っているだけですよ」
「……そう」
疑っているのか恐れているのか。説明を聞いても、賈駆は曇り顔のままだ。
「大丈夫だよ。振り子さえ注目しなきゃ、かからないから」
「そ、そう……」
何で分かった、という顔をして賈駆が頷く。
「初めて見た人は大抵そう思うからね」
ということにしておく。
ひょっとしたら自分にもかけられてるかも、なんて思われたら厄介なことになるし。
- 190 名前:外史喰らい編第4-2話(5/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:50:13 ID:o0gNDGyg0
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「それで、洛陽に来た本題に入りたいんだけどさ。どこか皆で話ができる大きな部屋に集まれないかな?」
「分かった、手配するわ。誰か!」
人を呼び、指示を出す賈駆。董卓達に移動先を伝言してくれ、という内容だ。
「案内するわ、こっちよ」
先に立って歩き出す。
少し歩いたところで、雲が後ろからそっと上着の裾を引いた。
「…………」
頷いて歩くペースをほんの少し下げ、賈駆と距離を取る。
耳元に、雲が口を寄せた。
「どうした?」
小声で訊く。
「此度の移動で何が歪んだのか、判明しました」
「なに?」
「時間です」
時間……?
「白帝城を発った瞬間より約一ヶ月、時間がずれています」
「一っ……」
叫びそうになった口を押さえる。
そんなところまで変化するのか。
「日付で一月、時間で二刻ほど進んでいます。先程の使者で確認しました」
「あ、そうか……」
宣戦布告は完全に準備を終えてから出すものだ。事前に出して、わざわざ相手に軍備を整える時間を与える必要は無い。
それなのに、白帝城への使いと洛陽への使いが一日違いってのはどうにも違和感があったが……。
「そういう理由か」
そういえばと見上げれば、太陽の位置も違っている。明らかに午後の角度だ。
- 192 名前:外史喰らい編第4-2話(6/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 22:55:13 ID:o0gNDGyg0
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「けどそれ、他の人の中じゃどうなってるんだ?」
「この外史の住人には、いつも通りの日常が一月あっただけに感じられます。我が軍は既に反董卓連合の合流地点に向かって行軍中、我らは別件で城に残り後に合流の予定、そして一月たった今、縮地法で洛陽に移動。おそらく、その様な流れになっているはずです」
「ってことは、焔耶は……」
「一月城ですごした後、洛陽に移動した。そう思っているでしょう」
「そんな滅茶苦茶な予定……」
前夜にやらかした脱走騒動なんか、どんな風に思われてるのか。
あんな大騒ぎの後、一ヶ月大人しくしてたとでも?それで評価が変わってないって、一ヶ月の間にどんなスーパープレイしたんだ俺。
「確かに無茶苦茶ですが、話の筋はその通りに書き換わっています。ならば、意識もその様に換わっているでしょう」
で、外史の住人じゃない俺達は書き換わってない、と。
俺と雲はまだいいけど、光が大変だろうな。部屋で書類仕事してたら、次の瞬間には馬の上で行軍中だ。さすがのあいつも驚くだろう。
「了解した、気を付ける」
今後、冗談抜きで縮地の法は使用厳禁だ。
こんな滅茶苦茶な狂い、これ以上あったらこっちがおかしくなる。
- 193 名前:外史喰らい編第4-2話(7/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:00:04 ID:o0gNDGyg0
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案内された部屋には、車座に椅子が並べてあった。
上座の位置に董卓。そこから左回りに張遼さん、恋。右回りに一つ空けて音々音が座っている。武官・文官の区別ってことは、空きは賈駆の分だろう。
董卓の隣が恋じゃないのは、多少は信頼されているってことだろうか。
董卓の対面に座る。こちらは右隣に雲、左隣に焔耶だ。
予想通り、空いていた一つに賈駆が座った。
「その……お話を聞く前に、先程の事を説明してほしいんですが……」
おずおずという感じで、董卓が切り出す。
先程っていうと、
「玉座の間にいきなり現れたこと?」
まあ、袁紹の使者のことじゃないよな。
となると、雲の紹介がいるかな?
他は顔見知りだけど、こいつだけは初対面だ。
雲、と指示を出す。
「北郷軍軍師、干吉と申します。お見知り置きを」
立ち上がり、手に拳を当てて頭を下げる雲。
「あ、はい。よろしくお願いします。私が董卓です」
ペコリと頭を下げて応えた董卓に続き、各々が名乗る。
それから雲が焔耶にした説明を、適当に噛み砕いて話した。
ただし、寿命の件は除く。人の命使って助けられて嬉しいと思う子じゃないしな。
はぁー……と感心したような長い息が董卓から出た。
「仙人様だったんですか……」
「そんな、仙人などと恐れ多い。修行を途中で投げ出した身です。ただの、太守付きの一軍師でしかありません」
普通に考えたら、それでさえかなり凄い身分だって分かって言ってるんだろうか?…………分かって言ってるんだろうな。
- 196 名前:外史喰らい編第4-2話(8/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:05:10 ID:o0gNDGyg0
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「……それで、北郷さん。そのような術を使って、どんなご用事ですか……?」
「ん。さっきも言ったんだけど……いや、その前にこっちか」
ポケットから、袁紹から来た手紙を取り出す。
「書状……政治の用向きですか?」
「ああ、いや……とりあえず最後まで聞いてくれるかな」
しかしまあ、一日経ってから見ても、やっぱり頭にくる内容だ。
けど、それを読む。
現状を把握してもらうには必要なことだ。
……けど、……うう…………
凄く読み辛い。
文章の端々から隠そうとせずに――むしろ主張してくる――感じられるナルシスト的な意識とそれに伴った装飾の多い言い回しもそうだけど、一番の原因は視線と空気だ。
どういう手紙か先に説明してから読まなかった自分が悪いのだが、ひょっとすると、俺が董卓に宣戦布告叩きつけに来た様に思われてそうだ。
特に賈駆の視線は、それだけで人が殺せるレベルだ。具体的に言うと「この野郎、恋けしかけてやろうか」的な。
当の恋が――装飾華美過ぎる表現のおかげで内容を完全に把握出来てない様で――殺気のさの字も発していないのが救いだろうか。
袁紹本初・袁術公路、と結ぶと、険悪だった視線が一様に「?」に変わった。
「……という内容の手紙が一月ほど前にウチに届いた」
全員の顔が強張る。
「ボク達は朝廷を蔑ろにした逆臣……ってことね」
最悪、と賈駆が吐き捨てた。
「その…………北郷さん。そこに書かれている事は……」
「俺は信じてない」
「ワタシもだ」
「各々方と面識はありませんが、この二人がそう言うのならそうなのでしょう」
「……ありがとうございます」
ぺこりと、董卓が頭を下げた。
「で、これは完全に嘘だって思っていいんだね?」
「はい」
強い否定。そして、雲が何も言わない。もし嘘を付いていれば、何かアクションを起こすだろう。
「……そっか」
小さく安堵の息を吐く。
- 198 名前:外史喰らい編第4-2話(9/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:10:25 ID:o0gNDGyg0
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「それとこれ」
書類をもう一枚。
光にアドバイス貰って作ってきた、反董卓連合の概算だ。……予想というか、二人の他外史の記憶から平均値出したものだけど。
中身を見た董卓の顔が強張る。
「詠ちゃん…………これ」
渡された賈駆も同様だ。
「……北郷さん、これ、どこまで信用していいの?」
「まず合ってると思う。三十回近く試算した数字の平均だ」
「そう……」
努めて無表情にしているのが分かる。
おそらく頭の中で、無数の策がシミュレートされているんだろう。
「……それと、この、『北郷軍』ってなってるのは……やっぱり?」
「うん……俺達も、連合に参加してる。うちの軍も、連合の集合地点を目指して行軍中のはずだ」
「な、なら一刀殿は敵だというのですかー!?」
「待ちぃ、ねね」
驚き立ち上がる音々音を、呆れ顔で張遼が止めた。
「それならわざわざこんなとこまで来るかい。――それも、あんなけったいに」
「けったい」の所で、雲の頬が少し引きつった。
賈駆っちそれ貸してー、と張遼は賈駆から連合の概算表を受け取る。
一目見て、は、と笑った。
「案の定やな。狙われてるんならともかく、好き好んでこいつ等全員の相手は勘弁や。素直に従っとくのが賢いで――本心は別として、表面上はな」
ほれ、と回された概算表を見て、音々音は「むぅぅ……」と唸る。
「これでは……仕方ないですなぁ………む?霞殿。『表面上』と言いますと?」
「さっきも言ったやん。わざわざ敵の城ん中来て、自分の軍の規模教えとるんやで?しかも、味方側の人間一人シメとるし。……月に味方してくれるて思っていいんやな、北郷さん」
「ああ。その……表立っては無理だけどね」
だからこんな状況になってるんだし。あと、別に袁紹は味方って訳じゃない。
「それで、北郷さん。表立たない何を期待していいのかしら?」
うん。それが本題だ。
「皆をここから逃がしたいと思う」
- 201 名前:外史喰らい編第4-2話(10/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:15:17 ID:o0gNDGyg0
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「逃がす……ですか?」
「ああ。正確には白帝城に匿うってことになるかな?」
涼州にはもう――少なくとも音頭を取るだろう袁家が没落するまでは――戻らない方がいいだろう。
戻れば当然噂になる。それが伝われば、今洛陽に向いている矛先が涼州に向くだけだ。
「縮地の法を使えば、誰にも見られず、今すぐに、安全に洛陽から逃げ出せる。白帝城に来てもらってからは、その……当分は偽名を使ってもらうことになると思うけど、生活は保障する」
官職でいたい、というのなら働いてもらっても構わない。
「……それで、私達が逃げた後はどうなるんですか?」
「?逃げた後って、だから白帝城に―」
「いえ、私達のことではなく……洛陽と、後に残される涼州軍のことです」
「…………あ」
しまった。董卓達を助けるって気持ちばかり先行して、その後のことを全く考えてなかった。
今の洛陽は董卓達が統治している。
董卓が天辺にいて、武官のトップが恋、文官のトップが賈駆という形だろう。張遼と音々音もそれぞれ重要な地位にいるはずだ。
それが一斉にいなくなったら、洛陽が回らなくなる。政治も、軍事も。
そのツケが行きつくのは、何の罪もない洛陽の人達だ。
「……北郷さん?」
視線が痛い。
「あー……あー、えっと……その」
何か無いか?
――傀儡での影武者……は、無理か。誰かに瓜二つな傀儡が扱えるんなら、前の外史じゃ俺の偽物が悪さしまくってただろう。
――洛陽の住民ごと避難……もっと無理だ。考えるまでもない。
「言葉が無いということは、何も考えてなかった、と思っていいのかしら?」
「う…………」
良くない。よくはないけど、はったりでも何も出てこない。
くそ……
「…………悪い。……気持ちばっかり先走ってた」
「……そう」
- 203 名前:外史喰らい編第4-2話(11/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:20:09 ID:o0gNDGyg0
-
ふぅ、と賈駆は息を吐く。
「どうする、月?」
訊かれた董卓は小さく首を振り、口を開く。
「――ごめんなさい、北郷さん」
一言目は、謝罪から入った。
ああ、それだけで残りの内容が予想出来る。
「私達のために洛陽まで来てもらったのは、嬉しいです。でも、それが私達だけが助かる方法なら、お受けする訳にはいきません」
「……そうか、分かった」
「無理だ。洛陽の住民と董卓軍の兵士、俺達にはその全員を助ける方法は無い。そして、全員を助けられないなら、董卓達は逃げてくれない」
縮地の法でも無理だろう。たった三人を移動させただけで一月だ。洛陽住民と董卓軍兵士全員を移動させた歪みがどれだけのものになるのか、想像もつかない。
仮に全員移動させたとしても、その人数を受け入れる土地が無い。
「……そういうことよ。ボク達を信じて付いてきてくれている人達を残したまま、自分だけ逃げ出す訳にはいかないわ」
でも、と賈駆は言葉を切る。
「あなたは別よ、月」
「「「え?」」」
俺と焔耶、董卓の疑問が重なる。
次の瞬間、とん、と鋭く董卓の首筋に手刀が落とされた。
意識を断たれ、崩れ落ちる董卓の体を、手刀の主が優しく支える。
「……堪忍な、月」
「張…………遼……?」
え、え?何だ?どういうこと?
「まったく、この子は……優しすぎるのよ、いつも。――悪いわね、霞。こんなことさせちゃって」
「ええて。どうせ総出で説得しても聞かんかったんやし。賈駆っちの気持ちも分かるしな」
「そう、ありがとう」
「……月の命が……一番、大事」
「そうですなー」
こっちの混乱を他所に、予定調和、といった感じで話し合う四人。
- 205 名前:外史喰らい編第4-2話(12/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:25:09 ID:o0gNDGyg0
-
……予定調和?
「……なあ、ちょっと」
なんとなくだしに使われた感があるんだが、説明してもらえないかな?
「ああ、北郷さん頼んますわ」
ちょっと荷物持ってて、みたいな感じで、張遼から董卓を預けられた。
うわ、軽くて柔らかくていい匂いで――じゃなくて!
「月だけ助ける、ってことで妥協してもらえない?」
「妥協……!?」
「ボク達を助けたいんでしょう?同じ様に、ボク達も月を助けたい。それで、月は残す連中が心配だから逃げたくない。折り合うのは、月を連れて逃げるって点よ」
「だから、ちゃんと説明してくれよ……」
董卓を助けたい、ってのは分かる。でも、それがどうして気絶させて無理矢理逃がすって話に繋がるんだ?
「月はね、優しすぎるのよ」
ああ、それは分かる。……そして、それ自体は十分な美徳だけど、時代と状況には合わないものだ、ってことも。
「こんな状況だってのに、真っ先に人の迷惑や不利益を気にした……」
「そういうことよ。洛陽を治めるようになった経緯も半ば嵌められたようなもので、それなのに圧政を敷いているなんて噂まで流されて」
その挙句がこれよ、と袁紹からの手紙を摘まんで振る。
「ここまでされて、それでも逃げようとしないのよ、月は」
それも、意地やメンツではなく、誰かが心配だという理由で。
そもそもな、と張遼。
「今回より前にも、何度かキナ臭いことはあったんや。そのたんびに月には何度も言っとる――洛陽なんぞ放って逃げ出しぃ、てな」
「ですが、月殿には聞き入れてもらえなかったのです」
さっきみたいに、か……。
「大体分かってきた。今回も同じことになるだろう、って悩んでた所に俺達が来た訳だ」
しかも同じ目的で。最上の逃げ道担いで。
「そう。だからこうやって頼んでるのよ」
「……分かった。こっちとしても、説得する手間が省けて助かる」
けど、
「その話だと、皆はどうなるんだ?」
董卓を逃がす、って話は出てるけど、他の皆の事は一言も話題に上げない。
- 207 名前:外史喰らい編第4-2話(13/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:30:23 ID:o0gNDGyg0
-
「お館、それは―!」
諌めよう、という口調で焔耶が何か言いかける。
「無粋な奴っちゃなぁ」
それを張遼さんが遮った。
「気付いて言っとるんなら無粋やな。気付いとらんのやったら、やっぱり無粋や」
無粋?
「……では、やはりそういうことか?」
と焔耶。
「そういうこっちゃ」
「…………そう、か」
どうも焔耶は分かっているらしい。
………………………………いや、待て。一つ、考えたくない選択肢に思い至った。
まさか、と思う。
けど、意図的に言わなかっただろう部分を補完すると、それが浮かび上がってくる。
それなら、焔耶が理解できた理由も、「無粋」という評価の理由も説明が付く。
そしてなにより、事ある度に他者を気遣って逃げ出さなかった董卓に、ここまで付いてきて、今も愛想尽かしていない子達だ。
「――――洛陽に残るつもりか?」
「……そうよ」
賈駆が短く答えた。
「そんな――!!」
「それしか方法は無いでしょう?月ほど洛陽の民の事は想ってないけど、それでもボク達についてきてくれた連中を放り出す訳にはいかないの」
右手には、こちらが渡した連合の概算表。
上層部が全くいない状態でその数に侵攻されたらどうなるか、さっき想像したばっかりだ。
「他の連中を『董卓』に直接には会わせないし、いざ戦争になったらボクが表に立つ。そうすればまずバレないでしょう」
「それは、そうだけど……」
戦場じゃ恋や張遼のカリスマがあるし、後方で目立つのは指示を出す軍師だ。
やろうと思えば隠し通せない事は無いだろう。けど―
「ところで北郷さん、どうしてボク達が負ける前提で話してるの?」
「……え?」
- 209 名前:外史喰らい編第4-2話(14/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:35:09 ID:o0gNDGyg0
-
いやだって、この数だぞ?一人につき五人六人の兵力差でどう勝つって言うんだ。
ふぅ、と大袈裟に溜息をつかれた。
「連合の集合地点と洛陽との間に、何があると思うのよ?」
何、って……。
「水関と虎牢関……か?」
「そう。堅牢で知られる二つの関よ。そこで待ち構えて、守りに徹する。的確に動けば、勝機はあるわ」
そう自信満々の顔で頷く。
勝機はある、か。けど、それはどれだけ低い数字なんだろう。
もし本当に勝てると思うのなら、俺達に董卓は預けない。大事な人を、負ける側には。
「…………一応訊くけど、皆は納得してる訳?」
「武人が戦場に背ェ向けれるかい!それに、軍にはウチ直属の連中もおるしな」
「……恋の家族……恋が守る」
「恋殿が残るのならば、ねねが残るのは当然です!」
「…………そう」
盛大に舌打ちしたくなった。こんな馬鹿なこと訊いた自分にだ。
納得してない訳がないだろう。
「分かった。董卓だけ連れ帰る」
「……おや、よろしいので?」
小声で雲が訊いてきた。
「――よくない。よくないけど……これ以上説得する言葉が見つからない」
あんな顔で言われちゃ、引き下がるしかない。
それでもむしろ最良の状態だと言える。賈駆達が董卓を逃がすことを考えてなければ、董卓一人ですら連れ帰れなかったんだから。
「……賈駆の言ってる通り、董卓軍の勝率はゼロじゃないし、洛陽を落とす前に先行して連れ出す方法もある。前の外史通りなら張遼は魏に行くはずだし……」
前髪を掻き上げる。
――――頭を切り替えろ。
まずは、これ以上はまともな手段じゃ逃げてくれないことを自覚しろ。
手段ってだけなら雲に頼んで催眠かけてもらうってのもあるが、論外だ。そんな無理矢理、催眠解いた瞬間恋に斬られても文句言えない。
今は董卓だけを助け出す。
- 211 名前:外史喰らい編第4-2話(15/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:40:12 ID:o0gNDGyg0
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「雲、前みたいに出来るか?」
前の外史みたいに。
「十分に可能ですが」
よし。最終的に洛陽に忍び込めれば全員助ける方法はある。
恋と張遼は、敗れればそのまま捕虜になるだろう。どの勢力にしたって、喉から手が出るほどの人材だ。まず殺しはしない。
音々音も恋と一緒に扱われるはずだ。
そうすれば、洛陽まで迫った時には、賈駆が残るのみだ。
と考えれば、ここで董卓だけを助け出す事に付加価値が付く。
いざ洛陽に入った際、助け出す人数が少なくて済むという点だ。バレにくいし、素早く動ける。
うん、と頷く。自分にそう言って聞かせる。
これで董卓、賈駆、張遼、恋、音々音全員が……うん?
一、二、三…………あ。
「……そういえば、華雄がいないけど、どうしたの?」
すっかり忘れてた。
思い返せば、玉座の間の時からずっといなかったな。この外史じゃ、董卓に味方しないんだろうか?
と、見渡すと、賈駆達が微妙な表情をしていた。
何かあって言い辛いという感じじゃない。割合的には心配三割呆れ七割というところか。
「……あの猪なら、もう水関におる」
溜息まじりに、張遼が答えてくれた。
「水関?」
いや、武官が砦にいることはおかしくない。これからの事を考えればむしろ当然だ。
けど、さすがに早すぎだろう。宣戦布告はついさっきだぞ?
あと、猪って何だ。
「あんな、董卓が圧政敷いてるいう噂自体は前からあったねん――今考えたら袁紹の流したもんなんやろうけど――。で、同時に袁紹が軍を集めてるいう情報も入ってくるんよ。それ聞きつけてな――」
「『おのれ卑劣な、かくなる上はこの華雄、水関にて董卓様をお守り通して見せよう』?」
「……そういうこっちゃ」
まったくあの猪武者、と疲れた様に言う張遼。
うーん……悪い人じゃないんだろうな。むしろ良い人なんだろうけど、何て言うか、その……熱血馬鹿?
- 213 名前:外史喰らい編第4-2話(16/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:45:19 ID:o0gNDGyg0
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陣そのものは再利用出来ますが、移動先の座標の計算に少々時間が必要です、とは雲の言だ。
当然と言えば当然である。
一月経った今、白帝城に戻っても仕方ない。
かと言って、行軍中の皆に合流するのもそれはそれで面倒がある。
縮地の法の事はなるべく秘密にしたいので、軍隊のど真ん中に出現、というわけにはいかない。が、後ろから追いつくと、幹部が揃って馬にも乗らずにとは、という話になる。かと言って前で待ってれば、白帝城にいたはずなのにどうして、だ。
その辺が片付いたとしても、董卓は絶対に注目される。一度潜り込んだ後はまた侍女扱いで誤魔化せるけど、気絶して俺に抱えられた女の子なんて間違いなく目立つ。
けど、出した座標はその辺の事を纏めて解決出来るものらしい。
「拠点を出て目的地に着くまでの間、一日の行軍距離は常に一定に保っています。そして、それぞれの日に対応して、光の天幕を張る位置を決めてある。正確な日数を割り出し、天幕が張られる時間まで待てば、誰にも見られることなく合流できます」
だそうで、洛陽を出発する時には、既に日は傾いていた。
まあ、これぐらいの時間にならなきゃ行軍を止めないだろうし、仕方ないか。
「仙術って言っても、案外面倒なのね。やっぱり何事も有用なだけじゃないのか……」
と呆れられたのか感心されたのか分からない感想を賈駆から貰ったが。
「さて、と」
ずっと気絶したままの董卓を姫抱きにして、魔法陣の中から言う。
「これで別れたら、戦が一段落付くまで敵同士って訳だ」
裏側はともかく、表面上は。
「なんとなくだけど、一応言っておくぞ。こっちだって兵の無駄な消耗は避けたいし、下手に手を抜くと袁紹からどんなイチャモン来るか分かんないからね、全力で戦うことになるよ」
「当然でしょ」
と賈駆が答える。
「そういう気遣いは無用よ。月はあなたの陣営にいることになるんだから、疑い掛けられるような真似はよして。――そもそも、月を連れ出してくれるだけで十分なんだから」
- 215 名前:外史喰らい編第4-2話(17/17)[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:50:21 ID:o0gNDGyg0
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「そういうこっちゃ。魏延も分かっとるな?ウチとやり合う時に手加減なんぞしてみぃ。思いっ切りどついたるからな!」
「するわけないだろう、そんなこと。武人としての戦いで全力を尽くさぬなど、失礼にも程がある」
「よっしゃ、戦場で会う時、楽しみにしとるで!」
「ああ、ワタシもだ」
術の準備を待つ間に、より仲良くなったらしい。
張遼は良い意味で戦馬鹿だし、焔耶は体育会系だからな。ノリが合うんだろう。
「安心するといいです、一刀殿!恋殿はしっかりと手加減してくれるそうですぞ!」
「お、本当、恋?」
こくり、と頷きが返る。
「ちゃんと……一刀を、斬らないように…………気をつける……」
……それは助かる。
恋に全力で暴れられたら、さすがに手がつけられないからな。――俺と斬り合うこと前提の注意の気がするが、気のせいだろう。
「……じゃあ、行こうか雲」
「ええ」
頷いて、雲は組んでいた腕を広げる。
その動きに連動して魔法陣が雲の正面部分から時計回りに光り始めた。
「それじゃ次は戦場で……、かな」
「そうね。――北郷さん!月の事、頼むわよ!」
魔法陣を一周し、どんどん強くなる。
「ああ!絶対無事でいさせる!」
当然、賈駆達も、な。
叫び返すと同時、光が一面を包む。
帰ったらまずは、董卓を説得しなくちゃいけないなぁ、と思いつつ、光の眩しさに負けて目を閉じた。
- 222 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2010/03/29(月) 00:15:43 ID:Mjka/0L50
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以上です。
>>217
前回の終わりで、雲が中庭に描いてたヤツです。これが無いと生物・大きな物の移動は出来ない、となってます。
……能力が便利すぎるんで、細かく制限つけて「何で簡単な方法を使わないの?」とならない様にしています。
次回は、董卓の説得〜連合合流辺りになる予定です。
ご支援、ありがとうございました。
誰かさんの扱いが酷いと思った方、それは気のせいです。