- 785 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2010/01/31(日) 20:32:18 ID:jlpfKKMV0
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21時より、19レス投下させていただきます。
支援よろしくお願いします。
- 786 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(1/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:00:25 ID:jlpfKKMV0
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「あなたが華佗?」
魏城の玉座の間で、曹操が華佗に訊いた。
「君が曹操か」
「こらっ!頭が高いわよ!」
謙りも気後れもしていない華佗に、荀ケが叫ぶ。
「構わないわ、桂花。私の困り事を取り除けるのなら、それなりの敬意は払うべきでしょう」
「困り事……その病の事で俺を呼んだのか?」
「そうよ。誰か説明してあげなさい」
曰く、以前からあった持病の頭痛が最近悪化したらしい。
それも、数日に一度程しかゆっくり寝られないほどだそうだ。
原因は袁紹の動きに対するストレス。
「この頭の痛み。あなたなら癒せると聞いたのだけど、どう?」
「任せておけ!我が五斗米道に治せぬ病などありはしない!」
自信満々に華佗は頷く。
治療を頼まれた相手って曹操か……何人もお抱えの医者がいるだろうに。
改めて、相棒の凄さを理解した。
「そう。なら、さっそく診てもらおうかしら」
「ああ」
返事をして、曹操へ近づこうと一歩踏み出した華佗を、
「ちょっと待て!」
夏侯惇が止める。
「何だ?」
「どうしたの、春蘭?」
「診察という事は貴様、華琳様の裸体を見た挙句、その汚い手で華琳様のお身体を触ろうなどと考えておるのではなかろうな!?」
「なんですって!」
激昂する夏侯惇と荀ケ。
- 787 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(2/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:05:02 ID:jlpfKKMV0
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が、当然ながらその他にとってはそれは当り前なことな訳で。
「……それがどうしたんだ?」
「それはそうだろう、姉者」
「当然でしょう?」
「な、何ですって!?」
「……また始まったか」
揃ってきょとんと訊き返した。俺のは呆れの独り言だけど。ああ、驚いてたのは当然荀ケだ。
「駄目……薄汚い男の視線に華琳様のお姿を晒させるだけでも屈辱の極みだというのに……!」
「桂花の言う通りだ!まして、そのお身体に触れさせるなど、他の何が許そうとも、この夏候元譲が許さん!!」
「私も許さないわ!」
……相変わらず愛されてるなぁ、曹操。
「薄汚い、って……まあ確かに、旅をしてきたそのままで謁見してるから、砂埃で汚れてはいるが……。じゃあ、どこか手を洗える所に案内してくれるか?」
「そういう意味じゃないわよ、馬鹿っ!!」
「……秋蘭、脱ぐのを手伝って」
「承知いたしました」
無視して診察をすることにしたようだ。
「「華琳様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
情けない声で二人は請う。
と。
「桂花、姉者。いい加減にしろ」
夏侯淵が静かに言った。微妙に声が低い。
「華琳様の病気を治す為には、華佗に診てもらわねばならんのだ。二人共、華琳様が苦しんだままでもいいと言うのか?」
「まさか!そんなはずが無いだろう!」
「ならば少しぐらい我慢しろ。それに、華琳様が構わぬと言っているんだ。我々が騒いだところでどうしようもあるまい」
「「ううううぅぅぅぅ…………」」
- 788 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(2/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:10:05 ID:jlpfKKMV0
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納得がいかないのか、二人はそれからもまだブツブツ言っていたが、一応は怒りを納めたらしい。夏侯淵が曹操の服を脱がしていくのを羨ましそうに見ている。
夏侯淵の手が、下着に伸びた時だ。
「待って、秋蘭!」
荀ケが叫んだ。
「そこのアンタ!何してるのよ!?」
「…………」
「聞きなさいよ!!」
「…………あ、俺?」
自分を指さして訊く。
完全に眼中に無い扱いをされていたたから、反応が遅れた。
「そうよ、そこのアンタ!何華琳様のお身体をじろじろ見てる訳!?」
いや、じろじろって俺の事気にせずに脱ぎだしたのは曹操なんだが。
「あら、そう言えばもう一人いたのね。秋蘭、彼は?」
「は。北郷という、華佗の弟子だそうです」
聞いた曹操の感想は「ふぅん」だ。まあ、今の俺の立場じゃ、その他大勢の内の一人だしな。興味は無いだろう。
「それで桂花。その北郷がどうかしたのかしら?」
「どうもこうも、華琳様の玉体を医者に見られるのでさえ屈辱だというのに、こんなどこの馬の骨とも分からない奴にも見せるなんて我慢できません!」
「……いや、だから華佗の弟子だって」
どこの骨かは分かってるだろ。
- 790 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(4/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:15:17 ID:jlpfKKMV0
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「アンタは黙ってなさい!そもそも、弟子ということは従者みたいなもんでしょうが!大人しく外で待ってなさいよ!!」
「いや、それは困る」
荀ケに反論したのは華佗だった。
「一刀には、治療の現場を少しでも多く見てもらいたんだ。知識だけじゃ医者にはなれない――医術ってのは、実践してこそ価値がある技術だからな。だから、治療を見せる貴重な機会を失わせたくないんだ」
「そう、なら許すわ。後続の教育、しっかりなさい」
「華琳様ぁぁ!」
はぁ、という若干疲れたような溜息が曹操の口から洩れる。
「桂花……あなた、そんなに私の治療を邪魔したいのかしら?」
「ち、違います……!華琳様のお身体が、あの汚らしい目で汚されるのが耐えられないだけで……」
「私が構わない、と言っているのよ?」
「ですが……!」
「いい加減になさい」
なおも食い下がる荀ケに、曹操は冷たい声で言った。
そりゃあ怒るよな。曹操にとってみれば、長い間自分を悩ませてきた病が治るかもしれないのだ。それをくだらない理由で止められれば切れもする。
とはいえ、荀ケの方もそうそう退けないラインだろう。
仕方ないか。
怒声に変わる前に割り込もう。
「いいよ曹操さん。俺が出ていくから」
これが一番手っ取り早い。
- 791 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(5/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:20:19 ID:jlpfKKMV0
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「おい、一刀……!」
「あら、いいの?」
「そうすれば話は纏まるだろ?」
「纏まるでしょうけど……あなたの師の意向を無視することになるわよ?」
「治療を見る機会ならこれからもあるし、――なにより、このままじゃ治療の邪魔になる」
それこそ一挙一動全てに文句付けられるだろうからな。
「華佗から学べないのは嫌だけど、そのことで華佗に迷惑掛けるのはもっと嫌だからな」
「一刀……」
嬉しさと困惑の混じった様な顔で、華佗は俺を見る。
「って、訳だ。残念だけど、次回に期待するよ」
「だが………あ、そうだ――」
名案があった、というように、華佗は両手を打ち合わせる。
「ちょっと待っててくれ一刀」
薬箱の一番下の引き出しを開け、中を探りだした。
「えーと、確か赤い方だったよな……ほら、一刀」
ぽい、と赤い小さな巾着袋が放られる。受け取ると、お手玉の様な手応えが伝わってきた。中身は種か何かだろうか。
「何これ?」
「涼州のとある村に伝わっていた、解熱作用のある種だ。この街の、南門の近くに知り合いの医者が――薬の専門家なんだが――いてな。そういう、知らなかった、薬になる植物なんかを見つけたら届ける約束をしてるんだ。……すまないけど、使いを頼まれてくれないかな?」
「ああ、分かった」
いい暇つぶしになる。
薬の専門家か。現代で言う、漢方のエキスパートって感じかな?
「そこで薬草について学んでくるといい。今紹介状を書くから、少し待っててくれ」
- 793 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(6/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:25:14 ID:jlpfKKMV0
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で。
そんな経緯で訪れた医者の家から、ほんの十分ぐらいで出てきた俺である。
華佗から受け取った赤い巾着もそのままだ。
「……案外抜けてるんだな、華佗」
大通りを城へ向かいながらぼやく。
手紙を見て、種を見て言った医者の言葉は、「違う」だった。なんでも、俺が預かった種は大陸全土で見つかるもので、そもそも効能も解熱ではないらしい。
華佗が勘違いをしたのかとも思ったが、この種は劇薬の部類で、使用量が多いと命に関わる様な物らしく、それはない、という事で意見が一致した。
そこで、そう言えば赤い巾着の隣に青い巾着があったなぁ、と思い至った次第だ。
どうせ後から華佗も来るんだし構わない、とは言ってくれたが、仕事もせずに報酬だけ受け取るのも決まりが悪かったので取って返って今に至る。
とりあえず城に戻ろう。
学んでくるといい、と言われたってことは、治療が長時間に及ぶ可能性もあるということだ。玉座の間に入ればまた夏侯惇と荀ケが五月蝿いだろうから、外から事情だけ言って袋を代えてもらおう。
既に治療を終えてるとすれば華佗と行き違いになる可能性はあるが、それはそれでいい。
なんたって「曹操」と「頭痛」と「華佗」だ。早く治るに越したことはない。
そこまで考えた時だった。
「もう、季衣!いつまでも食べてないで、早く行かなきゃ!!」
「ま、待ってよ流琉!今行く!……あ、おじちゃん、お代ここ置いとくね!」
前方から、元気のいい声が聞こえてきた。
片方は聞き覚えがある。
見れば、こっちの方へ向かって走ってくる女の子が二人いた。
片方は(こう表現すると本人は怒るんだろうけど)チマキのように髪の毛を二つに纏めていて、もう一人はおでこの上で前髪をリボンで留めている。
「季衣」ってことは、前者は許緒ちゃんか。この外史でも曹操に仕えてるんだろう。
手には馬鹿デッカイ肉まんを持っていて、二人の後方、今出てきただろう屋台には空の蒸篭が山になっていた。
- 794 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(7/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:30:07 ID:jlpfKKMV0
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そう言えばそろそろ昼飯時だ。
「うぅ〜。もうちょっとで記録更新できたのに〜〜……何でこんな時に出るんだよ!」
と怒りつつも、肉まんをつまむのを止めないあたりはさすがと言うべきか。
けど、さすがに危ないだろう。歩きながらならともかく、走りながら食べるサイズじゃない。
「おい、ちょっと危な――」
「うわぁっ!」
………ほら案の定。
注意しようとした矢先、足を滑らせて、許緒ちゃんは転んでしまった。
ショックで手を離してしまった肉まんが俺の方へ飛んできた。思わず受け止める。……ズシッときた。
「…………ほんっとに危ないな、これ」
下手したら薬箱より重たいかもしれない肉まんを手に、二人に近付く。
「あ痛たたた……」
「だから言ったじゃない、もう……」
大丈夫?、と声をかけると、――手に持った肉まんから俺がどんなことになったのかを判断したのか――リボンの子の方がすまなさそうに頭を下げた。
「す、すいません!お怪我はありませんか!?」
「ああ、幸いにも受け止められたから、大丈夫だよ。肉まんもキレイなままだし」
はい、と許緒ちゃんに肉まんを返す。
「あ、ありがと兄ちゃん。――痛っ」
ビクッと許緒ちゃんが身を竦ませる。
「ん?――うわ」
見ると、左膝を擦り剥いていた。傷口は浅くはあるが広く、だらだらと血が出ている。
土の地面とは言え、一国家の都なだけはある。試しに爪先で蹴ってみれば固い手応えが返ってきた。
こんなところで転べば、そりゃあこうなるだろう。石に当たらず肉が抉れていないだけマシ、というところか。
「ひどいな、こりゃ……ちょっと見せて」
言って、ポケットから包帯と塗り薬の瓶を取り出す。華佗と離れている時に怪我人と会っても簡単な治療ができるように、と分けてもらったものだ。俺の持つ医療道具の第一歩ってことになるんだろうか。
近くの民家から水を貰って傷口を洗い、薬を塗って傷口に三重に折った布を当て、その上から包帯を巻く。
治療と言っても、こういう簡単なのばっかり―――じゃない、簡単なの「しか」できないだけか。
- 795 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(8/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:35:09 ID:jlpfKKMV0
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「……よし、と。包帯は濡れたり汚れたりしたらその都度取り替えていいけど、その下の布は自然にとれるまで剥がしちゃ駄目だよ。無理に剥がずと傷口が開いちゃうからな」
「あ、うん。……兄ちゃんひょっとしてお医者さん?」
「いや、医者見習いだよ。師匠に付いて修行中の身だよ」
「そっかー。でも、兄ちゃんならきっとすぐにお医者さんになれるよ!」
「はは、ありがとう」
人懐っこさとか、その辺がなんとなく鈴々と似ていて、彼女と話している気になる。
それで思わず、褒める様に頭をポン、ポン、と軽く叩いていた。
「あ……っと、ごめん」
気付いて詫びる。さすがにそれは馴れ馴れしい。
「ん〜……気にしてないよ。兄ちゃんいい人だし」
嫌がるどころか、むしろ俺の腕にぶら下がって遊ぼうとかする辺りも、やっぱり似ている。
「もう、季衣!ちゃんとお礼いいなよ、恥ずかしいなぁ!」
とくれば、恐縮至極、という感じでペコペコと頭を下げているこっちの子は愛紗ポジションか。
「気にしなくていいけど……何か急いでたんじゃないの?」
「「………………ああっ!!」」
揃って、思い出した、という感じで声をあげる。
「そうだった、早く行かなきゃ!――あ、そうだ兄ちゃん!変な怪物が暴れてるらしいから、気をつけてね!」
「怪物?」
ロクな予感しないぞ。
「はい。なんでも、大柄の人の様な外見をしていて、凄く気持ち悪いんだそうです」
「それで、滅茶苦茶強いんだって!『ふはは!』とか『うっふ〜ん!』とか鳴くらしいから、その声聞いたら逃げてね!」
「…………ああ、分かった……」
まだやってるのか、あいつら。人から怪物になってる辺りは自業自得だろう。
「じゃあ、兄ちゃん。ボク達もう行くね!」
「季衣の足の手当て、ありがとうございました」
「うん、お仕事がんばってね」
そんで、出来れば連中を捕まえてやってくれ。一度ぐらい灸を据えたほうがいい。
- 796 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(9/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:40:02 ID:jlpfKKMV0
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「やっと帰ってきたわね!!」
城に戻ると、玉座の間の入口の柱の前で待っていたらしい荀ケに怒鳴られた。
「どうしたの?」
待ってたって言っても、多分良い用事じゃあないんだろうな、荀ケじゃ。
「どうしたはこっちの台詞よ!説明しなさい、アレはどうなってるの!?」
「うぉっ…!?」
襟首を掴まれ、「華琳様の方を見たら殺すわよ!」との脅迫付きで、中を覗ける位置まで顔を突き出させられた。
「アレは何なの!?」
「あれって何だよ?」
「アンタの師匠がやってることよ!」
言われて、見る。
曹操放ったらかしで、暴れまわっている華佗が見えた。
「…………どうしたんだ、アレ?」
「私に分かる訳ないでしょう!何!?あれが五斗米道の治療だって言うの!?」
「いや、まったく違うけど……」
えーと、どういう経緯でああなったか訊いていいかな?
「あいつが華琳様のお身体を舐める様に見て、鍼を打とうとしたら弾き飛ばされた様に後ろに跳んだの。それからずっとあの調子よ!!」
「鍼を打とうとしたんだな?」
「そう言ったでしょ!」
つまり治療に取り掛かったってことだ。その後こうなったんだから………。
もう一度華佗の動きを見る。今度は「何かと戦っている」という仮定を頭に置いて、だ。
―――――半身になって、叩きつけをかわした。
―――――足払いを跳んで避け、
―――――反撃で鍼を打ちこみ、
―――――それが止められて、弾かれる。
「間違いないな」
華佗はちゃんと治療を継続している。
病魔と闘ってるんだ。それも、華佗が防戦一方になるぐらい強力な病魔と。
- 797 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(10/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 21:45:11 ID:jlpfKKMV0
-
「華佗はちゃんと治療してる。信頼してくれ」
「あれが治療だって言うの!?」
「そうだ」
「……………」
ハッキリ言い切ったら、荀ケは絶句した。
「前言は撤回する。あれが五斗米道の治療方法だ。あー………かなり特殊な部類に入るけどな」
そう言っておいた方がいいだろう。
「って訳で、助手として華佗の手伝いしてくる」
「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」
「曹操の体は見ないようにするから!」
それだけ言って、玉座の間に走り込んだ。
そうだ、何が出来るかは分からないが、少しでも力になれるなら行動しなければ。
このままじゃ、曹操は治療できない。どころか華佗が病魔にやられる。
その後は曹操への詐欺罪で投獄・打首、ってところか。それは勘弁願いたい。
そして何よりも。
そんな強大な病魔に蝕まれている曹操を放っておくことなどできない。
「華佗!!」
病魔の攻撃に万が一にも当たらないよう距離を取って、背後から華佗を呼ぶ。
「一刀か!?何でここにいるんだ!?」
病魔の方を向いたまま、華佗は答えた。
「袋の中身が違ってたんだよ」
「げ。――やっぱり青い方だったか。次からは事前に確認するとしよう――とっ!」
前に駆けつつ、スライディングの様に姿勢を下げた。しゃがんでかわした訳だろうか。
「そうしてくれ―――それで、苦戦してる様だけど、大丈夫か!?」
「かなり厳しいな……」
冗談めいた口調だが、軽く息があがっている。事実なんだろう。
「だがいいところに来てくれた。薬箱の予備の鍼に、金鍼が無いか確認してくれ!」
「キンシ……ああ!金の鍼だな?少し待ってろ!」
曹操を支線に線対称になる辺りに置いてあった薬箱に駆け寄る。
二段目の引き出しを開けた。中身は、ヘラや小刀なんかの治療具。
一番奥の、布紐で丸めてある布製の袋を取り出し、広げる。
いくつものポケットに収まっている細い金属から、目的の物を探し始めた。
- 800 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(11/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:00:28 ID:jlpfKKMV0
-
「金……金……無いぞ、華佗!!」
一応逆順でダブルチェックを入れてある。
この中に金鍼は入っていない。
「何だって!?………くそ、このままじゃ……」
華佗の顔が曇る。
…………ん?…………あれ?………どこかで見たぞ、金色の鍼。
「えっと……」
出かかってる情報を整理する。
華佗が持ってて忘れてる、ってのは、ないな。
大切な物らしいから薬箱の中に転がってるはずもないし。
俺も鍼は持たせてもらってないからそれも違う。
となると……あん?
何故か、街に入ってすぐの光景が思い出された。
逆光の中でポージングする漢女二人。
その、貂蝉の方。
日光が当たってないのにキラキラと光っていた……三つ…………編み…。
「あああああっ!!」
――っんの、馬鹿野郎!!
「華佗!金鍼があればその病魔、なんとか出来るんだな!?」
「ああ!あれならこいつにだって通じるはずだ!!」
「有りかに心当たりがある!すぐ取ってくるから待ってろ!!」
「――分かった!任せたぞ!」
力強い返事を背に、玉座の間を飛び出す。
荀ケが何か叫んでいたが無視だ。
とりあえず城から出よう。
で、騒ぎの大きい方に向かっていけば、多分その先頭にあいつらがいる。
そんで金鍼取り返して、余裕があったら一発殴る。
よし。それでいこう。
- 803 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(12/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:05:04 ID:jlpfKKMV0
-
城の正門が見える位置まで来た時に、正門の向こうに肌色の巨塊が二つ見えた。貂蝉と卑弥呼だ。
噂をすれば影、みたいなものだろうか。
「まあ、いい」
探す手間が省けたし。
「おい、貂せ――!?」
叫びかけて、二人の後ろのそれに気付いた。
張遼さんを筆頭に、街に入った時のゴーグルの子と丸眼鏡の子、顔に傷跡のある子。さらにその後ろには、ドクロの入った鎧を着た多数の大男。
どう見ても魏軍の面々だ。
「まだ追われてんのかよっ!!」
「あら。ご主人様ぁぁ!!!」
「叫ぶな、手を振るな!!」
「まだ仲間がおったんか!?そこの、大人しゅう捕まれや!」
ああ、やっぱりこうなるか!
「くそっ!」
翻って、城内を逆走する。
そこに、漢女二人が追いついてきた。
「何やってるんだよ、お前ら!?大騒ぎになってるじゃないか!」
が、貂蝉は全く気にしていない様に訊いてくる。
「そんなことより、華佗ちゃんは大丈夫?」
「――そうだった!貂蝉、華佗の金鍼持ってってるだろう!?」
「キンシン……?ああ、これね」
はい、と手の平が差し出される。
その上には、金色に輝く細い金属片が乗っていた。
「それだ!華佗がピンチなんだ。それがあれば何とかできるらしい!」
「なんと、だぁりんが!?こうしてはおれん!行くぞ、貂蝉!」
叫び、一人速度をあげて卑弥呼は玉座の間を目指す。
- 804 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(13/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:10:01 ID:jlpfKKMV0
-
「だから要るのは金鍼だっての……!」
しかもお前らが一緒だと魏軍まで連れてくことに……。
「ああっ!あいつら玉座の間の方へ向かったの!」
「いかん!奴らの狙いは華琳様か!?」
「そうはさせるかぁっ!」
ああ、もう、クソッ!
最悪捕まろうが曹操暗殺を目論む連中だと誤解されようが、曹操さえ治療してしまえばどうとでもなる。
ならその治療を邪魔させないことだ。
「貂蝉、玉座の間で華佗を守るぞ!」
「了解よん、ご主人様!!」
二人で卑弥呼の後を追った。
「華佗っ!」
叫びつつ、玉座の間に走り込む。
「見つかったか、一刀!?」
攻撃を避けているのだろう、上半身を捻りつつ華佗が応えた。
「ああ!」
「よし、じゃあ、こっちに貸し―」
「待ちくされぇぇ!」
多勢を引き連れて、張遼達がなだれ込む。
このタイミングで追いつかれるか!
と、先に玉座の間に入っていた卑弥呼がこちらを向いた。
「夏候姉妹はワシがやる!貂蝉、貴様は軍を止めい!」
「おっけぇい!ご主人様はこーれっ」
金鍼を差し出された。
「ちゃんと届けてあげてね」
邪魔者は止める。だからしっかりと役目を果たせ。そういう意味だ。
「――ああ!」
頷いてそれを受け取る。
- 806 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(14/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:15:03 ID:jlpfKKMV0
-
「ふっふぅ〜ん!ここは通さないわよぉん!!」
入り口に立ち塞がったのだろう貂蝉の声を背に走り出す。
「止まれ!!」
警告と共に、夏侯淵が矢を番えるのが視界に入った。
だが止まらない。
俺達が捕らえられて事態が落ち着けば、曹操の治療などさせてもらえなくなる。
「ふっ!」
息を吐く音と同時、矢が放たれる。
が、それは俺の足を射抜く前に、卑弥呼に止められた。
「ふん!精度は申し分無いが、如何せん遅すぎるわ!」
片手の人差し指と中指で矢を挟み、卑弥呼は言い放つ。
外見も中身もロクでもないが、やはり戦闘能力は確かだ。
「ほうれ、返すぞ!」
挟んだ矢を反転させ、手裏剣の様に投擲する。狙いを寸分違わず、夏侯淵が持つ弓の弦を切断した。
「何だと……!?」
「元来、弓と言う武器はもっと遠距離で使用する物だ。室内で、それも投擲武器で反撃を許す様な距離で用いるなど、愚の骨頂!!」
「くっ……!」
役に立たなくなった弓を手に夏侯淵は歯噛みする。
そして、その攻防の間に、華佗の元に辿り着けた。
「待たせた!」
叫び、金鍼を手渡す。
「―――よし、これさえあればッ!!はああああああああああああ!!」
華佗が金鍼に、気を籠める。
「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒……病魔覆滅!行くぞっ!!」
病魔がいるのであろう空間を睨みつけ、華佗は走り出した。
よし。
鍼は渡した。
張遼達、警備の兵は貂蝉が抑えている。
夏侯淵は卑弥呼が無力化した。
後は――
「させるかぁ!!」
- 808 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(15/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:20:03 ID:jlpfKKMV0
-
背後。大剣を手にした夏侯惇が声をあげた。
「なん――!?」
卑弥呼が何とかしたんじゃなかったのか!?
そう思い見れば、弓を捨て短剣を手にした夏侯淵と、警備兵の一団にいた傷跡のある子が卑弥呼と相対していた。
いつの間に……!?
「姉者、華佗を止めろ!」
「分かっている!」
応え、夏侯惇は華佗の背後を目標に跳び出す。
このままでは、華佗が病魔を倒す前に、夏侯惇の剣が華佗を両断するだろう。
そう考えた途端、薬箱を盾の様に左手に構え、華佗と夏侯惇の間に割って入っていた。
「――どけぇ!」
大上段に構え、夏侯惇が迫る。
どかなきゃ斬られる。けど、どいたら華佗が斬られる。
なら。
「行け、華佗!!」
「おおおおおおおおおおおお!!」
華佗の雄叫びを背に、殺気に震える脚に無理矢理力を込めた。
薬箱じゃ夏侯惇の剣は止められないだろう。
斬られるのは薬箱と―――左腕一本か。
体が斬られないように注意すれば、死にはしない。
華佗と出会った時の村みたいに血は止めてもらえるだろう。もしかすれば、斬られた直後ならくっ付くかもしれない。
仮に隻腕になっても医者はできる。
腕一本と皆の命プラス曹操の治療―――十分すぎる。
「邪魔だぁっ!!」
大剣が振り下ろされる。
そして。
- 811 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(16/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:25:06 ID:jlpfKKMV0
-
ガキン、という、重い鉄塊がぶつかり合う音。
「………え?」
俺と夏侯惇の間に、二つの影が入り込んでいた。
一つは、けん玉を模した様な形の巨大な鉄球。
もう一つは、その武器の持ち主である少女。
「何故お前が邪魔をするっ、季衣!?」
許緒ちゃんが、己の鉄球で大剣を受け止めていた。
「駄目です春蘭様!この兄ちゃんは善い人なんですから斬ったら駄目です!」
「馬鹿を言うな!こいつ等は華琳様に害をなそうとしたのだぞ!」
「それはっ――きっと、なにかの間違いです…!」
反論が答えになっていない。
そう言えば許緒ちゃんも、貂蝉達を追っていたのだと思いだす。
それで玉座の間に入ってきた時、街で手当てをしてくれた人が何故か夏侯惇に斬られそうになっている。それを見て、思わず盾になってしまったんだろう。
「とにかく、そこをどけ!」
「ど、どいたら兄ちゃんを斬るんでしょう?なら、嫌です!」
「季衣!」
大剣を握る夏侯惇の手に力がこもる。
「そやつらに味方するというのなら、たとえお前でも―」
- 812 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(17/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:30:03 ID:jlpfKKMV0
-
「春蘭、季衣」
澄んだ声が、夏侯惇の言葉を遮った。
「武器を納めなさい」
壇上から、曹操は王者の風格で言う。
「か、華琳様!ご無事ですか!?」
安否を問う夏侯惇の言葉に、曹操は答えない。
「武器を納めろ、と言ったわよ?」
「し、しかし華琳様―」
「春蘭」
短く冷たい、絶対者としての言葉。
「私に三度同じことを言わせるつもり?」
びくり、と夏侯惇の肩が震える。
「も、申し訳ありません!」
アタフタと剣を下ろす夏侯惇を見て、ふう、と曹操は疲れたように溜息をついた。
- 813 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(18/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:35:11 ID:jlpfKKMV0
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貂蝉と卑弥呼が俺達のツレだ、と説明して、魏軍の兵士達が玉座の間から去った後。
「華佗」
と、改まって曹操が呼び掛けた。
「治療、感謝するわ。噂通りの確かな腕の様ね」
「なに。患者が元気になったのなら、なによりだ。今日は早めに寝て、体力を取り戻すといい」
「そうさせてもらいましょう。……それで、報酬の話になるのだけれど、何か要求はあるかしら?」
「特には何もないな。四人分の路銀ぐらいでいいよ」
いつも通りの謙虚すぎる報酬の要求に、曹操は眉を顰めた。
「冗談でしょう?これほどの腕を持ちながら、治療費を請求しない、というの?」
「いや、だから路銀分程度の額で―」
「その程度の額がこの腕に見合うとは思わないわ。認めるべき才能に、それに相応しい報酬を渡さないのは侮辱以外の何物でもない。……渡せない側としても」
要するに、自分が礼を送らないと気が済まないから何か出せ、と言っている訳だ。
「……華佗。何か要求しないと終わらないぞ、コレ」
横から小声で助言を送る。曹孟徳としてのプライドの問題だ。まず向こうは引き下がらない。
「そうは言ってもな……金品も薬も、多く貰ったって旅の邪魔になるだけだし……一刀、なにか欲しい物無いか?」
「……無いなぁ」
正直、物欲低いしな、俺。
強いて言うなら医学書だが、それだって旅の邪魔だ。
華佗は貂蝉と卑弥呼にも訊くが、
「私が欲しいのは、ご主人様だけ」
「ワシらは何もしておらぬからな。受け取るべきはおぬしだろう、華佗よ」
と、役に立たない答えが返るだけだ。
「うーん……」
困り顔で華佗は腕を組む。
華佗も華佗で、高額の報酬を受け取らないことを己に課してる感があるからなぁ。
あげたいのと貰いたくないのとで、折り合いがつかなくなっている。
どっちも譲らないだろうしなぁ。
「……あ。華佗、こういうのはどうだ?」
「ん?」
と耳を寄せてきた華佗に、耳打ちをする。
- 814 名前:男だらけの恋姫†無双第二話‐2(19/19)[sage] 投稿日:2010/01/31(日) 22:40:05 ID:jlpfKKMV0
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「――なるほど、それにしよう。曹操、決まったぞ」
「そう。で、何かしら?」
「借りておいてくれ」
「…………借り?」
意味が分からない、とオウム返しにする曹操。
「ああ。そうまで言ってくれる以上、報酬を貰わないのは失礼だが、今すぐに欲しい物は無いんだ。だから、欲しい物が出来る時まで取っておいてくれ」
「……そう。まあ、いいでしょう。曹孟徳に貸しを作れたこと、自慢するといいわ」
「ああ!」
上手くいった、と頷く華佗を見て、「要らない事言いやがって」と言うような表情で睨まれた。
まあ、俺発案だってバレるよな。
「ただし、必ず請求に来なさい。踏み倒す気は毛頭ないから」
絶対返させろ、ってのも珍しい。
と。
「失礼します!!華琳様!」
切羽詰まった声と共に、髪を後ろで結った、武官らしき眼鏡の子が走り込んできた。
「騒がしいわよ稟。今は客が―」
「それどころではありません!」
曹操に駆け寄り、耳打ちをする。
文官の口が動く度、曹操の表情が険悪に変わっていった。
「―――華佗。申し訳ないけれど、火急に対処しなければならない要件が入ったの。本来なら名医を持て成したいのだけれど……」
「気にしなくていいよ。そこまでされると、今度はこっちが窮屈になってしまう。ここで失礼しておくよ」
「ええ。貸しを引き取りに来る日を楽しみにしているわよ」
- 817 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2010/01/31(日) 23:14:18 ID:jlpfKKMV0
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以上です。
途中(797と800の間)でさるってしまい、ご迷惑おかけしました。
原作第2章中盤〜後半に当たる内容になります。
次回からなのですが、
どうも今の文章量だと、投下に2ヶ月以上かかってしまうようなので、
一回分を半分に区切って、前後編、という形で投下ペースを速めたいと思います。
「また!?男だらけの恋姫†無双」、次回は第3話「一つと八つ(仮)」になります。
外史喰らい編もきちんと書き進めていますので、そちらをおまちの方もご心配なく。
支援ありがとうございました。