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893 名前:清涼剤 ◆q5O/xhpHR2 [sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:17:13 ID:GVWl+yk+0
クリスマス終わっちゃいましたね……流れに乗り遅れちゃいました。
それでも余韻は残っていると信じて投下してもいいですかね?
ちなみに久しぶりに直投下しようと思います。
897 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(1/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:31:29 ID:GVWl+yk+0
 ―
 ――
 ―――
 ――――さよなら……白蓮。
 あの静かな夜、俺は彼女の……公孫賛こと白蓮の元を去った。
 そして、気がつけば元々いた世界へと戻っていた。
 そこは、俺がいなくなる直前とまったく変わらず俺に起こったことなどまるで夢だったか
のようにさえ思えてしまった。
 だが、わかる……夢ではあり得ない程に鮮明に記憶が残っていたのだから。
 二つの世界に渡って繰り広げられた俺の旅……その長い道のりとさまざまな出来事、そ
れらが嫌と言うほどしっかりと心の中に残っていた。
 それでも、俺はここに帰ってきてからただ以前同様の日々を過ごしていた……ただ黙々
と。
 正直、心ココにあらずといった様子が続いていた。ただ、向こうでの経験が役に立った
のか半分魂が抜け出ているような今の俺でもそう、失敗を犯すようなことはなかった。
 そして、今日も教室の席に座っている俺は窓の外に広がる景色へと視線を向け、特に
何も考えることなくため息を吐いた。
「なんや、また黄昏れとるんか? かずピー」
「…………はぁ」
「って、聞いてへんのかい!」
「ん? あぁ、及川か……どうした?」
「どうしたやあらへん! かぁーっ、すっかり忘れとるやん自分!」
「え?」
 目の前でいつぞやに似た反応を示す及川佑……一応俺の友人である。
 こいつとも随分と離れていた。もっとも、記憶から抜け落ちかけていたため向こうにいた
頃は、ほんの少ししか思い出すことはなかったが。
「かずピー、今日は聖戦に敗れた男たちが集うって言うといたやろ?」
「あぁ……そんなこと言ってたっけか」
 そう言われて、数日前にクリスマスまでに彼女を作れなかった、もしくは聖なる日を目の
前にして破局を迎えた者……そんな男たちを集めて大いに盛り上がる……そんなよくわ
からない会を及川が開こうとしていたのを聞いていたことを思い出した。
899 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(2/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:36:06 ID:GVWl+yk+0
「そう! 今宵は男たちの挽歌がクリスマスを吹き飛ばすんや!」
「というか、お前、あの……名前忘れたが、新しく出来た彼女はどうした?」
「うぐっ!?」
「おい――」
「やっかましい! どーせフられましたよ!」
「え……だって『クリスマスに独り身なんて死んでもお断りや』って言ってただろ?」
「そんときはそのはずやったんや……まさか、クリスマス前にフられるとは思っとらんかっ
たっちゅーねん!」
「わかった。わかったから……涙をふけ」
 目の前でさめざめと泣く及川にハンカチを渡す……などということもなく、袖でぐしぐしと
目元を拭くのを待つ。
「まぁ、そういうわけやから――今日は思いっきり盛り上がるでぇ!」
「……俺も行かないとダメか?」
「当たり前や! こんな日にかずピーを一人にしたら――えぇい! さっさといくで!」
 くわっと顔を強張らせて詰め寄る及川を宥めつつ教室を出て行く。その際に教室に残っ
ていた女の子たちから複数の舌打ちが出たように思えたが及川の剣幕と関係もないだろ
うと考えすぐにその疑問は除外した。
「で、このまま行くのか?」
 校舎を出た辺りでようやく落ち着きを取り戻した及川に声を掛ける。
「ん? そやなあ……一旦着替えとこか」
「わかった……じゃあ、また後で」
「あぁ、集合は――やから。ほんじゃ」
 そうして、及川と別れた俺はすぐさま準備を整えボロ小屋同然の男子寮を出る。
「お、待っとったで」
「って、集合場所にいるんじゃないのかよ」
「せやから言うたやん。かずピーを一人にさせとくわけにはあかんってな」
 口端をにやりと吊り上げながら俺を見据える及川。一体何故、一人の時間を作らせない
ようにしているのだろうか……さっぱりわからない。
「さ、行くでぇ……今日はこの無念を晴らすんや!」
「はぁ……やれやれ」
901 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(3/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:39:39 ID:GVWl+yk+0
 隣で騒ぎ立てる及川を横目に空を見上げる。日も沈み、先程まで赤く染まっていた空が
黒い闇へと変貌している。その暗き天井に白く輝く光が点々と散らばっている。
 そんな星々を見ながら思い出す……最後の夜を。
(白蓮……やっぱり、悲しんだのかな……)
 手を繋いだときの白蓮はただ黙って俺の掌から伝わる温もりを感じているだけのようだっ
た。だけど、同じように彼女の体温を掌で感じていた俺にはどこか彼女の手を流れる脈が
速く打っていたように思えた。
 結局、白蓮がどのような反応を示したのかはわからない……ただ、やはり彼女は涙した
のだろうか……そんなことをもう何度考えただろうか……この、フランチェスカの存在する
世界へと戻ってきてから幾度となく白蓮たちのことを思い出しては枕を濡らした。
 そして、何度もあの世界のことを考えた……何故あの"外史"に行くことになってしまった
のか、一体何が原因であの外史は産まれたのか……そして、その存在の意義とはどこに
あったのか……だが、それらはもう俺には知る術など無い。
「……ピー、かずピー、北郷サド左右衛門!」
「失礼な! 誰がサドだこの野郎」
 無礼な事を行ってくる及川に全力の拳をめり込ませる。
「いたた……かずピーが呼んでも返事せんからやないか。ひどいでぇ……このサド」
「あ?」
「い、いや……まぁ、えぇ。それより、ほれ、みんな集まっとるで」
 そう言って及川が指さす方へと俺も視線を向ける。そこにはいかにもと言った様子の男
たちが集まっている。
「みんな、この聖夜をぶっ飛ばすために集まった猛者や!」
「…………そ、そうか」
 男が集まるとここまでむさ苦しいものだったのか……今になって俺はそれを痛感せざる
を得ない。割と広めの一室を持つカラオケスタジオの中、野郎共の歌を聴きながらそんな
ことを思っていた。
 かれこれ、数時間。ぶっ通しで歌い続ける聖夜の戦士たち……その喉は強化されてい
るのか枯れることなくその怨念の強さを見せつけるように声を発し続けている。
「今日もひとり……あしたもひとり……あさっても、しあさっても。いつも孤独……俺は孤独
――」
「やれやれ」
903 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(4/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:42:50 ID:GVWl+yk+0
 及川を中心に全員が束になってマイクに向かって大声を張りはじめているのを見ながら
一人ため息を吐く。見苦しい光景から目を離して窓から空を見ると、星の一つがキラリと
煌めいてどこかへと流れていった。
「――今日は僕がサンタクロース。ふざけたこといってんじゃない! ヘイ! ジングルベ
――」
 流れ星が少し気になり、拳を振り上げて派手な音に乗って叫ぶように歌う男たちを後に
部屋を出る。
「あれは……」
 フランチェスカの敷地へと流星が落ちた……そう見えた瞬間、すでに脚は走り出してい
た。
 イルミネーション煌めく街を駆け抜ける……目指すはフランチェスカ。
 街ではカップルたちが愛を誓い、子供がサンタクロースの話題に目を輝かせ、それを親
が微笑まし下に見つめている。
 また、そのサンタクロースという人物のトレードマークの一つと言える赤を基調としつつ
も袖などに白いファーのついた服を着た若い女の子が店の前でケーキを販売している。
「及川あたりなら……買いまくるんだろうな」
 友人の馬鹿な姿を想像し僅かに口元をほころばすが頭を左右に振ると思考を切り替え
て再び駆け脚の速度を一層増した。
 敷地に入る際、ついでに寮で制服に着替えておく……警備の人間に呼び止められて
もそれならば足止めを食らう確率が減るからだ。
 そうして男子寮を出た俺は流星が落ちたと思われる辺りへ向けて駆け出した。
「……確かにこの辺りに……」
 あの馬が荒野を駆けていた世界と違いしっかりと舗装された道を思い切り踏みしめなが
ら辺りを見渡す。
 異常なほどに高鳴る胸の鼓動、それに対して、息が乱れることはない。さんざん鍛練を
積んだ成果なのだろう……実際、このフランチェスカへと戻ってから体育の授業で疲れる
ことは無くなっていた。
 以前ならば、多少鍛えているとは言っても所詮現代っ子、僅かなりとも息が上がっては
いた。その頃と比べればそれなりに身体も頑丈になっていた。
 それが、今や俺の目的をいち早く達成するのに一役買っているのだからありがたいもの
ではある。
 そんなことを想いながら走り続ける俺の視界に二つの大きな人影が映り込む。
905 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(5/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:45:26 ID:GVWl+yk+0
「……ん? だ、誰だ!?」
「ぬふ、お主が北郷一刀であるな?」
「へ?」
 そこにいたのは白い髭を蓄え、先程街にいた女の子が着ていたような服装をした――。
「さ……サタン?」
「がははは! 我が美貌に対するあまりの驚きに呂律が回っておらぬわ!」
「え……いや……」
「我が輩は……そう、サンタクロースであるぞ!」
「い、いや……赤と白を基調とした服……白い髭……サンタの特徴は捉えているが……」
 何よりもさっきから俺の視線にちらちらと入りこむ白い布地……もとい、ふんどし。何故
か目の前の自称サンタクロースは先程の女の子同様、下のズボンは履いて居らずその
代わりに褌を締めていた。正直、気持ち悪い。
「これこれ、あまり漢女の股間を凝視するものではないぞ」
「こっちだって見たくて見てたわけじゃない……いや、それよりだ」
「む?」
「この辺に星が落ちてこなかったか?」
 目の前にある脅威……いや、驚異な変態を相手にしている時間がもったいないと思い、
俺は必要なことだけ聞くことにする。
 すると、変態は口端を吊り上げ渋い笑みを浮かべる。
「うむ、それならばまず間違いなく私のことだな!」
「…………いや、『漢女』って単語の時点で嫌な予感はしてたんだ……うん。まぁ、一応
聞くけど、外史やらなんやらとか、貂蝉とかの関係者ですか?」
「うむ、そのとおりだ。私はサンタクロース……もとい卑弥呼。貂蝉と同じ……いや、やつ
以上の漢女よ!」
「うげ……」
 さもありなんと言った様子で頷く卑弥呼に俺の気分が急降下する……出来れば漢女と
いう名の化け物には会いたくなかった。
「ちょっとぉぉおお! 聞き捨てならわねぇ!」
「む! もう来おったか!」
 突然、遠くから近づく地響きと叫び声……そろそろ警備の人間が来かねないのでは…
…そう思える程やかましい。
907 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(6/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:48:51 ID:GVWl+yk+0
 その人影に対して卑弥呼が構えを取る。相対する人影も瞳と思わしき箇所をギラリと鈍
く光らせて卑弥呼に飛び掛かった。
「ふんぬぅぅうう!」
「んふぅぅうう!」
 瞬間、辺りを衝撃波が襲う。二つの人影がぶつかり合ったことによる余波だった。俺もそ
の勢いに飛ばされ駆けるがなんとか堪える。
 そして、立ちこめる砂埃へと目を懲らすとそこには二つの影が何事もなかったかのよう
に立っていた。
「やれやれ……いきなり攻撃を仕掛けるとは……何を考えておる?」
「だってぇ〜卑弥呼ったら、わ、た、し、のご主人様に嫌らしい視線を送っていたから……」
「何を言う! た、確かに良い眼をしたオノコではあるとは思いはしたが……べ、別に我が
だぁりんに負けず良いオノコであるとはお、思ってなどおらぬのだからな! そこのお主も
勘違いするでないぞ!」
「…………しねぇよ」
 頬を赤らめながらビシッと指さされたのに対して俺の口から出たのは不満の声だった。
「それで……なんでお前がいるんだ貂蝉」
「んふぅ、今のわたしはピンクのパンティのト、ナ、カ、イさんよ。うふ」
「おげ……」
 言われてみれば貂蝉の頭には二本の角が生えている……が、どう見てもその容姿はト
ナカイではなく鬼だった。
「はぁ……それで、そのトナカイとサンタのクリスマスコンビが一体何の用だ?」
「んふふ……それはのう、良いオノコにクリスマスプレゼントを贈りに来たのであるぞ」
「そういうこと……もちろん、ご主人様もその一人よん」
 巨体である二人に挟まれ妙な威圧感を受けながら話だけはなんとか聞く。
「そ、そうなのか……で、一体俺に何を?」
「んふふ……それはね」
 貂蝉が微笑みながら卑弥呼に目配せをする。それを受け手卑弥呼が背後から妙に巨
大な袋を取り出した。
(い、今まで気付かなかった……)
 卑弥呼と貂蝉の存在感が強すぎたためかあり得ない程巨大な袋に俺は全く気付かな
かった。
909 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(7/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:51:57 ID:GVWl+yk+0
「というか……でかすぎだろ……何入れてんだよ」
「んふ、それは開けてのお楽しみよん」
「さぁ、開けるが良いぞ!」
 二人に促されるように俺は袋を縛っている紐を緩める……気のせいか先程からもぞもぞ
と中身が動いているのが怖い。
「ん……縛りが固いな……よっと……うし! ほどけた」
 そして、ついに袋を開けることに成功した。すると、中から複数の気配が俺の身体を捉
える。
「つ〜か〜ま〜え〜ま〜し〜た〜ぞぉ!」
「ひぃっ……って、星!?」
「久しぶりやな……一刀」
「霞まで……」
 袋から飛び出したのは一人の少女の運命を覆したことで俺が退場することになった外
史で共に過ごした少女たちのうちの趙雲こと星と張遼こと霞だった。
「また、主と呑みたくなりましてな」
「酒好きを舐めたらアカンっちゅーこっちゃ。にひひ」
「まったくだな……あははは」
 俺の知っている、"いつも通りの"笑みを浮かべる二人に俺も自然な笑みを浮かべる。そ
れでも三人の目尻には光るものがある。
 と、俺と共にそんな感慨にふける二人に続いてまだまだ人影が出てくる。
「もぉ〜せまぁい!」
「ちぃをこんなところに入れてただすむと思ってるのかしら……まったく」
「そ、それよりも二人とも目の前……」
「一刀ぉ!」天和と地和の声が重なる。
「よっ久しぶりだな……」
「一刀さん」
 瞳を潤ませた天和、地和、人和の三人に俺は手を挙げつつ声を掛ける。やはり一つ前
の外史にて出会った少女たちだった。
 張角、張梁、張宝の三姉妹……黄巾党の頭でもあった三人だ。
912 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(8/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 01:55:56 ID:GVWl+yk+0
「そっか……三人も来たんだな」
「うん、一刀に会いに来たの……」
「あと、天の世界でも歌で一番をとるためにね」
「まぁ、そういうことです」
「はは……そっか」
 どうやら、三人はこちらの世界でも歌でやっていくのだろう……きっとアイドルにでもなる
のかもしれない……その時にはマネージャーになるのもいいかも……そんなことを考え
てる俺の顔に誰かの足の裏がめり込む。
「ちんきゅーきーーっく!」
「ぐふっ」
「こら……め!」
「恋殿……しかし、こやつは恋殿を泣かせたのですぞ?」
「…………きっと、ご主人様も泣いたと思うから……あいこ」
「は、はぁ……というか、お前は何をにやついているのです! 気持ち悪いヤツです」
 懐かしのキックの感触に浸っていた俺に対してひどいことを言ってくる陳宮こと音々音
に恋のデコピンが炸裂する。
「あいたっ!?」
「…………だめ」
「むぅ……」
「まぁまぁ、それより二人ともまた会えて嬉しいよ」
「…………うん」
「ふん! 別にねねはそれ程でもないのです」
「そうか、二人は二人のままなんだな」
 僅かに笑みを浮かべながら二人の反応も仕方がないとも俺は思う。二人とは少なくとも
一つ前の外史ではしっかりと関係を築けていなかったのだから。
「ちょっと、速くしてよ! ボクたちが出れないじゃないの!」
「へぅ〜何だか目が回るよぉ、詠ちゃん」
「次は詠と月か……」
 いつも通りむっとした表情のまま出てくる賈駆こと詠と、酸欠のためか、はたまた入って
いた袋が動いた影響か眼を回している董卓こと月。
914 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(9/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:00:41 ID:GVWl+yk+0
「別にボクはあんたに会いに来た訳じゃないんだから……ただ、月と離れたくなかったか
ら来たんだからね」
「詠ちゃん……」
「いや、わかってるさ。詠が一番に思うのは月のことだってことくらいはさ」
 詠の言葉に僅かに衝撃を受けて顔を曇らせる。すると、詠が急に慌て出す。
「あ……いや、別にそんなつもりじゃ……ボ、ボクだって……あぁ、もう! そうよ、あんた
に会いたいと思ったわよ、バカ!」
「詠……」
「詠ちゃん……」
「そっか、ありがとな詠。そして、ごめんな月……約束守れなかった」
 そう、俺の中で心残りの一つだったのだ……月の元へ帰るという約束を守れなかったこ
とが。そして、それが申し訳なくて、何も言えなくなる俺に月がにこりと微笑む。
「ご、ご主人様が帰っていらっしゃらなかったからわ……ぐすっ、私の方から来ちゃいまし
た……えへへ」
「その……ただいま……で、いいのかな?」
「はい……私の元へ帰ってきてくださいましたから。ふふ」
「そっか……うん、ただいま。月」
「お帰りなさい、ご主人様」
 互いに微笑みあう。そして、そっと月を抱きしめようと俺が一歩踏み出すのと同時に詠
が飛び上がる。
「何してんのよ!」
「おぶしっ!?」
 ねねに蹴られたのとは逆の頬に蹴りを放たれた。
「え、詠ちゃん……?」
「まだ、先があるんでしょ……さっさと済ませなさいよ」
 そう言うと、二人の後から次の人物が出てくる。
「まったく、一刀……お前というヤツは」
「華雄……」
「たった一人しかいない私の真名を預けた相手が消えるとは、嫌味にしてはきつかったぞ」
「……それは、本当にごめん」
「まぁ、こうして再会できたのだ。それは潔く水に流そう……だが、この世界ではそう争い
もないのだろう?」
915 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(10/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:04:11 ID:GVWl+yk+0
「あぁ、そうだよ」
「なら、私の真名を呼んでくれ……その……わ、私が武人一辺倒である必要の無い世界
なのだからな」
「あぁ、わかったよ」
 照れくさそうに早口で述べる華雄を微笑ましく想いながら俺は彼女の真名を呼んだ。
「――――っ!?」
「どうした?」
「う、うるさい。なんでもないわ! わ、私の番はここまでだ!」
 急に声を荒げると華雄は俺の前から離れる。すると、今度は三つの影が露われる。
「あれ……三人?」
「一体、なんなんですのここは随分と雰囲気が違いますわねぇ」
「そうっすねぇ……なんか金のかかっていそうな感じですね」
「あ、どうもお久しぶりです」
「あぁ、これはどうも」
 物珍しげに辺りを見渡す文醜と袁紹を余所にぺこりと頭を下げる顔良に思わず俺も頭を
下げる。
「というか、何故ココに?」
「それが……あの後降ったのはいいんですけど。関係者の皆さんがどこかに行くと知りま
して……そしたら麗羽さまが『んまぁ、わたくしを置いて面白そうなことをするなど許せませ
んわ!』って駄々をこねまして……」
「あぁ……成る程」
 顔良の説明で成り行きはわかった。恐らく無理矢理ついてきたのだろう……なんという
か、これまでの感動が台無しな気分だった。
「まぁ、わたしたちはこの世界のことはよく知りませんのでよろしくお願いしますね」
「あぁ……よろしくな」
「あら、あれはなんですの?」
「言ってみましょうか」
「あ!? ちょっと二人とも! それじゃあ、これで。待ってよ二人とも、勝手にどこか行っち
ゃ駄目だよぉ〜」
「な、なんというか動じないなぁ……」
 別の世界に訪れたというのにまったく行動や思考が変わらない三人に思わず感心して
しまった。
917 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(11/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:07:15 ID:GVWl+yk+0
 と、俺が苦い笑みを浮かべていると袋から妙な声が聞こえてくる。
「う、ううぅぅうううう……」
「な、なんだ?」
 まるで地を這う怨霊のようなうめき声に思わず俺は後ずさる。
「うがぁぁああ!」
「うぉぉおお!」
 奇妙な叫び声を上げて飛び出したのは――。
「ぱ、白蓮!?」
「くそっ……あちこちぼろぼろだ」
 公孫賛こと白蓮だった……何故か体中に足跡が付いている。
「ど、どうしたんだ……それ?」
「いや、初めは他の連中同様袋の中に座るようにして並んでたんだがな……途中で位置
が乱れてな……全員の下敷きだ」
「うわぁ……」
 あまりに不憫すぎて俺の瞳からほろりと雫がこぼれ落ちる。と、そこまできて俺の存在に
気がついたらしい白蓮が全身を震わせ始める。
「か、かかかかかかか」
「Car?」
「一刀ぉぉおお!」
「うわぁっ!」
 俺のボケを無視して白蓮が胸へと飛び込んでくる。その瞳からはぼろぼろと涙が溢れ
出している。
「白蓮……また会えたな」
「うぅ……ぐすっ、そ、そうだな……」
「よかったよ……また会えて」
「あぁ、私もだ」
 俺たちの間にそれ以上の言葉は無かった。ただ、抱きしめ合い互いの存在を確認する
だけだった。
 それだけで、今は十分だった。
 そんな俺たちの背後から貂蝉と卑弥呼の声が聞こえてくる。
918 名前:「無じる真√N−If End ver.christmas」(12/12)[sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:12:18 ID:GVWl+yk+0
「ふふ……まさに聖夜の奇跡ってやつよ」
「Merry Christmasだな……がははは」
 二人の声に俺たちは振り返る。そこには、すでにどこかへ行こうとするトナカイとサンタ
の姿があった。
「二人ともどこへ?」
「まだ仕事があるのでな。この外史を見届けてくれた良きオノコたちの元へいかねばなら
ぬ」
「わたしたちからのクリスマスプレゼントを贈りに行くの……届け終わったらご主人様の下
へ帰ってくるから……それじゃ!」
 気がつけば二人は空へと待っていた。月光に照らされた二人はまさしくサンタクロース
とトナカイだった……なんてことはなく、やはり不気味だった。
 不気味な影を見送った俺の頬に冷たい者が触れる。
「あ、雪だ……」
 俺と同じように冷たいものに気がついた白蓮がそう口にしたのを聞きながら俺はある単
語を思い浮かべた。
「ホワイトクリスマスか……」
「どういう意味なんだ?」
「まぁ、直訳すると白いクリスマスだな……クリスマスについては」
「貂蝉から聞いたさ」
「そっか……でも、雪が降らなくてもホワイトクリスマスだったな」
「どういう意味だ?」
「だって、"白"蓮のいるクリスマスだからな」
「なるほど、違いない」
 そうして、互いに可笑しそうに笑い合う。もうすぐ、散っていた他の面々も集まるだろう。
「そしたら、クリスマスパーティーだ!」
 俺は内心でパーティーの開催を決めた。それはクリスマス……だけでなく、再会を祝し
たパーティーだ。



 そして、言おう、「メリークリスマス! 聖夜の奇跡にありがとう」って……。
920 名前:清涼剤 ◆q5O/xhpHR2 [sage] 投稿日:2009/12/26(土) 02:19:52 ID:GVWl+yk+0
以上で終了です。
こんな時間にお付き合い頂いた方々、どうもありがとうございました。

>>896
時差分のロスタイムが許されるということは
まだ漢女サンタが、このスレの方々を含んだ"この外史(SS)を見守ってくださった"
良きオノコ達の元へ行く可能性もあるわけですね。

では、これにて失礼します。

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