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265 名前:一刀十三号 ◆vgiLUhkT66 [sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:13:10 ID:NVEUyfydO
「お猫様。すいませんが曹操さんに用が有りますのでしばらく離れます」
「にゃー(分かったよ、行って来な嬢ちゃん)」
「それでは失礼なのです」
シュタ!!
「にゃー(洛陽かあ、久しぶりだな。しかしよく街中で水計なんか使ったよな、被害出さずに)」
「・・・じー」
「にゃー(嫌な予感退避!)」
「ぬー、何処かで見た様な馬鹿猫なのですが?」
トテトテトテトテトテトテ。
「にゃー(ふうビックリした、24桃香です)」
266 名前:三教一致 双頭の龍1-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:18:46 ID:NVEUyfydO
「ん?今、なんか光んなかったか?」
「さあ?大方、先遣隊でも来たんだろ」
「ああ先日通った。“孫呉決戦後の対蜀用の兵士、洛陽まで連れて行く”って任務受けていた、あれか?」
「ご苦労なこった」
その後、彼方に砂ぼこりが見え始めると、
「やっぱ先遣隊だな、おーい誰か!城主に先遣隊着の報伝えてくれー」
兵が城壁下に居る兵士に大きな声で知らせる。
後は城主が出迎えて一泊した後、見送ってこの集団と関わるのは終了。と、誰もが思っていた。
城主が遅いのか、軍勢が早いのか、次第に軍が城に迫る。
「城主様遅くねえか、誰かちゃんと伝えたのか先遣隊着いちまうぞ」
と、改めて軍勢を見てみると。
「おいおい、先遣隊であの規模かよ、だったら本隊はどうなっちまうんだ」
その言葉に一人の兵士が。
「ちょっと待て…確かに先遣隊にしては規模も様子もおかしい、確かに前衛は我が軍の甲冑の様だが。おい誰か元猟師のあいつを連れて来い」
ここにきて、ようやく緊張感が生まれ言われた兵士が城壁下に走っていく。
この間なんとも歯がゆい時間が過ぎる。
ようやく城壁下に元猟師の姿が見えると、
「走って来い!」
と叱咤が飛ぶ。
268 名前:三教一致 双頭の龍2-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:23:05 ID:NVEUyfydO
「悪い悪い。ちょっと野暮…」
「言い訳は後だ。迫っている軍勢を見てくれ」
目の良さから物見をしている彼は軍の識別も任されてる、声の質に重大さが伝わったのか城壁の縁に身を乗り出し目を細めて眺める。
同じころ迫り来る軍の前衛が旗を畳み新たな旗を出す、中衛・後衛は畳んでいた旗の紐をほどく、そこに一陣の風が吹くと総数約十五万からなる軍勢の緑の旗が翻した。
後日、それを見た一人の曹魏の兵は“若草の草原に見えた”と語る。
「なあ、いつからここ長安から先の我が軍の旗は緑になったんだ」
一人の兵士の不安が声という形になるが、元猟師の怒鳴り声で掻き消される。
「目の前の軍勢曹魏に有らず!敵襲ー!敵襲ー!劉備軍襲来!」
◇ ◇ ◇
(先日)
「…桃香様」
「何?雛里ちゃん」
「…あのですね、このまま長安に直進せずに少し時間がかかっても北西の道から…陳倉から来た様に見せ掛けて進撃すべきかと」
「雛里ちゃん、戦術的には有効かもしれないけど騙し討ちはしたくないな」
269 名前:三教一致 双頭の龍3-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:28:10 ID:NVEUyfydO
「…騙し討ちはしません、それでは桃香様やご主人様の風評に傷がついてしまいます…ですがある程度は動きは封じ込めなくてはいけません、特に伝令は確実に潰さないと」
「そうなの?」
「はい…ですのでここに以前の戦いで籠獲した…魏の旗と甲冑が有ります、これを前衛の皆さんに装備してもらいます」
輜重隊の一部から曹魏の甲冑や旗が出てくる。
「…またこの攻城戦、見た目は普通に攻めますが…普通では考えられない早さで、まさに神速にて城を落します
 …残る相手に精神的に打撃を与え、抵抗も無駄と思わせます…降伏する相手にはいつもの様に桃香様の大徳を持って受け入れ…間接的にご主人様を支援します」
「そっか私達の行動がご主人様を楽にするかどうかが掛かってるんだね、じゃあ皆〜頑張るぞー」
「「「オオー!」」」
◇ ◇ ◇
「おい!旗の文字は曹に有らず!劉だ!敵襲!敵襲ー!」
その言葉に士官が、
「敵襲!閉門ー!閉門ー!総員籠城戦用意ー!これは訓練に非ず!繰り返す!総員籠城戦用意ー!決して訓練なのでは無い!」
270 名前:三教一致 双頭の龍4-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:33:04 ID:NVEUyfydO
別の士官が、
「今の時点で遠遠距離走れる伝令馬を全部ここに集めろ、武・官・民問わずだ!新たに仕上げる必要はない、どうせ間に合わん。急げ!」
「敵の数は!」
「目算、およそ十三・四万、正確に数えればおそらく、約十五万でしょう!」
「くそ!都から外れた城になんて数だ!下に有る矢を全部城壁の上に運べ!後、火を炊け!煮湯も用意しろ!」
城内が蜂の巣を突いた様な状態になる。
しばらくした後、伝令馬を探しに行っていた兵士が帰ってくる、後ろには馬を引き連れた兵が続く。
「申し上げます!伝令馬ですが、軍5・官1・民2の計8です。またこの城において一番、二番目に速い馬が仕上がってました!これは行幸かと」
「うぬ」
報告を聞くや否や振り返り。
「右から八人、一歩前へ!」
ザッ…
「曹操様への伝言を伝える。“我ら、長安にて劉備軍に攻撃されたし、籠城にて堪える。”以上」
次の瞬間、二人が走っていた。
一人は選ばれた八人の一人、もう一人は選ばれなかった男だ。
選ばれなかった男も含めて二人に対し士官は、
「その二人に一番、二番の早馬を」
迅速を最優先とした。
271 名前:三教一致 双頭の龍5-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:38:10 ID:NVEUyfydO
残った伝令兵が、
「敵の規模とか、その他伝える事は?」
「ぐだぐだ喋ってる暇が有ったらさっさと出ぬかー!」
士官から見て緊張感の無い伝令兵に苛立ちを覚え怒鳴る、すでに先の二人は城門を抜けてた。
渋々に出る残りの伝令兵に対して、
「曹操様が呉に進行したこの時期に涼州からの増援の要、この長安への進撃、事の重大さが解らぬか。…………嘆かわしい。伝令兵が出たら東門を閉じよ」
士官の不満が口に出る。
一方、城壁上でも動きが有る。
「劉備軍より騎兵約500が突出、我が軍の伝令を狙ってます」
「手の空いてる!」
声を張り上げてから気付く、居るわけがない。
「弓隊!手を空けて構えろ!…………………打て!」
放たれる矢、だが命中はおろかかすりもしない、劉備軍の騎兵も万が一の為に直進を避け、僅かに曲線にした程度。
けれど今の曹操軍はこれでも戦果と思ってしまう、またはこれがきっかけで一人でも伝令が逃げおおせて欲しいと願う。
「八番駄目、七番駄目、…六番、四番共に補足、……五番駄目、…三番…駄目」
城から出た順に番号をつけらてた伝令の状況報告をする、元猟師の口から放たれる数々の凶報。
272 名前:三教一致 双頭の龍6-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:43:07 ID:NVEUyfydO
「しかし、一番、二番がここままなら活けるかと、いくら蜀の騎馬隊でも………!!」
◇ ◇ ◇
「こら〜待ちなさい〜」
戦場に響く可愛らしい声。
「なんだいお嬢ちゃん、子供はお家に帰りな」
「むっか〜馬鹿にしたでしょ、これでも馬岱って立派な名前が有るんだから」
「馬岱!」
名を聞いた瞬間に馬の速度を上げる、さも乗り潰すような速度に。
「へへ〜私の名前を聞いて速度を上げるとは少しは賢いようね」
男は無言で馬を走らす。
「つまんない〜、それにお前、任務の為とはいえ馬にそれは酷すぎる」
馬岱の声に怒りが混じり始めると。
「なんとでも言え、大事なのは任務だ」
「だから大事な任務の為に自分が囮になって先頭の伝令を逃がす訳」
ばれている!と、動揺するがなるべく面に出さない様にしてやり返す。
「なんだばれてるのか、だがどうする?お前の馬の疲れ具合じゃ、もう先頭の奴には追い付けないぞ」
その問に少しも表情を崩さずむしろにっこり笑って。
「ざ〜んねんでした。今頃、私のお姉様が先頭の奴に追い付いてるわよ」
「馬岱の姉………錦ば」
「隙あり!」
カハッ。
274 名前:三教一致 双頭の龍7-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:48:06 ID:NVEUyfydO
馬岱の槍が伝令の後頭部を殴打すると気絶して前のめりになる。
馬岱は、まだ走り続ける馬に寄り添って手綱を引く。
ヒヒッーン。
前足を上げ伝令兵を落としながら止まる、すると馬岱が自分の馬に跨がったまま伝令の馬に話かける。
「大丈夫…もう大丈夫だから……」
そのまま抱き寄せ、
「ごめんね、人間の我が儘で無茶させて………………落ち着いた?」
ブルルル。
馬岱の問に答える様に反応する。
「じゃあ、そこに転がってるあなたの乗り手だった者を載せて私の陣にいらっしゃい」
ヒヒッーン。
これまた問に答える様に反応するのだった。
「後はお姉様だけ」
◇ ◇ ◇
「二番も駄目か、しかしあの機転を利かせた囮はけっして…」
「悪いな無駄だ」
「!!」
いつの間にと思ったのだが、相手の馬の速度・技量を見て納得する。
「誰だ!」
「西涼が馬騰の娘、馬超とは私のこと」
「錦馬超!!」
スーッと剣を抜くと、
「どうせ無駄だが」
「悪いな、お前にあまり構っている暇は無いんだよ!っしゃおらぁー!」
276 名前:三教一致 双頭の龍8-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:53:10 ID:NVEUyfydO
馬上から大地に対し水平の槍の大振り、雷の速さに反応すら出来ず腹に受けた伝令はもろにぶっ飛んでそのまま近くの川に落ちる。
隙など突く必要すら無い圧倒的な実力の差を垣間見た瞬間だった。
「よっしゃー計算通り。じゃあ連れて帰るか…お前もな」
馬に話し掛ける馬超。
その後。あー、川は失敗だったかな。引き上げるのめんどくせー。と、ぼやいてた。
◇ ◇ ◇
「二番、一番共に捕縛」
伝令の全滅、この事実が曹魏に取って重くのしかかる、途中から前二頭に期待してしまっただけに落胆が大きい。
「何をしている、二・三日で先遣隊も来る、この時期に攻めこんで来た奴らに運も勝ち目も無い」
兵士達を鼓舞する士官。事実上援軍となる先遣隊の存在、更にその後ろには増援本体がやって来ることを思いだし士気が回復。
「劉備軍の一部が突出」
城壁上の兵は皆、その一部に注目する。
◇ ◇ ◇
「たっだいま〜、桃香様」
「お帰り、たんぽぽちゃん」
しばらく後、
「桃香様。今、戻った」
「お疲れ様、翠ちゃん」
「…そ、それでは桃香様、口上の準備を」
「わかった雛里ちゃん」
「護衛は私と鈴々、桔梗殿でよろしいか雛里殿」
278 名前:三教一致 双頭の龍9-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 20:58:04 ID:NVEUyfydO
「はい…それでよろしいかと」
「ありがとうね。星ちゃん、鈴々ちゃん、桔梗さん。では皆、行って来ます」
「「「いってらっしゃいませ、桃香様」」」
四頭の馬が突出する、城に声が届く辺りまで来ると停止し、下馬した四人が城を向く。
そして劉備が口を開いた。
「城の城主さんならびに兵士の皆さん、降伏をしてください」
いきなりの降伏勧告、聞き入れられる訳もなく無言の返答。
「曹操さんも最終的には世の平定を目指しているのは知っています。ですが、既に孫策さん、曹操さん、私と大まかな平定が出来上がっているのにもかかわらず、
 今現在、孫呉への曹操さんの進撃がどうしても納得が出来ません、曹操さんには曹操さんの理由も有るのでしょうが、いたずらに出撃をするのでは弱い人から倒れてしまう。
 曹操さんの覇道を止める為にも先ずはここ、長安から始めさせてもらいます。ですが無駄な血を流したくありません、もう一度言います。城主さんならびに兵士の皆さん降伏をしてください」
劉備の切なる願いは聞き入られず、開戦は必至。
がっかりしている劉備を先頭に四頭が戻る、更に各々が自分の陣に戻ると。
280 名前:三教一致 双頭の龍10-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:03:04 ID:NVEUyfydO
「よいか、手筈通りに動くのだぞー」
趙雲が叫ぶ。
「突撃!じゃあなかった、皆、雛里が言ってた作戦通りなのだー」
張飛が暴走しかけ。
「それ、おぬしら桃香様の前で男を見せぬか!」
桔梗が激を飛ばし。
「気合いを入れろよ、お前達!」
馬超は駆け。
「それじゃ皆、攻撃だよ」
桃香が指示を出した。
東門を抜かした城を囲む劉備軍から一斉に銅鑼と太鼓の音が鳴り響く。
ジャーン・ジャーン・ジャーン。
「ワワワワワワワワァァァァァ――――!!」
総数約十五万の総攻撃が始まった。
◇ ◇ ◇
「しかし、本命はどの門だ」
「本命?馬鹿か貴様、どれも本命ではないか。北は張飛に馬超。南は趙雲に馬岱。西に元首劉備を初め、厳顔・魏延・鬼才鳳統。
 数はどの一ヵ所ですら既に我が総数を上回る。向こうに無くてこっち有るのはせいぜい城壁と援軍のあて、あとは寝るのに屋根の有る家ぐらいな物だ。
 その気なればいつでもどの陣だろうと本命になるだろうさ」
「待て待て、苛立つのは分かるが喧嘩腰になるな、それに今お前が上げた三つ、そう馬鹿に出来んぞ。……
283 名前:三教一致 双頭の龍11-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:08:24 ID:NVEUyfydO
……
 特に最後、家が有れば家内が呼べる、家内が居れば旨い飯が食える、旨い飯が食えればやる気が出る、やる気が出れば敵襲の時でなければやれると来たもんだ」
「・・・・・フッ、わはははは…」
緊張を解した城主、実はこの城主かなり若い。
しかしこの若さで曹操に認められ長安の城主に任命されるだけのことはあるのか口先一つで皆の不安も掻き消した。
「では基本方針は籠城、決して討って出ない。先遣隊もとい、援軍が来たらその時臨機応変に、で良いな」
「「「応!!」」」
将の心は一致団結した。
◇ ◇ ◇
各方面の城壁上の物見兵が叫ぶ。
「敵、攻城部隊は梯子隊のみ」
「手押し櫓などの攻城兵器は無いのだな?」
「はい、櫓などはいっさい見当たりません。確認出来るのは梯子のみです」
「なら弓隊、敵梯子隊が城壁に梯子を掛ける為に止まったところを射よ」
各弓隊が了解の意図として無言で弓に矢をつがえる。
ジャーン・ジャーン・ジャーン。
劉備軍から盛大な銅鑼と太鼓の音が鳴り響くと、その全ての兵が動きだし迫って来た。
指揮官が合図を出す瞬間を見計らっている。
「まだだ、…まだだそ、……そろそろ絞れ」
285 名前:三教一致 双頭の龍12-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:13:20 ID:NVEUyfydO
北と南の物見の兵が指揮官の合図の邪魔をする。
「敵、矢の射程距離に入って来ません」
「なんだと!」
「依然として銅鑼は鳴り響いてますが攻める様子がうかがいしれません」
「攻めるふりか」
「ならば他の方面の援軍に」
「馬鹿野郎、そんなことしてみろ、たちまちここが攻められて落城だ。我らはここに待機、隙を見せるな」
そして残った西方面、弓隊もそろそろだろうと目星をつけていたが、
「敵、梯子隊止まりません。依然として全力で向かって来ます」
「何!弓隊放!」
慌てて射させようとするが。
ドスドスドスドスドスドスドス。
「ギャー」
「敵の弓隊です!」
「ええい構わん、梯子が先だ!弓隊目下梯子隊を狙う!再度!」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ、ガチン!。
「構…え?」
目の前に劉備兵が現れた。
◇ ◇ ◇
西方面劉備軍、前進しながら、
「…特殊梯子隊は前に実戦は初めてですが訓練通りにやればきっとうまくいきます…装備品の最終確認お願いします」
鳳統の呼び掛けに最終チェクが入る、特に梯子隊のチェクが厳しい。
287 名前:三教一致 双頭の龍13-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:18:06 ID:NVEUyfydO
「…ここから先、梯子隊の皆さん全力で駆け抜けてもらいます…その勢いで訓練通りに駆け上がってください…訓練通りならあまりの速さに弓隊の援護は無いと思ってください、では桃香様」
「ここに残る私が偉そうなことを言えないけど一人でも多く無事に戻って来て」
初めての作戦に少々緊張感が漂う。
「案ずるな絶大な援護を私と私の隊の意地と誇りに賭けておこなってやる。その間に登るがよい」
厳顔将軍の根拠の無い溢れる自信に何故か緊張が解れていく。
厳顔に寄り添った劉備が小声で。
「…ありがとうございます桔梗さん…」
同じ小声で厳顔も。
「…なに本当のことを言ったまでじゃ、礼を言われるものじゃない…」
「…それでもありがとうございます…」
再びお礼をのべる劉備。
「でわ気張らぬか、おぬし達突撃せい!」
厳顔の号令と共に突撃を開始する梯子隊。
「厳顔隊!梯子隊を支援する共に駆け足!焔耶よ、桃香様と雛里の護衛頼むぞ」
「お任せください桔梗様、桃香様と雛里殿はこの命に替えても守ります」
桃香の部分の声が一味違う魏延。
「…焔耶さん。西門が開いたら城内への突撃もお願いします」
「了解です、それまでは桃香様の護衛を」
289 名前:三教一致 双頭の龍14-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:23:02 ID:NVEUyfydO
そういうと劉備にピッタリくっつく魏延に。
「あはははははは…」
笑うしか手段の無かった劉備だった。
全力で駆け抜ける梯子隊に動揺する曹操軍に。
「反応が遅いわ!弓隊!その場で構わん、かまえ!日頃の訓練の成果とくと見せるが良い、放て!」
城壁上に矢が吸い込まれる、一瞬の動揺に立ち直り迫る梯子隊を攻撃しようとするが阻まれる。
「第二射かまえ!」
かまえた状態で待機する弓隊、だが二射目はいらなかった。
ガリガリガリガリガリガリガリガリ。
全力で駆け抜けた梯子隊は勢いそのまま梯子の先端を城壁に沿って滑らせる、さらには人が一人乗っているので重さが馬鹿に出来ない。
梯子の先端が上がれば上がる程、梯子を掴める人数が減るので最後の方の負担は著しい、なので始めの勢いと最後の方の梯子持ちは重要である。
だが上手くいけば、まさに神速で兵を一人城壁上に運べる上に先端の細工で縁に鉤が引っ掛かりおいそれと外せなくなる。
291 名前:三教一致 双頭の龍15-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:28:05 ID:NVEUyfydO
だが実戦は訓練と違う、城壁にたどり着く前に転ける班、重みに梯子を押しきれない班、登る時の振動に梯子から手を放してしまい墜ちてしまう者、勢い有りすぎて登った後手前に倒れしまう班、等か出てしまう、今後の課題だろう。
しかし全体として、七割八分は成功していた。
一瞬で登ってきた劉備の兵士に動揺するも兵の姿を見て曹魏の兵が笑う。
「お前等、丸腰でわざわざ斬られに来たのか」
曹魏の兵が言う通りに一見丸腰の劉備の兵、一斉に腰に手を伸ばすと黒い棒切れらしき物を取る。
「なんだ、その棒切れで抵抗か」
しまいには声に出して笑いだす曹魏の兵達。
すると一斉に利き手の棒を振る。
カシャカシャカシャカシャ、不思議な金属音と共に棒が伸びた。
「なんだあれは?棒が伸びたぞ」
「いちいち動揺するな!棒が伸びただけだ」
怒鳴る兵士も明らかに動揺はしているものの、その声に後押しされて攻撃にうつる。
「死ぬや!こら!?」
ガキン!
曹魏の兵士による文字通り殺す気での全力での降り下ろしを受け止めた棒。
「良し!平気だぞ!予定通りに防戦だ。自分の持ち場に着け!」
予め決められている自分の担当部所を守りだす。
292 名前:三教一致 双頭の龍16-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:32:05 ID:NVEUyfydO
「ええい!守りを固まらせるな!おそらくそこを中心に登って来るぞ!敵は攻撃出来ん、なんとしても突き崩せ!」
激しい攻防が始まった。
今、劉備の兵が使っている兵器は天の国で言う特殊警棒に当たる。
梯子で滑り登る際、刀の所持位置が問題視された。
手に持っては踏ん張れず、腰はなにかと邪魔、背中は登った後に取りにくい。
短剣では戦いに不利だと、誰かの発言に鈴々が。
『短剣が伸びれば問題解決なのだ』の一言に北郷一刀が閃いたらしい。
構造は単純なので多少の試行錯誤で完成、一番の不安は強度、大きさと重さの問題も有るが多少重くしてもなるべく頑丈に作る形になった。
それから実験を繰り返し武将の一撃でなければ耐える実験結果は出てた、そして今こうして本気で殺しにきた一般兵の攻撃に耐えたのだ。
「なにをしている!一気に突き崩せ!」
仕官達が焦りだす、そろそろ梯子を登っている後続が高さ半分を越えてる頃だろう。
登り着られたら事実上負けだろうと確信している。
「一層の事、押し落とせ!」
「無茶言わないでください、防戦に徹底されて厄介なんです、また時折来る攻撃が」
「ギャアアアアァァァァー」
294 名前:三教一致 双頭の龍17-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:36:06 ID:NVEUyfydO
男の悲鳴で会話が中断される、特殊警棒によるフルスイングを顔面に受けた結果だ。
「ご覧の威力です」
皮肉を込め答える。
その威力に攻め手がたじろぐと。
「俺もだ!」
と、前に出た兵が特殊警棒で突くと、カコン、カコ。
折り畳まれてしまう。
「死ねぇ!」
「うぐっ」
突いた兵士が斬られる。
「なにをしている“突くな”と、あれほど注意されたではないか!調子に乗るな!基本は防戦だ!後続はもうすぐだ!」
「不味い!なんとしてでも倒せ!」
ワアアアアアァァァァ―――
城壁の上は凄まじく、血で血を洗う様な状態だ。
まだ守られてない梯子を登ろうとする劉備軍に石・丸太・熱湯を降り注げ、引っ掛かってる梯子を外そうとする。
梯子に手をかけている守備兵には厳顔隊の矢が降り注ぐ。
お互い死に物狂いで距離ではない一進一退を繰り返す。
しかし意外に早く拮抗は崩れた、後続が続々と梯子を登りきったのだ。
後続の先頭の兵は梯子隊と同じく特殊警棒で武装、その場で待機。
続いた後続が前の兵の背中に背負っている剣を抜き背中を叩いく、それが出撃の合図で次は自分が待機。
295 名前:三教一致 双頭の龍18-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:40:43 ID:NVEUyfydO
さらに後続が前の兵の剣を抜き背中を叩く、以下繰り返し。
効率良く速度重視にした行動だ。
劉備軍に剣を装備した兵が揃いだすと防戦から攻撃に転ずる、攻める事で守られる梯子が増えればそこから後続が登り、その後続が頂上に達すればさらに攻め手が増える。
曹操軍にとって負の連鎖が始まる。
程なくして西方面は陥落寸前になっていた、門にまで劉備の兵が取り付きだしたのだ。
「…桃香様ご覧ください。既に西方面城壁の上はほぼ制圧、梯子隊・後続の被害は軽微…ほとんどが正攻法で攻めたにもかかわらずたった半日でここまでの戦果、過去に類を見ません。
 …ご主人様の天の知識素晴らしいです。焔耶さん、桃香様の護衛は充分です。そろそろ西門が堕ちます…桔梗さんと一緒に城内に攻め込む準備をお願いします」
「ですが…その」
劉備と離れたくない魏延は渋るのだが。
「頑張ってね、焔耶ちゃん。怪我の無いように」
「わかりました!桃香様!お前達、魏延隊は駆け足!」
「ああ…そんなに走ると後で疲れてしまいますよ〜」
が、既に魏延の耳に鳳統の声は届いていなかった、あるいは劉備がひき止めれば聞いたかも知れないが最早無理であった。
297 名前:三教一致 双頭の龍19-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 21:45:42 ID:NVEUyfydO
◇ ◇ ◇
「さて、そろそろ見に行くかな」
開戦してしばらくしてから戦場を覗くのがこの城主の行動パターンで有った。
開戦前の視察等はいくら“普段通りに・かしこまるな”と言っても無駄だからだ。
士官・下士官が緊張・または、自分の部隊はしっかりしていると見せたがり空気が張り詰めて肩に無駄な力が入る。
それではいざ戦う時、実力を存分に発揮出来ない。だから籠城戦に関してはある程度戦いが始まってから覗くのが定番化していた。
籠城戦に関しては始めからやれる事、やられる事なんかたかが知れている、乱戦中にひょっこり現れて的確な指示を出し、また消えれば良いと考えてる。
それまでは士官に任せればそれは士官の現場判断の育成にもなるのだしと。
だが今回はそれが完全に裏目に出た。
大広間を複数の部下と出ようとした時。
「西門!堕ちました!」
凶報が飛び込む。
「何だと!」
大広間の将校達に動揺が走る。
無理もない戦が始まりまだ半日も過ぎてないのだから、今までの常識からでは狂言の類いだ。
「間違いではないのか?」
念のために確かめる城主。
「残念ながら自分がこの目で……」
それ以上何も語れなくなっていた。
299 名前:三教一致 双頭の龍20-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:01:09 ID:NVEUyfydO
「城主様、城門が落ちては籠城戦を続行することは不可能です。降伏か逃亡を選ぶしかありません」
「降伏か逃亡か、不名誉な二者択一だな、ええ?」
城主は自嘲してみせた。
「降伏は性に合わん逃げるとしよう」
その台詞に水がさされる。
「悪いがそうはいかぬ、お主はここで大人しくなって貰うぞ」
「……厳顔殿のお出ましとは、いやはや私も立派になった」
「ほほう、お主。わしを知っているのか?」
「知っているもなにも。その得物に、良い女の将とくれば、益州にこのひとありと謳われた厳顔殿しかいませんよ」
「おやおや、嬉しいことを言ってくれる。だが手は抜けぬぞ」
「望むところですよ、貴女の相手を私がしてればそれだけ部下が逃げれる」
「なるほどのう、だがな“焔耶よ”居るか!」
「はい!ここに桔梗様」
「こやつが部下を逃がすと言っておる、相手をしてやれ」
「分かりました桔梗様。ではここは一つ逃げやすくしましょう」
魏延が手に持った得物で壁を勢い良く叩く、するとデカイ穴が空いた。
「ほら、出口を一つ増やしてやったぞ。好きに逃げるがいい、ただし追撃はするけどな」
301 名前:三教一致 双頭の龍21-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:05:26 ID:NVEUyfydO
一連の動作で片が付いた、その場居たのは殆んどが文官であり大抵の者が腰を抜かし動けなくなっていたのだ、城主直属の武将も少々居たがあえて分が悪すぎる賭けに打って出る猛者は居なかった。
◇ ◇ ◇
城内は混乱していた、一部で『城主が捕らえられた』の報も入り混乱に拍車がかかる。
確実に解っているのは西門が落ち城内に敵が雪崩れ込んで来てるのと、それに乗じ北と南も本格的に攻めてきた事、後はこの城が落城することだけだ。
戦いが無いのは東門のみ、続々と逃げて来た兵で溢れる。
「東門開けろー!責任は俺が取る、一人でも多く洛陽に落ち延びろ!馬に乗れるのであれば誰でも構わん乗れ!」
組織的動きはそこには無く、東門を出ても北と南の連携でほぼ包囲網が完成していた、攻め込むと見せ掛けての包囲網を作っていたのだ。
こうして長安の城が一日で落ちた。
『城主は捕らえられた、無意味な抵抗は止せと城主が言っている』と降伏を促すと城内で半ば意地で抵抗していた集団も次々と投降する。
城外の降伏を拒む集団が必死の一点突破で逃亡した。が、数は著しく少数になっていた。
303 名前:三教一致 双頭の龍22-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:11:35 ID:NVEUyfydO
◇ ◇ ◇
「桃香様…たった今、城内から伝令で城主を捕らえたとの事です。…これでおそらく城内で抵抗している勢力も次第に大人しくなるかと」
「分かったよ雛里ちゃん。じゃあ兵隊さん達に抵抗しなければ受け入れる様に、また住民への略奪・暴行等は厳罰を持って対処するって再度徹底して」
「いつも通りですね」
「そう、それに伴って住民には財産と安全の保証を宣言して」
「あわわ…桃香様に言うことを全部言われてしまいました」
「そう?」
「はい…桃香様の日々の成長、素晴らしいです」
「そんなこと無いよ、私はご主人様の真似をしているだけ」
「いいえ…他人を良く観察し良い所は取り入れて実際に活用する、桃香様の素晴らしい行動の一つです」
劉備を誉めながらも伝令にも指示だしている鳳統、それを見た劉備がため息。
「フッー、とりあえず一段落。第一目標はほぼ達成かな?」
「はい」
「そっか、天才鳳統先生のお墨付きなら安心だ」
「はひー」
劉備の言葉に顔を真っ赤にして帽子で顔を隠した鳳統に我慢出来ず飛びついた劉備だった。
304 名前:三教一致 双頭の龍23-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:16:03 ID:NVEUyfydO
◇ ◇ ◇
劉備の前に連れてこられた長安城城主、
「なんで縛られるんですか?」
縄に縛られることに怒っている様だ。
「いえ、念のための処置を」
「星ちゃん。桔梗さん、焔耶ちゃん、タンポポちゃんだっていて常山の昇り竜・趙子龍に燕人張飛、錦馬超もいるのに万に一つも有ると?」
「いえ、決してそんなことは」
「心配してくれるのは嬉しいけど、でも敬意をはらう人にはちゃんとした対応をしないと駄目だよ」
「桃香様、出過ぎた真似失礼しました。城主殿も失礼した」
そして縄を解く、劉備が城主に近づいて。
「ごめんなさい城主さん」
「構いませんよ、どうせ斬られる身です」
縛られいた手首を摩りながら答える。
「そんな斬りません」
「曹操様も日頃、勝敗は兵家の常とおっしゃっていますが。一日で、いや半日で城を落とされる不甲斐なさ、部下を助ける為にも曹操様に行動で示さないといけません。
 将一人で多数の部下が助かるのですから斬っていただかないと困るのですが」
まるで他人事のように言う城主。
305 名前:三教一致 双頭の龍24-24[sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:20:52 ID:NVEUyfydO
「そんなの関係有りません、今回の戦いは曹操さんのやや自己中心な考え方を止める為の戦い。しばらくは捕虜の形を取らせてもらいますけど、事が終れば貴方にはまた曹操さんの下に、
 その時はやってもらう事が山程ある筈ですよ。だからこんなところで死んでなんかいられないんです」
思ってもいなかった答に何故か笑ってしまう城主。
「分かりました、曹操様に斬られなければ帰還後は民の為に働きましょう、これは独り言ですが出会う順番が違ければ遣える相手もまた違ってたかも…」
「うん、その言葉だけで充分だよ、ありがとう」
満面の笑みで答える劉備。
こうして長安は城陥し、残る敵将による後顧の憂いも取り除けたようだ。
戦略上、絶対に落とされてはいけない拠点防衛の人員に、兵士五万・大将に王平・副将に周倉・軍師には李厳を配置して第一線の将は配備出来ないが、一歩引いたとしたのなら完璧な布陣を構えた。
こうして残りの劉備軍は進路を東に向けるのだった。
三教一致 双頭の龍(前半)終
308 名前:一刀十三号 ◆vgiLUhkT66 [sage] 投稿日:2009/09/21(月) 22:31:38 ID:NVEUyfydO
「ぬー、気になるのです。あの猫、なんか生皮を剥ぎたくなる様な」
「にゃー(ひー)」
「ぬぬぬ、なにやらこちらに気配が」
「にゃー(戦術的転進、撤退には有らずー)」
「おや?居ませんね、やはりなんかこう虐めたくなる様な?まあまだまだ時間は有ると思いますから真綿で首を絞める様に」
「ガクガクガクガク、にゃー(早く嬢ちゃんに合流しないと。後、応援&支援ありがとうございました、黄蓋隊は恐らくミスです厳顔隊だと、後で報告したす)」

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