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32 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/09/13(日) 16:56:48 ID:pWxq7Q5d0
投下予告します。

「また!?男だらけの恋姫†無双」第一話

・漢ルートの再構成外史です。
・一刀は無印後。
・便宜上、華佗の服装に、本編に無かった要素を追加しています。
・当然ながら、メインは男ばっかりです。

投下予定:14日夜9時から
予定レス数:21レス

ご支援よろしくお願いします。
65 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(1/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:02:49 ID:H1wsoPNF0
「流星………?近くに落ちたな……もし誰かが巻き込まれていたりしたら、怪我じゃ済まないぞ……一応見てくるか」

第一話:「一つ。病魔に侵され苦しむ人あれば、誰であろうと助けよ」

気がついたら、青空の下で寝ころんでいた。
………さて、これはどういう事だろう。
何をしてたかは、ちゃんと記憶にある。泰山での、左慈・干吉との決戦。干吉に投げられた鏡を受け止めて、それから……
「何思ったんだっけなぁ……」
俺がここにいるってことは、ここは多分、俺を基点にした外史だ。さっきからしてる土の匂いはいつも嗅いでいたもので、ここが中国大陸だと教えてくれる。
まあ、ずっと寝転がってても仕方ないし、取り敢えず近くの村か街でも探して、話を聞くか。
ここがどこでも、三国の都当たりに向かえば何かしら進展はするだろう。
そう考えて、体を起
「―っだだだだだ!!」
腰に走った激痛で、動きが止まった。
「……痛ったぁ。何だ?腰打ったかな…」
仰向けに反ってそーっと腰をさする。こうして触る分には問題は無いが、少しでも曲げようとすると痛みが走る。これじゃあ、起き上がれないな。
……どうしよう。見える範囲に村でもあるなら、そこまで這っていく、っていう選択肢もある。けど、ちらっと見た感じじゃ、ここは平原のど真ん中だ。道も出来てないってことは、ほとんど人も通らない場所だろう。
「半日も寝てれば治るかな…」
幸いにも日差しは春だ。日向ぼっこでもしながら多少でも楽になるのを待とう。贅沢言うなら、芝生の上が最高なんだけどな。
そう考えて目を閉じると、途端に睡魔が襲ってきた。決戦で精神が擦り減っていたんだろうか。
これからどうしようとか、ここがどこだとか。寝ころんでるだけなら考えれることはいくらでもあるけど。………取り敢えず寝よう。
「お休み」
誰に言うともなしに呟いて、意識を手放した。
66 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(2/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:05:16 ID:H1wsoPNF0


「おい、あんた。どうしたんだ?」
「………ぅにゃ?」
かけられた声で、目が覚める。
……誰だろう。愛紗か鈴々か朱里か。恋とか月とかかもしれない。いや、「あんた」だから詠かな?
睡眠欲に負けて閉じようとする瞼を擦りながら体を起
「―っだだだだだ!!」
……あ。
痛みで、寝惚けてた頭が覚醒した。
そうだった。腰の回復を待って寝てたんだったな。
「どうした、大丈夫か!?」
「?」
首だけ動かして頭の方を見れば、一人の男がいた。
歳は、二十歳ちょっとと言ったところか。髪は赤で、黒のノースリーブに白いマントのような服を合わせている。パッと見、かなり格好いい。
足元には、リュックサイズの箪笥らしきものが置いてあった。社会科の資料で見た、ちょっと前の置き薬売りの人が持ってる感じのヤツだ。
「どこか痛むのか?俺は医者だ、言ってみろ」
おお、医者か。助かった。完治は無理でも、痛みを和らげる薬ぐらいは持ってるかもしれない。
「腰がね……曲げようとすると激しく痛むんだ」
「腰か…ちょっと、うつ伏せになれるか?」
「曲げなきゃ大丈夫だと思うけど……よっ、と」
寝返りの要領で体を回す。あー、さすがにちょっと痛むな。
「服、捲るぞ。何箇所か触っていくから、痛いところがあれば、言ってくれ」
言って、男は俺の腰を指で軽く叩いていく。
言われた通りに申告していくと、いくつか叩いた後に、打撲、という診断が出された。どこで売ったっけな?鏡受け止めるまでは大丈夫だったし………まさか、この外史に落ちてくる時か?
「安心しろ。この程度なら、すぐに治るぞ」
男は自信満々に言って、腰横のケースから極細の金属を取り出す。
「鍼治療…?」
「ああ。鍼は初めてか?痛くないから、恐がらなくてもいいぞ」
歯医者が子供を宥めるみたいに言われた。……まあ、軽くビビったのは確かだけどさ。理屈は分かっても、納得できない治療ってあるよな。
67 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(3/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:10:17 ID:H1wsoPNF0
「じゃあ、いくぞ。―――はあああああああああああああああっ!」
「!?」
な、なんだ!?治療するんじゃないのか!?
「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒……病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇっ!」
物凄い気合いと共に、鍼が刺される。……あー、ホントに痛くないや。痛点を避けて刺すって話は本当なんだな。
「…………病魔、退散!」
言い放って、男は鍼を拭い、ケースへ戻す。
うん。凄く絵になる。映像にしてもカッコいいだろう………鍼治療のはずだ、ってとこに目を瞑れば。
「さあ、これでもう大丈夫だ。動けるようになったはずだぞ」
「え?」
まさかそんな。
それはさすがに早すぎだろう。そこまで万能なら、21世紀の世で鍼がもっと広まって――
「えぇ!?」
試しに曲げてみた腰は、全く痛みを発しなかった。
仰向けになって、上体を起こす。
「凄い……!」
完全に治っている。
「ありがとう、助かった!あー……ええと」
そういえば、名前聞いてなかったな。
「ん、ああ名前か?俺は華佗。五斗米道の教えを受けた、流れの医師さ」
「華佗……五斗米道……」
確か、物凄い医者じゃなかったっけか?医者の地位拡大のために曹操に仕えて、でも、待遇が気に入らなかったから出奔して……とか、そんな感じの。
「違う!」
「え?」
俺、何か口に出したか?
「五斗米道じゃない!五斗米道だ!」
……………………なんだって?
69 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(4/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:15:22 ID:H1wsoPNF0
「あー、五斗米道?」
「違う!五斗米道だ!」
「……五斗米道?」
「五斗米道だ!」
難しいな。
「悪い、もう一回、ゆっくり言ってくれないか?」
「いいぞ、よく聞け。五・斗・米・道・だ」
「あー………」
これって、どことなく「天」の言葉遣いの方が表記あってないか?
「えーと、ゴットヴェイドォー…か?」
横文字意識して発音した途端、華佗は満面の笑顔で頷いた。
「完璧な発音じゃないか!……えっと」
あ、こっちも名乗るの忘れてたな。
「北郷一刀だ。一刀でいいよ」
「じゃあ、遠慮なく一刀と呼ばせてもらうぞ。…ところで、一刀。一つ訊いていいか?こんなところで何をしてたんだ?」
あー…………どう説明するかな。
まともに外史云々から説明するなんて出来る訳ないし、そこ抜いて話すとなると「三国の軍隊率いて、世界の破滅を目論む連中と戦ってて、気付いたらここにいた」か?……どんな電波だ、それ。
そもそも、この外史が今時系列でどの時点にあるのかが分かんないしな。華佗がいるってことは、三国志の時代なんだろうけど、それにしたって何年も期間はあるし。
大雑把に「これ」ぐらいは確認しとくか。
「――その質問に答える前に、こっちから質問いいか、華佗?『天の御遣い』って噂は聞いたことあるか?」
「『天の御遣い』?いや、そんな人の話は知らないな」
「――――そっか」
となると、早くても反董卓連合前辺りか、もしくは、その噂自体が無い外史か。貂蝉達から聞いたことから推測すれば、どんな外史があってもおかしくないしな。
71 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(4/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:20:25 ID:H1wsoPNF0
まあ、悩んでても仕方ないし、こういう時はどうしても話せないことだけ隠して、後は正直に言うのが一番だ。助けてくれた相手に嘘言うのも悪いし。
「ごめん。何してたか分かんない」
「分からない?どういうことだ?」
気付いたらここで寝転がっていて、その前の記憶が無い、と話すと、華佗は顔を顰めた。
「記憶喪失か。こればっかりは鍼で治るものでもないし……。一番新しい記憶では、どこにいたんだ?」
一番新しい、となると……
「えーと、泰山」
「泰山!?」
かなり驚かれた。
……ここって、そんなに遠い所なのか?
「遠いなんてもんじゃないぞ!郡をいくつ跨ぐと思ってるんだ。馬を使ったって、何十日もかかる。そんな長い間の記憶が無いなんて…」
いやー……多分、一瞬だと思うぞ?で、外史を跨ぐ時に記憶が乱れた、って感じかな?素人考えこの上ないけど。
と、華佗が何かを決意した様に頷いた。
「一刀。この先、何か当てはあるのか?」
「いや、何もないね。取り敢えず、路銀稼ぎながら大きな街に行く、ぐらいかな」
「そうか。なら、一緒に来ないか?医者として今の一刀は放っておけないし、幸いに、俺も大陸の中央を目指してるんだ。安直だが、大きな街と言えば洛陽だろう。方向は合ってる。何より、旅は道連れだ。一人よりも、二人の方がいい。どうだ?」
華佗と一緒に、か。うん、ありがたい。記憶喪失って思われてる部分は、どこかで帳尻合わせればいいし。
「それは助かるよ。よろしく頼む、華佗」
「ああ、任せておけ!」

72 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(6/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:25:42 ID:H1wsoPNF0
取り敢えず、今日中に華佗が向かう予定だった村へ向かいつつ、今後を相談、ということになった。
ちなみにここは、漢中らしい。そりゃ驚かれるか。泰山からじゃ、単純計算でも何百キロの距離だ。
「へぇ、医者としての修行の旅か」
「ああ。まだまだ未熟な身だからな。色んな街を回って、たくさんの患者を治して。最近じゃ、結構有名なんだぜ?」
誇らしげに、華佗は笑う。
やっぱり、「華佗」は名医な訳だ。
「まあ、それだけの旅、って訳でもないんだがな……」
「ん?どういうこと?」
一人ごちた感じの小さな言葉だったけど、聞こえてしまった。
表情も少し暗かったし、気になって訊く。
「ああ、聞こえちゃったか……そうだな。一刀は、『医者』って職業をどう思う?」
「そりゃ、凄いと思うぞ。知識だってたくさん要るし、人の体を見るんだから責任重大だし」
日本じゃ、国立レベルの大学に入って6年みっちり勉強して、そこから研修医として何年も、それでようやく、って職業だしな。
「そうだよな……そう思ってもらえるのは嬉しいけど、俺はそれを変えたいんだ」
「………どういうことだ?」
ロクでもない様に思われててそれを改善したい、ならともかく、「凄い」って思われてるのを変えたいって、評価を落としたいってこと?
「医者ってのは凄くて偉くて金持ちで、客は役人や大店の店主ばっかり。そう思われてるってことだ」
ああ、なるほど。
医学も薬の生産制度も発達していないこの時代じゃ、病気ってのは本当に大事だ。結核が致死の病だし、破傷風程度でも抗生物質打ってお終い、と言う訳にはいかない。
それを治す医者が権力も財力も持つのは当然だろう。
華佗は疲れた様に息を吐くと、話を続ける。
「確かに医者としての知識・技術を身につけることは大変で、それを軽視してほしくはない。薬だって、効果を高めようとすれば自ずと高価になる。懐に余裕のある人は、軽度の体調不良でも診察に来ることも認める。
――だけど、俺達は金持ち相手に商売がしたくて医者になったんじゃない。病魔に侵されている人々を助けたくてこの道を選んだんだ」
お金のためじゃなく、人のために。苦しむ誰かを助けるために。
「『医は仁術』ってやつか」
75 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(7/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:30:18 ID:H1wsoPNF0
「ああ。だから……なんて言うかな、医者ってのは人を助ける職業で、患者に貴賤はないってことを知ってほしいんだ」
まあ、同時にお金の無い人達が安心して診てもらえるような仕組みも作らなきゃならないんだけどな、と小さく笑って華佗は言う。
「それは……」
はっきりと、無茶だ、と言った方がいいんだろうか。
そこまでいけば、法整備の領域になる。三国志の時代の漢王朝じゃ、そんなことをする力も財力もないだろう。どこかの国が大陸を統べるのを待っていたらどれだけかかるかわからないし。
口籠った内容を察してか、華佗は言う。
「大きなこと言ってるってのは分かってる。それでも俺は、この大陸に平安を齎したいんだ。……ま、今は旅先で会った医者に頼むのと、自分で実践する以外はないけどな」
気負った感もなく、取り繕った感もなく。
人類史に残る偉業を達成した人ってのはこういうヤツなんだろうな、と思える姿だった。
と、気恥ずかしそうに頭をかいて華佗は笑った。
「悪いな、一刀。初対面の相手に、何話してるんだろうな、俺」
「んー。別に気にすることないんじゃないかな?」
前回はもっと大きなこと言われたし。「天の御遣い」名乗って大陸を救う手助けを、ってね。
「そうか。―――どうも、一刀を見てたら、なんとなく言いたくなったんだ。……そうだ一刀、お前医者を目指してみないか?患者が言いにくいことを安心して言える空気ってのは、医者にとって貴重なものだぞ?」
「それこそ、無茶言うなよ。なんの勉強もしてない奴がなれるほど、甘い職業じゃないだろ?」
「なに、俺が教えるさ。――ああ、もちろん記憶喪失の治療が最優先だけどな」
うーむ、それもいいかもな。俺みたいに誰かがこの外史に流されてきてるならともかく、武も学もないただの学生一人じゃ、この先何ができるかわかんないし。
華佗と一緒に、流れの医師、か。
「ま、考えとくよ」
即答することでもなし、今後の事はゆっくり考えよう。

76 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(8/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:35:21 ID:H1wsoPNF0
そんな風に、適当に雑談しながら村が目視できるところまで来た時だった。
「―――!」
村を見て、華佗が急に走り出した。
「お、おい!」
慌てて俺も続く。
「どうした、華佗!?」
並走しながら訊く。
「――襲われていた」
「襲われ……って、あの村か!?」
「ああ。壊された家屋と、倒れている人達が見えた。おそらく、盗賊に襲撃された後だ」
その発言に舌を巻く。
前方に村が見える、と言っても、まだ何軒か家があるな、程度しか俺には分からない。この距離でそこまで見えるって、どんな視力だ?
「ちょ、ちょっと待てよ!盗賊って、今現在襲われてる最中ってことは―」
「それはない。それなら悲鳴や馬の鳴き声が聞こえるはずだ」
ああ、なるほど。
「盗賊に襲われたってことは、怪我人が出てるはずだ。重軽にかかわらず、傷の手当ては少しでも早い方がいい」
それでいきなり走り出したのか。
「先に行くぞ、一刀。お前は後から来てくれ。腰を痛めてたんだ、無理しない方がいい」
「え?」
こっちの返事は聞かず、華佗は走る速度を上げる。
うわ、あんな重そうな薬箱背負ってるくせに、なんて速さだ。
「くっそ……」
制服のボタンをもう二つ外して、首元を楽にする。
見縊るなよ。目の前に怪我人がいて、旅の連れがその人を助けようと走ってるのに自分だけトロトロ歩いてられるか。

77 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(9/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:40:18 ID:H1wsoPNF0
十mほど先行している華佗に続いて、村へ入る。
「……酷いな」
乱れた息も気にならず、目の前の光景に眉を顰めた。
戸や壁が破られた家屋。散乱した穀物や野菜。イナゴが食い散らかした様な有様の露店。
そして、傷ついた人々。
ぎり、と自分の奥歯が鳴った音が聞こえた。
ああ、なるほど。こんな光景を見せられて自分に力があれば、誰だって大陸を救うという夢を抱くだろう。
と。
「あんたら旅人か…?」
村の入り口のすぐ横に座り込んでいた男に声をかけられた。
そばに鞘に入った剣が置いてあるところを見ると、自警団の人間だろうか。怪我をしているらしく、頭と左二の腕から血を流していた。
「運の悪い時に来たな。見ての通り、黄巾党の連中に襲われた後だ。まともなもてなしはできんぞ」
「そんなことは別にいい。それよりアンタ、この村の村長に会えるか?」
喋りつつ、華佗は薬箱から軟膏らしき瓶と、包帯を取り出して、男の手当てをしていく。
「………あんた、ひょっとして…」
「旅の医者だ。……よし、これでいい」
軟膏を塗り、小刀で包帯を切って男の腕にしっかりと縛り付ける。
「痛むと思うが、重いものを持たなければ大丈夫だ。早ければ十日ほどで包帯が取れるだろう。それで、村長には会えるのか?」
「…こんな状況だからな。ろくな対応は出来んと思うが、それでも良けりゃ好きに会うといい。この通りを真っ直ぐ行った、『黄々』っつう酒家の次の家だ」
「分かった、ありがとう」
立ち上がって薬箱を背負う華佗に、男は言う。
「……悪いが、見たままの小さな村だ。治療してもらっても、お医者様にお渡しするような金はねぇぞ?」
「心配しなくていい。食事と宿と、路銀だけもらえれば、それでいいさ」
「………は?」
華佗の言葉に、男はぽかんと口を開けた。この反応が、華佗が変えたがってるものなんだな。
「『黄々』の次の家だな?行こう、一刀」
「あ、ああ」
口を開けたままの男を置いて歩き出した華佗に続いた。
78 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(10/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:45:04 ID:H1wsoPNF0
宿と今日明日(怪我人の状態によっては必要なだけ)の食事を二人分、別途でもらう路銀と合わせても格安だろう報酬。
華佗の出しだ条件はそれだけで、村長さんは即座に承諾した。
「本当に、ありがとうございます」
深々と頭を下げる村長さんに、華佗は照れたように笑った。
「止してください、まだ俺は何もしてないんですから。それよりも、調達してほしい物があるのですが…」
「なんでしょうか?」
「重傷者を寝かせられる広さのある建物が必要です。それと、あれば包帯を。無ければ、白い清潔な布を一寸半程度の幅で切って作っていただきたい」
「了解しました。家は、我が家をお使いください。包帯は、動ける者に作らせましょう」
お願いします、と頭を下げる華佗に一礼して、村長さんは玄関から出ていく。包帯作りの指示に行ったんだろう。
「足りないのか、包帯?」
「いや、念の為だ。人数や傷の度合いによって必要量はかなり変わるし、余ったら常備しておいても困るものでもないしな」
なるほどね。
「………しかし、華佗もそういうの使うんだな」
ポツリと漏らしたら、笑われた。
「どういう意味だよ。俺は医者だぞ?」
「いや、なんか、全部鍼刺して終わりーって感じがしたからさ」
出会った時も、湿布だの塗り薬だのは使わなかったし。
「そんなことはないさ。たしかに、それができれば最良なんだが、鍼で出来ることは少ないしな。まず、傷が塞げない」
「あ、そっか…」
そこまで行ったら、さすがに魔法だ。
「傷の治りを早めたり、傷口から病魔が入り込むのを防いだり。鍼が効果を発揮するのはそういう部類で、傷自体は薬を塗って包帯を巻いて、塞がるのを待つしかないんだ」
80 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(11/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:50:17 ID:H1wsoPNF0
よし、と薬箱を背負って、立ち上がる華佗。
「包帯を待ってても仕方ないし、行こうか一刀」
「え、どこに?」
「どこって……患者のところに決まってるじゃないか」
「こっちから行くのか?」
てっきり、ここで運ばれてくるのを待つんだと思ってたんだけど。そのためにわざわざ村長さんに先に会ったんじゃないのか?
「それだと人手が足りないし、なにより大変なことになる」
大変なこと?
「医者が複数人いるならともかく、この村にいるのは俺一人なんだ。俺が出向いた方が―」
と。
華佗の言葉を遮って、乱暴に戸を叩く音がした。
「ん?」
村長さん……じゃ、ないよな。ここ自分の家だし。
「誰です―」
―か、と言い切る前に、外から戸が開けられた。同時に、何人もの人間が駆け込んでくる。
「な、なんだ!?」
見れば、腕や足に怪我をした村人達だった。華佗の話を聞きつけたのか、村長さんが言ったのか、華佗が目的だろう。
彼らは華佗を取り囲み、言う。
「お医者様、私を治してください!」
「俺を診てくれ!」
「なに言ってんだ、俺が先だ!」
自分勝手に、自分の事を。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!ちゃんと全員治療するから落ち着いてくれ!」
華佗がそう言っても、村人達は聞く耳を持たない。我先にと華佗に傷を見せて、治療してくれ、と繰り返すだけだ。
「これのことか…」
華佗の言ってた「大変なこと」が理解できた。
ついさっき黄巾党に襲われて、死ぬ思いをしたんだ。傷を負って、さらに医者が来たと分かれば、安堵感でパニックになるのも頷ける。
81 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(12/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 21:55:10 ID:H1wsoPNF0
ただ、問題はパニックそのものじゃない。このパニックで華佗が身動きが取れないことだ。
押しかけてきた人達は、華佗が治療するまで動かないだろう。そして、それを治療している間にも、話を聞きつけた人が次々にこの家に来るはずだ。
たしかに、怪我人の治療はそれで出来る――軽傷者の治療は。
今すぐに華佗の治療が必要なのは、ここまで自力で来れないような状態の人達だ。
だからこそ、華佗は自分から出向こうとしていた。
つまりこのままでは、治療が遅れて亡くなる人がでてくる――。
「そんなことになっちゃ駄目だ……!」
なら、どうする?
事情を説明するか?―――駄目だ、華佗の制止も聞かない人達が俺の言葉を聞くとは思えない。
華佗にむりやり行かせるか?―――それも無理だ。一旦は自由になっても、この人達はまた華佗を追いかけていくだろう。
……ということは、今ここにいる人達を何とかすればいい訳だ。
その為に何が出来る?
ヒントが欲しくて、華佗を囲んでいる人達を見る。
「……ん?」
一個気付いた。本当に、全員が軽傷と言っていい部類の怪我だ。華佗じゃなくても十分な治療が出来る程度の。
「…って、そりゃそうか。そうじゃなきゃここまで来れないっての」
……あれ?でも、それなら。

「………『華佗じゃなくても』?」

あ。そうじゃないか!そんな簡単な方法がある。
保体の授業。毎年の講習。鍛練中に学んだこと。全部思い出せ。
『華佗じゃなくても』―――俺の知識で出来ること。
「よし…!」
じゃあ、久しぶりに。後輩に喝入れるとしますか。
83 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(13/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:00:19 ID:H1wsoPNF0
「華佗!」
「だから、待ってくれって言ってるだろ――――何だ、一刀!」
「薬と包帯、少し借りるぞ!」
「え?おい、何する気だ!?」
返事は無視だ。悪いけど、ここで一々説明するよりも、実践した方が効果がある。
薬箱から、傷薬と包帯を四割程ずつ取り出す。
「次は、と…」
あの人でいいかな。
華佗を取り囲む人達の中から、一番軽傷そうな人に目星をつける。右腕に、横向きに斬られた傷のある中年の男の人だ。
「ほら、こっち」
「な、なんだよお前!?」
無視。
左手を取って、無理矢理華佗から引きはなして座らせる。
「なんだよ、お医者様に診てもらいに来てんだから離せガキ!」
「うるさいな。いいから右手出して」
傷が開かないように二の腕を持って、強引に右手を引っ張る。
「痛たたた!何すんだてめ――」
「煩いって言ってるんだよ!!死ぬような傷じゃないんだ、大の大人がこの程度で騒ぐな!!!」
皆まで聞かずに、全力で一喝。それで男の人を気圧して黙らせる。経験上、騒ぐ怪我人を黙らせるにはこれが一番だ。
剣道経験者舐めるなよ。怒鳴り声の大きさなら普通の人には負けない。
男の人がまた口を開く前に、傷口に薬を塗って布を当て、包帯を巻く。
あとは……これでいいかな。
近くにあったいい感じのサイズの木片に布を巻いて、男の人に渡す。
「これを……そうだな、一刻ぐらい右の脇に挟んでおいてください」
「……あ、はい」
素直に頷かれる。まだ、怒鳴ったショックから抜け出せてない様だ。
「よし、次。そこの頭怪我してる女の人、こっち来て座ってください」
今の内に淡々と治療を進めよう。
85 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(14/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:05:05 ID:H1wsoPNF0
「……一刀、お前……医術の心得があったのか?」
「そこまでたいしたモンじゃないさ。精々が応急処置程度だ」
この程度のものなら、大抵の体育会系部活の出身者なら習得してる。
まあ、この人達の手当てならそれで十分な訳だが。
「自力で手当てを受けに来れる人は、俺がここで受け持つ。華佗は重傷者の方に行ってくれ」
治療遅れでの死者なんて、出させるもんか。
「―――ああ。ここは任せたぞ、一刀!」
笑顔で頷き、華佗は薬箱を背負って外へ駆け出ていく。
さて、取り敢えず当初の目的は達成、と。
俺じゃ応急手当にしかならない人は華佗の方に行ってもらえばいいし、俺で十分な人はここでやればいいし。
「ああ、そうだ。いろいろ要るな」
さっき治療した男の人を呼ぶ。
「なんでしょう?」
あ、敬語になってる。俺のこと、医者だと思ってるのかな?
「左手と足は問題ないんですよね?」
「へぇ。怪我してたのは、右腕だけですが…」
「じゃあ、申し訳ないですけど井戸から水を汲んできてもらえますか?傷口を洗うのに必要なんです」
「分かりました。行ってきます」
ついでに、村長さんの家で手当てが受けれる、と喧伝してもらうことも頼んだ。
今手当てが終わった女の人には、手当てを受けに来る人達の整理を頼む。
こうしておけば、華佗は重傷者に専念しやすくなるはずだ。
「よし、じゃあ……やるか!」

89 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(15/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:10:27 ID:H1wsoPNF0
「だあーー、終わったぁ!」
最後の患者さんが出て行ったのを確認して、万歳からそのまま床に倒れ込んだ。
「お疲れ様です」
「あー、うん。お疲れ様です」
怪我の程度が軽くて、治療が終わってからそのまま雑用をしててもらっていた人達の労いに答える声も疲れていると、自分で分かった。
何人もの怪我の手当てってここまで疲れるのか。
妙にテンションが上がってた最初の五人ぐらいは何も感じなかったけど、そこからは物凄く大変だった。主に気疲れが。
いくら薬塗って包帯巻いての繰り返しだけと言っても、人の怪我の治療ってのは思ったよりも気を遣った。患者の方も、俺が医者だって信じて疑わないからそのプレッシャーもあるし。
「……っと、そうだ。華佗はどうしてんだろ?」
まだ戻ってこないってことは、それだけ患者さんが多いのかな?
手伝いに行くか。
治療のサポートは出来なくても、雑用ぐらいならやれるし。
残った薬瓶と包帯を集めて立ち上がる。
村長宅を出て、少し行った辺りに人混みを見つけた。あれがそうかな?
「おーい、華佗ー?」
声をかけつつ、覗き込む。
華佗は、半円の人垣の中心で誰かともみ合う感じで立っていた。
「―――一刀か!?ちょうどいい所に来た、この人を抑えててくれ!」
「え、えぇ?」
痛みで暴れてる患者さんとかならともかく、どんな状況なんだ?
「いいから早く!!」
「お、おう…!」
勢いに押されて、華佗が止めている人を後ろから羽交い絞めにする。うわ、この人短剣持ってる。
「くそ、離しやがれ!」
抑えた相手が叫びつつ暴れ――ってこの声、この人入り口で会った自警団の人か?
「おい、華佗―」
「いいから絶対に離すなよ、一刀!」
「???」
ホントにどういう状況なんだ?
91 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(16/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:15:41 ID:H1wsoPNF0
不思議に思って、自警団員の肩越しに華佗を見る。と、さらにその後ろに、倒れている人がいた。
頭に巻いているのは、黄色い布。
「くそ、ふざけんじゃねぇぞ!何でそいつを助けようとするんだ!?」
自警団人が叫ぶ。
「そいつは、この村を襲った連中の仲間だぞ!俺の村の人間を傷つけた野郎を、何で医者のアンタが助けるんだよ!?」
どうも、華佗は黄巾党の仲間を治療しようとしているらしい。そこをこの人が見て、って感じか。
「何でも何もないだろう。この人は怪我をしている。放っておけば、確実に死ぬぞ」
「……あ」
黄巾党の右腕は、肘から先が無かった。二の腕を紐できつく縛ってあるらしく、出血は少ないが、今すぐ治療が必要なことに変わりはない。
「それがどうしたよ!俺の怪我も、村の連中の怪我も、そいつらがやったことだぞ!?アンタのおかげで死人こそいないが、こんなことした連中を治すって言うのかよ!?」
「ああ、そうだ」
短く言って、華佗は黄巾党の方を向く。
「手前ぇ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
俺の手から逃れようとする体を、全力で止める。怪我で体力が落ちていても、さすがは武人側の人間と言ったところか。
と。
「……そいつの言うことが正解だぜ。俺なんか助けても、なんの得にもならねぇぞ?」
気絶していると思っていた黄巾党が、口を開いた。
「――驚いたな、話せる気力があるのか」
「ああ。ま、死にそうだがな」
呼吸は荒いし、顔は青ざめてるし、どう見ても空元気にしか見えない。
冗談になってないぞ、それ。
「で、おいお医者さまよ。何で俺なんか助けるんだ?俺ぁこの通りの悪党だ。助けたって何の得も無いぞ?」
「……四回以上、人を傷つけたか?」
「ハッ、桁が一個違うぜ……」
「そうか……じゃあ、傷が癒えたらその罪は償ってもらう。今は大人しく治療を受けろ。もう話すな、体力を消耗する」
93 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(17/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:20:11 ID:H1wsoPNF0
「なっ、馬鹿か手前ぇ!俺を助けても得なんて無ぇって――グゥッ…!」
やはり傷が痛むのか、男は苦しそうに身を捩った。
「話すなと言っただろう。それに、俺は損得のために医者をやってるんじゃない」
一息、区切るように華佗は息を吐く。
「そこに傷つき、倒れ、病魔に侵されている人がいるのなら、俺はそれが誰であろうと助ける。患者には、男女も老若も貧富も貴賤も、善人も悪人も無い。そこにいるのは、助けなくちゃならない人だ。お前も、あの人も、患者に優劣はない」
それは黄巾党に言い聞かせているのと同時に、華佗自身への宣言なのだろう。医術で大陸を救うと決めた、己の心への。
「――――ち」
「―――くっそ」
華佗の言葉を聞いて、黄巾党と自警団員、両方がほぼ同時に諦めたように舌打ちをした。
「――分かったよ、回復したら罪は償う。だから……治療してくれ」
降参、という風に左手を上げて言う黄巾党。
「……なら、この場じゃ手は出さん。その代わり、役人が来るまで村で拘束させてもらうぞ。―――アンタも離してくれ」
その言葉を聞いて、自警団員も大人しくなった。
言われた通り、羽交い絞めていた手を離す。
「……けど、華佗。治せるのか、それ?」
焼いて傷口を無理矢理塞いで、それで生き残れる確率が何割ってレベルの怪我じゃないか?
「大丈夫だ――さすがに腕を繋ぎ直すのは無理だけどな。出血も少ない。このぐらいなら―」
判断して、華佗は腰のケースから鍼を取り出す。
「はあああああああああああああああっ!」
「…またやるのか、それ」
いや、必要なんだろうし、実際それで治してもらった身としては文句言う訳ではないけど、やっぱり初見の人は驚くと思うんだ。具体的に言うと、自警団員とか黄巾党とか。他の人達があんまり驚いてないところを見ると、重傷者にはもれなく鍼治療があったらしい。
「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒……病魔覆滅!五斗米道ォォォォォォッ!!」
光を伴い、華佗の鍼は黄巾党の左腕へと刺さる。それだけじゃなく、耳の裏側や鎖骨など数か所にも鍼が刺さり、
「…………治療、完了!」
95 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(18/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:25:06 ID:H1wsoPNF0
え、もう終わり?変わったように見えないんだけど。
「よく見てみろ」
「ん?…………あ」
左腕の断面から流れ出ていた血が完全に止まっていた。男の顔も、ずいぶんと和らいだものになっている。
「即座に傷を塞ぐことはできないが、それと同じような状態を作り出すことは出来る。血止めと痛み止め、体力増強に傷の治りを早めるツボ。そういったツボをいくつか複合して突いた」
なるほど、それなら傷が塞がったのとそう変わらない。
「さて、これで治療は全部終わりだ。―――村長さん、食事と宿をお願いしたいんだが……」


「――つっかれたぁ!」
食事を終えて、当初の契約通り、俺達にあてがわれた部屋の寝台に倒れ込む。
満腹感と疲労で、すぐにでも瞼が落ちそうだ。
「礼を言うよ一刀。助かった」
隣の寝台から華佗が言う。さすがに慣れているのか、まだまだ平気そうだ。
「お前がいてくれなかったら、全員を助けることは出来なかった」
んな大げさな……。
「いや、一刀が軽傷者を引きうけてくれたから、俺は重傷者だけに集中出来たんだ」
華佗によると、こういう時は軽傷者が一番の障害になるらしい。なまじ体力がある分、重傷者よりも先に医師のもとへ来てしまうそうだ。
たしかに軽傷者も治療しなければならない相手に違いないのだが、はっきり言えば、優先順位は低い。
二人以上医師がいる時は分担が可能なのだが、一人しかいない時はとにかく重傷者を優先し続けて、割り込めない空気を作るしかないらしい。
今回はそれに失敗した、と。
「だから、一刀がいてくれて本当に助かった。一刀のおかげで全員助けられたんだ」
そう言って、華佗は頭を下げた。
「止めてくれよ、勢いだけでやっちゃったことなんだし」
「それでも、俺が助かったのは事実だ」
そりゃそうかもしれないけどさ。
「うーん……あ。じゃあ、華佗。一つ頼みをきいてくれるか?」
「ああ、いいぞ。何でも言ってくれ」
97 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(19/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:30:18 ID:H1wsoPNF0
「うん、じゃあ……」
これは俺から華佗への頼みで、むしろ俺が頭を下げるべき事だ。
だから、居住まいを正す。

「華佗。俺を、弟子にしてくれないか?」

聞いて、華佗は目を丸くして俺を見つめた。
「……………駄目か?」
恐る恐る訊いた。
「いや……構わないが、何でだ?――まさか、俺が言ったから、とかじゃないよな?」
まあ、それも切っ掛けの一つだが。
「自分の手で直接、誰かを救えるから………かな?」
誰かを救う、というだけなら『天の御遣い』だったころにたくさん救ってきた。
でもそれは、俺の力じゃない。誰かを救いたいという気持ちに嘘はなかったが、実際に救っていたのは彼女たちだ。
それに不満はないし、旗印扱いにも文句はない。けど、どこかに引っ掛かっていたらしい。
手当てをしている内に、そんな感情が溢れてきた。
自分の力で、苦しむ人達を救いたい。
「そうか……」
静かにそう言って、華佗は右手を差し出した。
「じゃあ、この先もずっと一緒だな。―――改めて、よろしく頼む、一刀」
「はい、先生!」
握り返して頷く。
「おいおい、先生は止めてくれよ。これから一緒に旅をする仲間なんだ。華佗でいいし、敬語も止めてくれ」
「じゃあ、――よろしく華佗」
「ああ」

100 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(20/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:35:16 ID:H1wsoPNF0
二日後の朝。
「本当にいいのか、一刀?見たことない生地だが、高いんじゃないのか、それ?」
「んーまあ、高いって言えば高いけど」
一万五千〜二万ぐらいだから、食費二十日分?まあ、高価な部類に入るだろう。
「血も付いちゃったし。まあ、一種の誓いみたいなものかな?」
決別の意味を込めた、な。
眼前には、分けてもらった薪。その上に被さっているのが、聖フランチェスカの制服、その上着だ。
「『天の御遣い』の証、『ぽりえすてる』か……」
華佗に聞こえないよう、小さく呟く。
思えば、これがあったから俺は『天の御遣い』だった訳だ。この服であの村の人達を奮起させて、その後も「日の光の下、光り輝く天の衣服」だった学生服。
けど、俺は今日から『天の御遣い』じゃない。ただの「医師見習い・北郷一刀」だ。御遣いの証の品は、必要無い。
薪に着火して、制服ごと燃え尽きるのを見守る。

「じゃあ、行こうか一刀」
「ああ」
頷いて、インナーの上から薬箱を背負う。荷物持ちは弟子の役目だ。


「…………あれ?」
山道を下る途中、華佗が空を見上げて立ち止まった。
「どうした、華佗?」
「また流星だ。このところ、よく見るな」
え?
つられて俺も空を見上げる。真っ青な空の中、白い線が降ってくるのが見えた。
白い流星かー。そういえば俺の時も白い流星が――――って、
「――華佗、今、『また』って…」
「ん?ああ。一刀に会う前も、同じ様な流星を見たんだ」
「――――」
俺が、この外史に来た時と同じ流星。それはつまり――
「あの流星も近くに落ちたりしてな」
それは、華佗にとっては単なるジョークだろうけど、俺にとっては違った。
101 名前:男だらけの恋姫†無双第一話(21/21)[sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:40:08 ID:H1wsoPNF0
「――悪い、華佗!先に行く!!」
返事は待たずに走り出した。
「ハァっ……ハァっ……!」
俺の時と同じ流星。
それはつまり、誰か他の外史の人間がこの外史に入ってきたってことで。
それはひょっとしたら、彼女達の誰かかも知れなくて。
「ハァっ……ハァっ……!」
茂みや小枝に引っ掛かって、腕や頬に切り傷が出来る。
下りで走るなんて無茶をしているせいで、足首が痛む。
だけど、そんなのは無視して走り続けた。
「ハァっ……ハァっ……、ハァっ……ハァっ……!」
下り終えた先、そこにあったのは、小さなクレーターと、そこから舞い立つ砂埃だった。
砂埃の中に、微かに人影が見える。
「……やっぱり…!」
誰かが、この外史に入ってきたんだ。
だんだんと、砂埃が晴れていくに従って、人影の詳細が見えてくる。
黒い髪。
高い背。
桃色の服。
そこにいたのは、

「ごぉぉぉぉぉぉ主人様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ああぁぁぁぁぁぁいたかったわぁぁぁぁん!!」
「何でお前なんだーーーーー!!!」
105 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/09/14(月) 22:54:42 ID:H1wsoPNF0
以上です。

>>79
実際そうらしいですね。
ただ、地位も信用も低い医者(名前だけのエセ含む)と、
華佗のような、確かな腕をもった一部の名医(金持ち御用達)がいる、という解釈をしました。
ですので、華佗にとって、初対面で金持ちっぽく見えた一刀には、金持ちの持っている認識で説明した、ということです。

では次回、「仏の顔(仮)」をお待ち…………いただけるのかなぁ?

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