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671 名前:清涼剤[sage] 投稿日:2009/08/30(日) 21:30:16 ID:Gajj5JjI0
無じる真√N-拠点20話を専用版にUPしました。
(この物語について)
・原作と呼称が異なるキャラが存在します。
・一刀は外史を既に一周しています。
・外史を自分なりの解釈で表現してあります。
上記が苦手な方にはおすすめできません。

※なお、今回はオリキャラかどうか判別し難いキャラが出てきます。

(注意)
・過度な期待などはせずに見てやって下さい。
・未熟故、多少変なところがあるかもしれません。

URL:http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0403
もし、お暇ならどうぞ。

あと、誤字脱字のご報告をしてくださる方々どうもありがとうございます。
おいおいまとめて修正する予定ですので、反応することがないと思いますが
無視しているわけではないことをご理解頂けますようお願いいたします。



改行による2パターン制です。
最初は、整形なしの素です。
ブラウザでご覧の方はctrlキー+Fで文字検索に整形と入力して飛んでください。



 「無じる真√N」拠点20




「いや〜今日も平和だな。まさに世は全て事も無し……だな」
「何それ、あんたのいた世界での格言か何かなの?」
 街を歩きながら呟く一刀の言葉に興味を持ったのか詠が尋ねる。
「ん? あぁ、今よりも遠い未来、ここより遙か西の国にいる詩人が書いた詩の最後の部分なんだ。まぁ、意味はおおまかに言うと、特に事件などもなく至って平和だってことだな」
「随分とお気楽な言葉ね……それともあんたのいた世界じゃそれが当たり前なわけ?」
「そうだな……世の中全てが平和ってわけじゃないが、少なくとも俺の周りは特に事件もなかったな」
 詠に答えた一刀は、その言葉の後に"まぁ、ある日を切欠に多くの事件や騒動に出くわし続けたんだけどな"と心の中で付け加えた。そして、ふと思い出す――懐かしく幸せだった日々を。
「ねぇ、やっぱりその……あんたがいたっていう世界が恋しいの?」
「え? いや、俺は元々いた世界には正直なところそこまで未練がないんだ」
 当時の一刀は、家族や周りの者のことは気になるものの、さして戻りたいとも思わなかった。何故なら、
「何故なら、大切な人たちがいるからかな……俺がやってきた世界には」
 大切な者たちがいたからこそ、彼は戻りたいと積極的には思わなかった。むしろ彼が大切に思う者たちと共に過ごしたいと思っていた。無論それは、今の彼にも当てはまることである。
「ふぅん、そう」
 一刀の想いのこもった言葉に詠は顔を向けることなくただそう答えるのみだった。一刀はちらりと詠を見やる。その耳が僅かに赤い気がした。
 一刀がそのことを尋ねようか考えると同時に詠が突然駆け出す。その先を視線で追っていくとそこには一人の少女が茶屋の一つの席でお茶をすすっている姿があった。
「お待たせ、月〜」
「待たせたな」
 そう言って、一刀も歩を早めて近づいた。
「いえ、ゆっくりお茶を飲んでいたので平気です」
 そう答えるメイド服の少女、月。
 実は、先程まで一刀と詠が二人で歩いていたのは彼女の願いのためだった。
 元々は、月一人が買い出しのため街へと出ていた。そこへ、後から詠が、そして午前の警邏を終え、暇の出来た一刀が合流した。
 その際、月は一緒に買い出しをするといった詠に自分とではなく一刀と行くように願った。もちろん詠は反対したが、そこは一刀が適当に説得やら挑発をして誘いをかけ、詠が了承するように仕向けた。
 ちなみに、この一刀の行動にはもちろん理由がある。それは彼がかつて、こことは違う世界の街で同じようなことを一人のメイド少女に頼まれた事があったからである。そして、その願いに含まれる言葉の意味をも理解しているからこそ一刀は詠に対して行動を起こしたのである。
 もっとも、初めは文句を言っていた詠も一緒に歩き回っている内に機嫌を良くしていたのだが。
 そんなことを思い返しながら楽しそうに喋っている詠と月を見る。とても楽しそうな会話、その内容に耳を澄ませばどうやら一刀と回っている間の話のようだ。
 そのほとんどが一刀についての文句だったりするがその顔は穏やかで、言葉と本心が一緒でないことを物語っている。月もそのことに気づいているのか先程からニコニコと笑みを浮かべている。
 そんな二人をしばらく眺めていると、はっとしたように二人が一刀を見る。
「あ、いけない、二人で話し込んじゃってました。ごめんなさい、ご主人様」
「いやいや、二人の楽しそうな顔を見てたから問題ないよ」
 一刀はそう言うと、それが本心であることを証明するように微笑を浮かべながら月の頭を撫で回す。
「ふぇぇ」
 一刀が手を動かすのに合わせるように頭を動かす月。その顔はとても気持ちよさそうに見える。そんな月の表情を微笑ましげに見つながら一層心を込めて撫でる一刀。
「そうよ、元々こいつが後から来たせいでボクと月の時間が無くなっちゃんたんだから。気にする必要なんてないわ」
 その言葉に一刀が詠の方へと顔を向けると、彼女が一刀を睨んでいる。正確には、詠との身長差故に上目遣いにしか見えないが。そんな彼女の様子を微笑ましく思った一刀は詠の方へ空いている手を伸ばす。
「はは、悪かったって」
「ちょ、ちょっと!?」
 詠のするどい瞳がかっと開かれる。それは一刀が苦笑を浮かべながら月にしているのと同じように彼女の頭を撫でているからである。
 この後、詠が正気に戻るまに随分と時間を要することになったのは言うまでもない。

 それからしばらく三人が仲むつまじくのんびりと過ごしていると、茶屋中に大きな音が響き渡った。
 それに続いて店員の悲鳴が聞こえてくる。
「ひぃぃぃ」
「おい! ここは客に髪の混ざった茶を飲ますのかぁ!?」
「し、知りませんよぉ」
「あぁ? じゃあこれは何だってんだよ!」
 そう言って、ひげ面の男が湯飲みを店員に見せる。
 それを見て店員の顔が青ざめる。
「も、申し訳ありません。すぐにお取り替えいたしますので……」
「おいおい、また髪入りの茶を持ってこられてもこまるんだよ! それ以前にこちとら不快な気分になってるんだ。茶より先に差し出すもんがあんだろうがぁ!」
 男は一層大きな声で叫ぶ。
 すると、それに続くようにひげ面のとなりにいる小柄な男が口を開く。
「金だよ。アニキは詫びとして金をよこせっていってるんだよ」
「そ、そんな困ります……」
 二人の剣幕に狼狽する店員。すると、男たちが立ち上がる。そして、店員へとにじり寄る。店員が後ずさりをするその背に大きな影が迫った。
「い、いい加減諦めるんだな」
 男たちの仲間と思われる巨漢が店員の背に回り込んでいた。
 さすがに見過ごせないと判断した一刀が立ち上がる。
「許せないな……」
「ちょっと、あんたに何ができるのよ!」
 男たちの方へ歩み寄ろうとする一刀の腕を詠が掴む。一刀は、二人の方へ顔を向ける。
「俺でも、兵が来るまでの時間稼ぎくらいは出来るさ。だから、月と詠は兵たちを呼びに行ってくれ」
「はぁ……時間稼ぎならボクも手伝うわよ」
 仕方がないとばかりにため息を吐くと詠は一刀の隣に立つ。そして、
「それじゃあ兵の方はお願いするわね、月」
 その言葉に迷いながらも月は駆けだした。それを見送ると、一刀と詠が男たちの方へと近づいていく。
「そこまでにしときなよ」
「まったく、大の男が寄ってたかって恥ずかしくないわけ?」
 二人の声に男たちの注意が店員からそれる。すると、その隙に店員が奥へと逃げていった。それに対して、あっと声を漏らしたかと思うと、男たちは二人の方へ真っ赤にした顔を向けてくる。
「お前らのせいで逃げられちまったじゃねぇか。どうしてくれましょうかねぇアニキ?」
「そうだなぁ……責任を取ってもらうとしよう」
 アニキの言葉に詠が口を開く。
「ふん、いいわよ。でも、その前に外にでましょ」
「そうだな、ほら、どうするんだあんたたち?」
 詠が踵を返して店外へと出て行くのに合わせて一刀も男たちに言葉を投げかけ彼女の背を追いかけた。
 二人の言葉に顔を一層険しくしながらも男たちは従うように店外へと出た。
「さて、どうしてくれようか……」
 アニキの言葉に、一刀たちと向かいあった男たちが騒ぎ出す。
「まぁ、その女を頂くのは決まりですよね?」
「当たり前だろ。くく……あんなことやこんなことを。じゅるりっ」
 その言葉を聞いた一刀はそっと詠を背に隠す。その時、野次馬から声があがった
「おめぇらなんて、華蝶仮面が退治してくれるだ!」
 その言葉に、ほかの面々もそうだそうだ、と声をあげている。
 だが、一刀は知っている。星が賊討伐に出ていることを、貂蝉が数え役萬姉妹の公演に付き合ってこの街にいないことを。
 そして、なにより何の因果か、彼女たちがいないと華蝶仮面が現れないことを……。
「へっ、華蝶だかなんだか知らねぇが俺たちの敵じゃあないな」
「出来るもんなら、やってみろってんだぁ。ひひっ」
 男たちは余程腕に自信があるのか大声で喚き散らしている。すると、
「はーはっはっは! ならばお望み通り退治してくれよう!」
 辺りに声が響き渡り一つの影が大地へと舞い降りた。
「出たな! その仮面……てめぇが華蝶仮面とやらか!?」
 アニキの言葉に続いて、男たちがやんややんやと騒ぎ出す。だが、仮面の人物はそれに対して一切動じることもなく口を開いた。
「ふ、残念だが我が名は華蝶にあらず」
「じゃ、じゃあてめぇは一体?」
「ふ、知らぬならば教えてやろう」
 不適な笑みを浮かべると仮面の人物が名乗り口上を述べ始めた。
「たとえ蝶が居らずとも可憐な華は咲きほこる。その様、まさに雄々しきなり。民住む街に乱あれば、秩序と救いをもたらさん。我が名は、正義の武人、華雄仮面!」
 そう言うと、華雄仮面はびしっと構えをとった。
「ぶっ!? ごほっごほっ」
「……あほらし。ボク、月のところへ行くわ」
 一刀は、某人物を連想させるあまりにも安直なその名前に思わず咳き込む。隣にいた詠は盛大にため息を吐くと立ち去ろうとする。
 だが、一刀が彼女の肩を掴み離さない。
「ちょ、ちょっとボクはこんな面倒な事なんて御免なんだから。離しなさいってば」
「いいや、断る。自分だけ逃げようなんて許さないぞ!」
 二人がそんな醜いやり取りをしている間にも華雄仮面と男たちの戦いが始まる。
「何者か知らねぇけど、華蝶仮面で無かろうとやっちまうことには変わりねぇ!」
 その言葉に合図とするように男たちが華雄仮面へと襲いかかる。
「ふははは、そうだ! 一遍にかかってくるがいい!」
 群がる男たちを見渡しながら、愉快そうに笑う華雄仮面。
 男たちの後ろ姿だらけとなり周りからは彼女の姿が見えない。その様子を民衆が固唾の飲み込んで見守っている。
 次の瞬間
「無駄無駄無駄ァ!」
 その声が響き渡ると同時に男たちが宙に舞った。その男たちが重力に逆らうことなく大地へと落下していく中に華雄仮面はいた。
「ふ、正義の前では貴様らごとき小悪党どもなど無力だということがわかったか!」
「ち、ちくしょう……相当の使い手だぞありゃあ……」
「い、一体やつの正体は……ごくり」
 緊迫した表情で華雄仮面を見つめる男たち、そんな彼らを見ながら一刀は呟く。
「さすがに、それは気付けよ……」
「無理でしょ。あんな仮面付けてるだけで誰だか分からないようなやつらだし」
 一刀の言葉に、すっかり抵抗するのを諦めて一刀の腕の中にすっぽり収まりぐったりとしている詠が答えた。
 そして、二人同時にため息を吐くと再び華雄仮面と男たちへと視線を向ける。
「くそぅ、も、もう一度だ。もう一度かかるぞ!」
「で、でもアニキ、あいつ強ぇよ!」
「か、勝てないんだな」
「うるせぇ、いくぞぉ!」
 周りの者たちへと喝を飛ばすとアニキは正面から襲いかかった。
「無駄だ!」
 振り下ろされる一撃を華雄仮面の横振りの一撃が弾く。その勢いに引っ張られてアニキが飛んでいった。その後を手下たちが追いかけていく。
「ぎゃぁあああ」
「ア、アニキ〜」
「お、置いていかないでほしいんだな〜」
 そして、辺りには華雄仮面と彼女に伸された男たちが横たわっているだけ、となっていた。そして、華雄仮面が勝利の構えを取る。
「ふはははは、口ほどにもない。正義は勝つのだ!」
「うぉぉぉ!」
「新しい正義の味方だ!」
「謎の武人、華雄仮面!」
 周りの野次馬たちが歓声を上げた。くちぐちに華雄仮面を賞賛し、万歳を繰り返していた。そして、華雄仮面もそれに豪快な笑いで応えていた。一刀たちの前でそんな光景がしばらく続いていたが、突然、華雄仮面が辺りを見回し始めた。
「む、そろそろ立ち去らねば。皆の者、さらばだ!」
 そう言うと、華雄仮面はどこかへと駆けていった。立ち去る彼女の姿が見えなくなるのと同時に、複数の足音が近づいてきた。
「無法者はどこですか!」
「後は、我々にお任せを」
 それは警邏の兵たちだった。その後ろから、よたよたと息を切らせながら小柄な人影が一刀たちのもとへと近づいてきた。
「へぅ〜、詠ちゃん、ご主人様。ただいま戻りましたぁ」
「お疲れ様、月」
「大丈夫? ずっと走ってたの月?」
 月を心配して詠が尋ねるが、月は何故か頬を膨らませたまま詠を見つめている。
「月?」
「むぅ……私は一生懸命走り回ってたっていうのに詠ちゃんはご主人様と随分仲良くしてたんだね……」
「はっ! あんたいつまで人のこと抱きしめてんのよ。このバカ!」
 月に指摘されて一刀に抱き留められたままだったことに気づき一刀へ肘鉄をかます。
「ぐぅ……」
 詠の一撃を鳩尾に受けた一刀はその場に崩れた。それを見下ろしながら詠が手で埃を払うような仕草をする。
「まったく……さ、行きましょ月」
「え、い、いいのかなぁ?」
「自業自得よ! まったく……ついつい居心地が良くて……じゃなくて存在感が無いから……振り解くのを忘れちゃったわ」
 何やらぶつぶつと独り言を呟く詠。その様子を見て月の表情が緩む。
「詠ちゃん……」
「ゆ、月! 変な誤解しないでよ!」
「ふふ、何のことかな〜」
 顔を赤くさせ、慌てふためく詠に微笑みかけると月が駆け出す。それを詠が慌てて追いかける。
「ちょ、月! まちなさ〜い!」

 そんな二人を見送りながら一刀は一人ごちた。
「お、俺を置いてかないでよ……」
 一刀の顔に面した大地がしくしくと流れる彼の涙を受け止めていた。


 そんな一刀の有様に気づくこともなく、民衆は未だに華雄仮面万歳の言葉を一斉に叫び続けていた。
「新しき英雄、華雄仮面万歳!万歳!ばんざーい!」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 この日の出来事も、おなじみの著者不明作品、"仮面英雄伝"において、華雄の章内にある、華蝶の不在に華雄爆誕!!(和訳済)にて記されているとかいないとか……。

 なお、この華雄仮面……後世の歴史家たちの間でその正体が彼の華雄将軍ではないかという疑惑が浮上したのだが、ただ名前が似ているだけ……という結論にいたり結局、華蝶仮面と同じく正体不明のままとなっている。

 そして、この物語も大ヒットシリーズとなった「The Legend of Mask's Hero」その第三作目として近日ハ●ウッドにて「The Legend of Mask's Hero 〜The Episode of Kayu〜」としてリメイク映画化!!……が予定されている?

(注意:この項目はフィクションです)



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整形で見たい方はこちらから



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 「無じる真√N」拠点20




「いや〜今日も平和だな。まさに世は全て事も無し……だな」
「何それ、あんたのいた世界での格言か何かなの?」
 街を歩きながら呟く一刀の言葉に興味を持ったのか詠が尋ねる。
「ん? あぁ、今よりも遠い未来、ここより遙か西の国にいる詩人が書いた詩の最後の部
分なんだ。まぁ、意味はおおまかに言うと、特に事件などもなく至って平和だってことだ
な」
「随分とお気楽な言葉ね……それともあんたのいた世界じゃそれが当たり前なわけ?」
「そうだな……世の中全てが平和ってわけじゃないが、少なくとも俺の周りは特に事件も
なかったな」
 詠に答えた一刀は、その言葉の後に"まぁ、ある日を切欠に多くの事件や騒動に出くわ
し続けたんだけどな"と心の中で付け加えた。そして、ふと思い出す――懐かしく幸せだ
った日々を。
「ねぇ、やっぱりその……あんたがいたっていう世界が恋しいの?」
「え? いや、俺は元々いた世界には正直なところそこまで未練がないんだ」
 当時の一刀は、家族や周りの者のことは気になるものの、さして戻りたいとも思わなか
った。何故なら、
「何故なら、大切な人たちがいるからかな……俺がやってきた世界には」
 大切な者たちがいたからこそ、彼は戻りたいと積極的には思わなかった。むしろ彼が大
切に思う者たちと共に過ごしたいと思っていた。無論それは、今の彼にも当てはまること
である。
「ふぅん、そう」
 一刀の想いのこもった言葉に詠は顔を向けることなくただそう答えるのみだった。一刀
はちらりと詠を見やる。その耳が僅かに赤い気がした。
 一刀がそのことを尋ねようか考えると同時に詠が突然駆け出す。その先を視線で追って
いくとそこには一人の少女が茶屋の一つの席でお茶をすすっている姿があった。
「お待たせ、月〜」
「待たせたな」
 そう言って、一刀も歩を早めて近づいた。
「いえ、ゆっくりお茶を飲んでいたので平気です」
 そう答えるメイド服の少女、月。
 実は、先程まで一刀と詠が二人で歩いていたのは彼女の願いのためだった。
 元々は、月一人が買い出しのため街へと出ていた。そこへ、後から詠が、そして午前の
警邏を終え、暇の出来た一刀が合流した。
 その際、月は一緒に買い出しをするといった詠に自分とではなく一刀と行くように願っ
た。もちろん詠は反対したが、そこは一刀が適当に説得やら挑発をして誘いをかけ、詠が
了承するように仕向けた。
 ちなみに、この一刀の行動にはもちろん理由がある。それは彼がかつて、こことは違う
世界の街で同じようなことを一人のメイド少女に頼まれた事があったからである。そして、
その願いに含まれる言葉の意味をも理解しているからこそ一刀は詠に対して行動を起こし
たのである。
 もっとも、初めは文句を言っていた詠も一緒に歩き回っている内に機嫌を良くしていた
のだが。
 そんなことを思い返しながら楽しそうに喋っている詠と月を見る。とても楽しそうな会
話、その内容に耳を澄ませばどうやら一刀と回っている間の話のようだ。
 そのほとんどが一刀についての文句だったりするがその顔は穏やかで、言葉と本心が一
緒でないことを物語っている。月もそのことに気づいているのか先程からニコニコと笑み
を浮かべている。
 そんな二人をしばらく眺めていると、はっとしたように二人が一刀を見る。
「あ、いけない、二人で話し込んじゃってました。ごめんなさい、ご主人様」
「いやいや、二人の楽しそうな顔を見てたから問題ないよ」
 一刀はそう言うと、それが本心であることを証明するように微笑を浮かべながら月の頭
を撫で回す。
「ふぇぇ」
 一刀が手を動かすのに合わせるように頭を動かす月。その顔はとても気持ちよさそうに
見える。そんな月の表情を微笑ましげに見つながら一層心を込めて撫でる一刀。
「そうよ、元々こいつが後から来たせいでボクと月の時間が無くなっちゃんたんだから。
気にする必要なんてないわ」
 その言葉に一刀が詠の方へと顔を向けると、彼女が一刀を睨んでいる。正確には、詠と
の身長差故に上目遣いにしか見えないが。そんな彼女の様子を微笑ましく思った一刀は詠
の方へ空いている手を伸ばす。
「はは、悪かったって」
「ちょ、ちょっと!?」
 詠のするどい瞳がかっと開かれる。それは一刀が苦笑を浮かべながら月にしているのと
同じように彼女の頭を撫でているからである。
 この後、詠が正気に戻るまに随分と時間を要することになったのは言うまでもない。

 それからしばらく三人が仲むつまじくのんびりと過ごしていると、茶屋中に大きな音が
響き渡った。
 それに続いて店員の悲鳴が聞こえてくる。
「ひぃぃぃ」
「おい! ここは客に髪の混ざった茶を飲ますのかぁ!?」
「し、しりませんよぉ」
「あぁ? じゃあこれは何だってんだよ!」
 そう言って、ひげ面の男が湯飲みを店員に見せる。
 それを見て店員の顔が青ざめる。
「も、申し訳ありません。すぐにお取り替えいたしますので……」
「おいおい、また髪入りの茶を持ってこられてもこまるんだよ! それ以前にこちとら不
快な気分になってるんだ。茶より先に差し出すもんがあんだろうがぁ!」
 男は一層大きな声で叫ぶ。
 すると、それに続くようにひげ面のとなりにいる小柄な男が口を開く。
「金だよ。アニキは詫びとして金をよこせっていってるんだよ」
「そ、そんな困ります……」
 二人の剣幕に狼狽する店員。すると、男たちが立ち上がる。そして、店員へとにじり寄
る。店員が後ずさりをするその背に大きな影が迫った。
「い、いい加減諦めるんだな」
 男たちの仲間と思われる巨漢が店員の背に回り込んでいた。
 さすがに見過ごせないと判断した一刀が立ち上がる。
「許せないな……」
「ちょっと、あんたに何ができるのよ!」
 男たちの方へ歩み寄ろうとする一刀の腕を詠が掴む。一刀は、二人の方へ顔を向ける。
「俺でも、兵が来るまでの時間稼ぎくらいは出来るさ。だから、月と詠は兵たちを呼びに
行ってくれ」
「はぁ……時間稼ぎならボクも手伝うわよ」
 仕方がないとばかりにため息を吐くと詠は一刀の隣に立つ。そして、
「それじゃあ兵の方はお願いするわね、月」
 その言葉に迷いながらも月は駆けだした。それを見送ると、一刀と詠が男たちの方へと
近づいていく。
「そこまでにしときなよ」
「まったく、大の男が寄ってたかって恥ずかしくないわけ?」
 二人の声に男たちの注意が店員からそれる。すると、その隙に店員が奥へと逃げていっ
た。それに対して、あっと声を漏らしたかと思うと、男たちは二人の方へ真っ赤にした顔
を向けてくる。
「お前らのせいで逃げられちまったじゃねぇか。どうしてくれましょうかねぇアニキ?」
「そうだなぁ……責任を取ってもらうとしよう」
 アニキの言葉に詠が口を開く。
「ふん、いいわよ。でも、その前に外にでましょ」
「そうだな、ほら、どうするんだあんたたち?」
 詠が踵を返して店外へと出て行くのに合わせて一刀も男たちに言葉を投げかけ彼女の背
を追いかけた。
 二人の言葉に顔を一層険しくしながらも男たちは従うように店外へと出た。
「さて、どうしてくれようか……」
 アニキの言葉に、一刀たちと向かいあった男たちが騒ぎ出す。
「まぁ、その女を頂くのは決まりですよね?」
「当たり前だろ。くく……あんなことやこんなことを。じゅるりっ」
 その言葉を聞いた一刀はそっと詠を背に隠す。その時、野次馬から声があがった
「おめぇらなんて、華蝶仮面が退治してくれるだ!」
 その言葉に、ほかの面々もそうだそうだ、と声をあげている。
 だが、一刀は知っている。星が賊討伐に出ていることを、貂蝉が数え役萬姉妹の公演に
付き合ってこの街にいないことを。
 そして、なにより何の因果か、彼女たちがいないと華蝶仮面が現れないことを……。
「へっ、華蝶だかなんだか知らねぇが俺たちの敵じゃあないな」
「出来るもんなら、やってみろってんだぁ。ひひっ」
 男たちは余程腕に自信があるのか大声で喚き散らしている。すると、
「はーはっはっは! ならばお望み通り退治してくれよう!」
 辺りに声が響き渡り一つの影が大地へと舞い降りた。
「出たな! その仮面……てめぇが華蝶仮面とやらか!?」
 アニキの言葉に続いて、男たちがやんややんやと騒ぎ出す。だが、仮面の人物はそれに
対して一切動じることもなく口を開いた。
「ふ、残念だが我が名は華蝶にあらず」
「じゃ、じゃあてめぇは一体?」
「ふ、知らぬならば教えてやろう」
 不適な笑みを浮かべると仮面の人物が名乗り口上を述べ始めた。
「たとえ蝶が居らずとも可憐な華は咲きほこる。その様、まさに雄々しきなり。民住む街
に乱あれば、秩序と救いをもたらさん。我が名は、正義の武人、華雄仮面!」
 そう言うと、華雄仮面はびしっと構えをとった。
「ぶっ!? ごほっごほっ」
「……あほらし。ボク、月のところへ行くわ」
 一刀は、某人物を連想させるあまりにも安直なその名前に思わず咳き込む。隣にいた詠
は盛大にため息を吐くと立ち去ろうとする。
 だが、一刀が彼女の肩を掴み離さない。
「ちょ、ちょっとボクはこんな面倒な事なんて御免なんだから。離しなさいってば」
「いいや、断る。自分だけ逃げようなんて許さないぞ!」
 二人がそんな醜いやり取りをしている間にも華雄仮面と男たちの戦いが始まる。
「何者か知らねぇけど、華蝶仮面で無かろうとやっちまうことには変わりねぇ!」
 その言葉に合図とするように男たちが華雄仮面へと襲いかかる。
「ふははは、そうだ! 一遍にかかってくるがいい!」
 群がる男たちを見渡しながら、愉快そうに笑う華雄仮面。
 男たちの後ろ姿だらけとなり周りからは彼女の姿が見えない。その様子を民衆が固唾の
飲み込んで見守っている。
 次の瞬間
「無駄無駄無駄ァ!」
 その声が響き渡ると同時に男たちが宙に舞った。その男たちが重力に逆らうことなく大
地へと落下していく中に華雄仮面はいた。
「ふ、正義の前では貴様らごとき小悪党どもなど無力だということがわかったか!」
「ち、ちくしょう……相当の使い手だぞありゃあ……」
「い、一体やつの正体は……ごくり」
 緊迫した表情で華雄仮面を見つめる男たち、そんな彼らを見ながら一刀は呟く。
「さすがに、それは気付けよ……」
「無理でしょ。あんな仮面付けてるだけで誰だか分からないようなやつらだし」
 一刀の言葉に、すっかり抵抗するのを諦めて一刀の腕の中にすっぽり収まりぐったりと
している詠が答えた。
 そして、二人同時にため息を吐くと再び華雄仮面と男たちへと視線を向ける。
「くそぅ、も、もう一度だ。もう一度かかるぞ!」
「で、でもアニキ、あいつ強ぇよ!」
「か、勝てないんだな」
「うるせぇ、いくぞぉ!」
 周りの者たちへと喝を飛ばすとアニキは正面から襲いかかった。
「無駄だ!」
 振り下ろされる一撃を華雄仮面の横振りの一撃が弾く。その勢いに引っ張られてアニキ
が飛んでいった。その後を手下たちが追いかけていく。
「ぎゃぁあああ」
「ア、アニキ〜」
「お、置いていかないでほしいんだな〜」
 そして、辺りには華雄仮面と彼女に伸された男たちが横たわっているだけ、となってい
た。そして、華雄仮面が勝利の構えを取る。
「ふはははは、口ほどにもない。正義は勝つのだ!」
「うぉぉぉ!」
「新しい正義の味方だ!」
「謎の武人、華雄仮面!」
 周りの野次馬たちが歓声を上げた。くちぐちに華雄仮面を賞賛し、万歳を繰り返してい
た。そして、華雄仮面もそれに豪快な笑いで応えていた。一刀たちの前でそんな光景がし
ばらく続いていたが、突然、華雄仮面が辺りを見回し始めた。
「む、そろそろ立ち去らねば。皆の者、さらばだ!」
 そう言うと、華雄仮面はどこかへと駆けていった。立ち去る彼女の姿が見えなくなるの
と同時に、複数の足音が近づいてきた。
「無法者はどこですか!」
「後は、我々にお任せを」
 それは警邏の兵たちだった。その後ろから、よたよたと息を切らせながら小柄な人影が
一刀たちのもとへと近づいてきた。
「へぅ〜、詠ちゃん、ご主人様。ただいま戻りましたぁ」
「お疲れ様、月」
「大丈夫? ずっと走ってたの月?」
 月を心配して詠が尋ねるが、月は何故か頬を膨らませたまま詠を見つめている。
「月?」
「むぅ……私は一生懸命走り回ってたっていうのに詠ちゃんはご主人様と随分仲良くして
たんだね……」
「はっ! あんたいつまで人のこと抱きしめてんのよ。このバカ!」
 月に指摘されて一刀に抱き留められたままだったことに気づき一刀へ肘鉄をかます。
「ぐぅ……」
 詠の一撃を鳩尾に受けた一刀はその場に崩れた。それを見下ろしながら詠が手で埃を払
うような仕草をする。
「まったく……さ、行きましょ月」
「え、い、いいのかなぁ?」
「自業自得よ! まったく……ついつい居心地が良くて……じゃなくて存在感が無いから
……振り解くのを忘れちゃったわ」
 何やらぶつぶつと独り言を呟く詠。その様子を見て月の表情が緩む。
「詠ちゃん……」
「ゆ、月! 変な誤解しないでよ!」
「ふふ、何のことかな〜」
 顔を赤くさせ、慌てふためく詠に微笑みかけると月が駆け出す。それを詠が慌てて追い
かける。
「ちょ、月! まちなさ〜い!」

 そんな二人を見送りながら一刀は一人ごちた。
「お、俺を置いてかないでよ……」
 一刀の顔に面した大地がしくしくと流れる彼の涙を受け止めていた。


 そんな一刀の有様に気づくこともなく、民衆は未だに華雄仮面万歳の言葉を一斉に叫び
続けていた。
「新しき英雄、華雄仮面万歳!万歳!ばんざーい!」




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 この日の出来事も、おなじみの著者不明作品、"仮面英雄伝"において、華雄の章内にあ
る、華蝶の不在に華雄爆誕!!(和訳済)にて記されているとかいないとか……。

 なお、この華雄仮面……後世の歴史家たちの間でその正体が彼の華雄将軍ではないかと
いう疑惑が浮上したのだが、ただ名前が似ているだけ……という結論にいたり結局、華蝶
仮面と同じく正体不明のままとなっている。

 そして、この物語も大ヒットシリーズとなった「The Legend of Mask's Hero」その第
三作目として近日ハ●ウッドにて「The Legend of Mask's Hero 〜The Episode of Kayu
〜」としてリメイク映画化!!……が予定されている?

(注意:この項目はフィクションです)

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