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920 名前:風鈴 ◆VOACf8e.7. [sage] 投稿日:2009/08/03(月) 21:51:19 ID:D9mexKNu0
流れぶったぎって小ネタを投下しよう。

***

三顧の礼

※三国志演義において、劉備が無名の孔明の草庵を三度訪れて軍師にしたという故事

 ある日、鈴々にせがまれた一刀は、つい政務をサボって街へ遊びに出かけてしまった。
 散々遊び倒して戻ったのだが、そのようなことをすれば、愛紗の逆鱗に触れるのは言うまでもないだろう。
 その日も戻った所で愛紗と鉢合わせしてしまい、雷が落ちるのを覚悟した一刀であったが、
戦々恐々としながら構えていても、一向に怒鳴られる気配がない。
 恐る恐る伏せていた目を上げると──

「…………………」

 物凄く冷めた目で一刀を見据える愛紗が居た。怒鳴られるより余程怖い。
 そして愛紗は、そのまま踵を返すと、さっさと部屋に帰ってしまった。

 北郷一刀、これには焦る。
 その日から、一刀の苦難の日々が始まった。

 翌日もその翌日も──
 廊下ですれ違った愛紗に声をかけるも、最低限の礼をされただけで通り過ぎられ、
愛紗の意見が必要な政務の間も、最低限の会話のみで眼も合わせてくれず、
食事に誘うも「結構です」の一言で片付けられ、
夜部屋を訪ねるも、出てきてくれる事は無く──
922 名前:三顧の礼[sage] 投稿日:2009/08/03(月) 21:52:14 ID:D9mexKNu0
 そして三日目。その日の夜、一刀はあの日より都合三度目となる、愛紗のお部屋訪問を行った。
 戸を叩き、「一刀だけど……逢ってくれないかな?」と声を掛ける。
 この日は逢えるまで引くまいと、覚悟を決めて待つ事半刻──

『………………ご主人様、まだいらっしゃるのですか?』

 そんな声が、部屋の中から聴こえた。
 その声に顔を上げ、「あ、ああ!ここに居るぞ!!」と息せき切って話しかける。

『……少しは反省して下さいましたか?』
「ああ……痛いほどに」

『……これからは、真面目に政務を行って頂けますか?』
「約束する」

『……本当に?』
「本当に。……愛紗に失望されたくないからね」

 扉の内と外ながらも交わされる、久しぶりの感情を込めた会話に思わず涙ぐみそうになり、
一刀はつくづく、自分はこの少女の事が好きなのだと思い知り、
ギギッ……ときしむ音を立てながら開いた扉から、愛紗が顔を覗かせた瞬間──

「愛紗っ!!!」

 強く強く、抱きしめて居た。

 ……その日は朝まで、愛紗の部屋から声が途切れることは無かったそうな。



 これ以降、誠心誠意三度訪ねて、相手の心を開かせる事を『三顧の礼』と呼ぶようになったとかならないとか。
923 名前:風鈴 ◆VOACf8e.7. [sage] 投稿日:2009/08/03(月) 21:54:02 ID:D9mexKNu0
以上、お目汚し失礼しました。

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