[戻る] []

567 名前:思春期に少女から母親に変わる(1/4)[sage] 投稿日:2009/07/25(土) 00:59:15 ID:P5HDSKTb0
それでは次の案件ですが…」
会議場に響き渡る、進行役の亞莎の声。
蓮華を補佐する軍師として、孫呉の重鎮としても板についてきたものだと思う。
未だ続いている夜の勉強会も、今や議論を交わしゴマ団子を食す場となっていたりする。
(…あれ?そんなに変わってない?)
ともあれ成長著しい少女を頼もしく思いつつ、蓮華を挟んで対極に居る思春に目を移すと…
「…うっ」
顔面蒼白という言葉が迷いなく頭に浮かぶような顔色の思春が、口に手を当ててうずくまった。
「思春!?」
「思春さん!?誰かある!」
蓮華が叫び、亞莎が会議場の外を警備していた兵士に命じて医者を呼ばせる。
「もうしわけ…だい、じょうぶで…」
気丈に振舞おうとする姿は、だがとてもそうは見えない。
「兎も角部屋に運ぼう…思春動くな!俺が背負っていくから」
「よせ、じぶんで…」「思春!一刀の言うとおりにしなさい!」
蓮華の言葉に立ち上がろうとする動きを止めた思春を、蓮華に補助してもらいながら背負う。
ゆっくりと、揺らさないように思春の部屋へと急ぐと、連絡を受けた医者が待機していてくれた。

将が全て動きを止めるわけにもいかず、思春の部屋の外には蓮華、小蓮、そして俺の三人。
「思春のあんな辛そうな顔、初めて見た…」
いつも元気一杯の明るい笑顔が身上の小蓮だが、今は見る影もなく落ち込んでいる。
「私が…もっと思春のことを気にかけていれば…」
臣下という枠を超越して信頼関係を結んでいる蓮華だけに、体調不良を見抜けなかった自分を責めてしまう。
「思春…」
医術の心得があるわけでもなく待つことしかできない俺は、ただ、思春の無事を祈るしかなかった。
569 名前:思春期に少女から母親に変わる(2/4)[sage] 投稿日:2009/07/25(土) 01:05:13 ID:P5HDSKTb0
半日経ったのかそれとも一刻ほどだったのか、診察を終えたらしい医者が部屋から出てきた。
「思春は!思春は無事なのですか!?」
詰め寄る俺たちに圧倒され目を白黒させていた医者だったが、気を取り直すと眉間にしわを寄せて言い放つ。
「まったく…あのような身体になんと無茶をさせられるか」
蓮華の顔から血の気が退いた。
「そんなに…悪いの、ですか?」
今にも思春のように倒れてしまいそうな蓮華をよそに、医者は俺の方を向く。
「貴方が『お父さま』ですかな?」
「は?いや、俺が思春の父親のはずないでしょう…そんな歳に見えますか?」
何を言ってるんだこの医者は、大丈夫なのか?と思い疑いの眼差しを向けるが、次の言葉に絶句した。
「お腹の子の『お父さま』ですよ」

「「「…はい?」」」
三人見事なハーモニーです、本当にありがとうございました。
「思春は、妊娠していたのですか!?」
「ぶー!また先を越されたー!」
「思春が…俺の子を…?」
三人三様の反応を受け、医者が診察結果を教えてくれた。
思春はひと月ほど前から自分の身体の異常に気付いていたようだが、
それでも任務を第一にと無理をしていたらしい。
だが数日前からつわりがひどくなってきて、結果的に会議の最中発覚するに至った、というわけだ。
571 名前:思春期に少女から母親に変わる(3/4)[sage] 投稿日:2009/07/25(土) 01:10:27 ID:P5HDSKTb0
「思春…具合はどう?」
寝床を抜け立ち上がろうとする思春を手で制しながら蓮華が見舞う。
一刀は顔を上気させ足取り軽く、小蓮は頬をぷっくりさせながら皆に思春の懐妊を伝えに行った。
顔色は未だ優れない様子ではあるものの、上体を起こし話せるまでには回復したらしい。
「少し、落ち着きました…申し訳ありません」
「何を…いいえ、何に対しての謝罪かしら?」
蓮華の声に剣呑な響きを感じた思春は、うつむき加減。
「会議の進行を妨げてしまいまして…」
「私がそのようなことに腹を立てると、思春は本気でそう思うの?」
「…………いえ」
「思春…何故、隠していたの?また私を気遣って?それとも…まさか一刀の子を授かったことが嫌だとでも…」
「そんなことはありません!…そうでは、ないのです」
蓮華にして初めて見る思春の泣き出しそうな顔に、じっと言葉の続きを待つ。
「恥ずかしながら自分が妊娠していたことは、先ほどの医者から知らされるまで無自覚でした」
「……えっ?」
事情が変わった。
では思春は妊娠したことを隠していたわけではなく…えっと、何?
「医者からも伝わったかと思いますが、ひと月ほど前から身体に変調が…」
曰く、食事中に好物の匂いをかいで吐き気をもよおしたり、頻繁に厠に行きたくなったり、
調錬で普段なら聞き流す兵士の軽口に激怒して怒鳴り散らし、その後自室で落ち込んだり…
後で医者に聞いたところ、典型的な妊娠初期症状なのだそうだが、
妊娠そのものが初めての思春がそんなことに思い当たるはずもなく、負の思考迷路に陥った思春は
『自分はたるんでいる』という誤った結論に達してしまったのだった。
573 名前:思春期に少女から母親に変わる(4/4)[sage] 投稿日:2009/07/25(土) 01:15:49 ID:P5HDSKTb0
「…近頃は亞莎の成長もめざましく、自分が蓮華様の足を引っ張るようではと…」
「……思春」
気がつけば蓮華は思春を抱きしめていた。
「貴女の意志も、想いも、とてもとても尊いものだわ…だけどね?」
思春は無言で抱きしめられている。
「思春の身体はもう、思春だけのものじゃない…新しい命を宿しているの」
「…はい…何というか、不思議な感覚です」
無意識に自分の腹部をさする思春に目を細める蓮華。
「王として、また友としてお願いよ…身体を労わって、健やかな子供を産んでちょうだい」
「蓮、華…さま」
「おめでとう、思春」
思春の目から何かが溢れそうになったその時、喜色満面の一刀が空気も読めずに部屋に飛び込んできた。
「皆に知らせてきたよ!早速祝おうって話になっ―」
投げつけられた枕を顔面に受けて昏倒する一刀に、顔を真っ赤にしながら涙をこぼした思春がつぶやく。
「『のっく』くらいしろ、うすのろ…一刀」
577 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/07/25(土) 01:54:01 ID:P5HDSKTb0
お待たせして申し訳無く
思いついたものを形にするだけで5時間近く…何といううすのろorz

思春は何というか、調理法がどえらく難しい美食材とでも言えばいいのかしら
単に書き手がギャグ体質なので、隙の無いキャラを上手く動かせないとも言いますが
ともあれ好評頂き有り難く

 [戻る] [上へ]