「もう一度言ってみなさい、ほら。ほら、ほら、ほら」
「一つだけいいかな」
「何?」
「そういう台詞って殴る前に言うもんだろ」
また殴られた。小さい癖に人一倍膂力はあるだけに俺の力じゃ手に負えない。普段季衣や流々が大きな獲物を
振り回す様を見ているから、華琳が馬鹿力の持ち主だって事をつい忘れるんだよな。
「今、不埒なことを考えなかったかしら?」
そして観察眼も凄い。俺を睨んでくる華琳は目が据わっていて、首を吹っ飛ばすことくらいわけないと言って
いるようだった。
俺の首は日々軽い。財布の中身も軽い。後者は主に困った部下のせいだけども。
「そんな事はないけど……でもさ華琳。何で今日はそんな溜まってたんだ?」
「……よっぽど殴られたいようね?」
「前にした時は嫌ってほど綺麗にしてあったから、気になっただけだろ!」
『殴る』というのに鎌の首をもたげる華琳に、俺は弁解するしかない。もう一度言うけど、俺の首は軽い。
「それは……」
拳がとんで来るのを覚悟していたのに、やってきたのは予想外の反応だった。口を噤む華琳なんて滅多に見ら
れない。
「……(あんまり気持ちよかったから、自分では出来なかった……なんて言えるわけないじゃない)」
胸に手をあてて、どこか明後日を向いて憂いのある目。鎌も心なしかしょんぼりしてるようだ。
「おい華琳、どうかしたのか?」
「なっ……何でもないわよ!」
……ん? 華琳のその反応で、ピンとくるものがあった。
こういうムキになった時の華琳の隠すものには、覚えがある。俺もそのくらいは付き合い長いからな。
何を考えてたのかまでは分からないけど、それはおいおい聞き出せばいいか。
「華琳、ごめんな。最近忙しくて、滅多に顔を会わせる機会なんてなかったもんだから」
「……ちょ、ちょっと一刀! 何を言っているのよ!」
華琳は必死に否定する。否定は否定だ。でもちょっと意味合いは違うけど。
「別にそう言うなら、それでもいいけどさ……。でも、俺は久しぶりに華琳とこうして二人で会えて嬉しいぞ」
「え……? あ、ちょ……ぁっ…!」
俺はさりげなく近付き、できるかぎり優しく華琳を引き寄せt