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http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?Res=0336
・七夕記念に書いてみました。
・今回はショートです。
・本編とのつながりは、ほぼありません。
(一刀の設定と出てくるキャラくらいです)

(注意)
・過度な期待などはせずに見てやって下さい。
・未熟故、多少変なところがあるかもしれません。



 「無じる真√N」拠点七夕




 それは、とある日の出来事。

 その日、白蓮の部屋で政務の手伝いをしていた一刀は、ふと思い出したことをぽつりと
漏らした。
「そういえば、もうすぐ七夕か……」
「ん? たなばたとは何だ?」
「そうだな……まぁ、俺のいたところでの行事なんだが、簡単に言うとだな。短冊ってい
うものに願いを書くんだ。それで、その短冊を笹の葉に吊して祈るんだ」
「へぇ、面白そうじゃないか」
 端折りながらの一刀の説明を聞いた白蓮は目を爛々と輝かせ興味を示した。
「それじゃあ、やるか? ちょうど、行事を行う日が近いんだ」
「そうか、それならば笹を仕入れさせておこう。いくつ必要なんだ?」
「いや、一本あれば十分だよ」
「そうか……あとはその短冊とやらか?」
「そうだな……う〜ん。どうするかな……」
 さすがに、この時代、紙の無駄遣いなどするわけにはいかない。
 一刀もそれが分かっている故に悩んでしまう。
「何か代用品を……そうだ!!」
「ひっ! ……な、何か思いついたのか?」
 急に大声を上げた一刀を白蓮が半歩退いた状態で見つめる。
「あぁ、なんとかなりそうだよ。まぁ、まかせておいてくれよ」
「そうか、それじゃあそっちは頼む」
 一刀は、それに、あぁ、とだけ返し仕事を再開するのだった。




 そして、数日後の夜、一刀は中庭に立てた笹の回りを歩いていた。
 他の面々は既に、一刀が用意した極薄の板に願い事を記し、吊した。
 そして、その後、彼女たちは中庭で食事をする用意を始めていた。
 そんな彼女たちの動きを視界の隅にとらえるつつ、一刀は、吊された複数の板――もと
い、短冊を眺める。
 そして、そのうちの一つへと近づく。
「さて……みんなはどんな願いにしたんだろう?」
 つい気になってしまい、一刀は吊されている短冊を見やる。
「なになに……なんでもえぇから、おもろいこと! あと、青龍偃月刀――これは、霞だ
な恐らく……」
 一刀は、次の短冊へと視線を移しつつ、今度、制作を頼んでみよう、そう決意する。
「さて、お次は? えぇと、もう少し姉さんたちの出費が減りますように――人和……」
 一刀は、あまりに切実な願い事にほろりと涙する。
「ふぅ、次は……ん? 月が幸せでありますように――相変わらずだな、詠」
 すぐに誰か分かる内容が掻かれている短冊を見て微笑ましく思いつつ、一刀は笑いをか
み殺していた。
「落ちついたところで、お次は……天下一の武人となってあの方を守る! って決意表明
かよ。華雄」
 確かに、ある意味では願望なのだが、どちらかと言えば、目標なのではないかと一刀は
思う。
「はぁ、何というかみんな特徴ある願いだな……お? これは、二人と一緒にいつまでも
歌えますように……か。天和かな?」
 何よりも妹二人を大事にしていることがわかる願いに一刀も頬をほころばす。
「ふふ、これは? 神の領域に達するメンマと出会えるように――せ、星。あれ? まだ
書いてある。華蝶仮面が大活躍するように――俺は何も見てないぞ。さーて次は」
 一刀は、一瞬妙なものを見た気がしたが、気のせいだと信じることにした。
「こ、これは誰だろうな? えぇと……いつまでも、詠ちゃんと一緒にいられますように
――きっといられるよ……月」
 一刀は、短冊に記された、ささやかな幸せを望む言葉に、絶対叶えてやりたい、と思う
のだった。
「……大陸中をちぃの可愛い笑顔で魅了できますように――地和、自分で可愛いと表現す
るは、どうかと思うぞ」
 彼女らしいと言えばらしい願いに思わず苦笑してしまう一刀。
「で、これは……今度こそ、ご主人様の肉奴隷に――ふんっ!」
 短冊の中身を視界に捕らえた瞬間、一刀は無意識に短冊に拳を打ち付けていた。
「くそぅ、外れなかったか……おっと、こっちのは、まぁ白蓮だろうな」
 殴ったにもかかわらずしぶとくぶら下がったままの貂蝉の短冊に舌打ちしつつ、最後の
短冊に目を通す。
「えぇと……いいかげん、私にも浮いた話が来ますように。いや……せめて、活躍させて
くれ――あれ? 何故か目から汗が……」
 それは、今までで一番、一刀の胸に刺さる願い事だった。

「おーい! 一刀、準備できたぞ。早く来い!」
「あぁ、すぐ行くよ」
 遠くから聞こえる白蓮の声に返事をし、一刀は短冊を吊す。
「よし! これで完了だな……叶うと良いな、みんなの願い。そして……俺の願い」
 一度だけ振り返り、自分の短冊を改めて見る。
『いつまでも、みんなの笑顔が見られますように』
 短冊に記した願いと同じ事を心に抱く。
 そして、すぐに振り返り大切な者たちのもとへと駆け出す。

 その時、やさしい風が笹にそよぐ。
 そして、十一枚の短冊が風に吹かれ、翻る。そこには何かが記されている。
『一刀と一緒に楽しいことをめっちゃたくさん、やれるように』
『一刀さんと公演をしながら大陸中をまわれますように』
『あいつの前で、もう少し素直になれますように』
『ついでに、北郷も守る!』
『一刀さんに、いっぱい歌を聴いてもらえますように』
『いつまでも、天とともにある龍でいられるように』
『ご主人様の笑顔をいつまでも見続けられますように』
『おまけで、一刀も魅了されますように』
『彼と彼女たちに幸あらんことを』
『一刀に対して積極的になる勇気を持てますように』
『今度こそ、大切な人たちと別れずにすみますように』


彼女たちの……そして彼の本当の願いがそこにはあった。


もし、これらの内容を誰かが見ればきっとこう願うだろう。
――願わくば、彼らの願いが叶わんことを、と。

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